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付録 記録媒体の微細構造解析のためのナノ界面解析

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(1)

A-1

本論文内でも多くの例を示したように、垂直磁気記録媒体を評価する上で、磁気特性、結晶学的特 性、組成解析や化学結合状態の解析、表面性状の評価など様々な項目を詳細に検討してきた。

記録媒体はナノメートルオーダの薄膜を堆積しているため、またナノメートルサイズの構造を有してい るために、その表面あるいは積層間の界面の解析(ナノ界面解析)は記録媒体の特性を左右する重要 な手法で、各種解析装置はこれらを検討するうえで必須のツールとなっている。

ここでは、本論文においてそのナノメートルオーダの微細構造、組成、結合状態をナノ界面解析する ために利用した各種表面・界面解析装置のうち、オージェ電子分光装置(AES)、X 線光電子分光装置

(XPS)、透過型電子顕微鏡(TEM)の 3 種類の装置について、その簡単な原理から、それぞれの特徴、

また実際の媒体の解析に用いた例や本論文では触れなかった例、さらには本テーマとは別のタイプの 媒体材料や記録媒体以外の電子材料などを解析した例について述べる。

(2)

A-2

A1. オージェ電子分光装置-Auger Electron Spectroscopy (AES)

A1.1 原理の概要と分析結果例

A1.1.1 Auger電子分光装置の原理と機能

Auger電子分光装置(Auger electron spectroscopy: マイクロオージェ分析装置も含めて、以降AES と略す)は、フランスの物理学者 Pierre Auger(1899-1993)の名前にちなんで付けられている。Auger 効 果の理論的な発表はKleinとRosseland(Norway)によって行なわれ(1921年)、オーストリアの物理学者 Liese Meitner(Austria)によって発見(1922年)されたと言われている。P. Augerは精緻な実験を通して励 起状態にある原子がより安定なエネルギ状態へ遷移する現象である Auger 効果と、その過程で原子か ら電離放出される電子についての研究とモデル化を行なっており、この現象を詳細にまとめたことから 彼の名前がつけられるようになった[1]。

Auger電子はFig. A-1示すように基本的に3レベルの電子放出過程からなっており[2]、それぞれの

遷移が元素固有のエネルギ値を持つことから、Auger電子として検出される電子のエネルギはその元素 固有の値を持つことになる。したがって、Auger 電子のエネルギを測定することで、その電子がどの元素 から放出されたものかを知ることができる、すなわちその元素を同定できることになる。この電子放出過 程というのは、

(a) 電子線(一次電子線)が試料表面の元素に照射され、ある元素を取り囲んでいる内殻(例えば K 殻)電子の一つを真空中に放出させ、空孔を作る。

(b) より外殻の高いエネルギ準位(例えばL殻)にある電子が空孔に落ちる。

(c) 上記二つの準位の差のエネルギにより、他の電子(例えばL殻)を真空中に放出させる。

である。この(c)で放出される電子を Auger 電子と呼んでいる。元素によってはさまざまな組合わせの

Auger 電子があるため、これらをお互いに区別するため上の例では、KLL 遷移(KLL-Auger電子)と標

記される。

Auger電子のエネルギは次の式で表される。

Ea = EK-EL-EL’

ここでφは仕事関数、EK, EL, EL’はそれぞれK殻、L殻、L’殻のエネルギ準位である。

上に述べた原理から分かるように、3個以上の電子を持つ元素でないとAuger遷移は起きないので、

水素(H)とヘリウム(He)の分析は AES では不可能である。ちなみに(a)で放出される電子は狭い意味で の二次電子として、走査型電子顕微鏡(SEM)の画像(二次電子像: SEI)を表示するための電子として用 いられる。また、(c)の過程で Auger 電子として放出されるか、光(X 線)として放出されるかが分かれるが、

(3)

A-3

X線として放出される場合、そのX線のエネルギを検出することで、Auger電子を分析するのと同様に、

元 の 元 素 を 同 定 す る こ と が 可 能 と な る 。 こ れ が EPMA(Electron probe micro analysis)あ る い は WDS(Wavelength dispersive spectrometry)と呼ばれている分析手法である。ただし、X 線として放出さ れることから、次に述べる脱出深さはAuger電子より深く、μmオーダの値となる。すなわち、より深いとこ ろからの情報を得ることができることになる。一般には軽元素の検出にはAESが、重い元素はEPMAの 方が感度が良いとされているが、AES ではバックグラウンドが大きいことと、ピーク強度がそれほど大きく ない(測定にかかる元素数が少ない)ことから、それほどの違いは見られない場合もある。

一般に固体内での電子の平均自由工程は Fig. A-2 にあるようにおおむね 2 nm 以下である。した がって試料の深いところで発生した Auger 電子は表面から脱出する前に他の電子と衝突して、そのエ ネルギを失って真空中に脱出できない、電子のエネルギは深さに対して指数関数的に減衰するので、

一般に平均自由工程の3倍程度の深さまでは表面から脱出できると言われている。この深さを脱出深さ という。このため、Auger電子のエネルギにもよるが、高々表面から6 nm程度の深さからしか脱出できな いことになり、その部分の情報しか得られないことになる。この意味から、Auger 電子分光法は「表面分 析」装置として薄膜等の極表面解析に用いられる。

したがって、このままでは Auger 電子分光装置を用いて脱出深さ以上に深い場所の情報を得ること はできない。これを可能にするには、アルゴンなどのイオンガンでエッチングすることで試料の表面を薄 く取り除き、その後 Auger 分析を行なう。その後またアルゴンイオンエッチングを行ない、・・・。この作業 を繰り返すことで、深さ方向分析(Auger depth profile)を行なうことが可能である。もちろんイオン照射に よる試料のダメージがないように考慮しなければならない。また、試料に対するイオン照射角度によって、

エッチングされる試料のエッチングレートが異なるため、特に複合材料の場合にはイオン照射による表 面荒れや分解能の劣化などに注意する必要がある。

Auger 分析は電子線を試料に照射して、そこから放出される電子を分析することから、分析装置とし

て構造的には走査型電子顕微鏡(SEM)と同じ構造を有している。したがってAuger電子の空間分解能 は電子銃の性能によって決定され、10 nm 以下の分解能も可能である。また、電子線を試料に照射す ることから、電子線によるチャージアップを抑える必要があり、試料は導電性であることが望ましい。この こともSEMと同様である。

これまでAuger電子分光装置では感度が高いという理由で同心円筒鏡型分光器(CMA: Cylindrical

Mirror Analyzer)を用いることが多かったが、近年、後述する XPS(光電子分光装置)と同じ同心半球

型分光器(CHA: Concentric Hemispherical Analyzer)を用いることで、高いエネルギ分解能を有する解

(4)

A-4

析が可能になった。これにより、例えば、金属元素とその酸化物試料のピーク位置の違いがある程度 検出可能となり、あるピークが金属に由来するものか、酸化物からのピークなのかを判定することがで きるようになった。この手法はまだそれほど一般的ではないようで、今後様々な材料についてデータ ベース化されていくことと思われる。A1.2.1項にはその一例を示す。

このように AES を用いることで、ナノメートルサイズの薄膜の構造に関する情報をナノメートルオーダ の空間分解能を持って得ることができる。

(5)

(a) (b) (c)

(a) (b) (c)

Fig. A-1 Principle of Auger electron radiation process from surface.

Fig. A-2 Mean free path of radiated electron from various kinds of metals.

A-5

(6)

A-6 A1.1.2 典型的な分析例

ここではいくつかの典型的な分析例を示す。始めに、第 2 章で述べた室温・高ガス圧力作製 Co-Cr 膜の最表面でのAugerスペクトルをFig. A-3に示す。この試料は、最表面を何も処理せずに分析したた め、C(カーボン)のコンタミネーション(汚れ)が大きく検出されていることが分かる。次に記録層を構成す るCo とCrも検出されている。さらにCrとほぼ同じようなエネルギ位置にO(酸素)が検出されていること が分かる。この酸素は表面のコンタミネーション、あるいはCo-Cr膜の表面酸化層などから由来すると考 えられる。Fig. A-3の例ではCoや Crのピークが検出されていることから、前項で述べた脱出深さの上 限から考えると、カーボンと酸素によるコンタミネーションと記録層表面におけるCoやCrの酸化物層を 含めた総膜厚が6 nm以内であることが分かる。

次に、深さ方向分析の例は本論文内のFig. 2-7やFig. 2-17、Fig. 2-18などにも結果を掲載している。

ここではこれら以外の例をFig. A-4に示す。この試料は第 4章で述べたCo-Pt-TiO2(7 Pa 作製)膜であ る。中間層としてRu/Tiを用いている。

また、Fig. A-2に示したように、Auger電子の平均自由工程は検出エネルギによって異なっている。し

たがって Auger 電子の脱出深さも検出エネルギによって異なることになる。例えば Fig. A-2 において

Mo元素は50 eV付近では平均自由工程が約0.5 nmであるのに対し、1500 eV付近では約2 nmであ

る。このことはより高エネルギの Auger 電子は表面より深い領域から真空中に出てくることが可能である ことを意味している。すなわち同じ元素からのAuger電子でも低エネルギ側にあるピークと高エネルギ側 にあるピークとでは、Auger 電子を放出した元の元素が存在する深さが異なることを意味している。この 現象を利用することで、極薄い薄膜あるいはコンタミネーションなどの下(基板側)にある元素が何かをあ る程度知ることができる。

さらに、検出器と試料との角度を変えることで、実効的に Auger 電子が出てくる元素の深さを制限で きる。すなわち、この角度を浅く、つまり検出器と試料面とを平行に近く配置すると、Auger 電子は前述 した脱出深さより、さらに浅いところからしか脱出することができなくなるため(実効的に表面まで遠くなる ため)、極々浅い(1-2 nm)ところの情報しか持たなくなる。これらを利用することで、さらに深さ方向の情 報を詳細に、しかも非破壊で解析することが可能となる(A1.2.2項)。

(7)

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000 -2500

-2000 -1500 -1000 -500 0 500 1000 1500 2000 2500

Intensity

Kinetic energy [eV]

C O

Cr

Co

Fig. A-3 A typical example of Auger electron spectroscopy for surface of a Co-Cr/Ti film deposited at r.t. and 70 Pa for Co-Cr film.

0 5 10 15 20 25 30

0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000

O

Pt O

Ti

Pt Ru

Auger peak intensity (arbitrary unit)

Cycle Co

Co-Pt-TiO2 Ru Pt Substrate

Fig. A-4 A typical example of Auger depth profile for Co-Pt-TiO2/Ru/Pt film.

A-7

(8)

A-8 A1.2 各種材料の微細構造解析とナノ解析

ここでは実際の解析結果を示しながら、AES によりどのような情報が得られ、ナノメートルオーダでど のようなことが分かるかについて示す。

A1.2.1 高エネルギ分解能AES解析による化学結合状態解析

第 4 章で述べたように Co-Pt に各種酸化物を添加したグラニュラ型垂直記録媒体においては、それ ぞれの酸化物がどのような状態で記録層の中に存在しているのかが重要な点となった。これらをAESや XPS を用いて、その膜厚方向の元素分布や状態解析を行なうことができる。Fig. 4-22 に示したように TiO2やSiO2を添加した記録層について深さ方向分析を行ない、その極表面側と下地層に近い成長初 期の領域についての AES分析を行なった結果、酸化物特有の結果が得られた。Fig. 4-22で示したの は酸化物の金属側のスペクトルであったが、これに対応するように各金属と結合している酸素にも結合 エネルギの変化が見られている。Fig. A-5 に示すのは、Co-Pt-Ta2O5 膜のオージェ分析における酸素 (O-KLL)付近のスペクトルである[3]。通常 Auger スペクトルにおける O-KLL は SiO2のそれがデータと して用いられているが、本図によれば、SiO2, Ta2O5, Co-OでのO-KLLのエネルギ値やスペクトルの形 状は一致していない。また、このようなO-KLLピーク位置の違いは他の様々な酸化物においても見られ ており、高いエネルギ分解能で解析を行なうことにより、XPSと同様の化学結合状態を分析することがで きる可能性がある。

また、化学結合状態解析の他の例として、記録媒体ではないが、最近特にRoHS指令(Restriction of Hazardous Substances: 電子・電気機器における特定有害物質の使用制限についての欧州連合(EU) による指令)などで問題になっている”はんだ”について、Auger分析をした結果をFig. A-6に示す。この 図にはスズめっきの最表面(無処理)とアルゴンイオンで 30 秒間エッチングした後のスペクトルを示して いる。Fig. A-6(a)では270 eV付近のカーボン(C)と500 eV付近に酸素(O)の大きなピークが明瞭に検出 されている。またスズではメインピークである420 eV付近にあるSn-MNNのピーク形状がブロードになっ ており、ピークの分離ができない。これに対し、Fig. A-6(b)のエッチング後のスペクトルでは、カーボンや 酸素はまだ若干検出されるものの、そのピーク強度は大幅に減少している。Sn のピークも形状がはっき りしており、420 eV付近のメインピークも明瞭に2本見られ、それらの強度比も(a)図と異なって、より低エ ネルギ側が大きくなっている。これらより無処理のはんだ表面にはコンタミネーション(カーボンと酸素)が ある他にSnが酸化していること、また、エッチング後の表面の Snはほぼ金属状態であることを示してい る。

酸化による同様のピーク形状の変化は多くの元素で見ることができる。また深さ方向分析を行なうこと

(9)

A-9

で、例えばどの程度の膜厚まで表面酸化物が形成されており、どこから金属元素に変化しているかと いった情報を得ることができる。つまり酸化物のおおよその厚さを把握することができるのである。

ただし、酸化物/金属の判定をするためには標準物質を予め分析しておく必要がある。標準物質と 比較して実際の試料がどのようになっているかを判別するのである。Fig. A-7 には一例として本論文の

第4章(Fig. 4-22)でも用いた金属Tiおよび酸化チタンのスペクトルと実際の媒体での結果を再掲する。

ここで酸化物を測定する際に注意しなければならない点が 2 点ある。それは、まず電子線による還元 効果のために酸化物の価数が測定中に次第に小さくなってくることである。したがって測定を繰り返して いる間に酸化物であったものが金属になってしまうということがあり得る。電子線照射量を少なく抑えるな どの手段を施すことで、スペクトルのシフトを最小限に抑えることが可能である。

次にチャージアップの問題である。AES 測定の試料は導電性材料であることが望ましい、実際の試 料では必ずしも金属材料だけとは限らないので、絶縁材料と導電性材料が混ざったものや絶縁物だけ の試料ということもある。この場合、チャージアップの問題が出てくる。チャージアップの対策としては、で きるだけ測定部分以外は導電性物質で覆うことや、試料面を電子線の入射方向に平行に近い角度ま で傾けることで、電荷を逃がすなどのことが行なわれる。いずれも試料毎に処方は異なる。

(10)

Fig. A-5 O-KLL peaks for Co-Pt-Ta2O5 film. Spectra for SiO2 and Co-O are also shown in the figure for comparison. (JEOL: JAMP-7830F)

A-10

(11)

150 200 250 300 350 400 450 500 550 -25000

-20000 -15000 -10000 -5000 0 5000 10000 15000 20000 25000

Intensity

Kinetic energy [eV]

C

Sn(-O)

O

(a)

150 200 250 300 350 400 450 500 550

-25000 -20000 -15000 -10000 -5000 0 5000 10000 15000 20000 25000

Intensity C

Kinetic energy [eV]

Sn

O

(b)

Fig. A-6 Auger spectra for solder material (a) before and (b) after Ar ion etching for 30 sec. Spectrum shape for each figure indicates as (a) Tin metal and (b) Tin-oxide, respectively.

A-11

(12)

0 200 400 600 800 1000

300 350 400 450 500

Ti standard

TiO2 standard at boundary

surface

Energy [eV]

O

Fig. A-7 Auger electron spectra for Ti element. Four spectra indicate (from top to bottom) as follows,

at boundary: boundary between Co-Pt-TiO2 and Ru layers, surface surface of Co-Pt-TiO2 layer,

Ti standard: reference spectrum of metal Ti, and TiO2 standard: reference spectrum of Ti-oxide.

A-12

(13)

A-13

A1.2.2 低角度入射電子線Auger電子分光分析による極表面状態の解析

AES の検出器と試料との角度を変えることで、実効的な Auger 電子の放出深さを変えることができ、

このような配置での測定を行なうことで脱出深さである約6 nmよりさらに表面に近いところの詳細な情報 を得ることができる。

Fig. A-8 に 示 す の は 、Co-Cr 系 記 録 媒 体(保 護 膜 、 潤 滑 剤 付 き)の 表 面 を AES(日 本 電 子 製 JAMP-7100E)により分 析を行 なった結 果 で、試 料 と検 出 器 とのなす角 度(Fig. A-8(c))を 0 度(Fig.

A-8(a))、すなわち試料面の方向に検出器が向いている場合と 45 度(Fig. A-8(b))傾けた配置にした場

合の結果を示す。

両方のスペクトルから角度が0度の場合には表面保護膜の成分であるC(カーボン)が多く検出されて いることが分かる(270 eV付近)。このカーボンには表面のコンタミネーションの成分も含まれているが、こ こでは区別できない。Fig. A-8(a)の場合(角度 0 度)には、記録層に含まれている Co(コバルト)はごくわ ずかしか検出されず(650-800 eV付近)、Cに対するCoのピーク強度比は0.125となっている。これに対 し、角度を45度にしたFig. A-8(b)の場合には、この値が0.234となり、相対的により多くのCoが検出さ れていることになる。また、0度の時にはほとんど検出されていなかったCr(クロム)も 500 eV付近に明瞭 に検出されていることが分かる。なお、それぞれの強度(Fig. A-8(d))ならびに強度比は図内に示すよう な定義を用いている。また、Cは270 eV付近、Coは775 eV付近のピークの強度をその元素のピーク 強度としている。

これらの結果より、0 度の場合には保護膜の下にある記録層はほとんど検出されず、一方 45 度の場 合には、記録層まで検出されており、より深いところの情報が得られていることになる。

(14)

0 200 400 600 800 1000 -4000

-3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000

N

C Tilt = 0 deg

Intensity (arbitrary unit)

Kinetic energy [eV]

Co Int(Co)/Int(C)=0.125

0 200 400 600 800 1000

-4000 -3000 -2000 -1000 0 1000 2000 3000 4000

Cr

Intensity (arbitrary unit)

Kinetic energy [eV]

N

C

Co Tilt = 45 deg Int(Co)/Int(C)=0.234

Intensity (arbitrary unit)

Kinetic energy [eV]

Peak intensity

(a)

(b)

Tilt e-beam

Analyzer

sample Tilt

e-beam

Analyzer sample

(c)

(d)

Fig. A-8 Auger spectra for a Co-Cr based recording medium with two kinds of angles between sample and analyzer. (a): 0 deg and (b): 45 deg.

A-14

(15)

A-15

A2. X線光電子分光装置-X-ray Photoelectron Spectroscopy (XPS)

A2.1 その原理と分析結果例

XPSはMg-kα線やAl-kα線などの X線を物質に照射すると、表面物質の内殻電子を真空中に放

出する光電効果を利用する解析手法で、その電子のエネルギは X 線のエネルギから電子が元素に束 縛されている結合エネルギ分を差し引いた値となる(Fig. A-9)ため、元素固有の値となる。これにより、ど のような元素が存在するかを調べることができる。固体内で放出される電子はAESの項で述べたのと同 じ平均自由工程を有するために、AESと同じようにXPSでも光電子の脱出深さは6 nm程度となり、極 表面の情報のみを検出することになる。

そもそも光電効果は1887年にドイツの物理学者H. R. Hertzによって、陰極に紫外線を照射すること で電極間に放電現象が起こることから発見された。1888年には同じドイツのW. L. F. Hallwacksによっ て、金属に短波長の光を照射することで、電子が表面から放出される現象が発見され、P. Lenard(ドイ ツ)の研究により、

*ある波長以下の短波長の光でなければ光電効果は起きない、

*波長の短い光を照射すると飛び出す電子のエネルギは変化するが、電子の数は変化しない、

などの現象が明らかにされた。その後、これらの現象を物理的に説明したのは、1905 年の A. Einstein であった(光量子仮説)。Einsteinは

*光はエネルギを持った粒子(光子)である

*光子1個が持つエネルギEは、E=hνで表される。

(ここでhはプランク定数、νは光の振動数である) という仮説を立てて、光電効果を説明した。

Fig. A-9 にあるように物質に電子が束縛されているエネルギ(結合エネルギ: Eb)、φを仕事関数(すな

わち電子が金属表面から飛び出すための最小のエネルギ)とすると、飛び出してきた光電子のエネルギ Ek

Ek= hν-φ-Eb

と表すことができる。

1940 年代以降、Sweden・Uppsala のSiegbahnにより、非常に高い分解能を持つ二重収束分光器が 開発され、その後内殻レベルの束縛エネルギにおける化学シフト効果を観測、電子分光の多くの分野 の研究が成された。さらにSiegbahnは、光電子をオージェ電子のピークがXPSスペクトルに現れるとい う点を強調するために、ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis: 化学分析のための電子

(16)

A-16 分光法)という名称を付けた。

Fig. A-10には、一例としてCo-Pt膜をXPS分析したスペクトルを示す。Co-、Pt-の結合エネルギ(Pt-4f, -4d, -4pおよびCo-2p)と一緒にオージェピーク(Co-LMMなどと表示)も見えていることが分かる。このよう に比較的広いエネルギ範囲にわたり、多くのスペクトルのピークが検出され、これを基に未知の材料に どのような元素が含まれているかを知ることができる。また、このスペクトルを基に各元素のメインピーク 付近をさらに詳細に分析することにより、その表面におけるおおよその組成を決定することができる。

XPS分析ではAES分析と同様、表面から6 nm程度の深さの情報しか得ることしかできないため、脱 出深さ以上に深い場所の情報を得ようとすれば、AES 分析と同様に、アルゴンイオンなどによるエッチ ングを併用して、試料表面を薄く取り除いて、XPS分析を繰り返す深さ方向分析(XPS depth profile)を 行なう必要がある。

さらに検出器と試料との角度を浅くすることにより、光電子の実効的な脱出深さを長くすることで、より 浅いところの情報だけを検出することができる。この角度を変えることで、極浅い表面から 6 nm 程度の 表面から少し奥の情報まで得ることができ、これらを解析することで、より詳細な構造を把握することが可 能となる。これについては、A2.2.2項において述べる。

ここで、前節で述べたオージェ電子分光との相違について以下にまとめる[6]。

AESとXPSの共通点としては次の各点が挙げられる。

①Li以上の全元素が分析対象 ②検出限界は約0.1 at%程度

③表面から数nm程度の深さの表面分析が可能

④イオンスパッタリングを用い、表面から少しずつ削って測定する手段と組み合わせることによって、

深さ方向分析が可能

次にXPSの持っている長所は次の点である(特にAESと比較して)。

①チャージアップの影響がAESより少なく、絶縁物の分析が容易

②XPSでのX線照射による試料の損傷は、AESでの電子線照射に比べて軽微 ③AESと比較して、化学状態分析を容易に行なうことができる

④AESと比較して、半定量分析が容易

⑤角度分解法により非破壊で深さ方向分析が可能 逆にXPSの短所としては、

①実用的な微小分析領域(面積)はφ数10 μm(最近は<10 μmの装置もある)

(17)

A-17

②上記により、表面の凹凸の影響がより顕著に現れるため、イオンスパッタリング併用による深さ方 向分析時の深さ方向分解能がAESより低い

などが挙げられる。

(18)

Fig. A-9 Principal of X-ray photo-electron spectroscopy.

1200 0 1000 800 600 400 200 0

1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

N(E )/E

Binding energy [eV]

Pt4f 5/2 Pt4f 7/2

Pt4d 3/2 Pt4d 5/2

Pt4p 3/2

Co 2p 1/2 Co 2p 3/2 Co LMM

Co LMM

Co LMM

Pt NNN Pt NNN

1200 0 1000 800 600 400 200 0

1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000

N(E )/E

Binding energy [eV]

Pt4f 5/2 Pt4f 7/2

Pt4d 3/2 Pt4d 5/2

Pt4p 3/2

Co 2p 1/2 Co 2p 3/2 Co LMM

Co LMM

Co LMM

Pt NNN Pt NNN

Fig. A-10 A typical XPS spectrum for Co-Pt film.

A-18

(19)

A-19 A2.2 記録媒体の微細構造解析とナノ界面解析

A2.2.1 酸化物添加グラニュラ膜の化学結合状態解析

XPS 分析における大きな特徴は、化学結合の状態を知ることができるという点である。一例として、磁 気記録媒体の保護膜として利用されているカーボン膜をXPSで分析した結果を示す(Fig. A-11, [5])。 この例では、2種類の記録層((a)Co-Crと(b)Fe-Pt))の上に、10 nmのカーボン保護膜を堆積し、各々約

1.5 nmずつ Ar イオンによるエッチングを行ないながら、C-1s 付近のスペクトルを測定し、重ね書きをし

ている。Fig. A-11(a)では、最表面のカーボンは、そのスペクトルの位置(284.5 eV)からDLC(ダイヤモン ド状カーボン)となっているが、記録層である Co-Cr 層との界面付近では、C-1s の結合エネルギが低エ ネルギ側にシフトしているのが見られ、このピーク位置からカーバイドであることが判明した。10 nmという 薄い膜厚の中でも、構造的に変化していることが明らかになった。これに対し、Fig. A-11(b)の Fe-Pt 層 の上のカーボン膜は最表面から、記録層との界面付近までC-1sはDLCの位置であり、より均一な構造 になっていることが分かる。

このように各 種 材 料 の中 には、カーバイドが形 成され極 薄 い膜 厚 中 での構 造 変 化 が起こる材 料

(Co-Cr)と、カーバイドを形成しない材料(Fe-Pt)とに分かれることも XPS 分析を通じて判明した。前者に

属する材料としては、Co 系のほかに Ti、Al があり、後者に属するものとしては Pt があることから、上記

Fe-Pt膜状でのカーボンの結合エネルギが変化しないのは、Pt元素によるものだということが分かる。

次にこのようなカーボン膜の構造変化が保護膜の特性としてどのように現れるかを調べるために、ピ ンオンディスク試験を行なった。これは上記多層膜を堆積させたディスクを回転させ、ある一定加重でス テンレスのピンを多層膜に押し付けた時に、膜剥がれを起こす回転数を複数トラックにわたって計測し たものである。Fig. A-11(c)にその試験結果を示す。それによると、Fe-Pt 膜上のカーボン膜の方が、

Co-Cr 膜上のそれより耐久性に優れている結果となった。すなわちより DLC 成分の多いカーボン膜の

方が耐久性があるということになる。

このようにXPSを用いることで、ナノメートルオーダの厚さの薄膜の、さらに細かいところの構造に関す る情報を得ることができる。

(20)

top surface

boundary top surface

boundary

Binding Energy [eV]

on CoCr

N( E )/ E

DLC Carbide

290 285 280

Binding Energy [eV]

on CoCr

N( E )/ E

DLC Carbide

290 285 280

290 285 280

N(E )/ E

Binding Energy [eV]

on FePt DLC

290 285 280

N(E )/ E

Binding Energy [eV]

on FePt DLC

290 285 280

290 285 280

(a) (b)

CoCr

FePt

A c c u m u lat e d failur e ra te

Rotation speed (rpm)

0 2000 4000 6000 8000 10000 1

0.8 0.6 0.4 0.2 0

CoCr

FePt

A c c u m u lat e d failur e ra te

Rotation speed (rpm)

0 2000 4000 6000 8000 10000 1

0.8 0.6 0.4 0.2 0

(c)

Fig. A-11 XPS analysis of C-1s for carbon protective films on recording media of (a) Co-Cr and (b) Fe-Pt. Each spectrum is overwritten every 1.5 nm depth which removed away by Ar ion etching.

Result of the pin-on-disk durability test is also shown in (c).

A-20

(21)

A-21

A2.2.2 角度分解法による非破壊深さ方向解析

膜厚方向の構造を非破壊で解析する手法の一つとして、検出器と試料との角度を変えてXPS 分 析をすることで可能となる。ただし、通常の実験室レベルの XPS では、X線のエネルギが低く、

膜厚方向の情報としては高々6 nm程度であるので、この膜厚範囲での分析になる。したがって媒 体の一般的な膜厚である 10 nm 程度以上の薄膜については、このままでは情報を得ることができ ない。特に本論文内でも述べたように、その成長初期付近の情報は記録媒体の性能を左右する重要 なポイントとなる。このために通常は深さ方向分析として、Ar+等の不活性イオンによるエッチン グを併用したデプスプロファイルを取得することが多いが、加速イオンによる試料へのダメージの ため、またチャージアップなどによりエネルギシフトが起きて、正確な情報が得られないこともあ る。

一方、SPring-8のような高輝度硬X線を用いることで、この深さ方向の情報が、例えば8 keVの

場合、約 15 nm 程度になるため、記録層全体の情報を得ることができる。さらに検出器の角度を

変えることで、膜厚方向の詳細な化学結合状態を非破壊で(エッチングなしで、あるいはそれによ るダメージなしに)求めることができると考えられる。

そこで、Co-Pt-oxide 薄膜について、Spring-8(BL39XU)において高輝度 X 線を用いた光電子分光 測定を行なった。

試料としては、本論文内で述べたCo80-Pt20-TiO2, -SiO2, -Ta2O5の3種類のグラニュラ薄膜であ る。ガラスディスク基板上にスパッタ成膜により、各記録層の膜厚を15 nmと固定し成膜した。

下地層としてRu(10あるいは15 nm)/Pt(10 nm)を用いた。また、保護膜として記録層の上にカー ボンを3 nm堆積している。

試料ステージを検出器に対して、15 度、30 度、80 度と傾斜して光電子の検出深さを変化さ せた。検出元素としては、Co-3d, Pt-4d, Ti-2p, Si-1s, Ta-4f, O-1sおよびC-1sである。ここでは、

Ta2O5添加を除いた2種類の試料について述べる。

Fig. A-12に示すのは、Co-Pt-TiO2薄膜のC元素について検出器の角度を変えて測定した結果

である。15度の浅い角度では、C-1sのピーク(約 285 eV)のみが検出されているが、30度傾斜し

た段階でRu-3dに対応するピーク(約 280 eV)が見え始めている。さらに80度傾斜においては、

Cのピークとほぼ同程度のRuピークが見えている。このことは他の試料についても同様であっ た。これらのことから、30度傾斜において検出深さがほぼ20 nm(保護膜+記録層+コンタミネー ションの厚さ分)であることが分かる。したがって本手法ははじめに述べたように膜厚方向の化

(22)

A-22

学結合状態を非破壊で解析する有効な方法であることが分かる。

本薄膜で Ti の膜厚方向での結合状態の違いを把握できるか角度分解光電子分光測定を行 なった。しかしながら、Fig. A-13(a)にあるように15度でのスペクトルでは表面のコンタミネー ションのため、スペクトルそのもののバックグラウンドが大きくなっており、Tiのピークを判 定することはできなかった。また、80度ではRu-3pピークがTi-2pの近くにあるためTiのピー クはRuピークの肩に若干見える程度であった。30度の測定ではTi ピークが見えるものの、非 常にノイズの大きいスペクトルとなっている。ただ、Tiのピークそのものの位置は大きくシフ トしていないようには見える。結局、Ti のピークを正確に検出することは困難であった。Ru 下地は本論文でも述べたように、この系の記録媒体には必須なものとなっており、Ti-2p以外の Ti のピーク(ピーク強度は Ti-2p より小さい)を積算回数を増やして取得するなどの工夫が必要 と考えられる。これと対応して、Fig. A-13(b)にあるように、本試料でのO-1sのピークも TiO2

に対応するピークが得られており、検出角度によりピークのシフトは見られていない。

(23)

0 2000 4000 6000 8000 10000

294 289 284 279 274 Binding energy (eV)

80 deg

30 deg 15 deg C Ru

Fig. A-12 XPS analysis around C-1s for Co-Pt-TiO2 films. Angle between the sample and the detector changes 15, 30 and 80 deg.

A-23

(24)

0 10000 20000 30000 40000 50000 60000

500 490 480 470 460 450 440 Binding energy (eV)

80 deg 30 deg 15 deg

Ru Ru Ti

(a)

0 10000 20000 30000 40000

538 536 534 532 530 528 526 524 Binding energy (eV)

80 deg

30 deg

15 deg O(TiO

2

) Contamination

(b)

Fig. A-13 XPS spectra of (a) Ti-2p and Ru-3p and (b) O-1s for Co-Pt-TiO2 film.

A-24

(25)

A-25

次に Co-Pt-SiO2についても同様に角度分解光電子分光測定を行なった。Fig. A-14(a)に示すよう

に、Si-1sに関しては角度を変化させても、得られたスペクトルに大きな変化(シフト)は見られ

なかった。しかしながらこのピーク位置は Si 単元素に由来するものと SiO2に由来するものと の中間に位置している。このことは従来我々が測定した結果と定性的に一致する(4.4.3項)。結 局 SiO2はその電子状態が良く分からず、今後の課題といえる。O-1s のピーク付近には SiO2に 由来するピークは明瞭には現われていない(A-14(b))。表面側にはコンタミネーションに由来す ると考えられるピークがあり、角度を大きくしてもピーク位置は変わらず、強度のみが大きく なることから、この試料のO-1sピークはこの位置にあることも考えられる。

以上のように、高輝度放射光を用いた角度分解光電子分光法で、20 nm 程度以内の膜厚の試料で あれば、その膜厚方向での各元素の結合状態とその変化を把握できることが分かった。

(26)

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000

1865 1855 1845 1835 Binding energy (eV)

80 deg

30 deg

15 deg

Si-1s

0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000

1865 1855 1845 1835 Binding energy (eV)

80 deg

30 deg

15 deg

Si-1s Si-1s

0 5000 10000 15000 20000

538 536 534 532 530 528 526 524 Binding energy (eV)

80 deg

30 deg 15 deg

Contamination

O-1s

0 5000 10000 15000 20000

538 536 534 532 530 528 526 524 Binding energy (eV)

80 deg

30 deg 15 deg

Contamination

O-1s O-1s

Fig. A2-13 XPS Spectra of around (a) Si-1s and (b) O-1s for Co-Pt-SiO2 film.

A-26

(27)

A-27

A3. 透過型電子顕微鏡-Transmission Electron Microscope (TEM)

A3.1 その原理と分析結果例

透過型電子顕微鏡(TEM)は物質の微細な構造を原子レベルで直接観察することができる他、

微小領域の組成を評価することもできる装置である。

数 10 keV以上のエネルギを持つ高速電子線を試料に照射すると、電子は弾性散乱や非弾性散

乱を起こして試料を透過する。この際、試料から各種の電子線、特性 X 線や光などが発生し、

これらの透過電子や弾性散乱電子の干渉を利用して高分解能像や電子線回折図形が得られ、特 性 X線から成分元素に関する情報が得られる。

その主な特徴としては、

1. 長所

①高倍率の像が得られ、試料の原子レベルの微細構造、結晶粒子の大きさや配列を直接観 察できる

②微小部分(1 nm程度)の元素分析が可能である

③試料の結晶性(結晶、アモルファス等)を把握することができ、格子定数、格子欠陥など を評価することが可能である

2. 短所

①TEM観察用試料を作製する際に、試料の厚さを100 nm程度以下の薄片とする必要があ る(厚いと電子線が透過しなくなるため)

②格子定数から物質を同定する精度はX線回折(XRD)より劣る

などが挙げられる。Fig. A-15に示すのは、TEM技術を用いて得られる様々な情報をまとめたものである [6]。

この図に載っている分析方法のうちのいくつかについて、以下に簡単な例を挙げる。

Fig. A-16に示すのは、第4章で述べたCo-Pt-TiO2グラニュラ媒体の記録層の粒子構造と高分解能

平面TEM像である。Fig. A-16(a)図においては、グラニュラ媒体の粒子性は確認できるものの、隣接粒 子同士がまだ分離構造をしっかり形成できていない様子が見て取れる。この一部を拡大したものが Fig.

A-16(b)図である。いくつかの結晶粒子内で、格子がほぼ 60 度ごとの一定の方向に並んでいる様子が

明瞭に観察され、各結晶粒子がほぼ単結晶に近い構造をしていることが分かる。このように TEM の高 分解能観察により原子レベルの微細構造を観察することが可能である。

また粒界部分(白っぽい部分)には格子が見られず、アモルファス状態になっていることが推測され

(28)

A-28 る。

次に、Fig. A-17 に示すのは、本論文のFig. 1-7(b)や Fig. 3-8にも掲載した Co-Cr-Nb-Pt 二層膜を NiFeNb軟磁性裏打ち(SUL)層を含めて撮影したTEM明視野像(a)および暗視野像(b)である[7]。明視 野像では、Fig. 1-7(b)で示したようにTi下地層の成長初期の微細な構造やSUL膜の粒径が次第に大 きくなっていく様子、NiFeNb膜粒子の上にCo-Cr-Pt-Nb膜の粒子が成長している様子などが分かる。こ れに対して、(b)の暗視野像では、SUL 層から記録層まで同じ明暗のコントラストが突き抜けている様子 があちこちに見られる。このコントラストは、暗視野像が特定の結晶方位の反射のみからの情報を反映し ているために結晶方位によってコントラストが変わる、すなわち配向の違いに由来するものであり、SUL 層と記録層がヘテロエピタキシャル成長していることが明らかになった。

また、Fig. A-18には4.3節で述べた、高磁気異方性 Co-Pt膜の断面TEM像をその電子線回折像と ともに示す。膜構成は

Co-Pt(15 nm)/Pt(10 nm)/Pt(5 nm)/non-mag. Co-Cr(2 nm)/substrate

である。Co-Pt膜は7 Paという比較的高ガス圧力で堆積したため、本論文中でも述べたように、

直径10 nm以下の微細で明瞭な結晶粒子がグラニュラ構造を形成していることが分かる。Pt膜

は高ガス圧力(7 Pa, 10 nm)と低ガス圧力(0.3 Pa, 5 nm)の二層構造になっているが、この図ではそ の区別は付かない。図内の電子線回折パターンでは、Pt-fcc(111)と Co-hcp(00.2)が膜厚方向に少 しずれて(半径が異なって)存在することから、下地層と記録層とが膜厚方向で若干の格子間隔 の違いを持ってヘテロエピタキシャル成長していることが分かる。

このように TEM を用いることで、薄膜のナノ界面構造を原子レベルから、ある程度の大き さの結晶粒子の配列まで、また結晶状態やその配向状態などが直接観察可能であることが分か る。

(29)

信号 分析方法 試料から得られる情報

弾性散乱電子

透過電子像 (暗視野) 電子線回折

回折した電子の特定の反射のみで結像した像 で、結晶粒の大きさ、結晶方位などが分かる。

X線回折に比べ、原子散乱振幅が大きく、微小 領域からの回折パターンが得られる。構造解 析、結晶方位の決定等に用いる。

特性X線 X線分光法(EDS) 試料から発生した特性X線をエネルギ分散型

検出器で測定し、元素分析が可能。

透過電子像 (明視野)

試料を透過した電子で形成される像で、コント ラストは吸収コントラスト(厚さ)、回折コントラス ト(配向)、位相コントラストによる。

透過電子

信号 分析方法 試料から得られる情報

信号 分析方法 試料から得られる情報

弾性散乱電子

透過電子像 (暗視野) 電子線回折

回折した電子の特定の反射のみで結像した像 で、結晶粒の大きさ、結晶方位などが分かる。

X線回折に比べ、原子散乱振幅が大きく、微小 領域からの回折パターンが得られる。構造解 析、結晶方位の決定等に用いる。

弾性散乱電子

透過電子像 (暗視野) 電子線回折

回折した電子の特定の反射のみで結像した像 で、結晶粒の大きさ、結晶方位などが分かる。

X線回折に比べ、原子散乱振幅が大きく、微小 領域からの回折パターンが得られる。構造解 析、結晶方位の決定等に用いる。

特性X線 X線分光法(EDS) 試料から発生した特性X線をエネルギ分散型

検出器で測定し、元素分析が可能。

特性X線 X線分光法(EDS) 試料から発生した特性X線をエネルギ分散型

検出器で測定し、元素分析が可能。

透過電子像 (明視野)

試料を透過した電子で形成される像で、コント ラストは吸収コントラスト(厚さ)、回折コントラス ト(配向)、位相コントラストによる。

透過電子 透過電子像

(明視野)

試料を透過した電子で形成される像で、コント ラストは吸収コントラスト(厚さ)、回折コントラス ト(配向)、位相コントラストによる。

透過電子

Fig. A-15 TEM techniques and obtained information.

10 nm 10 nm

(a) (b)

Fig. A-16 Granular structure and enlarged lattice images for granular type of Co-Pt-TiO2 film.

A-29

(30)

(a) (a)

(b) (b)

Fig. A-17 An example cross section TEM observation of bright field (a) and dark field (b) images for Co-Cr-Pt-Nb/NiFeNb film.

A-30

(31)

C o-P t P t

C o- C r

10 nm C o-P

t P t

C o- C r

C o-P t P t

C o- C r

10 nm 10 nm

Fig. A-18 An example of cross section TEM image with selected are diffraction pattern for Co-Pt(7 Pa, 15 nm)/Pt(10 nm)/Pt(5 nm)/non-mag. Co-Cr(2 nm) film.

A-31

(32)

A-32 A3.2 記録媒体の微細構造解析

A3.2.1 粒径分布解析に関する一考察

平面 TEM 像の観察により結晶粒子の膜面内分布が明らかにされると、薄膜を構成している結晶粒 子の結晶粒子径がどのような分布になっているのかが、次の課題となってくる。結晶粒子はできるだけ 小さく、均一になっているのが望ましいので、粒子径の分布を調べて、その平均値、及び標準偏差を求 めることが、薄膜の構造制御がどの程度達成されているか知る上で重要になってくる。このために平面 TEM写真から粒子の大きさを測定し、その度数分布を作成してヒストグラムを描かせている(Fig. 3-17や Fig. 4-18)。

しかし、結晶粒子の大きさは様々で、粒子径の平均値を求めるのにどのくらいの粒子数について測 定すればよいか問題になる。この分布は一般の工業製品における特性値の分布のように正規分布をし ているわけではない。したがって、通常の統計処理をすることができない。そのために次のように考え た。

(A) 1個ずつ粒子に番号をランダムにつけて任意の数の粒子径を測定し、1番から○○番(十分大

きいと考えられる数)までの粒子径を並べる。ヒストグラムを作成する。

(B)次に1番目の平均値(1番目の値そのもの)、2番目までの平均値(1番目と2番目の平均)、・・・、

m 番目までの平均値(dav-m)、・・・、○○番目間までの平均値(dav-○○= dav-accum)を○○個だけ算 出する(それぞれの平均値をm番目の積算平均値とする)。これを番号とともにグラフ化する。

(C)○○個の平均値(dav-accum)および標準偏差(σaccm)を求める。

(D) dav-accumとm番目の積算平均値との規格化した誤差を求める。

規格化誤差 = (dav-m - dav-accum)/dav-accum [%]

これを番号とともにグラフ化する。

(E)規格化誤差がある値より小さくなった粒子数(n)で、ほぼ一定の平均値(dav-n)となったとみなす。

ここでは、Co-Cr-Nb-Pt膜の例をFig. A-19以降で示すが、粒径の絶対値は係数(TEM写真の倍率な ど)をかけることで正確な値が出すことができるので、ここでは無単位としている。また、計算に用いた粒 子数は200個とした。

手順(A)

Fig. A-19に示すのは、平面TEM写真から実測した値を基に作成したヒストグラムである。平均値

(dav)は 10.05、標準偏差(s)は3.775、標準偏差を平均値で割った値は 37.58 %であった。この値 を本論文では分布としていた。

(33)

手順(B)

個々の積算平均値をグラフ化したものが、Fig. A-20 である。始めのうちは平均値が大きく変動し ているが、次第に落ち着いて最終的な平均値(10.05)に近づいているのが分かる。このグラフから でもおおよそ100個以上の粒径を測定することで、大体の平均値は判断できる。

手順(D)

規格化誤差をプロットしたものが Fig. A-21 である。このようにグラフ化することで、数値的に例え ば±2%以内の誤差に収まる粒子数が求められる。いくつかの TEM 写真についてこのようなグラ フを作成し、ほぼ100個以上の粒子でほぼ±2 %以内に収まることが分かった。

以上より、本論文では 100個以上の粒子を測定して、粒径の平均値や分布を求め、ヒストグラムを作 成している。

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 0

10 20 30 40 50 60

Frequency

Size (arbitrary unit)

dav: 10.45

σ: 3.775

σ/dav: 37.58 %

Fig. A-19 An example of histogram of grain size for a granular film. Unit of the X-axis is arbitrary because there is no meaning of the unit in this consideration.

A-33

(34)

0 50 100 150 200 7

8 9 10 11 12 13 14 15

Average (accumlated) ( arbitrary unit)

Number of grains

average value

Fig. A-20 Accumulated average of grain size up to 200 grains. The broken line in the figure shows the average value for 200 grains.

0 50 100 150

-15 -10 -5 0 5 10 15

200

+2 %

-2 % -1 %

Difference from the average [%]

Number of grains

+1 %

Fig. A-21 Normalized difference between the averaged value and accumulated average value shown in Fig. 2.3.2.

A-34

(35)

A-35

A3.2.2 EDS解析、元素マッピング

ここでは、TEMの機能の一つであるEDSを用いたナノメートルレベルの元素分析、元素マッピングに ついて述べる。試料は将来の垂直磁気記録媒体材料の候補と考えられている、Sm-Co 膜である。この 膜は従来永久磁石材料や磁気記録媒体としては、膜面内に磁気異方性を有する面内記録媒体用の 材料として研究されてきたが、最近Cu下地を用いることで膜法線方向に磁気異方性を有する、垂直磁 化膜となり得ることが見出された。さらにTi シード層を用いることで、より大きな磁気異方性が発現すると 報告されている。そこで、これらの下地層がどのような役割を担っているのかを明らかにする過程で、

TEMによる断面観察とEDXによる元素マッピングを行なった[8]。 膜構成としては、

Sm-Co(25 nm)/Cu(100 nm)Ti(25 nm)/substrate である。

Fig. A-22には上段に断面TEM像(a)と表面からAuger電子分光装置による深さ方向分析の結果(b) を示す。また、下段にはTEM像にEDS分析によりCo, CuおよびTi各元素のマッピングを示す((c)-(e))。 この元 素 マッピングより、Ti シード層 が下 地 層 である Cu 膜 中 に拡 散 していること、さらに一 部 は

Sm-Co/Cuの界面にもCu膜の粒界を通して拡散していることが明らかになった。

この解析や他の解析をあわせて、Ti層とCu層の相互拡散による微細なCu3Tiの金属間化合物の形

成がSm-Co膜の高磁気異方性発現に大きく寄与していることが分かった。

(36)

Co Cu Ti TEM

0 2000 4000 6000 8000 10000

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Cu

Ti O

Co

Cycle

[Sm/Co] Cu Ti sub.

(a) (b)

(c) (d) (e)

Co Cu Ti

TEM

0 2000 4000 6000 8000 10000

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Cu

Ti O

Co

Cycle

[Sm/Co] Cu Ti sub.

Co

Co Cu Cu Ti Ti

TEM TEM

0 2000 4000 6000 8000 10000

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 Cu

Ti O

Co

Cycle

[Sm/Co] Cu Ti sub.

(a) (b)

(c) (d) (e)

Fig. A-22 Cross section TEM image (a) of Sm-Co perpendicular anisotropy film along with micro-AES depth profile (b). Co(c), Cu(d) and Ti(e) elements are superimposed with TEM image.

A-36

(37)

A-37 参考文献

[1] 後藤敬典、志水隆一、「『表面と分光学』第6講オージェ電子分光法(AES)-その発見から マイクロプローブAESまで」、分光研究、第 316号、p. 383-396 (1982). 他による [2] P. Auger, “L'effet photoelectrique compose,” Ann. Phys., 6 (1926) 183.

[3] 原田紀子、千葉隆、有明順、「グラニュラー型高密度磁気記録用媒体薄膜の高分解能 AES 分析」、第45回真空に関する連合講演会予稿集、28P-102, p. 142 (2004).

[4] 「X線光電子分光法」、日本表面科学会編、平成16年、第5刷、丸善株式会社

[5] T. Chiba, J. Ariake, N. Honda, and K. Ouchi, “A Highly Durable Structure of Carbon Protective Layer,” IEEE Trans. Magn., Vol. 38, No. 5 (2002).

[6] 材料科学技術振興財団(MST)のホームページ http://www.mst.or.jp/

[7] György Sáfrán, Jun Ariake, Naoki Honda, and Kazuhiro Ouchi, “TEM analysis of the microstructure of CoCrNbPt perpendicular magnetic recording media -The effects of intermediate layers in the double layer media-,“ Technical report of IEICE, EMD2001-55, pp. 65-70 (2001-09) (2001).

[8] Junichi Sayama, “Creation of SmCo5 Thin Films with Perpendicular Magnetic Anisotropy and Their Application to Magnetic Recording Devices,” Dr. Thesis from Waseda University (2006).

参照

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