博士(工学)原 文宏 学位論文題名
結氷河川に建設される橋脚の設計法に関する研究 学位論文内容の要旨
地球上で1月の平均気温がO℃以下となる地域に住む人口は、約10億人といわれて おり、寒冷地とぃう厳しい気象条件の中で生活や産業活動を営んでいる。そこには、移 動のための交通手段が必要であり、自動車や鉄道による陸上交通網が整備され、河川や 海峡を横断する橋梁が多数建設されている。また、極地、亜極地に石油・天然ガス等の エネルギー資源の埋蔵が確認され、その一部がシベリアやアラスカで採掘されるにいた り、資材輸送や採掘した資源輸送のための陸上交通路の整備が必要となり、極地の大河 川にも橋梁が建設されるに至った。
このような、寒冷地域の河川のほとんどは冬期間結氷し、建設される水理構造物や橋 脚は氷盤による影響をうける。特に橋脚は、氷盤の影響を直接受ける位置に建設される ことからその影響は無視できない。事実、カナダやアメリカ合衆国の北部、北欧、シベ リア等では氷盤によって橋脚に著しい被害を受けた事例や橋脚位置で発生したアイス ジャムによる洪水で、近隣の市街地や道路が氷盤や雪泥で埋め尽くされるとぃった災害 が発生している。
我が国では、氷盤によってコンクリート製橋脚が倒壊したり、滑動するような事態は 発生していなぃ。しかし、寒地河川である天塩川や流氷の来襲するオホーツク海沿岸の 河口部にある橋脚で、氷盤の接触が原因の摩耗被害が比較的広い範囲に発生し、摩耗の 進行と凍結融解作用によって補修を余儀なくされている橋脚も少なくない。このような 河川結氷に起因して発生する橋脚と氷盤の諸問題について、北米や旧ソ連の橋梁設計基 準の中で一部取り込まれているものの、体系的に整理された設計法はなぃのが現状であ る。
本研究では、このような結氷河川に建設される橋脚の氷盤に関わる設計法について体 系的に整備することを目的としている。北方圏や我が国における氷盤による橋脚被害調 査から、結氷河川の橋脚の設計法において確立すべき主要な項目は、以下の3点と考え られる。
◎橋脚に作用する水平方向氷カに対する設計法 ◎橋脚の氷盤移動による摩耗対策の設計法 ◎橋脚位置でのアイスジャム対策の設計法
@については、水平方向氷カの算定法がほば確立されており、それらの水平カに関す る橋脚の安定計算や断面計算の手法は確立されている。
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本研究では◎の摩耗対策の設計法と◎のアイスジャム対策の設計法に主眼をおいて 結氷河川に建設される橋脚の設計法について研究を行う。
第1章序論では、結氷河川の水理特性を整理するとともに北方圏諸国や我が国におけ る氷盤移動による橋梁の被害状況を把握し、設計上考慮すべき事項をまとめた。また、
米国、カナダ、旧ソ連の橋梁設計基準から氷に関する部分を抽出し、どの程度考慮され ているのかを把握するとともに、設計上考慮されるべき事項について、既存研究の現状 を整理し、本研究において取り組むべき項目を示した。
第2章では、氷盤による橋脚の摩耗対策について摩耗試験装置の評価、各種材料の 摩耗特性、摩耗メカニズム、設計定数としての淡水氷の強度、氷盤中の固形成分濃度等 を系統的な室内試験及び野外調査から明らかにするとともに、天塩川における3年間の 調査結果より、浮氷盤の移動距離を初めて明らかにした。その結果、摩耗試験結果から、
コンクリート、鋼、合成材料、石材の摩耗速度(mm/km)が明らかとなり、鋼や合成材料 の摩耗速度がコンクリートの1/4程度であること、石材の耐摩耗性能に産地によるバラ ツキが大きいこと等を明らかにした。また、淡水氷の一軸圧縮強度試験から、氷温が
―2℃程度で30〜40kg/cr2、自然氷中の固形成分分析から、最大で濃度450mg/1、中央粒 径250皿mであること等を明らかにしている。これらの結果を利用して設計に用いる諸 定数の検討を行い、目安となる数値を設定した。次に、摩耗メカニズムの基礎研究を基 に、橋脚の摩耗量の推定方法を確立し、現地調査による年間摩耗量との比較より良い一 致を見たことから、推定方法の有効性を確かめた。最後に摩耗対策の提案を行い、設計 法について解説した。
第3章では、橋脚位置でのアイスジャム対策について、天塩川及び発寒川での野外 調査結果から、アイスジャムの発生形態を分類し定着氷先端部でのアイスジャムの発生 メカニズムの把握と橋脚位置での浮氷盤によるアーチ形成条件を明確にした。定着氷先 端部でのアイスジャムの発生メカニズムとして、定着氷の先端形状と浮氷盤の運動形態 の関係、浮氷盤の形態と流体抵抗について明らかにした。また、定着氷下面での氷と氷 の摩擦係数について、実際の河川氷を使った室内試験と野外試験によって把握した。
橋脚位置でのアーチ形成条件ついては、実験縮尺を変えてフルードの相似則が成り 立っことを検証し、橋脚のNose傾斜、断面形状、流速、氷盤の大きさ、混合率、形状 などを変化させた実験を行い、アーチ形成条件を明らかにした。それらを使って、半円 形の直立Nose橋脚の流速ごとのアーチ形成限界線を作成し、アーチを形成しない橋脚 スパンの決定法を導いた。また、琴似発寒川のアイスジャム発生が長栄橋の橋脚位置で の氷盤によるアーチ形成によるものであることを検証するための実験を行い、その可能 性が極めて高いことを実証するとともに、アーチを形成しない橋脚間隔について検討を 行った。これらの成果に基づいて氷盤によるアーチを形成しない橋脚間隔の設計法を確 立した。
第4章では、本研究の結諭であって、各章で述べた事項を本章においてまとめた。
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学位論文審査の要旨 主査 教 授 佐 伯 浩 副査 教 授 板 倉忠 興 副査 教授 角田輿史雄 副査 教 授 藤 田睦 博 副査 助教授 山下俊彦
学 位 論 文 題 名
結氷河川に建設される橋脚の設計法に関する研究
北 半 球 で1月 の 平 均 気 温 がO℃ 以 下 と な る 地 域 に 住 む 人 口 は 、 約10億 人 と い わ れ て お り 、 寒 冷 地 と い う 厳 し い 気 象 条 件 の 中 で 生 活 や 産 業 活 動 を 営 ん で い る 。 そ こ に は 、 移 動 の た め の 交 通 手 段 が 必 要 で あ り 、 自 動 車 や 鉄 道 に よ る 陸 上 交 通 網 が 整 備 さ れ 、 河 川 や 海 峡 を 横 断 す る 橋 梁 が 多 数 建 設 さ れ て い る 。 ま た 、 極 地 、 亜 極 地 に 石 油 ・ 天 然 ガ ス 等 の エ ネ ル ギ ー 資 源 の 埋 蔵 が 確 認 さ れ 、 そ の 一 部 が シ ベ リ ア や ア ラ ス カ で 採 掘 さ れ る に い た り 、 資 材 輸 送 や 採 掘 し た 資 源 輸 送 の た め の 陸 上 交 通 路 の 整 備 が 必 要 と な り 、 極 地 の 大 河 川 に も 橋 梁 が 建 設 さ れ る に 至 っ た 。
こ の よ う な 、 寒 冷 地 域 の 河 川 の ほ と ん ど は 冬 期 間 結 氷 し 、 建 設 さ れ る 水 理 構 造 物 や 橋 脚 は 氷 盤 に よ る 影 響 を う け る 。 特 に 橋 脚 は 、 氷 盤 の 影 響 を 直 接 受 け る 位 置 に 建 設 さ れ る こ と か ら そ の 影 響 は 無 視 で き な ぃ 。 事 実 、 カ ナ ダ や ア メ リ カ 合 衆 国 の 北 部 、 北 欧 、 シ ベ リ ア 等 で は 氷 盤 に よ っ て 橋 脚 に 著 し い 被 害 を 受 け た 事 例 や 橋 脚 位 置 で 発 生 し た ア イ ス ジ ャ ム に よ る 洪 水 で 、 近 隣 の 市 街 地 や 道 路 が 氷 盤 や 雷 泥 で 埋 め 尽 く さ れ る と い っ た 災 害 が 発 生 し て い る 。 我 が 国 で は 、 氷 盤 に よ っ て コ ン ク リ ー ト 製 橋 脚 が 倒 壊 し た り 、 滑 動 す る よ う な 事 態 は 発 生 し て い な い 。 し か し 、 寒 地 河 川 で あ る 天 塩 川 や 流 氷 の 来 襲 す る オ ホ ー ツ ク 海 沿 岸 の 河 口 部 に あ る 橋 脚 で 、 氷 盤 の 接 触 が 原 因 の 摩 耗 被 害 が 比 較 的 広 い 範 囲 に 発 生 し 、 摩 耗 の 進 行 と 凍 結 融 解 作 用 に よ っ て 補 修 を 余 儀 な く さ れ て い る 橋 脚 も 少 な く な い 。 こ の よ う な 河 川 結 氷 に 起 因 し て 発 生 す る 橋 脚 と 氷 盤 間 の 諸 問 題 に っ い て 、 北 米 や 旧 ソ 連 の 橋 梁 設 計 基 準 の 中 で 一 部 取 り 込 ま れ て い る も の の 、 体 系 的 に 整 理 さ れ た 設 計 法 は な い の が 現 状 で あ る 。 本 研 究 で は 、 こ の よ う な 結 氷 河 川 に 建 設 さ れ る 橋 脚 の 氷 盤 に 関 わ る 設 計 法 に っ い て 体 系 的 に 整 備 す る こ と を 目 的 と し た も の で あ る 。 北 方 圏 諸 国 や 我 が 国 に お け る 氷 盤 に よ る 橋 脚 被 害 調 査 か ら 、 結 氷 河 川 の 橋 脚 の 設 計 法 に お い て 確 立 す べ き 主 要 な 項 目 は 、 以 下 の3点 と 考 え ら れ る 。
の 橋 脚 に 作 用 す る 水 平 方 向 氷 カ に 対 す る 設 計 法
◎橋脚の氷盤移動による摩耗対策の設計法 ◎橋脚位置でのアイスジャム対策の設計法
@にっいては、水平方向氷カの算定法がほば確立されており、それらの水平カに関する橋 脚の安定計算や断面計算の手法は確立されている。
本研究では◎の摩耗対策の設計法と◎のアイスジャム対策の設計法に主眼をおいて結氷 河川に建設される橋脚の設計法を確立したものである。
第1章序論では、結氷河川の水理特性を整理するとともに北方圏諸国や我が国における氷 盤移動による橋梁の被害状況を把握し、設計上考慮すべき事項をまとめた。また、米国、カ ナダ、旧ソ連の橋梁設計基準から氷に関する部分を抽出し、どの程度考慮されているのかを 把握するとともに、設計上考慮されるべき事項にっいて、既存研究の現状を整理し、本研究 において取り組むべき項目を示した。
第2章では、氷盤による橋脚の摩耗対策にっいて摩耗試験装置の評価、各種材料の摩耗特 性、摩耗メカニズム、設計定数としての淡水氷の強度、氷盤中の固形成分濃度等を系統的な 室内試験及び野外調査から明らかにするとともに、天塩川における3年間の調査結果より、
浮氷盤の移動距離を初めて明らかにした。その結果、摩耗試験結果から、コンクリート、鋼、
合成材料、石材の摩耗速度(mm/km)が明らかとなり、鋼や合成材料の摩耗速度がコンクリー トの1/4程度であること、石材の耐摩耗性能に産地によるバラツキが大きいこと等を明らか にした。また、道内各河川およびダム湖の淡水氷の一軸圧縮強度試験から、氷温が―2℃程 度で30〜40kg/cm2、手塩川をはじめとする諸河川と湖沼の調査・分析より、自然氷中の固形 成分 は最大で濃度450mg/l、中央粒径250nmであること等を明らかにしている。これらの 結果を利用して設計に用いる諸定数の検討を行い、設計上目安となる数値を設定した。次に、
摩耗メカニズムの基礎研究を基に、橋脚の摩耗量の推定方法を確立し、現地調査による橋脚 の年間摩耗量との比較より良い一致を見たことから、推定方法の有効性を確かめた。最後に 摩耗対策の提案を行い、橋脚の耐摩耗設計法を明らかにした。
第3章では、橋脚位置でのアイスジャム対策にっいて、天塩川及び発寒川での野外調査結 果から、アイスジャムの発生形態を分類し定着氷先端部でのアイスジャムの発生メカニズム の把握と橋脚位置での浮氷盤によるアーチ形成条件を明確にした。定着氷先端部でのアイス ジャムの発生メカニズムとして、定着氷の先端形状と浮氷盤の運動形態の関係、浮氷盤の形 態と流体抵抗について明らかにした。また、定着氷下面での氷と氷の摩擦係数にっいても、
実 際 の 河 川 氷 を 使 っ た 室 内 試 験 と 置 戸 湖 で の 野 外 試 験 に よ っ て 明 ら か に し た 。 橋脚位置でのアーチ形成条件っいては、実験縮尺を変えてフルードの相似則が成り立っこ とを検証し、橋脚のNose傾斜、断面形状、流速、氷盤の大きさ、氷盤の混合率、形状など を変化させた実験を行い、アーチ形成条件を明らかにした。それらを使って、半円形の直立 Nose橋脚の流速ごとのアーチ形成限界線を作成し、アーチ形成をさせない橋脚スパンの決定 法を導いた。また、琴似発寒川のアイスジャム発生が長栄橋の橋脚位置での氷盤によるアー チ形成によるものであることを検証するための実験を行い、その可能性が極めて高いことを 実証するとともに、アーチを形成しない橋脚間隔について検討を行った。これらの成果に基 づ い て 氷 盤 に よ る ア ー チ を 形 成 し な い 橋 脚 間 隔 の 設 計 法 を 確 立 し た 。
第4章 では、本研 究の結論で あって、各 章で述べた 事項を本章 においてまとめた。
これを要するに、著者は我が国では今まで未確立であった、結氷河川に建設される橋脚の 設計法を確立したもので、橋梁工学、氷工学の進展に貢献するところ大なるものがある。
よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認める。