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理科教育における観察の機能に関する
実験的研究(第11報)
一ヨウ素の観察におけるスライドによる観察方法の暗示効果一 自然科学教育研究室 高 野 恒 雄
§1.研究の意味
§2.調 査 方 法
ω 調査対 象
② スライドの内容と与え方
§3.調査結果と考察
(1)観察記録の実例
② 観察得点に見出される効果
{3)各現象の観察率に見出される効果
(4)学業成績,知能との相関
§4.結 論
§1.研究の意味
(1)現在までの本研究の結果の一つとして,第4報以来,観察時において観察方法を指示す
ることが,観察力のはたらきを促進するために大きな効果をもっていること,すなわち
「礁方法の指示効果」カい・くつかの場合について締された.すなわち水素囎薫)
?E素の譲1)ヨウ素と塩化アンモニウム砒較藤1)サクラとクリの葉の比較麟各 場合において,簡単な文章による観察方法の指示が予想以上の効果を示し,観察力の養成 に有力なはたらきを現わすことがわかったのである。
(6) (7)
本報においては・第1および第5報であつかったヨウ素の観察(少量のヨウ素を試験管に
入れてアルコールランプで熱したときに現われる一連の現象を,できるだけくわしく観察
して記録する)を被検者に行わせるとき,このヨウ素の観察内容とある程度相似の面をも
つ霜についてのスライドを,予めみせておいた場合において,そのスライドが被検者の観
察におよぼす効果をしらぺてみた。すなわち,これまでの文章による観察方法の直接的指
示(第5報,第1表のヨウ素の観察方法の指示)とは異なって,スライドによる観察方法
の間接的暗示をした場合の効果を吟味したわけである。そして観察方法を何も指示しない
172 茨城大学教育学部紀要 第十号
場合,文章によって指示した場合,スライドによって暗示した場合の各場合について比較 考察し,それぞれの特ちようを明らかにするようつとめたのである。
§2.調 査 方 法
(1)調 査 対 象
茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一小学校,6年生48名・4年生46名・計94名・この場合 両学年とも,同一教師によって理科授業をうけている児童である。
② スライドの内容と与え方
用いたスライドはFlFD株式会社製「霜や氷はどうしてできるか」の前半の霜について の部分である。霜のいろいろな姿を多角的にかなり巧みに示しているものである。その内 容の要点はつぎのようである。
1.田園の霜の朝
スライドの導入として,霜の全体的な姿を示したものである。
2.路面の霜の様子
霜のできる場所や霜のつき方が一様ではなく,枯草や木の切れはしなどによくできているが,丸 い石にはできていないなど,物によってでき方がちがうことを示している。
3.雑草に生じた霜
雑草の葉の縁にはよくできるが,中央にはそれほどでないというちがいを示している・
4.枯葉にできた霜
落葉にみごとにできた霜を示し,特に葉の表や縁に大きい霜ができることを示している。
5.枯草にできた霜
枯草にできた柱のような一定の形をもった霜を示している。
6.霜のとけた後の枯草
霜のとけた後の葉の表面には小さい毛が生えており,その毛のところに霜ができることを示して いる。
7.枯葉の表と裏で霜のでき方がちがう
葉の表側はなめらかなので霜ができにくく,裏側は突起が多いので霜ができやすいことを示して いる。
8.年輪にそうてできた霜
カシの木の切口は木質が硬いので年輪の突起が少なく,外側にしか霜ができず,スギの木は軟か いので突起が多く,年輪の各部分に霜ができていることを示している。
9.水辺の枯草にできた霜
水辺の枯草は水面から蒸発する水蒸気のため,霜ができやすく,美しい霜になることを示してい
る。
10.地面のすき間にできた霜
地面の割目の奥から水蒸気が出て,入口の冷えた石に霜ができていることを示している。
ll.雪穴にできた霜の結晶
寒い地方の雪の深いくぼみの入口に,内部からの水蒸気が霜をつくることを示している。
高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第11報) 173 12,木花のついた景観
氷点下10°C位になると,霜が木の枝に一面に花のようにつくことがあることを示している。
13.木花の拡大写真,針状の結晶を示す
ふつうの霜とちがって鋭どく尖った針のような木花の形が,条件によってはできることを示して
いる。
14.高山の霧氷
高山の木の枝に小さな氷の粒となって凍りついた霧が,風のために次第に厚くなり,木の枝を包 んでしまった状態を示す。
15.霧氷の拡大
霜とちがって規則正しい形をつくらず,塊りのようになって枝の表面を,おおっている状態を示 している。
16.窓霜のできたガラス戸
冬の特別寒い朝に,ガラス戸に一面に白く氷ってできる窓霜を示している。
17.小さい窓霜
小さい星の形のがまばらにできた霜の状態を示す(室内の水蒸気が割合に少なかったか,ガラス に小さいゴミがついてなかったかのため)。
18.大きい窓霜の結晶
前と反対にガラス戸の一面に大きい窓霜のできた状態を示している(室内の水分が多く,ガラス に小さいゴミが多くついていたため)。
19.筋状の窓霜
クモの糸を中心にして結晶してできた筋状の霜を示している。
20.縞状の窓霜
ガラス戸の一部を,わざとよごれた雑布でふいておいてつくった霜を示している。
21.霜 柱
寒い朝にできた霜柱の姿を示している(ふつう霜とでき方がちがって水が直接凍ったもの)。
22.池の岸にみる霜柱
池の岸などの水気の多い所に,みごとな霜柱ができていることを示している。
23.川岸の砂地の霜柱
同じ水辺でも大きい川の砂地の岸には霜柱があまりみられないことを示している(土地の性質が
関係している)。24.赤土にできた細い霜柱
赤土は水をよく合んでおり適度のすき問もあるので,霜住ができるのに都合がよいことを示して いる。
25.花嶺岩の風化した表面にできた霜柱
花商岩の風化した表面は軟らかくなってすき間が多くあり,地面でなくても霜柱ができることを
示している。26.曲った霜柱
地面から氷の柱が伸び出すとき,すき間のぐわいでその速さが一様にならずに,ひどく曲ったも のがみられることを示している。
27.i数段になっている霜柱
日蔭などの寒い所にできた霜柱が日中消えないで,つぎつぎに後からでき,段をつくっている状
態を示している。以上のスライドは,霜の多様な姿を示している。もちろんヨウ素の結晶とはいろいろの
貼
174 茨城大学教育学部紀要 第十号
面で異なるが,しかし結晶のような物を観察する場合には間接的ではあっても,ある程度 観察方法が暗示されやしないかという予想をもって,調査を行ってみたわけである。
時間の配当ははず被儲にスライ1・を30頒でみせ,つぎに・ウ素の蘇の材料を配 布し準備を整え(10分間),「スライドから同じ霜にもいろいろな姿がみられることかわか
ったが,これから行うヨウ素の実験においてもいろいろな多くの現象が見出される。それ らの現象をでさるだけくわしく観察して記録してほしい。」 という意味の指示を与え,ヨ ウ素の観察を40分間行った。
なお被検者の観察記録を評価する際は,第1報,第1表にのぺてある採点基準によっ て行、・,一現象を観察できた毎に1点と採点した(観察を完全に行った場合は15点とな
る)。
§3.調査結果と考察
(1)観察記録の実例
ヨウ素の観察において,スライドによって観察方法を暗示した場合,小学生の被検者は どのような観察をしているかを個別的にみるために,実際の観察記録をあげてみる・6年 生,4年生各1名のものである。
まず6年生の女子児童のものをあげる。視力は左右ともに1・5であり,学業成績は5段 階法で全教科,理科ともに4である。
「ω こいむらさき色のガスが,モヤモヤとあがってきた。
(2) こんどは,どろどろとけてきた。
(3)ヨウソのこなのようなのが,試験管の上の方にあがってきて,かべについている。下の方は むらさき色のガスが,すこしきえた。
㈲ だんだん試験管にさわっている手が,きいろっぽい色になってきた。
(5)ところどころ,シモみたいな形のかたまりが,かべについている。そこを火であぶるときえ
てしまう。⑥ 上の方に,ヨウソがキリみたいに,とがって立っているのがみえる。
(7)上の方にあるヨウソの所に火をあてると,むらさきのけむりになってかぺのかたまりはきえ た。よくみると,そのけむりは重たく,だんだん下の方にさがっていく。また少しは上のかべにか たまりになってくっつく。
(8)下の方にまだ黒い点々や,雪やシモのような形をしたのが,のこっている。下の方にたまっ ているのを,火にあてると,黒いのがだんだん,また上にあがっていく。」
この観察記録は,現象の急所を逃さずに,なかなかよくとらえて観察している。試験管
の上下の状態を比較しながら観察している。また{5),18)においては「シモみたいな形のか
たまり」といった表現があり,霜のスライドの影響が直接現われている面もある。この記
高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第ll報) 175 録を第1報にのべた採点基準によって採点すると,現象1,2,4,7,ll,12,13・14 を 見出していることになり,得点は8となる。最高得点ではないが,かなりまとまりのある すぐれた観察記録といえよう。
つぎは4年生の女子児童のものをあげる。視力は左右ともにL2であり,学業成績は全 教科3,理科4である。
「(1)むらさき色のガスにかわった。
② ヨウソが試験管のわきに,かたまりになってついた。ヨウソのなかから,もようのようなの
が,みえてきた。㈲ ヨウソがとがって,立っているのがある。
14) シモみたいな,かたまりがみえる。
(5)試験管のそこの方が,ひかっているようなのでみたら,ヨウソがとけているようだ。
(6)試験管のそこの少し上についたかたまりが,だんだんとけて,かべをながれてくる。それが そこの方で,またむらさき色のガスになる。
(7)ヨウソのガスが上の方で,うごいていたが,だんだん下の方へさがゲてきた。」
4年生は6年生に比ぺると,表現の適確さは劣るが,なかなかまとまった観察を行って いる。特に(5),(6),(7)の観察など,観点をよくとらえている。霜についてのスライドとの 関連も,㈲においてみられる。この記録を採点基準によって採点すると,現象1,2,4・7・
12,14,15を見出していることになり,得点は7となる。
以上の例にもみられるが,スライドによって観察方法を暗示した場合には,全体的にま とまった観察をする傾向があり,観点の把握がなかなか鋭どく,すぐれていると感じられ る。そのため効果的に,かなり多くの現象を見出しているといえる。
② 観察得点に見出される効果
被検者が6年生のとき,観察方法を何も指示しない場合,文章によって観察方法を指示 した場合,スライドによって観察方法を暗示した場合の各々の観察得点の間に,どのよう な差異がみられるかをしらべてみると,つぎのようになる。
第1図観察得点分布の比較 まず各場合の観察得点分布を比較的に
40
_一_ w禾腕い 示すと,第1図のようになる。
/\ 一 }薄κよ指示 第1図から全体的にみて,観察方法を
一 30
@ 人
@ 数 (20
@ 量
@ 輸1
〆 ・、 ス・ヲイド・=よ30音示
@ 1 〆や\ 何も指示しない場合よりは文章によって ・ \
@ ! / 、 指示した場合の方が,またさらにスラィ 「 、 ノ/ k\
@ // 1\ ドによって暗示し場合の加葺・徽分 、 、 ノ/ 、 V一 布の山が右にずれており,スライドによ 、〆へ、 \ //o ノ レ \ って暗示した場合においては文章によっ
O 〆 2 3 4 6 「7 8 9 0
観寮得臭 て指示した場合以上に,観察得点が上昇
176 茨城大学教育学部紀要 第十号 していることがわかる。
そしてその得点上昇の傾向に,質的なちがいがあることが読みとれる。すなわち,文章 によって観察方法を指示した場合には,指示しない場合に比べて低得点者の大巾な減少が みられ,低得点者に大きな観察方法の指示効果があらわれたのであるが,高得点者にはあ まり指示効果が認められなかった。それに対して,スライドによって観察方法を暗示した 場合は・低得点者,高得点者のいずれにも著しい観察得点の増加をもたらし,全体的に暗示 効果が著しいことがわかるのである。このことは,つぎのような意味をもつと考える。文 章によって観察方法を指示した場合には,直接的に観点や実験操作を指示してあるが,そ れが直接的であるがために却って含みがなく,指示されなくてもそのような観点や実験操 作に気ずいている者にとっては,それを単に再確認するに止まり,特別な効果はみられな いことになるであろう。それに対して,スライドによって観察方法を暗示した場合は,間 接的ではあっても,そのために却って内容に含みをもち,霜の種々相をみることによって 単に目にみえている姿だけに止まらず,そのような姿をみるために必要な把握すぺき観点 や実験操作を暗示される面が多いのであろう。したがって,観察方法の把握に役立つ深み のある視聴覚的経験が,スライドによって行われているものと考えられるのである。
つぎに各場合について,被検者の観察得点の平均値(平均観察得点)を比較してみる と,第1表のようになる。さらに文章によって指示した場合とスライドによって暗示した 場合の,何も指示しない場合に対しての効果を,平均観察得点の比の形で示すと,
のようになる。また4年生の平均観察得点は,第3表のようである。
第1表 平均観察得点の比較(6年生)
1\ ̲1指示しない1文章による指示 スライドによる暗示
i男ia・5 3.75 5.00
i女 2.90 4.45 1 5.04
全 体 2.98 4.07 5.02
女/男 0.95 1.19 1.01
第2表 観察方法の指示効果の比較(6年生)
1\i文章による指示/指示しな引スライドによる暗示/指示しない
男
1.23 164
女
1.53 1.74
除体 1.37 1.68
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第11報) 177
第3表 平均観察得点の比較(4年生) 第1表から,指示しない場合の全体の
\陳章による指示「スライドによる暗示 1平均鰹得点が298なのに対して,文章
男
2.88 4.24
によって指示した場合は4.07になり,さ
女
3.52 4.38
らにスライドによって暗示した場合は
1全体 3.21 4.31 5.02となり,各場合の問に得点の大きい 開きがみられることがわかる。 これを第2表の得点比の形でみれば,文章によって指示し た場合は指示しない場合に対してL37倍になり,相当大きい指示効果が認められるが,さ らにスライドによって暗示した場合はL68倍という非常に大きい暗示効果が認められるの である。第1図の場合も考えあわせると,スライドによる観察方法の暗示効果の大きさが 特に著しいものであることがわかるわけである,また第3表から4年生の場合も6年生の 場合と同様な傾向があることを,理解することができるのである。
13>各現象の観察率に見出される効果
スライドによって観察方法を暗示した場合,ヨウ素の観察において観察しうる15の各現 象について,その現象を観察できた被検者は全体の被検者の何%にあたるか(観察率)を
4年生と6年生について示したのが第4表である。なお最右列の数値は6年生の観察率と 4年生の観察率の比を各現象について求めたものである。
第4表 各現象の観察率(%) 第4表から大体において各現象につい
融翻蜂生16年生16年生/蜂生 て4年生より6年生の方が観察率が高い
11 P・q・il・α・i 1.・
ことがわかるが,その差の程度はいろい
21 T2216◎7 一 1.3
ろであり,また中には逆に低いものもあ 1
3 1 0 1 0
F 一
} る。
4 10α0 100.0 1 1.0 6年生と4年生の観察率の比の大きい,
5 0 0
{
6 0 1
○○ すなわち年令差の大きい現象は,現象6,
7i8261893 1
1.0 10,ll,8,12などであることがわかる。こ
W 1 2.2 6。3 2.9 れらの現象になぜ特に年令差が現われた
9 1 2.2 1
0 0
かを考えてみると,つぎのようになる。
一一一一
10 0 :
6.3 ○○
まず現象6(試験管の上方程,結晶の
11 0 「
14.6
QO毘巴2巨『 2.9 分布が粗である)については,結晶の分 一
i3 1 23.9 1 31.3 [
1.3 布状態というかなり抽象的な概念の助け I
撃S 39.1 33.3 0.9 を必要とするので,年令の高い者の方が
15 13.0
14.6 1.1
有利になるのであろう。
178 茨城大学教育学部紀要 第十号
現象10(熱した試験管壁は結晶消失後,褐色の曇りを生ずる)および現象ll(管壁に析 出した結晶を熱すると,その上方と下方に新たに析出する)は,ともに非常に微妙な現象 であり,このような微に入った現象の観察,いわゆる微視的観察においては,年令差が大
きく現われるものと理解される。
現象8(結晶は壁に一様にはつかず,核を中心として成長する)については,スライド の内容と最も近似性の強い現象といえる。霜のでき方のスライドは霜の結晶の成長につい ても十分理解させるのであるが,このスライドを理解する程度に年令差が現われ,ヨウ素 の観察に対する影響のちがいが生じているものと考えられるのである。
現象12(発生した気体は空気より重い)は,「空気より重い」という両者の比較による 判断を必要とするので,現象6の場合の抽象的概念とともに思考の要素が強く,年令差を 示すのであろうと考えられる。
以上は年令差の特に大きい現象について,その理由を考えてきたのであるが,これ以外 の諸現象についても,それぞれ一応の理由が考えられるのである。
つぎに文章によって観察方法を指示した場合の指示効果と,スライドによって観察方法 を暗示した場合の暗示効果が,各現象の観察率においてどのように現われているかをしら ぺてみると,第5表のようになる(6年生の場合)。
この表では効果の大きさを指示
第5表 しない場合との観察率の比で示し
文章によって指示したクラスの観察率
指示しないクラスの鎌率 峨 てある・すなわちR1の大き槻
象ほど文章による指示効果の大きスライドによって暗示したクラスの観察率
指示しないクラス襯察率 哉 い現象であり,恥の大き槻象
ほどスライドによる暗示効果の大
現象翻R一馬瞬翻隔 馬 きい現象であることになる。 R1
1 1.0 1.0
9一 一
1 の大きさのそれぞれの理由につい
; 2 0.6 1.2 10
一
∞1
i ては第5報において大体のべてあ
1 3 一 一 11 一 ○○
るので,R2の大きさをR、と比
4
1.1 1.1 12 ○○ ○○
較しながら考えてみると,つぎの
5
一 一
13」4.8 6.4
6 0
0.9 14 4.0 4.6 ようになる。
7 0.9 3.4 15 1.1 1.0 全般的にR、に比ぺてR2の方
8
一
OQが大きい値を示しているのは,ス
ライドによる観察方法の暗示効果
が強いことを意味するが,その中でも特にR2が大きい値を示している現象は,現象8・10
高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第11報) 179 ll,7などであることがわかる。これらの現象において特にスライドによる暗示効果が現 われているのであるが,その理由としてつぎのようなことが考えられる。
まず現象8(結晶は壁に一様にはつかず,核を中心として成長する)については,年令 差のところでものぺたように,霜のスライドの内容と最も近似性の強い現象であり,スラ
イドによる暗示効果が特に著しいのは当然のことと受けとれるのである。
現象10(熱した試験管1壁は結晶消失後,褐色の曇りを生ずる)および現象ll(管壁に析 出した結晶を熱すると,その上方と下方に新たに析出する)は,ともに前述のように微視 的観察を必要とし,霜のスライドをみることによってこのような微妙な現象に注意が行き
とどくようになったことを意味すると考えられる。
現象7(樹枝状あるいは星型,H字型結晶ができる)については,霜の場合も樹枝状結 晶を形成するので,スライドで受けとった映像がヨウ素の観察において連想をよび,その 観察を促進したと考えてよいであろう。
以上はR2の特に大きい現象であるが,逆にR2がR1に比ぺて特に小さい現象が一つ ある。現象13(手や紙に付着した結晶は,一様に黄褐色を呈する)である。この場合はR2 の値は4.6であるので,スライドによる暗示効果も相当大きいといえるのであるが,それ 以上にRb すなわち文章による指示効果が大きいので,相対的にR2が小さく感じられ
るわけである、この場合の文章による観察方法の指示は第5報にのべてあるが,その中に 第5項目「試験管をてのひらや紙の上に逆さにすると,どんなになりますか。」があり,
これは直接的にはっきりと操作を指示しているので,被検者は操作をやってみれは難なく 観察でき・R1は特に大きい14.8となっていると考えられる。これらのほかの諸現象につ いても,R2の値の大小にはそれぞれ一応の理由が考えられるのであるが省略する。
以上のべた各現象の観察率についての諸事実から,全体的につぎのような考察がなりた つ・まず第4表に示してある各現象の観察率における年令差の大きい現象と,第5表に示 してあるスライドによる観察方法の暗示効果の著しい現象とは,かなり一致することであ る。すなわち年令差とスライドによる暗示効果とは,かなり同質なものであるということ になる・特に現象8のような結晶の成長についての現象,現象10および11のような微妙な 現象においては,両効果は全く一致している。またこのことは,観察記録の内容からもう
なずけることなのである。
総体的にいって,スライドによる観察方法の暗示効果の第一は,スライドによる暗示に
よって豊富な観点を把握できるようになることである。スライドによる暗示によって,ふ
つうの場合に比ぺてより豊富な概念の助けが現われるようになり,観察対象の現象をかな
り抽象的な観点からも把握しながめることができるようになり,その結果観点を豊富にも
180 茨城大学教育学部紀要 第十号
つことができているのである。
第二には,観察対象の把握の仕方に質的進歩を来していることである。すなわちスライ ドの内容をみることによって,単に観察経験を広げ量を多くするだけでなく,また観察対 象を感覚的に把握するに止まらず,観察対象の全体と部分との関係を配慮しながら観察を 進めていくようになるのである。いいかえれば観察対象の構造的把握ないしは本質的把握 といえるようなものが旬能となってきているわけである。このことは本報におけるような 構成のスライドによる観察方法の暗示が,よくいわれる認識過程の「感性的認識から理性 的認識へ」の促進を,よい意味で効果的に果していると考えられる。これらのことがらを 整理して,文章による観察方法の指示効果と比較的に示せば,第6表のようになる・
第 6 表
T 一一 @ 一一一暫
@ 一一一一一一皿一一@ 皿 黶c一 @一}… @ 1 ヨ カ章による観察方法の指示効果……直接的
{含難篇 }
1スライドによる暗示効果………・・…間接的 1
… 感覚的把擾構造的把握 本質的把握
1
… (「離的認識→瑞的瀦」過程の促進)
P 1
㈲ 学業成績,知能との相関
観察得点とこれらの間の相関係数を求めてみると,第7表のようになる。
この表において,4年生と6年生とでは相関係数 第7表 観察得点との相関係数
の値にかなりの差がみられるが,相関係数の大きさ
1\い牲 6牲1
P 一 1 の順序はいずれにおいても,理科成績との相関が最
1全教科成績
+0.26 +0。66も高く,それについで全教科成績との相関が高く 理科成績 +0,301+0.69
,
1 知能との相関は最も低い。この順位は,これまでの
【知能指数 1
{0.ll +0.48
@ 」 1 ヨウ素の観察以外の観察についての調査結果の多く と一致しているのである。
§4.結 論
以上はスライドによる観察方法の暗示効果が,ヨウ素の観察においてどのように現われ
高野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第11報) 181 るかという点に紋って実験的調査を行ない,その結果を分析したものであるが・大約つぎ のようなことが認められた。
(1)スライドによる観察方法の暗示効果は低得点者,高得点者の別なく全面的に著しく,
間接的暗示でありながら予想以上の大きい効果を与えうることがわかった。
② スライドによる暗示によって,第一に豊富な観点の把握が司能になり,第二に観察 対象の把握の仕方に質的進歩を来し構造的,本質的把握ができるようになる傾向がみられ
る。
(3)以上の効果から,スライドはその内容が適切な構成であれば,観察力養成に十分活 用できるものと考えられる。
終りにのぞみ,本研究における調査に便宜をはかられた茨城県西茨城郡岩間町立岩間第 一小学校の職員の方々に心から感謝の意を表する。
〔後記〕 本研究は昭和35年10月27日,日本理科教育学会,第10回全国大会(於大阪市)
において講演発表してある。
@ 〆
参 考 文 献
(1) 高野 恒雄:本研究(第4報)一水素の観察における観察方法の吟味一,本紀要,6
号,86頁,1957年.(2)高野 恒雄:同 上
(3)高野 恒雄:本研究(第5報)一ヨウ素の観察における観察方法の吟味一,本紀要,
7号,10】頁,1958年.
(4)高野 恒雄:本研究(第6報)一ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察について一,
本紀要,7号,ll5頁,1958年.
(5)高野 恒雄:本研究(第8報)一サクラとクリの葉の比較観察について一,本紀要,
8号,133頁,1959年.