5.8 モバイル端末によるデビット決済
5.8.5 ビジネス的要件
5.8.5.1 現行デビットの各プレーヤにおけるメリット・デメリット
(1) デビット(磁気カード形態)のメリット a)利用者のメリット
・休日なども手数料なしで利用可能で、現金自動預け払い機(ATM)から出金す るより手数料を節約できる。
・デビットカードは手数料や年会費などを払わずに決済できる点が非常に便利。
b)加盟店などのメリット
・クレジットカードに比べ手数料が安いうえ(平均で代金の1〜2%と、クレジット カード(3〜5%)に比べて低い)、販売から入金までの時間を短縮できる。
c)消費者と小売り、サービス金融業などに利便性を低コストで提供し、金融機関には 手数料が落ちる。電子決済が消費者を巻き込むことで、製造から流通まで産業全体 の構造変化や金融と産業の融合が加速する。物の流れとその裏のカネの流れがネッ トワーク上でつながれば、末端の販売情報がより早く正確に伝わり、むだを省くこ とができる。
(2) デビットのデメリット a)金融機関のデメリット
・銀行は、小売店から徴収する手数料だけでは、システム投資をまかなえない(カ ードのICカード化費用+UIMやモバイル機発行・認定費用、ホストコンピュ ータ対応改造費用の更なる追加投資)。
といって、手数料を高く設定しては、参加する小売店が増えない。
・既存インフラとの親和性を確保することが必要。
ATMも改造の対象。金融機関、店舗の既存運用方法との親和性や、利用者の操 作法もなるべく互換性を確保する必要がある。
b)利用者のメリットが少ない。
・一部の家電量販店では現金で買い物をするときと同様デビット利用時の方がクレ ジットより有利であるが、一般的にはクレジットカード以上に魅力のあるポイン ト制度が少ないため利用者メリットが少ない。
・デビットカードは、口座に十分な残高がなければ使えない。クレジットカードは 翌月末まで支払い猶予があり、金利を払う必要もない。
・頻繁に利用する店舗で使用できない。
スーパー、コンビニにおいて、サインレス(除く高額の時)で 1,000 円以上ぐら いの金額よりクレジットカードの利用ができる所もあるが、デビットでは手数料 問題もありこれら店舗で利用できない。
※「キャッシュアウト」と呼ばれるデビットカードによる決済時に、買い物代金と は別に必要とする現金を受け取る方法は日本では認められていない。
c)店舗のデメリット
店舗設備(POS、CT)等の改造が必要となる。改造費用を誰が負担するのか?
既存機器の改造で対応できないとき、狭いカウンタで新たな機器の設置スペースを 確保することは困難である。
※デビット、クレジット両方とも基本的にオンライン決済が前提となり、トランザ クションコストがかかるが、トランザクションコストは、基本的には決済金額に かかわらず一定であるため、小額決済になればなるほど購入単価対比コスト負担 が過大にならざるを得ない。従って、少額決済には向いていない。
5.8.5.2 モバイルデビットにおける各プレーヤから求められる要件
(1) 銀行・決済機関
モバイルデビットにおいて、通信事業者が管理権のあるUIM上に利用者に関する 銀行の管理情報(銀行口座番号、預金者名、PIN番号ほか)を格納できれば、シス テム上及びコスト上有利なシステムが構築できる(ヨーロッパのGSMで実現してい るパターン)が、UIM及びモバイル機本体のEMV Co.機器認定が必要となり、半 年前後で新製品投入が行われている現状では機器認定にかかる時間、経費は無視でき ない。
一方ICCなどに利用者に関する銀行の管理情報他を格納し、金融機関と通信事業 者との管理区分を明確に分ける方式が検討されているが、ICCがモバイル機器に実 装した状態でやはりEMV Co.の機器認定を受ける必要があり、上記同様認定のため の時間、経費負担先が問題となる恐れがある。さらに、複数のデビットカード機能を モバイル機に搭載するとき、どこの窓口で対応できるか、費用負担を含め回答を用意 する必要がある。紛失・盗難・カード機能障害時も同様の対応が必要である。
(2) 加盟店
犯罪の未然防止の意味を含め、決済に伴い必要となる利用者の銀行口座情報他は、
システム(データ通信経路)的に加盟店にデータを流さないか、あるいは暗号化して 解読できない仕組みが必要である。
また、現行のJデビット方式と同等レベルの手数料率、短期間の入金処理が求めら れる他、操作性においても同様の手順で簡単に処理できることが普及にはかかせない。
(3) 通信事業者
(1)でも記述したが、金融サービス提供に伴う事前機器認定の期間、費用は、日本の 通信事業者ブランドで販売されるモバイル機においては、タイムリーかつ廉価な商品 の投入において障害となる危険性がある。また、インターネットの世界で今後一般的 となるPKIをモバイルデビットの世界に適用する場合、鍵の有効期限切れに伴う鍵 交換をいかにセキュリティ高く行うか検討する必要がある。
(4) 利用者
複数のデビットカード機能をモバイル機に搭載するときの各プレーヤの責任分解点 を明確にする必要がある。特に、紛失・盗難・カード機能障害時の問い合わせ先、費 用負担等の明確化が利用者からみて必要である。
5.8.5.3 運用面からの要件
(1) デビットAPの所有者・管理者
デビットAPは、基本的には銀行等金融機関が作成、管理するが、ICC等の所有
(管理)者との関連で管理権が他社(例:通信事業者)に移る可能性がある。
(2) 制度的観点
a) 偽造・盗難・紛失時のリスク対応
クレジットカードの場合は、利用否認(利用者が自分は利用してないと主張するこ と)を場合により認めるが、デビットの場合は、所定の認証手続きが行なわれた限り においては、利用否認を一切認めていない。
本件に対応するため、外枠で、保険等を掛けている銀行もあるが、あくまで個別行の 対応となっている。
一部の利用者に対し、利用にあたっての心理的障害となっているものと予想される。
b) オンラインの問題
完全なオンライン処理となっているため、利用時には利用者の銀行が稼動している ことが必要となる。このため、一部の銀行を除き、正月、ゴールデンウィーク等購買 繁忙期に利用できない。
c) 手数料配分ルール
銀行間およびセンターとの手数料配分ルール上、低料率を希望する加盟店との手数 料交渉において柔軟な対応がとれないため、大口加盟店(スーパー、コンビニ)の開 拓に苦労している。
d) 非小切手社会
海外においては、商店店頭での小切手利用の代替(=利便性向上)、銀行の小切手 処理の削減(=事務処理コストの低下)と言う面で、利用者、銀行共にメリットが明 確な場合、利用が進んでいるようだが、日本の場合、非小切手社会であるため、海外 対比メリットが出しにくい。
e) 機器認定
金融関連機器のEMV Co.による機器認定の処理フローは以下の通りである。
図 5-25 EMV共通端末認定のメカニズム
(3) 現行カードの券面情報の取り扱い
キャッシュカード(=デビットカード)の券面に関し、クレジットカードのような 厳格な銀行間ルールは存在していない。しかしながら、一般的に各行共に以下の項目 を表示することとしているようである。
◇ 表面 銀行名
対象口座の店名
対象口座の科目(普通預金、等)コード 対象口座の口座名
◇ 裏面 暗証番号の取扱注意文言 紛失時の連絡依頼文言
EMV.Coが制定、管理するICクレジットカード仕様(EMV仕様)に関わる内容であり、カード、端末間のインターフェース 等、世界でICクレジットカードが共通に使われることを目的とする。国内での共同利用端末は、EMV.Coの定める端末認 定(Type Approval)、レベル1、レベル2を取得することを必須とする。なお、AIO等に規定される特殊のデータ要素につ いては、EMV共通部分ではないが、端末でこれらのデータ要素を参照しての業務処理は必要となる。
本仕様は EMV200D(V4.0)をベースに記述されているが、端末におけるサポートすべきEMV仕様のバージョンを特定 しているわけではない。端末開発に際しては、端末開発、製造主体者(情報処理センタ、メーカー等)は、準拠すべきEM V仕様のバージョンをEMV.Co及びサポートすべきブランド等に確認する必要がある。
照会先(銀行名、フリーダイヤルの架電先)
キャッシュカード(=デビットカード)である以上、ATMでの利用や障害時の対 応等を考えるとこれらの項目の表示は当面必須と思われる。
また、キャッシュカード(=デビットカード)を現行のカード状の物から変更する ことを許容するかどうかについて、公式には検討されていない。また、金融機関以外 が発行のカードのIC等に登載する際の券面表示についても、公式には検討されてい ない。
キャッシュカード(=デビットカード)の子カードとして、用途や機能を限定した 上で、現行のカードの形状や表示文言にとらわれないデビット専用カード(現行のE TCカードのようなもの)の発行の可能性を否定するものではないが、子カードでの デビット実施に際しては、関係の協会・協議会、金融機関において、当然のことなが らシステム面、業務面、契約面での検討と対応が必要となると思われる。
5.8.5.4 関連法規からの要件
現行のJデビットの枠組みを利用するときには利用規定や各種契約で利用方法を定義し てしまっている関係上、それと異なる利用の仕方を行う時には、それらの変更等の対応が 必要になる。(現行の規定・契約で対応可能という判断もありえるが、いずれにしてもそ れを確認するという対応は必要である。)最終的に採用銀行個々での対応(承認や規程・
契約の改定)も必要となることからかなりの時間を要したり、対応に差が生じたりするこ とが予想される。
消費者契約法、電子契約法、民法等の関連法規に照らすと、モバイルでデビットを行う 場合は、モバイル端末に表示する画面の各種誤認防止のための文言、決済実行時の確認文 言等には慎重な検討が必要となる。
ATMネットワークの相互接続の枠組みであるMICSにおいては、キャッシュカード の発行者を金融機関に限定しており、キャッシュカード(=デビットカード)の発行者を 金融機関以外にする場合は、この点に対する対応が必要である。
金融機関発行のICキャッシュカード(=デビットカード)のICの空き領域を他社に 貸す場合は、銀行法上許されている業務以外の業務(他業)を銀行が行っていると見なさ れないかどうか(他行禁止への抵触)に十分配慮して行う必要がある。
5.8.5.5 リスク管理
(1) 利用者端末の紛失・盗難時のリスク
端末を、身分を確認できるもの(例:社員証、保険証)と一緒に紛失等した場合、
一応PINと呼ぶ暗証番号や、ユーザID/パスワードの組み合わせで本人確認を行