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理科教育における観察の機能に関する 実験的研究(第五報)

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101

理科教育における観察の機能に関する 実験的研究(第五報)

ヨウ素の観察における観察方法の吟味

自然科学教育研究室 高  野  恒  雄

§1.緒   言

§2.調 査 方 法 α)調 査対 象

(2)観察方法の指示の与え方

§3.調査結果と考察

(1)観察記録の実例

② 観察得点分布に見出される差違

(3)各現象の観察率に見出される差違

       』

i4)学業成績,知能指数,視力との階関に見出される差違

§4.結   び

§1.緒   言

筆者はこれまで,理科実験観察における最も中心的な機能の一つである観察の機能につ いて,児童,生徒,学生を対象とした実験的調査とその分析を行つてきた。そしてその結 果を,いかにしたら観察力を十分に養うことができるかという指導方法の問題と結びつけ

ていろいろ検討し,いくつかの結論をえてきた。

その一つの研究段階として第四報(茨城大学教育学部紀要,第6号,86頁)においては 第二報(前記紀要,第5号,99頁)に用いた問題実験である水素の観察(試験管中の0・1 規定硫酸に約1gの華状亜鉛を投入したときに現われる一連の現象を,できるだけくわし

く観察する)を被検者にさせるとき,異なる観察方法をとると観察結果にいかに影響する かという問題を小学生を対象としてしらぺ,その結果観察方法の指示効果が大きいことを 確認したのである。

本第五報においては,第四報において研究した観察方法の指示効果の問題を,第一報(

前記紀要,第5号,89頁)に用いた問題実験であるヨウ素の観察(少量のヨウ素を試験管 に入れて,アルコールランプで熱したときに現われる一連の現象を,できるだけくわしく

(2)

観察して記録する)を被検者にさせた場合に,どのようになるかをしらぺ,その結果を第 四報の水素の観察の場合と比較し,それをもととして観察力養成の問題について考察した

のである。

§2.調 査 方 法

(1)調 査 対 象

茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一小学校,6年生85名(2クラス)および4年生53名(

1クラス),計138名。

(2)観察方法の指示の与え方

ヨウ素の実験を被検者にさせるとき,第四報の水素の実験の場合と同様に被検者を二つ のグループにわけ,各々異なる観察方法をとらせた。その異なる観察方法というのは,つ

ぎのようなものである。

一つは第一報におけると同じ問題実験の与え方をする自由な観察方法である。すなわち その要点は「試験管中に約50mg程度のヨウ素を入れ,これをアルコールランプで熱して いつたときに現われる一連の現象を,できるだけくわしく観察して記録する」という方法

である。

もう一つは,実験要領は上と同じであるが,この際疑問形の文章を用いた観察方法の指 示を7項目与えておいて,観察させる方法である。6年生に指示した観察方法は第1表の

ようなものである。

第   1  表

指示したヨウ素の観察方法 (6年生用)

      罰_一一一一

o}一一

(1)試験管の底を静かに熱すると,どんな現象がみられますか。

②試験管の壁はどのように変りましたか。

㈲ 今度は壁を熱してみると,どんなことが起りますか。

㈲試験管を逆さにしてみると,どうなりますか。それはなぜですか。

(5)試験管をてのひらや紙の上に遡こすると・どうなりま軌

@   1

(6)試験管の口から中をのぞいてみると,どんな状態がみられますか。

(7)ここでもう一度試験管の底をみると,どんなになつていますか。

また4年生に観察方法を指示する場合には,文章による抵抗を軽くすをため第2表のよ

うなものにした。

(3)

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第五報)   103 第   2  表

指示したヨウ素の観察方法 (4年生用)

一一

i1)しけんかんのそこを,静かにアルコールランプに近ずけていくと,どうかわりま

すか。

② しけんかんのかべは,どんなふうに変りましたか。

 ㈲ こんどは,かぺをランプに近ずけてごらんなさい。どうなりましたか。

p (4) しんけんかんを,さかさにしてみなさい。どんなになりましたか。

1㈲ しけんかんを,手のひらや紙の上に,さかさにするとどうなりますか。

(6)しけんかんの口から中をのぞいてごらんなさい。どんなになっていますか・

(7) もう一度しけんかんのそこをみてごらんなさい。どうなつていますか。

       一一

@       

いずれも,現象そのものを指示したのではなく,実験操作と着眼点だけを指示したわけo一一

である。実際に観察させる場合には,水素の観察の場合と同じようにこの観察方法を一度 よんでやつてから,とりかからせた。

以上の二つの観察方法によつて,観察結果がどのように異なるかをみるのであるが・こ 一       の場合第四報においてものべたように,Rotation methodをつかうことは不可能であり・

構成の似ているごつのクラスを被検者にして,一方のクラスは自由な観察方法で,他方の クラスは観察方法を指示して観察してもらつたのである。また観察時間はいずれの観察方 法の場合も60分であるが,小学生なので実質的には40分以後は観察およびその記録がほと んど停滞するに至る。採点基準は第一報にのべてある通りであり,一現象を観察できた場 合を1点と採点した。

§3, 調査結果と考察

(1)観察記録の実例

ヨウ素の観察において観察方法を指示した場合,小学生の被検者はどのような観察をし ているかを個別的にみるために,実際の観察記録をあげてみる。6年生2名,4年生1名 のものである。

まず6年生の女子児童のものをあげる。視力は左右ともに2・0であり,学業成績は5段 階法で全教科,理科ともに4である。

「(1) しけんかんが,うすむらさきいろになつてきた。だんだん,こいむらさきのガスになつて

くる。

② ちよつとあぶると,とけてあわのようなのが,わつとあがる。こいむらさきいろが,また うすむらさきにかわつてきた。

(3) しけんかんのなかがわに,ぎんのこなのようなものがついている。そこをアルコールラン

プであぶつてみると,ヨウソがぽとりぽとりとまるくなつて,とけておちる。それがまたガ

スになる。こんどは上のほうでなく,下のほうをあぶると,うんとこいむらささになつた。

(4)

(4)あぶつているときに,なかをのぞくと,ぎんのこなのようなものが,たくさんついている。

その中に雪のようなかたちをした黒いのがある。

㈲ 上をあぶつて,紙の上にさかさにしたら,紙がきいろくこげたようになつた。

(6)しけんかんの中をのぞいたら,たくさんそろつてヨウソが立つて,かべについている。

(7)またあぶつてみたら,そこのほうにヨウソがすこしのこつているだけになつた。それをあ ぶると,うすむらさきになつた。しけんかんをもつていた手のいうが,へんにかわつた。火 からおろしたら,うすいむらさきいろになつた。」

この観察記録は,指示した観察方法の各項の番号の順には記録されていない。このほか の記録でもそうであるのが多い。第四報の水素の観察の場合には,指示した番号の順に整 理されていた。ヨウ素の観察の場合の方が,実験操作も加熱をともなうので複雑であり,

現象も動的なので,記録をよく整理して指示された通りに書いていくということが,やや むずかしいのではないかと考えられる。それはともかく,この記録はなかなかよいところ

を観察している。急所を逃さずに,よくとらえて観察している。この記録を,第一報にの べた採点基準によつて採点すると,現象1,2,4,7,13,14,15を見出していること になり,得点は7となる。観察方法の指示によつて,小学校6年生にも,このような高得 点者がかなり出てくるのである。

つぎは同じ6年生の男子児童のものであり,視力は左右とも2.0,学業成績は全教科,

理科ともに4である。

「〔1) ヨウソがむらさきいろになつて,ひろがつていく。ももいうにかわつた。

② しけんかんの中に,こまかいものが,かべについてきた。こまかいものが,ひとどころに あつまつてきた。いままで,ももいうだつたガスが,すくなくなつてきえてきた。かみの上 にのせると,ヨウソがうすくなつた。

(3)あぶつてみると,またしけんかんの中のほうはむらさきいろになつて,しけんかんのさき のほうがぎんいうになつた。

㈲ さかさにしたら,むらさきいろのけむりがでてきた。

㈲ かみの上にさかさにあてたら,みぎのように,だいだいいうになつた。

(6)しけんかんのかぺに,ヨウソがはりの山のように立つてついている。

(7)しけんかんの中ぐらいのところに,ヨウソが,ゆきのけつしようみたいなかたちになつて

のこつていた。

⑧ しけんかんをあぶつているうちに,むらさきいろのけむりがでてきた。」

この記録の(5)で「かみの上にさかさにあてたら,みぎのように,だいだいいうになつた

。」とあるが,これは記録した紙の右の方に,試験管を逆さにあてた跡があり,これを線 でかこんであることをいつているのである。ごのように直接記録用紙を利用して現象を示 している(ただし,紙に付着したヨウ素は時間がたつと,昇華してなくなつてしまう)者 はかなり多い。この記録は比較的短いが,なかなかよい観察をしている。採点基準によつ て採点すると,現象1,4,7,12,13,14を見出していることになり,得点は6となる。

もう一つ,4年生の女子児童のものをあげる。視力は左LO,右0・9であり,学業成績

(5)

高 野: 理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第五報)    105 は全教科,理科ともに5である。

「(1)はじめ,うすむらさきになつて,ひろがつた。そしてまたあぶつてみたら,きんいろのこ ながちらばつた。こんどは,まわりがくろくなつてきた。そしてくろいのが,ぽつぽつなつ てきた。ようそがだんだん上にいつてしまつた。

② またあぶつたら,しけんかんのそこのほうは,ようそがぺつたりすいついて,はなれない ながれたようになつている。とろけたようそがある。

③ 手のひらへのせたら,きいろくなつた。これをかみにのせたら,また同じようにきいろに

なつた。

ω さかさにすると,むらさきいろのけむりがでて,そのけむりが手やかみにくつついて,き いうになる。そのけむりは,さかさにしなければでてこない。きいろになつた手は,すぐき えてしまうが,かみについたきいろいのは,なかなかなおらない。

(5)しけんかんのなかは,あぶるとすぐむらさきいろになる。」

4年生は6年生に比べると表現の適格さは劣るが,なかなか鋭い観察を行つている。特 に㈲のところでは,試験管を逆さにしたときの観察がよく条件吟味されており,記述もな かなか論理的である。この記録を採点基準によつて採点すると,現象1,2,4,12,13 を見出していることになり,得点は5となる。

以上の三つの例からも感じられるが,全体的に観察方法を指示した場含には,観察にお ける観点がよくえらばれており,そのため有効にかなり多くの現象を見出していることが

わかる。

(2)観察得点分布に見出される差違

6年生の二つのクラスをとり,前記のように一方のクラスは第一報におけると同様に自 由な観察をさせ,他のクラスは観察方法を指示して観察をさせて,その各々の観察得点に どのような差違がみられるかをしらぺてみ    第1図観察得点分布の比較

ると,つぎのようになつた。         鈎  まず観察得点の分布状態を第1図に示

@       40

キ。

A._;翻6与11 …一鰍・碑

6年生についてみると,観察方法を指示  人  1

30

しないクラスは得点2および3の者が多数 数

しめているが詣示したクラスは得点3乙。4および5の者が多数をしめている。全体的に山が右にずれているわけで,観察方法   10

指示してやつた方が観察得点はかなり上

   1r 、

P/い

健黶Dノ     , \

0 ノ     、

昇するといえる。そして特に得点1,2の O  /  2  3  4   、夕  6  7  8

       観察碍美低得点者が激減していることは,水素の観

(6)

察の場合と一致することであり,意味のあることのように考えられる。

つぎにクラス全体の観察得点の平均値を比較してみると,第3表のようになる。

第3表 平均観察得点の比較(6年生)

\\レ旨示しないi指示した「霧示した幕こ訓

全体の平均点は,指示しない

男13・・513・7・ L23

クラスが2.98であるのに比べ,

一女12・9・14・451 1・53 { 指示したクラスは4.07で,大き

全体12・98 4・・71 1・37 1 な得点差を示している。得点が         一

M 一 一女/男1・・9511・1列 1.37倍になつたのである。男女

別にみると,男子の得点の増加の倍率が1・23であるのに対して,女子の倍率は1・53で,女 子の方が観察方法の指示効果が大きいことになる。以ヒの事実から考えられることを,第 四報における水素の観察の場合と比較してみると,つぎのようになる。

まず観察方法の指示効果についてであるが,これは水素の観察の場合と全く同様に十分 認められる。従つて観察方法を指示することによつて児童の観察は大いに促進され,非常 に効果的であることか再び確認できるわけである。しかも指示した観察方法は,ごく平凡 な実験操作と着眼点についてだけのものであることは,水素の観察の場合と同様である。

また観察方法の指示によって観察得点の最高点が大きく上るということはなく,特に低得 点者が激減していることも水素の観察の場合と一致し,これから高得点をとるくらいの者 は,この程度の簡単な観察方法の指示ではあまり大きな助けとはならないが,低得点者の 場合は,簡単な実験操作や目のつけどころが不明のため,簡単な指示によっても大いに観 察が促進され,観察方法の指示が貴重な役割を果していることが理解されるのである。

つぎに,第四報の水素の観察の場合と比較して,ちがっている点に着目して考えてみる ならば,その最も問題になる点は,観察方法の指示にある平均観察得点の増加率がかなり の差を示していることであるといえる。すなわちヨウ素の観察においては,観察方法を指 示しないクラスの観察得点に対する指示したクラスの得点の倍率は第3表にあるようにL 37倍であるが,水素の観察の場合には,指示しないクラスの平均観察得点が2・62であるのに 対して指示したクラスの得点は4.58であり,その倍率はL75倍となる。これはかなりの差 である。従って,観察方法の指示効果は,ヨウ素の観察の場合より水素の観察の場合の方 が,相当程度大きいといえるのである。この原因としてまず想像されるのは,観察方法の 指示をしたときの文章が,ヨウ素の観察の場合より水素の観察の場合の方がより適切であ って,ていねいに現象の観察の仕方についてのべてあるのではないかということである。

しかし,この点については,あまり考えられないように思われる。ヨウ素,水素,いずれ の観察の場合にも,指示した観察方法の文章は,観察しうる全現象の観察にそれぞれある

(7)

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第五報)    107

程度の助けをするように仕組んだわけであり,また水素の観察の場合の文章が8項目であ るのに対してヨウ素の観察の場合は7項目であり,1項目少ないが,これは観察しうる現 象の数が,水素の場合が18でヨウ素の場合が15であることを考えると,決して少ないとは いえない。ともかく,文章の指示の仕方にちがいがないとはいえないにしても,あまり大 きなちがいは考えられない。そこで筆者は,この観察方法の指示による観察得点の増加率 のちがいの主な原因を,他に求めたいのである。それは水素の観察とヨウ素の観察の性格 のちがいである。いいかえれば,観察方法のタイプのちがいである。この観察方法のタイ プのちがい,そのものについては既に第三報(本紀要,第6号,78頁)にのぺてあるが,

水素の観察とヨウ素の観察における,目のおきどころと観察に要する実験操作に,かなり 著しい差違を見出すことができるのである。水素の観察においては,希硫酸の中に亜鉛を 投入した後はじっと管中の泡の発生などの現象を凝視していく,いわば静的な観察である。

それに対してヨウ素の観察においては,水素の観察に対して「熱する」という実験操作が       P

加わり,いろいろな「熱し方」が必要であり実験操作の多角性と積極性が要求される,い わば動的な観察である。従って水素の観察よりもヨウ素の観察の方が,観察方法に多様性 があり,観察得点もとりにくい面がある。このヨウ素の観察方法が動的で多様性があるこ とは,例え観察方法の指示をされても,それが平凡な実験操作と着眼点についてだけ指示 されたくらいでは,あまり指示効果は大きくないのではあるまいかと考えられる。これが 観察得点の増加率が水素の観察の場合より小さくなる主な原因であると考えられるのであ

る。

水素の観察の場合に比べてのもう一つのちがいは,観察方法の指示による,男女の指示 効果についてである。水素の観察の場合は男子の方が観察方法の指示効果が大きかったの であるが,ヨウ素の観察の場合には女子の方が大きいのである。これについては,この調 査だけから断定することはむずかしいことは第四報においてものぺておいたが,あるいは 水素,ヨウ素両観察の性格のちがいに起因するのかもしれない。しかし結論はもっと多く の調査結果をえるまで,さしひかえておきたいと考える。

(3)各現象の観察率に見出される差違

ヨウ素の観察において観察しうる15の各現象について,その現象を観察できた被検者は 全体の被検者の何%にあたるか(観察率)を,観察方法を指示したクラスと指示しないク

ラスについて比較したのが第2図である。

(8)

第2図各観象の観察率の比較

!00

 80豪旨指

察 60

赤 示し  しな た

レ、

落4。

20

o /  2  3 4  ず』    ク  3  9 /o 〃 /之 /3 /4 /5一

ヲ見象番号

第2図から,大体において各現象について,観察方法を指示したクラスの方が,指示し ないクラスよりも観察率は高いことがわかるが,その程度にはかなりの差があり,また中 には逆に低いものもある。

この各現象の観察率の,観察方法の指示の有無による差違の程度をみるために,第四報 におけると同じように指示したクラスと指示しないクラスの観察率の比(R1)を求めて みると,第4表のようになる。

第 4 表        第4表から・R・の大きい・すなわち観察方法 指示したクラスの観察率

w示しないクラスの観察率..

であることがわかる。これらの現象になぜ特に観

現象翻「R・「現旙号[R・      一皿一㎜冒

察方法の指示効果が現われたかという

111・・l gl一 ことは,ま

21・・6 1・{一 ず指示した文章に関係すると考えられる。

  31−1111−『一一一一一一 始めに特にR1の大きな現象12(発生した気体

4「1・1112[・・ は空気より重い)については,指示した観察方法

  51− 13い4・8−一一一一 一一 の「㈲試験管を逆さにしてみると,どうなります

61・i1414・・

か。それはなぜですか。」という項目によって,

71・・9[15[

1.1

非常に観察が促進されるものと理解される。この

一一一一一一

181引    場合もちろん訊騨を逆さにするという操作を

}一 必ずしもしてみなくても,つぎのようにして重い

ガスであることは観察されるQすなわち試験管の長さの下方半分を一様に熱して紫色のガ

(9)

高 野: 理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第五報)   109 スを一帯に広がらせておき,試験管を垂直に保って徐冷すると,ガスが次第に降下してい くのがみられ,析出する結晶は底部に集中する。また試験管を机上に横にして徐冷すると

,机上に接触している側面に線状に析出する。これらの事実あどれかを観察していれば重 いガスであることは観察がキる.しカし指示した観察方法の項目(4)のように試験管を逆さ にしてみると,紫色のガスはその一部がキラキラ光る結晶微片になりながら直ちに落下し 始めるので,最も観察しやすい。すなわち,最も観察しやすい条件を指示ちれたことにな り,観察を強く促進したであろうことは想像されるし,また観察記録からもそのように理 解されるのである。この場合,実際採点するに当つては,第一一報にのぺたように現象を上 記のような表現で記録していなくても,実質的にその現象を認めているとはつきり判断で きるときにはこれを得点に入れて,表現力のフアクターをできるだけ除くようにしたこと をつけ加えておく。

つぎにやはりR、の大きな現象13(手や紙に付着した結晶は,一様に黄褐色を呈する)

については,「(5)試験管をてのひらや紙の上に逆さにすると,どんなになりますか。」と いう項目によつて,実験操作がはつきり示され,その操作をやつてみれば難なく,観察で

きるようになることが推察される。

またR1の大きなもう一つの現象14(管壁に対してほぼ垂直に立つている結品がある)

については,「(6)試験管の口から中をのぞいてみると,どんな状態がみられますか。」と いう項目によつて,観察の観点の位置および方向を明示されたため,観察が促進されるよ

うになつたものと思われる。ここで,試験管中の現象を観察する場合に,試験管の口から 中をのぞくというみ方や,試験管を逆さにしてみるという操作は,それほど特殊な方法と はいえないが,実際には指示されないとなかなか実行しないことなようである。このこと は,観察力の養成についての一・つの示唆を与えていると考えられる。

それから今度はR1の小さい例であるが,まず現象1(紫色の気体が発生する)につい ては,観察方法を指示しなくても被検者全員が観察できている現象であるため,R、は1 以上になりえないのは自明のことで,問題にはならない。現象2(とけて紫色の液体にな

るについては,「(1)試験管の底を静かに熱すると,どんな現象がみられますか。」という 項目によつて,観察が促進されてよいと一応は考えられるが,ヨウ素が固体から直接気体

に移る,いわゆる昇華の過程のほかに,固体から液体を経て気体になる過程を観察すると いうことは,試験管の底を静かに熱する操作を指示されたくらいでは,指示効果はないも のと考えられる。また現象7(試験管壁に樹枝状あるいは星型,H字型結晶ができる)に ついては,「②試験管の壁はどのように変りましたか。」という項目によつて観察すべき 場所は示されているが,この指示の仕方は含みの多い,やや漠然としたものであるので,

(10)

樹枝状結晶という単なるふつうの針状結晶でないものには注意が払われないものと推察さ

れる。

以上はR、の特に大きい現象と,1あるいはそれ以下の小さい現象について,その理由 を考えてきたが,これ以外の諸現象についても,R1の値の大小にはそれぞれ一応の理由 が考えられるのである。

つぎに,観察方法の指示をしたという点では同じ条件の6年生と4年生とで・どのよう な観察率における年令的差違がみられるかを知るために,6年宅と4年生の観察率の比(

Rのを求めてみた。それを第5表に示す。

    6年生の観察率第5表       =R2    4年生の観察率  第5表から,現象7,12,14・15においてR2・

キなわち年令的差違が大きいことが理解される。

現象翻陣現象鶴臓 これらの現象はR1の大きい現象とかなりよく一

1 1.・1 9 一 致している。このことは水素の観察の場合にもみ

  211・1一一一一一一一一一一一

1・i ・

られ,第四報にその事実をのべてある。ただ水素

11    一

の観察の場合だけでその理由を速断することは危

  411・1−一一一一一}_

1211・8

険であると考えて,理由についてはさしひかえて

・1一 13   1.1 あつた。しかし本報のヨウ素の観察においても同

61一 1415・2 様の事実がみられるとするならば,そこに考える

713・・ 151・・

・       ここでR1の大

81一 べき意味があるように思われる。

きい現象とR2の大きい現象が,かなりよく一致 するということは,つぎのような意味をもつものと考えられる。すなわと観察方法の指示 と年令の増加にともなう観察方法の自覚とが,同質の効果をもたらすということである。

従つて観察方法を指示することによつて,年令の増加に相当する観察の促進をはかり,こ れを積み重ねて,観察方法の指示をしなくても観察方法が自覚され,把握されて観察力を 発揮できる状態に至らせることは,非常に大切なことと考えられる。この観察方法の体系

ともいうぺきものについては,今後も研究を進めていきたい。

㈲学業成績,知能指数,視力との相関に見出される差違

観察得点とこれらの間の相関係数を,観察方法の指示の有無との関係をもみるために計 算し整理してみると第6表のようになる。

第6表から,観察方法の指示の有無にかかわらず,学業成績(全教科および理科),知 能指数と観察得点との問には有意の+の相関があることがわかるが,指示したクラスの方 が指示しないクラスより相関が低いQこの事実は第四報の水素の観察の場合にもみられ,

(11)

高 野: 理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第五報)   111 第6表 観察得点と学業成績知能,   その主な理由としては,観察方法を指示し

視力との相関係数(6年生) てやると学業成績,知能指数の悪い者も実

\\_け旨示しない1指示した

験操作や着眼点について手がかりをつかむ

轍科囎1 +・・33「+・・26      1一一一一一一一冒 

ことができ,その結果得点が相当大巾に上

理科成樹 +・・361+・・33

昇し,高得点者との得点差を縮めることに 知能指釧 +・・421 +・・24

あると考えられ,またこのことは前述した

視 力1+・・161−…4

低得点者に観察方法の指示効果があらわれ ることとも符号するのである。それから同じ学業成績でも,全教科と理科では相関係数に 差を生じ,理科の方がかなり高い。このことは水素の場合にも一応みられ,自然な事実と して認められるであろう。また知能指数と学業成績にも相関係数の差がみられるが,これ については,まだ決定的な結論はさしひかえたい。

ここで水素の観察の場合と異なつた事実としては,本報のヨウ素の観察の場合の方が・

観察方法の指示の有無にかかわらず,学業成績との相関が低いことである。すなわち指示        一

オないクラスにおいては,水素の場合は全教科+0.57,理科+0.57であるのに対して,ヨ ウ素の場合は全教科+0.33,理科+0.36であり,指示したクラスにおいては,水素の場合 は全教科+0・39,理科+0.41であるのに対して,ヨウ素の場合は全教科+0・26,理科+0・

33である。この理由としては,水素の観察に比ぺてヨウ素の観察は前述のように観察方法 のタイプがより動的であり,複雑であることが考えられる。ヨウ素の観察における実験操 作と観点の位置および方向の多様性は,被検者のいろいろな面の能力に関係しそれを要求 すると思われるが,そのような能力は学業成績に必ずしも一致しないだろうことは推察さ れる。そのため学業成績との相関においては低くなるものと考えられるのである。

視力については相関係数が非常に小さく,相関の存在が疑わしいといつてよい。だから 水素の観察の場合と同様,極端に視力の悪くない限り,この種の観察を有効に行うにはさ しつかえないと考えられる。ここで一応注意させられるのは,水素の観察の場合にも認め られたことであるが,視力との相謁係数は指示しない場合より指示した場合の方がかなり 低くなつている。ただこの場合のように相関の存在自体が疑わしい程低い相関においては,

このような差が有意の差かどうかは疑間であるが,指示した方が低いということは,視力 の弱い者が観察における着眼点を指示されたためにそこに注意が集中し観察が促進され,

その結果観察得点が上昇する可能性を考えるとき,この差を無視することは妥当でないか

もしれない。

つざに4年生(観察方法を指示した)についての結果であるが,これを第7表に示す。

(12)

第7表 観察得点との相関係数  4年生の場合も6年生(第6表)に大体似た結果であ

(4年生,指示した)

るが,学業成績との相関が6年生より高い。このこ㌦は

1轍科成副 +・・34 水素の観察の場合にも認められたことであり,低学年の

理 科 成 績 1 +0.35

方が高学年より相関が高いことになるわけである。高学

知能指釧 +・・38

年になるに従つて,学業成績に示される能力以外∂)いろ

視  力1 ・…

いうな能力が分化発達し,それが観察にも影響を与え事 水素の謙得劇 +・・44

情を複雑にするものと考えられる。視力との相関は全く ない。水素の観察得点との相関というのは, この4年生の被検者はみな約6カ月以前に水 素の観察をやはり観察方法の指示をうけて行つているので,第三報とは少し異なつた意味 で,観察方法を指示した条件下での水素の観察とヨウ素の観察における観察得点との問の 相関を求めてみたわけである。その結果は表に示されているように+0・44という値になり これは学業成績知能指数との相関よりも高い。水素の観察とヨウ素の観察とでは観察方 法のタイプがちがうことは前述したが,同じ「観察」であることは事実であり,学業成績 その他と比べると相関係数はより高くなるのが自然であろう。しかしこの値は,第三報に おける大学生の被検者(観察方法の指示をしない)の場合の一ト0・6以上の値に比ぺると相 当低いのは,一つの観察から他種の観察への観察方法の転移能力が,小学生の方が低いか らであろうと考えられる。また二つの観察が大学生の場合は連続して行われたのに対して 小学生の場合には約6ヵ月という期間があつたことも,外からの要因が入りこむ可能性を 大きくしだといえる。

以上から児童の観察得点は学業成績,知能指数,いずれとも有意の+の相関はあるがあ まり高くはなく,観察においてはほかのいろいろな能力,要因が関係するものと考えられ る。このことは観察力の構造の解明につながる問題であるので,今後次第に追求していき

たい。

§4.結   び

以上は,ヨウ素の観察における観察方法の吟味を,観察方法の指示の有無という点に紋 つて実験的調査を行い,その結果を分析したものであるが,第四報の水素の観察の場合と 比較検討することによつて,第四報におけるよりもより明確ないくつかの結論を導くこと ができた。今後は観察の機能の各種,各面について実験的調査を進めていき,それを関係 的に考察していきたい。

終りにのぞみ,本研究を行うに当り実験的調査に便宜をはかられた茨城県西茨使郡岩間 町立岩間第一小学校の職員の方々に,心から感謝の意を表する。なお実験的調査における

(13)

高 野: 理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第五報)    113 被検者の条件統制に,筆者の妻,高野みち子(上記岩間第一小学校教諭)の手をわずらわ

じ左。

〔後 記〕本研究は昭和32年8,月8日,日本理科教育学会,第七回全国大会(於北海道          大学教養学部,札幌市)において,講演発表してある。

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参照

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