博 士 ( 獣 医 学 ) 増 田 悦 子 学 位 論 文 題 名
ネオカルチノスタチン誘導体(ZSS )の抗腫瘍免疫誘導の機序に関する研究
学位論文内容の要旨
ネ オ カ ル チ ノ ス タ チ ン (NCS) の 誘導 体 ジノ ス タチ ン スチ マ ラマ ‑ (ZSS) お よ び 親 化 合 物 NCS は 強 い 抗 腫瘍 作 用を 有 し 、そ れ らの 抗 腫瘍 活 性は DNA の 断 片化 お よび DNA 合 成 阻害 作 用に 基 づく 殺 細胞 作 用に よ る こと が 知られ て い る 。 ZSS は NCS1 分 子 に ス チ レ ン マ レ イ ン 酸 交 互 共 重 合 体 (SMA)2 分 子 を結合した 高分子抗腫 瘍剤である 。本研究で はこれらの薬剤が抗腫瘍免疫 を 活性化する 作用を持つ 可能性につ いて検討し た。
Balb/c マ ウ ス に ZSS あ る い は NCS の 有 効 治 療 量 を 静 脈 内 投 与 し、 1 日 か ら 4 週間 後 に線 維 肉 腫、 MethA を 皮 下 移植したと ころ、腫瘍 の増殖が抑 制さ れ 高 い 頻 度 で 腫 瘍 が 治 癒 し た 。 ZSS あ る い は NCS の 前 投 与 は 、 MethA 以 外 の 腫 瘍 (Colon 26 お よ び Sarcoma 180) の 増 殖を も 抑制 し た。 NCS は 蛋 白部 分 ( アポ プ ロテ イ ン) と 非 蛋白 性 のUV 吸収 を持つ物質 クロモフォ アから成 っ ているが、 生物活性( 細胞障害活 性)はク口 モフォアにあることが立証さ れ て いる の で、 ク ロモ フ オ アを 欠 くZSS (apo‑ZSS) につ い て抗 腫 瘍作 用を 観 察 し た 。 そ の 結 果 、 apo‑ZSS は 腫 瘍 退 縮 を 誘 導 せ ず 、 ZSS と NCS の 前 投 与 による抗腫 瘍作用はク ロモフオア の直接的な 殺細胞活性によることが示唆 さ れた。一方 、薬剤投与 後組織中の 薬剤残存が 認められなくなった後に移植 し た腫瘍も退 縮すること 、また、移 植した腫瘍 は―過性に増殖した後退縮す る ことが観察 されたこと から、これ ら薬剤の前 投与による腫瘍の退縮は宿主 の 免疫系の関 与によって 起こること が示唆され た。
次に 、 腫 瘍退 縮 過程 に 関与 す る免 疫系の 細胞を検討 した。ZSS またはNCS
を 前 投与 し たBalb/c ヌ― ド マウ ス で は Metr,A の退縮は誘 導されない ことか
ら 、 腫瘍 退 縮に は T 細胞 が 関与 す るこ と が示 唆 され た 。MethA 退 縮期 のZSS
ま た は NCS 前 投 与 マ ウ ス の 脾 細 胞 を MethA と 混 合 し て 移 植 す ると 、 MethA
の 増殖は完全 に阻止され た。脾細胞 を分離しエ フェク夕一細胞を検索すると
Thyl.2 陽性 ナ イロ ン 非付 着 性の T 細 胞で あ った 。 この T 細胞 に は加 vitro で
の MethA 細胞 に対する細 胞溶解活性 は認められ なかった。 腫瘍退縮開 始前の
マ ウ スの 脾 臓で は T 細胞 の 割合 が 一過 性に上昇 し、逆にB 細胞およ びマクロ
フ ァ ージの 割合が滅少 した。リン パ節におい ても同様に B 細胞の 滅少が認め
られた。腫瘍退縮期にはこのような細胞組成の変化は認められず、またZSS 及びNCS 前投与の効果が長期間継続することから、これらの薬剤は腫瘍退縮 に関与する免疫細胞の前駆細胞に影響を与える可能性が示された。腫瘍組織 内には退縮が始まる前から腫瘍細胞死がみられ、細胞死の領域は時間の経過 と共に著しく拡大した。しかし、腫瘍組織内への浸潤細胞は極めて少なく、
腫瘍細胞死はサイトカイン等の因子によって起こる可能性が考えられた。抗 体またはカラゲナンの投与により免疫細胞を除去したマウスを用いて検討し た結果、ZSS と腫瘍移植によりまずThyl.2 陽性Lyt2.2 (CD8) 陽性asialo GM1 陰性の T 細胞が活性化され、その後に抗腫瘍活性を有するThyl.2 陽性Lyt2.2 陽性asialo GM1 陽性のT 細胞が出現して腫瘍を退縮する事が明かとなった。
また、 L3T4 (CD4) 陽性T 細胞は単独では抗腫瘍活性を示さなかったが、Lyt2.2 陽性T 細胞の抗腫瘍作用を増強した。
最後に、ZSS の後投与で抗腫瘍免疫が誘導される可能性を検討した。腫瘍 移植後にZSS を投与したところ抗腫瘍効果がみられ、このような効果はその 後投与された抗Thyl.2 抗体により部分的に抑制された。これらのことから、
後投与の場合の主作用はZSS の細胞傷害活性によると考えられるが、抗腫瘍 性 T 細胞の活性化もこの場合のZSS の抗腫瘍作用の一部を担うことが明らか となった。
本研究か ら、 ZSS 及び NCS が宿主の抗腫瘍免疫を活性化することが示さ
れた。抗腫瘍免疫はこれら薬剤の有効治療量で誘導され、かつ後投与でも活
性化された。以上のことは、これらの薬剤は臨床に応用した場合も直接的な
殺細胞活性と抗腫瘍免疫の活性化により抗腫瘍作用を発揮する可能性を示し
ている。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ネ オ カ ル チ ノ ス タ チ ン 誘 導 体 (ZSS) の 抗 腫 瘍 免 疫 誘 導 の 機 序 に 関 す る 研 究
ネ オ カ ル チ ノ ス タ チ ン(NCS)の 誘 導 体 ジ ノ ス タ チ ン ス チ マ ラ マ ー(ZSS) お よ び 親 化 合 物NCS は強 い抗 腫瘍 作用 を 有し 、そ れら の抗 腫瘍 活性 はDNAの断 片化 およ びDNA合 成 阻害作用に基づく殺細 胞作用によることが知られている。本 研究ではこれらの薬剤が抗腫瘍免疫を活性化する作用を持つ可能 性について検討した。
Balb/cマウ スにZSSあ るい はNCSの有 効治 療量 を静 脈内 投与 し、1日か ら4週 間後に線維肉腫、Meth Aを 皮 下 移植 した とこ ろ、 腫 瘍の 増殖 が抑 制さ れ高 い頻 度で 腫瘍 が治 癒し た。ZSSあ るい はNCSの前 投 与 は 、MethA以 外 の 腫 瘍(Colon 26お よ びSarooma180)の 増 殖 をも 抑制 した 。ZSSとNCSの前 投与 による抗腫瘍作用はク口モフエアの直 接的な殺細胞活性によることが示唆された。一方、薬剤投与後組 織中の薬剤残存が認めら.れなくなった後に移植した腫瘍も退縮すること、また、移植した腫瘍は一過性 に増殖した後退縮することが観察され たことから、これら薬剤の前投与による腫瘍の退縮は宿主の免疫 系の関与によって起こることが示唆さ れた。
次 に、 腫瘍 退縮 過 程に 関与 する 免疫 系の 細胞 を検 討し た。ZSSま たはNCSを 前投与したBalb/cヌー ドマ ウス ではMethAの退 縮は 誘導 され ない こと か ら、 腫瘍 退縮 にはT細 胞が 関 与することが示唆され た 。MethA退 縮 期 のZSSま た はNCS前 投 与 マ ウ ス の 脾 細 胞 をMethAと 混 合 し て 移 植 す る と 、MethA の増殖は完全に阻止され た。脾細胞を分離しェフェクター細胞を検索すると Ihyl.2陽性ナイ口ン非付 着性 のT細 胞で あっ た。 このT細胞 にはin vitroでMethA細胞に対する細胞溶解活性は認められなかっ た。また、腫瘍組織内には退縮が始ま る前から腫瘍細胞死がみられ、細胞死の領域は時間の経過と共に 著しく拡大した。しかし、腫瘍組織内 への浸潤細胞は極めて少なく、腫瘍細胞死はサイトカイン等の因 子によって起こる可能性が考えられた 。抗体またはカラゲナンの投与により免疫細胞を除去したマウス を用 いて 検討 した 結 果、ZSSと腫 瘍移 植に より ま ずThyl.2陽性Lyt2.2(CD8)陽性asialo GM1陰性のT 細胞が活性化され、その後に抗腫瘍活 性を有するThyl.、2陽性Lyt2.2陽性asialo GM1陽性のT細胞が出 現し て腫 瘍を 退縮 す る事 が明 らか とな った 。ま た、L3T4 (CD4)陽性T細胞は単独では抗腫瘍活性を示 さなかったが、Lyt2.2陽性T細胞の抗腫瘍作用を増強した。
最 後に 、ZSSの後 投与 で抗 腫瘍 免疫 が誘 導さ れ る可 能性 を検 討し た。 腫瘍 移植 後にZSSを投与した とこ ろ抗 腫瘍 効果 が みら れ、このような効果はその 後投与された抗Thyl.2抗体により部分的に抑制さ れた 。こ れら のこ と から 、後 投与 の場 合の 主作 用はZSSの細胞傷害活性によると考えられるが、抗腫 瘍 性 T細 胞 の 活 性 化 も ZSSの 抗 腫 瘍 作 用 の 一 部 を 担 う こ と が 明 ら か と な っ た 。 本 研究 によ り、ZSS及 びNCSが宿 主の 抗腫 瘍免 疫を 活性 化す るこ とが 示さ れ た。抗腫瘍免疫はこれ ら薬剤の有効治療量で誘導され、かっ 後投与でも活性化され、臨床応用可能なことを示している。よっ て審査員一同は、増田悦子氏が博士( 獣医学)の学位を受けるのに十分な資格を有するものと認めた。