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ある悪い状況を止めるため、事態qの実現が望ましい

ドキュメント内 第1章 (ページ 101-107)

第4章 <必要系>における「妥当類」

3.1 差異比較構文

3.1.4 ある悪い状況を止めるため、事態qの実現が望ましい

動機付け②の「悪い状況を止めるため」が意味するのは、発話時に望ましくない状況を 止めるためには、当該事態qの実現が望ましいという判断をしていることである。それぞ れの形式の実例におけるこの場合の出現率から言えば、トイイは 6.96%である一方、バイ

イは 9.12%である。ところが、平叙文の場合には、タライイの実例が見当たらない。それ

に対し、タライイで表された疑問文の中では、次のような悪い状況を止めるための手段に ついて疑問視するケースが見られる52

(29)私は公園で風に吹かれてから家に帰りました。何の名案も浮かんではいませんで した。私は昼になってもご飯を食べる気が起こりませんでした。どうしたらいい のだろう。 (『主婦と生活社』)

(29)では、波線部で示されたところが悪い状況として読み取れ、それを止めるために は、表現者が「どうする」と尋ねている。本研究は、このような(29)のような場合も同 じく動機付け②として見なされている。一方、トイイとバイイの場合は次のような実例が 見当たる。

(30)先日、「このごろの子どもは、ちゃんとした挨拶もできないから、きびしく礼儀を

・私:「この頃、体調がよくない。仕事は忙しいし、酒は飲むし」 八田:「{気をつけたほう がいい/*気をつければいい}ぞ。おたがいに若くない」

52 タライイは平叙文より疑問文の方が圧倒的に多いと思われる。(227例の中186例)。ただし、

疑問文の場合には、何かの状況に基いて想定された疑問しか表出しないため、「単なる望ましい 事態q」を表すことはないと考えられる。そのため、②③④という三つ場合だけ表されると考え られる。ところが、本研究の調査では、②(36例)と③(123例)の場合に相当する例文のみが 確認された。ここでは、その実例を紹介する。

②「悪い状況pを止めるため、どういう事態qの実現が望ましい」

・「ラジオをつけても、日本語の放送しか流れない。外へ飛び出しても、近所の人々の興奮し た早口の日本語はまったく理解できない。避難すべきかどうか、どこに避難したらいいのか、

何もわからなかった」今回の震災で、多くの外国人が語る恐怖と不安の体験だ。

(『自治体の危機管理』)

③「望ましい事態pを実現するため、どういう事態qの実現が望ましい」

・「犯人を見つけて欲しいって、どうしたらいいのかな?警察がわからないものが、僕にわか る筈はないけど」と、いった。(『紫式部殺人事件』)

- 93 - しつけてくれる、剣道の道場に通わせるといい」と、近所の方にすすめられまし た。 (『社会科学』)

(31)「そんな洪水が起こるなら、なぜ、川の堤防を高くしないのだ」「やりました。何 回もやりましたが、その都度水に流されました」「しかし五年に一度は水をかぶる ようなところになぜ住んでいるのだ。他へ引っ越せばいいではないか」

(『武田信けん火の巻』)

(32)ガリ、といやな音がした。指先がジンとしびれるような痛みを訴える。だが、ラ エスリールは掘ることを止めなかった。―そうだ、考えるな。頭のどこかで、声 がする。そうだ、そう。考えてはならない。怖い。掘っていればいいのだ。

(『柘榴の影』)

波線部の箇所から分かるように、これらの例はいずれも望ましくない状況が含まれてい る。例えば、(30)の「このごろの子どもは、ちゃんとした挨拶もできない」、(31)の「五 年に一度は水をかぶるようなところに住んでいる」ことはいずれも「望ましくない状況」

である。3 形式で表される事態qは、「望ましくない状況」を止める方法として述べられる 場合、或いは止める方法が問われていると考えられる。理屈から考えれば、この場合には、

「事態qを実現しなければ、悪い状況が続く」という含意が含まれているはずである。と ころが、3形式の中でバイイのみに誘導推論の意味が含まれているのである。例えば(31)

では、「他へ引っ越さなければ(~q)、(今住んでいるところが)五年に一度は水をかぶる

(~Z)」というように、望ましくない状況が続く以外に道はないことが想定できる。一方、

トイイの(30)に対して、「子供を剣道の道場に通わせなければ(~q)、子どもはちゃん とした挨拶もできない(~Z)」のように望ましくない状況が続くのかと考えた際、そうで はない可能性も想定できるため、疑問に感じる。そのため、トイイで述べられた事態qは、

ただ「子供がちゃんとした挨拶もできない」という望ましくない状況を止める手段の一つ として提示されているに過ぎないのである。

このように動機づけ②の「悪い状況を止めるため」の場合には、バイイは誘導推論であ ると考えられるため、当該事態qが「必要十分な手立て」であることといえる。よって、(31)

のような事態の行為者が2人称であれば、当該事態qが<忠告>として提示されるのである。

それに対し、トイイには、当該事態 q は単に一つの<提案>として提示されている。また、

動機づけ②でも、事態の行為者が 1 人称の場合であれば、(32)のようにバイイのみに<意

- 94 - 向>が用いられると考えられる。

3.2結論

3節では、3形式が述べられた望ましい事態qの動機づけというところに焦点を当て、「① 単に事態qの実現が望ましい」・「②ある悪い状況を止めるため、事態qの実現が望まし い」・「③ある望ましい事態を実現するため、事態qの実現が望ましい」・「④ある望ましく ない事態を防ぐため、事態qの実現が望ましい」という四つの分類に分けた。そして、本 研究の考察結果によれば、次のような相関関係があることが分かった。

図3:「望ましい事態q」の仕組み(筆者作成)

まず、「動機 Z」による分化の有無を二つに分類することができる。具体的には、①と②

③④とに区分が可能である。さらに、②③④については、動機づけが含まれる事態Zが「既 実現」であるかどうかという点から考えて、更なる②と③④のよう二つに分類ができる。

また、③④の場合はさらに、「誘導推論」が成立するか否かという点で区分が可能である。

以下の分類に基づき、考察の結果は以下、表1のごとくまとめることができる。

無:①単なる望ましい事態q

動機Zによる分化

是:②悪い状況Zを止めるため

有:Zが既実現

否:③望ましい事態Zを 否:誘導推論の成立 実現するため

可:④望ましくない事態Z を防ぐため

- 95 - 表1:「動機づけによる望ましい事態」の仕組みにおける実例の分布(筆者作成)

「といい」 「ばいい」 「たらいい」

狭義的な望ましい事態 174例 (50.43%) 161例(58.76%) 15例 (31.91%)

反事実的事態 5 (1.45%) 9(3.29%) 5 (10.64%)

狭義的願望 100例 (28.99%) 31(11.32%) 21例 (44.68%)

24例 (6.96%) 25 (9.12%) 0 (0%)

42例 (12.17%) 27例 (9.85%) 6例 (12.77%)

0例 (0%) 21例 (7.66%) 053(0%)

合計 345 274 47

その中でバイイのみ、動機づけ④の「ある望ましくない事態を防ぐため」が用いられる という結果を得た。そのうえ、バイイで表された②④のみ、動機づけの事態・状況pと当 該事態qの間には「誘導推論」という含意がある。言い換えれば、3形式の中でバイイのみ が「必要十分な手立て」であると言えるだろう。

また、本研究の考察から、事態の行為者が 1 人称であれば、どのようなケースであって もバイイの実例しか確認できなかった。このような差異が出じた背景には、内包された条 件節の機能に関係があると考える。

田中(2010)は、「前件を受ける帰結部分の出来が必然的なものであるがゆえに、レバに よる言いさしの効果はタラと比べても語勢から言っても際立っている。場面によっては投 げやり的、あるいは無責任とも思えるニュアンスをもつ」とした。それに対して、「タラは 多くの解決法の中の任意の一つを提示し、そうしてみることによってあるいは好機が見出 せるかもしれないという期待感があるのに対し、レバはそうした感情を排除して、突き放 したように一方的に差し向けることによって、他に思量のない疎遠な物言いになっている」

と指摘している。バイイはこのように他者の意見や考えが含まれないものであるため、一 つの事態に絞ることが出来る。よって、<意向>として考えることができる。それに対し、

トイイ・タライイは当該事態以外に他者の意見が含まれているため、一つ事態に絞る<意向

>を用いることが出来ないのである。

53 タライイは平叙文より疑問文の場合が圧倒的に多いと見られる。(227例の中180例)。注釈の 52を参照してほしい。

- 96 - また、図 3 から理解できることは、バイイは当該事態をある特定のよい結果を得る方向 に導くべき必要十分な要件としてのみならず、「ある望ましくない事態を防ぐため」、或い は「ある悪い状況をとめるため」の要件としても認められる。結論として、本研究ではト イイ及びタライイの基本的意味を「当該事態の実現が望ましいものとして提案する」、そし てバイイの基本的意味を「当該事態を、ある特定の結果を得る方向へ導くための必要十分 な要件として提示できる」とし、双方の意味に対する修正を迫った。

4.<当為判断>との関連

この節では、上述の考察を踏まえながら、3形式と<当為判断>の関連を論じていく。まず 共通点としては、3形式とも(33)のように「制御可能且つ未実現な事態について、それを 理想的としその実現が望ましいとする表現者の判断」という<当為判断>を表すことが出来 る点である。

(33)a.「あんた、本社に帰って十七年前の記録を調べるといい」 ((26b)の再掲)

b.「しかし、あんたが今船をやめると定年扱いにはならない。五十五歳になった ら定年扱いだから、あと二年待てばいい」 ((30)の再掲)

c.人間はいきなり変われないんだから、少しずつなりたい自分へ近づくために意 識した生活を送ったらいいと思います。 ((25)の再掲)

次に言えることは、3形式とも制御不可能な事態が表された<願望>と共起できるという点 である((13-19))。しかし、本研究の調査からバイイについてのみ、次のような表現者以 外の判断である「知識表明文」の実例が確認された。

(34)a.それから、男性像のかかえていた棒のようなものを、ドーナッツ状の床にあい ている丸い穴に差し込んだのだ。棒は、動いてゆくうちにやがてスポット穴の 奥に入り、同時に、ドーナッツ状の部分を固定するストッパーになるのだ。す ると、回転しているのは中央の円形部分だけということになって、ゆっくり、

ネジを回して、フタがせりあがってくる。そのため、やや段差が生じて、人が ゆっくりと傾いてゆくことになる。傾いて人形が切り込みから外れるより前に、

フタは開いた。つまり、ようやく扉が開いたのだ。扉を閉めるのは、開けたの

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