博 士 ( 獣 医 学 ) 岡 田 洋 之
学 位 論 文 題 名
ヒ ` ソ ジ の 甲 状 腺 C 細胞 の 過 形成 に 関す る 形態 学 的研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
哺 乳動 物 のC細 胞は 甲状 腺に広 く分布 する が,そ の分布 状態お よびC細胞 の形 態は, 動物種 に より 多少 異なる 。免疫 組織化 学的に ,C細胞は カル シトニ ンの他 に,カ ルシ トニン 遺伝子 関連ペ プ チ ド(CGRP), ソ マ ト ス タ チ ン , ク ロ モ グ ラ ニ ンAお よ び 神 経 特 異 エ ノ ラ ー ゼ(NSE)など のホ ルモ ンおよ びぺプ チドに 陽性反 応を 示すこ とが報 告され てい るが, その免疫染色態度は動物 種に より 異なる 。イヌ ,ネコ ,ラッ卜,マウス,モルモット,ハムスター,ウサギ,ウシ,ヤギ,
ブタ など 多くの 動物種 では,C細 胞の形 態学的 研究 が免疫組織化学的手法を用いてなされている。
しか し, ヒツジ のC細胞の 形態に っいて の詳細 は不 明であ る。
本 研究 で は , @ 正常 な ヒ ツ ジ のC細 胞 の 分 布な ら び に 形 態に っ い て,◎ ビタミ ン(V) D3投 与 に よ る高 カ ル シ ウ ム血 症 誘 発 後 の 甲状 腺 内C細 胞の 動 態 に っ いて , ◎ ウ シ 白血 病 ウ イ ルス
(BLV)接 種 に よ り , リ ン パ 肉 腫を 発 症 し た ヒツ ジ に 認 め ら れたC細 胞 過 形成 例 な ら び に1例 で は あ る がC細 胞 癌 例 に っ い て , 免 疫 組 織 化 学 的 な ら び に 超 微 形 態 学 的 に 検 索 し た 。 最 初に , 正 常 な1〜3歳 の 雄 ,雌 お よ び 去 勢ヒツ ジの甲 状腺と 上皮 小体お よび第 四胸腺 のC細 胞 の 形 態, 分 布 を 免 疫組 織 化 学 的 に 検索 し た。HE染色 標本で は,C細胞 と甲状 腺の濾 胞上 皮細 胞と を識 別する ことは 困難で あった が, 免疫染 色によ りC細胞は 特異的 に染 め出さ れた。 すなわ ちC細 胞は , 抗 ブ 夕 カル シトニ ン血清 および 抗ウ シク口 モグラ ニンA血清 に対し 強陽性 を, 抗ヒ ト カ ル シ卜 ニ ン 血 清 ,抗 ヒ 卜 ク 口 モ グラ ニ ンA血 清に 対 し て は 中等 度陽性 を, 抗ウシNSE血 清 に 対 し ては 弱 陽 性 反 応を 示 し た 。 抗 ラッ トCGRP血 清 に 対 して は , 一 部 のC細 胞 の み が強 陽 性 を 示 し ,大 部 分 のC細胞 は陰性 であっ た。C細胞 は,形 態学 的には 類円形 もしく は多角 形で ,孤 在あ るい は数個 の細胞 が集合 して小 集団 を形成 し,濾 胞上皮 に接 して, あるいは濾胞間結合組織 に存 在し ていた 。C細胞は ,甲状 腺に広 く分布 して いたが ,辺縁 に行く に従 いその 数は減 少して い た 。 なお ,C細 胞 は峡 部には 認めら れなか った 。C細 胞は ,内上 皮小体 および 第四胸 腺に 認め られ たが ,外上 皮小体 には認 められ なか った。 免疫組織化学的にヒツジのC細胞を検索する場合,
抗ヒ トカ ルシト ニン血 清によ り抗ブ夕カルシトニン血清を使用した方が特異性が高かった。また,
ヒ ツ ジの 甲状腺 ならび に上皮 小体 におけ るC細胞の 形態お よび分 布状 態は, 他の動 物種と 比較す る と,ヤ ギのそ れらと 類似 してい た。
次 に ,1〜2歳 の 去 勢 ヒ ツ ジ5頭 ず っ を3群 に 分 け ,VD32万IUを10日 間 ,20日 間 お よび30 日 間 毎日 筋肉内 に注射 して,C細 胞過形 成を 作出し ,これ を形態 学的 に検索 した。 検索し た血清 カ ル シ ウ ム 値 はVDヨ 投 与 前 約9mg/dEで あ った の に 対 し ,VDヨ 投 与10日 ,20日お よ び30日 後 で は,10. 28土1.OOmg/瑚,11. 86土O.62mg7dEおよび10. 44土0.82mg/dEと有意に上昇した。血 清 無 機 リ ン 値 も ,VDユ 投 与 前 の 約5〜6mg7dE'か らVDヨ 投 与 後 ,11〜13mg/ 瑚 と 有 意に 上 昇 し た 。C細胞 は増生 し,濾 胞基底 部(旁 濾胞 領域) に数個 から数10個で 構成さ れる大 小の 結節を 形 成 し た 。VDヨ 投 与20日 群 な らび に30日 群で は , 結節性 に増 生したC細 胞は, しばし ば濾胞 を 取 り 巻き ,濾胞 を置換 するこ とも あった 。また ,増生 したC細胞 には ,核の 有糸分 裂像が しばし ば 認 めら れた。 免疫組 織化学 的に は,増 生したC細 胞のブ 夕カル シト ニン, ウシク ロモグ ラニン Aお よ び ラ ッ トCGRP抗 血 清 に 対 す る 陽 性 反 応 が ,VDヨ 投 与 期間 に 比 例 し て漸 減 し , 脱 顆 粒 が 明 ら か であ っ た 。 こ れに 対 し ,C細胞 の 抗 ウ シNSE血 清 に 対す る 陽 性 反応は 顕著 に増大 して い た。
超 微形態 学的に は, 対照群 の正常 ヒツジ では, ほと んどのC細 胞が細 胞質内 に多数 の成 熟分泌 顆 粒 ( 平 均直 径200nm) を 有 し, こ れ は 分 泌サ イ ク ル中の 貯蔵期 に相当 してい た。VDユ投与 群 の 増 生 し たC細 胞 の 電 顕的 検 索では ,対照 群で主 体を 占めた 分泌サ イクル 中の 貯蔵期 のC細胞に 代 わって ,発達 したゴ ルジ 装置周 囲に多 数の前 分泌顆 粒を 有する 分泌・ 梱包期 の細胞と,粗面小 胞 体が層 板状に 配列す る合 成期の 細胞が 主体を 占めて いた 。また ,対照 群では 認められなかった 変 性・萎 縮細胞 がVDヨ 投与群 におい て散見 され た。
以 上の よ う に , ヒ ツジ に 過 剰 のVDユ を 与 え 高カ ルシ ウム血 症を誘 発す ると,C細 胞は二 次的 に 腫 大・ 増生し ,C細胞の 抗カル シトニ ン血 清に対 する陽 性反応 は弱 くなっ た。こ れに対 し,エ ネ ルギ 一 補 充 酵 素と し て のNSEの 含 有 がC細 胞 で 高 ま って い た 。 ま た増 生 し たC細胞 は , カ ル シ トニン の合成 能が高 まり ,その 分泌を 持続し ている こと が,超 微形態 学的に 裏ずけされた。ヒ ツ ジ のC細胞 の形態 学的な 細胞活 性状態 ,す なわち 機能相 におい て, 免疫組 織化学 的所見 と電顕 的 所見は ,密接 に関連 して いた。
さ らに , 実 験 的 にBLVを 接 種し , リ ン パ 肉腫 を 作 出した11頭のヒ ツジ の甲状 腺を検 索した 結 果 ,2例 に両 側 性 の 多 中心 性C細 胞 過形 成 が , 他 の1例 に 多 中 心性C細 胞 過形成 を伴 う両側 性の 結 節 性C細胞 癌が見 られた 。過形 成の1例とC細 胞癌例 の血清 カル シウム 値は, それぞ れ10. Omg/
瑚 お よび10. 8mg/dEと 軽度に 上昇し ,残る 過形 成例の それは8.4mg/dEと軽 度に低 下して いた 。
C細胞過形成例では,多くのC細胞が濾胞を置換するように増生していた。免疫組織化学的に,
C細胞過形成を示した2症例の増生したC細胞は,抗カルシトニン血清に強陽性を,抗ウシクロ モグラニ ンA血清および抗ウシNSE血清 に弱陽性を示した。また, 一部のC細胞が抗ラット CGRP強陽性を呈 した。C細胞癌のほとんどの 腫瘍細胞および結節性に増生したC細胞,ブ夕 カルシトニン, ウシク口モグラニンAおよびウシNSE抗血清に強く染色された。また,多くの 腫瘍細胞は抗ラ ットCGRP血清に対して陰性で,少数の腫瘍細胞が陽性を示した。C細胞癌例 の腫瘍細胞および増生したC細胞の細胞質内には,発達したゴルジ装置,粗面小胞体,多数のミ トコンドリアお よび多数の分泌顆粒が認められた。C細胞過形成の2例とC細胞癌1例は,転移 性石灰沈 着を示さないこととC細胞の 増生様式から,原発性(前癌 病変)と思考された。
以上のように,本研究では,ヒツジにおけるC細胞の形態学的特徴と,過形成性変化の特質を 機能的動態を含めて明らかにした。
学位論文審査の要旨
哺乳動物のC細胞は甲状腺に広く分布するが,その分布状態ならびに形態のほかカルシトニン をはじめとする種々のホルモンおよびペプチドに対する免疫染色態度は,動物種により多少異な る。申請者は,正常なヒツジのC細胞の分布ならびに形態,実験的高カルシウム血症誘発例の甲 状腺内C細胞の動態,お よびウシ白血病ウイルス(BLV)接種によルリンパ肉腫を引き起こし たヒツジの甲状腺を,免疫組織化学的ならびに電顕的に検索し,本論文をまとめた。本論文は和 文75頁からなり,4章で構成されている。
第1章では,1〜3歳の正常なヒツジの甲状腺のC細胞の形態,分布を免疫組織化学的に検索 した。C細胞は,プタおよびヒトカルシ卜二ン,ウシおよびヒトクロモグラニンA,ウシ神経特 異工ラノーゼ(NSE)なら びにラットカルシトニン遺 伝子関連ペプチド(CGRP)抗血清に対 して陽性を示した。甲状腺のC細胞は類円形もしくは多角形で,孤在あるいは数個の細胞が集合
敏 誠 夫 光 智 富 吉 倉 村 野 出 板 杉 菅 前 授 授 授 授 教 教 教 教 査 査 査 査 主 副
、 副
副
し, 濾 胞上 皮に 接 する かあ る いは これ と 無関 係に 濾胞間結 合組織に存在してい た。これらのC細 胞は,甲状腺 に広く分布してい たが,辺縁に行くに 従いその数は減少 していた。以上の所見から,
ヒツ ジ の甲 状腺C細胞 の 形態 およ び 分布 状態 は ,他 の動物種と比較す ると,ヤギのそれ らと類似 していた。
第2章 で は ,1〜2歳 の 去 勢 ヒ ツ ジ に ビ タ ミ ン(V)Dヨ2万IUを10日 間 ,20日 間 お よ び30 日間 毎 日筋 肉内 に 注射 し, こ れら の甲 状 腺を 形態 学 的に 検索 し た。10日 間 のVDヨの 投 与例 のC 細胞は濾胞基 底部(傍濾胞領域 )で増生し,数個か・ら数10個で構成される大小の結節を形成した。
VDヨ20日間 なら び に30日間 投 与例 では , 結節 性に 増 生し たC細 胞は し ばし ば濾 胞 を取 り囲 ん だ り, あ るい は濾 胞 を置 換し て いた 。免 疫 組織 化学 的には, 増生したC細胞のブ夕カルシ トニン,
ウ シ ク ロ モ グ ラ ニ ンAお よ び ラ ッ トCGRP抗 血 清 に 対 す る 陽 性 反 応 が ,VDヨ 投 与 期 間 に 比 例 し て 漸 減 し た 。 こ れ に 対し ,C細 胞の 甲 状腺 ウシNSE血 清 に対 する 陽 性反 応は 顕 著に 増大 し て いた。
第3章 で は , 第2章 の 症 例 を 超 微 形 態 学 的 に 観 察 して いた 。VDヨ 投与 例 の増 生し たC細 胞 で は, 対 照例 で主 体 を占 めて い た分 泌サ イ クル 中の 貯蔵期のC細胞に代 わって,発達した ゴルジ装 置周 囲 に多 数の 前 分泌 顆粒 を有 する梱包・分泌期の 細胞と,粗面小胞 体が層板状に配列 する合成 期の 細 胞が 主体 を 占め てい た 。ま た, 対 照例 では 認 めら れな か った 変性 ・萎縮細胞がVDヨ投与 例において散 見された。
以 上 の第2章な らび に 第3章 の所 見か ら ,ヒ ・ソ ジ に過 剰のVDヨを 与え 高カルシウム 血症を誘 発す る と,C細胞 は続 発 性に 腫大 ・ 増生 して カ ルシ トニン合成能を高 め,その分泌を持 続してい るよ う であ った 。 っま り, ヒ ツジ のC細 胞の 形 態学 的な活性状態の免 疫組織化学的所見 と電顕的 所見は密接に 関連していた。
第4章 で は , 実 験 的 にBLVを接 種 して りン パ 肉腫 を作 出 した11例 の ヒツ ジの 甲 状腺 を検 索 し た 。 そ の 結 果 ,2例 に 両側 性 の多 中心 性C細 胞 過形 成が , 他の1例に 多中 心 性C細 胞過 形成 を 伴 う両 側 性の 結節 性C細 胞 癌が 認め ら れた 。C細 胞過 形 成例 では , 多く のC細 胞が 濾 胞を 置換 す る よう に 増生 して い た。 免疫 組 織化 学的 に ,C細 胞過 形成 を 示し た2例 の増 生 したC細胞 は, 抗 カ ル シ ト ニ ン 血 清 に 強 陽 性を ,抗 ウ シク 口モ グ ラニ ンA血 清お よ び抗 ウシNSE血 清 に弱 陽性 を 示 し た 。 ま た , 一 部 のC細 胞 が 抗 ラ ッ トCGRPに 強 陽 性 で あ っ た 。C細 胞 癌 のほ と んど の腫 瘍 細 胞 お よ び 結 節 性 に 増 生 し たC細 胞 は , ブ タ カ ル シ ト ニ ン , ウ シ ク ロ モ グ ラニ ンAお よび ウ シ NSE抗 血 清 に 強 く 染 色 さ れ た 。 ま た , 多 く の 腫 瘍 細 胞 は 抗 ラ ッ トCGRP血 清 に 対 し て 陰 性 を 示し , 少数 の腫 瘍 細胞 が陽 性 を示 した 。C細 胞 癌例 の腫 瘍 細胞 およ び 増生したC細胞の 細胞質内
には,多数の分泌顆粒が認められた。
これらC細胞過形 成の2例とC細胞癌1例の変化は,転移性石灰沈着を示さないこととC細胞 の増生様式から,原発性(前癌病変)と思考された。
以上のように,申請者はヒツジにおけるC細胞の形態学的特徴を機能相を含めて明らかにした。
これらの知見は,反芻動物の原発性および続発性C細胞過形成の発生機序解明に大きく貢献する ものである。よって審査員一同は,岡田洋之氏が博士(獣医学)の学位を受けるのに充分な資格 を有するものと認めた。