博士(医学)袁 嵐 学位論文題名
Restoration of interleukin‑2 production
in tumor‑bearing rats tboughreduCingtumor‐denVedtranSforminggrOWth
faCtor ̄Fby廿eatmentWithbleomyCm
(ブ レ オ マ イ シ ン治 療 に よ る 腫瘍 由 来 のTGF−pの 減少 を 介 し た 担 癌ラ ッ トm・2産 生 能 の 改善 )
学位論文内容の要旨
. 緒 言
癌化 学療法 剤(抗 癌剤 )には 直接腫瘍細胞を傷害するだけではなく宿主免疫増強作用を介した治療効粟も期待し うる 。また 、抗癌 剤の 免疫増 強作用は比較的低用量でもたらされるため、骨髄抑制などの副作用を回避すること でき 、臨床 応用も 期待 される 。それ ら抗癌 剤のう ちのbleomycin (BLM) は担癌ラッ卜に投与した場合、免疫担 当細 胞を活 性化す るサ イトカ インの 産生増 強、サ ブレ ッサ一T細胞の除去などさまざまの免疫促進効果を示すこ とが 観察さ れてい る。 しかし 、BLMの免疫 促進作 用の 機序は 全容は 明らか ではな い。 本研究 では、免疫抑制因 子TGF‑6を 産 生 す る ラ ッ 卜 高 転 移 性 肝 癌 細 胞 株cKDH−8/11担 癌 ラ ッ トを 用 い て 、BLMの 腫 瘍細 胞 に 対 す る作 用の観 点から 担癌 生体に おける 免疫抑 制解除 の機 序を検 討した 。
材料と方法
1. 「動 物 」 北 海 道大 学 医 学 部 動 物実 験 施 設 に より 供 給 さ れ た8ー12週 齢WIくAH雌 性 ラ ッ ト を用 い た。
2. 「 驢瘍細 胞」DAB誘 発の可 移植性 肝細胞 癌の 培養株cKDH−8111を 用い た。
3. 「 抗癌剤 、サ イトカ インと 抗体」 抗癌 剤bleomycin(BLM)は 日本化 藁より 提供 された 。リコンビナント ヒ ト (rh) 11‑2は 塩 野 義製 薬 よ り供与 され 、 rhTGF‑ pl.マウス 抗ヒ卜TGF‑pモノク ローナ ル抗体 は市 販 の ものを 購入 して用 いた。
4. 「 化 学 療 法 」cKDH‑ 8/11細 胞 (106個 ) をWKAHラ ッ 卜 に 皮 下 移 植 し 、BLM(Smg/kg,i.p.) を14 日 目に一 回投 与した 。
5. 「 艫 瘍 細胞 産 生 のTGF‑6活 性の 測 定‑Bioassy法 」 背 部皮 下 に 増 殖 して き た 腫 瘍 を21日 目 に 摘出 し 細 切 した 後 、 無血 清培地 中で24時間培 養した 上清をtumor‑tissue−conditioned medium (TTCM) として 使用 し た 。 一 方 、BLMで 化 学 療 法 を 施 行 し た 腫 瘍 組織 をBLM‑TTCMと し た 。 ま た 、cKDH‑8/11細 胞 の48時 間 培 養 上 清 をtumor‑cell‑conditioned medium (TCCM) な い しBLMで 処 理 し た培 養 上 清 をBLM‑TCCMと し た 。 各サ ン ブ ル 中 のTGF‑13活 性 を 、MvlLu細胞 に 対 す る 障害 活 性 に よ り測 定 し た 。 各 培養 上 清 中 のTGF‑p 活 性 は 、 非 治 療 群 の そ れ を 100% と し て 、 BLM治 療 群 の そ れ と 比 較 し て 表 し た 。
6. 「 脾 細 胞 |L12産 生 能の 測 定 一Bioassy法」 非治療 群、BLM治 療群ま たコン トロ― ルと して正 常のラ ッ ト か ら 脾臓 を 摘 出 し 、浮 遊 細 胞 に した 後Con‑A(10 ug/ml) 添 加 培 地 で48時 間培 養し、 培養上 清を回 収し た 。 各 培 養 上 清 中の11‑2の 活 性 は コ ン卜 ロ ー ル の それ を100%と し て 、 非 治療 群 ま たBLM治 療 群 のそれ ‑ 184ー
と 比 較して 表した。 また、in vitroで は、thTGF‑pl、 cKDH−8/11細胞の培養上清TCCM、BLM‑TCCM ま たTCCM十抗TGF‑6中 和抗 体で 正 常ラ ット の脾 臓を24時間処理して 、さらにCon‑A添加培地で48時間 培 養し、培養上清を回収した。 各培養上清中の11‑2の活性は未処理のそれを100%として、各処理のそ れ と 比較 して 表し た。 培養 上清 中のIL‑2の 活性 を|L‑2依存 性細 胞 株CTLL‑2を用いて測定し た。
7. 「腫瘍細胞のTGF‑p蛋白産 生量の測定ーWestern blot法 」 cKDH‑8/11細胞の破砕抽出液を作製し、
5旧を12%SDS‑PAGEに 電気 泳動 し、メン ブレンにトランスファ―し て、一次抗体の抗TGF‑p抗体 と1時 間 、 ま たperoxidaseで 標 巌 さ れ た 二 次 抗 体 と1時 間 反 応 さ せ た 後 、ECL溶 液 で 発 色 さ せ た 。 8. 「腫 瘍細 胞のTGF‑p mRNAの発 現‑RT‑PCR法 」cKDH‑8/11細 胞のRNAを抽 出し て、逆転写を行 ない cDNAを合 成し 、さ らに ラ ッ卜TGF‑Bおよ びGAPDHの特異的なプライマ ーの存在下でPCR法により1min, 940C;Imin,60℃;2min,72C、30サイ クルでDNAを増幅した。 PCRサンブルを1%アガロスに電 気泳 動し、ethidiumbromideで染色させた。
川.結 果
1. 「担癌ラットの脾細胞のIL‑2産生能の経時的変化」cKDH‑8/1.1担癌ラットの脾細胞のIL‑2産生能は、
担癌早期(1−2週間)にはピークにむしろ増強していたが、担癌中期(3ー4週間)以降にはコントロ―ルの 約50%以下と急激に抑制された。
2.「BLM治 療によるIL‑2産生能の回復」 非治療群の担癌ラット21日 目の脾細胞のIL‑2産生能は正 常コ ン 卜 ロー ルの 約35%で 有 意に 抑制され たがBLM投与により治療群脾 細胞の11‑2産生能は正常の80%に 回復した。
3. 「BLM治療による抗腫瘍効果」皮下移植された腫瘍は、非治療群では進行的に増殖したが、担癌14日 目のBLM投与により一時的にではあるが退鴇し、またラットの生存期間が非治療群に比較して有意に延長した。
4. 「BLM処 理に よる 腫瘍 組織 中TGF‑B産生の抑制」 担癌21日目の 腫痛組織の培養上清(TTCM) 中の TGF‑p量は 約10 ng/mlであ った が 、BLM‑TTCM中 のTGF‑f3産 生量 はそ れ の約30% で顕著に減少し た。
5. 「培 養cKDH‑8/11細 胞のTGF‑13産 生 能に 対す るBLMの 影響 」BLM前 処理 したcKDH‑8/11細胞 の培 養 上 清(BLM‑TCCM)中 のTGF‑pの活 性、 ま た蛋 白量 とmRNA発現は、 未処理のcKDH‑ 8/11細胞のそ れら と比較して有意に抑制された。
6. 「cKDH‑ 8/11細胞産生TGF‑pによる 脾細胞11‑2産生能に対する 影響」cKDH‑ 8/11細胞の培養 上清 (TCCM)で処理された正常ラット脾細胞の11‑2産生能はthTGFー6で処理した場合と同様に抑制されたが、抗 TGF‑p中和抗体を加えるとこの 抑制は部分的に解除された。これに対し、BLM前処理したcKDH‑8/11細胞の 培養上清(BLM‑TCCM)処理で正常脾細胞の|L‑2産生能は抑制されなかった。
IV.考察
我々は以前より抗癌剤bleomycin (BLM)を担癌生体に低用量投与すると抗腫瘍免疫が増強されることを報告 し てきた。今回、TGF‑B高産生肝癌cKDH‑ 8/11細胞を用いてBLMの腰瘍細胞側に対する作用の解析を行った と ころ、BLMは腫瘍細胞のTGF‑8産生を抑制することが明ら かになった。 腫瘍細胞由来のTGF‑pが、T細 胞の増殖、分化および活性化する上でI要なサイトカインである|1‑2産生の抑制を介して免疫抑制因子として 働 くことが今回の実験モデルで 証明された。ー方、低用量BLM処理により腫瘍細胞からのTGF‑p産生がin vitro、in vivoにおいて滅少することが明らかにされた。 免疫抑制因子TGF‑p産生Iを抑制することによ って、IL‑2産生能の抑制が軽減された。こうした免疫抑制の解除が腫瘍の一時的に退縮や生存期間の延長をも らたした可能性が考えられた。 以上の結果からBLMの低用量治療はBiological Response Modfier(BRM) としての抗腫瘍効果も有すると考えられた。
V.結語
1. ラッ卜肝細胞癌KDH‑8細胞が免疫抑制因子TGF‑{3を産生していることを明らかにした。
2.低用量BLM治療が腫痛細胞由来のTGF‑{3産生を抑制することを明らかにした。
3. Bt̲MはTGF‑6産生を抑制することによって、担癌脾細胞の11‑2産生能を回復させ、抗腫瘍免疫効果を増 強させることを明らにした。
‑ 186−
学位論文審査の要旨 主 査 教授 小 池隆 夫 副査 教授 小野江和則 副 査 教授 加 藤紘 之
学 位 論 文 題 名
Restoration of interleukin‑2 production in tumor‑bearing rats through reducing tumor‑derived transforming growth factor‑ B by treatment with bleomycin
(ブレオ マイシン治療による腫瘍由来のTGF‑Fの減少を介した担癌ラットIし12産生能の改善)
担癌患者ではしばしば免 疫能の低下が観察される。 これらの免疫能低下は癌患者 の易感染性の原因となる ばかりでなく癌治療効果の 発現を減弱する要因となっ ており、特に、宿主の癌細胞 に対する免疫応答性を利 用する免疫療法においては 効果発現の妨げになる。申 請者は担癌宿主における免疫 応答性の低下が癌化学療 法剤 (抗 癌剤 ) 投与で改 善できることに注目しその 作用機作の解析を試みた。す なわち、抗癌剤bleomycin
(BLM) を担 癌ラ ットヘ 投与した場合、免疫担当細胞 を活性化するサイトカイン 産生の増強、サプレッサ―
Tif;IH胞の除去、エフェクタ―活性の増強などさまざまの免疫促進効果を示すことが観察されている。しかし、
BLMの 免 疫促 進作 用の 機序 は 完全 には 明ら か にな って いな い。 本 研究では、担 癌ラットにおけるインタ―
ロ イ キ ン 2( IL− 2) 産 生 能 の 低 下 の 原 因 とBLM投 与 に よ る そ の 改 善 の 機 序 を 検 討 し た 。 実 験 は 同 系 肝癌KDH‑8を 移植 され たWKAHラッ トを 担癌 モ デル とし て行 われ た 。担 癌の14日 目に 低 用量 I ・I
BLM(5mg/kg,i.p.,1回 )投 与し た 場合 の治療効果 とラットの免疫能におよぼ す影響を検討した。免疫能 の指 標は 脾細 胞 をin vitroで のconcanavalin A(Con A)刺激した際に産生されるIL‑2活性すなわち脾Tリン パ球 の|L‑2産生 能によ り検討した。また、腫瘍組織 、および培養腫瘍細胞によ り産生される因子の正常ラ ッ ト 脾 細 胞 のIL‑2産 生 能 に 及 ぼ す 影 響 を 検 討 し 、 そ の 結 果 か ら 推 定 さ れ た 免 疫 抑 制 因 子TGF‑ロ を、
bioassayに よ る 活 性 ,RT‑PCR法 に よ る 遺 伝子 発現 およ びWestern blotting法 によ る蛋 白の レベ ル で検 討し た。 その 結 果、 低用 量のBLMもあ る程 度 の治 療効 果を もた ら すことが明ら かになった。すなわち、皮 下移 植さ れた 腫 瘍は 、非 治療 群ラ ッ トで は進 行的 に増 殖 した が、BLM投与によ り―時的にではあるが退縮 し、 また 非治 療 群に 比較 して 、ラ ッ トの 生存期間が 有意に延長し、死亡時の肺 に見られる転移結節が有意
― 187―
に減 少し た。 次に 、 免疫 学的 検討 で は、KDH―8担 癌ラ ッ トの 脾細 胞の |L―2産生能は、担癌早 期(1−2週 間) には むし ろ正 常 ラッ ト脾 細胞 に 比べ 増強 して いた が 、担 癌中 期(3−4週間)以降には急激 に低下し正 常 の30% 以 下 と な り 、 担 癌6週 目 に は ほ ぼ完 全に 抑制 され た 。一 方、 担癌14日 目 に1回BLM投与 さ れた ラ ット の脾 細胞 のIL―2産生 能 は21日目 にも 正常 の80% まで に回 復 して いた 。こ れら 担 癌お ける 免疫能の低 下 とBLMに よ る 改 善の 機序 の検 索 の成 粟と して 、腫 瘍 細胞 の培 養上 清(TCCM)が 正 常ラ ット 脾細 胞 のIL‑2 産 生 能 を 抑 制 す る こ と 、BLM(10ug/ml,6時 間) 処理 腫瘍 細 胞の 培養 上清 (BLM‑TCCM)は 抑制 作 用を 示 さな いこ と、 上記TCCMのIL―2産 生能 の対 する 抑 制作 用は 反応 系 に抗TGF‑ロ抗 体添 加 する と滅 弱すること な ど が 明 か に なっ た。 こ れら 成績 から 、KDH‑8腫瘍 細 胞がTリ ンパ 球のIL‑2産生 能 を抑 制す るサ イ トカ イ ンTGF‑ロ を産 生す る と推 定さ れた 。 そこ で、 ラッ トに 増 殖し てい る腫 瘍組織におけるTGF‑ロ産 生を検討し たと ころ 、非 治療 腫 瘍組 織にTGF‑ロ が産 生さ れて いる こ とお よびTGF‑Bの 主た る産 生 細胞 が腫 瘍細胞であ ■ I
るこ とを 、in vitroで純 培養 され たKDH‑8細胞 を 用い て確 認し た 。ま た、Invivo、in vitroで 増殖してい る腫 瘍細 胞のTGF‑ロ 産生 はそ れぞ れBLMに よっ て 抑制 され るこ と が活 性、 遺伝 子発 現 、蛋 白の 各レベルで 確認された。
以 上 の 成 績 は1) ラ ッ ト 肝 癌KDH―8細 胞が 免疫 抑制 因子TGF‑{3を産 生し てい る 、2) 低 用量BLM治療 が 腫 瘍 細 胞 由 来 のTGF‑13J生 を 抑 制 す る 、3)BLMは 腫 瘍 細 胞 のTGF‑[3生を 抑制 する こと に よっ て、 脾Tリ ンバ 球のIL―2産 生能 を回 復 させ 、抗 腫瘍 免疫 効果を増強させるこ となどを示している。本研究 は、ラット 癌細 胞を モデ ルと し て、腫瘍細胞が産生 する免疫抑制因子TGF‑[3が 担癌宿主の免疫応答性の低下 の要因なっ て い る こ と を 明 か に し 、 低 用Iの 抗 癌 剤BLMが 腫瘍 細 胞のTGF‑p産 生を 選択 的に 抑 制す るこ とを 介 して 担 癌宿 主の 免疫 応答 を 改善 する こと を 明ら かに した 点、 ま た、BLMの宿 主免 疫改 善効 果 の機 序の ー端を解明 した点などの新知見を含む ものと評価される。
公 開発 表に 弓1き続 き、 副 査加 藤教 授か ら、BLMの作 用 機作 、投 与タ イミ ン グ、 投与 量の 問 題、KDH‑8細 胞以 外の 腫瘍 細胞 で の検討、研究成果の 簡床応用の可能性などにつ いて、副査小野江教授から、 担癌初期に
|L―2産生能が上昇する理 由、IL―2産生能だけを免疫 応答の指標にしたことの、|L―2産生能の検索にConA 刺激 だけ を用 いて い るこ との およ びIL―2活性 の アッ セイ にCTLL‑2細 胞を 用い るこ と の問 題点 および腫瘍 細胞 がTGF‑ロ 以外 の 免疫 抑制 因子 を 産生 して いる 可能 性 など の指 摘と 質問があり、主査小池か らは、なぜ 抗癌 剤BLMお よび |L―2とTGF‑pに 着 目し たの か、 また 、BLM以 外 の抗 癌剤 での 検討 に つい ての 質問があっ たが、申請者はほぼ適確な 解答および討論をなし得た。
審 査員 一同 は、 こ れらの成果および関 連知繊を高く評価し、申請 者が博士(医学)の学位を受 けるのに充 分な資格を有するものと判定した。
‑ 188ー