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〈公〉〈私〉のダイナミズムに関する人間形成論への序説--H. アーレントとO. F. ボルノウの〈公〉〈私〉理解の比較を手掛かりに

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Academic year: 2021

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(1)〈 公 〉 〈 私 〉 の ダ イ ナ ミズ ム に関 す る 人 間形 成 論 へ の序 説 一H .アー レ ン トとO.F.ボ ル ノ ウ のく 公 〉 〈 私 〉 理 解 の 比 較 を 手 掛 か りに 一. 岡 本 (教職教育部. 序.教. 哲. 雄. 助教授). 育 の 「公 共 性 」 を め ぐる意 味 の争 奪 戦. 現 在 、 日本 の論 壇 で は、 様 々 な分 野 で 「公 共 性 」 の再 生 を め ぐ って 議 論 が 盛 ん で あ る。 しか し、 そ れ ぞ れ の論 者 の い う公 共 性 の 内容 は様 々 で あ り、 この 内容 規 定 に よ って 自 らが 標 榜 す る 政 治 的 立 場 を表 明 して い る観 さ え あ る。 こ こで は ま ず、 教 育 改革 との兼 ね合 い に お い て 展 開 さ れ て い る 「公 共 性 」 議 論 を筆 者 な りに整 理 し、 鳥 鰍 して お きた い と思 う。 た だ し、 個 々 の議 論 は微 妙 な ニ ュ ア ンス の差 異 を持 っ ことか ら、 そ れ らを整 理 す る こ とは容 易 で は な く、 こ こに示 す の は ほん の 目安 に過 ぎ な い こ と を断 って お こ う。 一 方 にお け る主 張 と して 、 精 神 的 な中 軸 を失 っ た(日 本 の)現 代 社 会 に 中心 を取 り戻 そ う と い う文 脈 の 中 で 「公 共 性」 な い しは 「公」 の 復 権 を唱 え る立 場 が あ る。 そ の 際 しば しば 、 「国 家 」 や 「伝 統 」 が そ の基 軸 と して 念 頭 にお か れ て お り、 伝 統 の再 発 見 と国 家 意 識 の見 直 しな く して公 共 性 の復 権 はな い と考 え られ て い る。 この よ うな 立 場 か ら語 られ る教育 に対 す る態度 も、 単 な る復 古 主 義 か らそ うで な い もの ま で論 者 に よ って ニ ュ ア ン スの 差 は あ ろ うが 、 概 して 日本 に お け る保 守 主 義 的教 育 観 は、 戦 後 民 主 主 義 教 育 の リベ ラ リズ ム(進 歩 主 義)的. 傾 向 の 中 に存. 在 す る 「人 権 尊 重 」 「平 等 主 義 」 一 辺 倒 の 主 張 に批 判 的 で あ る。 ア メ リカ で は、80年 代 に 「危 機 に立 っ 国 家 」(1981)が 認 識 さ れ て以 来 、 「教 養 が 国 家 を救 う」(ハ ー シ ュ;1987)と の もと、 基 礎 的 教 養 教 育 の復 権("backtobasics")が. い う発想. 叫 ばれ 、 「文 化 リテ ラ シ ー 」 を学 校 教. 育 の 基 本 内 容 とす る主 張 が な され たが 、 日本 の教 育 改 革 もそ の影 響 を受 け て きた。 そ こで は総 じて く 共 通 善 〉 を 共 同 体 の 中 で 滋 養 し(コ ミュ ニ タ リア ニ ズ ム)、 国 家 的 ・文 化 的 アイ デ ンテ ィ テ ィー を志 向 す る教 育 観 が 語 られ て い る。 た だ し、 この よ う に80年 代 半 ば 以 降 台 頭 して き た主 張 は、 保 守 的 立 場 の伝 統 や 国 家 へ の 志 向 を受 け継 ぎな が ら新 た な展 開 を 見 せ て い る。 この 立 場 は、 あ くまで 「小 さ な政 府 」 を主 張 し 一1一.

(2) 近畿大学教育 論叢. 第13巻 第1号(2001・9). 教 育 へ の 市 場 原 理 の 導 入 に積 極 的 で あ る こ とか ら、 新 保 守 主 義 と呼 ばれ る の で あ る。 彼 らは ま た、 国 際 社 会 の 中 で 日本 が 自立 した 国 家 た る こ と を め ざ して 「自 己責 任 」 や 「自律 した個 性 」 を教 育 の 目標 と して あ げ る。 日本 の 中 曽 根 政 権 以 来 の新 保守 主義 の教 育 改革 の理 念 は、米 の レー ガ ン、 英 の サ ッチ ャー 時 代 の 教 育 改 革 、 そ して 米 の ブ ッシ ュ政 権 下 で の 『2000年 の ア メ リカ 教 育 の戦 略. 』(1991)な. ど の影 響(学 校 選 択 制 の導 入 、 標 準 学 力 テ ス トの 導 入 、 民. 間 セ ク ター の 活 用 な どが 主 張 され る)を 受 けて い く。 ア メ リカの 経 済 学 者 フ リー ドマ ンの考 え 方 が、 直接 的 に 日本 の 臨 時教 育 審 議 会 の 自由 化 論 に影 響 を 与 え たの は よ く知 られ て い る と ころ で あ る。 新 保 守 主 義 的教 育 改革 の 理 念 が保 守 主 義 の そ れ と異 な るの は、 共 同 性 よ り も個 人 の 自 己決 定 を、 政 治 的権 威 よ り も経 済 的 自由 を志 向 す る と こ ろ にあ る。 いわ ゆ る 「リバ タ リア ニ ズ ム」 的要 素 を 多 く取 り入 れ て い る と ころ に あ るだ ろ う。 90年 以 降 、 ア メ リカ で は、 福 祉 国家 や 「大 き な政 府 」批判 に と ど ま らず 、 「市 場 は 公 共 的 な 機 能 を有 す る制 度 」 で あ り 「市 場 論 そ れ 自体 が福 祉 国 家 に代 わ る新 しい 公 共 性 を 導 く議 論 と して 展 開 さ れ て」1)き て い る と い う(ex'T.チ 1990年2))。. 日本 で は1995年. ャ ブ、T.モ. ー 『政 治 ・市 場 ・ア メ リカ の 学 校 』. に公 表 さ れ た経 済 同友 会 の提 言 「学 校 か ら合 校 へ 」3)な どが 、 最. 近 の新 保 守 主 義 的教 育 改 革 の構 想 に 当 た る。 他 方 、 以 前 か ら、 社 会 的平 等 の実 現 、 弱 者 救 済 、 福 祉 国 家 の 歓 迎 を 主 唱 す る従 来 の 「革 新 (進歩)主 義(リ. ベ ラ リズ ム)」 的主 張 が あ り、 自然 法 的人 権 の実 現 に よ ってく 公〉 を 形 成 し、. 〈 公 〉 に よ っ て人 権 と平 等 と福 祉 を保 障 す る とい う考 え を基 盤 に して い た。 日本 で は、 そ こ に 戦 後 民 主 主 義 教 育 の役 割 を見 よ うと して い る立 場 が あ る。 しか し、 人 権 の観 念 が 前 提 とす る 自 己決 定 能 力 へ の 期 待 は現 実 的 で は な い と し、 独 立 した 「個 」 の尊 重 を見 直 し、 共 同体 が個 人 の生 に対 して もっ 価値 を 強 調 す る、 コ ミ ュ ニ タ リア ニ ズ ム(Ch.テ. イ ラ ー、A.マ. ッキ ン タイ ア、M.ウ. ォル ッ ァー等)と. い う政 治 的 立 場 が80年. 代. 以 降 に革 新 主 義 の流 れ を 更 新 す る もの と して も作 用 した。 この傾 向 は、 「個 人 の 自 由 の 尊 重 」 や 「市 場 主 義」 を 標 榜 し18世 紀 の 自由 主 義 の 復 活 をね ら う新 保 守 主 義 的 傾 向(リ ズ ム)こ. バ タ リア ニ. の立 場 は「リベ ラル 」の捉 え方 に お い て、 従 来 の りベ ラ リズ ム(革 新 主 義)と. 全 く異 な る立 場 を と って い る. は、. へ の 批 判 勢 力 で あ る と もいえ る。 そ う い っ た傾 向 の 影 響 を. 受 け て、 教 育 にお いて も、 個 人 と国 家 の 中 問 に位 置 す る共 同 体 の再 生 ・ 活 性 化 によ って、 「公 共 性」 の 復 権 求 め る 「新 しい革 新 主 義 」 の主 張 が 興 って きた とい う(H.ジ バ ニ ー、J .リ. ル ー、T.セ. ル ジオ. トルetc)。 そ して これが 、 特 に80年 代 以 降 の 教 育 へ の 無 批 判 な 「市 場 原 理 」. の導 入(教 育 の 「私 事 化 」)に 反 対 す る流 れ と な って い る わ け で あ る。 一2一.

(3) 〈公〉〈私〉の ダイナ ミズムに関す る人間形成論へ の序説 近 年 、 日本 で 台 頭 して きた 「学 び合 う共 同 体 」 と して の公 共 性 の活 性 化 論(佐 藤 学)も. この. 流 れ を受 け て い る。 そ れ は、 教 育 学 的 に 見 る と、 現 代 教 育 の打 開 の道 を、 今 世 紀 初 頭 の新 教 育 運 動 と80年 代 以 降再 び活 気 を帯 び て きた オ ル タ ー ナ テ ィ ヴ ・ス ク ー ル運 動 の 流 れ を 総 括 し、 今 日 の状 況 に あ わ せ て提 示 し直 した もの と受 け取 れ る。 そ の た め 、 市 場 主 義 へ の警 戒心 は強 い。 佐 藤 は次 の よ うに述 べ て い る。 「21世紀 の学 校 が 、 行 政 の権 限 を縮 小 し多 様 な ネ ッ トワ ー クで 構 成 され る の は 当然 で あ る と して も、 〈 学 校 の ス リム化 〉 論 とく選 択 の 自由 〉 に よ る市 場 原 理 は、 教 育 問 題 を解 決 し うる の だ ろ うか。 〈 学 校 の ス リム化 〉 論 と市 場 主 義 の学 校 は、 自由 な 教 育 と引 き換 え に教 育 意 識 の私 事 化 を促 進 し、 文 化 の公 共 性 を解 体 して民 主 主 義 の 危 機 を もた ら しは しな いだ ろ うか 。 さ らに は、 教 育 のく 平 等 〉 とく 公 正 〉 を破 砕 して、 教 育 の機 会 と質 の 地 域 差 と階 層 差 を 拡 大 す る結 果 を招 か な い だ ろ うか 。」4)と 。 さて 、 以 上 の概 観 した よ うに、 教 育 改 革 論 議 に よ って持 ち 出 され る 「公 共性 」 の意 味 内 容 は、 政 治 的方 向性 によ って様 々 に規 定 され て い る。 小 玉 重 夫 は、 『教 育 改革 と公 共 性 』(1999年)の なか で 、 ア メ リカ の教 育 改 革 論 議 に関 して、 「市 場 モ デ ル と反 市 場 モ デ ル と い う相 対 立 す る教 育 改 革 の構 想 が、 と もに 『公 共 性』 とい う概 念 に よ って正 当化 され て い る。 この こ と は、 今 日 の ア メ リカの 教 育 改 革 論 議 の文 脈 にお いて 、 公 共 性 と い う概 念 が必 ず し も一 義 的 に は と らえ られ. てお らず、 む しろ異 なる改革 構想の聞での争尋 あ爵象 芝なこそC、る三をを未ナ もあぞ あ る」5) と述 べ て い る。 日本 に お いて も、 戦 後 幾 度 か の 「振 れ」 を繰 り返 して きた教 育 改 革 の歴 史 の 振 り子 の振 幅 の 中 に 「公 共 性 」 概 念 も揺 れ 動 いて きた ので あ り、 時代 の大 きな転 換 期に差 し掛 か っ た80年 代 以 降 は、 さ らに複 雑 な意 味 を付 与 され て きて い るの で あ る。 この よ うに、 教 育 改 革 の あ り方 を め ぐる政 治 的 論 争 に お い て、 公 共 性 の 内容 を め ぐ る いわ ば 「意 味 の争 奪 戦 」 が生 じ るの は、 現 代 が非 常 に先 行 不 透 明 で 不 確 定 的 な状 況 で あ る こ とか ら、 必 然 的 な 面 が あ る。 けれ ど も、 それ は と もす れ ば、 正 当 な政 治 哲 学 的議 論 を逸 脱 し、 単 な るイ デ オ ロギ ー 闘 争 に終 始 す るで あ ろ う。 そ の 場 合 、 教 育 は政 治 と の正 当 な関 係 を失 い、 イ デ オ ロ ギ ー の道 具 へ と転 落 す るの で あ る。 現 代 と い う時 代 の転 換 期 にく 公 共 性 〉 の再 構 築 を構 想 す る に は、 勝 れ た意 味 で の 政 治 哲 学 が 必 要 な こ と は言 う まで もな い。 そ して 、 それ は教 育 のく 公 共 性 〉 の再 構 築 を視 野 に入 れ た もの で な けれ ば な らな いで あ ろ う。 しか し、 政 治 的 立 場 の正 当 化 の た め に、 「公 共 性 」 概 念 が 半 ば恣 意 的 に規 定 さ れ る誘 惑 が教 育 改 革 論 議 に付 き纏 うの だ とす れ ば、 そ れ は不 幸 な事 態 で あ る。. 一3一.

(4) 近畿大学教育論叢 1.〈. 第13巻 第1号(2001・9). 公 〉 〈 私 〉 関 係 の 人 間 学 的 ・現 象 学 的 次 元. した が って 、 我 々 は、 ただ く 公 〉 や く 私 〉 を客 観 的 に対 象 化 して論 ず るの で はな く、 まず 問 題 の 本 質 を 確 認 す る た あ に、 人 間 学 的 ・人 間 形 成 論 的 な視 点 に照 ら して、 〈 公 〉 とく 私 〉 の 関 の.  . 係性 を 解 明 す る姿 勢 が 必 要 だ と考 え る。 なぜ な ら、 〈 公 〉 〈 私 〉 関 係 の在 り方 へ の人 間学 的洞 察 を 度 外 視 して 、 あ るべ きく 公 共 性 〉 の内 実 を半 ば恣 意 的 、 実 体 的 に設 定 し、 そ こか ら教 育 や 人 聞形 成 の 在 り方 を 演 繹 す る思 考 の 道 筋 が 、 結 局 、 教 育 のく 公 共 性 〉 を め ぐる意 味 の昏 迷 を生 じさせ て い る と考 え られ るか らで あ る。 周 知 の ご と く、 両 者 の 関係 性 の 歴 史 的 変 遷 につ いて は、H.ア ハ ー バ マ ス(1929∼)等. ー レ ン ト(1906∼1975)やJ.. の 研 究 が 明 らか に して きて い る。 あ ま り注 目 され て こなか ったが 、. 自 らの人 間学 的 関心 を20世 紀 の教 育 や人 間形 成 の 問 題 に焦 点 付 けて 多 く の功 績 を な して き た 0.F.ボ ル ノ ウ(1903∼1991)が. 、H.ア ー レ ン トの考 え に共 感 を 寄 せ て お り、 こ の こ と は、 〈. 公 〉 〈 私 〉 関係 を教 育 学 的 ・人 間形 成 論 的 に探 究 す る こ とを 目指 して い る我 々 に と って は貴 重 な窓 口 とな り うる もの で あ る。 こ こで は、 特 に アー レ ン トの 歴 史 的 ・現 象 学 的 考 察 を 前 提 と し た上 で、 現 代 に お い て人 間 が人 間 ら し く在 る(成 る)こ とへ 寄 与 しう る人 間 的 世 界 の 在 り方 の 探 究 に お い て、 今 後 、 〈 公 〉 〈 私 〉 関係 を どの よ うに捉 え て い った らよ い の か にっ いて 考 察 し た い。 政 治 哲 学 者 ア ー レ ン トの基 礎 に は現 象 学 的 思 考 法 が あ り、 同 じよ う にハ イ デ ッガ ー (1889∼1976)に. 師事 し、 か っ乗 り越 え よ う と した人 間 学 者 ・ 教 育 学 者 ボ ル ノ ウの 現 象 学 的 思 考. 法 と通 じる と こ ろが 少 な くな い。 け れ ど も、 ボ ル ノ ウの ア ー レ ン トに っ い て の記 述 は極 め て 限 定 され た もの な の で あ る。 そ こで、 本 論 で は、 あ くま で、 ボ ル ノ ウが ア ー レ ン トの公 共性 論 に 論 及 して い る箇 所 を問 題 探 究 の窓 口 と して、 そ こか らさ らに両 者 のく 公 〉 〈 私 〉 関係 へ の理 解 を 対 質 させ る こ とで 、 現 代 にお け るく 公 〉 〈 私 〉 の関 係 性 へ の人 間学 ・人 間 形 成 論 の 基 本 的 視 座 を 確認 す る こ と に した い。 さて、 従 来 、 人 間 学 的 な関 心 か らく 公 〉 〈 私 〉 問 題 が 論 じ られ る場 合 に は 、 〈 公 的 な る も の〉 もく 私 的 な る もの〉 も、 私 た ちの 生 き られ た経 験 の中 で 経 験 さ れ て い る、 あ る 種 の 「生 き られ た現 実 」と して 空 間 論 的 ・現 象 学 的 に把 握 さ れ る こ とが一 般 的 で あ っ た。 〈 公 〉 〈 私 〉 問 題 が論 じ られ る以 上 、 そ こ に は人 間 の生 き方 や 社 会 の 在 り方 に関 す る何 らか の倫 理 性 が 問 題 に な って い る とい え よ う。 しか し、 そ の 際 と りた て て く 公 〉 〈 私 〉 問 題 が 、 主 題 と な っ て い る理 由 は、 多 くの場 合 、 そ の倫 理 性 を空 間 や場 所 の イ メ ー ジ にか らあ て 問 題 に して い るか らで あ る。 あ る場 合 に は、 や や固 定 的 ・実 体 的 な領 域 性 と して 両 者 は区 別 さ れ た り、 そ う で は な く と も、 領 域 間 の相 対 的 な関 係 を表 して い た りす る。 また、 領 域 性 で はな く、 人 間 同士 の く っ なが り〉 一4一.

(5) 〈公〉〈私〉 のダイナ ミズムに関す る人間形成論へ の序説 の あ りよ うの 違 い と して 捉 え る見 方 もあ る。 しか し、 いず れ に して も、 そ の ダイ ナ ミズ ム の度 合 い の 差 はあ る と は いえ 、 空 間 や 場 所 の イ メ ー ジが そ こに は存 在 して い る とい え る。 そ して少 な く と もそ の 場 合 、 前 提 にな って い るの はく 公 〉 の 公 開 性 とく 私 〉 の非 公 開 性 な の で あ る。 な る ほ ど、 そ の 意 味 で は、 お よそ 、 どん な 時 代 や 文 化 にお いて も、 〈 公 的 な る もの〉 とく 私 的 な る もの〉 の 関 係 の ダイ ナ ミズ ムが 存 在 して い る こ と は予 想 され る。 もち ろん 程 度 や形 態 の 差 異 は あ るに して も、 住 居(私 的 な 場 所 、 隠 れ 場 所)を 持 た な い民 族 は な いで あ ろ う し、 人 問 関係 が完 全 に オ ー プ ンで、 相 手 に正 直 で 嘘 を っ か ず 、 秘 め られ た内 面 的 世 界 や プ ライバ シー を もた ず に生 きて い る人 間 は存 在 しな い と思 わ れ るか らで あ る。 したが って 、 どん な人 間 の生 活 に も 「隠 して お く」 必 要 の あ る もの が あ り、 他 方 に は 「公 に示 す 」 必 要 の あ る ものが 存 在 して い る筈 で あ る。 そ れ に伴 って、 「隠 して お く場 」と 「公 に晒 され る場 」 が 存 在 して い る と思 われ る。 しか し、 もは や、 そ れ を静 的(ス タ テ ィ ック)な 領域 性 と して 実 体 化 し、 そ れ を 考 察 の 前 提 に す る こ とが で きな い よ うな 時代 の変 動 を我 々 が経 験 して い る こ と も事 実 で あ ろ う。 私 た ち は ニ ヒ リズ ムが 深 刻 化 した状 況 を生 きて い る。 っ ま り伝 統 的価 値 が崩 壊 し大 きな拠 り所 を失 った上、 未 曾 有 の激 しい変 化 の只 中 に あ って、 極 め て複 雑 で不 確 定 的 で分 裂 した生 の 深 刻 な 状 況 を か か え て い る。 私 た ち は、 複 数 の 自 己へ と 引 き裂 か れ、 そ の統 合 は容 易 で はな く、 生 き る方 向 性 を しば しば 見 失 っ て しま う。 そ の一 方 で、 我 々 は、 世 界 を近 代 合 理 主 義 の地 平 に還 元 し、 画 一 化 す る こ とで そ の深 刻 な分 裂 した状 況 を隠 蔽 し、 市 場 主 義 に よ って肥 大 化 した物 質 欲 によ って そ の 不 安 感 を 麻 痺 させ て い る。 あ る い は、 閉 鎖 的 集 団 主 義 の殻 の 中 に帰 属 す る こ とで、 存 在 不安 を 克 服 し、 ア イ デ ンテ ィテ ィー を確 保 した と勘 違 い して い る。 さて 、 この よ う な現 代 にお いて く 公 〉 〈 私 〉 関 係 論 が議 論 の姐 上 に の ぼ る歴 史 的必 然 性 は ど こ にあ るの だ ろ うか 。 現 実 に は、 家 庭=〈 私 〉 、 社 会=〈 公 〉 と い う実 体 論 的図 式 は崩 壊 し、 〈 公 〉 とく 私 〉 は錯 綜 し複 雑 に入 り混 じ っ て い る よ う に も思 え る。鷲 田 清 一 も い う よ う に 、 1990年 か ら現 在 にか けて 、 地 続 き に同 心 円 状 に ひ ろが る家 庭 → 地 域 → 学 校 → 社 会(国. 家)→. 外 国 とい った 「空 間 的 遠近 法」 の グ ラ デ ー シ ョ ン(濃淡)が 急 速 に崩 壊 して い る と い え る 。例 え ば、 人 々 は私 室 の 中 の パ ソ コ ン と い う小 さな 箱 を 通 して 、 身 体 感 覚 の交 差 を媒 介 と しな い で、 い きな り広 大 で、 未 知 の他 者 の集 合体 と して の 社 会(世 界)に 関 係 す る よ う に な っ た。こ こ に は、 「最 も私 的 な点 で 公 的 な ものへ め くれ返 る と い う トポ ロ ジカ ル な反 転 現 象 」(鷲 田)を み て と る こ とが で き るの で あ る。 従 来 の教 育 学 や人 間形 成 論 は、 上 記 の 「空 闇 的遠 近 法 」に立 脚 して き た だ け に、 この よ うな状 況 を前 に した と き、 〈 公 〉 〈 私 〉 関 係 の 在 り様 は、 新 た に問 い直 れ な け 一5一.

(6) 近畿大学教育論叢. 第13巻 第1号(2001・9). れ ば な らな い だ ろ う。 例 え ば、 後 述 す る よ うに ア ー レ ン トは、 現 代 の大 衆 化 社 会 の 問題 を く 公 〉 の 堕 落 に見 、 〈 公 共 性 〉 の復 権 こそが 現 代 政 治 と学 校 教 育 の使 命 で あ る と考 え た の だ が、 そ の 際 ア ー レ ン トは どの よ うにく 公 〉 〈 私 〉 の関 係 の在 り様 を捉 え て い るの で あ ろ うか。 あ るい は、 現 状 にお いて は、 ア ー レ ン トの よ うなく 公 〉 〈 私 〉 の二 元 論 的捉 え方 自体 に有 効 性 が失 わ れ て い る と い う見 解 も あ り うるだ ろ う。 現 代 の人 間 形 成 の在 り方 を解 明す る際 に、 〈 公 〉<私 〉 関 係 を 止 揚 す る よ うな 新 た な地 平 が 必 要 と な る の だ ろ うか 。 以 上 の 解 明 へ 向 けて 様 々 な 展 望 は もち なが ら も、 以 下 で は ひ とまず 、 〈 公 〉 〈 私 〉 関 係 を現 象 学 的 ・人 間 学 的 に と らえ た ア ー レ ン トと ボ ル ノ ウ の考 え方 を比 較 す る こ とに よ って、 基 本 的 な視 座 を確 認 す る こ と に主 眼 を お きた い と思 う。. 2.ボ. ル ノウ に お け る く公 〉 〈 私〉 関 係 の 捉 え 方. o.F.ボ. ル ノ ウ は、1972年. に来 日 した 際、 「公 共 的領 域 と私 的 領 域 との 間 の 緊 張 に お け る. 人 聞(DerMenschinderSpannungzwischenoffentlicherundprivaterSphare)」. と. 題 す る講 演 を行 って い る6)。 彼 はそ の 中 で、 「公 的 な もの」 と 「私 的 な もの 」 の 関 係 と 人 間 の生 の構 造 に っ い て次 の よ うな命 題 を あ げ、 これ を 基 礎 付 け る こ とが 現 代 にお いて ます ます 必 要 で あ る こと を指 摘 して い る。 「人 間 の生 の健 全 さ、 人 間 の本 質 の完 全 な実 現 は、 人 間 が 、 内 部 空 間 と外 部 空 間 、 家 と家 の外 部 の世 界 、 私 的 な もの と公 共 的 な もの 、 この 二 っ の 領 域 が 同 時 に顧 慮 さ れ る こ と に か か って い る」7)と 。 す な わ ち、 人 間 の 生 の 充 実 は、 公 共 的 領 域 と私 的 領 域 と の問 の緊 張 した均 衡 の上 に お い て は じめ て成 就 され る とい うの で あ る。 周 知 の よ う に、 彼 は、 彼 自身 の人 間 学 の主 要 テ ー マ の一 つ で あ る空 間論 的視 点. っ ま り、 「人間 を取 り囲 み、. 人 間 に よ って 体 験 され 、 生 活 化 さ れ、 住 ま わ れ住 ま わ れ な か った 空 間 を手 掛 か り と して 、 こ う した空 間 の方 か ら逆 に人 間 を推 論 し、 この空 間 の仕 組 み か ら空 間 の 中 で生 きて い る人 間 の た め に何 を 引 き出 しう るか を問 うて み る こ と」8). から 、 人 間 が生 活 して い る具 体 的 空 間(「 数. 学 的 空 間」で は な く 「体 験 され て い る空 間」)を 分 析 した。 そ して そ こに、 「よ り狭 い内 部 空 間 」 と「よ り広 い外 部 空 間 」との 同 心 円的 な区 分 を見 出 し9)、 そ れ が 、 「体 験 さ れ て い る空 間 」に根 本 的 に存 在 して い る本 質 的 特 徴 で あ る と考 え た の で あ る。 前 者 は、 「人 問 の居 住 の空 間 で あ り、 人 間 が そ の 中 で世 界 の攻 撃 か ら安 全 に守 られ て い る と 感 じ、 ま た そ の 中 で休 息 し、 そ れ ゆえ ど こへ 出 か け て い っ て も必 ず そ こへ 戻 って くる と ころ の 領 域 」 で あ り、 後 者 は 「よ り広 い緊 張 した空 間 」 で あ る。 が 、 そ れ は全 く「部 外 の もの」で は な く、 そ れ よ り親 密 に人 間 に関 わ って い る領 域(「 〈 戸 外 〉 の空 間」)で あ る と して い る。っ ま り、 一6一.

(7) 〈公〉〈私〉 の ダイナ ミズムに関す る人 間形成論 への序説 そ れ は 「人 間 が 共 同 で 行 為 す る空 間 で あ り、 家 そ の もの の 中 で身 内 の者 と一 緒 に、 しか し他 人 と は切 り離 され て 生 活 して い る人 聞 が 、 一 っ の共 同 の企 て の た め に行 動 す る空間」 な ので あ る。 この場 合 、 前 者 は、 後 者 の 「よ り広 い緊 張 した空 間」 か ら隔絶 し、 切 り離 され た とい う意 味 で 「私 的 な もの(dasPrivate)」. の 空 聞 と呼 ば れ、 後 者 の 外 部 空 間 は、 「こ う した対 立 を 通 して 同. 時 に、 一 っ の 共 同 の 定 住 地 で ま た一 っ の町 で共 同 して行 為 す る空 聞 と して、 共 同 空 聞、 … … ポ リス的 空 間 と い う性 格 を 持 っ た もの」 と して、 「公 共 性 の 空 聞 」 と呼 ば れ て い る ので あ る。 そ して この 両 者 が 、 同 時 に考 慮 され る こ とが 現 代 に お い て特 に重 要 だ とい わ れ るの は、 この 両 者 の 関係 が 「現 代 にお いて は、 禍 をな して い る ほ ど均 衡 が失 わ れ て しま って い る」 か らで あ る。 ま た、 ハ イデ ッガ ーの 「人 間 は正 し く住 む こ と を学 ば ね ば な らな い」 とい う問題 提 起 に則 して言 え ば、 「現 代 の人 間 は正 しい仕 方 で 家 に住 む とい う能 力 を 失 って し ま って い る」 か らだ とい う。 そ して ボル ノ ウ は、 この 「故 郷 喪 失 が 人 間 を ま た して も匿 名 の勢 力 の た ん な る手 玉 に して い る」と警 告 を発 して い る。 この 「匿 名 の勢 力」と は、 何 で あ ろ うか。 彼 は そ れ を、 私 的 な 家 で の生 活 を 「小 市 民 根 性 の遺 物」 とみ な し軽 蔑 す る 「全 体 主 義 的 権 力 」 であ る と述 べ て いる。 こ こで彼 は、 文 字 通 り、 政 治 的 な 全 体主 義 的 傾 向 を念 頭 に置 いて い る と い うよ りは、 そ の温 床 とな りか ね な い現 代 の大 衆 化 され、 画一 化 され た 社 会 状 況 を指 摘 して い る よ うに思 わ れ る。. 3.大. 衆 社 会 に お け るく 公 〉 〈 私 〉 関係 の 消 失(ア ー レ ン ト). ボ ル ノ ウは、 この論 文 で数 箇 所 で、 アー レン トの 考 え 方 に共 鳴 しっっ 引用 して い る。 したが っ て、 ボ ル ノ ウが述 べ た 「匿名 の勢 力」 の 内実 に、 ア ー レ ン トの い う、 近 代 に勃 興 し大 衆 社 会 の 下 で 顕 著 とな った と ころ の 「社 会 的 な もの の勃 興 」 との連 関 を 読 み 取 る こ と も可 能 で あ ろ う。 ア ー レ ン トに お い て、 近 代 の 「社 会 的 な る もの の勃 興 」 と は、 生 命 維 持 と い う人 間 の 自 己保 存 に関 わ る私 的 な事 柄 が、 公 共 的 関心 を支 配 す る事 態 を さ して い る。 っ ま り、 生 命 の 維 持 や 再 生 産 に関 わ る私 的 領 域 が、 公 的領 域 で の活 動 の手 段 的 な地 位(「 一 時 的 な避 難 場 所 」)に お か れ て い た古 代 ギ リ シ ャに典 型 的 に見 られ る在 り方 が、 近 代 にな って根 本 的 に転 換 し、 生 命 の 自 己保 存 と い う単 一 の利 害 関 心 が 優 勢 とな る こ とに よ って、 世 界 を均 質 化 、 画一 化 を進 行 させ て い く 事 態 を さ して い る ので あ る。 ア ー レ ン トに と って 、 公 共 性 の理 想 モ デ ル は古 代 ギ リシ ャの ポ リスで あ るが、 こ こで 人 々 は ア ー レ ン トの用 語 法 で い う と ころ の. 「言 論(speech)」. と「活 動(action)」. とい う活. 動 力 に よ って、 自分 が何 もの で あ るか、 そ の正 体(who)を. 顕 わ に し、 他 者 に 対 す る 固 有 性 ・. 唯 一 性 を 表 現 す る ので あ る。 そ して この演 技 の場(劇 場)で. あ る公 的領 域 に お い て、 は じあ て. 一7一.

(8) 近畿 大学 教育論叢. 第13巻 第1号(2001・9). 人 々 は生 き る た めの 必 然 性 か ら解 放 され 、 自 由 を獲 得 す るの で あ る。 これ に対 し、私 的領 域 は、 必 然 の 支 配 す る領 域 で あ り、 個 体 と して の 肉体 の維 持 と種 の存 続 が最 大 の 関心事 にな って い る。 彼 女 の い う 「労 働(1abor)」. は この 領域 内 で な され る肉 体 の 生 物 学 的 過 程 に対 応 す る活 動 力 で. あ る。 この 私 的 な関 心 に もとつ く活 動 力 が 、 近 代 に な って公 共 性 を覆 い尽 く し、 二 っ の領 域 を 解 消 し、 彼 女 の い う 「社 会(society)」. 国 家 の 規 模 まで 拡 大 され た 家 族. の 勃 興 を許. した の で あ る。 ア ー レ ン トは、 こ こに公 共 性 の消 失 を見 て い た の で あ る。 「公 的(public)」. とい う言 葉 は、 区 別 され な が ら連 関 して い る二 っ の現 象 を内 包 して い る。. 「第 一 に それ は、 公共 的 に現 わ れ る あ らゆ る もの は各 人 によ って見 られ,聞 か れ うる とい うこと, したが って,最 て は,現 れ. も広 範 な公 開性(publicity)を. も って い る とい う こと を意 味す る。私 た ちに とっ. 私 た ち のみ な らず他 者 に よ って も見 られ,聞 かれ る もの. が リア リテ ィ ー. を構 成 して い る。 … 第 二 に 『公 共 的』 とい う言 葉 は,世 界 そ の もの を指 し示 して い る。 それ は, 私 た ちす べ て に と って共 通 の もので あ り,私 た ちが そ こに私 的 に 占 め る場 所 と は異 な っ た もの で あ る。 … 世 界 は、 人 為 的 な もの,人 間 の 手 によ ってっ くられ た ものを表 す と と もに 、 人 間 の 手 にな る世 界 に共 に生 き る者 た ち の間 に生 起 す る事 柄 も表 して い る。 世 界 に 共 に生 き る と い う こ とは,ち. ょう どテ ー ブルが そ の周 りに席 を 占め る人 々 の間 に あ るよ うに、 物 事 か らな る世 界. が そ れ を共 有 す る人 々 の間 にあ る とい う こ とを本 質 的 に意 味 して い る。 世 界 は あ ら ゆ るく 間> 10)(i n-between)が そ うで あ る よ うに、 人 々 を関 係 づ け る と同 時 に切 り離 す く 間 〉 で あ る。」 後 半 に述 べ られ て い る の は、 〈 公 〉 が 「人 々 を結 び付 け る と同時 に人 々 を分 離 させ て い る世 界(theworl(Lrelatesandseparatesmenatthesametime.)」11)を. 表 わ して い る面 が あ. る と い う こ とで あ る。 換 言 す れ ば、 「世 界」と して のく 公 〉 で あ る。 ち ょ う どテ ー ブル が座 って い る人 々 を 結 び付 けっ っ 分 離 させ て い る よ うに、 本 来 、 共 同世 界 は個 々人 間 の距 離 を保 障 しっ つ 、 人 々 を 結 び付 け る もので あ る。 そ こに は、 「立 場 の 相 違 や そ れ に伴 う多様 なパ ース ペ クテ ィ ヴの 相 違 に もか か わ らず 、 す べ て の人 が いっ も同一 の対 象 に関 わ って い る」 世 界 が あ る。 しか し、 大 衆 化 され た社 会 が 耐 え が た い の は、 テ ー ブル に座 って い る人 数 が多 す ぎ る こ とが第 一 の 理 由 で は な い。 「そ れ よ り も、 人 々 の介 在 者 で あ るべ き世 界 が 、 人 々 を 結 集 させ る力 を 失 い 、 人 々 を 関 係 させ る と同 時 に分 離 す る そ の力 を失. 12) って い る とい う事 実 こそ そ の理 由」 な の で あ. る。 テ ー ブ ル の周 りに集 ま った多 くの人 々 の前 か ら、 突 然 真 中 の テ ー ブル が消 え て しま った な ら、 お 互 い向 き合 って い る人 々 は、 もはや そ れ に よ って分 離 さ れ て い な い だ け で な く、 お互 い 完 全 に無 関 係 の烏 合 の衆 と な って しま うの で あ る。 この よ うな喩 で、 彼 女 は公 共 性 の解 体 を説 明 す るの で あ る。 一g一.

(9) 〈公〉〈私〉の ダイナ ミズムに関す る人問形成論へ の序説 さて、 前 半 に述 べ られ たく 公 〉 の 今 ひ とつ の面 は、 〈 私 〉 の 「隠 蔽 」 性 に対 す るく 公 〉 の「公 示 」性 で あ る。 換 言 す れ ば、 「 現 わ れ の空 間 」 と しての く 公 〉 で あ る。 「公 に現 れ る もの はすべ て、 万 人 に よ って見 られ、 聞 か れ、 可 能 な限 り最 も広 く公 示 され る と い う こ とを 意 味 す る」13)と い う もの で あ る。 この 公 へ の 「現 わ れが リア リテ ィー を形 成 す る」と い う。 そ して 、 公 共 空 間 は, 「人 び とが 、 自分 の正 体(who)を. リア ル で しか も他 人 と取 り替 え る こ との で き な い仕 方 で 示. す こ と の で き る唯 一 の場 所 」(筆 者 改 訳)14)と され て い る。 この現 わ れ と は、 自 己 に よ って も、 他 者 に よ っ て も、 見 られ聞 か れ る何 もの か で あ る。 そ れ に対 して私 的 な もの は、 「内 奥 の 生 活 の最 も大 き な力 、 た と え ば、 魂 の情 熱 、 精 神 の思 想 、 感 覚 の喜 び の よ う な も の で さ え 、 … … 不 確 か で 、 蔭 の よ う な た ぐい の存 在 にす ぎ な い」15)。私 た ち は、 親 密 な 聞柄 の 中 で しか 経 験 で きな い よ う な事 柄 にっ いて 語 る こ とが あ るが 、 そ れ が ど ん な もの で あ ろ う と語 られ るま で は リ ア リテ ィ ーを 持 た な い。 それ を 口 に 出 して 語 る と き、 私 た ち は そ れ を、 リア リテ ィー を帯 び る 領 域 に中 に持 ち出 す こ と に な る。 私 た ちが 見 聞 きす る もの を、 同 じよ うに見 聞 きす る他 者 が存 在 す るお か げ で、 私 た ち は世 界 と私 た ち 自身 の リア リテ ィー を確 信 す る ことが で き る とい うの で あ る。 そ して そ こで適 切 で あ る と考 え られ る も の、 見 られ 、 聞 か れ る価 値 が あ る と考 え られ る もの だ け が許 され、 そ れ に不適 切 な もの は 自動 的 に私 的 な事 柄 と な る ので あ る。 「人 々 は行 為 し語 る こ との うち で、 自 らが誰 で あ るか を示 し、 他 に比 類 の ないそ の人 の アイ デ ンテ ィテ ィー を能 動 的 に顕 わ に し、 人 間 の世 界 に現 わ れ る」16)ので あ る。 近 代 ま で は〈 私 〉 は、 「愚 か しい もの」で あ るか、 せ いぜ い 「隠 れ 場 所」 と考 え られ て い た に す ぎ な い。 そ れ は、 〈 公 〉 的性 質 を略 奪 され て(deprived)い 代 人 が 、privacyと. る空 聞 で あ った 。 しか し、 現. い う言 葉 を用 い る と き、 もは やdeprivationを. 意 味 す る もの と して は用 い. て い な い。 それ は公 共 性 が 衰 退 して、 「社 会 的 な る も の の勃 興 」の 際 に、 も はや世 界 全 体 が 「私 事 化(privatize)」(こ れ は も はや 隠 され た 〈 私 〉 で はな い)さ れ て しま って い るか らで あ る。 「公 的 な もの は私 的 な る もの の一 機 能 とな り、 私 的 な る もの は残 され た唯 一 の 関 心 に な っ た 。 この た め 、 生 活 の 公 的 な分 野 と私 的 な分 野 は と もに消 え去 った の で あ る。 」17)ルソー は、 画 一 主 義 とい う 「社 会 の 耐 え が た い力 」 が 、 これ まで 特 別 の保 護 を必 要 と して い なか った 「人 間 の 内 奥 の地 帯 」 に まで 侵 入 して くる こ と に対 して 反 抗 した。 そ して 、 彼 は 自 己保 存 価 値 の優 位 性 を社 会 的 問題 へ と拡 大 した の で あ る。 しか し、 ア ー レ ン トは、 ル ソーが そ のよ うに した ことが、 か え ってく 私 〉 を 「社 会 的 な もの」 の 中 に解 消 させ て しま い、 結 局 、 〈 私 〉 の秘 儀 性 、 個 別 性 を失 わせ て しま った のだ とい う。 す なわ ち、 公 共 領 域 の 崩壊 と私 的 な領 域(家 族)の 崩 壊 は、 時 を同 じ く して い る。 私 的 領 域 と して の家 族 は、 実 質 的 に は 「社 会 的 な る もの 」 に吸 収 さ れ て し 一9一.

(10) 近畿 大学 教育 論叢. 第13巻 第1号(2001・9). ま った ので あ る。 そ して 、 「社 会 とい うもの は、 いつ で もそ の成 員 が た った 一 っ の意 見 と、 一 っ の利 害 しか持 た な い よ うな単 一 の 巨大 家 族 の成 員 で あ るか の よ う に振 舞 う こ と を要 求 す る」18) もの だ と述 べ て い る。 ア ー レ ン トは、 人 間 に と って 「私 的 な もの の領 域 に の み生 存 す る こ との で き る非 常 に重 要 な もの 」 も存 在 す る と い う。 彼 女 に よれ ば、 「愛 」や 「善 」 は、 本 来 私 的 な領 域 に 隠 され るべ き も の で あ り、 隠 され た もので あ る こと に よ って は じめ て そ の性 格 を保 て るが、 公 に さ ら され る こ と に よ って た ち ま ち そ の性 格 を失 われ て しま う もの な の で あ る。 「愛 は、 そ れ が 公 に 晒 され る 瞬 間 に殺 され 、 あ る い は む しろ消 えて しま う。 … 愛 は そ れ に固 有 の 無 世 界 性 の ゆ え に、 世 界 の 変 革 とか 世 界 の救 済 の よ うな政 治 目的 に用 い られ る と き、 た だ偽 り とな り、 堕 落 す るだ けで 19) し あ る」 、 「善 行 は、 それ が 知 られ、 公 に な った途 端 、 た だ善 の た め に の み な さ れ る と い う 20) 善 の 特 殊 な性 格 を失 う」 。 したが っ て 「善 が 存 在 し うる の は、 た だ、 そ の行 為 者 で さ え 気 づ か な い と きだ けで あ る。 自分 が 善 行 を行 って い る と気 づ い て い る人 は、 もは や善 人 で はな く、 21) の で あ る せ いぜ い有 益 な社 会 人 か 、 義 務 に忠 実 な教 会 の一 員 にす ぎな い」 。 した が って、 大 衆 社 会 が 問 題 な の は、 た だ公 的 領 域 ばか りで は な く、 私 的領 域 を も破 壊 し、 人 々 か ら、 世 界 に お け る 自分 の場 所 ばか りで な く、 私 的 な家 庭 ま で奪 った こ とに もあ るの で あ る。. ダイナ ミズム. 4.〈. 公 〉 とく 私 〉 の 緊 張 関 係 を 生 き る人 間(ボ. ル ノ ウ). けれ ど も、 ア ー レ ン トは、 〈 公 〉 もく 私 〉 も消 滅 した現 代 社 会 に お い てく 公 〉 の再 構 築 の方 を 政 治 課 題 とす る。 〈 私 〉 はく 公 〉 の蔭 で あ るか ら、 〈 公 〉 が再 生 さ れ な け れ ばく 私 〉 の再 生 も必 然 的 に生 じな い こと に な る。 結 局 、 彼 女 は健 全 な社 会 の あ り方 と してく 公 〉 〈 私 〉 の 明確 な 区 分 の必 要 を主 張 す る こと に よ って 、 両 者 間 の拮 抗 関 係 の必 要 性 を説 い た と考 え て もよ い で あ ろ う。 一 方 、 ボ ル ノ ウ はく 公 〉 〈 私 〉 の均 衡 関 係 を取 り戻 す こ とが今 日の人 間 形 成 の課 題 で あ る と 同 時 に社 会 の公 共 的 課 題 で あ る と考 え た。 彼 は まず 、 人 間 が 内部 空 聞 と外 部 空 間、 私 的領 域 と 公 的 領 域 の 間 を 往 復 す る際 に、 ど の よ うな基 礎 的 経 験 をす る のか を分 析 す る。 ボ ル ノ ウが示 し た 区 分 はあ る程 度 相 対 的 で あ り、 お そ ら くそれ ぞ れ の人 が 、 そ れ ぞ れ の状 況 で、 ま た そ れ ぞ れ の 成 長 段 階 で 、 それ ぞ れ の仕 方 で 経 験 して い る もの と思 わ れ る。 彼 は、 そ れ を 「そ の た び ご と に人 間 に よ って 要 求 され 、 人 間 の中 に形 成 され る様 々 な内 的 な気 分 」 の問 題 と して、 す な わ ち 「内部 世 界 の気 分 」 と 「外 部 世 界 の気 分 」 の 関係 の 問題 と して捉 え て い る。 この 二 っ の 気 分 は、 「解 き放 ち が た く相 互 に連 関 し合 い、 交 互 に条 件 付 け合 って い る」22)とい う。 っ ま り、 「そ の 本 一10一.

(11) 〈公〉〈私〉 のダイナ ミズムに関する人 聞形成論 への序説 質 にお いて 同 じで あ る人 間 が 、 家 に い た り、 労 働 の世 界 に い た り、 そ の っ ど異 な った環 境 の 中 23) お り にお いて 、 そ のっ ど別 の要 求 を負 わ さ れ て」 、 そ の意 味 で は「人 間 は そ の つ ど別 の 人 聞 に な って い る」わ け で あ り、 事 柄 はそ う単 純 で はな い。 自分 の 家 の 戸 口を ま た い で 外 へ 出 て行 くと、 そ の人 は 自分 の家 と い う拠 り所 を い った ん失 って、 よ そ よ そ しい敵 意 と闘争 に満 ち た世 界 へ 出 て いか ね ば な らな い。 危 険 な世 界 に身 を さ ら して、 そ の 中 で 自 己主 張 しな け れ ば な らな いの で あ る。 幼 な子 が 、 母 親 の エ プ ロ ンの裾 か ら手 を離 して恐 る恐 る一 人 で周 囲 の世 界 に 出 て 行 くよ う に、 大 人 は も っ と大 規 模 な危 険 や 未 知 と の遭 遇 を経 験 しな け れ ば な らな い24)。 しか し、 大 人 に なれ ば、 外 部 世 界 で 出 会 う他 者 は、 家 の 中 に い る人 聞 と は異 な る存 在 で あ り、 そ こで は「ごま か さ れ ま い とい っ も目覚 あ て い る注 意 力」 「環 境 に対 す る耐 え ざ る不 信 の念 」 が 付 き纏 うの で あ り、他 者 が ど う振 舞 うか が 予 測 で き な い ゆ え に、 「前 も って 自分 の 行 動 の 結 末 を確 実 に計 算 で きな い」 の で あ る。 この よ う な不 確 実 さや 闘 争 を特 徴 とす る対 人 関係 の領 域 が、 「外 部 的 世 界 」、 す な わ ち 「公共 の 領域 」 の 一 っ の 大 き な特 徴 で あ る と ボ ル ノ ウ は考 え て い る。 と ころ が、 こ う した敵 対 的世 界 の 中 に も、 人 間 同 士 の 結 びっ き、 仲 間 意 識 、 友 情 が 存 在 し うる こ と、 ま た現 に存 在 して い る こ と も事 実 で あ る。 「外 部 世 界 」 の す べ て が、 「万 人 の万 人 に対 す る戦 い」の世 界 で あ る な ら、 そ れ は本 来 、 〈 公 共 〉 の名 に値 しな い で あ ろ う。 「外 部 世 界 」 の闘 争 に耐 え るた あ に は、 内部 世 界 にお け る安 ら ぎだ けで な く、 「外 部 世 界 」が 同 時 にく 共 同 性 〉 と い う性 格 を、 あ る程 度 備 え て い な けれ ば な らな い と、 ボル ノ ウ は考 え て い る よ うで あ る。 子 ど もが 路 地 に飛 び 出 す とす ぐに仲 聞 を作 ろ う とす るの は、 決 して 家庭 で 満 た され て い な い ゆえ の 心 の代 償 で は な く、 「家 族 の もっ 人 聞 的 な暖 か 味 を さ らに補 わ な け れ ば な らな い 、 も う一 っ 別 の必 然 的 な生 の形 式 な の で あ る」25) と彼 は述 べ て い る 。 この よ うに、 彼 は 「公 的 領 域 」 の共 同性 を尊 重 す る一 方 で、 や は り、 そ れ を 「人 聞 た ちが ラ イバ ル意 識 を も って権 力 をふ る い あ って い る、 … 最 も広 い意 味 で の 政 治 的 生 活 の 領 域 」 で あ る と い い、 そ こで 「人 間 は、 家 と い う保 護 を も たず に、 同 じ人 間 の注 目 と攻 撃 に さ ら さ れ て い る」の だ と纏 め て い る。 ボル ノ ウの 「公 的 領 域 」の 意 味 内 容 の 規 定 に関 して は い さ さ か 曖 昧 な感 じが す る のだ が 、 この曖 昧 さが 、 か え って 「公 的領 域 」の特 徴 を あ らわ して い るよ うに も思 え る。 私 見 で は、 家 の領 域 と政 治 の領 域 と の間 に、 あ る い は そ の堕 落 した形 態 と しての 「 匿 名 の勢 力」 との 間 に、 彼 は、 「文 化 の領 域 」 「人 聞 に よ って 開 発 され た 自然 の領 域 」 を考 え て お り、 あ る場 合 に はそ れ を 「公 的 領 域 」 の 共 同 的 な面 と して 示 し、 別 の場 面 で は 「広 義 の」 「私 的 な 領 域 」 と して 示 して い るの で あ る。 一 方 、 ア ー レ ン トは これ を あ くまで 「公 共 性 」 と呼 ぶ の で あ るか ら、 両 者 の 概 念 規 定 に は少 し考 え の ず れ が あ る よ うに思 え る。 一11一.

(12) 近畿大学教育論叢. 第13巻 第1号(2001・9). しか し、 ボ ル ノ ウ も基 本 的 に は、 「見知 らぬ 人 間 の まな ざ しと影 響 か ら隔 離 され た空 間 」を、 「私 的 な もの の領 域 」 と呼 ぶ の で あ る。 そ して これ は、 「強 奪 」に よ って 公 的 空 間 か ら獲 得 さ れ た もの で あ る と して い る。 私 的 生 活 の形 式 は、 っ ま り家 族 生 活 の本 来 の あ り方 は、 ま さ に ビ ン ス ワ ンガ ーが 分 析 を した よ うな 「愛 し信 頼 す る共 同存 在 」にあ るの で あ り、 公 的 領 域 と は異 な り、 そ こ は あ くまで 「緊張 緩 和 の場 所 」で あ る。 こ こで は 、 三 っ の 徳 が 必 要 と さ れ る。 第 一 に 「安 静 や平 静 の た め の能 力(徳)」 、 第 二 に 「愛 情 と信 頼 と いた わ り合 いの 徳 」、 そ して第 三 に、 家 の 限 られ た資 力 を合 理 的 に使 用 す る 「家 政 あ る い は家 事 の徳 」 で あ る。 特 に彼 は、 ア ー レ ン トに同 調 して 「愛 」 や 「信 頼 」 や 「親 切 」 は、 隠 さ れ た 中 で は じめ て真 の効 果 が発 揮 され るの だ と考 え て い る。 これ らは見 られ た り認 め られ た りす る 「公 共 の光 」 に耐 え う る もの で はな い と強 調 して い る。 しか し、 私 的 空 間 と公 的 空 聞 は、 性 格 的 に異 質 で あ る が、 異 質 で あ りな が ら 相 互 に浸 透 しあ って い る よ うな趣 が あ る。 そ こか ら二 っ の空 間 は互 い に反 発 し合 い な が ら通 じ 合 って お り、 そ れ ゆえ 両 者 の 緊 張 関 係 が 生 まれ て くる の で あ ろ う。 以 上 を 、 ボル ノ ウ 自身 の空 間 論 に則 して 纏 めて お こ う。 人 間 は、 誕 生 と と もに 「空 間 へ の素 朴 な 全 面 的 信 頼 」 を 得 な けれ ば そ の根 拠 を失 って しま う。 「人 間 は こ こで は 自分 の 空 間 と溶 け 26) ので あ る 合 い 、 直 接 の 仕 方 で 受 肉 して い る」 。 しか し、 現 代 は「故 郷 喪 失 」の時 代 で あ り、 人 び と は安 らぎの 家 屋 を 失 って い る。 「空 間 は この場 合 、 不 気 味 さ とか よ そ よ そ し さ と い う姿 で 現 わ れ て い る。 人 間 は この 空 聞 の 中 で は見 捨 て られ て い る。」27)した が って、 家屋 の建 設 に よ っ て安 ら ぎを 回 復 す る必 要 性 が 出 て くる。 「この建 設 に よ って、 外 部 世 界 か ら き り は な され た 、 28) ので あ り 安 全 に庇 護 す る内 部 空 聞 が 成 立 す る」 、 したが って 私 的 空 間 は、 公 的空 間 か ら略 奪 され取 り戻 され る こ と にな る。 公 的 空 聞 の 脅 迫 性 は これ に よ って 取 り除 か れ る こ とは な い が、 中心 か ら排 除 され て 端 に追 いや られ る こ と にな る。 しか しなが ら、 人 間 に よ って作 られ る家 屋 は、 っ ね に外 部 か ら、 そ して ひ そ か に内 部 か ら も攻 撃 に晒 され る こと に な る。 そ の た あ、 と も す れ ば硬 直化 し頑 な にな りが ち で あ る。 そ うな らな い た めに は、人 び とは家 屋 とい う人 聞 が創 っ た空 問 を越 え て 広 が 29) って い る、 「包 括 的 な空 間 一 般 に お け る究 極 的 な 安 ら ぎ」 を よ り高 次 元 で受 け取 りな お す とい う課 題 が 生 じるの で あ る。 しか し、 「そ こへ 到 達 す る こ と は容 易 で は な く 30) 、 欺 隔 的 な安 全 性 か ら 自己 を と き はな す と い う特 別 の 努 力 を 人 間 に要 求 す る」 の で あ る 。 考 え て み れ ば この究 極 的 な包 括 的 空 間 へ の 信 頼 は、 無 限 の 開 け にお いて 庇 護 され て あ る こ との 安 ら ぎを感 じ る こ とで あ るか ら、 あ る種 の 「超 越 」 理 解 を 含 ん で い るの で あ る。 と ころ で、 ボ ル ノ ウに お い て、 この包 括 者 か らの 恩 寵 は 自覚 され な くと も、 閉 じ られ た素 朴 な家 屋 に お い て す で に、 た とえ ば母 親 と赤 ん 坊 の 関 係 性 に差 し込 ん で い る。 こ の よ うな存 在 信 一12一.

(13) 〈 公〉 〈私〉 の ダイナ ミズム に関す る人間形成論へ の序説 頼 へ の 自覚 の下 に生 き る と き、 公 的 空 間 は、 戦 い や 搾 取 の 場 で あ る こ とを 越 え る可 能 性 へ と拓 か れ る で あ ろ う。 ボ ル ノ ウ 自身 が述 べ て い るわ けで はな い が 、 この よ うな 存 在 信 頼 を 究 極 的 な く 公 〉 と考 え れ ば、 〈 私 〉 は す で にく 公 〉 に よ って 内 部 か ら支 え られ て い る。 そ して 、 そ の 恩 寵 に あず か る こ とで人 聞 は、 家 屋 の外 部 で も生 きた 〈 っ な が り〉 を 成 就 す る地 平 へ と拓 か れ る 可 能 性 を得 て い る とい え る の で あ る。 そ の と き公 的空 間 は、 公 開性 とい う性 質 に加 え 、 人 び と の 「世 界 へ の基 本 的信 頼 」 とい う性 質 を基 盤 に お くこ とが で き るの で あ ろ う。. 5.ボ. ル ノ ウ に お け る 「私 的 領 域 」 確 保 の主 張 と教 育 の課 題. そ の よ うな存 在 信 頼 の 自覚 は現 代 に お い て容 易 で は な い が、 ボ ル ノ ウ は、 「全 体 主 義 的 思 考 の要 求 に対 す る抵 抗 は. 31) 、 私 的 な家 で の生 活 を確 保 す る こ とか らの み生 じ る」 と述 べ 、 「真 の. 民 主 主 義 秩 序 は、 公 共 領 域 と私 的 領 域 と の間 の、 外 部 空 間 と内部 空 間 との 聞 の 緊張 した均 衡 の 32) と提 言 して い る わ けで あ る 中 で のみ 存 続 し うる」 。 彼 に よ れ ば、 「現 代 に お い て 人 聞 が 根 こ そ ぎ にな る傾 向 」はま す ま す深 ま って お り、 人 間 は、 そ の 世 界 の 中 で 意 味 あ る よ う秩 序 付 け ら れ た 場 を 持 って い な い、 世 界 の中 の あ る任 意 の場 所 に偶 然 投 げ 出 さ れ て い る に 過 ぎ な い 「住 み 家 な き人 間 」とな って い る。 この傾 向 は、 外 面 的 に窮 乏 して い た 二 っ の 大 戦 の 前 後 も、 豊 か に な った70年 代 も、 「原 則 的 に は同 じ状 態 の 中」 にあ る とい う。70年 代 の 先 進 国 で は 外 面 的 な 窮 乏 状 態 は脱 出 され た もの の 、 「そ の 間 に家 に住 む こ との安 全 性 が 失 わ れ だ した と い う こ とが 、 そ れ だ けい. 33) っそ う明 白 にな っ た」 と述 べ て い る。 当 時 の青 年 た ち は、 家 の庇 護 性 を拘 束 的 に. 感 じ、 そ こか ら脱 出 した い と考 え た。 す な わ ち私 的 な もの は払 い去 られ るべ き もの だ と考 え た。 青 年 同志 の 「共 同生 活 」 を求 め た の で あ るが 、 それ は現 代 社 会 に不 安 と不 満 を抱 い て い た 当時 の 青 年 の 特 徴 で あ っ た と い う。 か っ て20世 紀 初 頭 の 「青 年 運 動(Jugendbewegung)」. に求. あ られ た こ と、 っ ま り 「生 家 や学 校 の窮 屈 な 雰 囲 気 か らの 脱 出 が 、 こ こで は本 質 的 に い っ そ う 過 激 な形 で繰 り返 され て い る」34) と彼 は見 て い た の で あ る. 。. しか し、 「青 年 運 動 」 の時 代 に は、 若 者 を 「家 の生 活 とい う隆 路 か ら解 放 し、 彼 らに 新 た な 地 平 を見 せ て や る点 に. 35) 、 教 育 的課 題 が存 在 した」 の に対 し、 当 時70年 代 にお いて は、 「故 郷. を失 って しま った人 聞 に、 再 び家 の保 護 を仲 介 し、 そ うす る こ と に よ って は じめ て 、 人 間 に世 界 の中 に ひ と 36) っ の地 歩 を得 さ せ て や る」 とい う全 く反 対 の方 向 に課 題 が 存 在 して い る と ボ ル ノ ウ は考 え て い る。 さて 、 最 終 的 に ボ ル ノ ウは最 初 の命 題 に戻 り、70年 代 の 問題 を次 の よ う に表 現 して い る。 「健 全 な状 態 は、 この 公 共 的 生 活 と私 的 生 活 とが 相 互 に関 連 し合 い、 こ の関 連 に お い て 、 両 者 一13一.

(14) 近 畿大 学教 育論叢. 第13巻 第1号(2001・9). はそ の 固 有 の機 能 を発 揮 し、 こ う して 両 者 は相 互 に正 し く均 衡 を保 って い な け れ ば な らな い。 そ れ な の に現 代 にお いて は、 公 共 性 が 間 断 な く押 し寄 せ て き て、 ま さ に私 的領 域 に くま な く氾 濫 しよ う と して い る」37)と。 こ こで 述 べ られ た 「公 共 性」 の 内実 は、 明 らか に共 同性 と は無 縁 の もの で あ り、 む しろ前 述 の「匿名 の勢 力 」と 同様 の こ とを言 い表 して い る。 ア ー レ ン トで あ れ ば 、 け っ して これ を 「公 共 性 」 と は呼 ば なか った で あ ろ う。 彼 女 に と って は、 む しろ そ れ は、 公 共 性 を喪 失 させ た「社 会 的 な もの」の勢 力 な の で あ る。 け れ ど もボ ル ノ ウは、 こ こで は これ を 「公 共 性 」と呼 び、 それ が 現 代 の人 問 の生 を脅 か し操 作 して お り、 そ の影 響 は人 格 の深 い 核心 に まで 食 い込 ん で い る、 と述 べ て い る。 そ れ ゆ え、 この す べ て を な め尽 くす 「公 共 性 」の 洪水 か ら 身 を 守 る方 法 は、 「私 的領 域 を意 識 的 に確 保 す る こ と」38)以外 に はな いの で あ り、 そ れ が 「勝 れ た意 味 で 公 共 的 ・ 政 治 的生 活 の要 件 」39)であ る とす るわ けで あ る。 な ぜ な ら、 家 と世 界 の 関 係 は、 緊 張 と緊 張 緩 和 と い う リズ ム を もっ た もの で あ る べ きで あ り、 そ れ ゆ え 私 的 領 域 は、 「人 聞 が 自分 の生 産 力 を生 き生 き と保 持 しよ う と思 うな ら、 い っ もそ こへ帰 らな け れ ば な らな い 人 間 の 創 造 力 の在 り処 」40)でな けれ ば な らな いか らで あ る。 私 的生 活 が失 わ れ る と公 共 生 活 自 体 も そ の力 を失 う ので あ る。 加 え て強 調 さ れ る の は、 私 的領 域 は ま た、 倫 理 的人 格 が そ こで の み 発 展 しう る場 で あ る と い うこ と で あ る。 そ の倫 理 的人 格 は、 「自 己の 判 断 で 外 部 か ら く る匿 名 的 な諸 々 の要 求 に立 ち向 か う」41)自我 の力 とさ れ る。 した が って、 彼 は当時 、 教 育 の課 題 と し て 「自 己判 断 の養 成 」42)を唱 え た の で あ った。 この 課 題 は、 彼 に よれ ば 私 的 生 活 の 中 で の み 可 能 と な る ので あ るが 、 しか し、 この よ うな私 的生 活 の確 保 は、 個 々人 の私 的 な要 件 で あ るば か りで な く、 公 共 生 活 自体 の要 件 で あ る と い う こ とが強 調 され るの で あ る。. 6.「 教 育 の危 機 」 と近 代 に お ける権 威 の喪 失(ア ー レ ン ト) 一 方 、 ア ー レ ン トは、1958年 に 「教 育 の危 機 」 とい う論 文 を 書 き、 当 時 の ア メ リカ の 教 育 危 機 の本 質 を、 彼 女 の公 共 性 論 か ら解 明 して い る。 小 玉 重 夫 に よ れ ば、 この論 文 は、 教 育 にっ いて の も う一 つ の論 考 「リ トル ロ ック にっ い て の省 察 」(1959)の. 「補 論 的 性 格 を もつ 」 もの. で 、 当 時 の ア メ リカ に お け る公 民 権 問 題 の社 会 問題 化 とそ れ に伴 って議 論 とな った 人 種 統 合 教 育 へ の彼 女 の批 判 を背 景 と して書 か れ て い る。 そ して そ の 問題 を含 み っ っ、 さ ら によ り広 い 視 野 か ら、 現 代 の教 育 の危 機 を、 『人 間 の条 件 』 な どで 理 論 構 築 され た公 共 性 論 と の か か わ りで 論 じて い る ので あ る。 と りわ け、 教 育 の権 威 喪 失 に警 鐘 を な ら し、 ル ソー以 来 の 児 童 中 心 主 義 的 な リベ ラ ル(進 歩 主 義 的)教 育 観 と の対 決 とい う色 彩 が 強 く出 され て い る。 しか し、 この 論 文 に示 され て い る こ と は、 必 ず し も歴 史 的 に ・ 文 化 的 に相 対 化 で き な い も ので あ る。 「何 で あ れ 一 一14一.

(15) 〈公〉 〈私〉の ダイナ ミズムに関す る人聞形成論へ の序説 国 で起 き う る こ と は近 い将 来 ほ とん どす べ て の 国 で 同 様 にお き う る と い う こ とが 、 二 十 世 紀 の 一 般 法 則 で あ る と見 な せ る」43)と述 べ て い るよ う に、 こ こで 述 べ られ る「教 育 の危 機 」は、 当 時 の ア メ リカ だ け の 問題 の み と して考 え られ て い るわ けで は な い。 ア ー レ ン トは、 この論 考 に お い て、 自 らの公 共 性 論 との か か わ りで、 近 代 教 育 の 問 題 を 原 理 的 に鋭 く浮 き彫 りに して い る と い え よ う。 彼 女 は、 二 重 の 問題 提 起 を して い る。 一 っ は、 「近 代 社 会 とそ の危 機 の い か な る側 44) で あ り 面 が 、 教 育 の危 機 の うち に実 際 に姿 を あ らわ して い るか 」 、 今 一 つ は 「この危 機 か ら 教 育 の本 質 と して何 を学 ぶ こ とが で き るか」45)とい う こ とで あ る。 前 者 で は、 公 共 性論 との か か わ りで教 育 の危 機 が解 釈 され、 後 者 で は、 「教 育 が、 す べ て の文 明 で演 じ る役 割 、 つ ま り子 ど もの存 在 が す べ て の人 聞社 会 に負 わ せ る義 務 を 反 省 す る こ と に よ. 46) って 、 何 を学 び う る か 」. を明 らか に しよ う と して い る。 ア ー レ ン トに よ れ ば、 「け っ して あ るが ま ま に と ど ま らず 、 誕 生 、 っ ま り新 しい人 間 の到 来 に よ って絶 え ず 自 らを更 新 す る人 間社 会 に と って、 教 育 は最 も基 本 的 で 不 可 欠 な活 動 様 式 の一 つ 」47)であ る。 「新 参 者 」 で あ り生 成 す る子 ど もは、 教 育 者 に と って、 二 重 の側 面 を もっ 。 子 ど もは、世 界 に新 し く存 在 す る と同 時 に生 成 の過 程 を生 きる存 在 で あ る。 す な わ ち、 「 子 ど もは、 新 しい人 間 で在 る と共 に、人 聞 へ と生 成 す る存 在 者 で あ る。」48)この 二 重 の側 面 は、 動 物 の生 命 形 態 に は み られ な い とい う点 で、 決 して 自明 な こ とで はな い。 こ こ に は、 一 方 に お け る 「世 界 へ の関 係 」 と他 方 に お け る 「生 命 へ の 関係 」 が あ る。 「生 命 へ の 関係 」 か ら見 れ ば 人 間 へ の 生 成 過 程 は動 物 の そ れ に通 じ るで あ ろ うが、 同 時 に子 ど も は、 生 まれ る前 か ら存 在 し、 死 後 も存 続 す る 「世 界 との関 係 」 で は、 新 しい存 在 で あ る。 そ の意 味 で は、 親 は子 ど も を 「生 命 へ と呼 49) び 出 した だ け で な く、 同時 に … 世 界 の うち へ導 き いれ た の で あ る」 。 た だ し、 大 人 が 担 うべ き 「子 ど もの生 命 と発 達 」 及 び 「世 界 の存 続 」 とい う この 二重 の 責 任 は、 決 して 一 致 しな い。 む しろ対 立 しあ う もの だ と、 ア ー レ ン トは述 べ るの で あ る。 ア ー レ ン トの公共 性論 の文 脈 で は、 前 者 は、 教 育 の私 的 な責 任 に 当 るだ ろ う し、 後 者 は公 的 な責 任 に当 るの だ が 、 こ の両 者 が 対 立 せ ざ る を得 な い とい うの で あ る。 したが って 、 ア ー レ ン トは、 一 方 で ボ ル ノ ウの主 張 と同 じよ う に、 子 ど もの 生 命 の保 護 と成 長 の た あ に は 「安 全 な隠 れ場 所 」、 す なわ ち 「私 的 領 域 」 の必 要 性 を説 い て い る。 「生 命 あ る も の はす べ て 、 暗 が りか ら出発 す る。 … 成 長 す るた あ に は何 と して も暗 が り の 安 全 を必 要 とす る」の だ と。 す な わ ち 「子 ど も は世 界 か ら保 護 され ね ば な らな い以 上 、 彼 ら の 伝 統 的 な 場 所 は 家 族 … の うち に あ る。 人 々 が そ の 内側 で私 的 な家 族 生 活 を送 る四 っ の 壁 は、 … 世 界 の 公 的 側 面 に対 す る防 護 壁 を な して い る。 … 人 聞 の生 は、 プ ライ ヴ ァ シ ー や安 全 が 保 障 さ れ な い世 界 一15一.

(16) 近畿大学教育論叢. 第13巻 第1号(2001・9). に常 に 晒 され る場 合 、 そ の 活 力 は破 壊 され る。 万 人 に共 通 の公 的 世 界 で は、人 格 が重 きをな し、 … 共 通 世 界 に 貢 献 す る各 人 の 手 にな る作 品 が 大 切 と な る。 これ に た い して 、 生 命 と して の 生 命 は公 的世 界 で は重 要 で はな い。 世 界 はそ う した生 命 を 顧 慮 す る こと はで き な い。 そ れ は世 界 か ら隠 され、 保 護 され ね ば な らな い。」50)とりわ け今 日の状 況 に お い て は、 外 部 か らの 「無 慈 悲 な 眩 しい光 」が 私 的 生 活 の 中 に入 り込 み、 子 ど もは成 長 の た あ の安 全 な場 所 を もて な く な っ て い る。 以 上 の よ うな 主 張 に加 え 、 ア ー レ ン トは、 もう一 方 で よ り力 点 をお いて 、 「公 共 性 」 の 維 持 の た め に学 校 が 果 た す 役 割 に期 待 を か けて い る。 彼 女 は、 若 者 と い う「見 知 ら ぬ既 存 の 世 界 に 生 まれ た 新 参 者 で あ る異 邦 人 」 に対 して 負 う務 あ の圏 域 は、 教 授(teaching)と. 学 習(learn-. ing)を 担 う学 校 で あ る と述 べ 、 そ の 失 敗 が 当 時 の ア メ リカ にお け る最 も切 迫 した 問 題 だ と考 え た。 51) 「子 ど もが 最 初 に世 界 に導 か れ る の は学 校 に お い て で あ る」 。 しか し、 彼 女 は、 学 校 は 「決 して 世 界 で は な く、 ま た偽 って世 界 と称 す べ き もの で は な い」52)とい い、 学 校 を 「家 族 か ら世 界 へ の 移 動 を 少 しで も可 能 にす るた め に、 我 々 が 家 庭 の 私 的 領 域 と世 界 の間 に挿 入 した制 度」53)と定 義 して い る。 学 校 で学 ぶ こ と は、 家 族 に よ って で は な く、 国 家 に よ って要 求 さ れ る の で あ るか ら、 「学 校 は、 現 実 に ま だ世 界 で は な い とは い え、 子 ど もに 関 して は あ る 意 味 で 世 54) 界 を代 表 して い る」 。 学 校 や 教 師 は子 ど も に と って は公 的 世 界 を代 表 して い るが 、 政 治 的 領 域 か ら見 れ ば 、 学 校 は家 庭 と同 じ 「私 的 な 前 政 治 的 領 域 」55)であ る と ア ー レ ン トは述 べ て いる。 い ず れ に せ よ 、 彼 女 にお い て 学 校 はく 私 〉 か らく 公 〉 へ の橋 渡 しをす る場 所 で あ る。 「新 参 者」 と して の子 ど もを 世 界 に導 き いれ 、 「新 しさ を保 持 しっ っ、 そ れ を新 しい もの と して 古 い 世 界 に持 ち込 む」 こ とで 、 個 別 性 を 保 証 しっ っ 共 同 で き る 「公 共 性 」 を維 持 す る こと に学 校 教 育 の 重 要 な役 割 が あ る と考 え るの で あ る。 「公 共 性 」 は そ の よ うに して永 続 的 で 、 死 を 超 越 して い か ね ば な らな い の で あ る。 教 育 者 の 責 任 は、 成 長 しっ っ あ る もの の生 命 の安 寧 へ の責 任 で は な くて、 「す べ て の人 間 を他 の存 在 者 か ら区別 す る独 自性 」 の成 熟 に対 す る責 任 な の で あ る。 教 師 の権 威 は、 資 格 によ って 生 み 出 され る もの で はな い。 「教 師 の 資格 は、 世 界 を 知 り、 そ れ を 他 人 に教 え る こ とが で き る点 にあ るの に対 し、 教 師 の権 威 は彼 が その 世 界 へ の責 任 を負 う点 に 基 づ く」56)ので あ る。 教 師 は、 この 世 界 に住 む 大 人 の代 表 者 と して 、 若 者 た ち に 「これ が 我 々 の世 界 だ」 と語 るの で あ る。 教 育 者 は、 「若 者 に対 して世 界. 自分 が作 った もの で もな け れ. ば、 さ らに秘 か にせ よ 公 然 とで あ れ 、 別 様 で あ った らと望 ん で さえ い る の に 自 らが 責 任 を負 わ な け れ ば な らぬ世 界. を代 表 す る立 場 に あ る」57) の で あ る. 。. 一16一.

(17) 〈公〉〈私〉の ダイナ ミズムに関す る人聞形成論へ の序説 しか し、 〈 公 〉 〈私 〉 関係 が 消 失 した 大 衆 社 会 にお いて 、 当 然 それ らの課 題 は困 難 で あ り、 そ こに 「教 育 の危 機 」 が存 在 して い るの で あ る。 そ して 、 そ の危 機 の本 質 を、 彼 女 は教 育 に お け る 「権 威 の喪 失 」 に見 て い る。(い うまで もな く、 こ こで い う権 威 は全 体 主 義 国 家 が 行 使 し た暴 力 とテ ロル と は何 の 関係 もな い。)今 日、 権 威 は もは や 「公 的. 政 治 的生 活 に お い て は. 如 何 な る役 割 も果 た して い な い。」58)そして そ の結 果 、 「世 界 の 成 り行 き に対 す る平 等 な責 任 が す べ て の人 に要 求 され る」59) こ とに な. って しま う。 この こ と は、 世 界(公 的 な 共 通 世 界)の. 必. 要 性 とそ こに お け る秩 序 の要 請 が、 っ ま り、 秩 序 を与 え るの み な らず、 そ れ に従 う責 任 、 世 界 に対 す る責 任 のす べ て が、 否 認 され る こ とな の で あ る。 ア ー レ ン トは、 この 「平 等 の 責 任 」と 「責 任 の拒 絶 」 が 同 時 に絡 み 合 って 、 近 代 にお け る権 威 の 喪 失 を招 い た の だ と考 え て い る。 彼 女 は、 「公 的. 政 治 的 生 活 にお け る権 威 の 喪 失 と、 家 庭 や 学 校 な ど の私 的 な前 政 治 的 領. 域 にお け る権 威 の喪 失 との聞 に は. 60) 、 も とよ り関 連 が あ る」 と述 べ、 権 威 へ の不 信 が 公 的 領 域. で 激 し くなれ ば な る ほ ど、 当 然 私 的 領 域 が 権 威 を損 な わず に保 っ とい う見 込 み は少 な くな る と 考 え る。 「事 実 、 前 政 治 的領 域 に ま で権 威 の喪 失 が 及 ん だ こ と は、 権 威 の 全 般 的 喪 失 を最 も ラ デ. 61) ィ カル に表 現 」 して お り、 子 ど もに対 して世 界 全 体 の責 任 を負 う こ との拒 否 は、 近 代 人 の. 世 界 へ の 嫌 悪 を 表 わ して い る のだ と述 べ て い る。 ア ー レ ン トは、 そ の よ うな現 代 の親 た ち の心 境 を 次 の よ う に言 葉 に して い る。 「この世 界 で は、 わ れ わ れ で さえ、 心 か ら安 ん じて い られ な い の だ。 この 世 界 で ど う振 舞 うべ きか 、 何 を 知 るべ きか 、 どん な技能 を身 にっ け るべ きか、我 々 に も漠 と して 知 りが た い。 どれ だ けや れ るか お 前 た ちで や って み な けれ ば な らな い。 とにか く、 お前 た ち に はわ れ わ れ の 責 任 を 問 う資 格 な どな い。 わ れ わ れ に は負 い 目 な ど な く、 お前 た ち と は 関係 な い. 62) 。」. しか し、 教 育 に お い て、 この世 界 へ の 責 任 が 権 威 の 形 式 を 取 るの は本 来 必然 的 だ とい えよ う。 ア ー レ ン トは、 「教 育 の務 め はっ ね に あ る もの. 世 界 に対 して は子 ど も、 子 ど もに対 して は. 世 界 、 旧 い もの に対 して は新 しい もの、 新 しい もの に対 して は旧 い もの. を 愛 育 し保 護 す. る こと で あ る」63)、「教 育 者 の務 め は 旧 い も の と新 しい も の を 和 解 さ せ る こ と で あ る」64)と述 べ、 政 治 的領 域 とは全 く逆 に、 教 育 は 「保 持 す る(conservation)」 (conservatism)」. と い う意 味 で 「保 守 的. で な け れ ば な らな い と主 張 す る。 「根 本 的 に は、 わ れ わ れ は いつ も、 関 節 が. は ず れて い る か関 節 が は ず れ そ う に な って い る世 界 の た め に教 育 して い る の で あ る。 これ が人 間 の 根 本 状 況 で あ る。 そ れ ゆ え、 そ こで は、 世 界 は死 す べ き もの の故 郷 と して ひ と と き役立 っ よ うに、 死 す べ き もの の手 で創 造 され る の で あ る。 一 世 界 の 創 造 者 とそ こ に住 ま う もの の死 す べ き運 命 に抗 して 世 界 を保 守 す る た め に は、 世 界 の関 節 は絶 え ず は め 直 さ なけれ ば な らない。 一17一.

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