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博士(医学)森 秀樹 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(医学)森   秀樹 学位論文題名

血小板a ―2 アドレナリン陸受容体を介する情報伝達機構を指標とした      内因性うつ病の臨床生化学的研究

学位論文内容の要旨

    Iはじめに

  未だ本態不明なうつ病の病因の神経化学的基盤のーっとして,中枢神経シナプスに存在し,ノ ルアドレナリンの放出を調節する前シナプス性受容体としての作用をもつa―2アドレナリン性 (a―2)受容体の機能に変化があることが想定されてきている。この仮説は,うつ病患者の中 枢神経において直接研究することが困難なために,未梢血液中の血小板に存在するd―2受容体 を有用なモデルとして盛んに検索されてきた。これまでに,受容体結合測定法により,うっ病患 者で血小板a―2受容体数の変化にっいていくっかの報告があるが一定の結論を得るに至ってい ない。この不一致の理由として,患者が服用している治療薬の影響や対象群の個体差によるもの のほかに,標識に用いられた各種のルガンドが,血小板d―2受容体の異なる親和性の状態や構 造を標識していることが指摘されてきた。したがって,うつ病患者において血小板ロ―2受容体 に機能の変化があるか否かを解明するためには,未服薬で診断学的に均一なうつ病患者群に限定 したうえで,nー2受容体に連関する細胞内の情報伝達系の機能を評価することが必要と考えら れる。

  ところで,これまでに血小板a―2受容体に連関する情報伝達機構は,Giとよばれる抑制性 GTP結合蛋白 質を介したアデニル酸シク ラーゼ(AC)活性の抑制が唯一 のものと考えられて きたが,この考えは次第に不確実なものとなっている。われわれはこれまでに血小板をエピネフ リンで刺激したときイノ シトール1リン酸(IP―1)の蓄 積反応として示されるイノシトール リン脂質(PI)代謝回転の 亢進が生じ,さらに薬理学的検討を行った結果,これがば―2受容 体を介する細胞内情報伝達機構が関与している可能性を示す若干の所見を得た。本研究は,この IP−1蓄積反応を指標とし て内因性うつ病における血小板d―2受容体機能の評価を試みたも のである。

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    II対象と方法

  研究趣旨を十分に説明し,採血に同意の得られた内因性うつ病の診断基準をみたす未治療の患 者15名[男性7名,女性8名 ,平均年齢43.5土3.8(S.E.M)]と性および年齢をできるだけ 一致させた健康成人15名[男性7名,女性8名,平均年齢40.9土3.1]を対象として採血した。

うつ病の重症度は17項目ハ ミルトンうつ病評価尺度(HDRS)により評点した。採血は日内リ ズムが結果に影響を与えないように,すべて午前10時から正午の間に行われた。遠心法により血 小板を採集し,すみやかにHEPES緩衝液に浮遊させて[°H]一myo―inosotolを50〃 Ci/mE の濃度で添加し37℃2時間インキュベーションすることにより取りこませた。洗絛した後,10m Mリチウム存在下で血小板 内IP―1ホスファターゼを阻 害した血小板浮遊液(109/加)を10 ロMおよび100〃M工ピネフ リンとともに15分間インキュベーションした。生成した[3H] IP

‑1をBerridgeら の 報 告 し た 方 法 に 従 い イ オ ン 交 換 樹 脂 カ ラ ム で 分 離 定 量 し た 。

    III結  果

  (1)工ピ ネフリン刺激性IP―1蓄積反応の基礎的検討工ピネフリン刺激による血小板内IP

―1蓄積反応 はエピネフリンの濃度依存性であり,工ピネフリンの50%反応濃度EC50値は5肛 Mであった。 さらに10ロM工ピネフリン刺 激によって生じるIP―1蓄積反応に対して,選択的 ロ―2アドレ ナリン性受容体阻害剤であるヨヒンビンは濃度依存性に抑制し阻害定数(Ki)は6 O. 3nMであった。

  (2)工ピ ネフリン刺激性IP―1蓄積反 応の同一個人内での変動正常対照群の同一個人3名 から1―3週の 間隔で一日のうち一定時間 に採血して得た血小板にっいてIP―1蓄積反応の変 動を検討した。変動係数は,10ルMおよび100彫M工ピネフリン刺激でともに10%以下であるこ と か ら , 同 一 個 人 内 で の IP― 1蓄 積 反 応 は 変 動 が 少 な く 安 定 し て い た 。   (3)内因性うつ病患者群と健常者群の比較未治療で未服薬の内因性うつ病患者群は,性およ び年齢を合致 させた健常者群と比べて,10 uMおよび100〃M工ピネフリン刺激性IP―1蓄積反 応を指標にし たとき,ともに統計学的に有意な高値を示した。またIP―1の基礎値およびas‑

say vial中の血小板数には両群間には有意差はなかった。

  (4)うつ 病の重症度とエピネフリン刺激性IP―1蓄積反応の関係15名のうつ病患者の症状 の重症度は,17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)で12点から36点の間に分布していた。

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V 考     察

  従 来 放 射 性リ ガンド を用い た受 容体結 合実験 により ,ヒト 血小 板には ロ‑2アド レナ リン性 (d ー2) 受 容 体 が 存 在 し , こ の 受 容 体 を 介 し てcAMPの 低 下 が 起 こ る こと か ら ,a―2受 容 体 が 連関す る唯 一の細 胞内情 報伝達 機構は ,ア デニル酸シクラーゼ抑制系であることが知られていた。

し か し 本 研 究 で 示 し た エ ピ ネ フ リ ン 刺 激 に よ るEC50値5ロMのIPー1蓄 積 反応 は , こ の 反応 に た い す るd−2受 容 体 の 選 択 的 阻 害 剤 で あ る ヨ ヒ ン ビ ン の 阻 害 定 数 が2桁 のnMオー ダ ー で あ り, 他 の モ ノ アミ ン 受 容 体 阻害 剤 が1〃Mで 全 く 抑 制 しな い こ と か らd一2受 容体 を介し て生 じ るも の と 考 え られ る 。 す な わちd→2受 容体 が エ ピ ネ フリ ン 刺 激 を 伝 達し てPI代 謝回転 の亢 進を起 こし ている ことが 薬理学 的に明 らか となっ た。

  内 因 性 う つ 病に お い て 血 小板dー2ア ドレ ナ リ ン 性 受容 体 を 介 し たPI反 応 に っい て検討 した 報 告は こ れ ま で にな く , 我 々 の報 告 が最初 のもの にな ると思 われる 。工ピ ネフ リンlOuMお よび 100肛Mで 刺激 し た と き の血 小 板 内IP−1蓄 積 反 応は , 同 一 個人内 では変 動が少 なく 安定し た指 標 であ り , 対 照群に 比べて うつ病 患者群 でと にも高 値を示 したこ とか ら,う つ病で は血小 板a― 2受容 体 の 反 応性が 亢進 してい ること が示さ れ,機 能の 亢進が 推定さ れる。 しか しこの 所見が , 受 容体 結 合 実 験 でう つ 病 患 者 の血 小 板ロ‑2受容体 数の増 加を見 出した これ までの 報告を 細胞内 情報伝 達系 レベル で支持 するも のかど うか はさら に詳細 な検討 を要 する。 また近 年ヒトの脳内の a―2受 容 体 に はサ ブ タ イ プ があ る こ と が 指摘 さ れ て い て, 血 小 板 のd−2受 容 体が 中枢神 経の どのよ うな 機能を もつa―2受容 体に対 応する ものか は,今 後の 解明を 待たな ければ ならないし,

中 枢神 経 と 血 小 板と い う 異 な る部 位 のば‑2受容体 で同一 の変化 を起こ して くる共 通のシ グナル も不明 であ る。し かし血 小板を 用いる こと によっ て,あ る個人 のd一2受容体 の状態 を容易に灑lJ 定 する こ と が で き, 内 因 性 う つ病 に おける ロ‑2受 容体と 連関す る細胞 内情 報伝達 系レベ ルでの 評価が 可能 となる のであ る。

  血 小 板 ば ―2アド レナリ ン性受 容体を モデ ルとし たうつ 病の臨 床生化 学的 研究は ,1980年 代初 め か ら さ か ん に 行 われ て き た が ,d−2受 容 体を 介 し たIP一1蓄 積 反 応が 亢 進 し て いる と い う 本研究 で示 した新 所見が ,未だ 本態不 明な うつ病 の生物 学的研 究を 進める うえで 今後重要な検討 指標と なる ことが 期待さ れる。

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学位論文審査の要旨

  中枢神経シ ナプスに存在するd一2アド レナリン性受容体(a―2受容体)の機能に変化のあ ることが,未だ本態不明なうつ病患者の神経化学基盤のーっとして想定されてきている。この仮 説は,未梢血液中の血小板に存在するa―2受容体を有用なモデルとして臨床的に盛んに検索さ れてきた。われわれはこれまでに血小板をエピネフリンで刺激したときイノシト―ル1リン酸 (IP−1)の蓄積反応として示 されるイノシトールリン脂質(PI)代謝回転の亢進が生じ るこ とを見出し,さらに薬理学的検討を行い,これがロ―2受容体を介する細胞内情報伝達機構が関 与している可能性を示す若干の所見を得た。本研究tま,このIP一1蓄積反応を指標として内因 性 う つ 病 に お け る 血 小 板 d−2受 容 体 機 能 の 評 価 を 試 み た も の で あ る 。   対象と方法:研究趣旨を十分に説明し,採血に同意の得られた内因性うつ病の診断基準をみた す未治療の患者15名[男性7名,女性8名,平均年齢43.5歳]と性および年齢をマッチさせた健 康成人15名[男性7名,女性8名,平均年齢40.9歳]を対象として採血した。うつ病の重症度は 17項目ハミル トンうつ病評価尺度(HDRS)により評点し,採血tま,すべて午前10時から正午 の 間に 行った。遠心法により 血小板を採集し,すみやか にHEPES緩衝液に浮遊させて [°

H]―myo←inositolを添加し37℃2時間のインキュベ―ションにより血小板イノシトールリン 月旨質を標識した。洗絛した後に,リチウム存在下で血小板内IP−1ホスファターゼを阻害した 血小板浮遊液(l09/加)を各濃度のエピネフリンとともに15分間インキュベーションした。生 成 し た [3H] IPー1をイ オン 交換 樹 脂カ ラム で分 離 定量 した 。ま たア ッ セイ はす べて duplicateで 行い,工ピネフリン刺激性IP一1蓄積反応は,工ピネフリン非存在下に対する存 在下でのIP−1蓄積量の割合で表示した。

  結果と考察 :(1)基礎的検討工ピネフリン刺激による血小板内IP―1蓄積反応は1―100〃 Mの範囲でエ ピネフリンの濃度依存性であ り,工ピネフリンの50%反応濃度EC50値は5〃Mで あった。さら に10ぷM工ピネフリン刺激に よって生じるIP―1蓄積反応に対して,選択的d―

格 章

   

   

下 田

山 牧

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

は,a一2受容体を介して生じることが薬理学的に明らかとなった。

  (2)研究対象となった15名のうつ病患者の症状の重症度は,17項目ハミルトンうつ病評価尺度 (HDRS)で12点か ら36点 の間 に分 布し て いた 。各 個人 のHDRSの総 得点 と10 uMまたは100

〃M工ピネフリ ン刺激性IP―1蓄積反応の間には,スピアマンの順位相関検定で有意な相関は みられなかった。

  (3)工ピネフリン10 uM刺激による健常者とうつ病患者の血小板IP―1蓄積反応:健常者群 は,平均129%土4. 2SEM,うつ病患者は,平均151.5%土5.5SEMで,うつ病群は,健常者群に 対してt検定により0.5%の危険率で有意な高値をしめした。100〃M工ピネフリン刺激による血 小板IP―1蓄積 反応の健常者群とうつ病患者 群の比較:健常者群が平均138.1%土5.2SEMで あるのに対して ,うつ病群では平均151.5%土5.1SEMで,t検定により1%の危険率で有意な 高値を示した。すなわち未治療で未服薬の内因性うつ病患者群は,年齢と性をマッチさせた健常 者群に比べて,10 uMおよび100ロM工ピネフリン刺激により血小板IP一1蓄積反応を指標にし たとき,とにも統計学的に有意な高値を示した。

  以上の結果か ら,内因性うつ病において ,IP亠1蓄積反応を指標とした血小板d−2受容体 の反応性は亢進していることが示され,うつ病患者の血小板d−2受容体機能の亢進が推定され る。すなわち血小板を用いることによって,内因性うつ病におけるd―2受容体と連関する細胞 内情報伝達系レベルでの評価が可能となり,本研究で示した新所見が,未だ本態不明なうつ病の 生 物 学 的 研 究 を 進 め る う え で 今 後 重 要 な 検 討 指 標 と な る こ と が 期 待 さ れ る 。 質 疑 応 答 : 問 ; ミ オ イ ノ シ ト ー ル を 取 込 ま せ た 後 の 何 を み て い る の か ?     答 ;工 ピネ フリ ン 刺激 によ るイ ノ シ卜 一ル リン脂質 代謝回転の亢進率を示すIP―1     の蓄積をみている。

    問;血小板と中枢神経のa―2受容体に相関倣あるのか?

    答;動物実 験でいくっかの報告はあるが今のところ明確ナょ結諭はでていない。本研究     で は , 血 小 板a―2受 容 体 を う つ 病 患者 で測 定可 能 な有 用な 指標 と して 用い た。

    問;治療後の変化にっいて測定したか?

    答;測定していない。intact cellを用いた本研究で は,治療後の薬物要因を除く こ     と が難 しく ,多 く の予 備的 な検 討 を要 する 。し かし 今 後の 重要 な検 討課題と思 わ     れる。

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参照

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