平成
19
年度修士学位論文
GEM
を用いたガス検出器の開発
東京理科大学大学院 理工学研究科 物理学専攻
修士
2
年 杉山史憲
目 次
第 1 章 研究背景 5 1.1 ガスワイヤーチェンバー . . . . 5 1.2 MPGD . . . . 6 1.2.1 GEM . . . . 6 1.2.2 MICROMEGAS . . . . 7 1.2.3 MSGC . . . . 7 1.3 中性子検出器や X 線検出器への応用 . . . . 8 第 2 章 ガス増幅の原理 9 2.1 入射粒子とガスの相互作用 . . . . 9 2.1.1 光電効果 . . . . 9 2.1.2 コンプトン散乱 . . . . 10 2.1.3 電子対生成 . . . . 11 2.2 電場中での電子の振る舞い . . . . 11 2.2.1 ドリフト . . . . 11 2.3 5.9keV の X 線とガスの相互作用 . . . . 12 2.3.1 特性 X 線 . . . . 12 2.3.2 オージェ効果 . . . . 12 2.3.3 初期イオン . . . . 13 2.4 高電場での電子の振る舞い . . . . 13第 3 章 GEM(Gas Electron Multiplier) 14 3.1 GEMとは . . . . 14 3.2 GEMの製法 . . . . 14 3.3 GEMにおけるガス増幅 . . . . 15 3.4 多段構成の GEM における各領域 . . . . 16 第 4 章 基本特性 17 4.1 概要 . . . . 17 4.1.1 チェンバー . . . . 17 4.1.2 信号読み出し . . . . 17 4.1.3 アンプ . . . . 18 4.1.4 システム構成 . . . . 18 4.1.5 ガス増幅度の算出方法 . . . . 18 4.1.6 信号確認 . . . . 18 4.2 各パラメーターとガス増幅度の依存性に対する測定 . . . . 19
4.2.2 EDとガス増幅度の関係 . . . . 22 4.2.3 EIとガス増幅度の関係 . . . . 24 4.2.4 ETとガス増幅度の関係 . . . . 25 4.2.5 GTとガス増幅度の関係 . . . . 28 4.2.6 GIとガス増幅度の関係 . . . . 30 4.3 電荷分布 . . . . 32 4.3.1 測定システム . . . . 33 4.3.2 セットアップ . . . . 33 4.3.3 信号確認 . . . . 35 4.3.4 電荷分布の測定 . . . . 35 4.3.5 チェンバーの構造による電荷分布 . . . . 37 4.3.6 ETを変えての電荷分布の拡がりの測定 . . . . 39 第 5 章 新しいタイプの GEM の開発 42 5.1 100µm厚 GEM . . . . 42 5.1.1 セットアップ . . . . 42 5.1.2 ∆VGEMとガス増幅度の関係 . . . . 42 5.1.3 ED、EIとガス増幅度の関係 . . . . 44 5.1.4 孔径が 90µm の時の測定 . . . . 44 5.2 25µm厚 GEM . . . . 46 5.3 大型 GEM . . . . 48 5.3.1 信号確認 . . . . 49 5.4 Radiation GEM . . . . 49 5.5 後退 GEM . . . . 49 5.5.1 EDとガス増幅度の関係 . . . . 51 5.5.2 EIとガス増幅度の関係 . . . . 52 5.5.3 ∆VGEMとガス増幅度の関係 . . . . 52
第 6 章 ASIC と FPGA を用いた GEM 型検出器用エレクトロニクス 54 6.1 ASICと FPGA を用いた読み出しエレクトロニクスの概要 . . . . 54 6.2 チェンバー部 . . . . 57 6.3 エレキ部 . . . . 58 6.3.1 ASICボード . . . . 58 6.3.2 FPGAボード . . . . 61 6.4 VTH . . . . 63 6.4.1 VchipTH . . . . 63 6.4.2 Vch TH . . . . 63 第 7 章 GEM の中性子検出器への応用 64 7.1 中性子と物質との相互作用 . . . . 64 7.2 検出原理 . . . . 65 7.3 B-GEM . . . . 65 7.4 B-GEMの中性子変換層としての利用 . . . . 66
7.4.2 実効ガス増幅度が 1 となる ∆VGEMの探索 . . . . 67 7.4.3 検証実験 . . . . 69 7.5 10Bの厚みによる計数率の変化 . . . . 70 7.5.1 セットアップ . . . . 70 7.5.2 測定結果 . . . . 71 7.6 B-GEMの枚数による計数率の変化 . . . . 72 7.6.1 測定結果 . . . . 72 7.7 信号波形 . . . . 73 7.8 中性子と γ 線に対する波高分布 . . . . 73 7.9 二次元画像 . . . . 74 7.9.1 多チャンネル読み出し対応チェンバー . . . . 74 7.9.2 1.6mmピッチ二次元ストリップ読み出し基板 . . . . 75 7.9.3 二次元画像データの取得 . . . . 76 7.9.4 0.8mmピッチ二次元ストリップ読み出し基板 . . . . 76 第 8 章 中性子ビームによる検出器の性能評価 78 8.1 MUSASI . . . . 78 8.1.1 昨年度の結果 . . . . 79 8.1.2 今年度の結果 . . . . 82 8.2 NOP . . . . 86 8.2.1 昨年度の結果 . . . . 86 8.3 MINE2 . . . . 87 8.3.1 反射率計 . . . . 87 8.3.2 現在の測定システム . . . . 90 8.3.3 ビームテストのセットアップ . . . . 91 8.3.4 サンプルテストの結果 . . . . 91 8.3.5 オフスペキュラーが見えない原因の解明 . . . . 93 8.4 MINE1 . . . . 95 8.4.1 中性子共鳴スピンエコー法 . . . . 95 8.4.2 ビームテストのセットアップ . . . . 98 8.4.3 昨年度の結果 . . . . 98 8.4.4 今年度の結果 . . . . 99 8.5 B-GEMを用いた熱中性子検出器の特徴 . . . 102 第 9 章 GEM の X 線検出器への応用 103 9.1 GEMを利用した硬 X 線検出器 . . . 103 9.2 原理検証実験 . . . 103 9.3 2次元画像データ . . . 105 第 10 章 研究成果と今後の課題 106 10.1 GEMチェンバーの基本特性、新しいタイプの GEM の開発 . . . 106 10.2 中性子検出器の開発 . . . . 106 10.3 X線検出器への開発 . . . . 106
第
1
章 研究背景
素粒子物理学の最終的な目標は、物質の構成要素や素粒子の世界での相互作用を解明する事であ る。原子核を構成する粒子などの詳細を調べるためには、高いエネルギーでの実験が行われ、それ に伴い測定器の高性能化が求められてきた。高エネルギー実験で測定する物理量としては、運動量 や、質量、運動量、時間など様々なものがあるため、目的に応じて様々な検出器を併用するのが一 般的である。特にワイヤーを用いたガス検出器 (ガスワイヤーチェンバー) は、運動量測定や、飛 跡検出などにおいて広く高エネルギー実験において使用されてきた。 しかし、最近の素粒子物理学の発達に伴い、ガス検出器に対する要求が高くなってきた。その 高い要求を解決するべく、現在は MPGD(Micro Pattern Gas Detector) という、新たなガス検出 器の開発が進められている。MPGD は今までガスワイヤーチェンバーがカバーしてきた高エネル ギー実験での利用に加え、中性子検出器や X 線検出器等への応用も可能である。 私たちは MPGD の中でも応用範囲が広いと思われる、GEM に焦点をあて、基本特性等の研究 を行い、また、中性子検出器や X 線検出器としての応用開発も行った。特に、既存の中性子検出 器は大強度の中性子ビームを用いる実験 (J-PARC) での利用が不可能であるため、その施設を利 用する実験グループには新たな中性子検出器の登場が待たれている。その為、中性子検出器として の性能を日本原子力研究開発機構のビームラインを利用し、実際に中性子ビームを照射することに よっても評価を行う。 以下では、各ガス検出器に関する簡単な紹介と、中性子検出器、X 線検出器の開発を行う上で求 められる性能に関しての現時点での目標について述べる。1.1
ガスワイヤーチェンバー
ガスワイヤーチェンバーは、細いワイヤーに高電圧をかけることにより、高電場を形成させる。 荷電粒子が検出器を通過する時にガス分子をイオン化する事により電子を生成し、高電場を利用し てガス増幅を起こさせ電気信号として読み出すものである。ガス増幅に関しては次章で詳しく説明 するが、電子やイオンの数をねずみ算式に増加させるものである。このガス増幅を用いることによ り、容易に高い増幅度 (105程度) が得られるため、検出器自体を低質量にすることが出来、測定時 に粒子の状態を損なう事がない。また、安価かつ容易に大型化が出来るという点においても優れて おり、高エネルギー実験への貢献度は大きい。しかし、検出器に入ってくる粒子のレートが高くな ると、電離によるイオンがワイヤー付近に集まりすぎてしまい、高電場が得られなくなってしま う。その為、増幅度が落ちてしまうのが難点であった。1.2
MPGD
ガスワイヤーチェンバーは高レートの実験において安定した動作が得られない。しかし、ガス増 幅には容易に高い増幅度が得られる事や、低質量という利点がある。その為、ガス増幅は利用しな がらも、ワイヤー以外のものを利用する MPGD の開発が進められてきている。
MPGDには、以下の 3 種類がある。それらについて簡単に説明する。 1. GEM(Gas Electron Multiplier)
2. MICROMEGAS(Micromesh Gaseous Detector)
3. MSGC(Micro Strip Gas Chamber)
1.2.1
GEM
GEMは薄い絶縁膜の両側に金属電極があり、無数の細かな孔が開けられている。両側の金属電 極に異なる電圧をかけることによって孔内に高い電場が形成され、ガス増幅がおこる。孔間隔が細 かいので、105Hz/mm2(単位面積あたりの入射粒子の頻度) ないし、それ以上の高レートでもチェ ンバーとして動作する。この測定器の最大の特徴は複数枚積層することによって、それぞれには比 較的低い増幅率でも、全体としては高い増幅度が得られることである。これによって、安定した動 作が得られる。また、GEM は増幅だけを狙っているので読み出しの部分には独立に設計したもの を用いることが出来るという利点もある。詳細については別の章で説明する。 図 1.1: GEM(孔径:70µm 径、ピッチ間隔:140µm) の顕微鏡写真1.2.2
MICROMEGAS
MICROMEGASは、金属メッシュと読み出しの基板の間に高電場を形成して、そこで一気にガ ス増幅を行うものである。平行な高電場を得るために、間隔は、∼50µm と非常に狭く、信号形成 過程で位置分解能を悪くするような余分な要素がないので、良い位置分解能を得られる可能性があ る。ただし、高電場が連続しているので、放電の成長を押さえるメカニズムに乏しく、大きなもの で安定して動作させるのが難しいといえる。 図 1.2: MICROMEGAS の詳細1.2.3
MSGC
MSGCは、基板上に形成された電極でガス増幅させるため、放電、電荷の蓄積等の問題があって ほとんど開発されなくなってきている。しかし、京大グループは、それらの困難を克服し、µ-PIC と呼ばれるシステムとして開発に成功している。高い増幅度を得ることは難しいが GEM などと組 み合わせることやさほど増幅度を必要としない分野への応用に威力を発揮している。これら MPGD の中で、一番応用範囲が広く、安定して高い増幅度が得られ、ガス検出器の最大 の特徴である安価で大型化できる可能性のある GEM を使った測定器の研究を行った。
1.3
中性子検出器や
X
線検出器への応用
X線及び中性子のように荷電を持たない粒子の測定は、測定器内の反応によって出来た荷電粒子 によるイオン化を利用して信号を読み出す。GEM を応用させる場合には、GEM の表面に目的に 応じて物質をコートさせることで、中性子や X 線を荷電粒子へと変化させる。 中性子検出器としては現在は3Heカウンターが用いられているが、ガスワイヤーチェンバーと して動作しているので高レートに耐えることが出来ず、また高圧化で使用しているため高圧容器が 必要になり、大型化が容易ではない。その為、高レートにも耐えうる GEM が適していると考えら れる。中性子検出器は位置分解能はさほど高いものが要求されておらず、現時点での目標は有感領 域が 20cm×20cm、検出効率が 50 %程度、位置精度は 1mm となっている。 また、X 線検出器としては今までは CCD が用いられていて、X 線を 1 個 1 個検出するのでは なく、ピクセル毎に比較的長い時間に入射した X 線の総量を読み出す方式である。その場合、不 感領域なしに大型化するのは難しいし、ダイナミックレンジを大きく取れないなどの問題がある。 しかし、検出器に GEM を用いれば、比較的大きな領域をカバーでき、X 線の 1 点 1 点を時間、 エネルギー情報をもって計測することが可能になる。X 線検出器として利用する場合は検出する X線のエネルギーによって求められる位置分解能や検出効率が異なっており、200keV 程度では検 出効率が 10 %程度、位置分解能は FWHM で 0.3mm 程度、500keV 程度では検出効率が 1.7 %程 度、位置分解能は FWHM で 1mm 程度、が目標となる。また、中性子検出器と同様に有感領域を 20cm×20cm にしていく必要がある。第
2
章 ガス増幅の原理
この章では GEM を用いたチェンバーで粒子を検出するために必要となるガス増幅について順を 追って説明していく [1]。2.1
入射粒子とガスの相互作用
入射粒子としては、さまざまなものが存在する。その入射粒子を大きく分けると 2 種類のものに なる。ひとつは電荷を自身に帯びている荷電粒子、もうひとつは、中性子、光 (γ 線) 等の電荷を 持たない中性粒子である。 電荷を帯びた荷電粒子は物質の中を通る際に、電磁相互作用によって自身のエネルギーを物質 に与える。作用を受けた物質は、電子が励起したり、大きなエネルギーを与えられた場合は電離し て電子を放出させる。これを電離作用という。励起した電子は基底状態に戻る際に光 (シンチレー ション光) を放出する。 中性粒子の場合、電荷を持たないので電磁相互作用をすることが出来ない。その為、中性子の相 互作用は原子核との間でのみ起こる。その相互作用には、弾性散乱や非弾性散乱、中性子捕獲、核 分裂反応がある。中性子の反応に関しては、別の章で中性子検出器としての話があるので、そこで 詳しく説明するため、ここでは割愛する。 光が検出される場合には、何らかの形で物質と相互作用を起こし、荷電粒子である電子を放出し なければならない。この相互作用には以下の 3 つが主にある。 1. 光電効果 2. コンプトン散乱 3. 電子対生成2.1.1
光電効果
物質中の軌道電子が光子から束縛エネルギーに打ち勝つエネルギーを得ると、電子は放出され る。放出された電子が荷電粒子となり、エネルギーに応じて電離作用を引き起こし、多くの電子を 生成する。この相互作用によって出てくる電子を光電子というが、この光電子のエネルギーは、入 射光子線のエネルギーを E、束縛エネルギーを B とすると、光電子の運動エネルギーは E− B で 記述される。光電子の進行方向は入射光子線がごく低いエネルギーの場合を除き、入射光子と同じ 方向である。 光電効果の起こる確率は、原子核との間にある束縛エネルギーが大きい電子ほど、大きくなるの で、実際は K 殻上の電子によってほとんど起きる。光電効果の起きる確率は吸収物質の原子番号 が大きく入射光子のエネルギーが小さいほど高い。例えば、吸収物質が鉛の場合は入射光子線のエ図 2.1: 光電効果
2.1.2
コンプトン散乱
物質中の電子と入射光子が散乱を起こしたとき、エネルギー (光子) の一部を電子に与えること により、この電子が物質中で電離を起こしエネルギーに応じた電子を生成する。この時、エネル ギーと運動量の保存則から、入射光子のエネルギーを E、散乱光子のエネルギーを E′とすると、 式 2.1 のようになる。 E′ = 0.511− cosθ + 0.51/E[MeV ] (2.1)
0.51MeV は電子の静止質量である。この式から、前方散乱 (θ=0) の場合、散乱光子のエネルギー は入射光子のエネルギーにほぼ等しい。他方、θ = π/2 の時、散乱光子は 0.51MeV 以上のエネル ギーを持ち得ない。コンプトン散乱は光子と電子の相互作用なので、その確率は吸収物質の軌道電 子数、すなわち原子番号に比例する。コンプトン散乱が重要な役割を占めるエネルギーの領域は鉛 では 0.6∼5MeV 、アルミニウムでは 0.05∼15MeV である。 図 2.2: コンプトン散乱
2.1.3
電子対生成
光が原子核の電場により原子核の近くを通過する祭、原子核内のクーロン電場内で相互作用を起 こし、一対の電子と陽電子が放出される現象。ただし、電子対生成が起こるためには、入射粒子の エネルギーが電子の 2 倍の質量、1.022MeV 以上必要である。 図 2.3: 電子対生成2.2
電場中での電子の振る舞い
チェンバー内に電子を最終的に読み出しパッドへと導くためにチェンバー内に電場を形成させる。2.2.1
ドリフト
チェンバー内に生成された電子を、まず形成された電場によってアノードに誘導する必要があ る。電子は移動の際にガス中で多くの拡散を繰り返しながら、マクロ的には、電場によって決まる 一定の速度にしたがって移動する。この現象をドリフトと呼び、速度のことをドリフト速度とい う。陽イオンはカソードに引き寄せられる。 電子は質量が非常に小さいため、瞬間的な移動速度は非常に速い (熱電子の速度は 100m/s)。し かし、ガス中の物質と衝突を繰り返し移動するため、実際のドリフト速度は瞬間的なものとは異な る。この速度は、電子とガス分子の衝突断面積に依存し (ラムザウアー効果)、電子のエネルギーが 増加すると大きくなるため電場を大きくしても一定のドリフト速度で飽和する。 また、ガス中の物質と衝突を繰り返し移動するため、電子や陽イオンは拡がりながらドリフトを 起こす。拡散も断面積によって決まる平均自由行程により決まる。特に磁場が存在する時にはロー レンツ力により拡散の効果は劇的に変化する。これがガスの拡散効果である。2.3
5.9keV
の
X
線とガスの相互作用
Arガス中の Ar の K 殻の束縛エネルギーは約 3.2keV で、X 線の放射線源である、55Feから放 出された X 線は 5.9keV のエネルギーを持っている。この 5.9keV のエネルギーを持った X 線 (光 子) は、光電効果により、束縛エネルギーに打ち勝つことの出来るエネルギーを電子に与え、電子 を放出させる。束縛エネルギーは 3.2keV であるので、この光電子のエネルギーは 2.7keV である。 この光電子は周りの Ar 原子の最外殻電子である、M 殻の電子をはじき飛ばしながらエネルギー を失う。この時は最外殻の電子なので束縛エネルギーは小さく、エネルギーを失いながらも次々に Ar原子の電子をはじき飛ばす。この過程により結果として 100 個の電子とイオンが生成される。 また、光電子を放出した Ar 原子は励起状態にあるため、M 殻もしくは L 殻の電子が K 殻に遷 移することで、基底状態になる。この時、遷移してきた電子は余分にエネルギーを持っている。こ れを放出するプロセスには以下の二通りが存在する。2.3.1
特性 X 線
この余分なエネルギーがそのまま X 線として放出される場合、これを特性 X 線という。この X 線は周囲の Ar 原子を励起させるほどのエネルギーを持っていないので、そのままガスを通過して、 検出器の壁に衝突する。M 殻から出た X 線のエネルギーは K 殻の束縛エネルギーにほとんど等し い。そのため、M 殻から出た場合は Ar 原子中にほとんどエネルギーが残らない。しかし、L 殻か ら X 線が出た場合は、X 線のエネルギーが K 殻の束縛エネルギーよりも小さいため、X 線として 持ち出された以外のエネルギーが L 殻に残る。このエネルギーは、次に紹介するもうひとつのプ ロセスと似たようなプロセスで、外殻電子の電離に使われる。したがって、この外殻電子の電離に 使われた分を考慮すると、この過程により生成された電子とイオンの数は光電子が生成した数と合 わせて 110 個程度となる。2.3.2
オージェ効果
遷移してきた電子の余分なエネルギーを外殻電子が得て、電離されることをオージェ効果とい う。オージェ効果によって放出された電子は M 殻の束縛エネルギーを消費するが、K 殻の束縛エ ネルギーに比べ小さいので、3.2keV 程度のエネルギーを持っている。この電子も光電子と同様に 周囲の Ar 原子の最外殻電子をはじき飛ばしながらエネルギーを失っていく。その為、この過程に よって生成された電子とイオンの数は光電子が生成した数と合わせて 230 個程度となる。図 2.4: オージェ効果
ここで、放出された電子のエネルギーの総エネルギー量を Eauger、光電効果によって出来た特性
X線がオージェ効果を起こさずにそのまま検出器に逃げていく光のエネルギーを Ethroughとする
と Ar ガス中では Eaugerと Ethroughの比率は Eauger: Ethrough= 85 : 15となる。
2.3.3
初期イオン
ガス中に出来る初期イオンの数は荷電粒子が通るときに起こる dE/dx によって決まっている。 しかし、55Fe線源では X 線が光電効果を起こし、出来た電子を荷電粒子として、検出しているた め、荷電粒子のエネルギーは小さい。この55Feの X 線のエネルギーが全て電子に行くとすると、 5.9keV の全てのエネルギーが電子へと変わることになる。すると初期イオンは式 2.2 のようになる。 n = 5900 w[eV ] (2.2) ここで用いた w は原子内にある電子を 1 つ取り出すときに必要なエネルギーである。例えば、こ の研究では Ar ガスなどを実験に用いるが、Ar の w は 26eV なので、実際に計算すると、約 230 個のイオンと電子が生成される。これにより、先程のオージェ効果を経た過程で電子が生成された 個数に納得がいく。2.4
高電場での電子の振る舞い
電場を高電場にしていくと、衝突するまでに電離作用を起こすことが出来るエネルギーまで到達 して、雪崩式に電子を増幅させる。これをガス増幅という。第
3
章
GEM(Gas Electron Multiplier)
この章では GEM に関する詳細を説明していく。3.1
GEM
とは
一般的な GEM は薄い絶縁層膜 (ポリミドフォイル) の両側に銅箔(5µm 厚)を貼付け、無数の細 かな孔を開けたものである。また今後、以下のようなパラメーターをもつ GEM を 50µm 厚 GEM と呼ぶ事にする [2]。 • 検出面積:10cm×10cm • ポリミドの厚さ:50µm • 孔径:70µm 径 • ピッチ間隔:140µm 両側の銅箔は電極としての役割を持ち、電位差(∆VGEM)をかけることにより孔中に高電場を 生成する。この電場に沿って荷電粒子 (電子など) が移動することによってガス増幅が起こる。孔 間隔が細かいので、105Hz/mm2ないし、それ以上の高レートでも動作する。GEM は複数枚積層 することによって、それぞれには比較的低い増幅率でも、全体としては高い増幅度が得られるこ とである。これによって、安定した動作が得られる。また、GEM は増幅だけを狙っているので MICROMEGAS等とは異なり、読み出しの部分に独立に設計したものを用いることが出来るとい う利点もある。本実験で用いる GEM はサイエナジー社製のものを使用している [3]。3.2
GEM
の製法
GEMは、CERN の F.Sauli らによって開発され、CERN で製作されているものが世界中で一般 的にテストされている [4] 。GEM の製法には、次のようなものがある。 1. ケミカルエッチング 2. プラズマエッチング 3. レーザーエッチング ケミカルエッチングは、CERN で用いられている方法であり、米国のある会社も同じ方法での 生産を試みようとしている。日本ではサイエナジー社が GEM を作っており、製法は 2. と 3. の方 法の開発が進められている。これらの方法が取られた元々の動機は、図 3.1 に示すように増幅度の
が溜まる事によって、安定性を得るために時間がかかるが、2.、3. では電荷が溜まりにくくなって いるため、時間的安定性は優れている。しかし、その代償として絶縁部を削りすぎると放電しやす いという欠点がある。3. の方法では他にも、孔の径、ピッチ間隔を狭くできることが特徴である。 残念ながら値段は、どちらの方法もケミカルエッチングより高くなっている。 図 3.1: 孔毎による増幅度の時間依存性
3.3
GEM
におけるガス増幅
GEMを用いた検出器によるガス増幅の一連の事象について説明する。 初め荷電粒子などによりカソードと GEM の間の領域で電離作用が働き、プライマリーイオンが 生成される。ここで、GEM の上下の銅箔に電圧をかけ電位差を起こさせることで、GEM の孔に は高電場が生じている。この孔に入ってきた電子は高電場によって、速度 v が加速されることによ り、運動エネルギー12mv2が増加する。その電子が、ほかの周りの電子にエネルギーを与えること で、電離させ電子を放出させる。このことが繰り返される事で、電子は増幅していき、結果として 雪崩式に増幅していく。3.4
多段構成の
GEM
における各領域
GEMの孔に高電場がかかっているため、GEM1 枚でも電子は増幅するが、得られる電荷量が小 さいので、測定をするには至らない。GEM1 枚あたりの電圧を上げると、ガス増幅率を上げる事 が出来るが、放電を起こすと絶縁層が破壊され使用不能になる。放電を起こさせないためにも、低 めのガス増幅率で複数枚積層して使うことが一般的な使用方法となっている。多段構成の GEM で は、その役割から、RD(ドリフト領域)、RT(転送領域)、RI(信号誘起領域) の 3 つの領域に分割さ れる。 図 3.3 を用いて説明すると、各領域は、カソードと GEM1 の間に出来る領域を RD、GEM1 とGEM2、GEM2 と GEM3 の GEM 間に出来る領域を RT1、RT2、GEM3 と読み出しのパッド間に
出来る領域を RIという。
RDは、プライマリーイオンが生成され、GEM の孔に電子が引き寄せられる最初の領域であるた
め、ガス中を電子がドリフトする時に起こる拡散や、GEM の孔へと引き寄せられる効率 (collection efficiency)を決める領域となる。RTは GEM と GEM の間の領域であるため、いかに電子を効率
よく GEM に転送するかが重要となる。RIは最下段の GEM から読み出し電極へと電子を導く領
域であり、信号の大きさを決める領域になる。この領域では、GEM の孔から電子を引き出す効率 (extraction efficiency)を上げるかが重要となる。
電子が GEM の孔へと引き寄せられる効率(collection efficiency)と GEM の孔での増幅(ガス 増幅)と、そして孔からの引き出し効率(extraction efficiency)の 3 つの要素に説明できる。これ らの 3 要素が何によって決まっているかを調べ、GEM の基本特性を正確に評価していくことが、 次章での目的といえる。 次章の基本特性の測定では、これらの領域の電場依存性の特性を測定していくが、測定している 領域以外は特定の電場に固定する。また、距離も変化し測定を行うため、完全に同じ電場には設 定ができない場合が出てくる。このときには設定が出来る範囲内で同じ電場に近くなる値で設定 する。 図 3.3: GEM を 3 枚使用した場合の各領域の説明 また、50µm 厚 GEM の形状は先に述べたようなものであるが、他にも絶縁層の厚さが 100µm 厚のもの、穴の径やピッチ間隔、さらには形状を変えた GEM があり、それらについても基本特性 を調べた。それらについては別の章で紹介する。
第
4
章 基本特性
この章では GEM を用いて使用するガスチェンバーの基本的なセットアップや、測定システム、 GEM間などの各領域に対する詳細等の実験をしていく上で基本となることについて紹介していく。4.1
概要
4.1.1
チェンバー
図 4.1 のようなチェンバーを用いて基本特性の測定を行う。図 4.1 は厚さ 5mm のアルミ板を使 用し、大きさは 20cm×20cm で、高さは 5cm。この中に GEM を入れ、ガスチューブからガスを流 し、ガスをチェンバー内部に充満させ、ガスは垂れ流しの状態で実験を行う。ここでは、このチェ ンバーのみを利用したが、二次元画像や、別の読み出しシステムを使う時は別のチェンバーを使用 した。それらについては別の章で紹介する。 図 4.1: 基本特性を調べる時に使用したチェンバー4.1.2
信号読み出し
基本特性の測定での信号読み出しには金でメッキされたパッドを使用している。パッドは 10cm×10cm の大きさに 1.6cm×1.6cm のパッドが並べられ、6×6 個の読み出し面を構成する。基本特性等を調 べる場合の実験にはこのパッド (図 4.2) を用いるが、二次元画像などの取得を行う場合は読み出し には二次元のストリップラインを使用する。それらについては別の章で紹介する。図 4.2: 読み出しパッド
4.1.3
アンプ
パッドに誘起された信号の読み出しに、外来のノイズの効果を抑えるためにプリアンプを使用し た。このプリアンプは Belle CDC(Central Drift Chamber) グループのものを使用して、増幅率は 300mV/pCである。プリアンプで増幅された信号はポストアンプへと送られる。ポストアンプは プリアンプで増幅された信号の差動を受け、波形整形と増幅を行う。このポストアンプの倍率は 10 倍である。
4.1.4
システム構成
システムは大きく分けると NIM と CAMAC の 2 種類のシステムに分かれる。NIM ではプリア ンプからの信号をポストアンプで受けとることを始めとして、ゲート信号を作っている。CAMAC では ADC(2249W)などの測定データを読み取る、モジュールが主である。 ゲート信号の幅は 300nsec に設定し、ADC のキャリブレーション値は 2390pC/ch である。現在 はこの読み出しシステムは使用しておらず、新しい読み出しのシステムを使用しているため、この NIMと CAMAC を用いた読み出しシステムを旧システムとする。
4.1.5
ガス増幅度の算出方法
ADCで得られた Mean、Pedestal 値を用いて算出する。式は(ADCのキャリブレーション値)× (Mean − Pedestal) (各ガスのプライマリーイオン数)× (1.6 × 10−19) となりこれを用いて、ガス増幅度を算出する。
4.1.6
信号確認
図 4.3: 読み出しシステム マイナスの電荷を帯びた電子がフォイルから読み出しパッドへと遠ざかる様子を見ているため、信 号はパッド信号とは反対の向きになる。つまり、パッド信号ではマイナスの信号が得られ、フォイ ル信号はプラスの信号を得ることになる。その様子を表しているのが図 4.4 で、このフォイル信号 を今後はトリガーとして使用する。 図 4.4: 青い波形はフォイル信号、黄色い波形はパッド信号
4.2
各パラメーターとガス増幅度の依存性に対する測定
これから、GEM が電子の信号を得るために必要な、ガス増幅度に関する測定について説明する。 ガス増幅は孔の電場によって起こるため、各パラメーターを変える事によってガス増幅度が変化す る。変化させたパラメーターは GEM の上下の銅箔の電位差である ∆VGEM、ドリフト領域の電場 である E 、転送領域の電場である E 、信号誘起領域の電場である E である。また、転送領域のそれぞれのパラメーターを変化させた時のチェンバー内の電圧や電場のセットアップは以下の表 4.1に示す。各領域の距離に関しては、各測定時の様子を示した図を参照して頂きたい。また、表 中に出てきている、使用ガスの P10、Ar-CO2はそれぞれ、次のような割合で混ざっている混合ガ
スである。P10:Ar-CH4(90-10)、Ar-CO2:Ar-CO2(70-30)
表 4.1: 各パラメーターとガス増幅度の依存性に対する測定時のチェンバー内のセットアップ パラメーター 使用ガス ∆VGEM(V) ED(kV/cm) ET1(kV/cm) ET2(kV/cm) EI(kV/cm) ∆VGEM P10 290∼360 0.5 1.8 1.8 3.6 Ar-CO2 320∼390 1.3 2.8 2.8 6.0 ED P10 320 0.1∼2.5 1.6 1.6 3.2 Ar-CO2 350 0.3∼3.5 2.1 2.1 5.95 EI P10 320 1.0 1.6 1.6 0.2∼7.8 Ar-CO2 350 1.5 2.1 2.1 0.8∼9.4 ET P10 320 1.0 0.4∼2.9 0.4∼2.9 3.2 Ar-CO2 350 1.5 0.7∼3.8 0.7∼3.8 5.95 ET1 Ar-CO2 350 1.3 0.4∼3.9 2.1 5.95 ET2 Ar-CO2 350 1.3 2.1 0.4∼3.9 5.95 GT、ET P10 320 1.0 0.4∼3.9 0.4∼3.9 3.2 Ar-CO2 350 1.5 0.3∼3.2 0.3∼3.2 5.95 GI、EI P10 320 1.0 1.6 1.6 0.3∼7.8 Ar-CO2 350 1.5 1.6 1.6 0.7∼10.5 また、ここでいうガス増幅度は、実効ガス増幅度に対応しており、実効ガス増幅度は放射線源を 用いて得られた、実際のパッドからの信号を ADC で測定して求めている。実効という言葉がつく のは、後で説明するように GEM チェンバーの場合、GEM で増幅された電子が全てパッドに向う のではなく、一部は GEM に戻ってしまうので、GEM でのガス増幅度と実際にパッドで測定する ガス増幅度が違ってくるためである。
4.2.1
∆V
GEMとガス増幅度の関係
GEMの上下の銅箔に異なる電位差(∆VGEM)を起こさせ、高電場を作る。そのため、増幅率 は ∆VGEMに依存し、この時の孔でのガス増幅度の振る舞いを見る。また、∆VGEMを大きくしす ぎると GEM 間に放電が起こるため、壊れる恐れがある。GEM を壊さないためにも基本動作を良 く理解しておく必要性がある。 電圧としてはマイナス電圧を用い、GEM1 の上面の銅と下面の銅に電位差 (∆VGEM)を生じさ せる。 GEM2、3 にも同様の ∆VGEMがかかるように設定し、カソードにも電圧をかける。各領域に電 場を形成させているが、一定の値に設定し、∆VGEMのみを変化させて測定を行う。測定としては、 放射線源として55Feから出る 5.9keV の X 線を利用し、それを用いてガス増幅度を算出した。 測定にはガスは P10、Ar-CO を使用した。各ガスの測定時の設定は表 4.1 を参考にしていただ図 4.5: セットアップ図 測定結果は図 4.6 に示す。どちらのガスでも指数関数的に増幅が行われている。GEM3 枚のガス 増幅度は 102∼105の範囲にある。各ガス共に高電圧にしていくと放電が頻繁に起こる。 P10のガス中では、55Fe線源の X 線によって作られる電子の数は約 225 個できる。その時、 ∆VGEM=290Vに設定すると 3 枚で 210 倍、1 枚で約 6 倍の増幅率となる。∆VGEMが 1V 増加す るとガス増幅度は約 9 % 増加する。 Ar-CO2のガスの中では、55Fe線源の X 線によって電子が約 213 個生成される。∆VGEM=320V に設定すると、同様に 3 枚で 210 倍になって、1 枚で約 6 倍の増幅率となる。∆VGEMが 1V 増加 するとガス増幅度は約 7 % 増加する。 図 4.6: ∆VGEMを変化させたときに得られるガス増幅度 この結果を踏まえ、∆V は測定内容により、P10 のときは 300∼350V、Ar-CO のときは
4.2.2
E
Dとガス増幅度の関係
RDはドリフト領域、すなわち、入射粒子がガスと相互作用(電離作用)を起こす領域で、電離 された電子を GEM に導くために電場をかける必要がある。この領域で電子が孔に入っていく効率 である、収集効率(collection efficiency)がもっともよい電場を理解するためにこの領域でのガス 増幅度の電場依存性を調べる。 今回は図 4.7 で示したように、RDの電場である、EDの部分だけを変化させて測定する。 図 4.7: セットアップ図 測定結果は以下の図 4.8 である。測定データでは得られた最大値をもとに規格化している。図 4.8からわかるように、電場が低いところでは、ガス増幅度がほぼフラットで、電場が大きいとこ ろで、ガス増幅度が減少している。このことは Maxwell と Garfield を用いた電気力線の計算から 理解できる (図 4.9)。低い電場のときは、すべての電気力線が GEM の穴の中に入っていくが、高 い電場のときは、GEM の表面に一部の電子が戻ってしまい、ガス増幅度が下がっているように測 定される。 この時の相対的なガス増幅度を収集効率としてみると、Ar-CO2は P10 より高電場まで電子の 孔への収集率が良く得られることがわかる。 また測定結果では、RDが低電場の時、収集効率が下がっている。これは GEM の孔の電場が低下することが原因である。RDと GEM 孔の電場はつながっているため、EDを下げると、GEM 孔
図 4.8: EDを変えた時のガス増幅度の変化
4.2.3
E
Iとガス増幅度の関係
RIは信号誘起領域、すなわち、GEM が増幅を起こし出来た電子を吸い出す効率である、引き出 し効率(extraction efficiency)を上げ、読み出しへと導く領域で、この引き出し効率を理解するた めガス増幅度の電場依存性を測定する。 ここでは、図 4.10 で強調した RIの電場である、EIのみを変化させて測定する。 図 4.10: セットアップ図 測定結果は以下の図 4.11 である。この測定データはそれぞれのガスにおいてガス増幅度がフラッ トになったと思われる点で規格化されている。どちらのガスも電場が増加するにしたがってガス増 幅度が増加していき、ある領域でその増加割合が小さくなり、さらに電場が高い領域では、急激に ガス増幅度が増していく様子が見える。この時の相対的なガス増幅度を引き出し効率とする。 電場が弱い部分では図 4.12 のように穴の中から出た電子が GEM に戻ってしまうことがわかる。 また、電場が高くなるとほとんどの電子が読み出しパッドの方向に流れる事も理解が出来る。し かし、より高い電場では安定した動作が期待できず、エネルギー分解能も悪くなる事が確認されて いる。図 4.11: EIを変化させた時のガス増幅度の変化 図 4.12: Maxwell と Garfield による EIの電場計算
4.2.4
E
Tとガス増幅度の関係
RTは転送領域、すなわち、GEM と GEM の間の電子を通す (通過効率) 領域である。増幅され た電子をそのまま失うことなく次の GEM へと導かせる事が重要であるため、それがどんなパラ メーターで変化するかを理解するため、まずガス増幅度の電場依存性をみてみる。 まず図 4.13 の転送領域の電場 ET1、ET2 を同時に変化させて測定し、その後、それぞれを独立 で変化させてガス増幅度の変化を測定した。 2箇所の転送領域の電場を同時に変化させた場合の測定結果は図 4.14 である。電場が増加する にしたがってガス増幅度は増加し、ある領域からフラットになる。さらに電場をあげると放電が起 こり、最悪 GEM を壊してしまう事になるため、EIのような高い電場をかけることはできない。 また、ET1、ET2をそれぞれを独立に変化させた場合の測定結果は図 4.15 であり、どちらの領 域を測定しても、ほぼ同じ結果となる。そして、この測定結果の E と E をかけ合わせ、そし図 4.13: セットアップ図
図 4.15: ET1、ET2をそれぞれを独立に変化させた時のガス増幅度の変化
図 4.16: ET1、ET2をそれぞれを独立に変化させた時に得られた値を掛け合わせたものと、
独立の掛け合わせと同時に変えた測定は、ほとんど一致した。以上の結果より、電子の通過効率 には構造の影響は何もないことが理解できる。 RTは図 4.13 を見るとわかるように、GEM1 や、GEM2 の下にある領域と考えれば RIであり、 GEM2や GEM3 の上にある領域と考えれば RDである。このことから考えると、ガス増幅度の ET に対する依存性は前節で測定した収集効率と引き出し効率から説明できる可能性がある。そこで、 収集効率と引き出し効率を掛け合わせたものと実際に測定して得られた効率を比較してみる事にし た。転送領域が 2 箇所存在している事を考慮して、掛け合わせた後に二乗した。その様子をあらわ したものが図 4.17 である。 図 4.17: 収集効率と引き出し効率を掛け合わしてみたものと実際に測定して得られた効率の比較 図 4.17 からわかるように実際の測定データと予想値が一致している。このことは、GEM を通 して反対側の電場の強さは、注目している領域の電場依存性にさほど影響していない事を示してい る。これは、GEM の孔内の電場がその両側の領域の電場と比較してかなり強い事で理解が出来る。
4.2.5
G
Tとガス増幅度の関係
ここでは、転送領域の距離 GTを変化させ、さらに ETを変化させた時のガス増幅度の変化につ いて測定した。ただし、この測定時の電場は、どの距離においても同じになるように設定してい る。図 4.18 のように GTを 1、2、4mm と変化させて測定していく。 P10ガスでの測定結果は図 4.19 のようになっている。なお、この測定結果は先の ETとガス増 幅度の測定の結果のように相対的なガス増幅度ではなく、絶対的なガス増幅度で示している。P10 ガスでは GTを変化させても電子の通過率の傾向は、ほぼ同じであるが、GTを縮める事で通過効 率を増加させる事ができた。 Ar-CO2での測定結果は図 4.20 に示す。Ar-CO2 ガスでも同様に、傾向は同じであるが、距離を 縮める事により通過効率が良くなる事が確認できた。距離が縮まる事でガスによる拡散が減少さ れ、孔に電子が入りやすくなったためだといえる。図 4.18: セットアップ図
図 4.20: GTを変化させた時のガス増幅度 (Ar-CO2)
4.2.6
G
Iとガス増幅度の関係
信号誘起領域の距離 GIを変化させたうえで、EIを変化させてガス増幅度の変化を測定した。 図 4.21 に示したように GIを 0.5、1、2、4mm と変化させて測定した。 P10ガスでの結果は図 4.22、Ar-CO2ガスでの結果は 4.23 である。 共に GIを変化させて測定した時とは異なり、電場が低いところではガス増幅度は距離によらず、 電場強度で決まっている事がわかる。これは、先に説明したように、孔内の電場と信号誘起領域の 電場で引き出し効率が決まっている事から理解が出来る。 ここでの図の横軸の電場はギャップ間にかけられた電圧を距離で割ったものであるので、実際に 電子が移動する穴の近くは距離によってガス増幅度が変わる。特に、信号誘起領域でガス増幅が始 まる高い電場ではその影響が大きく、ガス増幅度が左右される。図 4.21: セットアップ図
図 4.23: GIを変化させた時のガス増幅度の変化 (Ar-CO2)
4.3
電荷分布
読み出しボード上での電荷分布を知る事は、実際の読み出しボードのパッドやストリップの大き さを決める上で重要である。GEM の構造や各種のパラメーターが電荷分布にどのように影響して いるかを調べる事も今後の検出器の設計に関係する。そこで、図 4.24 と図 4.25 に示すような長さ が 50mm で 0.2mm ピッチのストリップを 64 本中央に配置した特別の読み出しボードを用意して 電荷分布を測定した。 図 4.24: 電荷分布を調べる読み出しボードの写真図 4.25: 電荷分布を調べる読み出しボードの詳細と拡大図
4.3.1
測定システム
電荷の拡がりのシステム構成を図 4.26 に示す。電荷は CAMAC の ADC によって測定した。ゲー ト信号を造るために、フォイル信号を用いる。この信号はプラスに信号が見えるため、このままで は測定が出来ないので、pulse transfomer で信号を反転させている。そして、測定データは、スト リップから来る信号を直接ポストアンプにつないでいる。また、トリガーのゲート信号の時間を合 わせるためにストリップの得られる信号のケーブルを 30m にして時間を合わせている。(トリガー に用いるケーブルは 0.5m)4.3.2
セットアップ
前節の時と同じく GEM は 3 枚用い、基本特性で得られたデータを基にパラメーターを決めてい る。各領域のそれぞれの距離を図 4.27 のように設定する。 GD=4mm、GT1=2mm、GT2=2mm、GI=1mmとする。 図 4.27 に示したように、55Feからの X 線を利用する方法で電荷分布を測定した。図 4.27 に示 したように GEM からの信号をトリガーと ADC のゲートに利用しているため、X 線のような信号 に対してもストリップからの信号を処理してトリガー信号を形成する必要がなくなり、電子回路が 簡単なものとなっている。図 4.26: 測定システム構成
4.3.3
信号確認
信号はストリップで見ているので、64ch の信号が得られる。以下の信号は赤色の信号を中心 (ト リガー) にして見た各チャンネルの信号波形を見ている。図 4.28 で説明すると赤色のストリップの ところをトリガー (0) とする。そしてそのストリップから左右 (プラス・マイナス) の方向に信号を 見ていく。図 4.29 は、赤色の信号を見たストリップを中心に 1 個飛ばししたストリップの信号を 見た図となる。図 4.28 で説明すると、0 を中心に-2 と+2 を見ていることになる。-2 の信号は青色 の信号で、+2 の信号は緑色の信号としている。 図 4.28: strip の図 図 4.29: -2、0、+2 の Strip の信号波形 同様に別のストリップの信号を見ると、図 4.30 は、図 4.28 でいうと 0 を中心に-4 と+4 を見た 図で、図 4.31 は、0 を中心に-6 と+6 を見た図である。 図 4.29∼図 4.31 で得られるような拡がり具合がまさしく測定したい電荷分布であり、実際に X 線でも測定可能であることが示された。4.3.4
電荷分布の測定
図 4.30: -4、0、+4 の Strip の信号波形
1. 最大の ADC カウントのストリップを探す 2. その周り、5 ストリップ分のデータで加重平均をとり、入射位置を求める 3. 求めた入射位置から各ストリップの中心までを X、5 ストリップ分の全 ADC で規格化され た各ストリップの ADC の値を Y として、1 イベントに 5 点ずつプロットする 4. それを全イベントについて行う C.O.Gを用いて P10、Ar-CO2のそれぞれの場合において、電荷分布を測定した。その時の各領域 での電場や、∆VGEMの設定に関してはそれぞれの測定結果である図 4.32(P10) と図 4.33(Ar-CO2) に同時に示してある。また、この分布をガウスフィットして得られた標準偏差シグマを電荷分布の 大きさとして考えていくため、その値も同時に示した。 図 4.32: 電荷分布 (P10) 図 4.32(P10) と図 4.33(Ar-CO2)から解るように、ひとつのガウス分布でデータをよくフィットし ていると言える。セットアップが同じでガスの種類を変えると違いが得られる事から、チェンバー の構造よりもガス中での拡散が電荷分布に大きな寄与をしている事が想像できる。そこで、チェン バー内の GEM の配置を変えて、X 線から電子が出来た点から読み出しボードまでの距離を変え て、電荷分布の拡がりの違いを測定した。
4.3.5
チェンバーの構造による電荷分布
ここでは、チェンバー内の構造を変える事による、電荷分布の拡がりの違いを測定した。ここで は、距離を変化させたが、電場は変わらないように調整した。 測定には、3 枚の GEM と 2 枚の GEM を使い測定をした。距離による影響ということで、GD、図 4.33: 電荷分布 (Ar-CO2) してあるが、電子が生成される位置がわからないことを考慮して、GDは半分の距離として、足し 合わせている。計算方法は以下の式を参照。 GTotal= GD 2 + (GT1+ GT2) + GI 使用ガスと、チェンバー内の構造を変えた時の、電荷分布の拡がりの様子は、表 4.2 に示す。表 の見方について説明する。まず、3 枚の GEM を用いた場合の各領域の距離のあらわし方につい て説明すると、GD=4mm、GT1=2mm、GT2=2mm、GI=1mmとする時 GD、GT1、GT2、GI=4、 2、2、1 と記す。そして、GTotalは上記の式を用いて得られた値が 7mm となる。2 枚の GEM を 用いた場合の各領域のあらわし方も同様に、GD、GT1、GI=1.5、2、1 と記し、GTotalは 3.75mm となる。2 枚の GEM を用いた時は転送領域が 1 つになるため、GT1のみとなる。 表 4.2: GEM の配置に対しての電荷分布の拡がり
GEM structure GTotal P10 Ar-CO2
3枚の GEM GD、GT1、GT2、GI=4、2、2、1 7 0.465 GD、GT1、GT2、GI=1.5、2、2、1 5.75 0.417 0.207 GD、GT1、GT2、GI=1.5、1、1、2 4.75 0.390 0.203 GD、GT1、GT2、GI=1.5、1、1、1 3.75 0.343 0.181 2枚の GEM GD、GT1、GI=1.5、2、1 3.75 0.340 0.173 GD、GT1、GI=1.5、1、1 2.75 0.157
て拡がりが小さくなる。さらに、GEM の枚数が変わっても同じ GTotalにすれば、拡がりも同じ程 度になる事がわかる。このことから、GEM の穴を通過することによって特別な拡がりを生む事は ないといえる。さらにはっきりとした傾向を見るために、横軸を GTotal、縦軸を拡がりの二乗のグ ラフにすると、図 4.34 のようになる。Magboltz のシミュレーション結果による予測値 (黒色) も あわせて示している。ここでのシミュレーションは GEM の穴の構造やそこでの強い電場等は無視 して、ギャップ領域の単純な平行電場しか考慮されていない。 図 4.34: 電子の移動距離と電荷分布の拡がりの関係 図 4.34 でデータ点が比例関係にあることから、拡がりはほとんど拡散のみで決まっているとい える。シミュレーションによる予測値とも一致している。シミュレーションが単純な平行電場しか 考慮されていないのにも関わらず、よい近似になっていることは、GEM の構造よりもガス中の拡 散が電荷分布の拡がりを決める大きな要因になっていることを示している。Ar-CO2の場合、実測 とシミュレーションとが系統的に違うのは、X 線から出る電子の拡がりが小さいのでストリップ ピッチの影響がある、と考えられる。
4.3.6
E
Tを変えての電荷分布の拡がりの測定
確認の意味で、RTの電場強度を変えて拡がりを測定した。その時のセットアップは図 4.35 のよ うになっている。また、その時の各領域の設定に関しては、表 5.1 に示す。 表 4.3: ETを変えて電荷分布の拡がりを測定した時の各領域の設定 パラメーター 使用ガス ∆VGEM(V) ED(kV/cm) ET1(kV/cm) ET2(kV/cm) EI(kV/cm) ET P10 335 0.5 0.7∼3.0 0.7∼3.0 3.3 Ar-CO2 380 0.5 1.0∼3.5 1.0∼3.5 5.18図 4.35: セットアップ図
この場合も P10 は実測とシミュレーションがよく一致しているのに対し、Ar-CO2は拡がりが小 さくなるにつれて実測とシミュレーションとの違いが大きくなる傾向にある。いずれにせよ、電場 が増大するにつれ、P10 では拡がりが小さくなり、Ar-CO2では大きくなる、という傾向はデータ とシミュレーションで一致している。 これまでの結果から拡がりはガス中の拡散が大きな寄与をしていることを示し、GEM 構造等か らくる要因は、一番狭い拡がりの場合のデータとシミュレーションとの違いからせいぜい 100µm 程度であるといえる。しかも、これには最初の電子の飛程の効果、ストリップピッチが有限である 効果が含まれている。
第
5
章 新しいタイプの
GEM
の開発
5.1
100µm
厚
GEM
一般的に安定したチェンバー動作のためには、50µm 厚 GEM を 3 枚積層して使用している。そ こで、私たちも前章で主に 50µm 厚 GEM を 3 枚積層したチェンバーの基本特性を調べた。しか し、1 枚の厚手の GEM で十分なガス増幅が得られれば、チェンバーの構造が簡単になり、ガス中 での拡散が小さく出来る事が期待される。この節では 100µm 厚 GEM の特性を Ar-CO2ガスを用 いる事で調べた [5]。 100µm厚 GEM のパラメーターは以下のようになっている。 • 検出面積:10cm×10cm • LCP(絶縁体) の厚さ:100µm • 孔径:70µm、90µm • ピッチ間隔:140µm 孔径は 70µm のものと、90µm のものがあるが、最初に 50µm 厚 GEM と同じ 70µm のもので テストした後で、90µm も調べた。また、絶縁体の材質は加工上の理由からポリミドではなく、 LCP(Liquid Crystal Polymer)が用いられている。50µm厚 GEM と比較するために ∆VGEM、ED、EIそれぞれを変化させた時に得られるガス増
幅度を測定した。
5.1.1
セットアップ
セットアップは単純で図 5.1 に示したように、チェンバー内の構成としてはカソードと 100µm 厚 GEM のみで、55Feの線源を用いて測定をした。 50µm厚 GEM の各パラメーターにおけるガス増幅度の測定と同様に、変化させるパラメーター 以外は固定となるように設定した。各パラメーターを測定した時の各領域の電場等の設定は表 5.3 に示す。5.1.2
∆V
GEMとガス増幅度の関係
この時の結果は図 5.2 のようになっている。この 100µm 厚 GEM のプロットは実際にかけた ∆VGEMを半分にして、50µm あたりの ∆VGEM
にしてプロットしている。50µm 厚 GEM を基準として考えると、100µm 厚 GEM の方が低い電圧 で高いガス増幅度が得られている。これは同じ孔径なので、穴内の電場が高くなっていることと、 転送領域での実効増幅度の損失がない事から理解できる。しかし、得られる最大のガス増幅度は、
図 5.1: セットアップ図 表 5.1: 100µm 厚 GEM の各パラメーターにおけるガス増幅度の測定の時の各領域の設定 孔径 パラメーター 使用ガス ∆VGEM(V) ED(kV/cm) EI(kV/cm) 70µm ∆VGEM Ar-CO2 540∼680 0.75 7.0 ED Ar-CO2 660 0.3∼3.5 6.0 EI Ar-CO2 660 0.75 1.0∼9.2 90µm ∆VGEM Ar-CO2 600∼740 1.5 6.0 ED Ar-CO2 660 0.1∼3.5 6.0 図 5.2: 50µm 厚 GEM と 100µm 厚 GEM の ∆V に対するガス増幅度の比較
5.1.3
E
D、E
Iとガス増幅度の関係
ED、EIそれぞれに対するガス増幅度の変化を測定をした時の結果を示したものが図 5.3 と図 5.4 になっている。 図 5.3: 50µm 厚 GEM と 100µm 厚 GEM の EDに対するガス増幅度の変化の比較 図 5.4: 50µm 厚 GEM と 100µm 厚 GEM の EIに対するガス増幅度の変化の比較 基本的には同じ特性を示している。EDに対する依存性で低い電場の方にシフトして見えるのは、 50µm厚 GEM と同じガス増幅度を得るための電圧が低いためと考えている。5.1.4
孔径が 90µm の時の測定
より高い増幅度を得るために孔径を 90µm にしてみた。この孔径の大きさは 140µm ピッチで加 工可能な最大のものである。その時の ∆V に対するガス増幅度の測定結果は図 5.5 になってい図 5.5: 孔径の違いに対する ∆VGEMに対するガス増幅度の比較 70µmよりは高い電場を得る事ができたが、10000 倍には至らなかったので、荷電粒子を十分な 効率で検出するには、さらなる工夫が必要である。また、EDに対する依存性も測定した。測定結 果は図 5.6 のようになっている。 図 5.6: 孔径の違いに対する EDに対するガス増幅度の比較 孔径 70µm の場合とは違い、高い電場領域でもガス増幅度が減少することなく、むしろ増加す る傾向をしめした。これは、開口率が増加した事により、より高い電場でも収集効率が下がらず、 電場が上がったことによりガス増幅度が増える効果が見えてきていると思われる。50µm 厚 GEM では RTで引き出し効率を上げようと高い電場に設定すると収集効率が悪くなり、かえって不利で あった。ここを 90µm にすることでガス増幅度を上昇させる事が出来ると期待される。 また、E に対するガス増幅度の変化も調べたが、こちらは孔径の違いによって変化は見られな
5.2
25µm
厚
GEM
別の章で示すように、GEM に何かを付加することによって、X 線や中性子を検出する事を考え た場合、ガス増幅度がいらなく、電子さえ通過させればよい。その際、絶縁体であるポリミドの厚 みが問題になる場合がある。そこで、ポリミドの厚さを薄くした 25µm 厚の GEM を製作し、テス トした。 25µm厚 GEM の各パラメーターは以下のようになっている。 • 検出面積:10cm×10cm • ポリミドの厚さ:25µm • 孔径:70µm • ピッチ間隔:140µm 実験としては図 5.7 と図 5.9 のセットアップで行ったが、その時の各電場の設定は以下の表 5.2 のようになっている。 表 5.2: 25µm 厚 GEM 測定時の各領域の設定 セットアップ 使用ガス ED(kV/cm) ET(kV/cm) EI(kV/cm) 図 5.7 Ar-CO2 1.5 1.5 6.6 図 5.9 Ar-CO2 1.5 なし 6.6 チェンバー内の構造は図 5.7 では、25µm 厚 GEM と 100µm 厚 GEM で構成されている。 図 5.7: セットアップ図 その時の測定結果は図 5.8 のようになっている。この時の測定結果は横軸に 25µm 厚 GEM の ∆VGEM、縦軸にオシロスコープでの信号の大きさをプロットしたものである。 電圧に対して指数関数的に信号の大きさが増大している事から、ガス増幅器として働いているこ とがわかる。通常 GEM と違って増幅領域が短くなっているので、かける電圧に対して増幅度の変 化が穏やかである。この GEM を電子を通過させるためだけに使用することを考えて、実効ガス増図 5.8: 25µm 厚 GEM の印加電圧特性
探索方法として、図 5.7 と図 5.9 のようにセットアップし、25µm 厚 GEM が有る場合、無い場 合の信号の大きさを測定した。その時の結果を表 5.3、5.4 に示す。
∆VGEM(V) pulse height (100µm厚 GEM) (mV) 630 82 645 124 660 174 表 5.3: 25µm 厚 GEM 無しの時の信号の大きさ
∆VGEM(V) ∆VGEM(V) pulse height
(100µm厚 GEM) (25µm厚 GEM) (mV) 630 135 74 150 82 165 89 645 150 117 165 128 表 5.4: 25µm 厚 GEM 有りの時の信号の大きさ この結果から 25µm 厚 GEM の実効ガス増幅度が 1 となる電圧は 160V 程度であることがわか る。50µm 厚 GEM の実効ガス増幅度が 1 になる電圧の探索に関する結果は別の章で紹介する。
5.3
大型
GEM
GEMをもちいた検出器は検出面積の広い実験に適応できるようにするために、検出器自身のコ ンパクト化等を狙い研究が進められているが、1 枚の GEM で広範囲の面積をカバーする事ができ れば、そちらの方が有効である。この節では大型 GEM の性能評価試験について調べた。 大型 GEM の各パラメーターは以下のようになっている。 • 検出面積:23cm×23cm • ポリミドの厚さ:50µm • 孔径:70µm • ピッチ間隔:140µm まずは、大型にしても正常に動くかどうかを調べるため、チェッキングソース (90Sr、55Fe)を用 いて信号を確認した。 セットアップは図 5.10 のようにして行った。 図 5.10: セットアップ図表 5.5: 大型 GEM 測定時の各領域の設定 使用ガス ∆VGEM1、2、3(V) ED(kV/cm) ET1(kV/cm) ET2(kV/cm) EI(kV/cm) Ar-CO2 440 1.0 1.2 1.2 6.0
5.3.1
信号確認
上のようなセットアップにする事によって図 5.11 と図 5.12 のような信号を得る事に成功した。 だが、大型 GEM は放電によって壊れる事が多く、安定した動作が得られているとは言えない。そ のため、∆VGEMを変化させた時のガス増幅の測定、ED、EIに対する依存性などの測定までには至っていない。今後はそれらの測定と共に、安定した動作を得るための工夫が必要である。 図 5.11: 90Srの信号 図 5.12: 55Feの信号
5.4
Radiation GEM
別の章で詳しく説明するが、GEM を利用することで、中性子や X 線などの画像検出器としての 利用が考えられている。実際に GEM をそのようなものとして利用することを考えた場合、放射線 による損傷の影響も考えられる。そのため、100µm 厚 GEM に γ 線の放射線源である60Coを用いて 100Mrad 照射し (Radiation GEM と呼ぶ)、その状態でも正常に動作するかをチェックした。 電場やチェンバー内のセットアップなどは、比較するために、100µm 厚 GEM の測定と同様に して行った。その時の結果が図 5.13 である。通常の 100µm 厚 GEM(70µm 径) と比較しても、同 様のガス増幅度が得られているといえる。 中性子検出器として使用していく上で、γ 線のバックグラウンドが非常に大きく関わってくるが、 これにより、γ 線を浴びても正常に動作することが出来、長期に渡って検出器として動作できるこ とがわかる。
5.5
後退
GEM
GEM1枚で 100µm 厚 GEM よりもさらに高いガス増幅度を得ることを目的として、次のような図 5.13: Radiation GEM と通常の 100µm 厚 GEM(70µm 径) の ∆VGEMに対するガス増幅度の 測定 • 検出面積:10cm×10cm • LCP(絶縁体) の厚さ:100µm • 孔径 (Cu):90µm 径、130µm 径 • 孔径 (LCP):70µm 径、90µm 径 • ピッチ間隔:140µm 電極である Cu の孔径と LCP の孔径を変え、絶縁体の孔径を小さくすることで高いガス増幅度 が得られるようにした。この GEM を後退 GEM と呼ぶ。 後退 GEM には 2 種類あり、それぞれで、Cu と LCP の孔径が異なる。それぞれの様子を表した ものが図 5.14 と図 5.15 である。 図 5.14: 後退 GEM 孔径 90µm 径 (Cu)、 70µm 径 (LCP) 図 5.15: 後退 GEM 孔径 130µm 径 (Cu)、 90µm 径 (LCP)
図 5.14 では思ったように電圧をかけることが出来なかったため、図 5.15 の後退 GEM でガス増 幅度に対する、∆VGEM依存性、ED依存性、EI依存性を調べた。ここでも 100µm 厚 GEM と比
較するため、100µm 厚 GEM の時と同様のセットアップにして測定を行った。 その時の各領域の電場等の設定は表 5.6 のように設定して行った。 表 5.6: 後退 GEM の各パラメーターにおけるガス増幅度の測定の時の各領域の設定 パラメーター 使用ガス ∆VGEM(V) ED(kV/cm) EI(kV/cm) ED Ar-CO2 800 0.3∼3.0 6.0 EI Ar-CO2 800 1.5 3.0∼8.5 ∆VGEM Ar-CO2 750∼870 1.5 6.0 Ar-CO2 750∼870 2.0 6.0 Ar-CO2 750∼870 3.0 6.0 Ar-CO2 750∼870 4.0 6.0 Ar-CO2 750∼870 5.0 6.0 Ar-CO2 750∼870 4.0 3.0 Ar-CO2 750∼870 4.0 4.0 Ar-CO2 750∼870 4.0 6.0 Ar-CO2 750∼870 4.0 8.0
5.5.1
E
Dとガス増幅度の関係
まずは、EDを変えた時のガス増幅度がどのように変化するかを調べた。 その時の結果が図 5.16 となる。 図 5.16: EDに対するガス増幅度の変化 今までは、EDを高く設定しても、高いガス増幅度が得られることはなかったが、この結果を見 る限りでは高く設定した方がよさそうである。5.5.2
E
Iとガス増幅度の関係
次に EIを変えた時のガス増幅度がどのように変化するかを調べた。 その時の結果が図 5.17 となる。 図 5.17: EIに対するガス増幅度の変化 今までと同様に EIを高く設定すると高いガス増幅度が得られた。5.5.3
∆V
GEMとガス増幅度の関係
最後に ∆VGEMを変化させた時の、ガス増幅度の変化を測定した。EDに対するガス増幅度の変化の測定から、今までの 50µm 厚 GEM や、100µm 厚 GEM とは異なり、EDを高めに設定した方
がよさそうなことがわかったので、EI、EDを変化させながら、∆VGEMに対するガス増幅度の変
化を測定した。
まずは、EIを 6.0kV/cm に固定して、EDを変化させた。
この結果を見ると、EDを 4.0kV/cm に設定した方が高いガス増幅度が得られそうである。 その為、EDを 4.0kV/cm に固定して、EIを変化させた。その時の結果が図 5.19 となる。 図 5.19: EIをパラメーターにした時の、∆VGEMに対するガス増幅度の変化の測定 EIを高くするほど、高いガス増幅度が得られたが、高すぎると放電が起こってしまい、途中から 測定できない。その為、高い電場にすれば高いガス増幅度を得られる、とはいえない結果になった。 通常の 100µm 厚 GEM のガス増幅度とさほど変わらないため、さらに高いガス増幅度を得るた めには、他の形状を考える必要があるといえる。