博士(医学)鏡 雅代 学位論文題名
小児発症非肥満糖尿病患者における病因としての Hepatocyte Nuclear Factor (HNF) ‑la, HNF‑4a,
HNF ― lp 遺伝子解析に関する研究 学位論文内容の要旨
緒言
若年発症の非肥満糖尿病は様々な病態の糖尿病を含んでいる。ほとんどの患者はイ ンスリン治療を必要とする1 型糖尿病患者であるが、少数の2 型糖尿病患者も含まれ る。1 型糖尿病患者の多くば慢性、進行性に自己免疫学的機序により膵ロ細胞の破壊 の結果発症するが、5 ー10% の患者はglutamic acid decarboxylase (GAD) 抗体、Islet
cell antibody (ICA)等の自己抗体を認めない
1B型糖尿病である。Maturity onset
diabetes of the young (MODY)は早期発症(25 才以下)、常染色体優性遺伝、インス リン分泌の低下を特徴とする疾患群である。MODY 関連遺伝子は6 つ同定されているが
hepatocyte nuclear factor―4a (HNF ー4a )、HNF ―la の変異で生じるMODY1 ,MODY3 は 徐カにインスリン分泌が低下し最終的にインスリン治療が必要となる場合が多い。
HNF
ー1 ロ遺伝子変異でおこるMODY5 はインスリン治療を必要とする糖尿病の他に腎奇 形、腎のう胞性疾患等の合併を認めることが多い。小児期発症非肥満糖尿病患者のな かにインスリン分泌低下を引き起こすHNF 遺伝子変異が混在している可能性がある。
そこで申請者は82 人の日本人小児期発症非肥満糖尿病患者で
HNF遺伝子の解析を行 い疾患との関連を調べた。
方法・結果
対 象は 経口ブドウ 糖負荷テス ト
(OGTT)で空腹時 血糖
126mg/dl以上、2 時間値
200mg/dl以上のもので、発症時
18才未満であり、BMI が25kg/mz 未満である日本人
糖尿病患者とした。インフオームドコンセントを得たのち末梢血白血球からgenomic
DNAを抽出し既報のプライマーを用いて
HNF−la ,一
4a,―1 ロ遺伝子をPCR 法で増幅し
た。single ―strand conformation polymorphism (SSCP) でスクリーニングをしたの
ち直接シークエンス法を行った。HNF −la 遺伝子で認められたアミノ酸置換を伴う多
型I27L (ATC‑+CTC) と
S487N (AAC→AGC) についてはRFLP 法を用いて解析し、その頻
度を
40名の耐糖能異常を指摘されたことのない健康成人と比較したが有意差を認め
られなかった
(127L P=O. 6483、S487N P=0.6667) 。HNF −la 遺伝子の解析ではexon4 にR271W (CGG‑+TGG) とR272C (CGC‑+TGC) 、プロモーター領域に+95+96insTTGGGG の3 種類の変異をそれぞれヘテロで有する3 例を同定した。R271W はフランスのMODY 家系 で、
R272Cは日本の家系で報告されている。Promoter +95+96 insTTGGGG は未報告例 で40 名のコントロール、他の81 名の患者群にも認めなかった。HNF ―4a 遺伝子のexon
1に未報告のN29T (AAT (Asn) →
ACT (Thr))の1 塩基置換をへテロでもっものを患者と コントロールにそれぞれ一名見出した。HNF →1 ロは変異、多型ともに認められなかっ た。未報告の
HNF−la promoter +95+96 insTTGGGG とHNF −4aN29T はヒト肝臓細胞系 列のHepG2 、ラット膵臓細胞系列のINS ―1 を用いてその発現をレポーターアッセイで 解析 した。
HepG2ではその発現が
wild typeの160% 、INS‑1 で1800 を示した。
N29Tの発現はwild type と有意差を認めず稀な多型と考えられた。HNF −
1a R271W変異を持 つ患者は10 才に学校検尿で尿糖が指摘され
12才時よルインスリン治療を開始されて いる。糖尿病の家族歴はなくICA は陰性。R272C の変異を持つ患者は9 才時学校検尿 で尿糖を指摘され11 才時より経口血糖降下薬の内服を開始、13 才よルインスリン治 療 を 開 始 さ れ た 。
GAD抗体 は 陰性 で 母、 父 方 祖父 に
2型 糖 尿病 を 認め る 。
promoter+95+96 ins TTGGGGをもつ患者ば
9才時多飲、多尿、体重減少で発症し直ち にインスリン治療を開始された。GAD 抗体は陰性で父方叔父に
2型糖尿病がある。
考察
小児期発症非肥満糖尿病患者82 名中3 例(3. 75y0) はそれぞれ異なる3 種類のHNF −1
a遺伝子変異のへテロ接合体であった。3 例の変異のうち
R271Wと
R272Cはそれぞれ フランスと日本の
MODY家系で同定された変異であったが、HNF ―la プロモーターの
+95+96 ins TTGGGG変異は今回新に同定されたものである。変異を持つ3 人の患者は すべて膵臓に対する自己抗体をもっていたかったが、臨床経過や家族歴は異なってい た。R271W 変異の患者では糖尿病の家族歴もない。このことは
MODYの概念にあては まらない糖尿病患者のぬかにもHNF ―
la変異を持つ患者が含まれていることを示して いる。未報告の
+95+96 ins TTGGGG変異はwild type の1 .6 〜1 .9 倍のプロモーター活 性を認め、
Yoshiuchらの十102 G>C 変異の1 .8 倍に近似する。+102 G>C 変異と我々 が 同定 し た
+95+96 insTTGGGG変異 は
DNaseIfoot printing assayで同定さ れた
A―site に位置する。
A−site に結合する蛋白は未だ同定されていないがこの部位に結 合する何らかの蛋白がHNF −la 活性を調節している可能性が示唆される。
HNFーla 、
HNF―4a 、HNF ―iB 、IPF ―1 、NeuroD ー1 の転写因子はカスケードを作りお互いを調節し ている。このカスケード上、HNF −la は
HNF4aの下流に位置しHNF ー4a に転写活性の 調節をうけているが、HNF4a のプロモーター領域に
HNFlQの
binding siteがあるこ とが判明しており、HNFl‑Q がHNF −4a の転写活性を調節するメカニズムがあるとの報 告がある. +95+96 insTTGGGG 変異例で認めたプロモーター活性の亢進はHNF −
laの転 写活性を亢進させ,HNF ―4a の転写活性を減弱させ,HNF −4 の遺伝子依存の遺伝子の活 性を低下させ,結果としてHNF ―4a 遺伝子の変異で生じるMODY1 と同様の機序で糖尿 病を発症させると考えられた。結語HNF −la 遺伝子で既知の2 種類の変異と新規のプ
― 310 ‑
ロモーター領域の変異を同定した。本研究から小児期発症非肥満糖尿病患者のなかに
MODYの診断基準を満たさないHNF −la 遺伝子変異が原因の患者が含まれていることを
示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
小児発症非肥満糖尿病患者における病因としての
Hepatocyte Nuclear Factor (HNF) ‑l ぱ, HNF‑4a, HNF ― lrB 遺伝子解析に関する研究
若 年発 症 の非 肥満 糖尿 病は 様 々な 病態 の糖 尿病 を含む。1型糖尿病の多くは 自己免疫学的機 序 に よ り 膵 侶 細 胞 の 破 壊 の 結 果 発症 する1A型で ある が、5〜10%は自 己抗 体を 認 めな い1B型 糖尿病である。後者に属するmaturltyonsetdiabetesoftheyoung(MODY)は早期発症(25才以下)、
常 染 色体 優性 遺 伝、 イン スル ン 分泌 の低 下を 特徴 と する 疾患 群で ある 。MODY関連 遺伝 子 は6 つ同定されているがhepatocytenuclearfactor・4a(HNF−4a)、HNF−laの変異で生じるMODY1. MODY3は 徐々 にイ ンス リ ン分 泌が 低下 し最 終 的に イン スリ ン 治療 が必 要と なる 場 合が 多い 。 HNF‐1ロ 遺伝 子 変異 でお こるMODY5は イン ス リン 治療 を要 す る糖 尿病 の他 に腎 奇 形、 腎の う 胞性疾患等の合併を認 める。小児期発症非肥満糖尿 病のなかにインスリン分泌 低下を弓Iき起こ すHNF遺 伝子 変異 が混 在 して いる 可能 性が あ る。 そこ で申 請 者は82人 の日 本人 小 児期 発症 非 肥満糖尿病患者でHNF遺 伝子の解析を行い疾患との 関連を調べた。
対象 は経 口 プド ウ糖 負荷 テス ト (0GTT) で空 腹時 血 糖126mg/dI以 上 、2時間 値200mg/dl以上 の も の で 、 発 症 時18才 未 満 で あ り、BMIが25kg/m2未 満で あ る日 本人 糖尿 病患 者 とし た。 末 梢血 自血 球 からgenomicDNAを抽出し既報のプライ マーを用いてHNF‐la,−4a,―1ロ遺伝子を PCR法で増幅し、single‐strandconfbrmationpolymorphism(SSCP)でスクルーニングをしたのち 直 接 シ ー ク エ ン ス 法 を 行 っ た 。HNF‐la遺 伝 子 の 解 析 で はexon4にR271W(CGG→TGG) と R272C(CGC→TGC)、 プ ロモ ータ ー領 域 に十95十 %insTTGGGGの3種類の変異を それぞれへテロ で 有 す る3例 を 同 定 し た 。R271Wは フ ラ ン ス のMODY家 系 で 、R272Cは 日 本 の 家 系 で 報 告 さ れて いる 。Promoter十95十%insTTGGGGは未 報告 例で40名 の コン トロ ール、 他の8|名の患者 群に も認 め なか った 。そ の他HNF―la遺 伝子 で127L(ATC→CTC) とS487N(AGC→AAC)の変異 を認 め、 そ の頻 度を40名 の耐糖能異常を指摘され たことのない健康成人と比較 したが有意差を 認められなかった(127LP=0.6483、S487NP:0.6667)ことから、多型と判断した。HNFー4a遺 伝子のexon|に未報告 のN29T(AAT(Asn)→ACT(Thr))の1塩基置換をヘテ口でもっものを患者
一312−
彦 夫
雄
邦 隆
輝
林 池
橋
小 小
石
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
とコントロールにそれぞれ一名見出した。HNF‑1ロは変異、多型ともに認められなかった。未 報告のHNF−lapromoter +95+96 insTTGGGGとHNF‑4a N29Tはヒト肝臓細胞系ケIJのHepG2、 ラット膵臓細胞系列のINS−1を用いてその発現をレポーターアッセイで解析した。+95+96 insTTGGGG導人HepG2ではそ の発現がwild typeの160%. INS‑Iで1909!を 示した。N29Tの 発現はwild typeと有意差を認めず稀な多型と考えられた。HNF‑1a R271W変異を持つ患者は10 才に学校検尿で尿糖が指摘され12才時よルインスリン治療を開始されている。糖尿病の家族歴 はなくICAは 陰性。R272Cの変異を持つ患者は9才時学校検尿で尿糖を指摘され11才時より 経口血糖降下薬の内服を開始、13才よルインスリン治療を開始された。GAD抗体は陰性で母、
父方祖父に2型糖尿病を認める。promoter+95+96 ins TTGGGGをもつ患者は9才時多飲、多尿、
体重減少で発症し直ちにインスリン治療を開始された。GAD抗体は陰性で父方叔父に2型糖尿 病がある。
小児期 発症非 肥満糖尿病患者82名中3例(3.75U/o)はそれぞれ異なる3種類のHNF‑1a遺伝 子変異 のヘテ 口接合体であった。3例の変異のうちR271WとR272Cはそれぞれ既知の変異で あったが、HNF―10ブロモーターの+95+96 ins TTGGGG変異は今回新に同定されたものである。
変異を持つ3人の患者はすべて膵臓に対する自己抗体をもっていなかったが、臨床経過や家族 歴は異 なって いた。R271W変異の患者では糖尿病の家族歴もない。このことはMODYの概念 にあてはまらない糖尿病患者のなかにもHNF‑Ia変異を持つ患者が含まれていることを示して いる。 未報告 の+95+96 ins TTGGGG変異はwild typeの190%のプロモーター活性を認め、
Yoshiuchらの 十102 G>C変異の180%に近似する。十102 G>C変異と我々が同定した+95+96 insTTGGGG変異はDNaseIfoot printing assayで同定されたA‑siteに位置する。A‑siteに結合す る蛋白は未だ同定されていないがこの部位に結合する何らかの蛋白がHNF―10活性を調節して いる可 能性が 示唆される。HNF‑1a、HNF‑4a、HNF‑1ロ、IPF‑1、NeuroD−1の転写因子はカ スケードを作りお互いを調節している。このカスケード上、HNF―laはHNF4aの下流に位置 しHNF‑4aに 転写活性 の調節をうけているが、HNF4aのプロモーター領域にHNFlaのbinding siteがあることが判明しており、HNFl‑aがHNF‑4aの転写活性を調節するメカニズムがある との報告がある, +95+96 insTTGGGG変異例で認めたプ口モーター活性の亢進はHNF―laの転写 活性を亢進させ,HNF‑4aの転写活性を減弱させ,HNFー48遺伝子依存の遺伝子の活性を低下さ せ,結果としてHNFー4a遺伝子の変異で生じるMODY1と同様の機序で糖尿病を発症させると 考えられた。
公開発表に際し、副査の石橋教授から、A−siteに結合する蛋白について、3つの変異と臨床 像との関係、変異体分子の分子会合について、副査の小池教授から、挿入変異の機能解析にお ける結果の解釈について、この疾患における組織変化についてと治療法について質問があった。
最後に主査の小林教授から、家族内遺伝子検索のできなかった理由、プ口モーター領域の変異 で発現減少する場合と、発現亢進する場合の病態との関係などの質問があったが、申請者は何 れ の 質 問 に 対 し て も 、 自 ら の 実 験 と 文 献 を 引 用 し ほ ぽ 妥 当 な 回 答 を 行 っ た 。 本研究 は本邦 の小児期 発症非 肥満糖尿 病患者にMODYの原因遺伝子のーつであるHNF‑Ia 遺伝子変異を3種類見出し、その内のーっは新規のブ口モーター領域の変異であることを明ら かにした。これは小児期発症非肥満糖尿病の中にHNF・10遺伝子変異が原因の患者が存在する こ とを 示 唆 し、 今 後 の小 児 糖 尿 病患 者 の 診断 、 治 療に 貢 献 する こ とが期 待され る。
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審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格を 有す るも のと 訓定 した 。
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