博士(医学)藏満保宏 学位論文題名
癌化学療 法後腫瘍組織への養子移入 LAK 細 胞 集 積 増 強 の 機 序
学位論文内容の要旨
I.緒言
LAK細 胞は 養 子免 疫療法にお ける新しいエ フェクター細 胞として 期待 されたが,臨床 応用の結果は 満足ゆくもの ではない.その原因 の ひと っ とし て ,LAK細胞 の腫瘍局所への 集積率の低さ がある.筆 者ら のマウスにおける成績によれば,移入した総LAK細胞のうち,腫 瘍局 所に集積するのは2.7+ 0.5%であり,CTLと比較すると明らかに 低 い集 積 率で あ った. 化学療法後の 養子移入LAK細胞の 腫瘍組織集 積率 は,7倍以上に増強され,治療効果も集積性に平行して著しく改 善さ れた.
本研 究 では ,化 学療法 後の腫瘍組織 へのLAK細胞集積率 増強の機 序を ,腫瘍組織に産生されるLAK細胞に対するchemotactic factorと migrationinhibitory factorの 観 点 よ り 検 索 し た ・ II.材料と方法
1.働物)C57BL/6雌性マウス8‑12週齢・
2.(腫瘍細胞)3・メチルコランスレン誘発の可移植性マウス線維肉腫 BMT‑11細胞.
3‐(サイトカインと抗体)リコンビナントヒト(rh)IL‑2,thTGF‑ぢ1, チキン抗hTGF‑タ1ポリクローナル抗体.
4. (LAK細胞)C57BL/6マウスの脾 細胞を1,OOOJRU/mlのIL‑2添加培 養 液 で5日間 培養 し 障害 活 性を 測 定し てLAK細 胞で あ るこ と を確 認 したもの.
5.(腫瘍 組織Conditioned medium)マウス の背部皮下にBMT‑11細胞 をlXl06個移植し,増 殖してきた腫 瘍を14日目に摘出し細切した後,
無血清培地 中で24時間培養し た上清をconditioned medium(CM)とし て 使 用 し た . ま た , 腫 瘍 移 植10日 後 にcyclophosphamide(CPM),
bleomycin(BLM),adriamycin(ADM),cisplatinum(CDDP),pepleomycin (PEP),mitomycin C(MMC)等 各 抗癌 剤で 化 学療 法 を施 行 した 腫瘍 の CMをそれぞれの抗癌剤処理CMとした.
6. (Under agarose migration assay) lo agaroseク ルにあけた3つの穴 の 中 央にLAK細 胞を入れ, 両側の穴にそ れぞれ上述のCMと コントロー ル の 培地 を入 れた.3時間後,細胞 がそれぞれの方 向に移動した 距離 を 測 定 し た .CMに 向 か っ て 移 動 し た 距 離 か ら コ ント ロ ール 培 地に 向 か って 移動 し た距 離 を減 じ たも の をLAK‑attractant活性 とした・
7.( 遊走阻止試験 )ガラス製のキ ャピラリーにLAK細胞を入れ,上述 のCMや コ ント ロ ール 培地 中 に24時間 静 置し て ,拡がった 面積を測定 し た .LAK細 胞 が コン ト ロー ル 培地 中 にお い て拡 がっ た 面積 に 対す る ,CMの 抑 制 率 ( %inhibition)を も っ てLAK‑MIF活 性 と し た ・ 8. (RT‑PCR)上 述 の 化 学 療 法 後4日 目 の 腫 瘍 組 織 か らRNAを 抽出 し た後 ,逆転写を行ないcDNAを合成し,さらにIL‑1a,IL‑6,IL‑8,TNF‑
ロ,IFN‑y,TGF‑ロ1,ロ‑actinの各々に特異 的なプライマーの存在下 でPCR法によりDNAを増幅した・
III.結 果
1.(各抗癌 剤治療後の腫 瘍組織CM中のLAK‑attractant活性)非治 療 群 腫 瘍 組 織のCMはLAK‑attractant活性 陰 性で あ った が ,BLM以外 の 抗 癌 剤 処 理CMはい ず れも0.3mm以 上の 遊走 を 促し ,LAK‑attractant 活 性 が陽 性 であ った .
2. ( 腫 瘍 組 織 のTGF‑ロ1のmRNA発 現 の 化 学療 法 によ る増 強 )非 治 療 腫 瘍 組 織 で 各 種 サ イ ト カ イ ン のmRNA発現 が 認め ら れた が.TGF‑
BiのmRNAの 発現 のみ が 非治 療 組織 で は検 出 され ず,CPMによ る 化学 療 法 後の 組 織で 検出 さ れた .
3.(rTGF‑ロ1のLAK‑attractant活 性)thTGF‑ロ1のLAK‑attractant活 性 を 検 索 した と ころ ,O.01ng/mlか ら100ng/mlの 間の 濃 度の い ずれ に おいても0.3mm以 上の遊走を促 し,LAK‑attractant活性 を示した.
ま た , 新 鮮 脾 細 胞 に 対 し て は ,attractant活 性 を示 さな か った ・ 4.(CM中 のLAK‑attractant活 性 の 抗TGF‑pl抗体 によ る 中和 ) 化学 療 法後のCMに 抗TGF‑ロ1抗体を加えて ,LAK‑attractant活性 を測定し た と こ ろ ,100〃g/mlの 濃 度の 抗 体を 加え た もの で は約30% に 抑制 さ れ た・
5.(TGF‑ロ1のLAKの 細 胞 障 害 活 性 に 対 す る 影 響 )TGF‑ロ1がLAK 細 胞 の 細 胞障 害 活性 に与 え る影 響 を.4時 間5lCr遊 離 試験 にて 測 定 し た とこ ろ ,O.Olng/mlか ら10ng/mlの 濃度までのい ずれにおいて も 細 障 害活 性 に影 響を 与 えな か った .
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6.(各抗癌剤治療後の腫瘍組織培養上清中のLAK‑MIF活性)BLMを 除いた いずれの抗癌剤治療後のCMもLAK‑MIF活性を示した.明ら かにLAK‑MIF活性を示すCPM治療後のCMも,新鮮脾細胞に対しては 有意なMIF活性を示さず,多形核自血球に対しては逆にそのrandom migrationを促進させた・
7.(LAK‑MIFの分子量)化学療法後のCMを3kDa以下と以上のフラ クションに分けて,LAK‑MIF活性を検索したところ.3kDa以下のフ ラクションがLAK‑MIF活性を示した.
IV.考察
筆者らは以前より,癌化学療法とLAK養子免疫療法を併用するこ とで相乗的な治療効果を上げることができ,併用効果の機構として,
癌化学療法後の腫瘍組織へのLAK細胞集積率が上昇することを報告 して来た.今回,集積率上昇の機序の解析を行なったところ,LAKの 集 積 率 を上 昇 さ せ る2つ の因子 の存 在が明 らかと なった .LAK‑
attractant活性を示すTGF‑ Biと,LAK‑MIFの2種のサイトカインカイ匕 学療法後の腫瘍組織に産生されており,この2つの因子の働きで,
LAK細 胞 の腫 瘍 局 所 への 集積率 は上 昇して いると 推察さ れた.
LAK‑attractantについては,今回その1種がTGF‑p1であることを明 らかにすることができた.一方,LAK‑MIF活性を示すサイトカイン の同定はできなかったが,その分子量が3kDa以下でTGF‑p1のそれ とは異なることから,同一物質でないことは明らかである.LAK‑
attractantとLAK‑MIFは,それぞれLAK細胞を引き寄せて,なおかつ 留めておくとぃう二段階にわたるLAK細胞の腫瘍組織抑留機構に働 くものと考えられた.
V.結語
1.癌化学療法後の腫瘍組織に初めて産生されるようになるTGF‑ロ1 が LAK‑attractant活 性 を 示 す こ と を 明 ら か に し た . 2. TGF‑p1はエフェクター段階ではLAK細胞の癌細胞障害性を抑制 しなかった.
3.癌化学療法後の腫瘍組織中には,分子量3kDa以下の,TGF‑ロ1と は 異 な る LAK‑MIFが 産 生 さ れ る こ と を 明 ら か に し た . 4.癌化学療法後腫瘍組織にLAK細胞の集積が増強される機序とし て,腫瘍局所におけるTGF‑ロ1とLAK‑MIFの産生が明らかになった.
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
癌化学療法後腫瘍組織への養子移入 LAK 細 胞 集 積 増 強 の 機 序
LAI欝 田 胞 は 養 子 免 疫 療 法 に お け る 新 し い エ フ ウ ク タ ー 細 胞 と し て 期 待 さ れ た が 、 臨 床 応 用 の 結 果 は 満 足 ゆ く も の で は な い 。 そ の 原 因 の ひ と っ と し て 、 LAK細 胞 の 腫 瘍 局 所 へ の 集 積 率 の 低 さ が あ る 。 申 請 者 ら の マ ウ ス に お け る 実 験 成 績 は 、 腫 瘍 組 織 へ の 養 子 移 入 LAK細 胞 の 集 積 率 は 化 学 療 法 に よ り 7倍 以 上 に 増 強 さ れ 、 治 療 効 果 も 集 積 性 に 平 行 し て 著 し く 改 善 さ れ る こ と を 示 し て い る 。 そ こ で 申 請 者 は 、 化 学 療 法 後 の 腫 瘍 組 織 へ の LAK細 胞 集 積 率 増 強 の 機 序 を 、 腫 瘍 組 織 に 産 生 さ れ る LAK細 胞 に 対 す るchemotactic factorと 、 migration inhibitory factorの 観 点 よ り 検 索 し た 。
実 験 に は 、C57BL/6マ ウ ス の 脾 細 胞 を1, OO OJRU/mlのIL‑2添 加 培 養 液 で 5日 間 培 養 し 、 障 害 活 性 を 測 定 し て 確 認 し た LAK細 胞 を 用 い た 。 C57BL/6マ ウ ス の 背 部 皮 下 に 、 可 移 植 性 マ ウ ス 線 維 肉 腫 BMT‑
11細 胞 を lXl06個 移 植 し 、 増 殖 し て き た 腫 瘍 を 14日 目 に 摘 出 し 細 切 し た 後 、 無 血 清 培 地 中 で 24時 間 培 養 し た 上 清 を 、 conditioned medium(CM)と し て 使 用 し た 。 ま た 、 腫 瘍 移 植 10日 後 に 各 種 抗 癌 剤 で 化 学 療 法 を 施 行 し た 腫 瘍 の CMを 、 そ れ ぞ れ の 抗 癌 剤 治 療 CMと し て 用 い た 。 LAK細 胞 に 対 す る 、 CM中 の chemotactic活 性 ( LAK‑
attractant活 性 ) は 、under agarose migration assayを 月 ヨ し ゝ て 損IJ定し たo 上 述 の 化 学 療 法 後 4日 目 の 腫 瘍 組 織 か らRNAを 抽 出 し た 後 、11‑1 、 IL‑6、 IL‑8、 TNF‑a、 IFN‑y、TGF‑pl、 ロ ‑actinの 各 々 に 特 異 的 な プ ラ イ マ ー の 存 在 下 で RT‑PCR法 に よ り DNAを 増 幅 し た 。 ま た 、 TGF‑pl中 和 抗 体 に よ るCM中 の LAK‑ attrac tant活 性 抑 制 実 験 を 試 み た 。 TGF‑ロ1のLAKJlf田 胞 の effector phaseに お け る 細 胞 障 害 活 性 に 対
男 三紀 飴ほ お 川 川 細西 皆 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
す る 影 響 は 、NK細 胞 抵 抗 性 のBMT‑11細 胞 を 標 的 細 胞 と し た 、4時 間5lCr release assay中にrecombinant human (rh) TGF‑ロ1をカ口える こ と で 検 討 し た 。 一 方 、LAK細 胞 に 対 す るCM中 のmigr ation inhibitory活性(LAK‑ MIF活性)は、ガラス製の毛細管を用いた遊走阻 止試験を用いて測定した。
非治療群腫瘍組織のCMは、LAK‑ attractant活性が陰性であったが、
BLM以外の 抗癌剤治療CMはぃ ずれもLAK‑attractant活 性が陽性であっ た 。 抗 癌 剤 治 療 及 び 、 非 治 療腫 瘍 組織 で各 種 サイ ト カイ ン のmRNA 発 現 が 認 め ら れ た が 、TGF‑plの発 現の み が非 治 療組 織 では 検出 さ れ ず 、 化 学 療 法 後 の 組 織 で 検出 さ れた 。ま た 、抗 癌 剤治 療CM中 に はTGF‑ロ1活陸が検出され、抗癌剤治療CMのLAK ‑ attractant活性は、
100以g/mlの 濃 度 の 抗TGF‑pl抗 体 に よ り 約30% に 抑 制 さ れ た 。 thTGF‑plは 、O.O Ing/mlか ら100ng/mlの間 の 濃度 の いず れに お い てもLAK‑ attrac tant活性を示した。TGF‑ロ1はO.Oln g/mlから10ng/
mlの濃度 までのいずれ においても、effector phaseにおけるLAK細胞 の細胞 障害活性に影 響を与えなか った。上記LAK‑ attractant活性陽 性 の 抗 癌 剤 治 療CMは 、 全 てLAK‑MIF活 性 も 陽 性 で あ っ た 。 こ の LAK‑MIF活性はLAK‑attractant活性と異な り、3kDa以下のフラクショ ンに検出された。
以 上 の 実 験 成 績 よ り 、 癌 化 学 療 法 後 の 腫 瘍 組 織 に 産 生 さ れ 、 LAK細胞 の 集積 率 を上 昇 させる2つの 因子の存在が明 らかとなった 。 LAK‑attractant活 性を 示 すTGF‑ロ1と、LAK‑MIFの2種 の サイ トカイ ン が化 学 療法 後 の腫 瘍 組織 に産 生 され て おり 、 この2つ の因 子の働 きで、LAKf田胞の腫瘍局所への集積率は上昇していると推察された。
LAK ‑attractant活 性を示すサイトカインについては、今回その1種 がTGF‑plで あ る こ と を 明 ら か に す る こ と が で き た 。 一 方 、LAK‑
MIF活性 を 示す サ イト カ イン の同 定 はで き なか っ たが 、そ の 分子量 が3kDa以下 でTGF‑ロ1の それ と は異 な るこ と から 、同 一 物質 でない こ と は 明 ら か で あ る 。LAK‑attractantとLAK‑MIFは 、そ れ ぞれLAK 細 胞 を 引 き 寄 せ て 、 な お か つ留 め てお くと ぃ う二 段 階に わ たる 、 LAK細 胞 の 腫 瘍 組 織 抑 留 機 構 に 働 く も の と 考 え ら れ た 。 口頭 発表 に あた っ て、 西教授よ り、移入LA K細胞の 腫瘍以外の臓 器 へ の 集 積 状 況 、 皆 川 教 授 より 、LAK・MIFとTGF‑p1と が同 一 物質 で な い と 考 え る 理 由 、 化 学 療法 でTGF‑p1が産 生 され る 機序 、LAK‑
attractantとLAK‑MIFの 産 生 細 胞 の 同 定 な ど 、 柿 沼 教 授 よ り 、 抗 humanTGF ‑ロ1抗 体 カ'murlneT GF‑plを 中 和で き るの か 否か 、RT‑
PCRに よ っ てmRNAの 発 現 が 確 認 さ れ た 腫 瘍 組 織 中 のTGF‑ロ1活 性 に つ い て 、 抗TGF‑pl中 和 抗 体 のd oseの 検 討 な ど 、 小 林 教 授 か ら
TGF‑plと一般のchemoattractantの分子量の相違点などの質問があっ たが、申請者は4年間の研究の実績を踏まえて適切な応答をなしえ た。
西教授、皆川教授には個別に審査を受け、申請者の当該分野に関 する幅広い知識を含めた関連事項についての質問を戴き、合格と判 定された。
以上、本研究iま、癌に対する養子免疫療法としてLAK細胞を用い る場合の、化学療法併用の意義を積極的に支持するものであり、癌 治療にとって示唆に富む成果を含むものと考えられる。よって、博 士(医学)の学位に相当すると判定した。