博士(医学)北城秀司 学位論文題名
内視鏡的ドップラー血流計による食道、胃静脈瘤の 局所血行動態に関する基礎的、臨床的検討
学位論文内容の要旨
目的
食道静脈瘤は初回破裂の死亡率が高いことから,出血の可能性が高い静脈瘤に対し予防的 治療が肝要である.これまで、静脈瘤破裂の指標として内視鏡所見が用いられてきたが内視 鏡所見は施行者の主観が含まれるため客観的な指標の開発が急務である。申請者は静脈瘤破 裂を予知する客観的指標の開発を目的として,内視鏡観察下にドップラー血流測定装置によ る胃・食道の血行動態の測定を試みた,この検査法を内視鏡的ドヅプラー血流計Endoscopic Microvascular Doppler Sonography(EMDS) と仮称した。臨床応用に先立ち、この装置の信頼性 を 確 認 す る た め の 実 験 犬 を 用 い た 検 討 を 行 い 、 次 に 臨 床 的 な 検 討 を 行 っ た 。 基礎実験
マイクD)¥ スキュラードップラー血流計が門脈系血管の血流速度を正確に把握できるか否 かを検討することを目的として基礎実験をおこなった。
対象と方法:ビーグル犬6 匹を用い門脈,脾静脈,下腸間膜静脈を測定の対象とし、血管 表面 に 直 接 接 触 さ せ 測 定 し た 。 血 流 速 度 の 測 定 に は ,ド イツ EME 社 製MF20 ( マイ クDjY スキ ュ ラ ー ド ッ プ ラ ー 血 流速 度測 定装置 )を 用い た. MF20 は, 周波 数20MHz の 超音 波バ ルスド ップ ラー 計で ある 。最 小直 径0.2mm か ら血 管の 血流速度の測定が可能で、測定深度 の調節 はプ 口ー ベ接 触面 より 0.1 〜 15mm まで の深 さを O.lmm 単位 で可 能で ある 。プ ローべ に対する血流の方向は、レコーダーの流速Ocm/sec の基線に対して上方および下方に記録さ れる。検定は,Student t‑test またはX2 検定により行った.
結果:(1) プ口ーべを血管表面に接触し、最高の血流速度が得られる深度を測定した。プ ロー べ の 接 触 角 度 を 40 度 に保 ち、 測定深 度を Omm‑‑‑7mm ま でを 移動さ せた とこ ろ最 高の 血 流 速 度 は 、 血 管 径 の 約 1/2 の 深 度 に て 得 ら れ る こ と が 判 明 し た . (2) 血 管に 対す るプ ロー べの 接触角 度を 変更 する こと により血流速度が変化するか否かを 検索し た。 20 度 丶60 度ま で10 度毎 に接 触角 度を 変え 変え て測定 した 結果 ,入 射角 度30 度 にて最大血流速度の96 %,40 度にて94 %の血流速度が得られた。
臨床的研究
内視鏡的ドップラー血流計(EMDS )を用いて測定した食道・胃領域の門脈系血管の血流速 度および血流方向が臨床的に使われている食道胃静脈瘤の内視鏡所見とどう相関するかを知 る目的でprospective に臨床的研究を行った。
対象と 方法 :対 象は 、1992 年 9 月か ら1997 年 5 月 まで に当 科を受 診し た食 道胃 静脈 瘤を有
する未 治療 の患 者40 名で ある.静脈瘤の血流速度と血流方向の測定は、直視型胃内視鏡の
内 視 鏡 鉗 子 孔 に 直 径2mmの プ 口 ー べ を 挿 入 し 内 視 鏡 先 端 よ り 約1cm露 出 し 静 脈 瘤 表 面 に 接 触 さ せ た 。 接 触 角 度 は , 基 礎 実 験 に 基 づ き 静 脈 瘤 と 同 軸 方 向 に30〜40度 、 測 定 深 度 の 設 定 は 、 静 脈 瘤 直 径 の 約1/2と し た 。 血 流 方 向 の 表 示 法 と し て 噴 門 側 よ り 食 道 上 部 に 向 か う 血 流 をForward、 食 道 上 部 か ら 噴 門 部 に 向 か う 血 流 をAwayと 定 義 し た 。 EMDSに よ り 得 ら れ た 血 流 方 向 に つ い て は 血 管 造 影 所 見 と 比 較 し 検 討 し た 。 内 視 鏡 所 見 は , 日 本 門 脈 圧 亢 進 症 取 扱 い規約の記載に従った。
(1)食道静脈瘤の血流速度と内視鏡所見の比較
RC( 十 ) (n〓20) 群 で は19.70土2.15cm/secである のに対 し、RC(‑)群(n〓13)では10154土1.89cm/sec とRCく 十 ) 群 の 血 流 速 度 は , 有 意 に 速 か っ た 。 一 方 ,F2/F3群 くn=23)が19.87土1.83cm/secで あ っ た の に 対 しFO/F1群 (n〓10) は7.40土1.45cm/Sec, と 有 意 にF2プ ラ スF3が 速 か っ た 。 青 色 静 脈 瘤 の 群 (n=27) は16.96土1.23cm/secで あ っ た のに 対 し , 白色 静 脈 瘤Cw群 (n=6) は7.80土 2.52cm/Secと 有 意 にCbが 速 か っ た 。 内 視 鏡 所 見 をEMDSに よ る 血 流 速 度 別 に 分 け て 検 討 し た 。 血 流 速 度20cm/Sec以 上 の10例 の 内9例 ( 90% ) がRC陽 性 で 、 10例 ( 100% ) 全 て が F2ま た は F3で あ っ た 。 血 流 速 度 が15〜19cm/secの 9例 の う ちRC陽 性 は78% で 、F2ま た はF3も78%であった。
(2)胃静脈瘤の血流速度と内視鏡所見の比較
食 道 ・ 胃 静 脈 瘤 (Lg.c) と 胃 静 脈 瘤 (Lg・Dに っ き 血 流 速 度を 内 視 鏡 所見 と 比 較 する と ,RC( + ) 群(n=7)では28.00土4.24cm/secであるのに対し、RC(‐)群(n=7)では15.50土2.50cm/SecとRC(十)
症 例 の 血 流 速 度 は , 有 意 に 速 か っ た 。 一 方 , 静 脈 瘤 の 形 態 別 平 均 血 流 速 度 は 、F2暦3群 (n=8) が2738土3.73cm/secで あ っ た の に 対 しFo伍1群 (n=6) は14.17土2.01cm/Secと 有 意 にF2厄3が 有意に速かった。
(3)静脈瘤の血流方向に関する検討
内 視 鏡 所 見 上 , 出 血 の 危 険 性 が 高 い と さ れ る がF2停3か つRCく 十 ) 群19例 を 特 に 取 り 上 げ 血 流 速 度 と 血 流 方 向 を 比 較 し た 。 食 道 静 脈 瘤 の 血 流 方 向 は , 全 てF0刪ardで 血 流 速 度 は20.47 土2.11cm/secで あ っ た の に 対 し , 胃 静 脈 瘤 の 血 流 方 向 は ,AwayとFo刪 ardの 双 方 向 を 示 し そ の 血 流 速 度 は27.86土4.27cm/Secで あ っ た 。 両 者 間 の 血 流 速 度 に 有 意 の 差 が 認 め ら れ た 。
(4)血流方向と血管造影所見の比較
食 道 静 脈 瘤 単 独 例 (n=21) の 血 流 方 向 はEMDSで は 、 全 てFo刪 甜dを 示 し て い た 。 そ の 血 管 造 影 所 見 で は 、 左 胃 静 脈 が 食 道 静 脈 瘤 を 形 成 し て い た . 内 視 鏡 的 に 食 道 と 胃 の 両 者 に 静 脈 瘤 が 認 め ら れ 噴 門 輪 に 近 接 す る 静 脈 瘤 (Lg・c) (nニ10) で は 、 胃 静 脈 瘤 の 血 流 方向 がFo刪ardを 示 し た の に 対 し 、 噴 門 輪 よ り 離 れ た 胃 静 脈 瘤 (Lg・D(n〓4) は 、 全 てAwayを 示 し た 。 前 者 は 血 管 造 影 で 、 左 胃 静 脈 , . 後 胃 静 脈 , 短 胃 静 脈 が 食 道 胃 静 脈 瘤 を 形 成 し て お り 後 者 で はGastdcrenal shunt(GRS)が発達していた。
考察とまとめ
内 視 鏡 所 見 と 静 脈 瘤 出 血 と の 関 係 は 今 ま で に さ ま ざ ま な 報 告 が あ る が 、 予 想 出 血 率 も 報 告 者 に よ っ て 異 な る 。 こ の こ と は 、 内 視 鏡 所 見 が 観 察 者 の 主 観 を 含 む た と 思 わ れ る 。 食 道 ・ 胃 静 脈 瘤 の 治 療 に 対 す る 適 切 な 適 応 基 準 あ る い は 治 療 法 を 選 択 す る た め に 非 侵 襲 的 に か つ 客 観 的 に 血 行 動 態 を 評 価 し 得 る 方 法 の 開 発 は 、 こ れ ら の 治 療 成 績 の 向 上 に 重 要 か つ 急 務 な 研 究 課 題 と 言 え る 。 今 回 申 請 者fま , 内 視 鏡 的 ド ッ プ ラ ー 血 流 計 を 用 い る こ と に よ り 客 観 的 に 静 脈 瘤 破 裂 の 予 知 が 可 能 か 否 か を 知 る た め の 最 初 の ス テ ッ プ と し て 従 来 の 内 視 鏡 所 見 と 血 管 造 影 所 見 と の 比 較 を 行 っ た , 血 流 速 度 の 評 価 は 、 静 脈 瘤 の 血 流 が 速 く な る ほ ど 静 脈 瘤 に 発 赤 所 見 の 出 現 率 が 高 く20cm/Sec以 上 の 群 で は90% に 発 赤 所 見 を 認 め た 。 こ の こ と は 、EMDSに よ る