博士(農学) 荒木宏通 学位論文題名
/ ヾレイショの塊茎肥大計測装置の開発と利用に関する研究 学位論 文内容の要旨
1
.背景および目的バレイショは,わが国の重要なでん粉資源作物であるとともに北海道の基幹畑作 物である。しかし,最近は,海外からの輸入量増加などを背景に生産費の削減が迫 られ,肥培管理の最適化等革新的な栽培技術の開発が望まれている。また,収益陸 を高めるため,収穫適期を的確に判断する技術の開発が求められている。これらの ためには,バレイショの生育特性を知ることが必要であるが,地中にある塊茎の生 育 量 を 把 握 す る 手 段 が 限 ら れ て い る た め 不 明 な 点 が 多 々 あ る 。
そこで,本研究では,バレイショ塊茎の生育特性の解明に資するため,塊茎の肥 大をりアルタイムかつ非破壊的に連続計測する塊茎肥大計測装置を開発し,これを 利用してバレイショ塊茎の地中における生育過程を地上部の生育過程と結びっけて 追跡調査する技術を確立することを目的とした。
2
.計測方式の検討塊茎肥大計測装置の開発に先立ち,地中において生育する塊茎の肥大生長量をり ア ル タ イ ム に 連 続 的 か つ 非 破 壊 的 に 計 測 す る 適 正 な 手 法 を 検 討 し た 。
北海道の代表的な生食用バレイショ品種である男爵薯を主たる対象に,塊茎の肥 大方向の偏りを調査した結果,基部―頂部方向の塊茎直径はその直角方向の塊茎直 径の最大値より大きく,肥大には偏りがあることが示された。さらに,計測方向が 塊茎直径と塊茎質量との相関に及ぽす影響を調査した結果,基部・頂部方向を計る と塊茎質量との相関が高くなることが明らかとなった。
次に,計測方式として直径計測方式および周囲長計測方式を比較検討した。その 結果,両方式とも,その値から塊茎質量を推定することは可能であるが,塊茎基部
。頂部方向を計ることが条件であることが示された。しかし,この条件を満たすた めには,塊茎基部のストロンを避けてセンサを接触させること,他のバレイショ塊 茎の生育の妨げにならないように装置を設置すること,が必要であり,想定される 装 置 の 構 造 か ら 周 囲 長 計 測 方 式 だ け が 適 し て い る と 判 断 さ れ た 。
‑ 1099―
3
.バレイショの塊茎肥大計測装置の開発計測方式の検討結果に基づき,地中にあるバレイショ塊茎の周囲長を非破壊的か つ直接的に継続して計測できるバレイショ塊茎計測装置を開発した。開発の要件は,
基部―頂部方向の周囲長計測であること,装置の設置が容易であること,バレイシ ヨ塊茎へのセンサの装着が容易であること,計測誤差が少ないこと,故障が少ない こと,である。開発した装置は,一本の支柱に,制御・記録部と計測部を固定した 一体構造となっており,計測部は地中に埋設される。計測部を含めた装置の大きさ は , 高 さ
250mW
幅170mW
奥 行65mm,
質 量 は930g
で あ る 。 制 御 ・ 記 録 部 は , アナログ式変位計,データロガー,制御基板,リチウム電池により構成され,計測 時には地上高約200mmに位置する。計測にあたっては,手掘りにより塊茎を露出さ せ,変位計から延びるワイヤを塊茎に巻き付ける。塊茎周囲長の膨縮をワイヤの伸 縮としてとらえ,さらに電圧に変換して任意の時間間隔で自動記録する。計測分解 能 はおよそ0.13mm
,計測可 能な周囲 長の増加 量は127mmである。ワイヤは,変位 計内のバネにより0.8〜1.2Nのカで常に塊茎を締め付けているので,塊茎の収縮時に も緩むことはなく継続的に計測できる。計測部の設置位置は,上下および塊茎に対 して前後方向に微調整できる構造とした。また,変位計への印加電圧は電池の消耗 や気温の変化により変動し,計測誤差の原因となる可能性があるので,印加電圧と 変位計から出カされる出力電圧の2つの電圧を計測し,その比を利用して電圧変動 を補償した。植え付け後60日目のバレイショを供試して計測を行った結果,塊茎計測装置によ る計測値と,実測値の差はImm未満,実測値に対する計測誤差はO.2%から4.O%と わ ず か で あ り , 地 中 部 の 生 育 情 報 収 集 手 段 と し て 有 効 と 判 断 さ れ た 。
4
. バ レ イ シ ョ 塊 茎 肥 大 と 地 上 部 の 生 育 お よ び 気 象 要 素 と の 関 係塊茎肥大計測装置によるバレイショの塊茎肥大計測と同時に地上部の生育情報お よび気象情報を同時に取得し,両者の関係を時系列的に捉えることを試みた。地上 部の生育情報として,非破壊的に計測でき,かつ,植物の生育状況をよく表す指標 として茎径,茎長および湛物を直上から撮影した際の地表面積に占める植物体の投 影面積の割合である植被率を計測対象とした。同時に,地上部の生育経過として,
萌芽・着蕾・開花期,茎葉黄変期,茎葉枯ちょう期等生育ステージの変遷を目視に より観察した。茎径計測においては,直動型変位計を用い,高さの異なる
3
点を同 時に計測できる接触式茎径計測装置を試作し供試した。茎長は物差しで計測した。植被率計測にあたっては,バレイショ
1
株を直上200 cm(地上高)の高さから,120cmx120 cm(
地表面)の撮影範囲で毎日定時に撮影した。茎径と塊茎周囲長の同時計測を行った結果,茎葉の枯ちょうが始まり,地際部の
‑ 1100−
茎径の収縮が緩やかになる時期と塊茎周囲長の肥大が停止する時期は概ね一致して いた。茎径の計測位置3点,地上高3 cm, 25 cm, 50 cmのうち,塊茎の肥大開始おび 停止時期に最も強く連動しているのは,地上高3cmの位置であった。また,塊茎の 急 速な 肥大期 間に おけ る塊 茎周 囲長 の増 加速 度は 最大 で4.3mm/dりで あった。
植被率と塊茎周囲長との同時計測では,植被率は茎葉部の黄変が始まる前にピー クに達し,枯ちょうの前後にかけて急速に低下するが,塊茎周囲長は,黄変期に増 加が著しく,枯ちょう期になると肥大をほぼ停止した。茎長は,植被率の増減とほ ば同様の推移を示した。
気象情報は,日射量,気温,地温,降水量を検討対象とした。周囲長の変化量が3 日間連続して前日£匕土
O
.5mm以内となったとき,その最初の日を塊茎肥大収束日と 定義し,植え付け日および萌芽日から塊茎肥大収束日までの積算日射量,積算気温,積算地温を明らかにした。塊茎が急速な肥大を開始する前には降雨による肥大反応 がみられたが,肥大収束後は確認されなかった。
以上,バレイショ塊茎計測装置を開発し,塊茎の生長を,茎径,茎長,植被率等 の地上部の生育情報および気象情報と関連付けながら継続的に直接計測できること を実証した。これまでに,バレイショ塊茎の肥大時期,肥大期間,肥大速度,肥大 量を継続的に直接計測した例はなく,本装置の利用は,バレイショの生育特陸の解 明,ひいては肥培管理の最適化等生産技術の高度化に有用である。また,本装置は 塊茎の肥大から収束までを捉えることができるので,収穫適期判定の高精度化に活 用できる。
‑ 1101ー
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
教授 柴田洋一 特任教授 近江谷和彦 准教授 片岡 崇 准教授 岸本 正
(岩手大学大学院連合農学研究科)
講師 岡本博史
学 位 論 文 題 名
バレイショの塊茎肥大計測装置の開発と利用に関する研究
本論文は5章からなり,図82,表16,文献68を含む154頁の和文論文であり,別に参考論文 1編が付されている。
1. 背 景 お よ び目 的
北海 道 の 基 幹 畑 作物 の1っ で ある バ レ イ シ ョは , 近 年 ,海外 から の輸入 量増加 などを 背景 に生 産 費 の 削減 が 迫 ら れ ,肥 培 管 理 の最 適化等 革新 的な栽 培技術 の開発 が望 まれて いる。 また, 収益 性 を 高 める た め , 収 穫適 期 を 的 確に 判断す る技 術の開 発が求 められ てい る。こ れらの ために は,
バ レ イ ショ の 生 育 特 陸を 知 る こ とが 必要で ある が,地 中にあ る塊茎 の生 育量を 把握す る手段 が限 ら れ て いる た め 不 明 な点 が 多 々 あ る。
そこ で , 本 研 究 では , バ レ イ ショ 塊茎の 生育特 性の解 明に資 する ため, 塊茎の 肥大を りア ルタ イ ム か つ非 破 壊 的 に 連続 計 測 す る塊 茎肥大 計測 装置を 開発し ,これ を利 用して バレイ ショ塊 茎の 地 中 に おけ る 生 育 過 程を 地 上 部 の生 育過程 と結 びっけ て追跡 調査す る技 術を確 立する ことを 目的 と し た 。
2. 計測方 式の検 討
地 中 に お いて 生 育 す る 塊茎 の 肥 大 生 長量 を り ア ル タ イム に 連 続 的 かつ 非 破 壊 的に 計測す る手 法を検 討した 。
北 海 道 の 代表 的 な 生 食 用バ レ イ シ ョ品 種であ る男爵 薯を対 象に, 塊茎 の肥大 方向の 偏りを 調査 した 結 果 , 基 部― 頂 部 方 向 の 塊茎 直 径は その直 角方 向の塊 茎直径 の最大 値よ り大き く,肥 大には 偏り が あ る こ とが 示 さ れ た 。 さら に ,計 測方向 が塊 茎直径 と塊茎 質量と の相 関に及 ぼす影 響を調 査 し た 結 果 , 基 部 ― 頂 部 方 向 を 計 る と 塊 茎 質量 と の 相 関 が高 く な る こ とが 明 ら か と なっ た 。 次に, 言十 測方式 として 直径計 測方式 およ び周囲 長計測 方式を 比較 検討し た。そ の結果 ,両方式 とも , 塊 茎 質 量を 推 定 す る こ とは 可 能で あるが ,塊 茎基部 ―頂部 方向を 計る ことが 条件で あるこ とが 示 さ れ た 。こ の 条 件 を 満 たす た めに は,塊 茎基 部のス トロン を避け てセ ンサを 接触さ せるこ と, 他 の バ レ イシ ョ 塊 茎 の 生 育の 妨 げに ならな ぃよ うに装 置を設 置する こと ,が必 要であ り,装 置の構 造から 周囲長 計測 方式が 適して いると 判断 された 。
―1102―
3.バ レイシ ョの 塊茎肥 大計測 装置の 開発
計 測 方式 の 検 討 結 果 に基づ き, 地中に あるバ レイシ ョ塊 茎の周 囲長を 非破壊 的かつ 直接 的に継 続 し てi十 測で きるバ レイシ ョ塊茎 計測 装置を 開発し た。開 発した 装置 は,一 本の支 柱に, 制御 ・ 記 録部と 計測 部を固 定した 一体溝 造となっており,L十損0部は地中に埋設される。制御・記録部は,
ア ナ ロ グ 式 変位 計 , デ ータ ロガー ,制 御基板 ,リチ ウム電 池によ り構 成され ,計測 時には 地上 高 約200 mmに 位 置 する 。 計 測 は 変位 計 か ら 延 びる ワ イ ヤ を 塊茎 に 巻 き 付け ,塊茎 の膨縮 をワイ ヤ の 伸 縮 と し てと ら え , さら に電圧 に変 換して 自動記 録する 。ワイ ヤは ,変位 計内の バネに より 常 に0. 8‑‑1.2Nの カ で 塊 茎を 締 め 付 け てい る の で, 塊茎の 収縮 時にも 緩むこ とはな く継続 的に 計 測 で き る 。 また , 変 位 計へ の印加 電圧 は電池 の消耗 や気温 の変化 を考 慮し, 印加電 圧と変 位計 か ら 出 カ さ れ る出 力 電 圧 の2つの 電圧を 計測し ,そ の比を 利用し て電圧 変動を 補償 した。 計韻4の結 果 ,塊茎L7‑{‑1IJ装置 による 計測値 と,実 測値 の差は1mn未 満とわ ずかで あり,地中部の生育晴報 収 集手段 とし て有効 と判断 された 。
4. バ レ イ シ ョ 塊 茎 肥 大 と 地 上 部 生 育 お よ び 気 象 要 素 と の 同 時 計 測 シ ス テ ム の 構 築 塊 茎 肥 大計 測 装 置 に よる バ レ イ シ ョの 塊 茎 肥 大 計測 と 同 時 に 地 上部 の 生育情 報およ び気象 情 報 を 取 得 し ,両 者 の 関 係 を時 系列的 に捉え るシス テム を構築 した。 地上部 の生 育情報 として ,非 破 壊 的 か つ 連続 的 な 計 測 ので きる茎 径,茎 長およ び植 被率を 計測対 象とし た。 同時に ,地上 部の 生 育 ス テ ー ジの 変 遷 を 目 視に より観 察した 。茎径 計測 におい ては, 直動型 変位 計を用 い,高 さの 異 な る3点 ,地 上 高30 mm,250 mm,500 mmを 同 時 計 測で き る 装 置 を試 作 し供試 した。 計測 に当 た っ て は , 周囲 長 の 変 化 量が3日 間連続 して前 日比土0,5 mm以内 となっ たとき ,そ の最初 の日を 塊 茎 肥 大 収 束日 と 定 義 し た。 同 時 計 測 を 行っ た 結 果,茎 葉の枯 ちょ うが始 まり, 地上高30 mmの 茎 径 の 収 縮 が緩 や か に な る時 期と塊 茎周囲 長の肥 大が 収束す る時期 は概ね 一致 してい た。塊 茎の 急 速 な肥 大期 間にお ける塊 茎周囲 長の増 加速 度は最 大で4.3 mm/dayを示し た。 植被率 および 茎長 は 茎 葉 部 の 黄変 が 始 ま る 前に ピーク に達し ,枯ち ょう の前後 にかけ て急速 に低 下する が,塊 茎周 囲 長は, 黄変 期に増 加が著 しく, 枯ち ょう期 になる と肥大 は収束 した 。また ,本システムにより,
収 穫 適 期 予 測技 術 を 確 立 する 上で重 要とな る植え 付け 日およ び萌芽 日から 塊茎 肥大収 束日ま での 積 算日射 量, 積算気 温,積 算地温 を計 測でき ること を実証 した。
以 上, 塊 茎 計 測 装置 を 開 発し, 塊茎肥 大生長 を,茎 径, 茎長, 植披率 等の地 上部 の生育 情報お よ び 気 象 晴報 と 関 連 付 けな が ら 継 続 的に 直 接 ロ0で きるこ とを 実証し た。こ れまで に,バ レイ シ ヨ 塊 茎 の 肥大 時 期 , 肥 大期 間,肥 大速 度,肥 大量を 継続的 に直 接計測 した例 はなく ,本装 置の 利 用 は , バ レイ シ ョ の 生 育特 性の解 明, ひいて は肥培 管理の 最適 化等生 産技術 の高度 化に有 用で あ る 。 ま た ,本 装 置 は 塊 茎の 肥大か ら収 束まで を捉え ること がで きるの で,収 穫適期 判定の 高精 度 化 に 活 用 でき る 。 よ っ て, 審査員 一同 は,荒 木宏通 が博士 (農 学)の 学位を 受ける に十分 な資 格 を 有 す る もの と 認 め た 。
―1103 ‑