第 9 章 GEM の X 線検出器への応用 103
9.2 原理検証実験
原理検証実験として信号の確認と検出効率の測定を行った。それぞれの測定に関する各領域での 設定を表9.1に示す。
表9.1: GEMを利用した硬X線検出器の原理検証実験の設定 テスト内容 使用ガス ∆VGEM(V) ∆VGEM(V) ED
(Au-GEM) (50µm厚GEM) (kV/cm) 信号確認 P10 253 330 0.31 検出効率測定 Ar-CO2 220 360 1.5
テスト内容 ET(Au−Au) ET(Au−50µm) ET(50µm−50µm) EI
(kV/cm) (kV/cm) (kV/cm) (kV/cm) 信号確認 0.31 0.30 1.65 3.3 検出効率測定 1.5 1.5 3.0 6.5
まず、GEMの両面に3µmのAuをコートして、それを図9.1に示すように積層し、信号の確認 を行った。中性子検出器と異なり、反応によって出てくる荷電粒子が電子のためガス中でのエネル ギー損失が大きくないので、最後の増幅層での増幅を大きくする必要がある。そのため、50µm厚 GEMを3枚セットしてテストを行った。X線が単独で出ている場合に検出効率を測定するのが難 しいので、図9.1のようなセットアップになった。また、図からわかるように、22Na放射線源か らの陽電子の対消滅によるγ線対(エネルギー511keV)を利用した。その結果、図9.2に示すよう に、放射線源に対してテストチェンバーの反対側にセットされたシンチレーションカウンターの信 号でトリガーするとテストチェンバーからも同期した信号を得る事ができた。これによって、テス トチェンバーは511keV のγ線を確かに捕らえているといえる。
図9.1: セットアップ図
図9.2: 22Naからのγ線対を
シンチレーションカウンターと同期している テストチェンバーからの信号
検出効率を評価するために、シンチレーションカウンターのシングルレートとシンチレーション カウンターとテストチェンバーとのコインシデンスレートを比較した。その時のセットアップは図 9.3のようになっており、今年度のMINE1でのビームテストと同様にチェンバー内の上下で検出 をした。図9.4がその時の結果となっており、上下の検出効率を足し合わせたものも同時に示した。
10枚まできれいに検出効率が伸びている。Au-GEMが0枚の時のオフセットを引くと10枚で 1.6% の検出効率であった。これは、物質量と反応断面積から計算された予想値(1.7%)とよく一 致している。X線のエネルギーが最初に狙った200keV まで下がると検出効率は7倍になると期待 される。
図9.3: セットアップ図
図 9.4: 検出効率
9.3 2 次元画像データ
前節までで、硬X線を捕らえる事が出来たといえるので、2次元読み出しについて説明する。X 線は中性子検出器よりもいい位置分解能が求められるため、前年度までの1.6 mmピッチの読み出
しから0.8 mmピッチの読み出しへの変更を試みた。読み出しは単純な両面の2次元ストリップを
使っており、50µm厚のフレキシブル基板を使用している。このテストはまだ初期段階であるため、
55Fe放射線源によるX線の画像データの取得にしか至っていない。図9.5のようにチェンバーの 前に「KEK」文字を作成したカドミニウムの板をセットして画像データの取得を試みた。その結 果が図9.6である。
図9.5: セットアップ図
図9.6: 二次元画像データ
この読み出し基板は前章でも述べたが、ストリップパターン自体は0.4mmピッチで加工してお り、端で2本ごとにストリップをつなぐ事で0.8mmピッチにしている。よって、ASICとFPGAを 用いたエレクトロニクスの扱いに慣れ、さらに多チャンネルでの安定した動作が得られれば0.4mm ピッチへの移行は簡単に行えると考えている。
第 10 章 研究成果と今後の課題
今までGEM自体の性能評価や、応用として開発した検出器の性能評価を行ってきた。最後に、
これまでの研究成果と今後の課題についてまとめる。
10.1 GEM チェンバーの基本特性、新しいタイプの GEM の開発
まず、GEMの多段構成にした状態での各領域における電場や、∆VGEMの働きを調べ、GEM の基本特性を理解した。ガスワイヤーチェンバーでは105程度の増幅度を得ることは容易であった が、GEMを用いたチェンバーでも、50µm厚GEMを3枚使用することで105程度の増幅度が得 られた(P10ガスを使用)。
電荷分布に関しても調べたが、電荷分布はGEMの構造に依らず、GEMを用いたチェンバーの 全体のギャップとその間の電場に依存していることが判明した。
新しいタイプのGEMの開発において、100µm厚GEMが50µm厚GEMよりも効率よく、電 圧を印加できる事がわかった。その為、100µm厚GEMを使用すれば、50µm厚GEMよりも少な い枚数で高い増幅度が得られるが、1枚で106程度の増幅度を得ることが出来れば、高い増幅率が 求められる、X線検出器において有効に利用することが出来る。その為、さらに高い増幅率を得る ためには、新たな形状のGEMを考えていく必要があるだろう。また、変換層として用いるGEM として、25µm厚GEMの開発も行い、増幅率が1となる電圧を決めることは出来た。今後は、こ の25µm厚GEMに10BやAuを蒸着させたものを試験していくことが必要である。