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理科教育における観察の機能に関する

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(1)

理科教育における観察の機能に関する

実験的研究(第一一報)

一ヨウ素の実験における観察機能の分析一一

自然科学教育研鋸室 高  野  恒  雄

§L研究の意味

§2・実験的調査の方法

(1)調査対象

(2)問 題 実 験

(3)探 点基準

§3・調査結果と考察

(1)得点分布

(2)各現象の観察率

(3)その他の結論

a) 学業成績,知能指数との関係

b)観察における先入観の害

結     び

§1.研究の意味

現在の理科教育においては知識と同等・否それ以上に能力,態度即ち科学的なみ方,考 え方を養うことが重視されている。換云ナれば科学的方法の養成が強調されている。この ことは誰しも異存のないところである。この科学的方法の養成ということは,講義式乃至 は話し合いといつた学習形態では,至憤+分に養うことはできない.どうしても,科学的 方法を運用せねば轍できないような現実の揚に当面して学ばねばならない性質のもので ある。この種の現実の揚というのは理科教育においては,まず実験観察掌習において構成

されるのが普通である。従つて理科教育における最も大切な学習形態は,実験観察学習で あるといつても過云ではないであろう。この実験観察学習を進めていくに当つて欠くべか らざる働きをするもの,換云すれば中心的な機能をなすものは観察の機能である。なぜな らば実験とは条件を統制して行う観察であることを考えれば実験観察学習の活動の中心 は観察の機能にあることは明らかである。そこでこの重要な観察の機能を十分に養成する

(2)

90       茨城大学教育学部紀要第五号

には,いかなる学習指導法が最も適切であるかという問題を解決したい考えの下に,本研 究は行われているわけである。この問題を解決するには是非共その前提として,観察の機 能それ自体を分折解明する必要がある。本研究の現在の段階はこ〜にあるわけである。こ の種の研究は筆者の見聞しているところでは,全く行われていないのである。本研究の現 段階における研究方法としては,できるだけ現揚の理科教育に即させるため児童,生徒,

学生を直接対象とした実験的調査とその分析,考察を主としている。

この第一報においては小学校から大学までの児童,生徒,学生に,予備知識の有無が観 察結果になるぺく関係しないような性格をもつている実験(これを問題実験と称する)を

させて観察結果を記録せしめるという方法を採用した。この問題実験のもつぺき性格とし て,実験条件を統制することが容易であること,再現性の確実な現象であること,実験材

料を容易に揃えることができるものであること,実験内容に関する専門的知識なくして表 現できるような現象であること等の条件が重要である。この観点から生物,鉱物等の我々 の周囲め自然界から直接問題実験のサンプルを得ることは余り望めず,人工的なサンプル を用いる方が適切であることになる。このような理由から本第一報においては問題実験と

して後記のようなヨウ素の実験を選択したわけである。

§2.実験的調査の方法

(1)調 査対 象

茨城大学教育学部学生約200名,県内ニケ所の高校二年生約80名,中学一年生約15名,

小摯五年生約15名。

(2)問 題 実 験

調査開始前に,各被検者に容量20ccの試験管に約50mgのヨウ素を入れたものと,ア ルコールランプを1個ずつ配布しておき,この調査の意義を簡単に説明してから,次のよ

うな意味の指示を与える。

「試験管の中には少量のヨウ素が入れてある。今これをアルコールランプで熱していく と,かなり多くの現象がみられるが,それらの現象をできるだけ詳しく観察して記録して 欲しい。ただし熱し方は始めは静かに熱して,少し時間を経過してからは,どのような熱

し方をして尋,よろしい。時間は60分である。」

(3)採 点 基 準

上記の問題実験の観察を与えられた条件においてもし完全に行つたなら,いかなる観察 結果になるかを筆者及び二三の本学教官,教育学部及び文理掌部の一部の学生等の回を重 ねての観察により次のように決定することができた。まず「観察し得る現象」の各々の要

(3)

点を表に示すと第1表のようになる。

第   1  表 第1表に示した

番号1    現      象 ]1 現象はその要点の

       一『皿一一

hi紫色の気体が発生ナる。 1  みを記したもの

2 で,これらの現象

固体→気体,固体→液体→気体の二経路がある。

を少しく詳しくの

一『一u

4 管壁に針状結晶が析出ナる。

ぺれば次のように  5

鼈鼈鼈鼈 1  なる。術その現象

6  上方程結晶の分布が粗である。

「  の考えられる理由

71樹枝状結晶(星型,H字型等も)ができる。

1をものべるがこれ  8

│ 

結晶は管壁に一様にはつかず,核を中心として成長ナる。

@      111 は採点基準には含  9

齊M一置而一一

1析出した結晶を軽く熱ナると,鵬の模様ができる・

1  めないものであ

10

熱した管壁は結晶清失後,隅色の曇りを生ずる。

1「  る。

11

析出した結晶を熱すると,その上方・下方に新たに析出ずる。 1

1   (現象1) ヨウ

12

発生した気体は室気より重い。

素を入れた試験管

13

手や紙に附着した結晶は一様に黄褐色を呈する。

1列髄・対してほぼ蛸に立つている結晶棚る. の底をアルコール

@       \ 1釧析出した結晶がとけて流ける場合,鰯現象を呈する。 

@ 〔

ランプで熱する と,すぐモヤモヤ した紫色の気体が発生するのが認められる。

(現象2)一方ヨウ素は液化し,紫色の液体にもなる。簡単に液化するところから,融 点は余り高くないものと推察される。

(現象3)現象2の液体ヨウ素は結局は気体になる。従つて固体のヨウ素は固体→気体

(昇華),固体→液体→気体の二つの経路をへて最後に気体となることが理解される。

(現象4)紫色の気体は試験管の壁で冷却されて,黒紫色の針状結晶となる。

(現象5)管壁に析出した結晶の分布は一楼ではなく,部分により様子を異にするので あるが・まず熱し方の強弱によつて,結晶の析出揚所が次のように異ることが認められ る。即ち試験管を傾けて軽く熱した場合は熱源(アルコールランプの炎)と反対側の上側 管壁に主に析出し,や㌧強く熱した揚合は熱源側の管壁の管口にや㌧近い部分(下側管壁 といつてよかろう)に主に析出するのである。このことは軽く熱した揚合は上方管壁は暖 たまらず,ガス状ヨウ素を冷却することができるので析出するが,強く熱した揚合は上方 管壁はかなり温度が高くなり冷却作用はなくなり,一方ヨウ素ガス及び空気の対流現象が 活澄に行われ,その結果として下側管壁に析出するに至るものと考えられる。

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92      茨城大学教育学部紀要第五号

(現象6)管壁に析出した結晶の分布を試験管の長さの方向に沿つて観察すれば・管底 に近い部分即ち下方の分布は密で,管口に近い部分即ち上方の分布は粗であることが認め

られる。これは後記のようにヨウ素ガスは空気より重く,従つて上方程ガスの密度が小さ いので析出する揚合も少量の結晶が散乱して管壁に附着することになるものと考えられ

る。

(現象7)析出した結晶の中には樹枝状結晶(H字型及び星型結晶も含む)がかなり 多く存在する。これは熱し始めてから少しく時間を経過してからみられるのであるが,析 出する揚所は底部を熱した揚合には相当下方即ち底部に近い部分であり,管側の一部を熱 した揚合には,その熱源のあるところの少し上方の部分である。換云すればヨウ素ガス密 度が大で,余り急冷されない部分に生成されるわけである。そのような揚所は結晶の成長 に都合よいわけである。

(現象8)加熱をかなり長時間に亘つて行つても,結晶は管壁一・面に…様には析出せ ず,散乱した核を中心に成長するという事実である。結晶は管壁に冷却されて析出するわ けであるが,その冷却作用は管壁の各部分について…様iであるから析出も連続的に一檬で あつてもよさそうであるが,結晶の析出,成長の性質から散乱して附着する。この事実を 認知することは現象を本質的に把握することの一端であると思われる。

(現象9)一旦結晶が析出した部分(側部管壁)を一寸熱してすぐ炎を取去ると,今ま で析出していた結晶の分散している間に,ごく小さい結晶が散乱析出して,独特の摸様が できる。この揚合今までの結晶のすぐ周辺は,何も析出せず空白状態になつている。これ は今までの結晶の周辺に存在するヨウ素ガスは,新たに核を生成して成長するよりは,今 まで存在していた結晶を成長させるようにその上に析出する方が容易なためと考えられ

る。

(現象10)試験管の底部を熱していくと,遂に固体ヨウ素は消失して,上方の管口近く にだけ結晶が附着している状態になるが,これを徐冷すると底部に暗賜色雲状の曇りが認 められる。これは徐冷する際もごく僅かの量のヨウ素ガスが存在していて,普通と異なる 結晶状態で析出するためと考えられる。

(現象1D一旦上方に結晶が析出した部分を現象9の揚合よりも長時間熱すると,これ が気化し再び他所で冷却されて管壁に結晶として析出するのであるが,このとき新たに析 出する結晶は熱した部分の上方と下方の両方の管壁に散乱附着し,その散乱状態は熱した 部分より遠い部分程粗で,近い部分が密になる。即ち熱した部分より上方管壁においては 上部程粗であり,下方管壁においては下方程粗である。故に現象6は試験管の底を熱した 揚合のことで,一旦析出した結晶を側壁から熱した揚合は上下によつて結晶の粗密が決定

(5)

せられるのではなく,熱した部分からの距離に依存することが了解される。

(現象12)試験管の長さの下方半分を一様ウ・熱して艶のガスを滞に拡がらせてお

        き・試験髄垂直に保つて徐冷すると次第1・棚する結晶は底部に集中する.劇、試験管峰        を机上に横にして徐冷すると,机上に接触している側面に線状に析出し,試験管を逆さに

した場合は紫色のガスはその一部がキラキラ光る結晶微片になりながら落下する。故にヨ ウ素ガスは空気より重いことがわかる。

(現象13)現象12の揚合のように艶のガスを拡がらせておき,てのひら取1ま紙上に 倒立すると,それらの上に集中的ζ・蜘の形と全く同膿艶円状に儲する.この船 臆すべきことは,ヨウ素の結晶は瀬管壁即ちガラス上に棚した揚合は黒紫色で,核

を中心にして成長するのであるが、てのひら又は紙の上では褐色で一様に析出することで ある。即ち結晶の附着する物体の性質によつて,結晶の色及び散乱状態を異にすることが

認められる。

槻象14)現象7に記述した樹枝状結晶の中には,醒に対して垂直に立つて、、るもの がある。この状態は管口から試験管内部を覗くことにより容易に観察される。これは最初 編の核の発生が早く,その部分の・ウ素ガ樒度が大きく,しかも徐冷される部分々、生 成されるようである。

(現象15)試験管を静かに熱していくと,始め底のすぐ上の管壁に結晶が析出するが,

そのまま熱していると熱が結晶の析出している部分に達し結晶がとける。このとけ方はま ず各結晶がとけて半球状の滴になり・これが下方に流下しながら周囲の他の滴と合体して まとまり痩に流下すると温度の高い部分に至・睡し,蒸発して消失する.そして編し、、

結晶が最初析出した部分より上方に析出する。この現象はくりかえされ,結晶は益々上方 に移動して析出する・これは試験管中における熱の伝導に,ある程度の時間を要するため に起るものと解せられる。

以上15の現象以外に・次の二つの現象力湿出されるがこれらは除外した_つ}まヨウ素 特有のにおいである・嗅覚でとらえたものも礒の観察といえるわけであるが,現在の_

般人の常識は視覚によるもののみを観察と考える傾向がかなり強いので,ヨウ素のに才δい を十分認めていながら記録はしない被検者が存在することを考えて,記録の信頼度が4、さ い理由から除外した。この揚合問題実験を与える前に嗅覚でとらえられるものも記録する ようにと指示することもできることではあるが,この種の指示は一方において鯛の刺戟 を与えることになるので行わなかつたのである。もう一つの現象は,試験管の底をアルコ 一ルランプで静かに熱し始めるとき,ヨウ素に含まれると考えられるごく少量の水分や試 験髄部に附着していると考えられる水分等が蒸発し,これが上方管壁に融Pされ凝縮し

(6)

94      茨城大学教育学部紀要第五号

て白くかすんでみえるのであるが,この現象は材料の乾燥程度等により個人差を生ずるの で,採点の際覗象として評価すること1ま妥当でないと考えて除外した・この二つの現象 以外にも偶然的には認められる現象があるが,それらはその偶然性の故に除外した。

このような事情により結局は上記の15の現象になるわけであるが,この15の現象の内一 つの現象を見出し記録できた揚合これを仮に1点の得点とすると,各被検者のこの観察に おいて見出すことがで去た現象の数を点数にて表すことができるわけである。実際に採点 する揚合には各現象を上記のような表現で記録しなくても,実質的にその現象を認めてい るとはつきり判断できるときにはこれを得点に入れた。なぜなら表現力が十分でないと,

例え現象を見出していても,現象の記録は必ずしも完全な形にはならないから,表現力の プアクターをできるだけ除くためにそのようにしたのである。それからこの揚合注意すべ きことは,こ㌧に出て来た得点は普通一般に行われているテスト類における得点とは多少 意味を異にすることである。例えは4点と6点との差2点と6点と8点との差2点を同等

の比重を以て考えるのは妥当ではなく,後者即ち6点と8点との差2点の方を相当比重を 大きくみなければならないのである。

§3.調査結果と考察

(1)得 点 分布

茨城大学教育学部学生及び県内ニケ所の高校の男子高校生及び女子高校生に対する掌験 的調査において得られた結果を主としてのぺる。まず得点数と入数(%)との関係を第1

図に示す。

叉大学生の揚合について,得点数を多少段階ずけると,全被検者に対して得点1及び2 の者は11.7%,得点3及び4の者は53.6%,得点5及び6の者は29・6%・得点7以上の者 は5.1%となる。第1図及び上記のことから大学生及び高校生の何れにおいても,点数3・

4,5点の者が全被検者の大半を占めることがわかる。平均点は大学生4・0,高校生3・9で あり差は僅少である。中,小学生はかなり低くなるがその差は甚大ではない(人数が少な

       

「ので余り意味をもたせないことにする)。ただし最高点は大学生10点,高校生8点,中 学生6点,小学生4点と各々2点ずっの差を以て段階ずけられる・徒1得点10点の大学生は 例外的存存であることは事実である。

上記のように平均点が学校の段階によつて大きな差を生じないということの大きな理由 として,この観察が15の現象の内3〜4個の現象は観察が容易であるが・他はある程度融 通のきいた実験操作と多角的な観察視点の変化を要するものが多いということが考えられ る。又即断は許せないが,現在の教育制度,教育方法においては観察力という機能的なも

(7)

のの養成は意識的,計画的指導と       第   1   図

しては余り行われず,まだまだ不      40

徹底のため,上級学校に進むにつ 黷ト観察力も上昇するということ

ヘ余り期待できないことも原因す      30

驍ゥもしれないのである。この点 人

唐オては今後顛に喉してみ教たい考えである。      (      2ρ       彦 次にこの得点数は男,女の別に  ・ノ

慮≡難笙1ハ1ll,111レ111 馬覧

よつて何らかの有意の差ありや否

竄ニいう疑問について簡単にのぺ      10

驕Aまず大学生における結果は,

件統制のため一年生のみの男,

翌フ各平均点をとつてみると男子   0

l w、l ll

撃撃戟e   1:    騒ぺ\          、

〃 ノ 2 3 4 乎 6 ク2 9〃〃∠3βノタ18

歎3賄汝弾生4・q配な      臭数

り僅かに女子学生の方が上位にな

るが,この位の差では有意の差ありとはいえないであろう。高校生においては2年生の 男,女の平均点は男子生徒3.7点,女子生徒4.0点となり,これは一応女子生徒の方が上 位になるといえよう。しかも中,小学生においては女子生徒,女子児童の方が男子生徒,

男子児童より明らかに上位を占める。これらの結果から大約次のことがいえよう。この間 題実験の観察力は小,中,高校生においては女子の方が上位を示し,男子は劣るが,大学 生になると男・女の差はほとんど消滅する。高校生までは男子が劣ることの理由として,

記録をみていて次のようなことがわかる。男子生徒の観察記録は,かなり理屈つぼいもの が多い。しかしその多くは間違つた仮設を有敢にも立てているものである(例え正しい仮 設でもこの問題実験の揚合,理由は不問にしているのであるから得点にはならない)。こ れに対し女子生徒はたんねんに,所謂几帳面に細かく現象を記録しているものが多い。そ の結果として見出す現象の数は割に多くなつている。この傾向は大学生になるとずつと少 なくなるのである。

次の疑問はこの観察得点はヨウ素について学習経験のある者とない者では,相当大きい 差を生ずるのではないかということである。そこで他の点については条件統制した大学生 について調べたところ,ヨウ素の学習経験を有する者の得点は4.1点,学習経験を有しな い者の得点は40点であつた。この揚合α1点の差は有意の差とは認め難い。故に問題実

(8)

96      茨城大学教育学部紀要 第五号

験内容であるヨウ素についての学習経験の有無に関係せずに,機能的な観察力を示す得点 であることが理解されるのである。

もう一つの問題は視力と得点との関係であるが,視力のこくよい者でも極端に低い得点 の者があることは勿論であるが,又視力0.3位の者でも得点の大きい者もあり,この揚合 関係はほとんどみられないのである。

(2)各現象の観察率

観察し得る15の各現象について,その現象を観察し得た被検者は全体の被検者の何%に 当るか(これを観察率と称する)を示したのか第2図である。被検者は大学生及び高校生

である。

第    2    図

10ρ

唖 フく学生

ρo 翻雰塙按生

観80

画ナ瑞校生

寮ワ・

シ:1

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数60

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o  ∫

2・   3   4   5馬   6   7   8   9レ   ぜ「0       12   !3   1チ   

規象番号

第2図から現象によつて観察率に非常に大きな差があることがわかる。全体的にみて大 約次のようなことがいえる。巨視的(マク・)な現象は観察率が高い,即ち観察し易く,

微視的(ミクロ)な現象は観察率が低い。部分の現象を他の部分叉は全体の現象と関連さ せなけれは認められない現象(例えば現象3,5,911等)は更に観察率が低い,即ち観察 が難しい。この事実から次のような示唆が得られる。観察力の養成に当つて特に重要なる 心構えとしては,第一に微視的観察に習熟すること,換云すれば微に入り細を穿つ観察態 度の養成をなすべきことであり,第二には現象の部分と部分,部分と全体の関係を把握し

(9)

ようとする観察の心理的構えを養うよう努力すべきである。以上の事柄はこのヨウ素の観 察においてだけいえることではなく,第二報の水素の観察においても肯定できることなの

である。

次に得点数の大小と現象の種類の関係即ち得点の多い被検者は15の現象の内主にどの現 象を観察しており,又得点の少い者はどうかという点について調べてみると,かなり著し い特色がみられる。これを第2表に示す。

第  2 表 第2表はこのような意味をもつ。例えば        一一『

@       「入数百分率得点数1得点の内訳㈱察した現象)i (%,      一 2点得点した被検者の内,現象1及び現象

21現象1,4 86.4 4を観察し得て2点を得た被検者の,その

_1

 …R

現象1,2,4

41.5 他の場合を含む2点得点者全体に対する人

穿

現象1,2,4,7

42.3 数の百分率は86.4%である。3点以上も同

51

現象1,2,4,7,10

17.5 様の意昧である。従つて得点数の少い,即

ち観察力を発揮できない者は観察における 目のつけ所がかなりよく似ている傾向にある。即ち一種の類型が存在するわけである。こ れに対し得点数のごく多い者の揚合は,得点数の少い者の観察した現象(現象1,2,4,

7,10等)は勿論観察しているのであるが,その他の観察現象は個人性が強く,類型はほ とんどみられないのである。

以上の外に各現象の観察率に関連して次の二つのことがいえる。第一は操作いかんによ り観察できたり,できなかつたりする現象,例えば現象9,11,13等は非常に観察率が低い ことである。これは実験操作をいろいろ工夫して多種行うことがなされていないことを意 味する。即ち実験操作の多角性,融通性の重要さを物語るものである。第二は同一現象が 試験管の上方,下方等異なった揚所或いは異なつた時に起った揚合,これを同一現象とし て認めることができない者が多いことである。例えばヨウ素の結晶が析出するのをみる度 に現象4を繰返し記録していること等である。即ち記録の反覆が烈しいのである。これは 盲目的観察,記録の成分を含んでいることを示すと思われる。ちなみにこの事柄は年少者 程多くみられるのである。

(5)その他の結論

a)学業成績,知能指数との関係

小,中,高校生についてこの関係をみたのであるが,詳しい吟味は今後なす予定である からこ》では簡単にのぺると,得点数との関係は学業成績,知能指数共に余り大きくはな いが+の相関がある。そして学業成績の方が幾分相関が大である。

b)観察における先入観の害

(10)

98      茨城大学教育学部紀要 第五号

先入観のために観察ができなかつたり,歪曲されたりする例はいくつかの現象について みられたが,その代表的なものは現象3についてである。現象3即ち固体のヨウ素は固体

→気体(昇華),固体→液体→気体の二つの経路をへて最後に気体になることの認知がで きない者が大部分なのであるが,その理由が観察記録からある程度推察されるのである。

即ちヨウ素といえば固体から液体を経ずして直接気体になる,所謂昇華の現象が固定観念 として存在しているので,液化して後気化するという観察至極容易な現象を目の前にして いながら認識することができないか,或いは敢えて認識しようとしないのである。

この外に先入観の顯著な例は現象12についてである。ヨウ素ガスは空気より重いことの 観察であるが,全く逆に空気より軽いと記録している者がかなり多い。との理由を調ぺて みると,最初試験管の底部を熱したとき気化してできたヨウ素ガスが上方にモヤモヤと緩 やかに上昇するのをみて,熱するという条件を考慮せずにヨウ素ガスは空気より軽いと判 断したもののようである。そして熱しないときのヨウ素ガスの動き,析出状態等には着目 しなかつたわけである。即ち実験の最初の印象により,後の観察が妨害されたことになる

のである。

以上のことから先入観の排除ができない者にとつては生半可な知識や印象は観察におい て単に無益であるばかりでなく,有害でさえあることが理解される。

結   び

以上はヨウ素の実験における観察機能の分析を実験的調査によつてなした結果である が,今後は他の実験の揚合の分析及び次第に厳密な統計処理をするよう努力していきたい

と考えている。

〔後記〕本研究は昭和29年11月13日,日本理科教育学会第四回全国大会(於横浜国立大 挙学芸筆部,鎌倉市)において講演してある。

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