博士(医学)杉木宏司 学位論文題名
連 続 wavelet 変換による
二葉機械弁機能不全の診断に関する研究 学位論文内容の要旨
【 背景】 人工弁 閉鎖音信 号は短時 間に発 生する急 激で断 続的な周 波数の 変化を伴 う非定常 信 号 であ る た め、 定 常 信号 の 周波 数解析法 であるFFTは人 工弁音解 析には 馴染まず 、臨床 検 査 法 と し て 使 用 さ れ て い な い 。 最 近 で は 時 間 周 波 数解 析 の ーつ で あ るWignerVille distribution(WVD)を用いた検討も報告されたが、臨床的に確立していない。一方で二葉機械 弁の 弁葉の閉 鎖がお互いに非同期でsplitと呼ばれる心音の分裂像を示し、それが一´己舶毎 に 変 動す る こ とは 既 に 知ら れ て いる が 、 こ れに 注 目 した 弁機能 不全診 断の報告 はない。
【目 的】本研 究では二葉人工弁閉鎖音のsplitに注目した、時間―周波数解析による弁機能検 査法 の確立と その臨 床への導 入を目 的とし、まずこの目的に適った解析法の選択と解析シス テム の開発を 試みた 。次に構 築した システムを用いて二葉機能不全弁音を解析し、人工弁音 の時間周波数解析による弁機能不全の診断の可能性を検討した。
【予備検討1】
【 対 象及 ぴ 方 法】LabVIEW対 応 信号処 理ツール(sPr)を 信号解析 に用い て、3種類の周 波数 成分 が混在す る4種類のテ スト信 号を時間一周波数共同領域解析(JTFA:短時間フーリェ変換 (STFT)、Gabor変 換 、WVD及 ぴ連 続wavelet変 換(CWT)、adaptive変換 )と連続wavelet変 換 (CWT)で解析し、その結果を比較検討した。
【 結果1】いず れの方 法も3種類の 信号を分 離しえた 。JTFAはい ずれも 類似した 解析結果 を 示 し たが 、STFTはtradeo貞 現 象 を、WVDは ク ロ ス項 な ど の欠点を 認めた 。一方、CWTは 高 周 波数ス ケール では高い 時間分解 能を、 低周波数 スケー ルでは高 い周波 数分解能 を示した 点でJTFAと異な り、trade缶やクロス項などの欠点を認めなかった。以上の結果から、解析結 果を判定しやすいCWTを本研究の信号解析法として選択した。
【予備検討2】
【対 象及び方 法】CWTは、mother waveletにより解析可能な周波数領域が異なることから、本 研 究 の目 的 に 最適 なwaveletを 選択す る予備検 討を行 った。人 工弁音 収集には 周波数特 陸 が7kHzまでほば平坦なエレクトレットコンデンサマイクロホンを信号増幅器に接続した。人工 弁 音 用 信 号 増 幅 器 とA/D変 換 器 の間 に 並 列に 挿 入 した 高 音 域用 バ ン ドパ ス フ ィル タHFF
(800〜4,OOOHz) と 低音 域 用 バ ンド パ ス フィ ル タLFF(300〜700Hz) か ら の2信 号 を、
WindowsXP上にインストールした信号処理ソフト(Daq−Win Ver.5.0 100、エルメック社製)にて サン プリング 周波数lOkHzで収 録した 。信号解 析には 多数のmother waveletをサポートして いる 石川のwavelet解析 ソフト MEM を用い、各種mother wavelet(Mexican hat、Gabor8、 MOrlet原法、 及び石川 の改変に よるMorletwavelet)に ついてSJM人工 弁による 大動脈 弁置 換 術 症 例 の 同 一 の 人 工 弁 閉 鎖 音 信 号 を 解 析 し 、splitの 検 出 し や す さ を 検 討 し た 。
【 結果2】 各種mother waveletの中で、石川の 改変によるMorletのwaveletによるCWT(Morlet CWT)が最高周波数スケール(5KHz)で最も明瞭にsplitを 検出したことから、本システムによる Morlet CWTを二葉弁閉鎖音解析システムとした。
【本論】
【対象と方法】対象は事前 にシネ検査にて弁葉の運動を観察した正常一葉弁(n=10)、正常二 葉 弁194例 (大 動脈 弁置 換(AVR)群(n=92:SJM 88、MIRA1、ATS2、CM1)、 僧帽 弁置 換(MVR) 群(n=86:SJM 83、ATS1、CMl、DM1)、Bentall手 術群 くn=16:SJM 16))と10例の機能不全弁
(大動脈弁n二ニ7:SJM6、CM1)、僧帽弁n二ニ3:SJM 3))である。予備検討で構成したシステムを用い て 、1例当 たり15〜36心 拍 分の 閉鎖 音をデータにMorlet CWTを行い、splitの有無、splitの 間 隔(SD及 び各 症例 内のsplit間隔 の変 動係 数(CV)を 算 出し 、対象症例の 特徴的所見を検討 し た。 群間 の比 較はMann―WhitneyUtestを 用い 、多 群 間の 比較にはBonferroni補正を行つ た。p‑valueは全て0.05未満で有意差ありとした。
【結果】正常一葉弁では最 も周波数の高いスケールで一本のspikeを伴う水滴様パターンを認 めた。正常二葉弁の164例194弁は弁種によらず全例でsplitを示し、SIは心拍毎に変動した。
3群 のSIはAVR群(n=92) 2.072土1.136ms、Bentall群(n=ニ16) 2.301土1.163ms、MVR群 (n=86) 2.000土1.053msで 各群 間に 有意差はなかったが、CVはAVR群0.353土0.228、Bentall 群0.282土01167、MVR群0.507土0.254で 、MVR群 で有 意 に大 きかったくそ れぞれp<0.001)。 このため、これ以後はAVR群にBentall群;をニルロえ、正常ハ凧群くn=108、SI 2.106土1.138ms、 CV0.343土0.221)と して 弁 位毎 に検 討す るこ とと した 。機 能不 全弁は10例中6例(AVR3、MVR 3)でsplitを認め なかった。残る4例(全てAVR)はsplitを認め、SIは2.207土0.837ms、CVは 0.1382土0.105で、 正常AVR群 と比 較し てCVが有 意に 低 かっ た(p=0.042)。大 動脈 弁 機能 不 全の所見をsplitの消失(split間隔:O、変動係数:O冫もしくはCVの低下としてROC解析を行つ た。変動係数のカットオフ値を0.112以下とすると、感度85.7%、特異度86.9Yo、精確度86.19'oだ った。
【考察】正常一葉弁では見 られないsplitとSIの変動を 正常二葉弁全例に認めた所見は弁葉の 繊 細な 可動 性に よる 非同 期閉 鎖に よると考え られた。10例の機能不全弁のうち6例に認めた splitの消失についての報告はないが、正常弁の所見と 比較して明らかに異なることから異常 所 見と した 。一 方、 大動 脈弁 位の 弁機 能不 全症 例4例 で認 めたCVの 低下 はDonnersiteinら が 臨床 及び 実験 的検 討で 結論 した 、弁 葉が 自由 に可 動 する ために生じる 弁葉の閉鎖の非同 期性が、pannusや血栓のた めに自由な可動が障害されて失われるために起こると考えられた。
4例 中3例 の 再 手 術 所 見 で 血 栓 やpannusがhinge構 造 やhousing ringを 超え て弁 葉 に接 触 していたということはその 裏付けとなった。シネ検査は確実に二葉の開閉運動を観察でき、再 手 術決 定の 根拠 とな るが 、そ の時 間分 解能 は最 大で も17ms/lフ レー ムの ため 、CWTで確 認 の 容易 な非同期閉 鎖を確認することはほば不可能である。従って高周波数 成分を高い時間分 解 能 で 検 出 可 能 なCWTは シ ネ 検 査 に 比 べ て 早 期 か ら の 弁 葉の 異常 運動 検出 には 鋭 敏で あ り 、特 に大 動脈 弁位 の機 能不 全検 出に つい てROC解析 の結 果、 高感 度、 高特 異度 だ った こ とから、本システムによる人工弁機能不全の診断はスクリーニング検査として有効だと考えられ た。