5.9 モバイル電子決済プリペイド
5.9.1 ビジネス的要件
5.9.1.1 モバイル電子決済プリペイドと求められる意義
(1) モバイル電子決済プリペイドと求められる背景
モバイル電子決済プリペイドとは、ローカルインタフェースを備えた携帯電話に、
予めお金の価値に相当するバリュー(電子マネー)を充填(チャージ)しておき、携 帯電話網を介したインターネット(バーチャル)決済と、加盟店端末、POS端末や 自販機、鉄道の駅改札、バスの車載機、駐輪場など日常生活における(リアル)決済 の両方を可能にしたシステムと定義する。
次世代携帯電話によりUIM(User Identity Module)と呼ばれるプラグインIC カードが携帯電話に装着される。このUIMには、契約者のIDや電話番号、キャリ アの情報が記録されているが、空き領域に、モバイルECにおける電子署名・認証キ ーを記録することによって、個人の認証が容易となり、バリューをチャージしてプリ ペイドの機能を実現することができる。また、蓄えられたバリューは、現金と同様に 即時に決済することができる。
ローカルインタフェースとしては、赤外線通信、ブルートゥース、非接触ICカー ド等いろいろな方式が考えられるが、ここではUIM自身および2ndチップを用いるこ とを想定し、これ以降UIMを含め2ndチップと表現する。
モバイル電子決済プリペイドの求められる背景として考えられることは、クレジッ トカードやデビットカードを利用するとき利用者が行う行為は支払いの指示であり、
バリューそのものの移動は行わないのに対して、モバイル電子決済プリペイドの場合 予めバリューを移動して所定の入れ物(UIM=2ndチップ)に入れておくということ で、そのバリューは支払い手段そのものであり、2ndチップには貨幣価値と同等のデー タが存在する。
このようにしてチャージされたバリューは、現金と同様に転々流通の性質を持つた めに、単なる物の購入やサービスへの支払い以外に、人から人へのバリューの移動、
すなわち、友人同士の借金、おじいちゃんからお孫さんへのお小遣い、さては赤い羽 根の(電子?)寄付もと幅広い用途が考えられる。その上、インターネットを介在し たバーチャルショッピングには、広範な利便性が考えられる。特にインターネットを 介してのデジタルコンテンツ(着メロ、画像、音楽等)購入時の少額決済の世界にで は、クレジットカードやデビットカード支払いができない場合に特に有効な手段とな る。
このような、いつでもどこにでも持ち歩けるという利便性に加え、プリペイドであ るため、代金の回収もれもない。その上、携帯電話や2ndチップが盗難にあったり不正
行為によりデータが盗まれたとしても全財産が一気に消失してしまうということでは ないし、チャージしてある分だけで被害が済む。また、決済会社の倒産等があっても 同じくチャージしてある分だけで被害が済み、他の決済手段と比較して安全である。
(2) 決済の多様性とモバイル電子決済プリペイド
現在、現金に代わる決済手段として、デビットカード、クレジットカード、プリペ イドカードとさまざまな決済手段が存在する。決済の支払いタイミングから考察する と、デビットカードは即時払い、クレジットカードは後払い、プリペイドカードは前 払いの性質を持っている。
デビットカードや、クレジットカードが本人確認のための、いわゆるオーソリゼー ションを必要とするのに比べて、モバイル電子決済プリペイドの場合は、セキュリテ ィ対策のために種々の暗号技術実装やICカードのコストはかかると思われるが、ロ ーカル側がバリューを持つシステムであるため、バックボーンへの投資が最小限で済 むと考えられる。
実店舗(リアル)でもインターネット店舗(バーチャル)でも携帯電話1つで決済 が完了すると予想される。運用時にもローカルで即時に決済が完結することができ、
手数料や、回線のオーバーヘッドもないため、少額決済に適する。
バリューは携帯電話回線を通じてダウンロードできるため、時間や場所を選ばない という利便性に特に優れているものと推察される。
(3) モバイル電子決済プリペイドの構造と仕組み a) バリューのチャージ
バリューチャージの方法としては、携帯電話からプリペイド決済会社にIDとパ スワードと移動(チャージ)するバリューの額を指定してインターネット経由でチ ャージする方法(バーチャル)と、予め登録しておいたクレジットカードやデビッ トカード、銀行/郵便自動振込の他に、専用のチャージ機を用意して全国に点在す る様々な店舗、コンビニ、ガソリンスタンド、チェーン店(コーヒー、ファースト フード等々)、自販機等でチャージを行う方法(リアル)がある。
バーチャルでのチャージは、何時でも、何処でも、誰でも使えるために利便性に 優れている。
決済の仕組みとして、バーチャルではリアルタイムに決済できるが、リアルでは、
毎月予め登録された決済方法で決済処理がされることになる。問題点としては、リ アル、バーチャルともに通信手段を用いるために通信の未完結によるチャージの正 確性が課題として残る。
b) 決済会社
決済会社
電子マネー利用者(A) 電子マネー利用者(B)
※実線:データ(IDとパスワードと移動するバリューの額)の流れ
※破線:バリューの流れ
①まず決済に関するお金の流れであるが、利用者(A)から、決済会社に対し、予 めプリペイドのチャージ代金が支払われる。具体的には専用のチャージ端末機や 携帯電話から予め登録してあるクレジットカード等を利用してチャージするもの。
②決済会社から利用者(B)への流れ、この場合(B)は、理解しやすくするため に、店舗と仮定して考える。(もちろん、利用者個人にもなることができる。)
利用者(A)が商店から物品を購入したとすると、利用者(A)から店舗(B)
に対しては購入金額に相当するバリューデータしか渡されない。従って、(B)
は決済会社に対してこのバリューデータを提示して現金を貰う事となる。このた め、個人対商店の場合、つまり(A)と(B)間での現金のやり取りはない。
③(A)から(B)へのデータの流れは②の通りで、物品の購入とか転々流通での 金額データ(バリュー)のみの移動を示している。
④(B)から決済会社に対しての流れも②同様で、データを提示して現金の請求を 行う流れである。
⑤決済会社から(A)への流れは、バリューのチャージ行為を行った時に現金と引 き換えに(A)に対して渡されるバリューデータの流れを示している。
従って、電子決済プリペイドでは、現金の流れとデータの流れが同時進行しない ばかりか、流れも違うことが大きな特徴である。
c) 利用者
リアルな店舗で物品を購入する場合、店員に携帯電話を渡し店員は携帯電話を店 舗端末にかざす、あるいは持ち主本人が携帯電話を端末にかざすことにより、ロー カルインタフェースを通じて携帯電話内のバリューが店舗端末に移動することで決 済が完了する。
店舗端末以外にも、自販機、駅改札、バス車載機等々、さまざまなリアルの世界 に存在する決済端末に対してかざすという行為で同様な決済ができる訳である。
携帯電話自身が決済端末の機能を持つことによって、携帯電話同士で友達間の電 子マネーの貸し借り、お小遣い等ができるようにもなると考えられる。また、イン ターネットを通じてバーチャルの世界でデジタルコンテンツ等を購入する場合は、
携帯電話網を通じてバリューが決済会社へ移動することによって決済が完了する訳
である。更に携帯電話にバリューが搭載されているので、携帯電話の持つディスプ レイにて残高確認ができる大きな特徴を持っており、そのバリューを現金のように 使うことが可能である。
クレジットカードやデビットカードの場合はまず、決済会社や銀行に一旦電話を かける必要が出てくるのでこの点が異なる。
物品を店舗で購入したり自販機で駅改札を通過したりする場合、実際にはその物 品やサービスと引き換えに移動するのはバリューと言う名の電子データだけである。
d) 物販/サービス提供者
お客から物販やサービスの提供と引き換えに貰ったバリューをPOS等の端末に 蓄積しておいて月末等にまとめて請求、あるいは決済と同時に通信してプリペイド 決済会社から現金あるいは銀行振込等、貨幣価値として貰うこととなる。
この場合、加盟店手数料等の費用はプリペイド決済会社に支払うことになる。実 際は相殺処理となる。
(4) プリペイドカードとモバイル電子決済プリペイドとの違い
技術的観点で比較すれば、テレホンカードやイオカードは、磁気情報として使用可 能金額を書き込んでおき、使用毎に都度書き込んだ度数や金額を減らしていくという 仕組みになっている。つまり、カード自体には論理処理機構を持たせていないという ことである。
これに対し、モバイル電子決済プリペイドの中心となる電子的なサイフとしての器 は、2ndチップと呼ばれるICカードである。
ICカードというのは、1 つのICつまり集積回路に、記憶装置であるメモリー部 と小さなコンピュータであるマイクロプロセッサ部を焼き付け、カード自体にデータ 作成や判断などの論理的処理機構を持たせたプラスチックカードのことである。
モバイル電子決済プリペイドは、このICカードを携帯電話に組み込んだものであ る。
利用面で比較すると、通常のプリペイドカード(テレホンカード、イオカード、ク オカード)が一定金額分のカードを買い、残額を使い切ったら捨てる方式であるのに 対し、モバイル電子決済プリペイドは2ndチップと呼ばれる携帯電話内に装着されたI Cカードに任意の金額を充填し、残額がなくなったら再充填して利用する方式である。
バリューをチャージされる 2ndチップは、リサイクルが可能であり、また、支払い やチャージの方法として通信が利用できる。従来は、利用端末機器がモータ駆動であ るためにメンテナンス費用もかかっていたが、それらの費用も基本的にはなくなり、
インフラ整備に要するコストの削減ができる。
バリューは現金同様の取り扱いができる電子マネー(ICカード)であるため人か ら人への転々流通が技術的には可能であるが、反面、問題や課題も多い。