博 士 ( 医 学 ) 岩 井 和 浩
学 位 論 文 題 名
Importance of E‑Selectin (ELAM‑ 1) and Sialyl Lewisa in the Adhesion of Pancreatic Carclnoma Cells to Activated Endothelium
(膵癌細胞の活性化血管内皮細胞への接着における E セ レク チ ンと シ アリ ル ルイ ス A の重要 性)
学 位 論 文 内 容 の 要旨
I. 目 的
癌 細胞と血管内皮細胞の接着は 癌の血行性転移において重 要な段階のひとっであり,生 体内にお ける 転移能と関係している。炎症 のある場所では血管内皮細 胞は炎症性サイトカインによ り活性化 され ,多核自血球やりンパ球は活 性化血管内皮細胞に接着し たのち組織内に侵入する。同 様に内皮 細胞 の活性化はメラノーマ,白血 病,骨肉腫,大腸癌などの 腫瘍細胞株の接着に関与して おり,サ イト カインによるその調節は,炎 症の場における癌転移の増 加に重要と考えられている。 大腸癌株 では ,活 性化 血 管内 皮細 胞と の接 着 に後 者のE‑selectinと 前者のSialyl Lewisa(以下SLe^)が 関与 していることが示されている 。膵癌は予後不良であり, 肝への血行性転移がそのひと っの理由 であ る。 大部 分 の膵 癌は 膵管由 来であり,しばしばCA19‑9と いうかたちで,SLe゜抗原を 産生して いる 。そこでこれらの表面抗原が 膵癌細胞と活性化血管内皮 細胞との接着に関与している かどうか を明 らか にす る ため に検 討を おこ な った 。
II. 方 法
膵癌細胞株 として,独自に樹立した管状腺癌由来ヒト膵癌細胞培養株PCI‑6,10,19,24,35,43を 用 いた 。血 管内 皮 細胞 はヒ ト臍 帯を 酵 素処 理の うえ分離した 。血管内皮細胞の同定はFactorWIの 螢光染色にて 確認した。サイトカインと してinterleukinl‐声(以下IL1ーp)およびtumor necrosis factor‑a(以 下TNF‑ a)を用いた。
(1) 膵 癌細 胞お よび 血 管内 皮細 胞の 表面 抗 原の発現とILl‑ロ,TNF‑aによる調節を検 討した。
細胞表面 抗原の測定には間接フロー サイトメトリー法を用いた。
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(2)膵癌細 胞の血管内皮細胞への接着 を形態学的に観察した。
(3)膵癌細 胞の血管内皮細胞への接着 を定量的に検討した。定量に はク口ム放出法を用いた。さ ら に 膵 癌 細 胞 , 血 管 内 皮 細 胞 の 表 面 抗 原 と の 関 連 に っ き 検 討 し た 。 (4)膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 に 対 す る 接 着 の 温 度 依 存 性 を 定 量 的 に 検 討 し た 。
(5) 膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 に対 する 接着 の111‑p,TNF‑a濃 度依 存性 ,時 間依 存 性, 相乗 効果に っき検討した。
(6)膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 に 対す る接 着に 関 与す る細 胞表 面 分子 の単 クロ ーン 抗 体に よる blockingの影響を検討した。
m. 結 果
(1)膵癌細胞は6株ともにintercellular adhesion molecule‑l (ICAM‑1),lymphocyte‑function‑
associated antigen‑3 (LFA‑3)を発 現 して いた が,very late antigen‑4 (VLA‑4),LFA‑1 は発現していなかった。SLe ̄,SLe゜はPCI‑10,24,43のみに発現していた。SLe ̄,SLe^の発 現 はILl‑ロ ,TNF‑nによ り影 響 を受 けな かっ た。 血 管内 皮細 胞はICAM‑1を発 現しており,
ILl‑ロ,TNF‑ a24時間処理により発現が増 加したが,4時間処理にては 変化を受けなかった。
E‑ selectin,vascular cell adhesion molecule‑l (VCAM‑1)はILl‑ロ,TNF‑a処 理を し て いな い血 管内 皮細 胞 上に は発 現し て いな かっ た。VCAM‑1は4時 間 処理で軽 度発現し,24 時 間処 理で さら に発 現 が増強した。E‑selectinは4時間処理で発現が最高とな り24時間処理 では発現は減 少し,48時間処理では発現は ほぼ消失した。
(2)膵癌細胞の血管 内皮細胞に対する接着を形 態学的に観察したところ,SLe ̄,SLe 陽性株であ るPCI‑24は ,ILl‑声 ,TNF‑a非 処 理 血 管 内 皮 細 胞 に 比 べ てILl‑ロ ,TNF‑a処理 血 管内 皮 細胞に対し多 くの細胞の接着が観察された 。
(3)膵癌細胞は6株ともに 血管内皮細胞に対し接着し たが,ILl‑声,TNF‑ロ処理し た血管内皮細 胞に対してはSLe ̄,SLe 陽性株であるPCI・10,24,43の3株のみ接着が有意 に増加した。
(4)膵 癌 細 胞 の111‑p,TNF‑ロ 処 理 血 管 内 皮 細 胞 へ の 接 着 の増 加 は温 度非 依存 性で あ った 。 (5)膵癌 細胞 の 血管 内皮 細胞 への 接 着に 対す るILl‑ロ ,TNF‑aの濃度依存性を検討 したところ,
IL‑1ロ で25u/mP,TNF‑aで50u/Mで 最 高 と な っ た 。 ま た 時 間 依 存 性 を 検 討 し た とこ ろ ILl‑p,TNF‑a処 理4時 間 後 で 最高 とな り ,24時間 後で は接 着 の低 下を 示し た。 こ の結 果 は血管内皮細 胞上のE‑selectinの発現と相 関していた。
(6)膵 癌細 胞 のILl‑ロ ,TNF‑a処理血管内皮細胞に対 する接着は抗E―selectin抗 体にてほぼ完 全に阻害された。また ,抗SLe ̄抗体にては阻害さ れなかったが,抗SLe^抗体 にて接着は有 意に阻害され た。
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IV. 考 察
本研 究にお いて,SLe /SLe゜陽 性膵癌 細胞株 はILl‑ロ,TNF‑ゼ処 理血管内皮細胞に対し接着の 増強 を示した 。種々 の細胞 接着分 子の発 現の程 度,接着の時間及びサイトカイン濃度依存性,温度 非依 存性など の解析 から接 着に血 管内皮 細胞上 のE‑ selectinと膵癌細胞上のSLe /SLe ̄が関与し てい ることが 示唆さ れた。 抗E‑selectin抗 体が接 着の増加を完全に阻止したことは,より直接的に E‑selectinの 関与を 示して いる。抗SLe ̄抗 体は接 着を阻止しなかったが,抗SLe^抗体は部分的に 接着 を阻止し た。膵 癌細胞 のSLe ̄とSLe^の発現量の違いや,SLe ̄とSLe^のE‑ selectinへの親和 性の 違いなど がこの 現象に 関与している可能性が考えられる。SLe゜は膵癌をはじめとする消化器癌 に多 く出現 するCA19‑9の抗原 決定基 である。 多くの 膵癌患 者の血 清中に 溶存型 のCA19‑9がみ いだ され る。血清CA19‑9値が 高い場 合には 細胞表 面上のCA19―9の発現も高いことが予測され,SLe゜/
E‑selectinを 介した 癌細胞 の血管内 皮細胞 への接 着が,膵癌細胞の血行性転移を規定する重要な因 子 であ る 可 能 性が あ る 。 細胞 接着の 増加にはILl‑ロ,TNF‑aが必要 であっ た。こ のこと は.さ ま ざま なサイト カイン が局所 的に産 生され ている 炎症部位に腫瘍細胞の転移が多いという古典的な観 察を説明している。時間依存制の検討では,単一のサイトカイン処理では血管内皮細胞上のEーselectin の発 現は4時 間以後低 下し, 膵癌細 胞株の 接着も サイト カイン 未処理 のレベルまで低下した。しか し, サイトカ インを 混合し た検討 では血 管内皮 細胞上のE‑selectinの発現および細胞接着は延長し た。 生体内に おける 炎症の 部位で はサイ トカイ ンは複数で存在し,血管内皮細胞上のE‑selectinの 発現 も4時間 以上継続 すると 考えら れ,慢 性炎症 の場で もE‑selectinの 恒常的な発現が明らかにさ れて いる。一 方,ヒ ト癌細 胞株の中には,サイトカインを産生するものもあり,SLe^陽性膵癌細胞 自身 がサイト カイン を産生 し,局 所的に 血管内 皮細胞を活性化しE‑selectin7SLe^抗原結合を介し て血行性転移に関与する可能性も考えられる。
V. 結 語
膵 癌細胞 と活性化 血管内 皮細胞 との接 着はサ イトカインによる調節を受けており,膵癌細胞上の SLe゜ と血管内皮細胞上のE‑ selectinを介している。これらの接着分子の発現は膵癌細胞の血行性転 移に おいて 重要な 因子で ある可 能性が ある。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Importance of E‑Selectin (ELAIVI‑ 1) and Sialyl Lewisa in the Adhesion of Pancreatic Carclnoma Cells to Activated Endothelium
( 膵 癌 細 胞 の 活 性 化 血 管 内 皮 細 胞 へ の 接 着 に お け る Eセ レ ク チ ン と シ ア リ ル ル イ スAの 重 要 性 )
癌 細 胞 と 血 管 内 皮 細 胞 の 接 着 は 癌 の 血 行 性 転 移 に お い て 重 要 な 段 階 の ひ と つ で あ り , 生 体 内 に お け る 転 移 能 と 関 係 し て い る 。 炎 症 の あ る 場 所 で は 血 管 内 皮 細 胞 は 炎 症 性 サ イ 卜 カ イ ン に よ り 活 性 化 さ れ , 多 核 自 血 球 や り ン パ 球 は 活 性 化 血 管 内 皮 細 胞 に 接 着 し た の ち 組 織 内 に 侵 入 す る 。 同 様 に 内 皮細 胞の 活性 化は メラ ノー マ,
自 血 病 , 骨 肉 腫 , 大 腸 癌 な ど の 腫 瘍 細 胞 抹 の 接 着 に 関 与 し て お り , サ イ 卜 カ イ ン に よ る そ の 調 節 は , 炎 症 の 場 に お け る 癌 転 移 の 増 加 に 重 要 と 考 え ら れ て い る 。 大 腸 癌 株 で は , 活 性 化 血 管 内 皮 細 胞 と の 接 着 に 後 者 のE―selectinと 前 者 のSialyl Lewis ( 以下SLe^ )が 関与 して いる こと が示 され てい る 。膵 癌は 予後 不良 であり , 肝 へ の 血 行 性 転 移 が そ の ひ と つ の 理 由 で あ る 。 大 部 分 の 膵 癌 は 膵 管 由 来 で あ り , し ば し ばCA19−9と い う か た ち で ,SLe゜ 抗 原 を 産 生 して いる 。そ こで これ らの 表面 抗 原 が 膵 癌 細 胞 と 活 性 化 血 管 内 皮 細 胞 と の 接 着 に 関 与 し て い る か ど う か を 明 ら か に する ため に検 討を 行っ た。
実 験 方 法 と し て は , 膵 癌 細 胞 と し て , 独 自 に 樹 立 し た ヒ 卜 膵 癌 細 胞 培 養 株PCI― 6,10,19,24,35,43を , 血 管 内 皮 細 胞 は ヒ 卜 臍 帯 を 酵 素 処 理 の 上 , 分 離 し 使 用 し た 。 サ イ 卜 カ イ ン と し てILーlB及 ぴTNF‑ゼ を 用 い た 。 膵 癌 細 胞 , 血 管 内 皮 細 胞 の 表 面 抗 原 の 発 現 とIL―1ロ ,TNF‑aに よ る 調 節 , 膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 へ の 接 着 の 形 態 学 的 観 察 , 膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 へ の 接 着 の 定 量 的 検 討 , 膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 に 対 す る 接 着 の 温 度 依 存 性 の 検 討 . 膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 に 対 す る 接 着 のIL―1声 ,TNF‑a濃 度 依 存 性 , 時 間 依 存 性 , 相 乗 効 果 の 検 討 , 膵 癌 細 胞 の 血 管 内 皮 細 胞 に 対 す る 接 着 に 関 与 す る 細 胞 表 面 分 子 の 単 ク ロ ー ン 抗 体 に よ る blockingの 影 響 の 検 討 を 行 っ た 。 そ の 結 果 , 膵 癌 細 胞 は6株 と も にICAPIー1を 発現 ー96―
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査 査
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していたが,VLA ―4 ,LFA ー1 は発現していなかった。SLe ,SLe ゜はPCI ー10 ,24 .43 のみに発 現していた 。血管内 皮細胞はICAM −1 を発現しており,IL →1 ロ,TNF‑a 処 理により発現が増加した。E −selectin ,VCAM −1 はIL ―1 ロ,TNF‑a 処理をしていな い血管内 皮細胞上に は発現し ていなか った。E ― selectin は4 時間処理で発現が最 高となり 24 時間処理で は発現は 減少し, 48 時間処理 では発現はほば消失した。膵 癌細胞の血管内皮細胞に対する接着の形態学的観察では,SLe  ̄,SLe  ̄陽性株であ るPCI ―24 は,IL ―1 ロ,TNF‑a 非処理血管内皮細胞に比べてIL −1 ロ,TNF‑ ゼ処理血 管内 皮 細胞 に対し多 くの細胞 の接着が 観察され た。膵癌細 胞は6 株と もに血管 内 皮細胞に対し接着したが,IL −1 ロ,TNF ーゼ処理した血管内皮細胞に対してはSLe , SLe °陽性株であるPCI →10 ,24 ,43 の接着が有意に増加した。膵癌細胞のIL ―1 ロ,
TNF‑a 処理 血管内 皮細胞へ の接着の 増加は温 度非依存 性であった 。膵癌細 胞の血 管内 皮 細胞 への接着 に対する II 」‑1 ロ,TNF‑a の 濃度依存 性を検討し たところ , IL ―1 ロで25u/ml ,TNF ーぱで 50u/ml で最高となった。また時間依存性を検討したと ころIL ー1 声 ,TNF‑ ゼ処理4 時 間後で最 高となり , 24 時間後 では接着の低下を示し た。この 結果は血管 内皮細胞 上のE −selectin の発現と相関していた。膵癌細胞の IL −1 ロ,TNF‑a 処 理血管内皮 細胞に対する接着は抗E ―selectin 抗体にてほば完全 に阻害された。また,抗SLe 抗体にては阻害されなかったが,抗SLe 抗体にて接 着は有意 に阻害され た。本研 究におい て膵癌細 胞と活性 化血管内皮細胞との接着 はサイ卜 カインによ る調節を 受けており,膵癌細胞上のSLe と血管内皮細胞上の E ―selectin を介し ていること が判明した。これらの接着分子の発現は膵癌の血行 性 転 移 に お ぃ て 重 要 な 因 子 で あ る 可 能 性 が あ る と 考 察 さ れ た 。 口 頭発 表に おいて葛 巻暹教授 よりSLe 抗 原の発現 と予後,肝 転移との 関連,
SLe ^,SLe  ̄の発現量と細胞接着との関連,SLe ,SLe 発現調節因子としての糖転 移酵素に ついて,武 市紀年教 授より生体内におけるE ーselectin の発現状況,細胞 外基質と 膵癌細胞の 接着につ いて,小林邦彦教授より膵癌患者血清中のCA19 −9 と 膵癌 細 胞表 面SLe の発 現の関連 について , E ―selectin に対 するCA19 −9 によ る blocking の可能性 について, 細胞接着に及ばす抗SLe 抗体の効果,膵癌細胞表面 分子 の 酵素 処理の影 響につい て,西信 三教授よ り膵癌患者 血清中CA19 ― 9 と膵癌 細胞表面SLe の発現の差異について,血液型物質Lewisd ・b 一患者の予後,に関して 質問 が あっ た が ,申 請 者は お お むね 妥 当な回答 をした。ま た,葛巻 暹,武市 紀 年両教授には個別に審査をいただき、合格と判定された。
膵癌細胞と活性化血管内皮細胞の接着におけるSLe とE ―selectin の関与につい て検討した本研究の意義は大きく、本論文は博士(医学)の学位授与に値するもの と考える。
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