博 士 ( 医 学 ) 佐 藤 浩 樹
学 位 論 文 題 名
肥 大 型 心 筋 症 の 原 因 遺 伝 子 の 連 鎖 解 析 に 関 す る 研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
〔 緒 言〕
肥 大 型 心 筋 症(hypertrophic cardiomyopathy二 二HCM)は , 心 筋 肥大 を 来 た し ,重 症 例 で は , 末期に 心臓 の拡張 不全を 来す原 因不明 の心 筋疾患 である 。5,10年生 存率 はそれ ぞれ90,80
% と 報 告 さ れ て い る 。 死 因の 過 半 数 に 突然 死 が 占 め ,必 ず し も 予 後 は良 好 と は 言 えな い 。 HCMは 半 数 近 くの 患 者 で 家 族 内発 生 を 認 め ,一 般に 常染色 体優 性遺伝 形式を とるこ とが判 明 し ている 。近年 の遺 伝子工 学の進 歩に伴 い,種 々の 遺伝性 疾患に 対し遺 伝子 レベルの解析が進め ら れてい る。原 因遺 伝子が 未知の 場合, 遺伝子 座位 が明ら かな既 知の標 識遺 伝子との連鎖を見つ け て原因 遺伝子 にせ まるこ とを逆 行遺伝 学とい う。 従来, 多型標 識遺伝 子が 少なく実用的ではな か っ た が , 最 近に な りDNAを 制 限 酵 素 によ っ て 消 化 した さ い に 生 じる 断 片 長 の 多型 を 利 用 し た 連 鎖 解 析 法(RFLP法 ) に よ り 実 用 化 さ れ た 。 こ の 逆 行 遺 伝 学の 手 法 に よ り,Duchenne型 筋 ジスト ロフィ 一, 嚢胞性 線維症 等の遺伝性疾患の原因遺伝子が同定,単離された。最近にナょル ハ ー バ ー ド 大 学のSeidman,C,E. を 中 心と し た グ ル ー プは , フ ラ ン ス系 カ ナ ダ 人 の家 族 性 HCMの2家 系 で 原 因 遺 伝 子 が 染 色 体14番 目 上 の心 筋 ミ オ シ ンロ 重 鎖 遺 伝 子のpoint mutation に 基づく もので ある ことを 報告し た。し かしな がら ,心筋 ミオシ ンロ重 鎖遺 伝子と連鎖の無い家 系 も 同 時 に 報 告 し て お り ,HCMの 原 因 遺 伝 子 に っ いて 現 在 な お 意見 の 一 致 を 見て い な い 。 本 研 究 で は , 日 本 人 に お け るHCM多 発 家 系 を調 査 し ,HCM原 因 遺 伝 子の 局 在 を 連 鎖解 析 を 用 いて 検討し ,新た ナょ知 見を 得たの で報告 する。
〔 対象 と方法 〕
Informed consentで 得 られ た 家 族 歴 濃厚 なHCM家系 を 対 象 と した 。 あ ら か じめ 用 意 し た 問 診 カ ー ド に 従 い, 自 覚 症 状 ,既 往 歴 に っ き調 査 し た 。 高血 圧 症(140/90mmHg)等,二 次性心 筋 肥 大を 来す各 種疾患 は調査 対象 から除外した。その後,心電図検査,心エコー図検査を施行した。
心 工 コ 一 図 検 査に よ るHCMの 診 断 は ,断 層 心 工 コ 一 図法 に よ り 非 対称 性 中 隔 肥 厚, 心 尖 部 肥 大 ある いは自 由壁に 限局性 の明 瞭な肥 厚を呈 するも のとし た。
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以上より,HCM家系,13家 系103人,うちHCMと診断した患者41例を対象とした。その他,
家族歴を有しない散発性HCM 18例も対象とした。
次に,対象者の末梢血から 有核細胞を分離し,さらに高分子DNAを消化し,サザンブロツ テング法によルナイ口ンフィルターにアルカリトランスファーする。その後,プレハイブリダイ ゼイション,ラベリングしたDNAマーカ―とのハイブリダイゼイション,ウオッシングを施 行し,RFLP判定を行った。連 鎖解析判定には,コンピュ ータプログラムLIPEDを用い た。
〔結 果〕
制限酵素Msplにより,染色 体18番,18 q11.2―12.1に 局在する遺伝子であるPALB(プレ アルブミン遺伝子)を用いた 場合Al (1. 7kb),A2(0. 93kb)の2っの対立遺伝子を認め,
交叉率‑0においてロッドスコ ア最大値3.672が得られ,HCM原因遺伝子がPALB領域内 もし
.くはその近傍に存在することを強く示唆する結果が得られた。
制 限酵 素BamH1によ り,心 筋ミオシン重鎖遺伝子(pSC14)を用いた場合,多型性を 認め なかった。
制限酵素Taqlにより,心筋 ミオシンロ重鎖遺伝子の近 傍に局在するCR1―L436(D1426) を用いた場合,Bl (4. 2kb),B2(2. 2kb十1.8kb)の2っの対立遺伝子を認めた。対象とし た13家系を連鎖解析した結果 ,3家系でHCM原因遺伝子と の間に交叉を認め,原因遺伝子と の連鎖は否定された。
同 様に ,制 限酵 素Taqlに よりCR1―L329(D14S 25),TCRAを用いた場合,いずれの 口ッ ド ス コ ア も 最 大 値 が ―2以 下 と な りHCM原 因 遺 伝 子 と の 連 鎖 は 否 定 さ れ た 。
〔考 察〕
日本人の家族性HCM家系の 連鎖解析において,染色体18番に局在するPALB(プレア ルブ ミン)をプローブとして用いた場合,最大ロッドスコア−−3. 672と,HCM原因遺伝子がPALB 領域内あるいはその近傍に存在することが強く示唆される結果が得られた。PALBは甲状腺ホ ルモンを運搬する蛋白である卜ランスサイレチンをコードする遺伝子であり,その領域内の point mutationを起因として生じる疾患としてアミロイドーシスが報告されている。アミロイ
否定的である。
一方,ハーバード大学のSeidman,C,E,らのグルー プは,HCM原因遺伝子がD14S 26と 極めて密接な関係を有すること,さらに,D14S 26の近傍に局在する心筋ミオシンロ重鎖遺伝子 (pSC14)領域 内にpoint mutationが存在 する二家系を報告した。同時に,原因遺伝子が心筋 ミオシン重 鎖遺伝子と連鎖していない家 系も報告しており,HCMが遺伝的に不均一な疾患で あることを示した。
本研究に おいて,心筋ミオシン口重鎖 遺伝子(pSC14)をDNAプ口ー ブとして用いた場合,
sporadicなHCM患者18人を含めて断片長 の多型性は得られず,日本人の家族性ならびにspo‑
radicなHCM患者 に おい て,Seidman,C.E. の 報告し たようなタイプのpoint mutation は認められなかった。
同様に,染色体14番目上の心筋ミオシン口重鎖遺伝子の近傍に局在するD14S 26,D14S 25, TCRAの検討も加えたが,い ずれの遺伝子のHCM原因遺伝 子との連鎖は認められなか った。
以上より ,今回対象とした日本人の家 族性HCMの原因遺伝子に関しては,心筋ミオシン口 重鎖遺伝子 領域のpoint mutationである 可能性は低く,家族性HCMの原因遺伝子が複数存在 することが示唆された。
〔結 論〕
本研究で調査対象とした日本人の家族性肥大型心筋症13家系の患者ならびにその家族の連鎖解 析を検討し以下の結果が明らかとなった。
(1)心筋ミオシン口重鎖遺伝子との連鎖は認められなかった。
(2)心筋 ミオシン口重鎖遺伝子の近 傍に局在するD14S 26,D14S 25,TCRAとの連鎖は認 められなかった。
(3) HCM原 因 遺伝 子がPALB領 域内 ある いは その 近 傍に 局在 する こ とが 示唆 され た。
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学位論文審査の要旨
肥大 型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy二二HCM)は,心筋肥大を来たし,重症例で は,末期に心臓の拡張不全を来す原因不明の心筋疾患である。5,10年生存率はそれぞれ約90, 80%と報告されているが,死因の過半数に突然死が占め,必ずしも予後は良好とは言えない。成 因にっいては不明だが,HCMは約半数で家族内発生を認め,一般に常染色体優性遺伝形式をと るくとが判明している。本研究では,日本人におけるHCM多発家系にっいて,RFLP (restiction fragment length polymorphism)法による連鎖解 析を施行し,HCM原因遺伝子 の局在を検 討した。
対象 者選択のため,当科でフオ ローしているHCM患者のうち ,今回の研究に関して,In‑
formed consentの得られた患者およびその家族を対象とした。あらかじめ用意した問診力一ド に従い,自覚症状,既往歴等にっき調査し,その後,心電図検査,心工コ一図検査を施行した。
HCMの臨床診断は,高血圧症等の二次性心筋肥大を来す疾患が無く,心エコ一図検査にて,非 対称性中隔肥厚,心尖部肥大あるいは自由壁に限局性の明瞭な肥厚を呈するものとした。以上の 臨 床診断過程より,HCM多発家系,13家系103人, うちHCMと確定しえた患者41例を対象と した。 その他,家族歴を有しない散発性HCM 18例も対象とした。遺伝学的方法においては,
患者お よびその家族の末梢血から 有核細胞を分離し,さらに高分子DNAを抽出し,制限酵素 により 高分子DNAを消化し,生じた 断片長の多型を,アガ口ース電気泳動し,ナイロンフィ ルター にトランスファーし,染色 体上の位置が決定されている各種DNAプ口ーブを標識後,
ハイブリダイゼイションを施行した。その後,洗浄し,オートラジオグラフィーによる検出をし
顕
三
暹
信
畠
巻
北
西
葛
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
し た 結 果, 口 ッ ド ス コア は 交 叉 率 二 ニOに お い て 最小 値 − ―Doが 得 ら れHCM原因遺 伝子と の連 鎖 を 認 めな か っ た 。 さら に , 心 筋 ミオ シ ン ロ 重 鎖 遺伝 子 の 近 傍 に局 在 す るD14S 25,TCRAの 検 討 に お い て も , 口 ッ ド ス コ ア はい ず れ も 交 又率‑0に お いて 最 小 値 が ―2以 下 と な り,HCM 原 因 遺 伝子 と の 連 鎖 を認 め な か っ た 。制 限 酵 素Msplに よ り, 染 色 体18番 に 局在す るPALB( プ レ ア ル ブ ミ ン 遺 伝 子 ) をDNAプ 口 ー ブ と し て 用 い た 場 合 ,Al(1.7kb) ,A2(0. 93kb)の 2っ の 対立 遺 伝 子 を 認め た 。 対 象 とし た 家 族 性HCM13家 系を 連 鎖 解 析 した 結 果,口 ッドス コア は 交 又 率ニ二 二Oにおい て最大 値3. 672が 得られ ,HCM原因遺 伝子 がPALB領 域内あ るいは その近 傍に 存在 するこ とを強 く示唆 する結 果が 得られ た。
以 上 の 結 果 よ り ,HCM原 因 遺 伝 子 と して ,Seidman,C,E. ら の 染色 体14番の 報 告 と 異 な り, 染色 体18番に 原因遺 伝子 が存在 するこ とが示 唆され た。
口 頭 発 表 の 審 査 会に お い て , 西教 授 よ り , 多型 の 解 析 に おけ る ア レ ル とHCM患 者 およ び 正 常 者 の 関 連 に っ い て , メ ン デ ル の 法 則 とRFLPと の 関 連 にっ い て , さ らにHCM原 因遺 伝 子 を PALBと 仮 定 し た 場 合 も ,HCMは 遺 伝 的 に 不 均 一 な 疾 患 で あ る 可 能性 の 有 無 に っ いて の 質 問 が な さ れ た 。 葛 巻 教 授 よ り ,PALBをDNAプ ロ ー ブ と し て 用 い た 場 合 ,Mspl以 外 の 制 限 酵 素 に っ い て の 多 型 の 有 無 に っ い て ,PALB領 域 近 傍 の 他 のDNAマ ーカ ー で の 検 討 にっ い て , さ ら にPALB自 身 をHCM原 因 遺 伝 子 と 仮 定 し た 場 合 のPALBのpoint mutationの 可 能 性 に 有 無 にっ い て の 質 問が ナ ょ さ れ た。 柿 沼 教 授 よ り,PALBをDNAプ口 ー ブ と 選 択 した 理 由 に っい て, さらに アミロ イドー シスと の鑑 別にっ いての 質問が なさ れた。 また, 小林教授より,ミ トコ ンド リアミ オパチ ―との 鑑別に っいての質問がナょされた。これらに対し,申請者は概ね妥当 な回 答を 行った 。その 後,行 われた 西, 葛巻両 審査教 授との 試問 におい ても, 概ね妥当な回答が なさ れた 。
本 研究 は , 日 本 人に お け る 肥 大型 心 筋 症 多 発家 系 を対 象に詳 細な遺 伝学 的検討 を行い ,HCM 原因 遺伝 子とし て報告 されて いる染 色体14番と異 なり, 新た に染色 体18番に 原因遺伝子が存在す る 可 能 性 を 明 ら か に し た も の で あ り , 有 意 義 な 研 究 と 考 え ら れ , 学 位 授 与 に 値 す る 。
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