博士(医学)和田隆宜 学位論文題名
肝様腺癌,通常型胃癌,肝細胞癌における 4q LOH の解析
学位論文内容の要旨
目的
癌の分子生物学的特徴のひとつとして染色体のloss of heterozygoslty(LOH)が知 ら れ てい る 。肝 細 胞癌 で は 染色 体 の1p、4q、5q、8q、11q、16q、17pなど の遺伝 子 座 に お け るLOHが25% 以 上 に 認 め ら れ る と 報 告 さ れ て い る 。な か でも4qの 遺 伝子座にはprealbumin、albunlin、aーfetoprotein(AFP)、fibrinogenぬど肝細胞カミ産 生 す る蛋 白 質が コ ード さ れ てお り 、4qは肝 細胞癌と密 接に関わる 部位として 注目 さ れ てい る 。肝 様 腺癌 は 肝 臓以 外 の臓 器 に発生する 病理組織学 的に肝細胞 癌に類 似 し た腺 癌 であ り 、1985年 に 石倉 ら によ り 提唱 さ れ た。 通 常血 清AFP値の 上昇を 伴 う が 、AFP非 産 生 性 の 肝 様 腺 癌 も 存 在 す る 。AFP産 生 胃 癌 は胃 癌 全体 の 約5% を 占 め、 そ のほ と んど が 肝 様腺 癌 であ る と考えられ ている。肝 様腺癌は著 明な静 脈 侵 襲を 伴 い肝 へ の血 行 性 転移 を 高率 に 引き起こす ため、通常 の腺癌に比 較して 極 めて予後不 良であるこ とが知られ ている。し かしながら 比較的稀な癌腫ゆえに、
分 子 生物 学 的な 検 討は ほ と んど な され て いないのが 現状である 。本研究で は肝様 腺 癌 と肝 細 胞癌 の 分子 生 物 学的 類 似性 を 明らかにす るため、肝 細胞癌で高 頻度に 認 め られ る4qLOHが 肝 様腺 癌 でも 認 めら れ る か否 か 検討 し た。 同 時に 通 常の胃 癌 に つ いて も4qLOHの 有 無を 検 討し た 。ま た 、 胃癌 に おけ る 臨床 病 理学 的 因子と4q LOHの相関を検討した。
材料と方 法
1991年 か ら1999年 の間 に 北 海道 大 学大 学 院医 学 研究 科 病態 解 析学 講 座分 子 病 理 学分 野 およ び 北海道大学 医学部付属 病院病理部 において診 断された肝 細胞癌26 例 、各 臓 器に 発 生し た 肝様 腺 癌13例 、通 常 型胃 癌52例 を対 象 とし た 。肝 様 腺 癌 の 内 訳 は 、 胃 癌7例 、 大 腸 癌 と 卵 巣 癌 が 各2例 、 膵 癌1例 、 肺 癌1例 であ っ た 。 通 常型 胃 癌の 組 織型の内訳 は、高分化 型管状腺癌21例、中分化 型管状腺癌15例、
低 分化 型 腺癌16例 で あっ た 。LOHの解 析 はYehらの 方 法に 従 い、microsatellite marker D4S395を 用 いて 行 った 。 サン プ ルと す るDNAはホ ル マリ ン 固定 、 バラ フ イ ン 包 埋 し た 標 本 か ら 、6‑10ルmの 組 織 切 片 を 作 製 し 、 腫 瘍 部 と 非 腫 瘍 部 を microdissection法 により採取 して精製し た。LOHの 判定は、非 腫瘍部でへ テ口な alleleが認めら れ、かつ腫 瘍部のひと つのalleleのパンド のintensityが50%以下 の もの をLOH陽性 と した 。 な お、 非 腫瘍 部 にお いて ひとつのalleleしか 認められ
ない場合はnot informative な症例として評価対象から除いた。臨床病理学的検討 として腫瘍の組織学的分化度、病期(stage) 、深達度、リンパ管侵襲、静脈侵襲、
リンバ節転移について検討した。また細胞増殖性の指標としてPCNA ならびにp53 に対する免疫組織化学染色を行った。強拡大視野(対物40 倍レンズを使用)で、
異なる 3 視野においてそれぞれ 300 個の細胞をカウン卜し、免疫染色陽性腫瘍細 胞数の比率を計算した。
結果
肝細 胞 癌 26 例中 19 例 が informative で あり、そのうち 8 例 (42.1 %)に 4q LOH が認められた。胃の肝様腺癌では7 例中4 ´例(57.1 %)に4q LOH が認められた。
通常型胃癌では52 例中47 例がinformative であり、そのうち6 例(12.8 %)に4q LOH が認められた。肝細胞癌と通常型胃癌では 4q LOH の出現頻度に統計学的有意差 が認められた。胃の肝様腺癌の4q LOH の出現頻度は通常型胃癌と比べ有意に高 く、肝細胞癌での出現頻度と同等であった。また通常型胃癌について組織学的分 化度、病期 (stage) 、深達度、リンバ管侵襲の有無、静脈侵襲の有無、1j ンパ節転 移の有無、 PCNA およ 、びp53 陽性率の各臨床病理学的因子と4q LOH の関連を検 討した。組織学的分化度に関して、4q LOH は高分化型管状腺癌では認めず、中 分化型管状腺癌では14 例中2 例(14 .3010) に、低分化型腺癌では15 例中4 例(26.7 %)
に認められた。 stageI の 24 例では 4q LOH を認めず、stage II 以上のものは 23 例 中6 例 (26.1 %)に認められ、両者の間に統計学的な有意差が認められた。また、静 脈侵襲がなかった35 例中、 4q LOH が認められたのは2 例(5.7 %)であったが、静 脈侵襲があった 12 例では、うち 4 例 (33.3 %)に4q LOH が認められ、統計学的な 有意差を認めた。
考察
本研究では 、肝様腺癌では肝細胞癌と同等の頻度で4q LOH が観察された.肝 細胞癌類似 性を示さない通常型胃癌での 4q LOH 出現頻度は胃の肝様腺癌での出 現頻度に比 べて有意に低く、4q LOH は肝様腺癌の肝細胞癌類似性に関与してい る可能性が 示唆された。 染色体 4q に LOH が生じ ることにより、なぜ肝細胞癌類 似性が発現されるかについては不明である。しかし、 4q の遺伝子座には肝細胞が 産生する蛋白質をコードする遺伝子が存在しており、これらの蛋白質の産生異常 と機能的形態学的な肝細胞との類似性が関係している可能性も十分に考えられる。
実際に、 4q LOH は血 清 AFP 値の上昇に関 係があるとの 報告もあり、今後の研究 により両者の関係が明らかになってゆくものと思われる。なお、 4q の遺伝子座に 癌抑制遺伝 子の報告はな く、また肝細 胞類似性を示 さない癌の4qLOH の報告も 殆どないことから、 4qLOH は発癌や癌進展よりも、肝細胞類似性に関与している 可能性が考 えられる。また本研究では、通常型胃癌でも低頻度ながら4q LOH が 観察された。分化度が低くなるほど 4q LOH の頻度が増加する傾向が認められた。
また病期や深達度、脈管侵襲、リンパ節転移、細胞増殖性などの因子で示される
癌の悪性度 との関連が高いことも示唆された。今回の解析は D4S395 というーつ
の microsatellite marker に限定したもので、各症例ごとの染色体上の遺伝子欠損
領域の広が りについては 情報が得られ なかった。同 じように D4S395 領域のLOH
を含んでいても、肝様腺癌と通常型胃癌では遺伝子欠損領域の広がりが異なって いる可能性が考えられる。今後、使用するマーカーの数を増やし、腺癌の肝細胞 癌 類 似 性 獲 得 に 関 わ る 遺 伝 子 群 を さ ら に 絞 り 込 ん で ゆ く 必 要 が あ る 。 結語
肝様腺癌では肝細胞癌と同様に4q LOH が高頻度に認められ、形態学的類似性だ
けではなく、分子生物学的異常における両者の類似性も示唆された。通常の胃癌
でも低頻度ながら4q LOH が認められた。その頻度は組織学的分化度が低くなるほ
ど上昇した。臨床病理学的悪性度の高い胃癌症例の方が4q LOH の出現頻度が高い
傾向にあった。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
肝様腺癌,通常型胃癌,肝細胞癌における 4q LOH の解析
肝様 腺 癌は 肝 臓 以外 の 臓器 に 発 生す る 病 理組 織 学的 に 肝 細胞 癌に類似し た腺癌で あり、
著明な 静脈侵襲を 伴い肝へ の血行性 転移を高 率に引き 起こすた め、通常の 腺癌に比 較して 極めて 予後不良で あること が知られ ている。 しかしな がら比較 的稀な癌腫 ゆえに、 生物学 的,遺 伝子異常な どの検討 はほとん どなされ ていない のが現状 である。本 研究では 肝様腺 癌と肝 細胞癌の分 子生物学 的類似性 を明らか にするた め、肝細 胞癌で高頻 度に認め られる 4q LOHに 注目 し た 。同 時 に通 常 の 胃癌 に つ いて も4q LOHの 有無を 検討し、 臨床病理学 的 因子と4q LOHの相関を検討した。
対 象 は1991年 か ら1999年 の 間 に 診 断さ れ た肝 細 胞 癌26例 、各 臓 器に 発 生 した 肝 様腺 癌13例 、 通 常 型 胃 癌52例 と し た 。 肝様 腺 癌の 内 訳 は、 胃 癌7例、 大 腸 癌と 卵 巣 癌が 各2 例 、H萃癌1例 、 肺 癌1例で あ った 。 通 常型 胃 癌の 組 織 型の 内 訳は 、 高 分化 型 管 状腺 癌21 例 、 中 分 化 型 管 状 腺 癌15例 、 低 分 化 型 腺 癌16例 で あ っ た 。LOHの 解 析 はYehら の 方 法 に従 い 、microsatellite marker D4S395を 用 いて 行 った 。 結果は 肝細胞癌26例中19例が informativeで あ り、 そ の うち8例(42.1%)に4qLOHが 認められ た。胃の 肝様腺癌 では7 例 中4例(57.1c70)に4q LOHが認 め ら れた 。 通 常型 胃 癌で は52例 中47例 がinformativeで あり 、 その う ち6例(12.8u/o)に4q LOHが 認め ら れた 。 肝 細胞 癌と通常 型胃癌で は4q LOH の頻 度 に統 計 学 的有 意 差が 認 め られ た 。 胃の 肝 様腺 癌 の4q LOHの頻 度は通常型 胃癌と比 べ有意 に高く、肝 細胞癌で の頻度と 同等であ った。ま た通常型 胃癌の組織 学的分化 度に関 して、4q LOHは 高分化型管 状腺癌で は認めず 、中分化 型管状腺 癌では14例中2例(14.3 u/o) に、 低 分化 型 腺 癌で は15例 中4例(26.7 a/o)に認 められた 。stageIの24例で は4q LOHを認 めず、stage II以上のものは23例中6例(26.1%)に認められ、両者の間に統計学的な有意差 が認め られた。ま た、静脈 侵襲がな かった35例 中、4qLOHが認 められた のは2例(5.7%)
であ っ たが 、 静 脈侵 襲 があ っ た12例 で は、 う ち4例(33.3U/o)に4q LOHが 認められ 、統計 学的な有意差を認めた。
之 敬
則
紘
和
藤 木
江
野
加 吉
小
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
本研究では、肝様腺癌では肝細胞癌と同等の頻度で4q LOHが観察された.肝細胞癌類 似性を示さない通常型胃癌での4q LOH出現頻度は胃の肝様腺癌での出現頻度に比べて有 意に低く、4q LOHは肝様腺癌の肝細胞癌類似性に関与している可能性が示唆された。な お、4qの遺伝子座に癌抑制遺伝子の報告はなく、また肝細胞類似性を示さない癌の4qLOH の報告も殆どないことから、4qLOHは発癌や癌進展よりも、肝細胞類似性に関与してい る可能性が考えられる。また本研究では、通常型胃癌でも低頻度ながら4q LOHが観察さ れた。分化度が低くなるほど4q LOHの頻度が増加する傾向が認められた。また病期や静 脈侵襲で示される癌の悪性度との関連が高いことも示唆された。今回の解析はD4S395と いうーっのmicrosatellite markerに限定したもので、各症例ごとの染色体上の遺伝子欠損 領域の 広がりにっ いては情報 が得られな かった。同 じようにD4S395領域のLOHを含ん でいても、肝様腺癌と通常型胃癌では遺伝子欠損領域の広がりが異なっている可能性が考 えられる。今後、使用するマーカーの数を増やし、腺癌の肝細胞癌類似性獲得に関わる遺 伝子群をさらに絞り込んでゆく必要があると考えられた。
口頭発表において、吉木教授より4q LOHの詳細な解析,さらにその領域に認められる と考えら.れる癌抑制遺伝子の特定,網羅的な既知の遺伝子検索の必要性,肝様腺癌の培養 株の樹立やその分析の必要性について質問があった。っいで小野江教授より肝様腺癌の実 際の頻度、その診断基準、産生しているAFPのtype、肝細胞癌の悪性度との関連性、4q LOH によってどのような現象,影響が細胞に現れるかについて質問があった,また加藤教授よ り胃の低分化型腺癌と肝様腺癌の関連,肝細胞癌との類似性の根拠にっいて,さらに,近 い将来,LOH検索が肝様腺癌に対する手術適応を判断する情報になり得るかについて質 問があったが、申請者はおおむね妥当按回答をした,
今回の4q LOHの検索によって肝様腺癌が肝細胞癌類似性に強く関与していること、ま た通常型胃癌の悪性度の示標として有用であることが示唆された本研究の意義は大きく、
審査員 一同協議の 結果、本論文は博士(医学)の学位授与に値するものと判定した.