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博 士 ( 医 学 ) 森 本 裕 二 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 森 本 裕 二

学 位 論 文 題 名

   虚 血 性 脳 侵 襲 に 及 ぼ す ア シ ド ー シ ス の 影 響 : ラ ッ ト 海 馬 ス ラ イ ス に お け る 無 酸 素 , 無 グ ル コ ース モ デ ル を 用 い た 解 析

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  心肺停止時,生体組織は酸素供給の途絶とともに種々の程度のアシドーシスにさらされる。し かしながら,心肺停止時に合併するアシドーシスが,心肺蘇生後の早期の神経機能障害および長 期の神経学的予後などに,どのような修飾的影響を及ぼすかにっいては依然議論が続いている。

  本研究では,合併するアシドーシスの程度と脳虚血との相互関係を解析するため,脳虚血モデ ルとして無酸素・無グルコース負荷した海馬切片を使用し,種々のpHに調節した灌流液中にお ける神経活動の変化を誘発集合電位を指標として比較検討した。第2の目的として,アシドーシ スのタイプ(呼吸性,代謝性)により虚血性脳障害に対する影響に差異があるかどうか,同様の モデルを用いて検討した。

く対象と方法冫

  5―6週令(体重50g前後)のウィス夕―系ラットを用いた。ハ口セン麻酔下に左大脳半球を 迅速 に 摘出 し,pH7.4に 調 製した4〜5℃以下の 酸素加人工脳脊髄液(Artificial cere‑

brospinal fluid,ACSF)中 にて冷却した。ACSFの組成は,NaCl 145,KC14,NaHユPO。 1.25, MgClよ1.5,CaCl:2,HEPES6,Glucose 10(mM) とし た。 冷却 した 大 脳半 球 をマイク口スライ サーに移し,矢状面に平行に400〃mの厚さを海馬切片を4〜5枚作成した。

切 片 は 室 温 の 酸 素 加ACSF中 に 移 し ,2〜3時 間 イ ン キ ュ ベ ー シ ョ ン し た 。   イ ン キュ ベー ショ ン後 , 切片を灌流チャンバ ーに移し,ACSFを2〜3ml/minの速度で灌 流した。灌流チャンバー内は30℃に維持した。

  刺激電極として ,テフ口ン破膜白金イリディウム線の双極電極を用い,海馬Stratum ra・ diatumのSchaffer側 枝に 刺 入し た。 一方 , 記録 電極 には先端直径約1〃m, 抵抗が2〜5Q となるように調製したガラス電極を用い,CA1細胞層に刺入した。0.Imsecの矩形波の電気刺 激を加え,刺激によって得られた下向き陰性波の振幅を測定した。誘発電位の振幅と波形が安定

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した後に対照値を計測し,以下の3っの実験を行った。

  実 験1, 無 酸 素 ・ 無 グル コ ー ス 負 荷(Oxygen一glucose deprivation: OGD)に よ る 誘発 電 位の抑制に及ばすアシドーシスの影響

  ACSFを 滴 定し ,7,4,6,5,6.O,5.5,5.0,4.5の6種類の 異な ったpHの 灌流液 に調 整し た(test− ・pH)o酸 素加 後 , 海 馬 切 片を15分 間灌 流 し て 細 胞外pHを安定 させた 。次に ,あら か じ め グ ル コ ー ス を 等 量 の マ ニ ト ー ル で 置換 し たACSFをtest一pHと同 じpHに 調整 し ,100 00 窒 素 を 曝 気 し た 。 こ の 灌 流 液 で さ ら に15分 間 灌 流 する こ と でOGDと し た 。OGDの 終 了直 前 に 誘 発 電 位の 振 幅を 計測 した。 その後 ,    pH7.4の酸 素加ACSFに戻 し,60分 後の誘 発電 位を計 測 し た 。 海馬 切 片 は 一 種類 のtest亠pHに よる 実 験 終 了 後 に破 棄 し , 別 のtest―pHによ る実験 は 新たな海馬切片を用いた。

  pH変 化 の み の影 響 を 検 討 す るた め , 新 し い海 馬 切 片 を 用い て 各 々 異 なっ たpH酸素加 灌流 液 で30分 間 灌 流 し , 誘 発 電位 の 変 化 を 観 察し た 。 そ の 後, 同 様 にpH7.4の 酸素 加ACSFに 戻 し , 60分後の誘発電位を計測した。

  実験2. OGDによる誘発電位の抑制に及ばす乳酸アシドーシスの影響

  乳 酸 添 加 灌 流 液(Lactate―ACSF) は15mMま た は30mMの 乳 酸 ナ ト リ ウ ム を 等 モ ル のNaCl と置 換す ること により 作成し た。こ のLactate一ACSFを滴定 し,pHが了.4,6.5,6.O,5.5, 5.0と5種 類 の 異 なっ た 灌 流 液 を作 成 し た 。OGDあ る い は乳 酸 ア シ ド ーシ ス の み による 誘発 電 位の変化を実験1と同様に計測した。

  実 験3. OGDに よ る 誘 発 電 位 の 抑 制 に 及 ぼ す 二 酸 化 炭 素 (COよ ) ア シ ド ー シ ス の 影 響   pH7.4に 調 整 し たACSFに ,10% ,25% ,50% のCOよ を 曝 気 す る こと に よ り3種類 のCO: 灌 流 液 (CO:‑ACSF) を 作成 し た 。 酸 素濃 度 は50%に 固 定 し, 残りは 窒素を 通気 した。 それそ れの灌流液のpHは,6.15土O.04(lO% COユ),5.76土0,05 (25%CO:),5.51土0.05  (50%CO:)

で あ っ た 。OGDあ る い はCO: 負 荷 の み に よ る 誘 発 電 位 の 変 化 を 実 験1と 同 様 に 計 測 した 。

く結果 と考察 冫

  実験1, OGD負荷に よる誘 発電 位の抑 制に及 ばすア シドー スの 影響

  15分 間 のOGDに より ,pH6.5の 群 で は誘 発 電 位 振 幅 は31.5%に 減 少 し た が,pH7.4の 群 と 比 較し た 場 合 に は 減少 の 程 度 は 有意 に 少 な か った 。すな わちpH6.5程 度の軽 度のア シドー シスは 虚血 性 脳 障 害 に 対し て 拮 抗 的 に働 く も の と 推察 された 。OGD 60分 後の集 合電 位は,pH5.5以 上 の群で ほば対 照値 に復し た。し かし,   pH5.0,4.5の群では,それぞれ対照値の60.2%,17.1%

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に回復したのみで あった。test―ACSF灌流の60分後における誘発電位はpH5.5以上で100%,

PH4.5では82.6% に回復し,OGD負荷による抑制と比較した場合には,回復の程度が有意に大 きかった。このことは,pH5.0以下のアシドーシスは虚血性脳障害を増強させ,さらにその作用 はアシドーシスと虚血侵襲との相互作用であることが示唆された。

  実験2. OGDによる誘発電位抑制に及ばす乳酸アシドーシスの影響

  誘発電位の回復fま乳酸30mM添加ではpH6.O以下において,乳酸15mM負荷 ではpH5.5以下 において,pH7.4灌流時と比較して有意に抑制された。すなわち,pHレベルが同程度でも,乳 酸 イ オ ン の 添 加 に よ っ て 濃 度 依 存 性 に 虚 血 性 脳 障 害 を 増 強 す る 事 が 示 さ れ た 。   30分 間酸 素加 のLactate一ACSFで灌流し,pH7.4の 酸素加ACSFに戻した60分後 の誘発電 位は,30mM乳酸イ オン添加時のpH5.Oの群以外 対照値のレベルに回復した 。換言すれば,

OGD後の誘発電位 の回復抑制は,この群以外では,実験1の場合と同様に乳酸アシドーシスと 虚血侵襲の相互作用と考えられる。

  実験3. OGDによる誘発電位抑制に及ばすCOよアシドーシスの影響

  OGD 60分後の電 位の回復は25%および50%C02曝気群で,有意に抑制された。各種灌流液 の細胞外pH値に対 する誘発電位抑制効果を比 較した場合,この抑制効果は30mMの乳酸イオ ン添加群とほぼ同程度であった。したがって,C O,アシドーシスは高濃度の乳酸アシドーシス と同程度の虚血侵襲増強効果をもたらすことが示唆された。

  OGDを伴わないC02アシドーシス後の電位の 回復は,OGD負荷による抑制 と比較して有意 に大きかった。したがって,C02アシドーシスによる虚血侵襲増強もアシド―シスと虚血侵襲 の相互作用と考えられた。

結  語

  1無酸素・無グルコース負荷に合併するアシドーシスは,軽度ではその虚血性脳障害に対し 拮抗性に,高度では相互的に作用する。

  2細胞外pHが同じであれば, 乳酸イオンの存在は,虚血性侵襲を濃度依存性に増強する。

  3 C02アシドーシスは高濃度の乳酸アシドーシスと同程度の虚血性侵襲増強効果をもたらす。

(4)

学位論文審査の要旨

  本研究では,合併するアシドーシスの程度と脳虚血との相互関係を解析するため,脳虚血モデ ルとして無酸素・無グルコース負荷(Oxygen―glucose deprivation: OGD)した海馬切片を 使用し,種々のpHに調節した灌流液中における神経活動の変化を誘発集合電位を指標として比 較検討した。さらに,アシドーシスのタイプ(呼吸性もしくは代謝性)により虚血性脳傷害に対 する影響に差異があるかどうか同様のモデルを用いて検討した。

く対象と方法冫

  5―6週令のウィスター系ラットを用い,ハロセン麻酔下に左大脳半球を迅速に摘出した。矢 状面に平行に400肛mの厚さの海馬切片を4〜5枚作成した。インキュベーション後,切片を灌 流チャンバーに移し ,人工悩脊髄液(Artificial cerebrospinal fluid,ACSF)を2〜3ml/

minの速度で灌流した。灌流チャンバ一内は30℃に維持した。刺激電極として白金イリディウ ム線の双極電極を海馬のSchaffer側枝に刺入し,0.Imsecの矩形波電気刺激を加えた。記録電 極にはガラス電極を用い,CA1細胞層に刺入した。刺激によって得られた下向き陰性波の振幅 を 測 定 し た 。 誘 発 電 位 の 振 幅 と 波 形 が 安 定 し た 後 に 対 照 値 を 計 測 し た 。   実験10GDによる誘発電位の抑制に及ぼすアシド―シスの影響

  ACSFを7.4,6.5,6.O,5.5,5.O,4.5の6種類の異なったpH潅流液に滴定した(test― pH)。酸素加後,海馬切片を15分間灌流して細胞外pHを安定させた。次に,グルコースを等量 のマニト―ルで置換 したACSFをtest―pHと同じpHに調整後,この灌流液を100%窒素で曝 気し,さらに15分間灌流することでOGDとした、00GD終了直前に誘発電位の振幅を計測した。

その後,pH7.4の酸素 加ACSFに戻し,60分後の誘 発電位を計測した。pH変化の みの影響を 検討するため,新しい海馬切片を用いて各々異なったpHの酸素加灌流液で30分間灌流し,誘発 電位の変化を観察した。その後,p H7.4の酸素加ACSFに戻し,60分後の誘発電位を計測した。

  実 験20GDによ る誘 発電 位の抑制に及ばす乳酸 アシドーシスおよびCOエアシ ド―シスの 影響

修康 雄       富輝 物山 橋 劔小 石 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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  乳 酸添 加灌 流 液は15mMまたは30mMの乳酸 ナトリウムを等モルのNaClと 置換することに より作成した。この乳酸添加灌流液をpH7.4から5.Oの5種類の異なった灌流液に滴定した。

pH7.4に 調整 したACSFに,10%,25%,50% のCO:を曝気することによ り3種類のCOよ灌 流液を作成した。それぞれの灌流液のpHは,6.15(lO%C02),5.76(25%CO:),5.51  (50%

C02)であった。誘発電位の変化は実験1と同様に計測した。

く結果と考察冫

  実験10GD負荷による誘発電位の抑制に及ぼすアシドーシスの影響

  15分間のOGDに より,pH6.5の群では誘発電 位振幅の滅少の程度は有意に少なく,pH6.5程 度の軽度のアシドーシスは虚血脳傷害に対して拮抗的に働くものと推察された。OGD60分後の 集合電位の回復は,pH5.0以下の群で有意に抑制された。アシドーシス単独負荷60分後の誘発電 位の回復の程度は ,OGD合f并による回復と比較した場合,有意に大きかった。このことは,

pH5.O以下のアシドーシスは虚血性脳傷害を増強させ,さらにその作用はアシドーシス単独によ る も の で は な く , ア シ ド ー シ ス と 虚 血 侵 襲 と の 相 互 作 用 で あ る こ と を 示 唆 し た 。   実 験20GDによる誘発電位抑制 に及ぼす乳酸アシドーシスお よびC02アシドーシスの影響   乳酸30mM添加で はpH6.O以下で,乳酸15mM負荷でfまpH5.5以下で,それぞれ誘発電位の 回復は有意に抑制された。すなわち,pHレベルが同程度でも,乳酸イオンの添加によって濃度 依存性に虚血性脳 障害を増強する事か示された。OGD 60分後の電位の回復は25%および50% CO:曝気群て,有 意に抑制された。この結果をそれぞれの灌流液の細胞外pHに対してプロッ トすると,30mMの 乳酸イオン添加群とほば同 程度の抑制であった。したがって,C02による アシドーシスは高濃度の乳酸アシド―シスと同程度の虚血侵襲増強効果をもたらすことが示され た。

結  語

  1無酸素無グルコース負荷に合併するアシドーシスは,軽度では虚血性脳傷害に対し拮抗性 に,高度では相互的に作用する。

  2細胞外pHが同じであれば,乳 酸イオンの存在は,虚血性侵襲を濃度依存性に増強する。

  3C0:によるアシドーシスは高 濃度の乳酸アシドーシスと同程度の虚血侵襲増強効果をも たらす。

  本研究は,合併するアシドーシスの程度と脳虚血との相互関係をin vitroの系を用い神経生

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理学的に詳細に検討しており,独創的かっ有意義な研究と認められ,博士(医学)授与に値する ものと判定する。

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