ソ
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理科教育におけろ観察の機能に関ずろ
実験的研究(第八報)
一サクラとクリの葉の比較観察について一
自然科学教育研究室 高 野 恒 雄
§1.緒 言
§2.調査方法
(1)調査対象
②比較観察方法
⑧ 採点基準
§3.調査結果と考察
〔1)比較観察記録の実例
(2)比較観察得点の分布
(3)各相異点の観察率
曲学業成績,知能,視力,他の観察得点との相関
§4.結 び
§1.緒 言
筆者は本研究の第一報から第五報までにおいて,ヨウ素の問題実験水素の問題実験な どにおいてそこに現われる現象を単独に観察する,いわゆる単独観察について,その観察 機能を分析してきた。そして第六および第七報においては,ヨウ素と塩化アンモニウムの 加熱実験における現象の比較観察についてしらべ,その分析結果を観察力養成の方法に結 びつけて考察し,いくつかの結論を生んだ。
ところでこれまでの問題実験の観察においては,その観察される現象内容はすぺて物理 的,化学的現象に限られていた。それにはつぎのような理由があった。観察の機微をしら ぺていくために使う問題実験のもつべき性格としては,実験条件を統切することが容易で あること,再現性の確実な現象であること,実験材料を容易に揃えることができるもので あること,実験内容に関する専門的知識なくして表現できるような現象であること,実験 内容が微妙な現象を多数含んでいることなどの条件が重要である。そしてこれまで筆者の 考案した問題実験は,ほとんどこれらの条件をそなえていて,かなり理想的な現象内容を
もっていたのである。
134 茨城大学教育学部紀要第八号
しかしこのような問題実験の条件を満足させる現象は,おのずから大体物理的,化学的 現象に限られてしまうのである。そこで筆者はこれらの望ましい条件の一部を少し犠牲に
しても,それ以外の分野に取材して観察問題を構成し,観察の機能をしらべ,分野が異な るとどのように観察の機微が変ってくるかを研究してみようと考えたのである。
1 2
{第八報はまず生物の分野から取材してサクラ(ツメイ鋤ノ)坐ク1ノの葉の比較観 察における観察機能についてしらべてみたものである。材料が生物の場合一番問題になる
のは個体差があることである。多数の被検者に観察対象になる生物の材料を与えて調査を 行った場合,この個体差の存在は調査後に観察記録を評価し分析するとき,かなりの支障
をもたらすのである。またこのことと関係することであるが,時期を異にして採集したも ののちがい,地域による差異などがあり,いろいろの意味で条件統制がむずかしいわけで
ある。
そのため実際に調査する場合には,時期,場所などを同一にして,できるだけ統制をと る必要がある。本研究に用いた観察対象のサクラとクリの葉も,全部同じ木の同じ枝から 採集し,その上で個体差の著しいものを除いてできるだけ条件統制を行った。その結果と
して,かなりの程度までは好条件の観察問題となりえたのである。
ここで特に植物の葉を選んだ理由は,前述の理想的な性格の一つである「材料を容易に 揃えることができるものであること」に最も適合する材料であり,また花などに比べると 材料の一部が欠除することなども少なく,好都合であるからである。葉は栄養器官である から,それよりも生殖器官の方が個体差が少なくてよいとの論もありうるが,前述の理由 により,また観察事項が「内容に関する専門的知識なくして表現できるようなものである こと」という条件により適合するので,葉の方がよいと考えたのである。
それから一種の葉の単独観察ではなく,二種の葉の比較観察にしたのは,材料が生物の 場合単独観察では一体どこまで細密に観察を進め記録をしていったらよいのか迷う傾向が 強く,また細密になればなるほどその個体にだけみられる事実を観察しているよう癒こと にもなるのである。そこで二種の葉の比較観察をしてその相異点を指摘するという方法を とって,できるだけ観察が実質的に行われるよう観察条件を絞ってみたわけである。また 特にサクラとクリを組合せたのは,両者の葉は程よく似ていて,程よくちがっているので,
相異点を指摘させるのに適当だろうと考えたからである。余りに似ている組合せや余りに ちがっている組合せは,観察の機微をしらべるのに都合が悪いわけである。
以上のような理由で,まずサクラとクリの葉の比較観察によって両者の相異点を指摘さ せるという調査方法を採用し,調査結果を分析したのである。
§2.調 査 方 法
(1)調 査 対 象
茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一小学校,6年生85名(2クラス)および4年生42名(
ユクラス),計127名。
(2)比較観察方法
本研究に用いたサクラ(ソメイヨシノ)とクリの葉は,いずれも茨城県西茨城郡岩間町 で6月中旬に,前述したように同じ木の同じ枝から採集し,さらに個体差の著しいものは 除いたものである。この場合枝の先端部と基部の葉は個体差を少なくするためにさけた。
また葉は葉柄をつけたまま採集した。このようにして採集したサクラとクリの葉を各被検 者に1枚つつ与えてから,つぎのように比較観察させた。
まず6年生の1クラスには,比較観察方法についての特別な指示はしないで,つぎのよ 馬
うな意味の説明を与えた。
「目の前にあるサクラとクリの葉を,あらゆる角度からよく注意深く観察してみると,
かなり沢山のちがった点が見出される。そのちがっている点をでさるだけ指摘して起録し てほしい。葉はどのようにあつかってもよい。時間は60分である。」
これに対して6年生のもう1クラスと4年生1クラスには,葉を与えてから,前述の観 察要領のほかに,第1表のような疑周形の文章を用いた比鮫観察方法の指示を5項目与え ておいて,比較観察させた。
第 1 表 指示 し た 比 較観 察 方 法
(1)葉の形は,それぞれどのように変っていますか。よくくらべてちがっているとこ ろをみつけてください。
② 葉のふちは,どのようにちがっていますか。
膝薦談綴1灘誤、、雛よくくらべてごらんなさ、∴(5)そのほか葉全体をくらぺてみると,どんなちがいがみられますか。 「 1
■「ずれの項目も各相異点そのものを暗示するような文章ではなく,平凡な着眼点を指示 しただけなわけである。この場合第七報のヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察における 場合の,7項目の比較観察方法を指示したときのように立ちいった指示をしなかったのは,
、 植物の葉の場合その程度まで立ちいった指示を与えると,相異点そのものを教えてしまう ことにもなる可能性が強いからである。
136 茨城大学教育学部紀要 第八号
(3)採 点 基 準
サクラとクリの葉の比較観察を,与えられた条件において徹底して行ったら,いかなる 両者の相異点が見出されるかを,筆者を中心とする数名の回を重ねての比較観察によって,
つぎのように決定することができた。まず「比較観察しうる相異点」の各々の要点を表に 示すと,第2表のようになる。
第 2 表
比 較 観 察 し う る 相 異 点
翻陣異点「サ ク ラ1ク リ
11全体の矧卵形 長いダ円形
2医端の矧急にとが・ている 譲βてはいるが・それほどで
3i縁 の 形瞬状の齢動・ている 陣識鋤の歯
剣歯の密劇細密 陣
歯の鋭さ隣い 陣い
司表面の状副うすい毛が生えている 1平滑
7「葉脈の密度1密 因や粗
8陳脈の走り方隊の近くで脈が乱れる 1縁噛・向・て斜めに走る{
一一一一一 一一
X主脈の凹凸隊面より凹んでいる 陳面より凸っている 刺主脈と支脈の角劇小さい角 [大き・・角
11摩柄の長さ長い 短い 12陳柄の毛ある 「ない
13i葉 の 色[濃 い う す い l l
1引密 劇ある ない
1司主脈上の毛「ない 1ある
第2表によって各相異点は大体要約されているが,そのうちいくつかの相異点について さらに補足すると,つぎのようになる。
まず相異点3の「縁の形」であるが,植物図鑑によればサクラの葉は「辺縁に鋭い重鋸 歯」があり,クリの葉は「葉縁に芒尖鋸歯」があるが,この両者のちがいを平易に表現し たわけである。
相異点8の「葉脈の走り方」は,サクラの葉は中心に通った主脈から斜めに出ている各 支脈が,そのまま縁に達しないで,縁の近くで何本にも細かく分れて網目状になり脈が乱 れるが,クリの葉は各支脈が縁の歯に向ってそのまま走っているので,その差異を指摘し
たのである。
相異点9の「主脈の凹凸」は,葉を表側からみるとサクラの葉の中心の主脈は葉面より 凹んでいるが,クリの葉の主脈は逆に葉面よりも凸っていることを示したものである。
相異点10の「主脈と支脈の角度」は,サクラの葉の方が支脈の主脈に対する角度が小さ く,平均して約45°位であるが,クリの葉は65〜70°位のより大きい角度をもっていること を示す。
相異点15の「密腺」は,サクラの葉には葉のもとの葉柄の所にかたまり(密腺)がある が,クリの葉にはそれがないことを意味するのである。
相異点16の「主脈上の毛」は,サクラの葉には特別ないが,クリの葉の主脈には図鑑に よれば「脈上に小星毛を有し」ているのであり,細かく微視的に観察する者にしてはじめ て注意できるような一寸むずかしい観察点である。
以上で合計16の相異点が見出されることになるのであるが,これらはあくまで実際に与 えられた条件でサクラとクリの葉を比較観察した場合に見出しうる相異点であって,植物 図鑑に記されているような分類学的な記述に比べると,それより多くの微妙な点が含まれ ており,また一方植物図鑑には記述されていても,この場合不適当と認めて除外したもの もある。例えば植物図鑑によれば「サクラの葉は左右対称」で,「クリの葉はやや左右不 斉」であるし,事実も大体そのようであるが,これは一枚つつのサクラとクリの葉を比較 観察する場合には,個体差のあることを考えると一概にはいえないことであるので除外し
たo
そのほかにも「葉面のそり具合」(わん曲の程度)の相異(大体クリの葉の方が全体的に も各葉脈間でもよりそっている)なども,個体差のため断定しにくい点なので除外した。
また一部の児童は「におい」のちがいを指摘しているが,第一報にものべたようにふつ う観察というと視覚によるもので,においの感覚によるものは含まないと考えている者が 多いので,このにおいのちがいは十分認めていながら記述はしない可能性が強く,採点基 準からは除いた方がよいと考えた。
さらに「葉柄の丈夫さ」のちがい,「葉を手でもんだとき」のちがいなども指摘する児 童がいるが,これらは観察対象に対する手による処理が相当なされてはじめてわかること であり,観察の採点基準には妥当でないと考えて除いたわけである。
このような事情によって,結局は前記の16の相異点になるわけであるが,この16のうち 一つの相異点を見出し記録することができた場合,これまでと同様これを仮に1点の得点 とすると,各被検者のこの比較観察において見出すことができた相異点の数を点数で表わ
\ すことができるわけである。実際に採点する場合には,各相異点を前記のような表現で記
138 茨城大学教育学部紀要 第八号
録しなくても,実質的にその相異点を認めているとはっきり判断できるときにはこれを得 点に入れ,表現力によるファクターをできるだけ除くようにしたのである。
§3.調査結果と考察
(1)比較観察記録の実例
被検者はサクラとクリの葉の比較観察を具体的にはどのように行っているかを個別杓に みるために,実際の比較観察紀録をあげてみる。
まずはじめに,比較観察方法を指示しない自由な場合の6年生の男子児童のものをあげ る。視力は左右とも1.0であり,学業成績は全教科,理科ともに5段階法で5である。
「(1)葉のまわりのギザギザはサクラの方が細かくいっぱいあって,こみあっている。
(2)葉の下のクキはクリの方がみじかく,サクラの方が長い。
}
求@サクラの葉は全体の長さがみじかく,まるい。クリの葉は長ひょうい。
(4)クリの葉よりサクラの葉の方がやわらかい。そのためか,虫にくわれたあとがある。
㈲ クリの方が葉の色がうすく,サクラはこい。サクラはふちのギザギザに近いところはうすい。
(6)葉の中のスジはクリの方があらく,サクラの方がこまかい。
(7)クリのスジはずっと先まで,ふちのところまで,まっすぐ行っているが,サクラはとちゅう でグジャグジャになる。
⑧ クリの葉をやぶると,ピリピリという音がしてやぶれる。サクラの方は音がしない。
(9)葉のクキをおると,クリの方がなかなかおれない。サクラは二三回まげると,すぐおれる。」
この記録は比較観察方法の指示がないせいか,自由な観察をしている。文中に「葉のク キ」とあるのは葉柄のことをいっているのである。(8),(9)などはなかなか行動約である。
しかし(9)の葉柄の丈夫さのちがいは,前述の理由で除外した。この記録を前述の採点基準 で採点すると,相異点1,3,7,8,11,13,14を見出していることになり,比鮫観祭 得点は7となる。
つぎは比較観察方法を指示した場合の6年生の女子児童のものである。視力は左右とも に1.2であり,学業成績は全教科,理科ともに5である。
「(1)サクラの葉はダ円形で丸こい。クリの葉はずっとほそながい。クリの葉は先はだんだん細く なっているが,サクラの葉はきゅうにほそくなっている。
② クリはふちにスジのとおりに,トゲのようなものがはえている。サクラはのこぎりのような こまかいギザギザがかさなって,葉の先までたくさんつづいている。
〔3)よくみると,サクラの表には小さな毛のようなものがある。クリはつやつやしている。
㈲ スジはサクラの方がぎっしり,たくさんある。そしてへびのようなこまかいしまもようが,
葉のぜんたいにひろがっている。サクラはすじが上の方にそっていて,ふちの近くの先の方がわか れている。そして表のスジはへこんでいる。クリはまっすぐなスジが,でっばっている。
(5)サクラはスジが太くて,柄が長い。クリはスジが細くて,柄が短い。それから葉の色がちが
う。サクラはふかみどり,クリはきみどりだ。」
この記録はなかなか見事な比較観察である。クラスで最高得点のものであるが,比較の 観点をよくとらえ表現がかなり適確である。そして5項目によく整理されているのは,比 較観察方法の指示の効果の現われといってよいであろう。採点基準によって採点すると,
となる。
つぎは比較観察方法の指示をしたという点で同じ条件の,4年生の男子児童のものであ る。視力は左右ともに1.2であり,学業成績は全教科が4,理科が5である。
「(1)クリのははながくなっている。サクラの葉はまあるく,どんぐりみたいになっている。
② クリの葉のふちは,あいだがあいてギザギザがある。サクラの葉はふちがこまかくなってい
る。
(3)クリの葉とサクラの葉をくらべると,サクラの葉のまん中のスジのよこに出ているスジを見 ると,先の方がグジャグジャにわかれている。クリの葉はきちんとまっすぐになっている。
㈲ サクラの葉のスジのあいだはせまくなっていて,こまかくスジがあるが,クリの葉はあいだ がすこしはなれている。
⑤ サクラの葉の上のとがっているところは,すこしへこんでから,きゅうにとんがっています。
クリの葉はそのまま,まっすぐになってとんがっている。」
この記録は前にあげた6年生の記録に比べると表現が十分でないが,4年生にしては上 出来の比較観察をしている。採点基準で採点すると,相異点1,2,4,7,8を見出して いることになり,比較観察得点は5となる。ここにも比較観察方法の指示効果はあらわれ ているとみてよいだろう。
(2)比較観察得点の分布
サクラとクリの葉の比較観察得点と人数との関係を,6年生の比較観察方法を指示しな い場合と指示した場合とについて,図示すると第1図のようになる。
第1図比較観察得点分布(6年生) 第1図から,比較観察方法を指示しない場
30 合には人数の山は得点6にあり,指示した場
人 巴 指新翻 合の山は得点7にあることがわかる。また指 一一一ヒ旨禾t費
ズ2 o 、、 示した場合は低得点者は減少し,高得点者は
O\ 増加している・したがつて全体的に囎察ノー \ 方法の指示効果は現われているといえる。こ
グ ー\ のことは第七報におけるヨウ素と塩化アンモ \
、 ニウムの比較観察の場合,比較観察方法の指
00 ! 2 3 4 タ 6 」7 9 9 /0 ソ 2
観妥得象 示効果が低得点者だけでなく,高得点者にも 現われたことと一致しており,その点でやはり比較観察は単独観察と異なった特質をもっ
o
1和 茨城大学教育学部紀要第八号
ていることが理解されるのである。
つぎに被検者の平均観察得点を求めてみると,第3表のようになる。
第3表 平均観察得点の比較(6年生) この表から男女全体とし
1\1指示しない1指示し司指示した/指示しない ては,比較観察方法を指示
男14・7115・921 1・26 } オない場合の平均観察得点
女16・1517・1・1 1・15
が5.41であるのに対して,
全体15・4116・451 1・19 指示した場合は6.45となり
女/男1 1・311 L2・ 比率ほ1.19倍であることが
わかる。ここに問題が存在している。
まずはじめに,比較観察方法を指示しない場合の平均観察得点が5.41であることは,相 当に高得点であることを意味している。いいかえれば比鮫三i勺やさしい観察であるといえる。
例えば第六報のヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合は1・43であり,かなり小さ い。もちろんサクラとクリの葉の比較観察の場合高得点であるのは,一一つには見出しうる 相異点の数が16もあり多数であることによるであろう。しかし単に見出しうる相異点の数
の多いことだけに原因するとはいえない。なぜならば,ヨウ素の観察の場合は見出しうる 現象の数は15であったが,6年生の平均観察得点は2・98であった。また水素の観察の場合
は見出しうる現象の数は18であったが,6年生の平均観察得点は2・62であった。このよう に見出しうる現象の数が多くても,サクラとクリの葉の比較観察の平均観祭得点5・41に比 ぺると,ずっと低い得点を示している。
したがってサクラとクリの葉の比較観察の得点の高さは,それ自体の待性にもとずくも のと考えなくてはならないであろう。その原因はまずサクラとクリの葉という観祭対象が
日常生活においてありふれたもので,十分みなれているものだというところにあるだろう。
特にこの調査の被検者となった児童たちの学校は,校庭にサクラとクリのいずれも植えて あるので日常みる機会は多いわけである。それからまたサクラとクリは教材の中にも出て
くることも,一つの原因としては考えられる。もちろん教材にはこの調査におけるような 葉のくわしい観察はふくまれないが,親しみの多い材料であることは事実である。
つぎに問題になるのは,比較観察方法を指示した場合の平均観察得点6・45は,指示しな い場合の得点5.41に対して1.19倍であり,かなり低いことである。これまでの場合と比較
してみると,まず第七報のヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察の場合の比較観察方法の 指示効果は,4項目指示したとき1・76倍,7項目指示したとき3・12倍である。またヨウ素
の観察の場合の観察方法の指示効果は1・37倍であり,水素の観察の場合の指示効果は1・75 倍である。したがってこれまでのところでは,サクラとクリの比鮫観察の場合は指示効果
が最低であるということになる。
この原因として第一に考えられるのは,比較観察方法を指示しない場含の平均観察得点 が前述のように高いので,それ以上はなかなか得点できず,結果として得点の比率が低く なるということである。このことは前述の日常生活でみなれているものであるということ にも関係してくる。
第二は,サクラとクリの葉の比較観察は一枚つつの葉を並べてたんねんに比較していく のであるから,極めて静的な観察であり,特別の実験操作などが必要ないことに原因する と考える。この実験その他の特定の操作が必要ないということは重要な意味をもつ。すな わち実験操作などが必要であるこれまでの観察の場合は,操作の仕方や現われてくる現象 の観察すべき好機が,なかなかつかみとれないために観察がむずかしくなり,結果として 得点が低くなることが多いのであるが,その場合には観察方法の指示があると操作や着眼 点が示されるので,そのむずかしさが相当程度解決される可能性が強いわけであり,その ため観察方法の指示効果が大になるのである。ところがサクラとクリの葉の比較観察のよ
第4表 うに,物理,化学現象以外の場合には静約なものが多いが,この場
平均観察得点(4年生)
合には操作や着眼点のむずかしさがずっと少なく,したがって少し
1
男 4.09
位観察方法を指示されても大きな効果は期侍できないことになるわ 1 女 4.26
全副4・17
けである。
つぎに4年生の平均観察得点を第4表に示すが,4年生でもかな
女/男1 1.04 1
りの比較観察得点を示していることが理解されるのである。
第2図 各相異点の観察率(6年生)
00 一
親
ギ゜
・
指・指柔 示
亨6。 蝕
(玄
)
4020
0 234
D鐸4 μ 3/4ノよ !6142 茨城大学教育学部紀要第八号
(3)各相異点の観察率
サクラとクリの葉の比較観察において見出しうる16の各相異点について,その相異点を 見出した被検者は全体の被検者の何%にあたるか(観察率)を,比較観察方法を指示しな いクラスを指示したクラスについて比較したのが第2図(前頁)である。
第2図から大体においてはもちろん各相異点について,比較観察方法を指示したクラス の方が指示しないクラスよりも観察率は高いことがわかるが,その程度にはかなりの差が あり,また相異点13および相異点14のように逆に低いものもある。
この各相異点の観察率の比較観察方法の指示の有無による差異の程度をみるために,指 示したクラスと指示しないクラスの観察率の比(R1)を求めてみると,第5表のようにな
る。
影表6年生(指示したりの観察率一R1 6年生(指示しない)の観察率
第5表からR1の特に大きい,すなわち比r観察方法の指示効果の大きいのは相異点9
[相黙翻lR・1相黙翻1R・1 であり,これについで相異点6,相異点3,
111・・引 gl 4.18 相異点12,相異点5が大きいことがわかる。
2 1.15 1。1 1− 1 まず相異点9(主脈の凹凸のちがい)につ
1 1R11・94 11 1・・7 いては,指示した比較観察方法の「㈲葉のス
411.33i 1211.88旨
ジは,それぞれどのようになっていますか。
5 i1・77 13 °・70 よくくらぺてごらんなさい。」によって著し
6 2.781 14 O.61
1 く得点の上昇がみられることになる。極めて
71L31115 11・51
! 童は漠然と葉を眺める傾向が強いので,「葉
のスジ」と特に指示されてスジに注目させられると,今度はずっとくわしく観察をして比 較することになるのである。このことは実際に観察力を養成する場合,はじめはごく平凡 な指示でもよいから与えた方が,ずっと効果的であることを意味していると考える。
そのつぎにR1の大きい相異点6(表面の状態のちがい)については,「(3)葉の表面を よくくらぺてごらんなさい。」という指示が効果を現わしているのであるが,この場合も 特に「表面」と指示されることによって,強く注目させられ観察することになると考えら
れる。
つぎにR1の1以下の相異点13(葉の色のちがい),相異点14(葉の硬さのちがい)に っいては,いずれも比較の観点がごく平凡なものであるため,前述の指示位では効果はな
く,かえって別の相異点の観察にかくされてしまうことさへあるものと考えられる。
そのほかの各相異点についても,R1の値の理由がそれぞれ考えられるのである。
つぎに各相異点の4年生と6年生との差異,すなわち年令的差異の程度をみるために,
6年生と4年生の観察率の比(Rのを求めてみると,第6表のようになる。
第6表麟モ憲認諜謁恥 第6表からR2の特に大きい相異点は,相 ル点12および相異点6などであることがわか
相黙翻恥1概幡号i恥 る。
1レ・28ig l2・16 相異点12は葉柄の毛の有無のちがいであり
2 [1・5311・[一 相異点6は葉の表面の状態(毛の有無)のち
3 1・1gi 1111・7・
がいである。いずれも細かく観察したときは
4 」L。91121・・ じめて見出す事実であり,いわゆる微視的観
511・651131215 察を要するものである。単独観察の場合も同
6 i5・67 141λ31
この微視約観察は年令の高い
7 i1・35}1511・23
様であったが,
8 12・13 16 ・ 者の方がよく行えることが,この比較観察の 場合にも理解されるのである。
このほかの各相異点についても,それぞれ理詣の考えら江るものが多いが省略する。
(4)学業成績,知能,視九他の観察得点との相関
サクラとクリの葉の比咬観察得点とこれらの司の相廻係敗を,比狡現察方法の指示の有 無との関係をもみるために整哩してみると,第7表のようになる。
第7表 観察得点との相関係数
i卜〜一一_16年生(指示しない)6年生(指示した刀・牲(指丸た)
}全教科成績1@÷α39 +α57 1 +α63 1理科成副 繊15 1 編6 +・・53
知能指蜘 +α24 1 +・・45 +・・5・ 1
視 力i +q361 −。18[ +α181i
誘綴撫酬 +・・36 i 一繊45 1 +a39 1
第7表から,比較観察方法の指示の有無にかかわらず,学業成績(全教科および理科)
および知能指数と比較観察得点との間には,有意の+の縮男があることがわかる。そして 比較観済方法を指示した場合の方が指示しない場合より,いずれの相掲係数も高い値を示
している。しかしこの傾向はもっと多くの資料を得てから結論したいと考えている。
視力との相関は各場合バラバラの値であり,またその存在が疑わしい程度でもあり,今 までの研究における相謁係数の値と大体似ている。
144 茨城大学教育学部紀要 第八号
第7表の「ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察得点」との相関とあるのは,サクラと クリの葉の比較観察を行った被検者は,このほかにヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察 も行っているので,両者の比較観察得点の間の相関係数を求めてみたものである。その結 果は表にあるように,同じ観察であるからもちろん有意の+の相関が存在しているが,そ の値は学業成績知能指数の場合などに比べて特に大きいとはいえない。このことについ ては,同じ比較観察とはいいながら,ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察とクリとサク ラの葉の比較観察とでは,内容に質的差異があり,両者の比較観察得点にそれほど大きい 相関はみられないものと考えられるのである。
§4.結 び
以上は,サクラとクリの葉の比較観察における観察機能の問題を,比較観察方法の指示 効果という点もふくめて調査を行い,その結果を分析したものであるが,生物に取材した 比較観察の特質をいくつかの点で明らかにすることができた。今後はさらに別の分野にも 取材した観察の調査を行い,各々の特質を比較検討していきたい。
終りにのぞみ,本研究の一部は昭和32年度,文部省科学研究費交付金(各個研究)によ って行われたことを記し,また調査に便宜をはかられた茨城県西茨城郡岩間町立岩間第一・
小学校長,漆野信夫氏および同校職員の方々に,心から感謝の意を表する。なお調査にお ける被検者の条件統制,採点基準の作製などに,筆者の妻,高野みち子(上記岩間第一小 学校教諭)の手をわずらわした。
〔後記〕本研究は昭和33年11月7日,日本理科教育学会,第八回全国大会(於宇都宮大 学学芸学部,宇都宮市)において,講演発表してある。
参 考 文 献
〔1)高野 恒雄:本研究(第七報)一一ヨウ素と塩化アンモニウムの比較観察における観察方法の吟 味一,本紀要,8号,119頁,1959年.
② 高野恒雄:同 上(第一報)一ヨウ素の実験における観察機能の分析一,本紀要,5号,89 頁,1956年.