5.7 モバイル端末によるクレジット決済
5.7.1 ビジネス的要件
5.7.1.1 プレーヤのメリット・デメリット
(1) 利用者のメリット/デメリット
第1のメリットとしては、携帯カード枚数の削減、カード管理の容易性向上があげ られる。現在、消費者は、複数社のカード会社と契約し、利用頻度の高い数枚のカー ドを財布に入れて持ち運びをしている。また、契約をしたが利用頻度の少ないカード は、自宅に保管している。ICチップには複数のアプリケーションの搭載が可能であ る。搭載可能なアプリケーション数はICチップ容量に従うが、複数社のクレジット カード機能を携帯電話(ICチップ)に搭載することで、カードの持ち運び枚数の削 減や、カードの管理が容易になる。
第2のメリットとしては、リアル店舗とバーチャル店舗の両方で決済が可能になる ことである。パソコンや携帯電話で、バーチャル店舗でのクレジット決済は可能であ るが、リアル店舗での決済には使用できない。携帯電話のローカル・インタフェース を活用することによりリアル店舗での決済も可能となる。
デメリットとしては、クレジット機能が搭載されることにより携帯電話の紛失・故 障・盗難や、データ消失時のインパクトが大きくなることである。
また、もし、携帯電話に搭載したクレジット機能を、他の端末(新機種、他携帯電 話会社の端末)へ簡単に移植できなければ、利用者にとって乗り換えコストが高くな るというデメリットも考えられる。
(2) 加盟店のメリット/デメリット
第1のメリットとしては、支払手段の多様化による顧客サービス力アップが可能と
なることである。また、カードを忘れた顧客に対し現金以外の支払い手段を提供する ことによって、高額商品の売上機会の損失を減少させる効果が期待できる。
第2のメリットとしては、マーケティングツールとして活用できることである。携 帯電話へのメール配信やコンテンツ配信等、携帯電話の機能を生かしたプロモーショ ンが可能であるため、決済と連動させることでマーケティング戦略の幅が広がり、既 存顧客のリテンション向上および新規顧客の獲得が期待できる。例えば、キャンペー ン情報等をメールでタイムリーに発信し、顧客の購買意欲を高め、店舗へ誘導する。
そこで携帯電話に決済機能が付加されていれば、販売機会の取りこぼしが少なくなる。
生活と密着している携帯電話を活用できることは、BtoCビジネスにおいて大きなメ リットをもたらしてくれるであろう。
デメリットとしては、携帯電話と通信可能にするために、POS端末の改造コスト がかかること、支払手段が増えることによる端末オペレーションの複雑化や、障害発 生機会の増加等がある。
(3) カード会社のメリット/デメリット
第1のメリットとしては、新しい決済ツールによる利便性を提供することで、新た な顧客セグメントの開拓が可能となることである。また、加盟店のメリットと同様に モバイルコンテンツ、アプリケーションと連動したプロモーション等、マーケティン グに効果があると考えられる。特に今後の次世代携帯におけるブロードバンド化は、
携帯電話自身を通信端末という位置付けだけでなく、リアルタイムコミュニケーショ ンが可能な広告「媒体」としての期待が高まっている。通信、広告・宣伝、決済と連携 し、またリアルとネットとの連携したBtoCビジネスに関するマーケティング戦略を 必要としているカード会社にとっては、大きな武器となるであろう。
第2に、携帯電話回線ネットワークからのアプリケーション・ダウンロードによる 即時発行の可能性があげられる。カード会社にとっては、利用者のサービス向上が見 込まれ、カード作成・発行コスト・郵送コスト等が削減できる。現実的な対応として は、携帯電話による決済環境が整っていない加盟店等での利用も考慮し、カードも合 わせて発行する必要があると思われるが、カードの郵送期間中利用できないという欠 点を解消し、すぐに利用してもらえる環境を提供することが可能となる。
第3に、ICカード用に開発されたアプリケーション(クレジット、電子マネー、
ポイント等)の流用が可能であり、開発コストの負荷軽減が見込まれる。
デメリットとしては、第1 に、携帯電話に対する認証システムやダウンロード・シ ステム等、新しいインフラへ対応するためのシステム投資コスト、管理・運用コスト の増加が考えられる。携帯電話、通信技術等、技術革新への対応も欠かせず、システ ムが複雑になればシステムリスクも当然高くなる。サービスレベルを維持するために は、徹底したシステムリスク対策を講ずることが必要となる。
第2のデメリットとしては、カード券面のデザインがなくなることである。カード 会社の商品開発では、カードデザインも重要な要素の 1 つである。また、ブランドマ ークの誇示、ゴールドカードの様な券面色で区分しているカードの扱い、提携先企業 ブランドの表示等について課題が残る。
(4) 携帯電話会社のメリット/デメリット
携帯電話会社の第1のメリットは、携帯電話の決済用途への拡大により、携帯電話 自体の利用価値の向上が見込まれることである。ただし、利用者のデメリットでも述 べたが、アプリケーションの移植性が悪いと、端末の買い換えサイクルの長期化を招 く恐れがある。
第2のメリットとしては、通信費以外の付帯収益が見込めることである。例えば、
アプリケーションの発行・管理を携帯電話会社が行うとすれば、カード会社から手数 料をとることが考えられる。ただし、その分の発行・管理システムの開発・運用コス トも発生し、ビジネスとして成立かどうかは、携帯電話利用者、クレジット会社、携 帯電話会社等参加プレーヤそれぞれの「費用対効果」に影響されるであろう。
デメリットとしては、決済可能な携帯電話の開発コスト、現在運用しているシステ ムへの影響などが考えられる。
表 5-8 プレーヤのメリット、デメリットまとめ
メリット デメリット
利用者
・カードの携帯枚数の削減
・リアル店舗とバーチャル店舗での 決済が併用可能
・決済手段の多様化
・携帯電話の故障・電池切れ
・携帯電話の盗難・紛失
・移植性の悪さによる機種乗換コスト
加盟店
・メール等によるプロモーションと の連携によるモバイルユーザの取 込
・POS端末等の改造、オペレーショ ンの複雑化
カード会社
・新たな顧客層の開拓
・カード発行コストの削減
・ICカード用APの流用
・システム投資、運用コストの増加
・券面デザインの問題
・システムリスクの増加
携帯電話会社 ・携帯電話の価値増加(用途拡大)
・通信費以外の付帯収益
・移植性の悪さによる端末の固定化
・携帯端末のコスト
・アプリケーションの管理コスト
・現行の運用に対するインパクト(セ キュリティ強化)
5.7.1.2 運用面からの要件
(1) ICチップ、クレジットAPの所有者
現在、携帯電話UIMの所有権は携帯電話会社、クレジットカードの所有権は発行 カード会社にあり、利用者にそれぞれ貸与している。
携帯電話でのクレジット決済サービス運用においては、ICチップと搭載アプリケ ーションの所有者が異なる場合が想定できる。
表 5-9 所有権の検討パターン
パターンA パターンB
ICチップの所有者 携帯電話会社
クレジットAP所有者 カード会社
カード会社 ICチップの搭載形式 2ndチップ UIM/2ndチップ
ここでは、クレジット・アプリケーション(以降、クレジットAPと呼ぶ)につい ては、カード会社の所有と限定し、ICチップの所有者が、カード会社の場合と携帯 電話会社の場合の2とおりについて、運用面でのビジネス要件を検討した。
(2) データ管理・サービス運用面での要件検討 a) ICチップ、クレジットAPの管理
①ICチップ、クレジットAPのアクセス権管理
通常、ICチップに対するアクセス権の管理は、所有権を持つ者が行うものであ る。従ってパターンAではカード会社、パターンBでは携帯電話会社が管理すると 考える。クレジットAPについても同様に、所有者であるカード会社が管理するこ とになると考えられる。
②クレジットAPのアクセス
クレジットAPへのアクセスは、セキュリティ、および個人信用情報保護の観点 から、運用面において制限される必要がある。また、仕組み面でもクレジットAP 内のデータの暗号化や、アクセスする際の認証などが必要となる。
b) サービス運用での要件
①ICチップ、クレジットAPの発行
現行のICクレジットカードの発行は、印刷会社へ依託することが一般的である。
印刷会社では、カード製造、アプリケーションと会員番号等の必要データの書込を 行い、カード会員へ郵送する。この際、印刷会社はEMV Co.や国際ブランド会社 が規定するセキュリティ要件を満たす必要がある。また、携帯電話のUIMの場合