第4章 広州アイデンティティイメージ形成のための
6.4 調査のまとめと考察
広州大会のアイデンティティイメージ形成のための「ものづくり」の 役割と効果を考察するため、「市民の都市に対する誇り」が、どの要素 に関係しているかを調査目的とし、2016 年の調査結果と回答者が記入し たコメントをまとめる。この結果と 2010 年の新聞報道及び評論(p57—58)
を比較し、「ものづくり」と「誇り要素」の関係性を考察する。
(1)2016 年に行った「2010 年広州大会の認識調査」
1)大会の開催を誇りに思うかは、「誇りに思う」が 64.5%、「別に何に もない」が 30.47%と確認できた。
2)大会に印象深いことは、「五羊」をモチーフした「マスコット」が 52.91%と、「エンブレム」が 47.27%である。「競技場」は 31.78%の評 価であると分かった。
3)大会後、街や人々の変化としては、「広州塔等新しい広場が出来た」
第4章 広州アイデンティテイメージ形成のための広州大会の「ものづくり」 103
ことが 53.02%と高いことがわかった。
4)広州のシンボルは、「広州塔」が 67.75%で一番高く、「五羊の彫刻」
が 58.84%となった。
(2)2016 年調査に回答者が記入したコメントをまとめる 1)大会で印象深いことについては、「工事で騒音」、「道路建設で渋滞 が街を駐車場にした」、「地下鉄が無料使用で、大混雑」、「出番工程、装 飾工程」、「海心砂」、「子供頃の記憶」、「開会式の時に彼女と出会い」な どのコメントが得られた。
2)大会後の街や人々の変化については、「公共施設が多くなった」、「清 潔になった」、「交通便利」、「人口が増えた、渋滞がさらに増えた、衛生 がわるい、市民資質がおちた」などのコメントが得られた。
3)広州のシンボルについては、「古城、上下九」、「粤語」、「広州の食」、
「白雲山、五羊アイスクリーム」、「外来労働者が多い」、「花城、カント ン・フェアー、デザイン」、「GNZ48 星夢映画館」などのコメントが得ら れた。
(3)2016 年の調査結果と 2010 年新聞評論と比較
2016 年の調査結果と、2010 年の新聞報道及び評価を、「地域要素」「多 様性」「環境要素」に類型し、比較したものを表 4−3に示した。これら を分析すると、以下のようなことが分かる。
1)地域要素を生かしたものづくりは、誇りになりやすい
2010 年ロゲ会長が「感情に満ちた開会式」と中国地元の報道「広州の 味」と、2016 年調査結果「地域特性(五羊)を表すマスコット、エンブ レム、海心砂(川・島を生かす開会式場)」は、市民の共感を得られや すく、回答者のコメントにあった大会後に印象に残った内容とほぼ一致 する。また、地域特性を持つ要素を生かしたデザインは、都市の誇りと して認められやすいことが確認できた。
第4章 広州アイデンティテイメージ形成のための広州大会の「ものづくり」 104 表 4-3 2016 年に行った「2010 年広州大会の認識調査」と 2010 年開催後の新聞報道と比較
ものづくり
2010 年広州大会開催後の新聞報道及び評価 2016 年に行った「2010 年広州大会の認識」調査
ロゲ会長 日本 中国 調査項目と「選択肢」 回答者の「コメント」
誇り 要素
地域 要素
感 情 に 満 ちた、ユニ ー ク な 開 会式
記者:広州の味と大会 の記憶(五羊伝説、童 謡、海上シルクロード)
記者:「北から南の山・
城・水」の居住スタイ ルと競技場の建築
大会に印象が深いことは、
「 五 羊 」 を モ チ ー フ し た
「マスコット」が 52.91%
と 、「 エ ン ブ レ ム 」 が 47.27%である。
大会に印象が深いことは、
「海心砂」
広州のシンボルは、「古城、
上下九、粤語、白雲山、花 城」
多様 性
市民 B:「他市の親戚が 広州に来ると、「広州に は歴史的な建築物があ り、現代風の高層ビル やショッピングセンタ ーがあり、特に美食が あって、いいね」と親 戚が広州を褒める言葉 を聞いて、広州人とし てのプライド感が生ま れました。」
広州のシンボルは、「広州 塔」が 67.75%で一番高く、
「五羊の彫刻」が 58.84%
の評価
大会に印象が深いことは、
「開会式の時に彼女と出 会い」、広州のシンボルは、
「広州の食、カントン・フ ェアー、デザイン、GNZ48 星夢映画館」
環境 要素
市民 A:「都市で生活に は 幸 せ は な ん で し ょ う?青空に照らして、
家の前の公園で散歩で き、グリーンウェイで 自転車を乗ることと思 う」
大 会 後 、 街 や 人 々 の 変 化 は、「広州塔等新しい広場 が出来た」が 53.02%と認 める
大会後、街や人々の変化 は、「公共施設が多くなっ た、清潔になった、交通便 利になった」
オリンピック 施設に匹敵 選 手 よ り 市 民 の 跡 地 利 用 を 優先
市民 C:「広州大会のお かげて近所の川が整備 してくれて、地下鉄の 線路が増え、市民生活 の「実質的な恵」が与 えてくれた。」
大会に印象が深いことは、
「競技場」は 31.78%の評 価で分かった。
コン プレ ック ス
工事
大会に印象が深いことは、
「工事で騒音、道路建設で 渋滞」大会後、街や人々の 変化は「開催前の工事が開 催後に遺留問題があった」
社会
大会後、街や人々の変化 は、「人口が増えた、渋滞 がさらに、衛生がわるい、
市民資質がおちった」
問題 点
大 会 の 開 催 を 誇 り に 思 う かは、「別に何にもない」
が 30.47%である。
大会に印象が深いことは、
「出番工程、装飾工程、「天 河競技場向こう側の芝生 が、大会後になくした」「地 下鉄が無料使用」;「子供頃 の記憶」。
広州のシンボルは、「外来 労働者が多い」
2)街並みの多様性は、誇りになりやすい
2010 年中国地元の報道の市民 B の「他市の親戚が広州に来ると、「広
第4章 広州アイデンティテイメージ形成のための広州大会の「ものづくり」 105
州には歴史的な建築物があり、現代風の高層ビルやショッピングセンタ ーがあり、特に美食があって、いいね」と親戚が広州を褒める言葉を聞 いて、広州人としてのプライド感が生まれました。」の記事が示すよう な都市の多様性がある。それと 2016 年調査の結果である「都市の新陳 代謝を象徴する広州塔(新)、五羊の彫刻(陳)」とも同様に、街並みの 多様性を示している。また、開会式での「彼女との出会い」のコメント からは、大会が人と人とが接するきっかけを与えたと考えられる。広州 のシンボルを「カントン・フェアー、デザイン、GNZ48 星夢映画館」と したコメントについては、回答者が都市の産業、娯楽業を都市のシンボ ルと考えるなど、広州の多様性を感じた結果であると考えられる。これ らのような、街並みの多様性がこれからの都市発展に影響するとも考え られる。
3)環境要素が市民の生活の質と関係するプライド感情の「実質」
2010 年日本の報道は「オリンピック施設に匹敵」「市民の跡地利用を 優先」「都市型の国際大会開催モデルとして課題を残した」と述べた。
第3章2.4 で述べた広州での都市開発が 2001 年「分散型・ネットワー ク型」の空間戦略に準じ(p61-62)、2006 年から広州大会のための新競技 場が都市の分散地域に建設を始めた(本論には詳細な建設工程を述べな い)。このような広州大会各施設の配置から、本大会では市民の跡地利 用を優先させ、郊外への持続発展のための都市再生、つまり「市民のた めの大会」であると考えられる。
また、「環境を優先して、住み心地が良い」の都市宣言に準じた「都 市建設」に公共施設の美化や新築の環境デザインは、中国地元の報道で の市民 C の「実質的な恵」を実現した。
これと 2016 年調査結果に、大会後、街や人々の変化は、53.02%が「広 州塔等新しい広場が出来た」、大会に印象深いことは、31.78%が「競技 場」が増えたと認めることがわかった。また、回答者のコメントに書か れた大会後「公共施設が多くなった、清潔になった、交通便利になった」
第4章 広州アイデンティテイメージ形成のための広州大会の「ものづくり」 106
のことから、住みやすい街の環境デザインは市民生活の質と関連し、交 通の便利さ、清潔な都市環境、充実した公共広場や競技場が市民プライ ドの「実質」であると考えられる。
4)問題点1.継続する工事問題や都市化問題
2016 年調査結果に、大会に印象深いことは、「工事で騒音、道路建設 で渋滞」であり、大会後の街や人々の変化としては「開催前の工事が開 催後に遺留問題があった」、「人口が増えた、渋滞がさらに、衛生がわる い、市民資質がおちた」とされた。上記調査分析項目(2)(3)に述 べたように、開催前には街中は大規模工事による混乱状態であり、開催 後の資料37によると頻繁な工事によって監理状態が悪かったことがわか った。また、2016 年調査時点の広州では、深刻な人口膨張などの都市化 問題が続いている。
「外来労働者が多い」のコメントを考えると、中国の現状では先ず治 安が悪化と考える方が多いかもしれない。実は、「外来労働者」が広州 の建設を支え、都市の人的資源である一方、市当局が彼らを「広州市民」
として育て、生活安定させる責任と義務がある。市当局により、将来外 来労働者は広州で幸せな生活ができて広州の一市民として「広州を誇る」
という感情が生まれることがあるのではないかと考えられる。
5)問題点2.大会の開催が必ずしも市民の誇りとはいえない 2016 年調査結果では、大会の開催を誇りに思うかについては、「別に 何にもない」が 30.47%である。調査項目3広州のシンボルについては、
回答者が食、映画館、デザインなど多様な都市アイデンティティについ てコメントを示した。以上より、広州大会の開催は必ずしも市民の誇り とはいえない。
大会に印象深いことは、「出番工程、装飾工程」「天河競技場向こう側 の芝生が、大会後になくなった」ことであるが、例えば広州大会を「装 飾工程」に喩えるコメントは、大会のための大量な装飾物への財力浪費 のことを示唆した。大会開催のために、歓迎の雰囲気をアピールするか