博士(工学)庄司哲也 学位論文題名
拡 散 ― 反 応 方 程 式 を 用 い た FCC 単結晶の塑性変形挙動の解析
学位論文内容の要旨
近年の急速な計算機技術の発展に伴い、計算機を用いた塑性変形に関する研究が盛んに行われて いる。このような研究分野においては、取り扱うスケールの階層化が進んでおり、これらはマクロ、
メソ、及びミクロの3つの階層に分類される。この中のメソスケールの領域では、原子や転位の集 団挙動から金属組織や車云位組織の形成過程を角覗する研究カi著である。特に、転位組織の形成過 程に関する研究に着目すると、これまでの研究は、疲労試験に対する研究が大半を占めており、引 つ張り試験のような一軸応力下に対する研究はほとんど見られないのが現状である。本論文では、
FCC単結晶に対して、引っ張り試験の進行過程における転位組織の形成過程と応力―歪挙動を動的 に解析できるモデルを提案する。
本論文の構成は全6章より成り立っている。
第1章は緒言であり、転位論におけるこれまでの転位の集団挙動および転位組織の形成過程の研 究を概括し、本研究の位置づけ及び目的について述べている。
第2章 で は 、転 位 の 集団 運 動 に対 す る 先 駆的 な 研 究で あ るGilman‑Johnstonモデルと Alexander‑Haasenモデルに言及し、その意義を紹介した上で、これらが均一系に対するモデルであ ることから生じる難点を列挙している。そして実験事実との対応をとるためには、不均一系に対す るモデルの構築が必要であることを指摘した。
第3章では、本研究の基盤をなす拡散―反応方程式についての基礎理論を述べている。空間的に 不均一な転位密度の発展挙動を記述する有カな手法として、拡散―反応方程式が提唱されているが、
この解の数学的な構造を予測するためには、より単純な反応系を用いることが肝要である。本章で は、Brusselatorモデルの背景を紹介し、線形化解析を用いて解の安定一不安定陸を論じた上で、不 ―847―
安定解の時間発展挙動を詳述した。又、数値計算により線形化解析が導く解を検証すると共に、非 線形領域の解の挙動についても議論を試みた。
第4章では、拡散―反応方程式を転位密度の発展挙動に応用した先駆的研究であるWalgraef‑Aifantis のモデルを詳述している。但し、このモデルは疲労試験のような繰り返し応力下での組織の形成過 程を記述するものであり、引つ張り試験のような典型的な塑性変形に対しては直接応用することは できない。そこで、引つ張り試験を対象にした一次元モデルを提案した。このモデルでは、有効応 カを、系の塑性変形の進行緲撼を制御するパラメーターとして採用した。そして、線形化解析、及 び数値計算から、転位セル壁の形成・発展過程が有効応カの関数として記述できることを明らかに した。
第5章は本論文の中核を成す。第4章で論じた従前のモデルでは、1.動転位のすべり運動を拡 散として取り扱うことの妥当性に欠けること、2.フランクーリード源などの転位源の活陸化によ る動転位の増殖や双極子の形成が考慮されていないために、変形の初期挙動が再現できないこと、
3.単一のすべり系のみに限定しており実際の結晶で生じる二重すべりが考慮されていないこと、
の3点を指摘し、新たなモデルの構築を行っている。このモデルでは、1.応カの荷重方向6ヨすす る転位の運動方向の依存陸を導入するためにバーガースベクトルの符号を考慮し、さらに、動転位 の長距離相互作用を拡散理論の枠組みの中で捉えることから、動転位の保存運動挙動を記述した。
又、2.変形初期の塑陸変形挙動を再現するために、動転位の増殖や双極子の形成の寄与を転位密 度の発展方程式に導入した。さらに、3.複数のすべり系に対して転位密度の発展方程式を記述し、
すべり系間の相互作用を新たに考慮することにより、多重すぺりが生じる変形条件を表現した。こ のようなモデルに基づく転位密度の発展方程式を、巨視的な応力一歪みの関係式と連立して解くこ とにより、応力―歪み曲線に沿った転位組織の形成過程を再現し得た。特に、本モデルにより得ら れた応力―歪み曲線はFCC単結晶の引つ張り試験の結果と定陸的な一致を示し、さらに、動転位 密度と不動転位密度が塑´陸歪みの進行に伴って相乗的に発展していく様子や、セル壁の形成に対す る両転位密度の寄与、さらには、主すべり系から二次すべり系への変形の進行に伴う両転位密度と シュミット因子の変化について、詳細を議論した。
第6章は本論文の総括である。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
拡散ー反応方程式を用いた FCC 単 結晶の塑 性変形挙動の解析
近年 の急 速な 計算 機技術の発展に伴い、計算機を用いた塑性変形 に関する研究が盛んに行わ れて いる 。こ のよ うな研究分野においては、取り扱うスケールの 階層化が進んでおり、大き く、マクロ、メソ、及びミクロの3つの階層に分類される。特に、メソ スケールの領域では、
原子 や転 位ワ 集団 挙動から金属組織や転位組織の形成過程を再現 する研究が顕著である。こ の中 で転 位組 織の 形成過程に関する研究に着目すると、これまで の研究は、疲労試験を対象 とし たも のが 大半 を占めており、引っ張り試験のような一軸応カ に対する研究はほとんど見 られ ない のが 現状 であ る。 本 論文 では 、FCC単結晶に対して、引 っ張り試験の進行過程にお け る 転 位 組 織 の 形 成 過 程 と 応 力 ― 歪 挙 動 を 動 的 に 解 析 で き る モ デ ル を 提 案 し た 。 本諸文の構成は全6章より成り立っている。
第1章は 緒言 であ り、 転位 論に おけ るこ れまでの転位の集団挙 動およぴ転位組織の形成過 程 の 研 究 を 概 括 し 、 本 研 究 の 位 置 づ け 及 び 目 的 に つ い て 述 べ て い る 。 第2章 で は 、 転 位 の 集 団 運 動 に 対 す る 先 駆 的 な 研 究 で あ るGilman―Johnstonモ デル と Alexander‑Haasenモデルに言及し、その意 義を紹介した上で、・これらが均一系に対するモデ ルで ある こと から 生じる難点を列挙している。そして実験事実と の対応をとるためには、不 均一系に対するモデルの構築が必要である ことを指摘した。
第3章で は、 本研 究の 基盤 をな す拡 散ー 反応方程式についての 基礎理論を述べている。空 間的 に不 均一 な転 位密度の発展挙動を記述する有カな手法として 、拡散―反応方程式が提唱 され てい るが 、こ の解の数学的な構造を予測するためには、より 単純な反応系を用いること が肝 要で ある 。本 章で は、Brusselatorモ デルの背景を紹介し、 線形化解析を用いて解の安 定― 不安 定性 を論 じた上で、不安定解の時間発展挙動を詳述した 。又、数値計算により線形 化 解 析 が 導 く 解 を 検 証 す る と 共 に 、 非 線 形 領 域 の 解 の 挙 動 に つ い て も 議 論 を 試 み た 。 第4章 で は 、 拡 散 ― 反 応 方 程 式 を 転 位 密 度 の 発 展 挙 動 に 応 用 し た 先 駆 的 研 究 で あ る Walgraef―Aifantisのモデ´.レを詳述している。但し、このモデルは疲労試験のような繰り返 し応 力下 での 組織 の形成過程を記述するものであり、引っ張り試 験のような典型的な塑性変 形に 対し ては 直接 応用することができない。そこで、引っ張り試 験を対象にした一次元モデ ルを 提案 した 。こ のモデルでは、有効応カを、系の塑性変形の進 行状態を制御するパラメー ター とし て採 用し た。そして、線形化解析、及び数値計算から、 転位セル壁の形成・発展過 程が有効応カの関数として記述できること を明らかにした。
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夫 宜
明
司
哲 邦
惣
誠
利 井
貫 浦
毛 石
大 三
授 授
授 授
教
教 教
教 助
査 査
査 査
主 副
副 副
第5章 は 本 論 文 の 中 核 を 成 す 。 第4章 で 論 じ た 従 前 の モ デ ル で は 、1. 動 転 位 の す ぺ り 運 動 を 拡 散 現 象 と し て 取 り 扱 う こ と の 妥 当 性 に 欠 け る こ と 、2.フ ラ ン ク ー リ ー ド 源 な ど の 転 位 源 の 活 性 化 に よ る 動 転 位 の 増 殖 や 双 極 子 の 形 成 が 考 慮 さ れ て い な い ため に 、 変 形の 初 期 挙 動 が 再 現 で き な い こ と 、3.す べ り を 単 一 の す べ り 系 の み に 限 定 し て お り 実 際 の 結 晶 で 生 じ る 二 重 す べ り が 考 慮 さ れ て い な い こ と 、 の3点 を 指摘 し 、 新 たな モ デ ル の構 築 を 行 って い る 。 こ の モ デ ル で は 、1. 応 カ の 荷 重 方 向 に対 す る 転 位の 運 動 方 向の 依 存 性 を導 入 す る ため に バ ー ガ ー ス ベ ク ト ル の 符 号 を 考 慮 し 、 さ ら に 、 動 転 位 の 長 距 離 相 互 作 用 を 拡散 理 論 の 枠組 み の 中 で 捉 え る こ と か ら 、 動 転 位 の 保 存 運 動 挙 動 を 記 述 し た 。 又 、2.変 形 初 期 の 塑 性 変 形 挙 動 を 再 現 す る た め に、 動 転 位 の増 殖 や 双 極子 の 形 成 の寄 与 を 転 位密 度 の 発 展方 程 式 に 導入 し た 。 さ ら に 、3.複 数 の す べ り 系 に 対 し て 転 位 密 度 の 発 展 方 程 式 を 記 述 し 、 す べ り 系 間 の 相 互 作 用 を 新 た に 考 慮 す る こ と に よ り 、 多 重 す べ り が 生 じ る 変 形 条 件 を 表 現 した 。 そ し て、 こ の よ う な モ デ ル に 基 づ く 転 位 密 度 の 発 展 方 程 式 を 、 巨 視 的 な 応 力 ― 歪 み の 関係 式 と 連 立し て 解 く こ と に よ り 、 応 力 一 歪 み 曲 線 に 沿 っ た 転 位 組 織 の 形 成 過 程 を 再 現 し 得 た 。 特 に 、 本 モ デ ル に よ り 得 ら れ た 応 力 ― 歪 み 曲 線 はFCC単 結 晶 の 引 っ 張 り 試 験 の 結 果 と 定 性 的 な 一 致 を 示 し 、 さ ら に 、 動 転 位 密 度 と 不 動 転 位 密 度 が 塑 性 歪 み の 進 行 に 伴 な っ て 相 乗 的に 発 展 し てい く 様 子 や 、 セ ル 壁 の 形 成 に 対 す る 両 転 位 密 度 の 寄 与 、 主 す べ り 系 か ら 二 次 す べり 系 へ の 変形 の 進 行 に 伴 な う 両 転 位 密 度 と シ ュ ミ ッ ト 因 子 の 変 化 、 さ ら に は 、 組 織 形 成 の 必然 性 に つ いて 詳 細 を 議 論 し た 。
第6章 は 本 論 文 の 総 括 で あ る 。 〆
こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 、 引 っ 張 り 試 験 に お け る 転 位 組 織 の 形 成過 程 に つ いて 、 転 位 の集 団 運 動 理 論 か ら 新 知 見 を 得 た も の で あ り 、 材 料 科 学 と 塑 性 変 形 理 論に 対 し て 貢献 す る と ころ 大 な る も の が あ る . よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位を 授 与 さ れる 資 格 あ るも の ょ
と 認 め る 。
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