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理科教育における観察の機能に関する
実験的研究(第六報)
一ヨウ素と塩化アンモニウムの実験の比較観察について 燃科学教育研究室 高 野 恒 雄
§1.緒 言
§2.調査方法
(1)調査対象
②比較観察の問題実験
(3)採 点 基 準
§3.調査結果と考察
(1)比較観察記録の実例
(2)比較観察得点の分布
(3)各相違点の観察率
(4)学業成績,視力との相関
§4.結 び
§1.緒 言
筆者は本研究の第五報までに,いくつかの形での問題実験を被検者に与え,その場合の 観察の機能について児童,生徒.学生を対象とした実験的調査とその分析を行つてきた。
すなわちヨウ素の問題実験,水素の問題実験,およびそれらの問題実験に観察方法の指示 を加えた観察の場合などについて検討してきたのであるが,これらの問題実験のすべては いずれも被検者が一つの実験を行つてそれを単独に観察するという共通の性格をもつてい るものであつた。ところが観察には,この単独観察ともいうべきもののほかに,一つの現 象を他の現象と比ぺて観察する,いわゆる比較観察がある。本第六報は,この二つの現象 の比較観察についての実験的調査とその分析を行つたものである。
この場合,単独観察と比較観察の問には,あまりはつきりした区別はできないという論
がありうる。すなわち単独観察とはいつても,例えば試験管の上部と下部の状態を比較す
るとか,熱し方を強くしたときと弱くしたときの現象を比較するとかいつた比較観察を含
むことは事実であり,また重要な部分でもある。しかしこのような比較観察は,全体の単
独観察に含まれる比較観察であり,その意味では部分的なものである。それに対して,本
報においてあつかう二つの現象の比較観察は,全体としての,課題としての比較観察であ
るので,おのずから意味はちがうわけである。そしヤこのような全体としての二つの現象
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の比較観察について研究することによつて,単独観察に含まれる部分的な比較観察も,よ りよく解明されることになるであろうと考えるのである。
本報において用いた間際験として1よ沙量のヨウ素と塩化アンモニウムをそれぞれ別 の試験管に入れて順々にアルコー・レランプで熱していつたときの現象を・できるだけよ 襯察し,両現象の相違点を指摘すると・・う方法を考案したのである・なるべく概括的・
平面的な研究におちいらないよう,具体的な実験的調査にみられる機微をつかみとり,そ れから結論を一般化していくというみちすじをとるよう計画してみたわけである。
§2.調 査 方 法
(1)調 査 対象
茨城県西茨城醐間町立岩間第刊・学校,6年生44名・4年生44名・茨城大学鮪学音匡
学生50名。計138名。
(2)比較観察の問題実験
調査を始める前に,各被検者に乾燥した清浄な容量20ccの試験管に約50mgのヨウ素(
1,,黒紫色結晶)を入れたもの,同じ大きさの試験管に同程度の塩化アンモニウム(NH4 Cl,白色微細結晶)を入れたもの,およびアルコールランプ1個を配布しておき,この調 査の意義を簡単に説明してから,つぎのような意味の指示を与える。
「二本の試騨の中には,それぞれ少量のヨウ素と塩化アンモニウムが入れてある・今 これらを順々にアルコールランプで熱していくとかなり多くの現象がみられるが・この二 つをできるだけ注意深く比較してみると,いくつかのちがつている点が見出される。その ちがっている点を指摘して記録してほしい。ただし熱し方は始めは静かに熱して,少し時 間がたつてからはどのような熱し方をしてもよろしいし,また二本の試験管を熱する順序 はどうでもよく,何回交代して熱してもよい。時間は60分である。」
もちろん指示を与える場合,大学生,小学校6年生,4年生にそれぞれ適合した表現で わかりやすく説明した。
この問題実験を構成した理由は,つぎのようなものである。この種の比較観察を被検者
にさせるとき,ただ比較観察しなさいという形では,かなり漠然とした問題になるきらい
がある。そこですつきりした比較観察を行うためには,性格の異なつた二つの現象につい
て共通点を見出させる方法と,比較的共通点の多い現象について相違点を指摘させる方法
とが考えられる。このうち前者はふつうの二つの現象をもつてきてはそこに見出される共
通点は極めて平凡なものになりやすいし,そうでない特色ある現象はなかなかみあたらな
いので,本報においては後者の方法をとってみたQヨウ素と塩化アンモニウムをそれぞれ
サ
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試験管中で熱するときに現れる現象は,比較的共通点が多い。いずれも,色は異なっても 昇華の性質をもち,試験管の壁に結晶が析出し;気化したガスが運動することなどである。
このように共通点の多い現象について相違点を指摘させることによって,比較観察の機微 をつかみとろうとしたわけである。
(3)採点 基準
前記の問題実験の比較観察を,与えられた条件においてもし完全に行ったなら,いかな る両現象の相違点が見出されるかを,筆者および教育学部の一部の学生などの回を重ねて の比較観察によって,つぎのように決定することができた。まず「比較観察しうる相違点
」の各々の要点を表に示すと第1表のようになる。
第 1 表
1 比較観察 し う る 相 違 点
1 溶融するか,しないかのちがい
i12はとける,NH4Clはとけないで固体→気体)
2 気化しやすさのちがい
i12の方が気化しやすく,早くガスになる)
3 発生したガスの運動のちがい
1ガスの重さのちがい4 1 i(1・の方が重い)
}5
壁に折出した結晶の大きさと形のちがい i12は大きい針状結晶,NH4Clは微細結晶)6 1
析出した結晶の分布状態のちがい i12は分散,NH、Clは密集)
1
V 旨
析出した結晶を再び熱したときのちがい
i12は結晶の間に新結晶,NH4C1は紙状になる)
第1 表に示した相違点はその要点のみを記したもので,これらの相違点を少しくわしく のぺればつぎのようになる。なおその相違点の考えられる理由をものべるが,これは採点 基準には含めないものである。
(相違点1)ヨウ素と塩化アンモニウムは、ザれも昇華の性質をもち,固体から直接気
体になることができるが,前記の条件のもどで熱すると,ヨウ素においてはこの昇華の過
程のほかに,固体から液体を経て気体になるという過程もみられる。このことは前記の条
作では,塩化アンモニウムにはみられないので,相違するわけであるg
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(相違点2)試験管の底を熱していくとヨウ素も塩化アンモニウムも気化していくが,
その場合両者における熱し方が大体等しいと,ヨウ素の方がずっと早く気化する・ヨウ素 は熱し始めるとすぐ気化し始めて紫色の気体が発生するが,塩化アンモニウムは少し時間 がたらてから徐々に気化していく。すなわち気化しやすさのちがいであり,固体から気体 に変化するに要する熱量の大きさに差があるためと考えられる。この気化に要する熱量の ちがいは,一つにはつぎの事実にも関係するものと思われる。問題実験に用いる塩化アン
モニウムは乾燥したものではあるが,少しでも湿気があればその一部分は,つぎのように 巳
熱によって解離する。
NH4C1十41.9Kcal 2 NH3十HC1
この解離には式からわかるように熱を吸収する。塩化アン・モニウムは気化に要する熱量が 大きいということは,この熱量も余分に消費されていることが一因となっていると考えら
れる。
(相違点3)気化してできたヨウ素ガスはおだやかに広がっていき,試験管の壁に冷却 されて結晶となるが,塩化アンモニウムはグルグルとかなり活ばつな運動をしながら,次 第に冷却されていく。このガスの運動のちがいである。
(相違点4)ヨウ素も塩化アンモニウムも,これを熱して試験管の中にガスを広がらせ ておき,それを静かに直立させておくとガスはいずれも下にさがつていき,試験管の下部 に結晶が析出する。この場合ヨウ素と塩化アンモニウムとでは状態が異なり,ヨウ素の方 がずっと早くさがり,ガスがより重いことが観察される。このことは試験管を逆さにした 場合にもよく観察できることである。
(相違点5)相違点3のところでものべたように,ヨウ素,塩化アンモニウムのいずれ の場合もガスが冷却して試験管の壁に結晶が析出するが,その析出の仕方は大きさと形に おいて異なる。ヨウ素は比較的大きい針状結晶であるが,塩化アンモニウムは微細結晶で ある。この場合真の結晶形までは肉眼では観察し難いが,結晶の大きさのちがいと針状か 否かのちがいは十分認めることができる。なお真の結晶形はヨウ素が斜方晶系,塩化アン
モニウムが等軸晶系に属するのである。
(相違点6)試験管の壁に析出した結晶は,その壁に付着する分布状態にちがいがある。
ヨウ素は結晶がボツ,ボツと散らばって壁に付着するが,それに対して塩化アンモニウム は微細結晶が密集して壁を埋めるのであり,分散の度合がちがうのである。 .
(相違点7)試験管の壁に一旦析出した結晶をもう一度熱した場合に,ヨウ素,塩化ア
ンモニウムのいずれも微妙な現象を呈するが,その模様は異なる。ヨウ素は今まで壁に付
着していた結晶群の問に,新しい非常に細かい結晶が析出して独特の模様を示すが,塩化
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アンモニウムの結晶は再熱によりその微細結晶が隣同志で結び合い,結晶が紙状の連結し たものとなり,これがまくれあがるのである。これは相違点6においてのべてある結晶の
分布状態のちがいにも起因することであると考えられる。 .
以一ヒの七つの相違点のほかに,つぎのような二つの相違点が見出されるが,それぞれの 理由からこれらは除外した。一つはヨウ素と塩化アンモニウムの結晶,ガスの状態におけ
る色のちがいである。これ億誰でも認めていることであるが,最初に被検者が試験管を受 取ったときにすぐわかることであり,至極当然のこととして記録しないものが多かったの で,採点基準にはいれない方が妥当だと考えたのである。もう一つの相違点は両者のにお いのちがいである。ヨウ素の特有のにおいと塩化アンモニウムのやや刺激的なにおい(相 違点2でのべた一部の解離によって生じた塩化水素ガスとアンモニアガスによるのであろ う)はいずれも十分に認めることができるし,また嗅覚でとらえたものももちろん広義の 観察といえるわけである。しかし現在の一般人の常識は,視覚によるものだけを観察と考 える傾向がかなり強いので,このにおいに十分気ずいていながら記録はしない被検者が存 在することを考えて,記録の信頼度が小さい理由から除外した。
このような事情によって結局は前記の七つの相違点になるわけであるが,この七つのう ち一つの相違点を見出し記録することができた場合,これを仮に1点の得点とすると,各 被検者のこの比較観察において見出すことができた相違点の数を,点数で表わすことがで
きるわけである。実際に採点する場合には,各相違点を前記のような表現で記録しなくて も,実質的にその相違点を認めているとはっきり判断できるときにはこれを得点に入れ,
表現力によるフアクターをできるだけ除くようにしたのである。
§3.調査結果と考察
d)比較観察記録の実例
被検者はヨウ素と塩化アンモニウムとの比較観察を,具体杓にはどのように行っている
かを個別的にみるために,実際の比較観察記録をあげてみる。大学生,小学校6年生,4 艦
年生,各1名のものである。 °
まず本学教育学部初等教育科3年の男子学生のものをあげる。視力は左右ともに1・5で あり,ヨウ素についても,塩化アンモニウムについても実験した経験はない。
「(1)ヨウ素は加熱によってガスを発生するとき,液体になってから発生するが,塩化アンモニウ ムは固体そのものから直接ガスが発生する。
② ヨウ素ガスは空気より重いことがわかる。塩化アンモニウムはヨウ素より軽い。
(3)ヨウ素の結晶は試験管壁にちらばつて,きれいな模様になっているが,塩化アンモニウムは
瞑
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ただ微粒子になって一面についている。
ω熱するとき,ヨウ素は炎があたるとすぐその場でガスとなるが,塩化アンモニウムはなかな
かガスにならない。⑤壁についている結晶を再び熱すると,ヨウ素はすぐガスになり,また結晶するが,塩化アン
モニウムは結晶がかたまり曲がる。」この記録は表現は簡単であるが,かなり適確に現象の相違点を指摘している。前述の採 点基準で採点すると,相違点1,2,4,5,6,7を見出していることになり,得点は
6となる。相違点3だけが見出せなかったわけで,得点は最高点である。
つぎは小学校6年生の男子児童のものである。視力は左右ともにL2,学業成績は全教 科,理科ともに5である。
「黒むらさきの薬の方は,ねっしていくと明るいむらさきになって登っていき,上に薬がちらばっ て,壁につららのようにぶらさがっている。
白い薬の方は中でけむりができ,だんだん薬がなくなってガスになり,しけんかんのへりにつく とつながる。それをまたねっするとけむりとなって,またおなじようになる。
むらさきの方は,しずかにのぼっていくが,白い方はけむりとなって,どんどんいきおいよくの ぼっていく。
むらさきの方はねっすると,みずのようにとけて流れる。ひやすとこまかいこなになって,へり についている。
白い方はねっしていた時のように,へりに白くしものこまかいのようについていてきえない。」
この記録は,小学生にしてはよく比較観察している。薬品の名前を書かずに,ヨウ素を
「黒むらさきの薬」,塩化アンモニウムを「白い薬」と表現しているのは,小学生を被検 者とする調査を行うときには,被検者を混乱させることをおそれて薬品名を直接示すこと
をさけたためである。採点基準で採点すると,相違点1,3,5,6を見出していること になり,得点は4となる。
もう一つ4年生の女子児童のものをあげる。視力は左右ともに1・2であり,学業成績は 全教科,現科ともに5である。
「しけんかんをあぶると,むらさきの方はどんどん,くすりがなくなる。白い方はくすりがのこっ ていてなくならない。
むらさきの方は,ぎんみたいのが,たくさん中についている。むらさきのしけんかんの中に,色 のこいところと,うすいところがある。
むらさきの中をみると,むらさきのところにくろいかたちが出てきた。
むらさきの方は,ぎんのような物がちらばっているが,白い方にはない。むらさきの方には,か たまりができたが,白い方にはない。」
高 野: 理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第六報) 121
この記録は小学生4年生であるためか,表現はたどたどしい。また比較観察でなく,ヨ ウ素の方だけの単独観察に終ってしまっているところもある。比較ということは,両方に 注意を配って一緒に把擦しなければならないところがあるので,4年生にはなかなかむず かしいことなのであろう。しかしそれにしても4年生にしてはなかなかよい観察をしてお り,まとまった記録といえる。これを採点基準によって採点すると,相違点2,5,6を 見出していることになり,得点は3となる。
以上の三つの例からも感じられるが,全体的に比較観察の記録は単独観察のそれに比べ て,表現が簡単になる傾向があるが,二つの現象の相違点についても十分に記述されては いない。これは比較観察においては,まず比較の観点がはっきりしないと真の観察が進ま ないし,表現も明瞭にできないという性格があるためかと考えられるのである。
(2)比較観察得点の分布 ㌔
大学生,小学校6年生,4年生の比絞観察得点(今後は単に観察得点とよぶ)と人数と の関係を第1図に示す。
第1図 観 察 得 点 分 布 釦
40
l 30
/\\/\……4与控
P1@\/ \ ・
数(Z20) !0 0
1 \
V 演 \ /\、 \
@ /\ \\ \\ \凡、 、 認こ,」」__
0 ! 2 3 4 ,夕 6 7
観寮得貞
第1図からわかるように,小学陵4年宝の1易合の人数のhは得点1にあり,6年生は得 点1および2にあり,大学生は得点3および4にある。全木内に年令7)増り口とともに匂が 右にずれていることは当然であるが,これをヨウ素の観察,水素の観寮などの単独親察の 場合に比べると,そのずれが大きく,すなわち年令差の大きいことが理解されるのである。
そこでこのことをもっとはっさりみるために,被検者の平均観察得点を求めてみると,
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第2表のようになる。
第2表
平均親察得点の比較第2表からわかるように,大学生と
\[大学生16年生1大学生/6年生 一一一一 小学校6年生の平均観察得点を比較し
男13・46 L57「 2・2・ てみると,その得点の比率は男2・20,
女i3・2311・291 2・5・ 女250,全体で2.38となる。これまで
全体13・4・11・43i 2・38 の単独観察においては,大学生と小学 女ノ男 ・・931・・821
生との得点比が2以上になることはみ られなかつた事実である。従って年令差がかなり大きいといえるのである。このヨウ素と 塩化アンモニウムの比較観察だけから結論することは,多少危険を含むかもしれない(今 後さらに別の問題実験についても検討したい)が,これから比較観察は単独観察に比べて 得点における年令差が大きいといえるのではないかと考えられる。それから得点比が男女 によって異なり,女子の方が年令差が大きいが,この理由は一概に断定できない。
第2表に表われているもう一つの大きな特ちようは,大学生,小学校6年生の各々にお ける男女の得点比が女/男で大学生0・93,小学校6年生0・82であり,いずれも1以下なご とである。これまでの単独観察においては,ほとんどの場合女子の方が男子よりも平均観 察得点が高かったのであるが,この比較観察においては男子の方が得点が高いのである。
以上の事実から,観察得点において比較観察が単独観察と異なった特ちようをもち,従 って両者には何らか観察機能のちがいがあるのではないかと考えられるのである。
(.)各相違点の観察率
第2図 各 相 違 点 の 観 察 率
ノ00
80e
N学 6六
療6。 生 生
奔
冤4°
) 20
o
/ 2 3 4 6 7相違臭番号
、
高 野: 理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第六報) 123 らヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察において,比較観察しうる七つの各相違点につ いて,その相違点を比較観察できた被検者は,全体の被検者の何%にあたるか(観察率)
を求めてみると第2図のようになる。
第2図から,相違点によって観察率に大きな差があることがわかる。各相違点について 大学生と小学校6年生との観察率を比較してみると,大体においてはもちろん大学生の方 が遙かに高いが,相違点2および3のように明らかに逆に小学生の方が高いものもある。
また大学生の方が高い場合でも,その観察率の差の程度はいろいろである。
この各相違点の観察率の大学生と小学生との差違の程度をみるために,大学生と小学校 6年生の観察率の比(R)を求めてみると,第3表のようになる。
第3表 第3表からRの大きい,すなわち観察率の年令差の大きい相
大学生の観察率=R6年生の観察率
違点をあげると,まず相違点1および5が特に大きく,相違点
相違幡号 Rl } 4,6,7がこれに続いていることがわかる。相違点2および
1 9.5
3においては,Rが1以下になっている。
P
1 ・ 1・.6 以上の各相違点の観察率についての事実から,つぎのような
131巳7 ことが考えられる。まず第2図からわかるように,各相違点の
1 4 D・1 観察率に非常に差があるが,その状態は大学生と小学生とで異
5 15・3 なる。しかし相違点4(ガスの重さのちがい)と相違点7(析
6 3.1
出した結晶を再び熱したときのちがい)の観察率が低いという
L 7 i2・4
ことは大学生,小学生,いずれの場合にも一・致した事実である この原因は,この二つの相違点における比較観察の観点が,い ずれも気のつきにくいものであることによると推察される。相違点4の場合は,ガスの運 動および結晶の析出の状態から,ガスの重さのちがいを比較するのであって,対象の単な
る感覚的な把握から出発して,判断の要素を含めた観察が要求されるわけであって,なか なか比較しにくいと考えられる。相違点7の場合は,一旦壁に析出した結晶を再び熱して みるという実験操作を行う被検者が案外少ないことと,行っても試験管の底を熱するとき
とはちがう現象が現われることに気ずかないことが多いのに,主として原因すると考えら れる。従ってこの二つの相違点の観察率が低いこことは,・比較観察特有の問題というより は,観察全般に通ずる傾向であるといえよう。ちなみに第一報のヨウ素の単独観察におい ても,この二つの相違点に関係する現象12(発生した気体は空気より重い)および現象9
(析出した結晶を軽く熱すると,独特の模様ができる)の観察率はいずれも低いのである。
つぎに考えなければならない問題は,第3表において相違点2(気化しやすさのちが
い)および3(発生したガスの運動のちがい)のRがいずれも1以下であり,小学生の方
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が大学生よりもよく観察していることについてである。このことは相違点2および3が,
他の相違点に比べて特に変った性格をもっているのではないかと考えさせる。そこでまず,
つぎのような性格のちがいをあげることができる。心理学においては,「比較」を分類し て「同時的比較」と「継時的比較」とにわけるのがふつうである(例えば天野利武著「比 較の心理」,全国書房刊,昭和24年5月)。同時的比較とは比較される二箇の対象が同時 に与えられた場合の比較であり,継時的比較とは始め一箇の対象が与えられ後それが取り 去られて別の対象が与えられた場合の比較である。比較をするときの容観的な時間的条作 のちがいから分類しているのである。そして同時的比較については,対象が同時に直接把 握されうるのであるから特別問題はないが,継時的比較については,継時的に与えられる 対象の比較がいかにして可能であるかという問題をはらんでおり,興味ある問題であると して,その比較過程の概括的な研究が行われ,記憶像説,副印象説および過渡経験説など を生んできている。そこでこの分類の仕方を比較観察に適用してみると,比較観察は同時 的比較観察と継時的比較観察とに分類することができるであろう。具体的にヨウ素と塩化 アンモニウムの比較観察においてこの分類を行ってみると,各相違点の比較観察はこの二 つの種類の比較観察に完全に分類しきれるものばかりではないことがわかる。しかし各相 違点の比較観察において主として働く機能に着目するならば分類は可能であり,その立場 からいうと相違点2および3の二つは継時的比較観察によって観察可能であり,他の相違 点は同時的比較観察によって観察可能か,あるいは少なくとも同時的比較観察によっても 観察可能なものであることになる。そうすると,継時的比較観察を要する相違点2および
3は小学生の方が大学生よりも比較観察がよくでき,同時的比較観察を要するそれ以外の 相違点は大学生の方がよく比較観察できるということが一応いえそうである。ところが,
前述のように同時的比較は特別問題はないが,継時的比較はそれがいかにして可能である かと研究されてきたことであり,より複雑なものとされているのである。従ってより複雑 な継時的比較観察は,むしろ大学生の方がよくできるのが当然であるといえる。それが小 学生の方がよくできているというのは,理解し難いものを含んでいる。そこで筆者は,相 違点2および3の問題をこのような比較観察についての分類によって説明するのは妥当で
ないと考えて,結局つぎのような考えをとることにしたのである。相違点2および3の他 の相違点に対する特ちようとして,比較すべき現象が動的なものであるということをあげ
うるのである。すなわち被検者が問題実験を与えられて実験操作を進めていく場合試験管
を加熱するが,その時ヨウ素も塩化アンモニウムも気化する。そしてできたガスはモヤモ
ヤと管内に次第に広がっていく。この状態は独特な,動的な,大人より子供に注意を向け
させるような現象であると考えられるのであるQそしてこの状態に対する注意深い観察か
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相違点2の気化しやすさのちがいが比較観察され,相違点3のガスの運動のちがいが把握 されるのである。このような動的なものに対する子供の注意が,相違点2および3の比較 観察において小学生がすぐれた成績を示した大きな原因ではなかろうかと考えるのである。
この種の事情については,今後他の比較観察においても吟味してみたいと考えている。
以上に問題としてとりあげたもの以外の相違点は相違点1,5および6であるが,これ らはいずれもRの値が大きいという特ちようをもっている。そのうち特にRの大きい相違 点1(溶融するか,しないかのちがい)については,第一報のヨウ素の単独観察において これに関係ある現象2(加熱によりとけて紫色の液体になる)が,極めて観察しやすいで あろうと想像されながら案外観察率が低いという事実を考えると,小学生には把握し難い 相違点なのではないかと考えられる。また相違点1について,実際の観察記録に相当数多
くみられる例は,「ヨウ素の方は加熱するとジーという音をたてて反応するが,塩化アン モニウムは音もなく反応する。」という類の記述である。これでは感覚的に音の発生がす るかしないかという点に注意してはいるが,この音が加熱によってヨウ素が溶解するとき に発生しているものであることには考えが至っていないのである。従って音の発生の右無 という比較はできても,溶融するかしないかの比較はできないでいるのである。このこと は認識過程において問題とされる,感性的認識から理性的認識への発展が十分になされな いで,感性的認識に【hまっていることを意味するといえるであろう。そしてこの理性的認 識にまで達することは,年令が小さいうちはある程度むずかしいことであるから,相違点
1の観察率に年令差があることは,このような面からも理解することができよう。
相違点5および6については,比較観察の観点がやや抽象的であるといえる。特に相違 点6は,析出した結晶の分布状態のちがいであり,試験管壁に分散した結晶の位置関係を 、 モ味するので,抽象的であり,年令差が大きくでるのではないかと考えられる。
(4)学業成績,視力との相関
ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察得点が,学業成績や視力とどの程度の関係がある かをみるために,小学生の場合のこれらの問の相謁係数を計算して整理すると,第4表の
ようになる。
第4表 観察得点との相関係数 まず学業成績についてみれば,全教科成績,理科
1−