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自己組織化マップを用いた理科教科書内容の分析

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Academic year: 2022

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自己組織化マップを用いた理科教科書内容の分析

著者 松原 道男

雑誌名 金沢大学教育学部紀要教育科学編

巻 57

ページ 11‑16

発行年 2008‑02‑28

URL http://hdl.handle.net/2297/9618

(2)

11

自己組織化マップを用いた理科教科書内容の分析

松原道男

AnAnalysisofCⅢtentsofScience晩xtbooksbyUsingSelfLOrganizationMap

MichioMATSUBARA

I問題の所在

理科の学習においては、自然を対象にした問 題解決活動を通して、自然に対する感`性や心情、

観察・実験の技能、科学的思考、科学的知識な どを獲得させる。ここで、感性や心情、観察・

実験の技能は言語化しにくいが、科学的思考や 科学的知識は、言語化や記号化が容易である。

つまり、科学的思考や科学的知識は、抽象度が 高いといえる。

この抽象化された思考や知識の形成について は、図lに示したように、問題解決などを通し て具体的な自然事象をイメージ化し、抽象化し ていくことによるものがあげられる’)。また、

教師や子どもどうしの対話、教科書などのすで に言語化されたものによる影響があげられる。

これらの影響は、子どもの発話や記述内容に反 映するといえる。

理科における我が国の子どもの記述内容につ いては、国際的な比較調査により、科学的な根 拠や理由などを説明する力が十分でないことが

指摘されている2)3)。そこで、これらの力を育成

するためには、まず、教師の発話や教科書の内

容、さらに子どもの説明や記述内容を分析し、

評価することが必要になるといえる。この中で 特に教科書分析に着目すると、質的分析におい ては、量や程度といった特定の言葉の利用や、

イオン、モルなどの科学的概念の取り扱いなど の分析が行われている4)5)6)。また、観察.実験 といった特定の学習活動の分析が行われている

7)。一方、量的分析においては、語や句点、漢

字、図などの数、文章や図の占める面積の割合、

文体の割合などの分析が行われている8)。しか し、これらの研究においては、質および量の両 側面から、教科書の記述内容全体にわたった分 析は十分に行われていないといえる。

そこで、これまでの研究においては、まず、

授業中の教師の発話を分析する方法として、自 己組織化マップ9)を用いる方法を明らかにして

きた]o)。そして、この方法を用いると、教科書

の内容や子どもの記述内容についても分析が可 能であると考えられた。また、このように教師 の発話や教科書、子どもの記述内容に対して、

同じ方法を用いて分析できれば、カリキュラム や授業全体について、総合的にとらえることが できると考えられた。

《言語化・記号化されたもの》

・教師との対話・子どもどうしの対話・教科書

Ⅱ研究の目的

以上のことから、本研究においては、教師の 発話内容を分析してきたこれまでの方法を応用 し、教科書の記述内容について、自己組織化マッ プを用いて分析する方法を明らかにすることを

目的とした。

EpE伺塵 n

図1理科における抽象的な思考や知識の形成要因 平成19年9月28日受理

(3)

金沢大学教育学部紀要(教育科学編) 第57号平成20年

12

輔再聖写聾写軍餌■■■■■■■唾麗

Ⅲ方法

1.自己組織化マップを用いる意義

自己組織化マップは、ニューラルネットワー クの一つと考えられ、従来の多変量解析による 分類よりも優れているといった指摘もあるⅡ)。

教科書の内容については、一つ一つの文章をみ ていくことも必要であるが、同じキーワードが 教科書に数箇所でてくることも多く、その単元 全体を見ていく必要がある。また、子どもにとっ ては、単元全体からイメージ的にとらえること もあると考えられる。つまり、部分の分析でな く全体的な分析が必要となり、自己組織化マッ プはそのような分析に長けていると考えられる。

昆閣賭P基本形1-田 ▽品pgi「》舌用区側

図2形態素解析ソフト「茶筌」の画面

②「茶筌」による単語と品詞の抽出

・テキスト化したデータから形態素解析フリー ソフト「茶筌」を用いて、単語とその品詞を 抽出する。その際、同じ単語が活用の違いで 異なった単語として分析されないようにする ため、図2に示したように「表層語」ではな く「基本形」にチェックを入れる。さらに、

「品詞」にチェックを入れ、区切りとして「,」

を用いて分析を行う。

・出力される結果は、1行ごとに「一つの単語,

品詞」といった形式になっている。また、出 力データは1文章の区切りごとに、「EOS」と いう記号が付加されている。

.この出力結果について、ワープロソフト等に コピーし、テキストファイルとして保存する。

(2)Excelによるデータの作成

Excelを用いて分析データおよび自己組織化 マップを作成する一連のマクロを作成した。開

発したものは、Excelの一つのファイル(以下

MSOM)に収められているが、その中に図3に示 したように4つのシートがあり、分析段階ごと に次のシートへ加工されたデータが送られる ようになっている。分析の手順は次の通りであ る。

①「data」シート

・茶筌で作成したカンマ区切りのテキストファ イルをExcelで開く。図3に示したように開 発したMSOMの「data」シートの2列目の指 定の位置に、そのデータを貼り付ける。1列 目に示した数値からデータ数を読み取り、「素 データ単語数」の右のセルにデータ数を入力

し、「実行」をクリックする。

2分析の対象とした教科書の内容

自己組織化マップによる分析方法、およびそ こから明らかになることを具体的に示すため、

2社の教科書の内容を比較分析することにした。

分析の対象としたのは、中学校第2分野の「火 山」に関する内容であり、A社、B社の2つの 教科書を対象とした。今回は、本文の科学的な 説明文章に着目することを考え、挿絵の説明や 図の見出し等は分析の対象とせず、本文の内容 のみを分析の対象とした。

3.自己組織化マップによる分析方法

授業中の発話内容を分析したこれまでの方法 を用いて、次の手順で自己組織化マップを作成

した。

(1)文章からの単語と品詞の抽出

①教科書の本文のテキスト化

まず、教科書の本文をテキスト化してデータ とする。その際、文章のまとまりについて、基 本的には句点から句点までを-つの文章とする ことを原則とした。しかし、「○○は、□□とな る。これを△△という。」などの定義、「○○は、

□□となる。これは△△だからである。」といっ た根拠を示すような文章は、句点があってもこ れで-つの文章とみなして分析を行うこととし た。

(4)

松原道男:自己組織化マップを用いた理科教科書内容の分析 13

欝蕊二A二=:=-B ~,

一 一

M薊謝鎚託-8-9

重複単語整理プログラム

二三L1ZL」

科Ⅱ

辮忠j蕊iUm…農… 11;篝鑿篝蘂鑿鑿鑿篝篝蘂i篝欝鑿篝鑿薑篝篝鑿鑿:鑿鑿篝鑿鑿篝l蘆i;蘂;蘂I

まわりものゆっくり 1名詞-=段_…_:名詞-非自立--段i副詞勧詞類接続一

シートの画面

たときの上限のカウント数を設定する。たと えば「3」と設定した場合、I文書中に4回同 じ単語が出てきてもデータ上は「3」となる。

「3」以下の場合はそのままの数となる。

.「実行を」クリックすることによって、データ が作成され、次の「kohonen」シートに「単語」、

「度数」とともに、データが配置される。

③「kohonen」シート

.「①」~「⑦」の色つきのセルの下の数値は、

マップに配置されるその単語の度数に対応し てセルの色を表示するためのものである。青 から赤にかけて度数が多くなるようになって おり、任意の数を入れる。

.「訓練回数」の右のセルに演算の繰り返し回数 を入れる。10,000から30,000くらいの値が妥 当と考えられる。

.「実行」をクリックすることにより、演算が開

始され、終了と同時に「map」シートに自己

壁み■

図3「data」

.「実行」によって、データから重複した単語が 取り除かれるとともに、助詞、助動詞といっ た本文の内容とあまり関係のない品詞の単語 が除かれる。さらに、各単語の出現頻度がカ ウントされるとともに、出現頻度の多い順に

単語が並び替えられ、次の「count-program」

シートに配置される。

②「count-program」シート

.「count-program」シートでは、「data」シーに

配置した「茶筌」のデータから、図4に示し たように]文章ごと(「茶筌」で付加された

「EOS」から「EOS」の間)、「counLprogram」

の各行に配置された単語が含まれている数を カウントし、各列に配置するようになってい る。

.「countL-program」シートの「最大」の右のセ

ルには、]文章中にある単語が複数回出てき

単語のカウンタ・プログラム

口鱗灘 鰯一口一・刈■・『・ 桝口■■》「■》■■》

136丘覇■

676

,目一カウント676カウント

I ̄15

=童iiJ

度数蕊鑿l鍵議蕊轤懲鑿鍵鑿鑓

1200001 11:01000 11:00100 10111211 900201 7:OODOO

・~~~・~・・・・.~。.・・・・~~~1101Ⅱ1-,“!`・・・・!`.」1t6..~--.....P・・---゜‐。「,

70021011 番単語

一1よう 2いる 3鉱物4マグマ 5れろトー 6その 7や,の

品詞 ご名詞-非自立一助鞭周饒幹 轆可-非自立

=名詞一般 l名詞一般 動詞‐綬尾 i連体詞1余詞-非白ウーー膿

「count-program」 図5「kohonen」シートの画面

図4 シートの画面

単語数三三!== 136 データ数:

演宣カウント

676 676

列カウント 15 15

(5)

金沢大学教育学部紀要(教育科学編) 第57号平成20年

14

Ⅳ結果および考察

自己組織化マップでは、同じセルあるいは近 くのセルに配置された単語は関連があると判断 できる。分析対象とした単元の内容について、

「マグマ」、「火山」、「深成岩」、「火山岩」、「鉱 物」などがキーワードになると考え、これらの 単語と関連のある単語についてみていくことに した。A社およびB社の自己組織化マップを図 6と図7に示した。特にキーワードの部分の自

己組織化マップを図の右に拡大して示している。

また、図7をもとに、キーワードと関連のある 単語を表1にまとめた。

組織化マップが作成される。

④「map」シート

・自己組織化マップでは、関連の高い単語どう しを近くのセルに配置し、その単語の出現頻 度がセルの色で示される。

、セルによっては、3段階の線で仕切りが入っ ているところがあり、その間には隔たりがあ ることを示す。この仕切りは、単語が隣接し ていても、二重線、太線、極太線(赤色)の 順で、単語間の隔たりが大きいことを示す。

謂二ケロニ

L]

DIOlO

図6A社の自己組織化マップ

rTiLLlfLPlIJ

Zi二tを:

図7B社の自己組織化マップ

(6)

松原道男:自己組織化マップを用いた理科教科書内容の分析 15

ト」や「地表」といった単語との関連がみられ、

これはマクロな視点による関連と考えられる。

「深成岩」と「火山岩」については、両社とも 同じように「花こう岩」、「安山岩」などの単語 との関連がみられた。「鉱物」については、A社 は「粒」や「できる」といった単語との関連が みられ、これは鉱物の観察時における形状など との関連と考えられる。一方、B社では「岩石」

「石」などの単語と関連がみられ、これは岩石 の構成物としての関連と考えられる。

以上の結果について、キーワード全体の関連 を図に示したのが図8および図9である。図8 から、A社は「火山」と「鉱物」がミクロな視 点から関連している。これとやや独立して「マ グマ」などのマクロな視点の内容がある。「火山 岩」と「深成岩」は、両視点の中間あたりに位 置していることがわかる。一方、B社は、A社 と異なり「マグマ」はミクロな視点であり、「鉱 物」やその他のキーワードとの関連は弱い。ま た、「火山」もA社と異なりマクロな視点であ る。「火山岩」と「深成岩」は、A社と同じよう に両視点の中間あたりに位置している。

表1キーワードと関連のある単語 関連のある単語

キーワード A社 B社

火山火山灰,粒プレート、地表 深成岩花こう岩花こう岩 火山岩安山岩安山岩

鉱物 粒できる 岩石石

。………….…言加…….…….…

i四四i

iTi二iii■偶

薗5..パ荘あ丙蓉の全体的関連

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●Oミクロ

曰}柳一四 四四四

Vまとめおよび今後の課題

以上の結果から、自己組織化マップにより、

教科書の内容について単語の関連から細かく見 ていくことができ、どのような観点から記述さ れているかを分析することができるといえる。

また、単語の関連のまとまりに着目し、そのま とまりを全体的にみていくことにより、内容全 体の構造を分析することができるといえる。こ れらのことから、本研究の分析方法を用いるこ とにより、子どもの科学的な事象の解釈やその 根拠に影響すると考えられる教科書の記述内容 について、単語の関連から分析することができ ると考えられる。

今後の課題としては、一つは、教科書の挿絵 や写真などの見出しや解説、観察・実験の方法 などの図示による説明、科学コーナーなどの文 章の取り扱いがあげられる。今回は、本文の内

I

.・菌.5..5.荘Ctj丙容の全体的関連

図7および表1より、「マグマ」については、

A社は「噴火」や「ねばりけ」などの単語との 関連がみられた。これはマクロな視点による関 連と考えられる。一方、B社では「結晶」や「粒」

といった単語との関連がみられ、これはミクロ な視点による関連と考えられる。「火山」につい ては、A社は「火山灰」や「粒」といった単語 との関連がみられた。これはミクロな視点によ る関連と考えられる。一方、B社では「プレー

関連のある単語

キーワード A社 B社

マグマ 噴火,冷える

ねばる 結晶,粒 火山 火山灰,粒 プレート、地表 深成岩 花こう岩 花こう岩

火山岩 安山岩 安山岩

鉱物 粒,できる 岩石,石

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金沢大学教育学部紀要(教育科学編)

16 第57号平成20年

容のみを分析の対象としたため、今後、これら を含めた分析方法について検討する必要がある。

二つ目は、分析にあたっての文章の区切り方に ついてである。文章の区切り方は、基本的には 句点から句点までを一文として考えたが、定義 や理由等、文章をつなげなければ意味をなさな いものは、それを-まとまりにした。文章のま とまりをどう区切るかによって、分析上、自己 組織化マップの結果が多少異なるため、この区 切り方についても今後検討する必要がある。

5)佐藤明子・高橋治・菊地洋一・村上祐:「イオン学 習の適時性一教科書の国際比較に基づいて-」、理 科教育学研究、VbL46、NO2、21-28,2006 6)片平克弘・高野恒雄・長洲南海男:「モル概念の定

義と必要性に関する教科書記述の分析及び生徒の 意識調査一モル概念指導のための基礎的資料とし て-」、日本理科教育学会研究紀要、VbI28、Nol、

27-34,1987

7)中山迅・猿田祐嗣・川崎謙:「日本の小学校理科教 科書に見られる観察と結論の導出のあり方一第4 学年の動物や植物にかかわる内容について-」、日 本理科教育学会全国大会発表論文集第5号、75,

2007

8)広瀬正美、大森雅彦、橋本健夫:「教科書の内容の 数量化の-方法について」、日本理科教育学会研究 紀要、VbL26、No.3,41-48,1986

9)Ⅲコホネン「自己組織化マップ」、シュプリンガー・

フエアラーク東京、’02-171,1996

10)松原道男:「自己組織化マップを用いた理科授業分 析(1)-中学校「電流」単元を例にして-」、日本理 科教育学会全国大会発表論文集第5号、354,2007 11)徳高平蔵他監修:「自己組織化マップ応用事例集 SOMによる可視化情報処理」、海文堂、97-99,2002 参考文献

l)吉田棹:「学習とイメージ」、78-79,1987,初教出 版

2)松原静郎:「中学校理科における指導法の改善への 提言」、理科の教育、Vbl48、No.563,56-59,1999 3)猿田祐嗣:「科学的論述力と指導法との関連について

-国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)の国際比較 データから-」、日本科学教育学会年会論文集28, 537-538,2004

4)久田隆基:「程度や量の強弱・大小などを表すこと ばの小学校理科教科書における使用の実態」、日本 理科教育学会研究紀要、V01.25、NO2、35-42,1984

参照

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