九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
中国におけるシビックプライド醸成のための国際ス ポーツイベントのデザイン方法
張, 毅
https://doi.org/10.15017/1928633
出版情報:Kyushu University, 2017, 博士(芸術工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
博士論文
中国におけるシビックプライド醸成のための 国際スポーツイベントのデザイン方法
張 毅
2017 年
目次 1
目 次
第1章 研究の目的と構成 ... 1
1.研究の背景と目的 ... 2
2.既往の関連研究 ... 6
2.1 都市ブランドと都市文化に関する既往研究 ... 6
2.2 国際スポーツイベントとソーシャル価値に関する既往研究 ... 8
2.3 社会教育・心理的行動誘導に関する既往研究 ... 11
3.研究の方法及び論文の構成 ... 14
3.1 研究の方法 ... 14
3.2 論文の構成 ... 15
注・参考文献 ... 18
第2章 中国におけるシビックプライドの認識 ... 22
1.本章の目的と構成 ... 23
2.欧米のシビックプライドの概念について ... 24
2.1 都市ブランド、都市再生における認識 ... 24
2.2 「市民意識の育成」社会教育 ... 28
2.3 まとめと考察 ... 29
3.シビックプライドとスポーツイベントについて事例検討 ... 30
3.1 事例検討—その1:1992年バルセロナオリンピック ... 30
3.2 事例検討—その2:2012年ロンドンオリンピック ... 33
3.3 まとめと考察 ... 37
4. 中国におけるシビックプライドの概念について ... 38
4.1 「忠」と「孝」、「ハーモニー」についての認識 ... 38
4.2 都市再生・社会再生において「都市の誇り」の認識 ... 39
4.3 中国人における「都市に対する誇り」認識の調査 ... 42
4.4 まとめと考察 ... 44
5.欧米と中国とのシビックプライド概念の比較及びデザイン方法の仮説 .... 46
5.1 欧米と中国とのシビックプライド概念の比較 ... 46
5.2 中国におけるシビックプライド醸成のための国際スポーツイベントの デザイン方法の仮説 ... 49
注・参考文献 ... 52
第3章 2010年広州アジア競技大会開催現状調査 ... 55
1.本章の目的と構成 ... 56
2.開催地「広州」のイメージ ... 57
2.1 自然環境 ... 57
2.2 歴史 ... 58
2.3 文化 ... 59
目次 2
2.4 都市構造 ... 62
2.5 まとめと考察 ... 63
3.広州大会の開催前の「都市宣言」 ... 64
4.広州アジア大会全体のアイデンティティプロジェクト計画書 ... 66
5.本章のまとめと考察 ... 68
注・参考文献 ... 70
第4章 広州アイデンティティイメージ形成のための ... 72
広州大会の「ものづくり」 ... 72
1.本章の目的 ... 73
2.広州大会宣伝のための「ベーシックイメージ」 ... 74
2.1 エンブレム ... 74
2.2 マスコット ... 75
2.3 イベントマーク ... 76
2.4 ポスター ... 77
2.5 まとめと考察 ... 78
3.大会向けの都市景観イメージ ... 80
3.1 色彩計画 ... 80
3.2 大会の都市景観イメージと自然景観との融合 ... 81
3.3 都市景観イメージと生活空間の美化 ... 82
3.4 まとめと考察 ... 85
4.大会の開幕式 ... 86
4.1 ランドマーク ... 86
4.2 「出航する」開会式 ... 87
4.3 まとめと考察 ... 91
5.広州大会後の評論及び新聞報道 ... 92
6.2016年広州大会の認識調査 ... 94
6.1 調査項目と選択肢の選定 ... 94
6.2 調査方法 ... 96
6.3 調査分析 ... 96
6.4 調査のまとめと考察 ... 102
7.「ものづくり」による市民の共感を構築する方法に関する考察 ... 109
7.1 国際スポーツイベントの「ものづくり」のまとめと考察 ... 109
7.2 「ものづくり」による市民の共感を構築する方法 ... 111
注・参考文献 ... 114
第5章 市民意識行動形成のためのしくみづくり ... 117
1.本章の目的と構成 ... 118
2.広州大会を知らせる ... 119
2.1 「広州大会、アジアへ行く」キャンペーン ... 119
2.2 「広州大会、中国へ行く」キャンペーン ... 120
2.3 「広州大会、広州で」キャンペーン ... 121
2.4 まとめと考察 ... 125
3. 都市ホストとしての応援と行動 ... 127
目次 3
3.1 ホストとしての責任 ... 127
3.2 ホストとしての行動—ボランティア ... 128
3.3 まとめと考察 ... 131
4. 広州大会のエンターテイメント ... 134
4.1 「テーマ曲」と「皆んなの歌」 ... 134
4.2 フィットネスと自発的なメッセンジャー ... 135
4.3 無料体験と写真展 ... 137
4.4まとめと考察 ... 138
5.市民意識行動形成経緯としくみづくりを構築する方法に関する検討 ... 140
5.1 市民意識行動形成経緯について ... 140
5.2 市民意識行動形成のしくみ・構築について ... 145
注・参考文献 ... 149
第6章 国際スポーツイベントのための「もの」・「ば」・「こと」づくり の役割と効果による「ひと」づくりの提案 ... 151
1.本章の目的 ... 152
2.「ものづくり」と市民意識行動との関係に関する考察 ... 153
2.1 「ものつくり」による市民が都市に対する誇りについて ... 154
2.2 「民」が「官」を応援する行動意識形成しくみについて ... 158
3.「もの」・「ば」・「こと」の役割と効果による「ひと」づくりの提案 ... 162
4.シビックプライド醸成のポイント ... 167
注・参考文献 ... 173
第7章 研究のまとめ ... 174
1.研究のまとめ ... 175
2.今後の課題と展望 ... 178
注・参考文献 ... 180
付録1.中国人における「都市に対する誇り」認識の調査票 ... 181
付録2.2010年広州大会の認識調査票 ... 182 謝 辞
第1章 研究の目的と構成
1.研究の背景と目的 ... 2
2.既往の関連研究 ... 6
2.1 都市ブランドと都市文化に関する既往研究 ... 6
2.2 国際スポーツイベントとソーシャル価値に関する既往研究 ... 8
2.3 社会教育・心理的行動誘導に関する既往研究 ... 11
3.研究の方法及び論文の構成 ... 14
3.1 研究の方法 ... 14
3.2 論文の構成 ... 15
注・参考文献 ... 18
第1章 研究の目的と構成 2
第1章 研究の目的と構成 1.研究の背景と目的
シビックプライドは、イギリスが 18 世紀大規模な都市化を経験した 際に発生した概念である。自治による公民社会から成り立ち、自治の感 覚に基づくプライドは都市形成の本質といわれる。1970 年代以降、イギ リスの都市はインフラの老朽化、経済の低迷の時期、人口や企業の流出 など問題の中シビックプライドの概念は 1998 年ブレア政権が発表した
「アーバン・ルネサンスに向けて」という「提言書」に再び新たな都市 再生・社会再生と共にもたらされた。「提言書」では「わたしたちのま ちには多くの誇るべきものがある」、都市再生は何よりもまず「人」の ためであると謳われ、「シビックプライドに根ざした市民の行動が現代 の都市再生の中心にある」と述べた1。イギリスの都市は多くの誇るべき ものをシンボル化し、シティプロモーション活動は欧米の多数の国々に 展開された。
シビックプライド醸成のシティプロモーション活動の先行研究とし てオリンピックの事例調査を行った。オリンピック開催する際には「世 界の 200 以上の国・地域から選手や大会関係者が参加するほか、多数の 観客が開催都市を訪れる。さらに、テレビ配信等を通じて約 48 億人が 観戦すると言われており、世界中の人々に開催都市及び国の魅力を伝え る絶好の機会となる」3。また、開催期間中に人々を集め、コミュニティ を構築する社会再生の機会でもある。1992 年バルセロナオリンピックは 都市再生の際に開催し都市の魅力を世界中に伝え、市民の福祉のための 都市建設、市民の参画意識を呼び起こし、開催を機にシビックプライド を醸成する可能性を示した。しかし、2004 年アテネオリンピックの開催 では、アテネが古代オリンピックの発祥の地であり、近代オリンピック 1896 年第1回の開催地であるため、108 年後にオリンピックの故郷に戻 ったという誇りがある一方で、新しい空港や地下鉄、競技場などの大規 模なインフラ整備が現在まで国民の経済負担となっている4。どのように
第1章 研究の目的と構成 3
国際スポーツイベントを開催することで、国民のプライド感を持ち上げ られるか、そして開催都市の持続発展に結びつくかの課題が残る。
一方、シビックプライドは、中国語での直訳の概念表現はないが、中 国では欧州のような都市国家の「自治」と違って、古代から広い国土を
「家国一体」の中央集権で統治し、都市間の戦争を避ける為、都市の「自 治」より「国」が臣民の中心であり、臣が「国」を守ることこそ民の「家」
ができるという一体感の価値観で3千年を超えて統一の領土を維持し てきた。歴史研究資料によると5、「中国の漢の時代から 2000 都市があり、
都市毎には何十万人も人々がいたが、都市を管理する臣や役者の人数が 極めて少なく、都市には軍隊、警察がなく、社会の秩序の安定には同郷 会や教会や宗教などの教化の力や伝統社会の民間相互補助しあうとい う組織で、中国の社会制約の体系の一種となった。中国の伝統社会にお いて文化人類学の視点から、儒教の“仁義忠孝”といった教義は政治の 役割に相当すると」述べた。つまり、このように中央政権は民が自治に より「仁義忠孝」等の思想で「民を教化する」という教義であり、これ により「家」「国」の安定をさせ統一してきた歴史があった。国家の各々 の都市の自治より「国」が臣・民の中心であり、臣が国家に対する「忠」
民が親に対する「孝」によって、社会を安定させ、国を支えるという「忠・
孝」が「臣・民」の社会意識で、「忠・孝」の感覚に基づくプライドは 国形成の本質でいえる。以上のように「自治」が公民社会にいる欧米人 の誇りであるなら、「仁義忠孝」は、中央政権にいる古代中国人の誇り であると考えられる。
現代の中国においては、「シビック」は「公民」に通訳され、法律の 意味では、中華人民共和国国籍を持つ人が「中国公民」と呼ばれている。
小中学校や大学教育体系にある「公民教育」と「公民資質」、「愛国教育」
で頻繁に現れる6。「プライド」では、中国語の意味に近い「誇り」であ るため、「シビック」と「プライド」とつなぐ「シビックプライド」と いう概念は、「中国公民の誇り」「中国公民としての誇り」「中国に対す
第1章 研究の目的と構成 4
る公民の誇り」という理解が考えられる。「シビックプライド」は上記 のようにイギリスの大規模な都市化を経験した際に発生し、都市再生に 向けた際に再び提唱した概念である。本研究において 1998 年から中国 の大規模な都市化7を経験する背景はイギリスと共通で、都市再生・社会 再生とは、何によりもまず「人」のためであるとの認識は、欧米や中国 でも認められている。つまり、欧米ではインフラの老朽化、経済低迷、
医療負担、老齢化という点、また中国では都市化の初期段階の経済高速 発展に伴い多くの外来人口が都市に入り都市の中心から郊外への都市 開発の現状、経済競争で市民階級の貧富差の不安や外来人口が都市に入 ることによる市民資質向上の点で、都市再生では、社会再生に向けた市 民のための安心安定な都市で活力がある都市づくりが市民や行政が望 んでいることであるといえる。そのため、本研究は都市再生・社会再生 の視点から、「シビックプライド」の概念を「都市に対する市民の誇り」
と規定し、都市と市民の関係性について考察する。
1980 年からの中国改革開放の政策につき中国が高速発展と共に、多く の地域が都市化に入り都市間の競争が強くなっただけでなく、他都市と 違った独自の文化を発見しようと、都市として自慢できるモニュメント や、偉人や、名物や、産業や、観光資源などを行政が都市のプライドと してつくりあげた。このような自信の中の一つとして 2008 年北京オリ ンピックの開催成功により、国が強くなり、国の独自の文化を世界に伝 え、中央政府が大型イベントをコントロールできるという能力もアピー ルした。その後、国際スポーツイベントの招致開催により、開催都市の 都市プロモーションとして、中国で多数の国際イベントが盛えた。また、
国際スポーツイベントは開催都市の地方政府が開催のための独自の文 化を取り戻し、競技場などインフラ建設、国際的レベルのホスピタリテ ィを向上する機会として、イベントに向け都市の魅力や新た都市イメー ジを来訪者や市民に伝える機会として考えられていた。しかし、国際ス ポーツイベントはあくまで短時間の開催であり、2004 年アテネオリンピ
第1章 研究の目的と構成 5
ックのように開催前では大会に際して建設された新しい空港が 2004 年 のヨーロッパ最優秀空港など数々の賞を受賞しても、開催後の財政負担 は国民に喜ばれないものであった。
また、オリンピックは主に国の意志を表す中央政府がコントロールし ながら開催都市が主催する大会であり、本研究におけるシビックプライ ドの概念である都市と市民の関係性において、開催都市の地方政府(官)
と市民(民)に関わる都市プロモーションとして着目して研究を行う。
そのため、2008 年北京オリンピックの以後に行われた、都市再生・社会 再生を目指した 2010 年広州アジアスポーツ競技大会8、(以下は広州大会 に略)の例をあげる(広州大会は広州市市長が代表者として広州市政府 が主催運営し、省と国の協力で主催する大会である)。
本研究は、欧米「自治」の公民社会と違った中国の地方政府(官)が 主導する国際スポーツイベントにおけるシビックプライド醸成のため に、開催地アイデンティティのイメージ形成と市民意識行動の形成に果 たす役割と効果について考察し、その計画・設計時点でのデザイン方法 を導くことを目指している。広州大会開催の5年前の準備段階のデザイ ン方法を考察し、「官」がどのように都市の魅力を「民」に伝え、都市 化の最初段階の都市インフラ建設の現状からどのように「民」のために 新たな都市のアイデンティティイメージを創り上げるかについて検討 する。そして、より多くの「民」が大会に関心をもち、応援、体験する までの意識行動についてのしくみづくりを考察し、開催5年後の役割と 効果を検討する。最終的には、次の5年及び未来における開催地のシビ ックプライド醸成のため、都市の市民が誇りを持ち調和の社会となる
「官・民」共創型の都市プロモーションのデザイン方法を探求すること が研究目的である。
これにより、今後シビックプライド醸成のための国際スポーツイベン トの開催企画、そして計画・施策(デザイン)の一助にしようとするも のである。
第1章 研究の目的と構成 6
2.既往の関連研究
本研究は、国際スポーツイベントにおけるシビックプライド醸成のた めに、開催地アイデンティティのイメージ形成と市民意識行動の形成に 果たす役割と効果について考察し、その計画・設計時点でのデザイン方 法を導くことを目指している。しかし、国際スポーツイベント等のシビ ックプライド醸成のための研究は少なく、部分的にはいくつかの研究が あるが、体系的にまとめられたものはない。特に、国際的スポーツイベ ント開催地のアイデンティティデザインや市民意識行動を誘導するコ ミュニケーションデザインの研究は、デザイン学における研究報告は極 わずかである。そこで本研究の既往研究は、シビックプライド醸成に直 接的にかかわってきた都市ブランドと都市文化、国際スポーツイベント、
社会教育・心理的行動プロセスを含めて検討を進める必要がある。
そのため、まず「都市ブランドと都市文化に関する既往研究」と「国 際スポーツイベントとソーシャル価値に関する既往研究」と「社会教 育・心理的行動誘導に関する既往研究」の三つの既往の関連研究につい て述べる。
2.1 都市ブランドと都市文化に関する既往研究
シビックプライド醸成に関連する都市ブランドと都市文化に関する 既往研究として Simon の説は9、都市アイデンティティの最高の目標は市 民の誇りを育て、シビックプライドを形成することである。Keith10の都 市ブランドの最終的な成果は、市民が都市に対する愛着、満足、所属感、
参画感を高揚することである。余明陽は11、市民の公徳心や市民の公共 素質は都市文化の外在的な表現であると述べている。いずれも、シビッ クプライドが都市ブランド、都市形成に重要な役割を示したが、どのよ うな都市計画・設計に結びついたデザイン方法が有効であるのかについ ては言及していない。
伊藤と紫牟田は12、欧州及び日本の多数の都市プロモーション活動の 事例を紹介し、シビックプライド醸成のあり方(都市のコミュニケーシ
第1章 研究の目的と構成 7
ョンをデザインする九つのポイント:広告、キャンペーン/ウェブサイ ト、映像、印刷物/ロゴ、ビジュアル・アイデンティティ/ワークショ ップ/都市情報センター/フード、グッズ、フェスティバル、イベント
/公共空間/都市景観、建築)をあげた。更に、杉本13は、欧州都市の 事例研究と並行して、日本におけるシビックプライドのありかたを探し、
シビックプライド・プレリサーチを行った。本研究において彼等の研究 から、シビックプライド醸成のために、人と都市とのコミュニケーショ ンのあり方や地方によって都市を誇る要因が違うとの示唆を得た。しか し本研究の広州大会の例では主に一都市に根ざして行う国際スポーツ イベントのデザインプロジェクトには、伊藤と紫牟田の九つのポイント を含め、大会のためのロゴ(エンブレム)やグッズ(マスコット)と、
大会に向け新しく創る公共空間や都市建設(競技場、選手村)など国際 スポーツイベントの独自の「ものづくり」がある。また、大会のために 行う開催都市についての国内外向けの都市広告やオリンピズム精神を 広めるためのキャンペーンやボランティア応募などの特殊なコミュニ ケーション活動を行う。伊藤と紫牟田の研究は、多数都市の例で九つの ポイントの役割を示したが、上述のような一都市が主催する九つのポイ ントを含む「ものづくり」と多種類なコミュニケーション活動との関連 性までは言及していない。
Lewis の説は14、都市社会学の角度から、「都市は文化の容器」「容器 に載せた生活が容器そのものより重要である」と主張した。都市の根本 的な機能は文化の累積、文化の創造だけでなく文化の継承及び教養にも あるのかと主張である。その効果を「文化機関とした都市の教育作用」
とLewisが称した。さらに、山崎は15、地域文化の歴史的発展過程を、「地
域が文化を作る」「地域で文化を作る」「地域を文化が作る」の3段階で とらえ、地域社会のまとまりや繁栄が文化活動によって支えられるとい う指摘をしている。しかし、これらの研究は国際スポーツイベントに関 する文化性や、文化を作るデザイン方法までは言及していない。
彼等の研究は本研究に対して、都市は市民を教育する場所であり、都
第1章 研究の目的と構成 8
市の文化は市民が創出した文化の累積であることを示唆している。つま り、地域の文化性は生かすか、育てるか、創造することが必要であると 考えられる。
2.2 国際スポーツイベントとソーシャル価値に関する既往研究
国際スポーツイベントを代表するオリンピックの研究には、主に経済 的な効果に関する研究が多く見られる。Michael は16、主にオリンピック は経済経営と開催都市ブランドの構築を増進すると強調した。Leo は17、 都市の持続可能な発展と経済利益の運営について述べた。オリンピック とシビックプライドに関する研究として、Ferran は18「1992 バルセロナ オリンピックの成功は、市民の未来福祉に関するインフラストラクチャ ー建設と市民の積極的な関与である」と述べた。更に、Juan は19「1992 バルセロナオリンピックが都市再生の契機」と述べ、オリンピックでは 都市の未来福祉のための基盤建設と市民の参加意識に重要性があると 示し、都市の持続発展には、オリンピックを機会に、常に地元の文化特 性を活かす多種のイベントを開催することがキーポイントであると指 摘した。一方で、事例研究ではデザインのプロセスまでは言及されてい ない。つまり広州大会の開催は都市プロモーションの一つであり、大会 後に常に都市を誇れる要素に基づく都市プロモーション活動が必要で ある。つまり、都市を誇れる要素を発見することの重要さが示唆される。
Simon は20「国際スポーツイベントは短期間で集中的にマスコミに注目 される絶好のチャンスだが、イベント自体が開催都市の実際のブランド イメージを向上することはない。開催都市が最も注意すべきことは、世 界中のマスコミに何を伝えたいのか、そして伝えたことをどう証明する かである」、「競争力あるアイデンティティの最高目標は、シビックプラ イドの醸成とあることでその動機をつける」とあるように、オリンピッ クは、シビックプライドを醸成する場の一つとして考えられている。一 方で市民に何をどのように伝えるのかについては示されていない。以上 より本論では、広州大会の開催は、世界と広州の市民に何を伝えるのか、
第1章 研究の目的と構成 9
都市のアイデンティティをどう生かすかを重要な課題としてとらえる。
さらに石坂は21、オリンピックの遺産の社会学から、イベントレガシ ー(イベント構造)より「1.インフラ;2.知識・技能の発達と教育;3.
イメージ;4.感情(イベントを開催したプライド、ローカルなアイデン ティティの創造);5.ネットワーク;6.文化」の六つの役割を指摘した。
また万暁紅は22、北京オリンピックが国家イメージを代表するイベント であると指摘する。王伝友は23、北京オリンピックの開催により中国の 国民に一体感がうまれるような社会価値についての研究がある。彼らは、
北京オリンピックの開催は中国・北京の文化を世界にアピールできるだ けでなく、中国国民の一体感が醸成されるなどの社会的価値ある役割に ついて指摘した。堀繁氏は24、スポーツが次のような特性を持ち、感動 という共通体験を中心に、人々をつなぐことができると指摘した。それ は、1.健康につながり、2.「する」「みる」あるいはボランティアなど 色々な参加のありかたが可能で、3.人とのコミュニケーションが取りや すく、まちにも集まりやすいという3点である。また、山口は25、社会 的効果とはコミュニティの再生、地域文化の創造、人材育成・青少年育 成など、個人的効果とは QOL の向上、自己実現・生きがいの発見、健康 増進などであるとしている。更に、池田氏は26、「コミュニティの復活(地 域コミュニティの活性化)」、「地域ブランド価値を高めることによる地 域イメージの変化」、「郷土愛(地元への自信の復活)」と指摘している。
彼らは社会学、体育学の観点からスポーツイベントのレガシーの役割 を示した。この社会的効果は、どのようなデザイン方法やコミュニケー ション方法が必要なのかの解明には結びついていないが、本研究におい ては、国際スポーツイベントを通して、人々をつなぐネットワーク、人 材育成、都市に愛着となる知見を得た。また、その社会的効果を具現化 するなら、スポーツイベントを通して、人と人が接するきかっけ、人と 都市と接遇ようなコミュニケーションづくりではないかと考えられる。
広州大会のデザインに関する研究は、主に大会開催前の 2010 年、と その後の 2011 年に見られれ、その研究内容は主に「広州大会と地域文
第1章 研究の目的と構成 10
化」、「開会式による市民の文化認識」、「広州大会と都市開発」、「広州大 会とボランティアの意義」等の広州大会とした地域文化、社会的価値と の関連研究である。それらは、本研究において広州大会のための「もの づくり」について、地域文化と広州大会のデザインエレメントとの関係 性を示し、大会に向けた新たな都市イメージを作るために都市開発や環 境整備などについて示唆している。また、広州大会で 56 万人のボラン ティアが大会を支えたことの意義が分かる(2022 年東京オリンピックは 9万人が想定されている27)が、なぜ広州大会にそれほどのボランティ ア人数を必要としたかについて、市民資質の向上、人々のコミュニティ づくり、調和の社会を目指すこととどのように関係するのかを解明する 必要があることを示す。
そして、本論と同じく広州大会の事例について言及した 2012 年張強28
「ビジュアルデザインによる地域アイデンティティ表出に関する研究—
2010 年広州第 16 回アジアスポーツ大会を事例として—」という題目の博 士論文は、地域アイデンティティのシンボル要素を広州大会のエンブレ ムに、地理風土要素を色彩計画に、民居スタイルのパーツをサイン装置 の本体デザインに生かすビジュアルデザイン手法を論じ、地域アイデン ティティをビジュアルデザインで表出する可能性について示した。しか し、彼の論には広州大会の開催は、開催都市の持続発展に対する役割と 効果までは言及していない。本論は、シビックプライド醸成の社会的効 果から、市民の共感、市民のための環境改善、街並みの多様性を構築し た都市再生のための「ものづくり」、市民行動意識を喚起するソーシャ ルデザインを論じるものである。
上記の既往研究には、国際的スポーツイベントの役割と効果において、
シビックプライド醸成の可能性を示唆している。しかし、シビックプラ イドを醸成するための「ものづくり」にあたる、市民が都市に対して誇 れる要素の選出におけるデザイン方法や、市民意識行動を喚起するしく みなどの具体的なプロセスについては言及されていない。
第1章 研究の目的と構成 11
2.3 社会教育・心理的行動誘導に関する既往研究
シビックプライドは「都市に対する市民の誇り」である。そのため、
市民の都市の出来ごとへの注意・関心から、都市を認め、都市に愛着を もつという感情が生まれるプロセスがあると考えられる。国際スポーツ イベントは行政が主催するプロモーション活動の一つでもあるため、市 民に対する社会広報が必要である。そのため、行政の社会広報の意図を いかに市民に伝えるかについて、「社会広報」に関する社会教育・市民 意識行動を誘導に関する心理的な視点から既往研究を行う。
アメリカの「真の公民」29は、18 世紀後半に小中学生在校生に向け、
偉人の話や社会貢献の教養書籍として発行されたが、本研究においては、
シビックプライドの醸成は、青少年からの教養であり、少年・青年・大 人・公民になるまで、家庭とコミュニティと国家に関係するなど、対象 者へ意識行動させるためのしくみが重要であるとの示唆を得た。
プライドは自己意識で、重要な感情の一つである。Weiner は30、感情 的な帰属の視点から出発し、プライドは個体が積極的な結果の帰属が、
自分にあてはまる際に生まれた感情と考えた。また、Lewis 氏31、プライ ドは個体が任務基準によって自分の行動結果に対して、評価された感情 の一種として考えている。Mascolo と Fischer の説は32、プライドは「自 分は社会価値がある人」と評価された際に生まれる感情であると定義し た。梁麗萍は33、「認める」とは個体と他人と感情連絡の原始的な形式で あるとした。社会学者のデュルケームは34、「認める」という概念を社会 学に導入し、「認める」は「集団意識」、あるいは「共通意識」の一種で あると指摘した。彼らは、心理的、社会学の解釈で「認める」、「共通意 識」の概念を定めた。
本研究において、広州大会は広州市行政が主催する都市の比較的大き な事業で、広州大会開催の際に、アジアの 45 ケ国の 10,156 人の選手が 来た35アジアの最大のスポーツイベントである。多国の代表団の官員と アスリート達を迎え、アジアの最高な競技試合を開催することは、開催
第1章 研究の目的と構成 12
都市にとっては誇るべき事業である。行政が主催する大会で、魅力的か つ安全で安定した都市イメージを諸国の来訪者に伝えべきである。また、
都市・国の名誉と行政のコントロールの能力を示すことのできる事業で ある。このような事業では市民が都市の「ホスト」であり、行政には市 民に開催都市の責任者の一員として認めてほしいという意図がある。そ のため、どのように行政と市民の共通意識を形成するかという点でどの ようなデザイン方法で行政の意図を市民に伝えるか、また、「ホスト」
としての誇りを感じてもらい、「ホスト」としての責任感を市民に伝え るか、さらに、都市で開催する大会を市民に応援してもらうに至るため のデザイン方法を解明する必要があると考えた。
そして、行政の意図を市民に伝えるにあたっての市民の意識行動誘導 のプロセスを明らかにするため、広告宣伝に対する消費者の心理のプロ セスを考察した。
1920 年アメリカ広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスに AIDMA
(アイドマ)の法則がある36。それは、「1. Attention(注意) 2. Interest
(関心) 3. Desire(欲求) 4. Memory(記憶) 5. Action(行動)」
略語 AIDMA(注意・関心・欲求・記憶・行動)である。インターネット の時代に入り、日本株式会社電通が提唱、2005 年 6 月に商標登録、新し いプロセスとして「1. Attention(注意) 2. Interest(関心) 3. Search
(検索) 4. Action(行動) 5. Share(情報共有)」略語 AISAS37(注意・
関心・検索・行動・情報共有)新しい行動を取り込んだモデルが提唱さ れた。AISAS が想定する行動プロセスは前述の 5 つである。AIDMA から、
Desire(欲望)と Memory(記憶)がなくなり、3 番目のプロセスとして
「Search」が、Action(行動)後のプロセスとして「Share」が追加さ れた。これは、AIDMA は消費者の心理・気持ちを説明するモデルである のに対して、AISAS は実際の行動を説明するモデルとも捉えられる。
従来、消費者に対する心理の意識行動の広告プロセスを、本研究にお いては「市民に対する社会広報」の意識行動誘導のプロセスに置き換え ることができると考えられる。
第1章 研究の目的と構成 13
つまり、AIDMA の消費者の「関心」「欲望」を市民の「関心」「欲望」
に置き換え考えると、市民の「関心」は行政が主催する活動に意識行動 の基本であり、行政の意図と市民の「欲望」が一致することで市民の意 識行動を動かすことが可能になる。広州大会の場合は、行政が市民の意 識行動を呼び起こすための大会のビジュアルデザインや都市建設や競 技場建設等の「ものづくり」から始める。社会広報のような宣伝活動を 通して市民の「関心」を呼び起こすにあたって、市民が都市での生活に 担いている「欲望」に対応できるかという点は市民意識行動を喚起する ための基礎であると考える。
また、インターネット時代の AISAS「検索・行動・情報共有」は、市 民意識行動の実際の行動プロセスのことであったが、行政の意図が市民 の「関心」「欲望」に共感や満足を得られると、その後行政から発信さ れる情報は、市民自らの「検索・行動・情報」共有の行為が大会を応援 することが推測される。
以上から、社会教育、心理的行動誘導に関する既往研究から、市民が 社会体制、都市体制に関与しているという意識があることがシビックプ ライドの前提であるといえる。う示唆を得た。市民個人個人が自らの行 動が社会の共通意識の中で評価されることでシビックプライドが生ま れることにつながる。このように、人に意識行動させるプロセスには、
広告宣伝に対する消費者の心理のプロセスがあるが、国際スポーツイベ ントのような「社会広報」を行政が市民に伝える意識行動のプロセスに おける研究には至っていない。
第1章 研究の目的と構成 14
3.研究の方法及び論文の構成 3.1 研究の方法
本論は、本章の「第1章 研究の目的と構成」において展開したシビ ックプライドと都市文化・都市ブランドに関する既往研究、そして、国 際スポーツイベントと都市ブランドと、社会的教育・心理的行動プロセ スに関する既往研究についての考察にもとづいて、次の5点を基に組み 立てて論じる。
第一に、中国におけるシビックプライドの認識を求めるための基礎と して、欧米起源のシビックプライドの概念と比べ、都市再生・社会再生 での役割に基づく、オリンピックの事例検討に関する考察から、シビッ クプライド醸成のデザイン方法の仮説を検討する。
第二に、広州大会の事例をあげ、開催都市の都市現状・行政対策・デ ザインプロジェクトの考察を行い、開催都市の持つ誇りの要素を確認す るための文献調査と、開催を機に行政に関連する都市開発の現状及び問 題点を調べ、開催に向けた行政の対策や広州大会のためのデザインプロ ジェクトを検討し、本研究に関わるシビックプライド醸成のデザインプ ロジェクトの分析を行う。
第三に、広州大会における「ものづくり」の事例を考察し、それらの 役割を検証するために、2010 年の国内外の新聞評価と 2016 年のネット 調査の比較調査を行い、市民が都市に対して持つ誇りの要素を検討する。
第四に、広州大会における「市民意識行動形成のためのプロモーショ ン活動」の事例を考察し、市民意識行動形成の経緯及び役割と効果を明 らかにする。
第五に、大会後の調査から、シビックプライド醸成のためのデザイン 方法の都市アイデンティティイメージ形成のための「ものづくり」と市 民意識行動形成の役割と効果を検証し、国際的スポーツイベントにおけ るシビックプライド醸成のデザイン方法の提案に結びつける。
第1章 研究の目的と構成 15
3.2 論文の構成
本論は、7章により構成され、以下の通り論を進めた。
「第1章 研究の目的と構成」では、研究の目的と方法および研究対象 を位置づけるために、シビックプライドと都市ブランド、国際スポーツ イベント・社会教育・心理的行動誘導に関する既往の研究と本研究の関 係を明らかにすることによって、本研究の方法と論文の構成を論じてい る。
「第2章 中国におけるシビックプライドの認識」では、欧米と中国 とのシビックプライド概念比較するため、1992 バルセロナ、2012 ロン ドンオリンピックの事例調査し、都市再生・社会再生において、「都市 の魅力を伝え、市民の参画意識を呼び起こし、市民の福祉のための都市 再生」するデザイン方法を検討し、本研究の仮説を立て中国の現状にお いて「官・民」共創型の都市プロモーションとの位置付けで検討を進め る。
「第3章 2010 年広州アジア競技大会開催都市現状調査」では、開催都 市の都市現状・行政対策・デザインプロジェクトの調査を行い、本研究 に関わるシビックプライド醸成のデザインプロジェクトを選出し、大会 の「ビジュアルベーシック」と「アプリケーション」を第4章に、市民 行動に関する「プロモーション」を第5章に分け、次の論に進める。
「第4章 広州大会のための「ものづくり」」では、大会宣伝の「ベ ーシックイメージ」、大会向けの「都市景観イメージ」、「開幕式」の事 例を考察し、それらの「ものづくり」の役割を検証するために、2010 年 の国内外の新聞評価と 2016 年のネット調査の比較調査を行い、市民が 都市に対して持つ誇り要素を導き、広州大会のための「ものづくり」の デザイン方法を検討する。
「第5章 市民意識行動形成のためのプロモーション活動」では、行 政が発表する「都市宣言」に示された「社会を安定的に、市民の教養と サービス業による都市の国際化を実現する」ことに従った広州大会にお
第1章 研究の目的と構成 16
けるプロモーションの事例を挙げ、「広州大会を知らせる」、「ホストと しての責任と行動」、「広州大会のエンターテイメント」の事例を調査か ら、市民参加意識が形成する経緯及び役割と効果を検討する。
「第6章 シビックプライド醸成のための「もの」・「ば」・「こと」づ くりの役割と効果による「ひと」づくりの提案」では、「官」が市民の 共感意識を構築する「もの」・「ば」づくり」と「民」が「官」を応援す る行動意識形成のしくみづくりの思考で検討し、「もの」・「ば」・「こと」
づくりの役割を解明し、「シビックプライド」が醸成するデザイン方法 の提案を導くものである。
「第7章 研究のまとめ」では、これまでの各章における調査・分析 検討や考察結果を踏まえ総括的な研究のまとめを行い、今後の課題と本 研究のこらからの展望を示す。
以上の本研究のフローを次頁の図 1-1 にまとめる。
第1章 研究の目的と構成 17 図 1-1 本研究のフロー
第1章 研究の目的と構成 18
注・参考文献
1 David Miliband,speech to Core Cities Group “Civic pride for the modern age”,20 May,2005
3 東京 2020 大会に向けたボランティア戦略(案),公益財団法人東京オ リンピック・パラリンピック競技大会組織委員会,1,2016.11
4 田中理,オリンピックへの期待と不安,第一生命経済研レポード,1−2,
2013.11http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/monthly/pdf/1311_7.pdf#search=%2
72004年アテネオリンピック+財政負担%27
5 杜緯明,ハーバード大学歴史学博士,新儒家学派の代表者,国際儒教 連合会副会長,彼の《宋明儒学思想の旅》にで、「中華民族は漢の時代 から 2000 カ都市があり、毎都市には何十万人があり、都市を管理する
「臣」の人数が極めて、都市には軍隊がなし、警察がなし、社会の秩序 の安定には、同郷会や教会や宗教などの教化の力で、伝統社会の相互組 織で、社会制約体系の一種となった。中国の伝統社会において文化人類 学の角度から、儒教の“孝、忠”といった教義は政治の役割に相当する と」述べた。また、中国思想の“仁義孝忠”とした儒教の核教義で、「日 本への影響が深く、1879 年,儒学者元田永孚氏は全国教育機構が刊行す る《教学大旨》に「教育には“仁義孝忠”の品格」の大切さを記入した。
明治 23 年天皇陛下が聖諭した《教育勅語》に“孝、信”など十大徳行」
が書かれと記録した。http://ru.qq.com/a/20160426/021052_all.htm その他の参考《杜緯明思想学術文選》,上海古籍出版社,2014.8
6 凌友诗, 香港特别政府中央政策研究室, “違う文化体系の“群己观”
からみる中華民族の公民教育を見る”《公民意識研究》,郑州大学出版社,
7-13,2009.7
7 Lewis Mumford 著,宋俊嶺訳,The Culture of Cities, Harcourt Brace Jovanovich, Inc. 1938, China Architecture & Building Press,2009 xv-xvii
8 アジア競技大会は、アジア・オリンピック評議会(OCA)が主催(第 9 回大会まではアジア競技連盟主催)するアジア地域を対象にした国際総 合競技大会で、原則 4 年ごとに開催されます。1951 年にインド・ニュー デリーで第 1 回夏季大会が行われ、冬季大会は 1986 年に札幌で初開催 されました。
9 [美]西蒙·安浩著,葛岩,卢嘉杰,何俊涛译, 铸造国家、城市和地区的 品牌:竞争优势识别系统,上海交通大学出版社. 92-97.2010.
第1章 研究の目的と構成 19
10 (英)Keith Dinnie 著,沈涵など訳,アーバンブランド理論と実例 (City Branding-Theory and Cases),大连:东北財経大学出版, 12-20,
2014
11 余明陽,都市ブランド,広東経済出版社,158-161,2004
12 伊藤香织+紫牟田伸子:Civic Pride シビックプライド−都市のコミ ュニケーションをデザインする, 宣伝会議,2008 年第1刷 2013 年第 3 刷
13 杉本浩二、シビックプライドの在りかを探る:シビックプライド・
プレリサーチ、伊藤香织+紫牟田伸子:Civic Pride シビックプライド−
都市のコミュニケーションをデザインする, 宣伝会議,200—204,2008 年 第1刷,2013 年第 3 刷
14 Lewis Mumford 著,宋俊嶺訳,The Culture of Cities, Harcourt Brace Jovanovich, Inc. 1938, China Architecture & Building Press,2009 ,pxvii
15 山崎正和,地域文化史の三段階,読売新聞 1982 年 11 月 10 日付夕刊,
デザイン事典,26
16 Michael Payne, Olympic Turnaround,2005(オリンピックはなぜ、世 界最大のイベントに成長したのか,保科清子,本間恵子訳,株式会社グ ランドライン,2008
17 Leo van den Berg, Erik Braun, Alexander H.J.Otgaar: Sports and City Marketing in European Citys,Ashgate Publishing Limited,2002
18 Ferran Brunet. An Economic analysis of the Barcelona’92 Olympic Games:Resources, Financing, and impact, Moragas, Miquelde&Miquel Botella(eds.): The keys to success. Barcelona:Universitat Autonoma de Barcelona,1996
19 Juan Carlos Belloso,(Keith Dinnie) 编著,沈涵等译,城市品牌 理论与案例(City Branding-Theory and Cases, 2011),第15章,バルセ ロナのブランディング,大连:东北财经大学出版社,168-174,2014
20 Simon Anholt, Competitive Identity: The New Brand Management for Nations, Cities and Regions 2006.11.13 [美]西蒙·安浩著,葛岩, 卢嘉杰,何俊涛译, 铸造国家、城市和地区的品牌:竞争优势识别系统,上 海交通大学出版社.92-97.2010
第1章 研究の目的と構成 20
21 石坂友司,松林秀樹,オリンピックの遺産の社会学:長野オリンピッ クとその後の十年,株式会社青弓社,32,2013
22 万晓红,奥运传播与国家形象建构,华中科技大学出版社,2016
23 王传友,北京奥运会的社会价值研究,苏州大学出版社,2014
24 堀繁、木田悟、薄井充裕編著「スポーツで地域をつくる」東京大学 出版会、2007 年、p19
25 「スポーツ白書」笹川スポーツ財団、2006 年、p161
26 池田弘「神主さんがなぜプロサッカーチームを経営するのか」東洋 経済新報社、2006 年;池田弘「奇跡を起こす人になれ! 」東洋経済新 報社、2005 年
27 https://tokyo2020.jp/jp/get-involved/volunteer/about/
28 張強(2012).ビジュアルデザインによる地域アイデンティティ表出 に関する研究—2010 年広州第 16 回アジアスポーツ大会を事例として—
39-51,筑波大学平成 24 年博士論文
29 Markwick, William: The True Citizen: How to Become One,公民的诞生:
美国公民培养读本,美国,马克威克,史密斯著,戚成炎译,天津人民出 版社,1-3,2012
30 Weiner, B. : An attributional theory of achievement motivation and emotion. Psychological Review, 548-573,1985,92
31 Lewis, M. ,Alessandri, S. M. &Sulliva, M. W. :Differences in shame and pride as a function of child’s gender and task difficulty. Child Development, 630-638,1992,63
32 Mascolo,M.J.,Fischer, K. W., &Li, J. Dynamic : development of component systems of emotions: Pride, shame, and guilt in China and United States. In: R. J. Davidson, K. Scherer, &H. H. Goldsmith (Eds.). Handbook of Affective Science. Oxford, U. K. :Oxford University Press, 2003
33 梁丽萍:中国人の宗教心理,社会科学文献出版社, 2004
34 エミリー・エルガン,渠东訳:社会分工論,三联本屋, 2004
35 日本オリンピック委員会公式サイト
第1章 研究の目的と構成 21
36 http://iso-labo.com/labo/AIDMA_AIDA_AISAS_AIDCA.html
37「AISAS」電通が提唱(2005年6月に商標登録) 日経ネットマーケ
ティング用語集
第2章 中国におけるシビックプライドの認識
1.本章の目的と構成 ... 23 2.欧米のシビックプライドの概念について ... 24 2.1 都市ブランド、都市再生における認識 ... 24 2.2 「市民意識の育成」社会教育 ... 28 2.3 まとめと考察 ... 29 3.シビックプライドとスポーツイベントについて事例検討 ... 30 3.1 事例検討—その1:1992年バルセロナオリンピック ... 30 3.2 事例検討—その2:2012年ロンドンオリンピック ... 33 3.3 まとめと考察 ... 37 4. 中国におけるシビックプライドの概念について ... 38 4.1 「忠」と「孝」、「ハーモニー」についての認識 ... 38 4.2 都市再生・社会再生において「都市の誇り」の認識 ... 39 4.3 中国人における「都市に対する誇り」認識の調査 ... 42 4.4 まとめと考察 ... 44 5.欧米と中国とのシビックプライド概念の比較及びデザイン方法の仮説 .... 46 5.1 欧米と中国とのシビックプライド概念の比較 ... 46 5.2 中国におけるシビックプライド醸成のための国際スポーツイベントの デザイン方法の仮説 ... 49 注・参考文献 ... 52
第2章 中国におけるのシビックプライドの認識 23
第2章 中国におけるシビックプライドの認識
1.本章の目的と構成
シビックプライドは、イギリスにて 18 世紀に大規模な都市化を通じ、
1970 年都市再生に向けた際に再び提唱された概念である。都市に対する 市民の誇りとエモーションの特性をとらえるために、欧米のシビックプ ライドの源流を理解することとそれを育成する上で、都市再生・社会再 生ブランディングの視点から「誇りや自慢的要素のシンボル化」と、社 会教育の「市民意識の育成」という視点で分析する。そして、1992 年バ ルセロナ、2012 年ロンドンオリンピックの事例をあげ、国際スポーツイ ベントの開催が開催都市のシビックプライド醸成に関わるデザイン方 法について考察する。
中国は、欧州のような「自治」による、都市国家、公民社会の体制と 違って、古代から広い国土を「家国一体」の中央集権で統治し、民が自 治より、「忠孝」や「ハーモニー」等の思想で「民を教化する」という 政策で統一してきた歴史がある。現代に入ると、1998 年から中国の大規 模な都市化1を経験する背景はイギリスと共通で、都市化や都市再生は、
何よりもまず「人」のためであるとの認識は、欧米や中国でも認められ ている。そのため、都市再生・社会再生の視点から、「シビックプライ ド」の概念は「都市に対する市民の誇り」と規定し、中国における「都 市に対する誇り」の認識調査を行い、中国の都市化において市民が都市 を誇る要素や都市に対するコンプレックスを考察する。
本章では、欧米と中国のシビックプライドの概念比較から、中国にお ける市民が都市に対する誇りの認識に基づき中国でのシビックプライ ドの概念を明らかにする。そして欧米五輪のデザイン方法を考察しそれ に関わる中国におけるシビックプライド醸成のための国際スポーツイ ベントのデザイン方法の仮説を立てることが目的である。
第2章 中国におけるのシビックプライドの認識 24
2.欧米のシビックプライドの概念について
欧米に起源するシビックプライドの概念と現代都市再生・社会再生に おいて、都市ブランディングの視点から「誇りや自慢的要素のシンボル 化」と、社会教育の視点から「市民意識の育成」について考察する。
2.1 都市ブランド、都市再生における認識
シビックプライドの概念が社会的に重要になったのはヴィクトリア 朝(1837—1901)のイギリスであると言われている2。18 世紀から 19 世紀 前半にかけて産業革命により市民階級が勢力を得始め、都市は市民社会 の象徴となった。それまで国教会と王侯貴族という特権的な力に支配さ れていたイギリス社会において、工業と交易で富を得た市民階級が力を もち都市には巨大な変革が訪れた。彼らの中に生まれた強いシビックプ ライドは、自分たちが都市を形作っているという自負に基づいていた。
古代ギリシアの都市国家、ルネサンス期イタリアの共和政都市国家、ド イツのハンザ都市などにも見られるようにこうした自治の感覚に基づ くプライドは都市形成の本質とも言える3。
ヴィクトリア都市では、市民自身が新しい世界を作っているのだとい う高揚感と、それぞれが自らを他都市から差別化するためのシビックプ ライドを象徴する様々な「メディア」を必要とした。ヴィクトリア朝は、
都市建築を通して都市のプライドが礼賛された時代であったのである4
(図 2-1)。
図 2-1 1858 年竣工したシビックプライドの象徴と謳われるリーズ市庁舎 出典:2016 年筆者撮影
1世紀半を経て、今日再びシビックプライドの概念はあらたな都市再 生とともにもたらされた。1970 年代以降、イギリスの都市は経済の低迷、
第2章 中国におけるのシビックプライドの認識 25
製造業の衰退、人口や企業の流出など深刻な問題を抱えていた中で、サ ッチャー政権が 1979 年物的環境の再生を図った。このような都市再生 への努力は、メージャー政権を経てブレア政権へと引き継がれた。 都 市再生を推進するとともに、物的環境の再生だけでなく、よりソフト寄 りの社会再生に重心が移行している。1998 年ブレア政権が都市再生の提 言書「アーバン・ルネサンスに向けて」を発表し、2000 年白書「われら のまち」では、「わたしたちのまちには多くの誇るべきものがある」と 述べられ、都市再生は何よりもまず「人」のためであると謳された。2005 年地方政府大臣を務めたディヴィッド・ミリバンド氏は、就任スピーチ の中でシビックプライドに根ざした市民の行動が現代の都市再生の中 心にあることして、「シビックプライドは、行動の結集であり、個々人 の独創力の原動力である」と述べている5。
1998 年ブレア政権が「アーバン・ルネサンスに向けて」提案書を発表 した後、クールグレートブリテン政策により、全イギリスの名誉要因、
自慢要素等を掘り起した。2004 年に、ウェブサイト「イギリスシビック プライド」(図 2-2)では、大学および教会、歴史的偉人、サッカークラ ブなどの情報を含め、イギリス全域に存在する名誉要因と自慢要素の情 報を網羅していった。そして、それらはシンボル化によってクリエティ ブ産業に組み込まれたのである(図 2-3,2-4)。
図 2-2 イギリス「Love My Town」、「UK Civic Pride」シンボルマーク 出典:2004 年公開 http://www.lovemytown.co.uk ウェブ
第2章 中国におけるのシビックプライドの認識 26
図 2-3 ロンドン「Love London」ショップ、シェークスピア等をモチーフにした大英図書館の記念品 出典:2016 年筆者撮影
図 2-4 港町リヴァプール街中に、サッカやビートルズをモチーフにした記念品と都市景観 出典:2016 年筆者撮影
I love NY は(図 2-5)1977 年ニューヨークの観光マークとスローガ ンとしてミルトン・グレーザーがデザインした。誕生以来、観光の広告 と言うより、ニューヨークその都市の象徴として世界中に広がった6。 2001 年「9・11」テロ事件以降、まっ赤なハートマークの左下に小さい 黒色がつけられ、事件で崩壊した世界貿易センタービルを念頭に、「今 まで以上に I love NY」との意味が市民に伝播した7。市民が都市に対す る愛情をシンボル化する例である。
図 2-5 ニューヨークの都市マークとギフト 出典:注4、注5
またアムステルダムは、2003 年世界の都市の中で「住みたい都市ラン
第2章 中国におけるのシビックプライドの認識 27
キング」や「訪れたい都市ランキング」、「魅力的な都市ランキング」に おいて徐々にランキングを下げていた8。そのため、「I amsterdam 」と いう行政が主催する都市プロモーションを行った。「I amsterdam 」は、
アムステルダムを選択することの自負を表すモットーであり、ロゴとし てさまざまな形で社会に表出した(図 2-6)。シビックプライドを呼び起 こすことを第一のミッションと位置づけつつ、都市ブランディング・都 市マーケティング戦略として、市民自体をアムステルダムのブランドと 位置づけたのである9。
図 2-6 アムステルダム「I amsterdam」ロゴ中心とした都市プロモーション 出典:注6
また、日本では、九州新幹線の開線と共に熊本県に「クマモン」キャ ラクターが登場し地域の魅力をうまくブランディングし(図 2-7)、「ク マモン」が熊本県の代弁者として、新幹線に乗って熊本県の「擬似市民」
として、日本だけでなく海外でも大活躍した10。
図 2-7 熊本県「クマモン」キャラクターによる都市プロモーション 出典:注8
このように、都市の自慢、誇り要素や市民自体をシンボル化し、ロゴ やキャラクターやギフト商品、都市景観、キャンペーン等を演出し、都 市再生、都市振興に新たな都市アイデンティティを形成し、都市のブラ ディングを行っている。シビックプライドは「自身が都市に関与してい る」11という参加意識である。つまり、シビックプライドに根ざした市 民の行動が現代の都市再生の中心にあるといえる。都市のプロモーショ