博士(医学)金子雅子 学位論文題名
cDNA アレイデータのCorrelation Profiling による 肺小細胞癌細胞株での
神経内分泌関連遺伝子発現の発現機序解析 学位論文内容の要旨
緒言
肺癌は 世界的に みて癌に 起因する 死亡のう ち最も多い もののひ とつであ る。肺癌は、
臨 床 病 理 学 的 に 主 に 肺 小 細 胞 癌(SCLC)と 、 非 小 細 胞 癌(NSCLC)に 分 類さ れ 、SCLCは 肺癌の15から20010を占 める。肺 小細胞癌iま特徴あ る組織像や 他の組織 型の肺癌に比べ 薬剤や 放射線へ の反応が 良いこと などから 、基礎的臨 床的研究 が盛んに 行われてきてい るが、その予後はいまだ不良である。
SCLCは 、 そ の生 物 学的 特 性 のひ と っと し て 神経内 分泌機能 を示すこ とが知られ てい る 。 な か で もACTH,GRPNSE,NCAM,chromograninAな どは 免 疫 組織 化 学的 に 確 認す る こと が で き、 病 理学 的 鑑 別診 断 の助 け と なる 。 臨 床的 に はSCLCは 約80%の患者 でぺ プチド ホルモン などの生 理活性物 質を産生 するといわ れ、これ らの生理 活性物質による 随 伴症 状 を 伴う こ とや 、 ま れに 神 経症 状 を 伴う ことも ある。こ うしたSCLCにお ける神 経 内分 泌 関 連遺 伝 子の発現 は起源と なる細胞 がKultschitsky s細胞 (気管支 上皮に存 在する好銀性細胞argentaffine cell situated in bronchial epitheliumで、神経堤由来、ある いはneurally programmed cell of epiblastic origin)であろうとされているが、Kultschitsky 細 胞の 由 来 に関 し ては 直 接 の証 明 はな い 。SCLCで認 め られ る 染 色体 異 常 とし て第3染 色体短 腕の欠失 が指摘さ れており 、それが 神経内分泌 関連遺伝 子の発現 に関与するとの 予測も あるが、 欠失する 遺伝子は 未だ不明 のままであ る。いず れにして も神経内分泌関 連遺伝子発現の分子機構は全く不明のままである。
本 研 究 に お い て は 、SCLCに 特 異 的 に 発 現 が 高 い 遺 伝 子を 抽 出す る 目 的で 、6系 の SCLC由 来 細 胞 株 のcDNAア レ イ デ ー タ を6系 の 肺 腺 癌 、16系 の 乳 癌 、12系 の 大 腸 癌 、9系 の 胃 癌 、11系 の 肝 細 胞 癌 由 来 細 胞 株 を 含 む 、 計54系の 細 胞 株の ア レ イデ ー タと比 較した。 その中の 神経内分 泌関連遺 伝子につい て、遺伝 子間の関 係を明らかにす る目的 でそれら 遺伝子ア レイデー タの細胞 株バターン の分布の 類似度に よって神経内分 泌関連 遺伝子を 分類、グ ラフィカ ル・モデ リングを用 いて解析 した。こ のような操作に より得 られた関 係とそれ ら遺伝子 のプ口モ ーター構成 要素を比 較するこ とにより神経内 分泌関連遺伝子発現の分子機構の解明を試みた。
実験結果
SCLC と肺線癌(AdLC) 、乳癌、大腸癌、胃癌、肝細胞癌のcDNA アレイデータを
比 較 し、 そ れ ぞれ98,204,141,153,138個 の遺伝子 がSCLCで有意 に高い発現 値を示 し た 。こ の う ち、2つ 以 上の 組 み 合わ せ で発現値 が高かった 遺伝子130個 を抽出し 、そ の う ち21遺 伝子 が 神 経細 胞 に関 連 す る遺 伝子であ り、主に神 経伝達物 質受容体 、神経 成 長因子、 二ユー口ベ プチド、 イオンチ ャンネル 、細胞骨 格・細胞 接着因子に分類され た。
次 に、 抽 出し た 神 経細 胞 に関 連 す る21遺 伝子の相 関関係を分 析する目 的で、そ れぞ れ の 遺 伝 子 に つ い てSCLCとAdLCの 比 較 で そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 と 相 関 係 数0.75以 上 で 発 現 バタ ー ンが相関 する遺伝 子を抽出 した。こ のうち、上 述の130遺伝 子に含ま れるも ののみについて隣接行列を作成し、クラスター分類を行った(Correlation Profiling)。つ ま り 、他 の129個の 遺 伝 子と の 相関 が あ るか な いか で21遺 伝 子 をグ ルー プ分けし たこ と になる。 この結果、 他の遺伝 子との関 連でクラ スター分 類した場 合、各遺伝子が機能 的 に よく ま と まっ て 分 類さ れ た。 次 に 、21遺伝子 をそれぞれ の実際の アレイの 発現値 を もとにク ラスター分 類を行っ たが、こ の結果で は、遺伝 子機能的 にはまとまりのない 分類しか得られなかった。
21遺 伝 子間 の 関 係を 明 らか に す る目 的で 、これら 遺伝子の実 際の発現 値をもと にグ ラ フ イカ ル ・ モデ リ ン グを 行 った 結 果 、21遺伝子 の関係を比 較的簡単 なグラフ で表す こ とができ た。グラフ で表され た関連構 造と発現 値をもと におこな ったクラスター分類 の 結果を比 較してみる と、同一 クラスタ ーとして 分類され たいくっ かの遺伝子は、グラ フ 上でもそ れぞれ辺で っながれ ており、 両者・は 類似した 結果であ った。この21遺伝子 の 関連構造 モデルがそ れら遺伝 子間の発 現制御を 反映して いるかど うかを検討するため に 、それぞ れの遺伝子 のプ口モ 一夕ー領 域とプ口 モーター に結合す る転写因子を検索し た 結果、文 献及びプ口 モーター スキャン にてプ口 モーター 領域と転 写因子を確認できな か っ た4遺 伝 子 以外 で 、1遺 伝子 を 除く 全 て にSP‑1とAP‑2が 共通 し て いた 。 また 、 グ ラ フイカル ・モデリン グによる 関連構造 モデルを 明らかに 裏付ける 結果は得られなかっ たが、Correlation Profilingによってクラスター分析した結果で同じクラスターとして分 類 さ れ て い る 遺 伝 子 間 で は プ 口 モ ー タ ー 構 成 要 素 が 類 似 し て い た 。
考察とまとめ
本 研 究 で は 、SCLC細 胞 株 でAdLCと 比 較 し て 有 意に 発 現が 高 か った 遺 伝子 が130個 認め ら れ 、そ の うち21個が 神 経 内分 泌に関 連する遺 伝子であ り、これ は肺小細 胞癌の 生物 学 的 特徴 を 示す 結 果 とい え る 。また 、これら21遺伝子の プロモー ター構成 要素を 検討 し た 結果 、SCLCにお け る 神経 関 連遺伝子 発現の分 子機構の ーっとし て、Sp‑lおよ びAP‑2のtransactivationが関与することが示唆された。
21遺伝 子 と130遺 伝 子の 相 関 の有 無 でク ラ ス ター 分 類 を行 っ たも のは、21遺伝子そ れぞ れ と発 現パター ンが類似 する遺伝子 群のうち130遺伝子に 含まれる もののみ 抽出し て相 関 関 係の あ るも の を1、 無い も のを0と してクラ スター分 類を行っ ている。 したが って 、 他の129遺伝子と の関連の 有無のみで 分類した ことにな り、他の 遺伝子と の関連 性が類似 する遺伝 子は機能 的に類似 したもの として分類 されたと 考えられる。このよう なCorrelation Profiling (相関プ口フイール解析)は、遺伝子そのものの発現データだけ を元に遺 伝子を分 類するも のではな く、遺伝 子の発現値 が類似し ているようなグループ の要素遺 伝子まで データを 還元し、 それを遺 伝子の特徴 として分 類することになる。本 研究によ って遺伝 子の発現 値そのも のによる 分析や個々 の遺伝子 間の関係による分析で は見出せ なかった 遺伝子の 機能や遺 伝子発現 の制御を行 っている プロモーターの構成要 素を反映する結果を得ることができた。
SCLC における神経関連遺伝子発現の分子機構のーつとして、Sp‑l およびAP‑2 の
transactivation が関与することが示唆された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
cDNA アレイデータのCorrelation Profiling による 肺小細胞癌細胞株での
神 経 内 分 泌 関 連 遺 伝 子 発 現 の 発 現 機 序 解 析
肺 小 細 胞 癌(SCLC)は 、 そ の 生 物 学 的 特 性 の ひ と っ と し て 神 経 内 分 泌 機 能 を 示 す こ と が 知 ら れ て い る 。 な か で もACTH,GRPNSE,NCAMな どtま 免 疫 組 織 化 学 的 に 確 認 す る こ と が で き 、 病 理 学 的 鑑 別 診 断 の 助 け と な る 。 し か し な が ら 、 こ う い っ たSCLCで の 神 経 内 分 泌 関 連 遺 伝 子 発 現 の 分 子 機 構 は 全 く 不 明 の ま ま で あ る 。
本 研 究 に お い て は 、SCLCに 特 異 的 に 発 現 が 高 い 遺 伝 子 を 抽 出 す る 目 的 で 、6系 のSCLC 由 来 細 胞 株 の cDNAア レ イ デ ー タ を6系 の 肺 腺 癌 、 16系 の 乳 癌 、12系 の 大 腸 癌 、9 系 の 胃 癌 、11系 の 肝 細 胞 癌 由 来 細 胞 株 の ア レ イ デ ー タ と 比 較 し た 。 そ の 中 の 神 経 内 分 泌 関 連 遺 伝 子 に つ い て 、 遺 伝 子 間 の 関 係 を 明 ら か に す る 目 的 で そ れ ら 遺 伝 子 ア レ イ デ ー タ の 細 胞 株 バ 夕 一 ン の 分 布 の 類 似 度 に よ っ て 分 類 し 、 グ ラ フ イ カ ル ・ モ デ リ ン グ を 用 い て 解 析 し た 。 こ の よ う な 操 作 に よ り 得 ら れ た 関 係 と そ れ ら 遺 伝 子 の プ □ モ ー タ ー 構 成 要 素 を 比 較 す る こ と に よ り 神 経 内 分 泌 関 連 遺 伝 子 発 現 の 分 子 機 構 の 解 明 を 試 み た 。 SCLCと 肺 線 癌(AdLC)、 乳 癌 、 大 腸 癌 、 胃 癌 、 肝 細 胞 癌 のcDNAア レ イ デ ー タ を 比 較 し 、 こ の う ち 、2つ 以 上 の 組 み 合 わ せ で 発 現 値 が 高 か っ た 遺 伝 子130個 を 抽 出 し 、 そ の う ち21遺 伝 子 が 神 経 細 胞 に 関 連 す る 遺 伝 子 で あ り 、 主 に 神 経 伝 達 物 質 受 容 体 、 神 経 成 長 因 子 、 ニ ュ ー 口 ペ プ チ ド 、 イ オ ン チ ャ ン ネ ル 、 細 胞 骨 格 ・ 細 胞 接 着 因 子 に 分 類 さ れ た 。 次 に 、 抽 出 し た 神 経 細 胞 に 関 連 す る21遺 伝 子 の 相 関 関 係 を 分 析 す る 目 的 で 、 そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 に つ い てSCLCとAdLCの 比 較 で そ れ ぞ れ の 遺 伝 子 と 相 関 係 数0.75以 上 で 発 現 バ 夕 一 ン が 相 関 す る 遺 伝 子 を 抽 出 し た 。 こ の う ち 、 上 述 の130遺 伝 子 に 含 ま れ る も の の み に つ い て 隣接 行列 を作 成し 、ク ラス ター 分類 を行 った (Correlation Profiling)。 この 結果 、 他 の 遺 伝 子 と の 関 連 で ク ラ ス タ ー 分 類 し た 場 合 、 各 遺 伝 子 が 機 能 的 に よ く ま と ま っ て 分 類
之 也
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紘 哲
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藤 内
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加 守
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
副
された。次に、21遺伝子をそれぞれの実際のアレイの発現値をもとにクラスター分類を 行ったが、この結果では、遺伝子機能的にはまとまりのない分類しか得られなかった。
21遺伝子間の関係を明らかにする目的で、これら遺伝子の実際の発現値をもとにグラ フィカル・モデリングを行った結果、21遺伝子の関係を比較的簡単なグラフで表すこと ができた。グラフで表された関連構造と発現値をもとにおこなったクラスター分類の結果 を比較してみると、両者は類似した結果であった。神経内分泌に関連する21遺伝子のプ 口モ一夕ー領域とブ口モーターに結合する転写因子を検索した結果、文献及びプ口モータ ースキャンにてプ口モーター領域と転写因子を確認できなかった4遺伝子以外で、1遺伝 子を除く全てにSP‑1とAP‑2が共通していた。また、Correlation Profilingによってクラス ター分析した結果で同じクラスターとして分類されている遺伝子間ではプ口モーター構成 要素が類似していた。
21遺伝子と130遺伝子の相関の有無でクラスター分類を行ったものは、他の遺伝子と の関連の有無のみで分類したことになり、他の遺伝子との関連性が類似する遺伝子は機能 的に類似したものとして分類されたと考えられる。このようなCorrelation Profiling(相関 プ口フイール解析)は、遺伝子そのものの発現データだけを基に遺伝子を分類するもので はなく、遺伝子の発現値が類似しているようなグループの要素遺伝子にまでデータを還元 し、それを遺伝子の特徴として分類することになる。本研究によって遺伝子の発現値その ものによる分析や個々の遺伝子間の関係による分析では見出せなかった遺伝子の機能や遺 伝子発現の制御を行っているプ口モ一夕ーの構成要素を反映する結果を得ることができた。
こ う い っ た 分 類 法 は 遺 伝 子 ネ ッ 卜 ワ ー ク の 解 析 に 有 用 で あ る と 考 え ら れ た 。 本研究では 、SCLC細胞株でAdLCと 比較して有 意に発現が 高かった遺伝子が130個認 められ、そのうち21個が神経内分泌に関連する遺伝子であり、これ|ま肺小細胞癌の生物 学的特徴を示す結果といえる。また、これら21遺伝子のプ口モーター構成要素を検討し た結果、SCLCにおける神経関連遺伝子発現の分子機構のーっとして、Sp‑lおよびAP―2 のtransactivationが関与することが示唆された。
口頭発表において今村教授よルグラフイカルモデリングとクラスター分類の長所と短所、
予後や病状といった臨床との関連性、他の癌での神経内分泌関連遺伝子発現の意義につい て質問があった.ついで加藤教授より臨床応用の可能性、Sp‑l,AP‑2の癌化・増殖との関 連性、SCLCと肺腺癌の相違について質問があった.また守内教授より臨床材料を使った cDNAアレイデータとの比較、Correlation Profilingの方法論、神経内分泌関連遺伝子の転 写因子結合部位について質問があった。いずれの質問に対しても、申請者は主旨をよく理 解し誠意ある回答をしていた。
本研究はSCLCにおける神経内分泌関連遺伝子発現の解明の基礎となることが期待され 審査員一同,この成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ申請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る 者 と 判 断 し た 。