博士(医学)賈 文怡 学位論文題名
マウス胸腺特異的にデキサメサゾーン依存性に発現する 遺伝子の単離と発現の解析
学位論文内容の要旨
T
細胞は骨髄に存在する多分化能を持つ幹細胞から分化する.骨髄を離れる と幼若なT 細胞前駆細胞は胸腺に移動する.そこで自己応答性の1 マ佃胞は胸腺 で除去される.この胸腺内でおこる胸腺細胞の選択過程はアポトーシスであ り,ネガティブ選択と呼ばれている.胸腺内にてネガティブ選択で除去される 主な細胞集団はCD4+CD8 十 細胞である.以前からマウス生体を用いたネガ テイブ選択の実験系として抗
CD3抗体,デキサメサゾーンの投与あるいは放 射線照射が行われ てきた.CD 4+CD8 十胸腺細胞の
1細胞受容体を抗
CD3抗 体にて処理すると
Nur77とc ←myc のmRNA および蛋白が増加 する.
p53ノッ クアウトマウスを 用いた実験からマウスを放射線照射した場合,
CD 4+CD 8十胸腺細胞が
p53分子を介してアポトーシスに陥ることが判明した.しか し,デキサヌサゾ ―ン依存性のCD 4+CD8 十胸腺細胞のアポトーシスはp53 ノックアウトマウスでも何ら障害を受けておらず,デキサヌサゾーン依存性 のCD4 十
CD8十 胸腺細胞のアポト ーシスを実際に引き 起こす鍵となる遺 伝 子は判明していない.生体にストレスが加わるとステ口イドにより,胸腺が萎 縮すること,さらにこれはアポトーシスによることが古くから知られていた・
血中のステ口イド値は様々な外的要因あるいは内的要因により変化する.さ
らに胸腺細胞の
T細胞受容体依存性のアポトーシスがある一定の濃度のステ
口イド存在下で抑制されることが示された.したがって,生理的条件下の胸腺
でのネガテイブ選択を正しく理解するためにはステ口イド依存性の胸腺細胞
アポトーシス機構の解明が必要と考えた.そのため,私はデキサメサゾーン依
存性のCD4 十
CD8十胸腺細胞のア ポトーシスを実際に 引き起こす分子を 単
離することを目的に本研究を行った.
BALB/c
マウスにデキサヌサゾーンを腹腔内投与し,投与後1 時間,2 時間,
3
時間,4 時間にマウスを安楽死させて胸腺を摘出した.コント口ールの無処 置マウスを含め,5 種類の処置をしたマウスの胸腺を用いて
Liangらが開発し たDifferential Display 法を行い,デキサヌサゾーン投与後の胸腺で強く誘導 されるクローンを2 つ単離した.
2つのク口ーンの塩基配列を解析したところ
129bpと
132bpの同一の遺伝子であった.このため
132bpsを含むク口ーンは
DIG1を命 名 した.さらに,全 長の
DIGlcDNAを単 離するためにBALB/c マウ スにデキ サメサゾーンを腹 腔内投与後2 時間目の胸腺から
cDNAライプラリ ーを作製し,DIG1 遺伝子断片が結合する
3個の夕口ーンを得た.これらの遺伝 子の塩基配列を解析したところ,132bp 断片を5 側にもつ2 .lkb の遺伝子で あった. また,この遺伝子は最近Choi らによって抗CD3 処理したT 細胞ハイ ブリドー マ細胞から単離さ れた,TDAG8 と命名さ れた
cDNAと同一で蛋白翻 訳領域が163 アミノ酸からなるplatelet −activating factor(PAF) 受容体と25
%の相同 性を持つ,7 回膜貫通領域をもつ
G蛋白結合型の受容体であった.
マウス生体 での
TDAG8遺伝子発 現の解析よルデキサヌサゾーン投与前に はひ臓, 胸腺にごく微量の
TDAG8mRNAが存在した.このことは血中には微 量の糖質 コルチコイドが存 在するのでそれら のステ口イドが
TDAG8遺伝子 を誘導し ているのかもしれない.デキサヌサゾーン投与後には胸腺のみで
TDAG8の
mRNAが強く 誘導されたが,ひ 臓ではほとんど誘導されなかった・
リンバ節では非常に弱い発現誘導が認められた.一方,リンバ系以外の組織
(腎臓,心臓,骨格筋,肝臓)にはこの遺伝子のmRNA の発現は確認されなかっ た.また,T 細胞ハイブリドーマBD5 ―8 細胞にアポトーシスを誘導するような 刺激(デキサメサゾーン,抗CD3 抗体,放射線照射)にてTDAG8 は発現誘導さ れた.しかし,いずれの刺激でもアポトーシスを誘導しなかったCD4 −CD8+
の胸腺腫
EL―
4ではTDAG8 は発現誘導されなかった.
B細胞株
WEHI−231 にア ポ トー シ スを誘導す るような抗
IgM抗体刺激を加えても
TDAG8は発現誘導 されなかった.以上のノーザンブ口ット解析からTDAG8 の発現は1 マ沺胞系に 特異的であることがはっきりと示された.
mRNA
の発現バターンから推測されるTDAG8 遺伝子の生理的な意義は(
i)
胸腺細胞特異的なアポトーシスを誘導する分子,あるいは(ii) 胸腺細胞特異的
ア ポ ト ー シ ス を 抑 制 し よ う と 生 体 が 発 現 す る 分 子 で あ る .
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 上 出 利光 副査 教授 小野江和則 副査 教授 細川眞澄男
学 位 論 文 題 名
マウス胸腺特異的にデキサメサゾーン依存性に発現する ・遺伝子の単離と発現の解析
T細 胞 は 骨 髄 に 存 在 す る 多 分 化 能 を 持 つ 幹 細 胞 か ら 分 化 す る 。 骨 髄 を 離 れ る と 幼 若 なT細 胞 前 駆 細 胞 は 胸 腺 に 移 動 す る 。 こ こ で 自 己 反 応 性 のT細 胞 はT細 胞 抗 原 受 容 体 依 存 性 の 刺 激 に よ り 除 去 さ れ る 。 こ の 胸 腺 細 胞 の 選 択 過 程 は ア ポ ト ー シ ス で あ り 、 ネ ガ テ イ プ 選 択 と 呼 ば れ て い る 。 こ の ネ ガ テ イ ブ 選 択 で 除 去 さ れ る 主 な 細 胞 群 はCD4陽 性CD8陽 性 の ダ ブ ル ポ ジ テ イ ブ 胸 腺 細 胞 で あ る 。 一 方 生 体 に ス ト レ ス が 加 わ る と ス テ 口 イ ド に よ り 、 胸 腺 が 萎 縮 す る こ と 、 さ ら に こ れ は ア ポ ト ー シ ス に よ る こ と が 古 く か ら 知 ら れ て い た 。 血 中 の ス テ ロ イ ド 値 は 様 々 な ス ト レ ス で 変 化 し 、 か つ 胸 腺 細 胞 のT細 胞 抗 原 受 容 体 依 存 性 の ア ポ ト ー シ ス が 、 あ る 濃 度 の ス テ 口 イ ド で 抑 制 さ れ る こ と も 知 ら れ て い る 。T細 胞 抗 原 受 容 体 依 存 性 の ア ポ ト ー シ ス にNur77やc‑myc遺 伝 子 産 物 が 関 与 す る こ と 等 そ の 分 子 機 序 は 一 定 の 解 明 が な さ れ て い る が ス テ 口 イ ド 依 存 性 の ア ポ 卜 ー シ ス の 分 子 機 序 は 不 明 で あ る 。 し た が っ て 生 理 的 条 件 下 の 胸 腺 で の ネ ガ テ イ プ 選 択 を 理 解 す る た め に は ス テ ロ イ ド 依 存 性 の ア ポ ト ー シ ス に 関 与 す る 遺 伝 子 の 単 離 と 分 子 機 序 の 解 明 が 必 須 で あ る 。 BALB/Cマ ウ ス に デ キ サ ヌ サ ゾ ー ン を 腹 腔 内 投 与 し 、 投 与 前 及 び 後1時 間 か ら4時 間 で マ ウ ス を 安 楽 死 さ せ て 胸 腺 を 摘 出 し た 。 胸 腺 か ら 得 ら れ たmRNAを 用 い てLiarigら が 開発 したdifferential display法 にて 、デ キサ メサ ゾー ン投 与後 の胸 腺に 強 く 発現 誘導 され る2つ の 遺 伝 子 断 片 を 単 離 し た 。2つ の ク 口 ー ン の 塩 基 配 列 を 解 析 し た と こ ろ129 base pair (bp)と13 2bpの 同 一 の 遺 伝 子 で あ っ た 。 こ れ をDIG1と 命 名 し た 。 さ ら に 全 長 のDIGl cDNAを 単 離 す る た め にBALB/Cマ ウ ス に デ キ サ メ サ ゾ ー ン を 腹 腔 内 投 与 し 、 投 与 後2時 間 目 の 胸 腺 を 用 い てcDNAラ イ プ ラ リ ー を 作 成 し 、13 2bpの 遺 伝 子 断 片 が 結 合 す る ク 口 ー ン を え た 。13 2bpの 遺 伝 子 断 片 を5 側 に 持 つ2kbの 遺 伝 子 で あ っ た 。 こ の 遺 伝 子 は 最 近Choiら に よ り 抗CD3抗 体 処 理 し たT細 胞 ハ イ ブ リ ド ー マ 細 胞 よ り 単 離 さ れ たTDRG8と 命 名 さ れ た 遺 伝 子 と 同 一 で あ っ た 。DIGl cDNAは 蛋 白 翻 訳 領 域 が16 3ア ミ ノ 酸 か ら な り7回 膜 貫 通G蛋 白 結 合 型 受 容 体 と し て の 特 徴 を 有 し て い た 。 正 常 状 態 に お い て マ ウ ス 生 体 内 で はDIGlmRNAは 胸 腺 、 ひ 臓 に ご く 微 量 発 現 す る の み で あ る が デ キ サ メ サ ゾ ー ン 投 与 で 胸 腺 で 強 く 発 現 誘 導 さ れ た 。 し か し り ン バ 組 織 以 外 で
はデキサヌサゾーンの投与に関わらず発現は認められなかった。in vitro でアポトーシス を誘導する異なる刺激(デキサメサゾーン、抗
CD3抗体、放射線照射)を与えたが、ダ ブルポジテイプ胸腺細胞由来
BD5ー8 細胞では、いずれの刺激でもアポトーシスに陥り、
DIGlmRNA
の発 現増強を認 めた。
CD4陰性
CD8陽性胸腺腫 由来
EL‑4細胞では しゝずれの 刺 激でもアポ トーシスに 陥らずDIGlmRNA の発現増強は見られなかった。一方未熟B 細 胞 株WEHI231 細胞 は抗IgM 抗 体刺激でア ポトーシス に陥るが
DIGlmRNAの発 現は見られ ず 、
DIGlmRNAの発 現 は
T細胞 のアポトー シスに特異 的であった 。
mRNAの発現バ ター ンから推測されるDIG1 遺伝子に機能は1 )胸腺細胞に特異的なアポトーシスを誘導する。
あ る い は
2) 胸 腺 細 胞 に 特 異 的 な ア ポ ト ご シ ス を 抑 制 す る こ と で あ る 。 .
公開発表にあたって、副査の細川教授よりDIG1 遺伝子の機能はなにか、
EL・・4 細胞は も ともとDIGlmRNA の発現が見られるが、これをどのように解釈するか、ネガテイブ選 択とデキサヌサゾーンの関係はどのようになっているのか、さらに副査の小野江教授より、
デキサヌサゾーンの血中濃度の変化により、胸腺でのポジテイブおよびネガテイブ選択が 変化するという証拠があるか、マウスに投与するデキサヌサゾーンの量を変化させると
DIGlmRNAの発 現のバターンが変化するか、細胞内領域にあるりん酸化可能部位は良く 保存されているのか、主査の上出よりDIG1 遺伝子が直接アポトーシスに関与することを 証明するためにはどのような実験をする必要があるのか等の質問があったが、申請者はお おむね妥当な回答をなしえた。
さらに、今後このDIG1 遺伝子の機能解析によルステ口イド依存性のT 細胞アポトーシ スの分子機序が解明されることが期待される。