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博 士 ( 医 学 ) 香 坂 雅 子 学 位 論 文 題 名

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Academic year: 2021

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博 士 ( 医 学 ) 香 坂 雅 子

学 位 論 文 題 名

側 頭 葉 て ん か ん に お け る て ん か ん 性 異 常 波 の 出 現 様 式 お よ び 睡 眠 構 造 に つ い て

ー 終夜 脳波 記録 によ る 検討―

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

I研究目的

  原発全般てんかん,あるいは口―ランドてんかんや側頭葉てんかんなどの一部に発作の好発時 刻や発作の起こりやすい睡眠段階が存在することが知られており,なかでも側頭葉てんかんは睡 眠賦活により,てんかん波が出現しやすいことから,睡眠がてんかん波に及ぼす影響あるいはて んかん波が睡眠に与える影響にっいて興味がもたれてきた。しかし,なお一定の見解が得られて いない。これまでの研究の多くは1夜目のみの検討であることや検査時のみの断薬例あるいは,

抗てんかん薬を服用中の検査が多く,薬物の影響にっいて考慮されていない。また,実験室にお け る 記 録 の た め , 必 ず し も 日 常 生 活 下 で の 睡 眠特 性を 把 握し てい ると はい い 難い 。   そこで本研究では,側頭葉てんかん例に,以下の点に注意を払いながら,1)睡眠中のてんか ん波の出現様式,2)てんかん発作が出現する睡眠段階,3)睡眠特性の3点にっいて検討を加 えた。すなわち,我々の開発した携帯型脳波記録装置を用い,自室における日常の睡眠を記録す ることにより,従来の方式による実験室効果や拘束にともなう心理的負荷が睡眠特性に与える影 響を極力避けた。また,薬物の影響を明らかにするために未治療群にっいても検討を行い,抗て んかん薬服用群ならびに正常対照群との比較を行った。このようにして得られた所見にっいて,

服薬の影響ならびに発作頻度,罹病期間,てんかん焦点の局在との関連にっいても検討を加え,

難冶 てん かん の ひと っで ある 側頭葉てんかんと 睡眠との関係を明らかにし ようとした。

n対象と方法

  対象は17歳から62歳の側頭葉てんかん23症例(女性14例,男性9例)である。発症年齢は15歳 以上が18例で,特に20歳以上になってからの発症は15例であった。4例に側頭葉の腫瘍性病変が

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認めら れ,1例は 結節 性硬化 症であ った。 初回 検査の 時点で 抗てん かん薬 を服 用して いなか った 9例 を未服 薬群と し, 服用し ていた14例を 長期服 薬群と した。 終夜 脳波記 録は未 服薬群 では服 薬 前と服 薬後 に施行 し,長 期服薬 群で は服薬 中に行 った。 終夜脳 波は ,携帯型脳波記録装置を用い て 自宅 あ る い は 自室 に おい て連続2夜 ,症例 によっ ては4夜に わた り記録 した。 健常対 照群は , 年齢, 性別 を合わ せ同様 の方法 を用 いて自 宅で終 夜脳波 を施行 した 。記録手技ならびに睡眠段階 の 判定 はRechtschaffen and Kalesの基 準 に 従 い ,睡 眠 段 階 の 判定 は2名の 判定者 により20秒 毎に決 定し た。

  てん かん波 は背景 活動か ら突 出した 単ーの 棘波, 鋭波 ,鋭徐 波複合 を対象とし,各睡眠段階に お ける1分 間 あ たり の 出現 個数 を調べ た。ま た,1分間 あたり の個 数を各 睡眠周 期毎に プ口ッ ト し ,睡 眠 周 期 に よる 出 現 様 式 を 検討 し た 。 睡眠 特性の 統計処 理はWilcoxon signed rank test を用い て2群比較 を行 った。

m結  果

  1. てんか ん波の 出現様 式   1)睡眠 段階に よる検 討

  a. 未 服 薬 群 : 全 例 未 服 薬 時 に お い て て ん か ん 波 の 出 現 頻 度 は ,REM睡 眠 で 滅 少 し , NREM睡 眠 で 増 加 し た 。 ま た ,stagel,2,3十4と 睡 眠 段 階 が 深 く な る に っ れ て , て ん か ん波 の 出 現 頻 度は 増 加 し ( 夕イ プA), この 傾 向 は2夜に共 通して 認め られた 。服薬 後の検 討で も服薬 前と同 様のパ ター ンを示 した。

  b.長 期 服 薬 群 :14例 の う ち ,12例 で はREM睡 眠 で 減 少 し ,NREMで 増 加 し た 。 他 の2例 で は 逆 にNREM睡 眠 よ り もREM睡 眠 で 増 加 し た ( タ イ プD)。 先 の12例 の う ち タ イ プAの 様 式 を 示 す も の は ,9例 認 め ら れ た 。 他 の3例 で は ,1例 がNREM睡 眠 が 深 く なる と て ん か ん波 が 滅 少 し ( 夕 イ プC),2例 は 睡 眠 段 階 に よ る 変 動 は 明 ら か で は な か っ た ( タ イ プB)。 2)睡眠周 期によ る検 討

  a. 未 服薬 群 : 未 服 薬 時に は8例 中7例 に お い て ,て ん か ん 波 の出 現 頻度 は第1睡眠 周期に 多 く,そ の後漸 減して いく 傾向を 示した。服薬後の記録では,どの睡眠周期でも未服薬時にくらべ,

てん かん波 の減 少が認 められ ,特に 第1睡眠周 期で の減少 が著明 であっ たため ,睡 眠周期 による 変動は 明瞭で なくな った 。

  b.長 期服 薬 群 :14例 中12例 が第1睡 眠 周 期に 多 く 出 現 する パ タ ー ンを 示した 。他 の2例 のう ち,1例 は て んか ん 波 の 出現頻 度と 睡眠周 期との 関連は 認め られず ,1例は, 睡眠周 期が進 むに

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っれ出 現頻度 が増 加し, 後半減 少する 凸型の パタ ーンを とった 。   2. 発作発 射の発 現と 睡眠段 階

  a. 未 服 薬 群:9名21夜の 終 夜 脳 波 記録 の う ち ,4名8夜 に 計12回 の 発 作 発射 が 認 め ら れ6回 がstage REMに , 他 の6回 がstage2に 出 現 し て い た 。stage2で 発 作 が 発 現 し た6回 の う ち 4回tま5分 か ら8分 後 にstage REMが 出 現 し て い た 。 服 薬 後 の 記 録 で は2名3夜 に6回 の 発 作発射 が認め られ ,うち4回 はstage REM,2回はstage2であ った。

  b. 長 期 服 薬 群 : 14名29夜 の記 録 で ,2例に4夜8回 の発 作 発 射 が 検出 さ れ た 。stage REM が5回 ,stage2お よ びstage3が 各1回 で あ っ た 。 こ の う ちstage2,3に 生 じ た 発 作 発 射 の7分 後 にstage REMが 出 現 した 。 結 局 両 群合 わ せ る と ,7例 に み ら れた26回 の うち24回92.

3% に お い てREM睡 眠 中 に あ る い はREM睡 眠 に 近 接 し て , 発 作 発 射 が 出 現 し て い た 。   3. 睡眠構 造

  a.未 服薬群 :未 服薬時 の睡眠 特性を 対照 群と比 較した ところ ,てん かん 群では 睡眠効 率の低 下, 入 眠 潜 時 の 延長 , ま た睡 眠期間 に対す る中途 覚醒 の増加 ,stage4の 滅少が 有意 に認め られ た。っ いで, 抗て んかん 薬服用 後の睡 眠特性 を服 薬前と 比較し たがい ずれ の睡眠パラメータにつ いても 両群の 間に 有意差 は認め られな かった 。

  b.長 期 服薬 群 : 終 夜 脳波 記録時 の夜 間ある いは日 中に発 作の 無かっ た10例に っい て対照 群と 比較し た結果 ,て んかん 群では 有意に睡眠効率が低下し,中途覚醒が多.く認められた。しかし,

他の睡 眠パラ メー タには 差異は 認めら れなか った 。

W考  察

  側 頭 葉 て んか ん に お け るて ん か ん 波 は, 浅 い 睡眠段 階(stage1,2)で 増加す るとい う報告 と,睡 眠が深 くなる と増 加する という 報告が ある。 てん かん外 科を目 的とし た海馬・扁桃核等の 深 部 脳 波 に よ る 終 夜 脳 波 記 録 の 研 究 で は , て ん か ん 波 はREM睡 眠で 滅 少 し ,NREM睡 眠 では 睡眠が 深くな ると増 加し たと報 告して いる。 .すな わち本研究で認められたタイプAと同様の出現 様式で あった 。また ,少 数例で あるが 海馬近 傍に腫 瘍のみられた症例ではタイプAの様式を示し,

側頭 葉 外 側 皮 質の 腫 瘍 例 で は逆 にREM睡眠 で て ん か ん波 の 出 現 頻 度が 最 大 値 を 示 した こ と か ら,側 頭葉病 変の局 在が このよ うな睡眠段階.とてんかん波の関係に一部関与していることが考え られる 。この 出現様 式は 抗てん かん薬 の影響 により 変化 するこ とはな く,発 作頻度,罹病期間・

てんか ん波の 出現部 位と の関連 は認め られな かった 。

  睡 眠 中 の 発作 発 射 と 睡 眠段 階 に っ い ては , 抗 てんか ん薬 の有無 にかか わらず ,REM睡眠 との

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関 連か強 く示唆 され ,REM睡眠の 発現す る機構 が発 作を引 き起こ してい る可能 性も 推寮さ れた。

  睡 眠構造 にっ いては ,睡眠 環境に 配慮 して記 録した にもか かわら ず, 中途覚醒の増加が未服薬 群 ,長期 服薬群 に共 通して 認めら れた。 これは ,睡 眠構造 に抗て んかん 薬の服用が影響する可能 性 が少な いこと を示 唆し, また夜 間発作 が出現 した 場合, 持続時 間が長 ければ中途覚醒が増加す る など当 然睡眠 構造 に影響 を及ぼ すが, 夜間発 作が 無い場 合でも ,中途 覚醒は対照群に較べて有 意 に増加 してい たこ とから ,この睡眠構造の変化は側頭葉てんかんに特徴的な所見と考えられた。

学位論文審査の要旨

  てん かん発 作の一 部に好 発時 刻のあ ること や発作 の起こ り易 い睡眠 段階が 存在することが知ら れてお り, なかで も側頭 葉てん かんは 睡眠 賦活に より, てんか ん波 が出現 しやすいことから,睡 眠がて んか ん波に 及ばす 影響あ るいは てん かんが 睡眠に 与える 影響 にっい て興味がもたれてきた が,な お一 定の見 解が得 られて いない 。こ れまで の研究 の多く は記 録日数 ,睡眠段階判定基準が 異なる こと や,検 査時の みの断 薬例あ るい は,服 薬例な どが対 象で あった 。本研究では,実験室 効果や 拘束 にとも なう心 理的負 荷が睡 眠に 与える 影響を 極力避 ける ように 心がけ,また,薬物の 影響を 明ら かにす るため に服薬 群に加 えて 未服薬 群にっ いても 検討 を行っ た。さらに発作頻度,

罹病期 間, てんか ん焦点 の局在 がどの よう に影響 するか を検討 し, 難冶て んかんのひとっである 側頭葉 てん かんと 睡眠と の関係 を明ら かに しよう とした 。対象 は側 頭葉て んかん23例で,未服薬 群9例 ,長 期服薬 群14例 である 。終夜 脳波記 録は 我々の 開発し た携帯 型脳 波記録 装置を 用いて 自 宅 ある い は 自 室 にお い て 連 続2夜 ,あ るいは4夜 にわた り施行 した。 健常 対象群 は,年 齢,性 別 を 合わ せ 同 様 の 方法 で 行 っ た 。睡 眠 段 階 の 判 定はRechtschaffen and Kalesの 基準に 従い ,2 名 の判 定 者 に よ り20秒 毎 に 決定 し , 統 計 処理 はWilcoxon signed rank testを 用いた 。基 礎疾 患 とし て は3例 に側 頭 葉 の 腫瘍が ,1例に結 節性 硬化症 が認め られた 。結 果であ るが, 睡眠中 の て んか ん波の 出現 様式に っいて 未服薬 群で は全例 てんか ん波の 出現頻 度は ,REM睡眠で 減少し , NREM睡 眠 で増 加 し た 。 また , 睡 眠 段 階 が深 く な る に っれ , て ん か ん波 の 出現頻 度は増 加し ,

格 一 雄         研 和 下 間

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

こ の 傾 向 は2夜 に共 通して 認め られ, 服薬後 も服薬 前と同 様の パター ンを示 した。 長期 服薬群 の 14例 の う ち ,12例 はREM睡 眠 で 減 少 し ,NREM睡 眠 で 増 加 し た 。 そ の う ち9例 が 未 服 薬 群 と 同 様 の パ タ ー ン で あ っ た 。14例 の う ち の残 り の2例 ではREM睡 眠で の 減 少 が 認め ら れ な か っ た 。 睡 眠 周 期に よ る 検 討 では 未 服 薬 群 の8例 中7例 が, ま た 長期服 薬群 の14例中12例が 第1睡眠 周 期 に 多 く 出 現 す るパ タ ー ン を 示し た 。 発 作 発射 は 両 群7例に み ら れ た26回 の う ち24回 が , REM睡 眠 中 に あ る い はREM睡 眠 に 近 接 し て 出 現 し てい た 。 睡 眠 構造 で は , 未 服薬 群 , 長 期 服 薬 群とも に健 常対照 群に較 べて睡 眠効 率の低 下,中 途覚醒 の増加 が共 通して 認めら れた。以上の 結 果から ,側 頭葉て んかん におけ るて んかん 波の出現様式は,睡眠段階と関係することがわかり,

こ の出現 様式 は抗て んかん 薬の影 響を うけず ,発作 頻度・ 罹病期 間・ てんか ん波の 出現部位との 関 連も認 めら れなか った。 これま では 浅い睡 眠段階 で増加 すると いう 報告と ,睡眠 が深くなると 増 加する とい う報告 があっ た。し かし 海馬・ 扁桃核 等の深 部脳波 によ る終夜 脳波記 録の結果は,

本 研究と 同様 であり ,少数 例であ るが 海馬近 傍に腫瘍がみられた症例では同様のパターンを示し,

一 方 側 頭 葉 外 側 皮 質の 腫 瘍 例 で は逆 にREM睡 眠 で て ん か ん波 の 出 現 頻 度が 最 大 値 を 示し た こ と から, 側頭 葉病変 の局在 がこの よう な睡眠 段階と てんか ん波の 関係 に関与 してい ることが推察 さ れ た 。 ま た, 睡眠 周期か らみた てんか ん波の 出現 様式で は,薬 剤によ り変 動し, 第1睡眠周 期 に おける 特徴 は他の てんか ん類型 と類 似して いた。 睡眠中 の発作 発射 と睡眠 段階に っいては,抗 て ん か ん 薬 の有 無 に か か わら ず ,REM睡 眠 と の 関 連が 強 く 示 唆 され , .REM睡 眠 の発 現す る機 構 が発作 を引 き起こ してい る可能 性も 推察さ れた。睡眠構造に影響を及ぼす因子として睡眠環境,

薬 物,夜 間の てんか ん発作 が考え られ る。本 研究で は睡眠 環境に 配慮 して記 録した にもかかわら ず ,中途 覚醒 の増加 が未服 薬群, 長期 服薬群 に共通 して認 められ た。 これは ,睡眠 構造に抗てん か ん薬は 直接 影響を 及ぼず ,また 夜間 発作が 無い場合でも中途覚醒は増加していたことから,.側 頭 葉てん かん に特徴 的な所 見と考 えら れ,本 疾患では睡眠構造にも障害のあることが示唆された。

  以上の 発表に 際し各 教授よ り質 問を受 け解答した。本間研一教授。(1)stage依存性と言うこと で あるが 時刻 依存に 関して 昼間睡 眠で の記録 を施行 したか どうか 。一 昼間睡 眠は深 睡眠まで至る こ とが難 しく ,施行 していない。(2)徐波睡眠でてんかん波が増加するということであるが徐波は 加 齢とと もに 滅少す るので ,年齢 が高 くなる とてん かんは 減少す るの か。ー 高齢発 症もあり一概 に 言えな い。 なお, てんかん波の推移とてんかん発作の推移は必ずしも平行しない。(3)患者が徹 夜 を し て , 翌日reboundで 徐 波睡 眠 が 増 え ると 発 作 が 増 える と考 えられ るか。 ー睡眠 不足 によ り 発作が 増加 するこ とが知 られて いる が,そ のメカニズムにっいては不明である。斉藤和雄教授。

(1) 対象と なった てん かん例では実際の発作はどうであったのか。―全例,複雑部分発作を認め,

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一部は二次性全般化発作を認めた。(2)2人による睡眠段階の判定であるが違いにっいてはどの様 に対処したのか。‑2回の読み合わせで討議の上決定している。(3)睡眠段階が深くなるにっれて んかん波は増大するが,睡眠のメカニズムとてんかん波出現の頻度との関係はどのようになって いるのか。―てんかん類型が異なるとてんかん波の出現様式も異なることから,たいへん興味の ある問題で,まだ不明の点が多く,このような研究め積み重ねで次第に明らかになるのではない かと考えている。

  本研究は,多数の側頭葉てんかん症例にっいて当教室で開発した携帯型脳波記録装置により終 夜脳波を反復測定し,てんかん性異常波と睡眠段階との関連や睡眠構造の変化を明らかにしたも ので,てんかんの臨床的研究に寄与するところが大きく,博士の学位に値するものと判定した。

参照

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