博士(医学)森 律明 学位論文題名
力学的負担減少による腱組織リモデリングにおける オステオポンチンの役割
学位論文内容の要旨
序諭 :骨や筋肉はカ学的 ストレスの環境下 で人体の動きに対 しカ学的な支えを提 供し、その構造や組成、再 構築 (ルモデルング)は カ学的負荷に感受 性がある。腱は骨 と筋肉を連結する組 織であるが、筋肉によって 発生 するカを骨に伝達し 関節の動きやその 保護作用に重要な 役割を持つ。骨や筋 肉がカ学的負荷感受性組織 で ある こ とと 同様 に、これ まで腱に対するカ 学的負荷減少の効果 は腱のカ学的強度 の低下や腱の構成 成分 であ るコラーゲン線維径 を減少することが 知られている。し かしながら、力学的 負荷による腱組織リモデル ン グ過 程 にお ける 分 子生 物学 的 メカ ニズ ム は十 分に 解 明さ れて い ない 。オ ス テオ ポンチン (以下OPN: osteopontin)は、元来骨組織中に存在する非コラーゲン性細胞外マトリックス蛋白質として同定されているが、
力学 的負荷よる骨リモデ リングの引き金と なる重要な因子で あることが示されて いる。OPNは皮膚創傷治癒 過 程 や 損 傷 筋 肉 再 生 過 程 で も 関 係 し て お り 、 多 彩 な 機 能 を 有 す る サ イ ト カ イ ン 様 の 分 子 で あ る。
筋・ 骨 格系 組織 の細胞で ある骨芽細胞、筋 芽細胞、皮膚や腱の 線維芽細胞は間葉 型幹細胞から分化 して おり 、骨・腱・靭帯・筋 肉は多能性幹細胞 から分化した同一 の機能的なユニット であると考えられ る。OPN は カ学 的 負荷 に関 係するサ イトカインであり 、著者らは腱に対す るカ学的負荷減少 の効果はオステオ ポン チン の存在によって調節 されるという仮説 を考えた。本研究 の目的は、(1)正常腱組織 におけるオステオ ポ ンチ ン の発 現を 確 証す るこ と 、(2) Wild‑type (WT)マウ スとOPN knockout (KO)マウスの両群で カ学 的 負荷 減 少後 、膝 蓋 腱の 超微 細 構造 変化 を形態学的に 解析すること、(3)力学的負 荷減少後の膝蓋腱 にお け るOPN mRNAの 発 現 変 化 を 調 べ る こ と 、(4) OPNに 基 づ い た 腱 組 織 リ モ デリ ン グの メカ ニ ズム を明 らか にすることである。
方 法 と 結 果 :1. 腱 線 維 芽 細 胞 に お け るOPNの 発 現 解 析 。RT‑PCRに よ り 正 常 膝 蓋 腱 か ら のOPN mRNA の 発 現 を 確 認 し 、 ま たOPNはWTマ ウ ス正 常膝 蓋 腱の 線維 芽 細胞 に局 在 して いる こ とが 免疫 組 織化 学染 色 の結 果 より 明ら か にな った 。2. コ ラーゲ ン線維の超微細構造 解析。透過型電子 顕微鏡による腱の 形態 学的 解析の結果、6週間除負荷さ れた腱はコント口ー ルと比較しコラー ゲン線維径や111D12あたりのコラー ゲ ン線 維 の面 積率 は 有意 に減 少 した 。し か しOPN KOマ ウス では そのような変化は みられず、統計学 的に コ ラー ゲ ン線 維径 及 び面 積率 の 平均 変化 率 は共 に、wrマウ スはOPN KOマウスと比 較し有意に低値を 示し た 。こ れ らの 結果 より、除 負荷による腱リモ デリング過程にOPNが関係し ていることが示唆さ れた。3.除 負 荷後 の 麗組 織中 に おけ るOPN遺伝 子 の発 現変 化 の解 析。 除 負荷 後の 膝 蓋腱 組織 中 のOPN mRNAの経 時的 発 現変 化 を定 量的real‑time PCR解析 を行った。OPN mRNAの発現は除負荷 後3日目に 有意に増加し、そ の後 除 負荷 後5日 に かけ て急激な減少を示 し除負荷6週目まで抑制され た状態であった。 免疫組織化学染色 によ ー621−
るOPN蛋 白 質 の 発 現 変 化 も 同 様 の 結 果 で あ っ た 。4.OPNに 基 づ い た 腱 組 織 リ モ デ リ ン グ に お け る メ カ ニ ズ ム の 解 析 。 本 実 験 で 示 唆 さ れ た 除 負 荷 に よ る 腱 コ ラー ゲ ン 線 維 径 減 少 のメ カ ニ ズ ム の1っ と し て 、コ ラ ー ゲ ン 産 生 の 変 化 が 関 係 す る か ど う か 検 討 し た 。Real‑time PCR解 析 結 果 よ り 、除 負 荷3日 目 と14日 目の 腱 組 織 は そ れ ぞ れ 反 対 側 の コ ン ト ロ ー ル 腱 組 織 と比 較 し コ ラ ー ゲ ンmRNAの 発現 に 有 意 な 差 は 無 かっ た 。 さ ら に 、 除 負 荷 さ れ た 腱 組 織 中 に お け る 線 維 芽 細 胞 のア ポ ト ー シ ス の 程度 を 経 時 的 に 調 べた が ア ポ ト ー シ ス 陽性 細 胞 の 存 在 は 認 め ら れ な か っ た 。 以 上 よ り 、 本 モデ ル に よ る 腱 リ モデ リ ン グ 過 程 で コラ ー ゲ ン 産 生 変 化 の関 与 は 少 な い こ と が 示 さ れ た 。 次 に コ ラ ー ゲ ン 分 解に 関 係 す るMMP‑13 m心 岨 . の 経 時 的 発現 変 化 に つ い て 解析 を 行 い 、MMP‐13の 発 現 は 除 負 荷 後2週 目 に 有 意 な 増 加 を 示 し た 。 こ のMMP‐13の 発 現 の 増 加 はoPNの 発 現 が 一 過 性 に 増 加 し そ の 後 減 少 す る 頃 に 見 ら れ る た め 、 同 様 の 腱 リ モ デ リ ン グ 過 程 に お い て0PNの 有 無 に よ る MMP・13の 発 現 を 比 較 し た 。Wrマ ウ ス で は 、MMP‐13の 発 現 は 除 負 荷 後2週 目 で 平 均21倍 ま で 増 加 し た が、
0PNK0マ ウ ス で は 平 均4倍 の み の 増 加 で あ っ た 。 さ ら に 腱 線 維 芽 細 胞 に お け る0PNとMMP,13の 直 接 の 関 係 を 明 ら か に す る た め に 、 培 養 腱 細 胞 を 用 い た 実 験 を 行 っ た 。OPNと そ の 受 容 体の 結 合 を 阻 害 す るGRGDS の 合 成 ペ プ チ ド やOPNの 受 容 体 を 阻 害 す る 抗aVイ ン テ グ リ ン 抗 体 の 添 加 に よ りMMP‐13m心 帆 の 発 現 増 加 が み ら れ 、OPNは イ ン テ グ リ ン 受 容 体 を 介 し て MMP‐13の 発 現 を 調 節 す る こ と が 示 さ れ た 。 考 察 : 本 研 究 結 果 よ り 、OPN欠 損 で は 除 負 荷 に よ る 腱 組 織ル モ デ リ ン グ 過 程に お い て 有 意 な コ ラー ゲ ン 線 維 の 形 態 学 的 変 化 は な く 、OPNは 除 負 荷 に よ る 腱 リ モ デ リ ング 過 程 に 重 要 な 役割 を 果 た す 分 子 で ある こ と が 示 唆 さ れ た 。 ま た 、 同 リ モ デ リ ン グ 過 程 に お い て0PNm心 岨 発 現 増 加 は 除 負 荷 後3日 日 ま で に 起 こ り 、 こ の 結 果 は 骨 ル モ デ リ ン グ 過 程 や 損 傷 筋 肉 再 生 過 程 に お ける0PNの 早 期 発 現 増 加を 示 す 過 去 の 報 告 と一 致 す る 。 筋 ・ 骨 格 系 軟 部組 織 リ モ デ リ ン グに お い て は 、 細 胞 外マ ト リ ッ ク ス 蛋 白質 の 合 成 と 分 解 の微 妙 な調 節を 行う。
そ の り モ デ リ ン グ 過 程 を 行 う 主 要 な 因 子 は 、 コ ラ ー ゲン 合 成 に 関 し て は タイ プIコ ラ ー ゲ ン で あ り 、分 解 に 関 し て は コ ラ ゲ ナ ー ゼ で あ る 。 コ ラ ー ゲ ン 合成 に 関 し て は 、 本研 究 結 果 よ り 除 負荷 に よ る 腱 組 織 リ モデ ル ン グ 過 程 に コ ラ ー ゲ ン 産 生 抑 制 や ア ポ ト ー シ スの 関 与 は み ら れ なか っ た 。 コ ラ ー ゲン 分 解 に 関 し て は 、本 研 究 モ デ ル に お い て は マウ ス に お け る 有 カな 組 織 コ ラ ゲ ナ ーゼ で あ るMMP‐13の 遺 伝 子 発 現 変 化 の解 析 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 力 学 的 負 荷 減 少 に よ る 腱 ル モ デ リ ン グ 過 程 に お い てMMP‐13の 有 意な 発 現 変 化 に 先 行し てOPNの 発 現 変 化 が 起 き て い る こ と が 示 さ れ 、0PN欠 損 で は こ のMMP.13の 有 意 な 発 現 変 化が 抑 制 さ れ た 。 これ ら の 結 果 はOPNが 腱 線 維 芽 細 胞 の カ 学 負 荷 を 感 知 す る ト ラ ン ス デ ュ ― サ ー と し て 機 能 し て い る 可 能 性 が 示 さ れ 、 さ ら に 同 リ モ デ リ ン グ 過 程 でOPNがMMP.13を 調 節 し て い る こ と を 示 し た 。 ま た 、 培 養 腱 線 維 芽 細 胞 に よ る0PNとMMP‐13の 関 係 を 示 す 実 験 か ら 、0PNはR(mを 介 しaVinteg血 に 接 着 す る こ と に よ り 腱 細 胞 か ら のMMP.13遺 伝 子 発 現 を 調節 し て い る こ と が示 唆 さ れ た 。
以 上 よ りoPNは カ 学 的 負 荷 減 少 に よ り 一 過 性 に 発 現 変 化 が 起 き 、 そ の 発 現 変化 か らMMP・13の発 現 が 誘 導 さ れ 腱 組 織 リ モ デ リ ン グ 過 程 の 形 態 学 的 改 変 に 関 与 する こ と が 示 唆 さ れ た。 今 後 、OPNの 局 所 発現 を 操 作 し た り 、0PNと そ の 受 容 体 の 相 互 作 用 を 制 御 し た り す る こ と に よ り 、 筋 ・ 骨 格 系 軟 部 組 織 の り モデ リ ン グ 過 程 を コ ン ト ロ ー ル で き る 可 能 性 が あ り 、 病 的 な 組 織 リ モ デ リ ン グ 過 程 を 含 め てさ ま ざ ま な 筋 ・ 骨 格系 軟 部 組 織 疾 患 に 対 する 新 し い 治 療 戦 略に 有 効 で あ る と 考 えら れ る 。
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