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揄ネ教育における観察の機能に関する 実験的研究(第24報)

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(1)

      1?

揄ネ教育における観察の機能に関する

実験的研究(第24報)

一観察過程の論理構造と学習効果一

       「

揄ネ研究室 高 野  恒 雄

(1970年10月26日受理)

§1研究の意味

(二)      (2)

前報では,理科学習における観察過程の論理構造を分析するため,前々報でつくった記 号による定式化の手法を,小学校4年教材「物の浮き沈み」について行ない,それを学習 効果に結びつけて考察した。前々報でとりあつかった教材「振り子」,「レンズ」にっづ いて,前報において「物の浮き沈み」をとりあげたのは,前々報の二つの教材に比ぺて,

「物の浮き沈み」は観察過程における実験操作の多様性をもっている教材で,しかも観察 から法則性の探究にいたる道筋の内容が豊かな典型的教材である理由による。

この教材「物の浮き沈み」についての5種の学習過程の各方式における観察過程の定式 をつくり,そこにふくまれるプロトコル命題,等価次元,関係,概念,多角的観察,変化 の観察等の各要素の数を集計した。その結果,観察過程を支配する主な要素は,鍵概念,

つまりこの場合は「同体積の重さ」をつかむにいたる段階における各観察機能の豊富さ

(①),鍵概念に関する実験操作つまり「同体積の水の扱い方」における直接性(②),正 確性(③),簡易性(④)であることを認めた。

本報では,これらの観察過程を支配する主な要素が学習効果に対してどの程度寄与して いるのかを,実験的に検討してみた。すなわち,鍵概念およびそれに関する実験操作を子 どもたちに考案させ,その結果を分析することによって,学習効果の高い観察過程のもつ

ぺき要件をひき出したのである。

§2 調査問題の構成と調査法

G)調査内容

前報で明らかになった,教材「物の浮き沈み、の学習における観察過程を支配する主 な要素のそれぞれが,学習効果にどの程度寄与しているのかを実証的に検討するのである が,まず考えられる調査方法は,各要素が強くふくまれている観察過程とあまりふくまれ ていない観察過程を立案し,その他の条件はできるたけ同一にして実際に授業を行ない,

(3) (4)

その結果の評価によって問題の要素の効果を判定するやり方である。本研究の第20,21報 においても,このような調査方法で結論をひき出した。しかし,この場合には,要素の数 が少なく,問題場面がより単純であった。さらに,調缶結果は両者の著しい差となってあ

らわれ,自然に無理なく結論に到達できた。

(2)

ところで本報の場合は要素の数は多く,問題場面が複雑である。実験操作も多様な過程 をもちうる性格をもっている。したがって,比較授業によって結論を出すことは,問題の 要素以外の影響の介入によって,かなりあいまいなものになる可能性をもっていると考え られる。また,授業過程の精密な記録のために,ビデォ・テープ・レコーダーなどを始め とする諸種の機器の導入も考えられるが,観察過程を支配する主な要素の寄与をおさえる 目的には,かえって混沌としたおびただしい量の情報におぼれてしまって散漫な結論しか だせないで終ってしまうおそれがある。量的には豊富な調査は可能でも,真に学習効果を  決定する複数の要素の寄与率を判定するためには,質的に必ずしも正確であるとはいえな

い。本報の問題場面においては,特にこの点が警戒されなければならない。

そこで,筆者が考えた調査方法は調査内容を,今問題にしている要素だけが関係し発現 する典型的場面を設定し,この絞られた問題場面について子どもの観察・思考反応をしら ぺるという問題構成の仕方である。このようにして雑多で複雑ないろいろな因子を排除

し,調査結果の処理を正確なものにしようと考えたのである。

さて,「物の浮き沈み」の展開における観察過程の中心をなす典型的な問題場面は何で あろうか。前述の観察過程を支配する主な要素が最も強く発現するのは,どの場面におい てであるか。それは,物と「同体積の水の扱い方」という実験操作の過程であると考えら れる。この操作過程の中から,同体積の重さの比較が導かれ,「物の浮き沈み」の決定的

要因が確実にひき出されることになる。

したがって,本報における調査場面は,「同体積の水の扱い方」に絞り,この場面での 子どもの思考反応をしらべることにした。そして調査内容の基準をきめるために,「同体 積の水の扱い方」をつぎの4種に整理してみた。その要点を簡略化して図示すると,図の

ようになる。

      ㌔

H方弱  跡幻   1労式  π方錦

噛 一

各方式における同体積の水の扱い方

1方式の場合は,メスシリンダーに水を入れ,その中に物体を沈める。浮く物体にっい ては針などで押しこむ・このときの水面の前後の差を読みとり,これが物体と「同体積の

水」であるとする。

∬方式の場合は,前報ではあつかわなかったが,ビーカーにいっぱい水を入れ,このビ 一カーを,ビーカーよりひとまわり大きい直径のシャーレの中にすえ,ビーカーの水中に 静かに物体を沈める。このときビーカーからシャーレに溢れ出る水が「同体積の水」であ

るとする。

(3)

1一一一〒  一一 1一一一〒一一一一一一一一一一一了一一一一

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第24報)      19

皿方式の場合は,前報におけるC方式に相当し,ビーカーに水を入れ,始めに水面の高 さにビーカーの外側から線を引き,つぎに物体を沈め,水位の上った水を少しつづ空のメ スシリンダーに移し入れ,元の水位に戻し,結局「同体積の水」をメスシリンダー内に移

しとるのである。       ,

W方式の場合は,前報におけるB方式に相当し,ビーカーに水を入れ,その中に物体を 沈め,上昇した水面の高さにビーカーの外側から線を引き,つぎに物体を外に取り出し,

その代りに前につけた線の高さまで予め測ってあるメスシリンダー内の水を少しつつ入れ る。これによって物体の代りに入れた水,すなわち「同体積の水」をつかめることになる・

なお,前報におけるD方式はA方式すなわち本報における1方式と性格がよく似ておる ので,これを略し,その代りに本報では∬方式という独自の方式を導入して,4種のあつ

かい方を揃えた。

実際の調査にあたっては,以上の各方式の操作を行なうに必要な器具・材料を提示して 水を使うことによって物体の体積を測る方法を考案してもらうという段取りをとった・こ の場面で行なわれる思考には,物体と「同体積の水」,いいかえれば「固体と同体積の液 体」という,この教材の学習において中心的な手がかりになりうる鍵概念の把握がふくま れている。また「同体積の水の扱い方」,つまり器具・材料を操作の目標に向って有効に 組合せ,使いこなすという,この教材における中心的な実験操作についての考察がふくま れている。このような問題場面にこそ,観察過程を支配する主な要素が集約的に働らいて いるといえよう。この場面における児童の観察・思考反応を分析することによって,各要 素の重要性を決定する根拠をえられるのではないかと考えて,調査を実施したわけであ

る。

ここで,各方式の順序は,そのまま調査実施時における順序になるようにしてある。こ の順序のもっている意味は,実験操作のもっている性格のうち・「簡易性」に着目し,簡 易な操作から複雑な操作へと配列したのである・したがって1方式は最も簡易であり,W 方式は最も複雑である。ただし,注意しなければならないのは,操作の簡易性とその操作 にふくまれる意味の把握の簡易さとは,決して同一ではないことである。実験操作のもつ 諸性格のうちの一つである「簡易性」に特に着目して配列したのは・目の前に提示してあ る器具・材料を観察し,それを手がかりにして児童が思考する場合,器具・材料の種類が 少ない場合から多い場合へと問題場面が移行していくのが,器具・材料の空間的な配置の 面からも,児童の問題に臨む心理の面からも,自然であると考えたからである。

(2)調査対象

小学校4年生1クラス33名,5年生2クラス69名,計102名。

(3)問題の与え方

「このゴムせんのかさがどれだけか,はかりたいと思います。ここにある器具と水そう の中の水を使ってはかるのには,どうすればよいでしょうか。そのやり方を考えて,かい

て下さい。」

提示した器具・材料 1方式の場合

ゴム栓(9号,直径は大きい方3cm,小さい方2.5cm,高さ 3cm)

メスシリンダー(200m1,内径3.5cm)

(4)

水槽(内径30cm)

水(水槽に約10cmの高さ)

皿方式の場合

ゴム栓(前と同じもの)

ビーカー(200ml)

メスシリンダー(50m1,内径2. Ocm)

シャーレ(内径9.5cm)

水槽,水

皿方式の場合

ゴム栓

ビーカー(前と同じもの)

メスシリンダー(50m1)

サインペン

こまこめピペット(5ml)

水  槽

IV方式の場合

ゴム枠

ビーカー

メスシリンダー(50ml)

サインペン

ピンセット(長さ15cm)

水  槽

時間…各20分

順序…1,∬,皿,w

また1方式の調査が終った後で,教師が正しい測り方をやってみせてから∬方式を行な い,終ったら同様に測り方を示すというように順次に行なっていく過程をとった調査も行 なった。このような調査を行なった児竜のクラスを,「教示」クラスとよぶことにする。

§3 調 査 結 果

各方式の実験操作を案出できた者の全児童に対する謂合を百分率で求め,これを正解率 とよぶことにすると,つぎのような結果になる。(表1〜表3)

また,正解率の学年の差をみるために5年生と4年生の正解率の比を求めてみると,表 4のようになり,教示クラスと教示しないクラスの正解率の比を求めると表5のようにな

る。

(5)

鼈鼈鼈黶@一一〒 一一一一 一一r−一一}一一 『r−1一一

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第24報)       21

表1・4年生の正解率(%)(無教示クラス)

男 1 2&61 ・生3i 5α・! ・   2a2 女   31.61  a3 i 31.6   0   m 全  体1 3α3 i  g1 1 3餉    0    197

浴Y馴 L・・1 α371 α631− 1 α74

表2.5年生の正解率(%)(無教示クラス)

[廟r嘩」 I l H 1皿 lw l平 均

      1       「

P 男 i 647   2a5  5&8… ・1・8  397 i

2  女   i  38.9     33.3 1  66.7 1  5.6 旨   36.1 o全体i肌4 器6…砿9…a6…3乳9i女/男[ α6・[ L421 L・3 i α47  ag・

表3.5年生の正解率(%)(教示クラス)

瘤謬馴 1  皿  皿 レw ↑平 均 1

女      47.4     2L1    73.7 1  5.3 1   36.8 1

全 体  41.2  324  6τ6  &81 3乳・i 1女/男I L42  α451 ・・231 α・・  α96

表4.5年生の正解率/4年生の正解率竺R1

一一

゙」 1「皿1些一一Wi平剣あ畑劇

瓦 FL7・la・4巨6・1・・iL9212・6[

表5.教示クラスの正解率/無教授クラスの正解率=R2

一一冒 { 一    酌一  … 削  、  一汀

比問  I t五 1皿 iw l皿,皿・Wの平均

R2

0.80

      T一一一 k・3{L・7  L・2i 】・・9

R2×1.25

1.00 L41 i 1・341 ・・281 1・36

§4調査結果の解釈

(1) 男女差

まず無教示クラスについてみると,表1の4年生の場合は女子と男子の平均正解率の比 が0.74,表2の5年生の場合は0.91で,いずれにおいても,かなり男子の方がすぐれてい る。これまで筆者の研究してきた多数の観察場面においては,ほとんどの場合,小。中・

高校生においては女子の方が優位の観察力を示してきたが,この場合は反対になる。この 場合は,与えられた器具・材料を観察してその特質を把握し,それを物体と「同体積の水 を測る」ζいう目的に結びつけて考案するのであるから,問題の性格はかなり異なる七い

(6)

えよう。木谷要治氏は男子は女子に比ぺて「構造的思考による問題場面の構造把握」にお いて優れていることを明らかにしているが,本報の問題場面の場合も,「問題場面の構造

把握」は必要であり,その意味では符合すると考えられる。

つぎに教示クラス(5年生)についてみると,女子と男子の平均正解率の比が0・96で男

子の方がややすぐれている。このデータだけで断定はできないが,同じ5年生の無教示

クラスの場合と比ぺてみると,教示効果が女子の方が,やや大きいと考えることができ

る。

(2) 学年差と教示の有無による差

表4から明らかなように5年生と4年生の平均正解率の比R1は全体として1・92の値を

示している。これは予想以上の大きな値である。4年生から5年生への1年の学年差でこ

れほど大きな正解率の差を示しているのである。

そこでこの差を教示の有無による差と比べてみるために,問題皿,皿,Wの平均正解率 同志で比べることにした。その理由は教示クラスにおいても問題1については教示はして いないわけである。したがって問題1は除外して統計をとった方が公正であるので,この ような計算法をとった。そうすると,5年生の無教示クラスの平均正解率の比は2.06とな り,教示クラスのそれはLO9になる。ここでもう一つ注意しなければならないのは,問題 を与えたときの条件が全く同じ場合の問題1について,教示クラスも無教示クラスの平均 正解率が異なり,その比は表5にも示されているように0.80であることである。すなわち

教示クラスの方が正解率が低いのである。したがってこのちがいを補正して0.80を1.00に すると,さきほどの1.09という値は1.36になる。このように修正した値で比較すると,学 年差の2.06という比に対して教示の有無による差の1.36という比が対応する。つまりこの

ような補正をとっても学年差の方が相当程度大きいことがわかる。

ここで考えなければならないのは,わずか1年の学年差による正解率の差が,教示によ る差より大きく上回るのは,何によるのかという点である。そこでこの学年差の内容を分

析してみると,つぎのようになると考えられる。

学年差=年令差+「物の浮き沈み」学習の転移による効果

5年生は4年の終り頃に,教材「物の浮き沈み」を学習している。したがって1年の学

年差とはいいながら,このような学習による転移効果がふくまれていることになる。故に 年令差による思考能力の成長・成熟の差だけでなく,学習の転移効果も加わっているのだ から,意外に大きな正解率の差となってあらわれるのであろうと,一応考えられる。

ところが,ここにこのような考えに反する事実がある。本研究で調査対象となった5年

生が「物の浮き沈み」を学習したとき, 「同体積の水のあつかい方」は本研究の皿方式に

あたる手順で行なっている。そうすると表4の皿方式においては最も高い比を示すはずで あるのに,事実は1〜W方式の中で最低の値L60を示している。他の1,皿, W方式にお いてはさらに大きい比(R1)の値を示している。したがって,「物の浮き沈み」の学習に

よる転移効果を過大に解することはできないので,やはり1年の年令差による観察力・思

考力の成長。成熟の度合いが著しいと考えなければならない。

この著しい年令差は,問題の性格とじゅうぶん関係をもっているのであろう。本調査の 問題内容は一定の目的のための実験操作の論理的配列の工夫といえる。これは小学生にと って決してやさしい内容であるとはいえない。そして,ζの面の能力は,この年令におい

(7)

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第24報)       23

て著しい発達速度をもっているものなのであろうと推定される。この点は学習指導におい

てじゅうぶん配慮しなければならない重要な傾向と思われる。

(3)ギルフオードの「知的能力の構造」との対比

前述のように,本調査の問題内容は実験操作の論理的配列の工夫という性格をもってい る。このような問題場面における解決への思考とその基礎となる与えられた材料に対する 観察には,人間のいろいろな種類の知的能力が動員されると考えられる。その能力の内容

を探る手段として,ここに心理学者ギルフォード(J.P. Guilford)の「知的能力の構造」

(5)(6)

に関する学説と対比し,本問題場面において働らいている精神機能を少しでも明らかにし

たいと考えた。

さて,ギルフォードは知的能力全般に関する大規模な因子論的研究をいくつか行ない,

それらの研究をすべて総合した結果,三つの主要な側面を把握した。すなわち,人間の知 的能力について,「なにを(思考の内容),どうして(思考作用),どうする(知的能力 の発動の結果えられた所産)」の三側面のそれぞれに属する因子を明らかにした。ところ で本研究に最も関係深い側面は「どうして」つまり思考作用をどのように働らかして探究 していくか,すなわち一言でまとめれば「作用(Operation)」の面であろう。したがっ て,ここではこの「作用」の面に限って,具体的に吟味することにする。

ギルフォードはこの「作用」についてつぎの五つの因子を抽出している。

C(Cognition認知)……発見・再発見・再認。

M(Memory記憶)……認知したことの保持。

D(Divergent thinking拡散的思考)…既知の情報から,多方面の新しい情報を生産す

る。

N(Convergent thinking集中的思考)……既知の情報から,ひとつの正しい,あるいは

承認された最良の答に導く。

E(Evaluation評価)・・…上記のものの良さ,正しさ,適切さ,妥当性についての決定。

以上の五つの各因子が,本問題:場面の中でどう機能しているか,一つ一つを考えてみる と,つぎのようになる。

C(認知)の機能

1〜IVの各方式の問題場面において与えられた諸器具・材料の属性をくわしく観祭し,

それぞれの特性を認める。

M(記憶)の機能

与えられた諸器具・材料について児童が既にもっている先行経験および「かさ」(体 積)についての意味の記憶を活用する。この問題場面に直面してからえた認知の保持とい

う記憶もふくまれるが,この記憶はもちろん,前者に比べればはるかにやさしいことであ

る。

N(集中的思考)の機能

与えられた器具・材料の機能的特徴を抽出する。特にメスシリンダーの機能を分析する ことと,ゴム栓という固体と水という液体の閥に体積(空間)の互換性が存在することを

考えることが重要である。

D(拡散的思考)の機能

(8)

上記の諸機能を基礎にしてつかんだ器具・材料についての知識,そしてそのとき形成し たイメージをお互いに結合して,そこから「かさのはかり方」という方法を案出する。そ のため一つ一つの知識やイメージを目的の「かさのはかり方」に結びつけながら,お互い のいろいろな組合せをつくって吟味してみることになる。そしてそれまで考えていなかっ

たような器具・材料の使用の組合せを案出するに至る。

またこの場合,器具についてのイメージが,必要な操作を暗示することがありうる。た とえば,こまこめピペットが与えられているということは何を意味するのだろうかと考え 想像をめぐらすことによって,案出すぺき操作の方向をつかみとり,そのためのヒントを

さぐる。つまり,こまこめピペットによって暗示されて,有効な操作を考えつくことにな

る。このことは操作に対する器具の暗示性といってよいであろう。

E(評価)の機能

同じ機能をもつ器具のいずれを使用した方がより得策かを考え,当面する問題場面にお ける器具の優劣を判断する。たとえば,水中にゴム栓を入れて水準上昇を測るためには,

水槽の中で行なうのと,メスシリンダーの中で行なうのとでは,いずれがより適切な操作 であるかを考える。そして,メスシリンダー内で測る方が内径が小さいため水準上昇が著 しく,また目盛がついているので,すぐれた操作であると評価し,決定する。同様に,水 槽とビーカーとでは,ビーカーを使用した方がすぐれていると評価する。このように器具 の選択をある基準を設けることによって判断する思考は,評価の機能であろう。

以上のように検討してみると,ギルフォードの知的能力の構造における「作用」の機能 のうち強く働らいているのはD(拡散的思考),N(集中的思考), E(評価)の三つであ ると考えられる。この三者は,いずれもレベルの高い機能であるので,本調査の問題内容 が小学生にとって決してやさしくない観察と思考を必要とするものであることがわかる。

そして,このような機能が4年から5年という時期に,かなり速い発達遠度で伸長してい

ると結論できる。

(4)市川亀久彌氏の等価変換展開理論との対比

ギルフォードの知的能力の構造との対比によって,本調査の問題内容は拡散的思考をじ ゆうぶん必要とすることがわかったが,この拡散的思考は創造的思考の中核的存在であ る。したがって本調査の問題内容は多分に創造的思考を要求するものである。この創造的 思考という観点から,本調査の問題場面において働らく機能を検討するため,創造性に関

(7)(8)

する代表的理論の一つである市川亀久弥氏の「等価変換理論」と対比して考えてみた。

創造的思考のメカニズムはどうなっているかについて,市川氏は「あらゆる創造的作業

の根底に横たわる思考は,等価変換思考(Equivalent Transformable Thinking)である。」

という考えに立って, 「等価変換理論」を提出している。つぎにこの理論の集約である

「等価方程式」の各項と本問題場面とを対比して,考察してみよう。

まず等価方程式をあげる。

ΣSca一づ 倉

Ao        cε   Br

一一一一一

oz→      ΣScb−1 @ 倉

(9)

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第24報)      25

ただし o:Aなる事象の座を占めている系(原系or出発系)

τ:Bなる事象の座を占めている系(変換系or到達系)

A:原系oの上に出現している事象

B:変換系τの上に出現している事象,またはc・εの媒介によりτ系上に

再構成された事象

ε :式の両辺を等号で結ぶことを可能にする等価次元(等価対応の次元であ・

って単数)        

c:上言蒔鰍元娯体的碇義する1錠条件(飢,原則的には騰でΣの ΣSca−1:出縣(o系)の特殊化的条件群

ΣSc回:到達系(τ系)の特殊化白勺条件群 加:任意の観点の中の一つ

→:→思考方向の指示

すなわち,Aoと13.の問に適当なc,εを設定することによって両者の等価関係を発見

する,いいかえればAoを適当な観点によってc,εにまで抽象し,これを8。に新しい

条件を加えて再構成することが,創造的思考の根本であるとする。

さてこの等価方程式の各項が,本問題場面においては何を意味しているのかを検討して

みると,つぎのようになる。

A: ゴム栓。         一

o :固 体。

B :水。

τ :液 体。

おいて,本問題場面の「かさのはかり方」という目標に向って,ゴム栓と水が結 びつき,等価次元に立つ,つまり共通性をもつわけである。

c:固体と液体の空間における互換の可能性。つまりゴム栓という固体が水という液

体の中に入ると,液体のしめる空間(体積)が固体のしめる空間に入れかわるこ とができる。また液体中の固体を除外すると,固体のしめていた空間(体積)が 液体のしめる空間に入れかわる。このように空問が互いに交換しうることを意味

する。

ΣSca擁:ゴムは水と反応しあわないから,水中に人れても変化しない。したがって

ゴムという物質の性質の特殊性を捨てることができるとの意味である。この場合 反応とはゴムと水との化学的反応,あるいは膨潤などの物理的反応をふくむが,

いずれもこの場合まったく見られない現象なので,捨てることのできる条件群で

ある。

ΣScbJ :水の体積は与えられたメスシリンダーで測れる。すなわち,与えられた問  題場面に存在している器具であるメスシリンダーが液体の体積を測るものである

ことに着目し,このような意味でのメスシリンダーの存在という条件を思考の中

に導入することができる。

麗:液体の中に固体を入れると,固体の体積に相当する液面の⊥昇があらわれる。こ

(10)

26       茨城大学教育学部紀要 第20号

の固体と同じ体積だけの液体を排除し,それによる液面⊥昇を測れるという見通

しの観点が,この問題場面を解決する思考の観点になる。

以上の検討から,本問題場面において,働らく機能は,じゅうぶん市川氏の等価変換理

論にあてはまることがわかる。したが。,て創造的思考の機能の必要性が確認された。

また等価変換理論からとらえた機能とギルフォードの知的能力の因子を比ぺてみると,

主として拡散的思考と評価の機能が共通している。したがって(31においてものぺたが,本

問題場面における観察・思考はレベルの高い機能であることが改めて感じられる。小学校 中・高学年においてこの面の機能が著しい発達をすることが結論できるわけである。

(5) 操作の案出しやすさと諸因子の関係

本調査における「かさのはかり方」という操作を案出する場合,そのしやすさは1〜W 方式の各操作の性格,および与えられた器具のもっている特性と関係があることは,じゅ

うぶん予想される。そこで前報で分析した操作の基本的性格である,直接性,正確性,簡 易性の三因子と与えられた器具がもっている操作の案出に対する暗示性という因子,計4 因子の強さの順位を各方式について並べてみると表6のようになる。

表6 操作・器具の性格と正答率(数値は順位)

怯「茅一〜乾述」  I I 皿 1 皿 1 w

操作の直接性 4         3 2

1

操作の正確性 1         4 2 3

  操作の簡易性 1         2

@  …

@  …

30 4

i踏率の高さ1 2 1 3

1 4

ここで「器具の暗示性」の因子については,皿方式においてだけ○印をつけてあるが,

この理由は皿方式の場合こまごめピペットを与えてあり,これがビーカーの中の水をとり 出す操作を暗示するので,特に暗示性が強いと判断したわけである。これに比べると,皿 方式におけるシャーレとかIV方式におけるピンセットの提示は,具体的な操作にすぐには 結びつきにくい。そこで皿方式にだけ印をつけてみたのである・

表6全体からよみとれることは,「器具の暗示性」,「操作の簡易性」,「操作の正確 性」が操作の案出をしやすくするのに有力な効果を出しており,「操作の直接性」はあま

り関係がないことである。器具によって操作がいくらかでも暗示されていた方が考案しや すくなり,操作の手続きが簡易な場合ほど案出しやすいことは納得できることである。操 作が正確に行ないやすいことは,考案しやすさとは必ずしも関係ないと一応考えられる が,小学校理科の実験においては,正確性を増すために特別複雑な装置を使うことはない ので正確性が大きいことは操作が同り道をしないで測定しようとするものに短距離で結び つくことる意味することが多いと考えられる。そうすれば,操作の正確性は操作の簡易性 とかなり一致することが多いことになる。したがって考案もしやすくなると考えてよいで

あろう。

それに対して,「操作の直接性」が操作の案出しやすさにあまり関係ないのは,考えさ

(11)

高 野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第24報)       27

せられるものをもっている。1白:接性といり性格は,測っている1水」がどれたけ直接的に 物体と「同体積の水」を示し,よく表現しているかであり,なるほどこれだけのかさの水 が確かに物体と「同体積の水」なのだと,できるだけはっきり実感できる場合は直接性が 高いことになる。したがって,直接性の高い操作の方が案出しやすいのであろうと一…応考 えられる。しかし,よく考えてみると,操作の直接性というものは,角度を変えてみると 操作の具体的手続きが,この場合ゴム栓のかさ(体積)を測ろうという目標に向って論理        , Iに緻密で,すきまのない運びになっていることを意味している。したがってゴム栓の体 積をできるだけ明瞭に示すように水をとりあつかうことは,操作の手続きとしてはその運 用の論理的厳密性を追求するのあまり,かえって複雑なコースをたどることになりやすい のである。そのため操作の直接性という性格には,操作の案出しやすさという点からは,

重要な因子ではないことになるであろうと考えられる。

以上の検討から,操作の案出しやすさに寄与する諸因子の強さがわかったが,この結果 は他の教材の場合についても多分に共通するものをもっていると考えられる。そして操作 の案出しやすい方式で実際の実験観察を行う方が,同じ目標に達するために,子どもが自 主的に実験観察の計画をしやすいので,すぐれた方式であるといえよう。

§5 結    論

(1)観察過程の論理構造において,鍵概念に関する実験操作が大きな役割をもってい るという前報の結論の上に立って,小学校4年の教材「物の浮き沈み」の場合について調 査した。すなわちこの場合の鍵概念「同体積の重さ」に関する実験操作,すなわち「同体 積の水のあつかい方」を4方式設定し,ゴム栓という物体の体積の測り方を,与えられた 器具・材料によって工夫させるという問題について,小学校4・5年生について調査し,

各方式の平均正答率を分析した。

(2) 4年生と5年生の1年間の学年差は正答率の比にして2・06倍という大きな値を示 し,また一つの方式の問題を終えた後で,正解を教示してからつぎの問題に移った場合の

正答率は,そうでない場合に比して1・36倍で,教示効果もかなり大きいことを示した。

(3) 学年差は年令差が意外に著しいことが確認された。このことは,この問題内容が ゴム栓の体積を測るという一定の目的のために実験操作の論理的配列を工夫するもので,

かなり水準が高く,また,ここに必要な観察・思考の機能が,この年令で大きな発達速度

をもっていることを意味している。

(4) この調査問題の解決にあたって働らかなければならない機能を,ギルフォードの 知的能力の構造モデルと対比させたところ,拡散的思考,集中的思考および評価的思考が 対応し,また市川亀久弥氏の創造的思考に関する等価変換展開理論と対比させたところ,

創造的思考がじゅうぶん働らいていることがわかった。この2種の対比を総合すると,創 造的思考と論理的思考が組合わさって機能していることになる。

(5)実験操作の性格を直接性,正確性,簡易性の三つの観点から,また器具がもって いる操作への暗示性という観点から4種の方式の正解率を検討したところ,器具の暗示性,

操作の簡易性,操作の正確性は,操作の案出に有力な効果を出しており,操作の直接性は

関係ないことがわかった。

(6)上記の操作の案出に有効な操作・器具の性格をそなえた実験観察方式は,授業過

(12)

程において子どもが白主的に実験観察の計画を立てやすいので,すぐれた方式であるとい

える。

本研究の調査は,茨城県東茨城郡美野里町立羽鳥小学校において行なったものであり,

ここで同校の職員の方々に感謝の意を表する。なお,調査の条件統制は筆者の妻,同校教

諭高野みち子が行なった。

ー    また,本研究の内容は,昭和45年8月7日,日本理科教育学会第20回全国大会(於福島 市)において発表してある。

文    献

(1)高野1亘雄:本研究(第23報)一観察過程の論理構造(2)一本紀要,19(1969),99〜・

       

i2) 同  上:本研究(第22報)一一観察過程の論理構造一本紀要・18(1968),193〜・

(3) 同  上:本研究(第20報)一レンズ学習における観察機能と学習効果の分析一,本紀要・

16 (1966) , 165〜。

(4) 同  上:本研究(第21報)一観察機能の質・量の学醤効果に及ぼす影響(振り子学習を例 として)一,本紀要,17(1967),113〜.

(5) Guilford, J. P.:The structurc of intellect., PsychoL bull・,253(1956),267〜・

(6) Guilford, J. P,:Three faces of intellect・, Amer・Psychologist,14(1959)・469〜・

(7)市川亀久弥:創造のテクノロジーとしての等価変換論の応用面,創造性研究。第1集(1965),

51〜.

     唱

i8) 同   上: 「等価変換思・考」過程と完全変態をとる昆虫の変態過程との対応,創造性研究

      1

恤糟s1集 (1965) , 130〜.

Ab8tra6t

Experimental Studies on the Function of Observat量on in Sclence Education. XXIV.

一Logical structure of the process of observation and the effbct of learning一

Tsuneo Takano

(Faculty of Education, Ibaraki University)

The author has tried the investigation fbr the ability of planning the experimental procedure ih the prcoess conducting key concept weight of same volume in the su切ect

Floating and Sinking of Matter for the fburth and fifth grade pupils of elementary

school.

That is, the pupils devise the fbur methods of measurement fbr the same volume of water to rubber stoPPer.

Through the comparison of the investigation for the fbur methods it has been made clear what method is easy and what method is difficult to devise it.

The effective factors to devise the method of measurement easily are the suggesti一

ve織ess for operation by the experimental tool, the accuracy and the simplicity of nleasu一

(13)

      1

a@野:理科教育における観察の機能に関する実験的研究(第24報)       29

rement. The directness of operation is indiffヒrent to the easiness of device。

By the comparison of the ability of device and the model of structure of intellect by Guilfbrd J. P., it has been made clear that the ability contains Divergent Thinking

bonvergent Thinking , and the function of Evaluation ,.

By the comparison of the ability of device and the theory of Equivalent Trans・

fbrmable Thinking fblr the creative thinking by Kikuya Ichikawa, it has been made

clear that the alility contains the abundant fUnction of the creative think五ng.

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参照

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