本節では,インナーシティ研究の分析枠組み構築に向けて,本章を通じて示してきたイン ナーシティの諸特徴及び議論について改めて整理をおこない,事例分析の枠組構築を目指す.
本章の第1節~第3節では,シカゴ学派の遷移地帯研究,シカゴ学派以降の都市研究,そし て日本の都市社会学分野での都市研究から,インナーシティがどのような場所として語られ てきたのかを示した.その結果,インナーシティの特徴の共通点として,多様性や流動性と いうことがどの研究においても示されていることが明らかになった.このようなインナーシ
松本, 2011:107).
31 ワースは,多様性を流動性の原因として,ガンズは,多様性を流動性の結果として説明した.
(Wirth,1938=松本, 2011: 106-107; Gans, 1962=松本, 2012: 69を参照)
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ティの特徴は,先で示したワースとガンズの研究において集約され,理論的に論証されてい ることから,分析枠組みの構築に向けては,ワースとガンズの理論に依拠して進めてきた.
では,ワースとガンズの研究から見いだされた,インナーシティの特徴とそれを測るための 分析的な指標とはどのようなものだったのだろうか.本章では,ワース(1938)とガンズ(1962)
の都市及びインナーシティについての考察を整理し,共通点に注目したところ,インナーシ ティの重要な特徴として,インナーシティ住民の多様性と流動性を挙げた.では,その多様 性と流動性をかたちづくる人びととは具体的にどのよう人びとなのか,この点については,
ガンズの研究に詳しい.ガンズは,「ワースより一歩踏み込んでインナーシティの住民の多 様性と流動性の構成要素を,住民を具体的な 5 つのタイプに分けることにより,明らかにし た」(本章31ページ).従って,本論文では,インナーシティの多様性,流動性の高さを測 る指標として,ガンズの5類型を利用する.それは本章で繰り返し示している通り,(1)「コ スモポライト」,(2)未婚もしくは子どものいない人びと,(3)「民族的な村人たち」,
(4)「剥奪された人びと」,(5)「取り残された人びと」と下降移動者である.
以上が,インナーシティの重要な特徴である多様性と流動性を測るための枠組みとなる.
これに加えて,日本のインナーシティに独特の特徴を測るための指標も必要となる.本章第 3 節において,日本の都市社会学における都市研究とインナーシティを取り上げた.そこで は,多様性と流動性といった特徴については,シカゴ学派が示してきたインナーシティの特 徴と重なる一方で,日本のインナーシティに独特の特徴も示されていた.以下に,奥田道大 の示した,東京のインナーシティの特徴について整理したものを,若干簡略にして改めて掲 載する.(詳しくは本章12ページを参照)
(1)外国人住民の数が多く,比率が高い地域
(2)「盛り場」として発展してきた地域
(3)1965年以降の一貫した人口減少傾向を示す地域
(4)地方からの移住労働者受け入れの歴史がある地域
(5)住民の移動性,流動性が高い地域
(6)1960年代~1970年代に地域社会再生のまちづくり・むらおこし運動の現場になった地 域
上記6項目のうち,(1)と(5)については,シカゴ学派都市社会学において指摘されて きたインナーシティの特徴と重なるものである.それ以外の項目は,奥田らの東京のインナ ーシティを対象とした,実証的研究の結果から指摘された,インナーシティの特徴となる.
東京のインナーシティの特徴である,(2)(3)(4)(6)については,(2)(4)(6)
は,インナーシティの「地域史」として統合できる.そして,本論文においてはその中でも 特に,「盛り場」形成の歴史に重点を置く.
以上のようなワースとガンズ,そして奥田のインナーシティの特徴に関する研究結果を踏 まえると,本論文では,インナーシティ研究の分析枠組構築に向けて,次のような指標が設 定できる.先ず,①多様性と流動性の分析である.これは,ガンズの提示した「インナーシ
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ティ住民の5類型」を使用する(上記項目(1)を含む).次に,➁インナーシティの地域史 の分析である(上記項目(2)(4)(6)を統合).なかでも,本論文では特に,シカゴ学派 社会学との繋がりから考察して,「盛り場」形成に関する歴史分析を重要視する.インナー シティの特徴は,その地域が歴史的に「盛り場」として発展してきた経緯があるため,その 地域がどのような歴史を辿ってインナーシティを形成してきたのかに関する歴史的分析が必 要である.そして,③人口動態の分析である.奥田らの指摘では,インナーシティは,1965 年以降一貫した人口減少を示していることが指摘されている.これは,奥田らが調査をおこ なった1980年代後半から1990年代初頭時点のインナーシティの人口に関する特徴であるた め,現代的なインナーシティの特徴を示すためには,現在のデータから再調査する必要があ る.
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