博士(医学)杉木博幸 学位論文題名
PDGF 受 容 体 に 対 す る ア ン チ セ ン ス オ リ ゴ を 用 い た 血 管 平 滑 筋 細 胞 増 殖抑 制
学 位 論 文 内 容 の 要旨
【緒 言 】 経皮 的 冠 動脈 形 成術(PTCA)は, 冠 動脈 バイ パス術に 比ベ侵襲 が少 なく,ま た反復し て施行可 能なこと から,狭 心症や心 筋梗塞に対 する有カな 治療 法 と して 定 着 しつ っ ある . し かし ,PTCA後の 冠動脈再 狭窄は, 約半数 近く の 症 例で 認 め られ , 虚血 性 心 疾患 の 治療 にPTCAを用い る上で最 大の問 題点とな っている .prl℃A後再 狭窄の機 序として は,バル ーンによる血管内 皮の機械 的損傷に 伴う血栓 形成,そ れに引き 続く中膜 平滑筋細胞 の内膜への 遊走 ・ 増 殖が 主 体 と考 え られ て お り, こ の過 程 にはPDGFを はじめと してい くっかの 増殖因子 やサイト カインの 関与が推 定されて いる.、こ の様なPTCA 後再狭窄 を防止す る目的で ,現在ま でに様々 な薬物が 検討されて きたが,充 分な効果 は得られ ていない .
近年,血 管平滑筋 細胞に外 来性遺伝 子を強制 的に発現 させたり, 内在性遺伝 子の 発 現 を抑 制 す るこ と によ り ,PTCA後再 狭 窄を 制御しよ うとする 遺伝子 治 療 の 可 能 性 が 検 討 さ れ て い る . 本研 究 で は,PDGF 受容 体mRNAに 対す るAntisense oligonucleotideを用い て血管平滑筋細胞の増殖抑制を試みた.
【方法】1. Antisenseoligonucleotideの合成
ラ ッ トPDGFa受容 体mRNAに対 す る3種 類のphosphorothioate antisense oligonucleotide(AS―No.1〜‑ No.3)を合成し,AS−No.2,No.3に対応するsense oligonucleotide(Sense‑No.2,No.3)を対照とした.
2. ASによるDNA合成抑制の検討
培養ラット胸部大動脈血管平滑筋細胞(Al0細胞)を24 well plateで4,OOO cells/cm2となるまで10% fatal bovine serum(FBS)で培養した.24時間同調 培 養 し た 後 ,AS 0‑‑1〃M存 在 下 に1〜4日 間 培 養 し , そ の 後3% FBS又 は
PDGF−AA,‑AB,‑BB(10ng/ml)で24時間刺激 した.増 殖因子に よるDNA合 成 の 程 度 は , 3H− thymidineの 取 込 み に よ り 定 量 し た . 3. PDGFa,p受 容体mRNAの 発現 量 の 検討
Al0細 胞 カ、 ら 抽出 し たtotal RNAから ,RTーPCR法 によ り ,ラ ッ トPDGF ロ 及 び ロ受 容 体 部分cDNAを 増幅 ・ 精 製し ,Northem blot法の 標識プロ ーブ を 作 成 した . Northern blot法 でAl0細胞 に おけ るPDGFロ ,メ受容 体mRNA の 発 現 量 を 検 討 し た . ま たASが 受 容 体mRNAの 発現 量 に与 え る 影響 は , 定 量 的RT−PCR法で 検 討し た .
【 結 果 】 1. ア ン チ セ ン ス オ リ ゴ (AS) に よ るDNA合 成 抑 制 の 検 討 3種 類 のASlルMをAl0細 胞 に3日 間 作 用 さ せ た と こ ろ ,AS‑No.3はPDGF― AB刺 激に よ るDNA合 成 をコ ン トロール に比べ有 意に低下 させた(pくO.Ol)・
ま たAS‑No.3 1/iMを3日 聞AIO細 胞 に 作 用 さ せ る と ,3%FBSお よ ぴPDGF‑
AB, −BB刺 激に よ るDNA合 成 を有 意 に 抑制 し た( コ ン トロ ール群 に比較し,
それ ぞ れ51%,44%,49%) . ま たSense‑No.2にはDNA合 成抑制 効果は認 めな かった.異 なる濃度 のAS―No.3(0.25,0.5,l冖M)は3ワ。FBS及びPDGF‑AB,
−BB刺 激 に よ るDNA合 成 を , 用 量 依 存 性 に 抑 制 した .ASと の 培養 時 間 を変 化 さ せ て 検 討 し た 結 果 ,AS‑No.3は 血 清 刺 激 によ るDNA合 成 を2日 で35 010 抑 制 し , 以 後4日 目 ま で同 様 の 抑制 を 示し た . 以上 よ りAS−No.3は,A10細 胞 のDNA合 成 を 用 量 依 存 性 に 抑 制 し , そ の 効 果 発 現は48時 間 以 内に 最 大と なることが 示唆され た.
2. PDGF口,p受容 体mRNAの発現 の検討
Northem blot法 で 検 討 し た 結 果 ,Al0細 胞 で はPDGFp受 容 体mRNAの 発 現 を 認 め た が , PDGFa受 容 体mRNAの 発 現 は 同 定 さ れ な か っ た . ま た , AS−No.3,Sense−No.3(1メM)はPDGFp受 容 体mRNAの 発 現 に 影 響 を 与 え な か っ た .RT−PCR法 に よ る 検 討 で は ,AS−No.3(1ルM) はPDGF& 受容 体 mRNAの 発 現 を 低 下 さ せ た が ,Sense‐No. 3で は 変 化 が な か っ た .
【 考察 】 近年 ,PTCA後 再狭 窄 を防 止 す る目 的で ,アンチセ ンス遺伝 子の血 管平滑 筋細胞へ の導入が試 みられる 様になっ た.現在 までに,細胞周期関連 遺伝子ではproliferating cell nuclear antigen(PCNA),cdc2やcdk2kinase, oncogeneではcーmybやc‑myc遺 伝子 等 のmRNAに 対 す るア ン チセ ン ス 遺伝 子 につい て検討さ れており, いずれも 平滑筋細 胞に導入 することにより増殖抑 制効果 を有する 事が報告さ れている .しかし 細胞周期 関連遺伝子はすべての
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増殖細胞で普遍的に発現することから,その発現を抑制するアンチセンス遺 伝子を用いた場合,分裂細胞の豊富な他の臓器・組織への影響が懸念され,
実際の臨床応用には問題が多い′と思われる.本研究では,PDGFロ受容体 mRNAに 対す るASを 用い て ,主 要 な増 殖 因 子で あ るPDGFに由来 する増殖 シグナルの抑制を試みた. PDGF 受容体は各細胞種によりその発現の程度 が異なることから,同受容体をASの標的とすることで臓器選択性を高める ことが可能である.
血小板 由来増殖因 子PDGFは分子量約3万のA鎖とB鎖の2本のpolypeptide のdimerからなる蛋白質で,PDGF‑AA,―AB,―BBの3つのisoformが存在する.
一 方,PDGF受 容体 にはロ ,pの2つのsubtypeが存在し,PDGFと結合した 後dimerを形成する .PDGF―A鎖 はa受容 体と特異的 に結合し,B鎖はa,p 両受容 体に対して 親和性を有 する.本研 究で検討し たPDGF 受容体mRNA に対す るASは,平滑 筋でのd受容体の発現を抑制することで,動脈硬化巣 において発現の亢進したPDGF‑A鎖の細胞増殖促進作用をより効果的に抑制 することが期待される・
本研究 で検討を加 えたAS‑No.3は,3%FBS,PDGF‑AB.‑BB刺激によるDNA 合成をl冖Mまでの濃 度で用量依 存性に抑制 した.受容 体mRNAの発現の検 討 では ,AS‑No.3は 受 容体mRNAの 発現 を 低下 さ せたが,p受容体mRNA の 発現 に は変 化 がな かった.セ ンスオリゴ はDNA合成 ,及び受容 体mRNA の発現 に影響を与 えなかった .この事か ら,AS‑No.3は 標的であるPDGFd 受 容体mRNAの 発現 を 配列 特 異的 に 低下 さ せ, そ の結果AlO細胞のDNA合 成を抑 制する事が 示唆された.ASによるDNA合成抑制の時間依存性を検討 した結 果,血清刺 激の場合,AS添加2日 目において35ワ。のDNA合成抑制 が認められ,以後4日目まで同程度の抑制効果が観察された.AS遺伝子は,
PDGF受容体のdenovo合成を抑制するが,すでに発現している受容体に対し ては抑制効果を持たず,ASの効果発現には受容体蛋白の代謝回転を待たなく てはならない.この実験結果から,細胞膜に存在するPDGF受容体の代謝分 解には48.時間は必要である事が示された.したがって本研究で検討を加えた ASをinvivoで応用 する際には ,短期間でPDGFの作用を抑 制するような受 容体阻害剤との併用が必要となると思われる.
本研究において,PDGFロ受容体に対するアンチセンスオリゴを用いるこ とで, 血管平滑筋 細胞のDNA合成を著明に抑制し得た.今後,最適な塩基 配列の決定や,動物モデルを用いたinvivoでの検討が必要であるが,PTCA 後 の 再 狭 窄 の 予 防 に 本 法 が 有 用 で あ る 可 能 性 が 強 く 示 唆 さ れ た .