約 1.5 倍
下水道分野における国内コンセッション第 1 号となる本事業をモデルとして、全国の地 方公共団体で下水道コンセッションが展開されることに期待したい。
1.4.5 建設企業とコンセッション事業
(1) 従来型 PFI 事業とコンセッション事業における建設企業の役割の違い
従来型の
PFI事業では相対的に建設が占める割合が高く、建設企業が
SPCの代表企業と なっていた例も多い
45。参画する建設企業は「建設」の部分で利益を上げ、以降の「維持管 理」部分は別の専門企業が担う、いわば
SPC内での分業型となっていた。さらに、前述の とおり従来型
PFI事業の多くは、需要変動リスクを負わない「サービス購入型」であった。
一方のコンセッション事業は、SPC 出資企業(特に提案時のコンソーシアム構成企業各 社)が一体となって施設全体の収益拡大を目指し、需要変動リスクを負いつつ株式配当に よる利益確保を目指すなど、従来型
PFI事業とは大きく異なるものである。運営施設の分 野によっては相応の事業マネジメントスキルが必要となることから、代表企業も運営ノウ ハウを有する企業が担うこととなる。実際、現時点でコンセッション事業の代表企業とな っている建設企業は、愛知県有料道路の前田建設工業株式会社のみとなっている。
建設企業がコンセッション事業で果たす役割として、事業運営期間において必要な改築/
修繕工事を(専門企業のマネジメントを含め)施工できることに加え、設備投資の管理計 画を策定できる点が挙げられる。コンセッション事業の期間は、施設によっては
50年以上 と長期にわたるため、長期間の正確な設備投資計画策定は事業成功のための重要なポイン トであり、分野によってはその後の経営に大きな影響を及ぼす要素である。
また、参画する建設企業が当該施設の元施工会社であれば、施工当時の書類等において ノウハウを含む情報を保有している可能性があり、当該情報を活用することで事業提案の 高付加価値化に貢献できる。ただし、単に元施工会社であるかどうかは、運営権者選定時 の評価ポイントにならない点に留意が必要である。
図表1-4-62 従来型PFI事業とコンセッション事業の違い(特徴・役割)
従来型PFI事業 コンセッション事業
事業の特徴
BOT やBTO方式等では維持管理・運 営が含まれるが、あくまでも「建設」が主
「建設」と「維持管理・運営」が分業にな る場合あり
サービス購入型であれば選定事業者は 需要変動リスクを負わない
新規の建設は含まれず、既存施設の運営 がメイン(改築・修繕は事業対象)
コンソーシアム構成企業が一体となって施 設運営
需要変動リスクを負う
(不可抗力に起因するリスクを除く)
代表企業に 求められる役割
コンソーシアム構成企業や地方公共団 体など複数の関係主体との調整等
施設全体のマネジメント
コンソーシアム構成企業や地方公共団体、
経済団体など複数の関係主体との調整 建設企業に
求められる役割
施設本体の施工管理
維持管理・運営事業のマネジメント
適切な設備投資計画の策定
改築・修繕工事の施工管理
(出典)各種資料を基に当研究所にて作成
45 内閣府民間資金等活用事業推進室提供資料
(2) 建設企業がコンセッション事業に参画するメリット
建設企業がコンセッション事業に参画するメリットとして、①施設運営の視点・考え方 を学べる点、②施工後の維持管理手法を比較できる点、③事業全体のマネジメントノウハ ウを習得できる点、④種々の情報を獲得できる点、が挙げられる。
①について、一部企業では官公庁等に社員を出向させるなどして調達等に関する視点・
考え方を学ばせている事例もみられるが、コンセッション事業では企業の役員クラスが実 際の現場で
SPCの経営に関わることができるため、施設運営の考え方をより深く学ぶこと ができると考えられる。
②について、コンセッション事業は長期の維持管理契約となるため、単年度契約では難 しい複数の維持管理手法を比較検討することができる。前田建設工業株式会社が代表企業 として運営を手掛ける愛知県の有料道路では、橋梁の点検技術について複数の方法を実験 的に適用し、それぞれデータを蓄積することで、他事業でも活用できるノウハウを獲得で きるとしている。
46③について、コンセッション事業では通常の請負工事では関わりの少ない複数の業種や 関係主体と協働するなかで、各者との調整力やマネジメントノウハウを獲得することがで きる。マネジメントノウハウは、今後の市場変化のなかで建設企業が様々な分野の事業を 手掛ける際に有効であると考えられる。
④について、上記のノウハウや情報のほかにも、経営に関する課題や工夫など、自社事 業に活用可能な情報を獲得することができると考えられる。
以上のことから、事業分野ごとの特性を考慮する必要はあるものの、建設企業がコンセ ッションに参画するメリットは十分に存在すると考えられる。
図表1-4-63 建設企業がコンセッション事業に参画するメリット
メリット 備考
①施設運営の視点・考え方を学ぶ SPC の構成員として調達に関わるなかで、発注時に考慮するべき 点など施設運営の視点・考え方を学ぶことができる
②維持管理手法を比較可能
長期の事業期間となるため、単年度契約では難しい維持管理手法 の比較検討を行うことができ、他事業でも活用可能なノウハウを獲 得することができる
③事業全体のマネジメントノウハウ習得
コンソーシアム構成企業をはじめ、地方公共団体、地域住民、経 済団体等との関わりをもつなかで、各主体との調整力やマネジメン トノウハウを獲得することができる
④その他種々の情報獲得 運営事業における課題や工夫などの情報を自社にフィードバック し、他事業で活用することができる
(出典)前田建設工業株式会社へのインタビュー結果(2017年7月12日実施)を基に当研究所にて作成
46 前田建設工業株式会社へのインタビュー結果(2017年7月12日実施)
(3) 建設企業の参入課題と改善方策
建設企業がコンセッション事業に参入する際の課題として、①需要予測や法務など各分 野の専門知識が必要である点、②多くの事業でロットが小さく採算性が低い点、③短期的 な利益が見込みにくく参入に踏み切れない点、が挙げられる。
「①各分野の専門知識が必要な点」については、需要予測や法務面等に知見のある監査 法人やコンサルティング企業等とパートナーシップを形成し、協働しながら事業を進める ことで改善できる可能性がある。パートナーとする企業選定においては、建設企業が有す るこれまでの豊富な
PPP/PFI実績が有用となると考えられる。また、同時にパートナー企 業とのやりとりを担えるだけの知識を有する人材の確保・育成も重要になってくるだろう。
「②ロットが小さく採算性が低い点」については、案件組成の段階から広域的なコンセ ッション事業としての発注を地方公共団体等に働きかけることで改善できる可能性がある。
前述の「地域プラットフォーム」等の官民対話の場を活用し、建設企業各社が参画しやす い事業を積極的に作り出す取組が重要となる。また小規模な施設であっても、当該施設を 実際に運営するなかで効率的な運営手法を確立し、これを他の施設に水平展開することで、
それぞれの施設の採算性を高められると考えられる。
「③短期的な利益が見込みにくい点」について、コンセッション事業には基本的に施設 の新築が含まれず、また運営権対価の支払いが発生する場合があるため、短期的な利益は 見込みにくい。建設企業がコンセッション事業に参画するにあたっては、収益拡大のため にコンソーシアムを構成する他企業と協働しながら、投資家として長期的な視点を持つこ とが肝要であると考えられる。早期に収益を上げる方法として、需要拡大を図れるような 収益施設(空港の旅客ターミナルビル、有料道路沿線の
SA/PA、下水道処理施設等での附帯事業用施設等)を創出していくことが考えられる。
図表1-4-64 コンセッション事業への参入課題と改善方策
参入課題 改善方策
①各分野の専門知識が必要
需要予測や法務面等に知見のある監査法人やコンサルティング企業等 とパートナーシップを形成
パートナー企業とのやりとりに耐えうる人材の確保・育成も重要
②ロットが小さく採算性が低い 複数地方公共団体の広域的事業として発注するよう働きかけ
効率的な運営手法を確立し、他事業に水平展開
③短期的な利益が見込みにくい
コンセッション事業では、施設の新築が含まれず、また運営権対価の支 払いが発生する場合があるため、基本的に短期的な利益が見込みにく い
早期に収益を上げる方法として、需要拡大を図れるような収益施設(空 港旅客ターミナルビル、有料道路沿線 SA/PA、下水道処理施設等での 附帯事業用施設等)の創出が可能
(出典)各種資料を基に当研究所にて作成