博士(医学)渡部晃司 学位論文題名
ノ く ー キ ン ソ ン 病の 症 例 ・ 対 照研 究
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
[ 研 究 目 的 ]
tetrahydropyridine( MPTP) が 黒 質 線 条 体 系 の
ド ー パ ミ ン ニ ュ ー ロ ン を 中 心 と す る 神 経 細 胞 の 変 性 を 起 こ す こ と を Langstonら が 報 告 し て 以 来 , 本 症 の 病 原 物 質 の 検 索 が 盛 ん に な り , こ れ に 構 造 の 似 た tetraliydroisoqulnoline
(TIQ)が脳および一部の食品,に存在すること も確認された.
本症は20歳代から始 る長い潜行 過程を経て,
黒 質 の 細 胞 数 が1/5に 減 じ て よ う や く 臨 床 的 に 発 現 す る と 推 定 さ れ て い る . 本 研 究 で はこ の 点 を 踏 ま え な が ら , 幼 少 期 に ま で 遡 っ て本 症 に 罹 患 し 易 い 生 活 様 式 を 明 ら か に し , また 既 存 の 病 因 仮 説 を 疫 学 的 に 評 価 す る こ と を目 的とした.
[ 研 究 方 法 ]
直 接面 接によ る症例・対照 研究(期間;19 91年6月 から1992年8月)を用 いた.患者は 北 海 道 大学 神経内 科で診断され た確実例95名 , 住 民 対照190名 (性,年齢土1歳,居住地域 を 一 致 ). 調査内 容は食事,飲 酒・喫煙,運 動
. ス ポー ツ・体 格,交際・対 人関係,性格 , 子供 およびその他で計218変数である.食事,
運 動 ・ ス ポ ー ツ に っ い て は 幼 少 期 か ら60歳 I
( 一 部 , 発 症 直 前 )ま でを4っ の 年代 群 別に 調 査 し た . 分 析 方 法は 全変 数 の5段階 回 答デ ータ にっいて「有り」 「無し」の2通りに統 合 し , 症 例 , 対 照 の 2区 分 と で 2x2分 割 表 を 作 成しFisherの両側検定を 行い,オッズ 比 と95%信頼区間を求めた.多変量解析,はUn― conditionallogi st ic解析で, ここで求め た ロ 値 を も と に logisticmodelに お け る オ ッズ比を算出した.
[研究結果]
1..個々の変数ごとの分析
1) 食事;幼少から40歳までの時期で蛋白質,
ピタミン類,繊維質の,摂取不良が見られ,
とりわけ思春期に三大栄養素, ピタミン ―197一
類 お よ び 繊 維 質 の 摂 取 不 足 が 認 め ら れ る .
一方,40歳以,降の食生活との関連は薄い.
2) 飲 酒 ・ 喫 煙 ; 嫌 酒 傾 向 . 嫌 煙 傾 向 .
(SmokingIndex〈500でオッ ズ比 が高い .)
3)運動・体格;若 い頃に運動神経が悪く,
体が 硬く ,瞬発カがない,体育・運動嫌 い. 肌の 色が白い(色白).一日の体調 変化がない・
4) 交 際 ・ 対人 関 係 ;本 ・新聞 を読 まない . 筆不 精. 電話をかけぬい.友達が訪ねて 来な い・ 訪ねない.団体に積極的に参加 しナょい. リ―ダーには絶対になりたくな い.余り外出しない.
5) 性 格 ; 非社 交 的 .無 ロ.世 話好 きでは な い. ゆっくり喋る,余りいらいらしない.
責任感が強くない.
6) 子 供 ( 第了 子 ) の成 長(乳 幼児 の頃) ; おす わり や微細運動ができるようにぬる の が 遅 い . 余 り 動 き 回 ら な い . 2. 複 数 の 変 数 が 存 在 し た 場 合 の 分 析 と複合効果
多変量ロジスティック解析(ステップヮイ ズ法 )を用 いて,他の変数の影響を補正した ―198一
場合を 検討した.独立性の高い変数は幼少か |
ら小学 校までの時期で果物の摂取不足,20歳 から39歳までの.時期で運動嫌い,色自,筆不 精 , 非 社 交的 ぬど 次 の9変数 で あっ た .こ の なかからステップヮイズ法により最終的|こ中 学校から19歳までの時 期で果物の摂 取不足,
色 白 , 筆 不精 ,非 社 交的 の4変 数が 検 出さ れ た , こ れ ら4変 数 を用 い て複 合 効果 の モデ ル を作ったが,持たなかった場合を1とすると,
これらす ぺてを持った 場合の複合の オッズ比 は76.25と高値を示した.
[考察]
1.食事
もし本症がTIQとその関連物質の食物を介 した長期 曝露で生じる とすれば,媒 介となる 食品を対照に比ベ多く摂取している筈である・
しかし今 回これらの外 因性物質の確 認されて いる食品 の過剰摂取は 否定され,む しろ若年 期から壮 年期にかけて の栄養摂取不 足が浮彫 りとぬっ た.すなわち 本研究によっ て幼少期 から壮年期にかけて蛋白質, ピタミン類,繊 維質の摂取不良がみられ,,とりわけ思春期に 三大栄養素, ビタミン類および繊維質の摂取 ‑ 199―
不足が認められ,この時期の食品摂取不足が 本症の発症に大きく関連していると思われた.
2.飲酒‐喫煙
喫煙および飲酒のオッズ比が低く,これら は本症の抑制因子の可能性がある.他の研究 において。喫煙者および飲酒者においてチトク ロームP450の活性の上昇が認められ,また本 症患 者はチトクロームP450dbIに対する遺伝 子Xbaの遺伝子型の欠損が健常者に比べて多 いことも報告されており,既知の知見と矛盾 しな.い結果であった.
3;運動・体格趣ど
敏捷性に欠ける,体が硬い,運動神経が悪 いなど本症の主要症状が出現する以前から本 症 の素 地 を備 えて いるよう にも思われた.
色白のオッズ比が有意に高かったが,本症 の 有病 率 から みる と,皮膚 のメラノサイ卜
(メラニン含有細胞)数とは逆に白人冫黄色 人種>黒人の順番にぬる.この頻度勾配が人 種差ぬのか,社会的要因を含めた環境要因の 反映なのかは不明である・
4.精神・社会活動
従来の知見のように非社交的,無ロ,友人 ‑ 200ー
や親 戚を余 り訪 ねない,余り外出しぬいなど 行動 範囲が 広く なく,内向的で,外部との接 触や外部からの・刺激を嫌う傾向にあるが,一 方で決してりーダーにナょりたくナょいなど頑固 な一面を見せた.
5. 複 数 の 変 数 が 同時に 存在 した場 合の 検討および複合効果
多 変量ロ ジスティック解析(ステップヮ イ ズ 法) を 用 い て 最 終的 に得 られた9変数 は 既存 の知見 に矛 盾しないものであり,このな か か ら4変 数 を選 択 し ,そ の複 合効果 によ り 著 明 な 発 症 率 の 増 加 が 推 定 さ れ た . [結語]
本症に罹患し易い生活様式は以下の通りで ある,
1) 幼 少 期 か ら蛋 白 質 ,ピ タミ ン,繊 維質 等 の摂取に乏しく,とくに思春期に炭水化 物,蛋白質,脂質の三大栄養素の摂取不
足 が あ る .
2) 嫌 煙 傾 向 , 嫌 酒 傾 向 が あ る ・ 3)若い頃から運動嫌いで不活発である・
4)色 白 , 一 日 の 体 調 変 化 が な い ・ 5) 交 際 ・ 対 人 関 係 が 乏 し い . ―201−・
6) 非社交的,無ロ,世話好きではなく,行 動 範 囲 が 狭 く , 外 部 と の 接 触 を 嫌 う . 7) 第 一 子 は 乳 幼 児 の 頃 ,お すわ り ,微 細 運 動が でき る ようにな るのが遅い. あまり 動き回らない.
以上のように食事,運動など身体的活動性,
精神・社会活動性ナょどすべてが過少傾向を示 した.
多変量ロジスティック解析を行い,中学校 から19歳までの時期で果物の摂取不足,色白,
筆不 精,非社交的の4変数が・最終的に検出さ れ, これらを用いて複合効果のモデルを作っ たが ,持たなかった場合を1とすると, これ らす べてを持った場合の複合のオッズ比は76.
25と高値を示した.
黒質の細胞の減少が青年期から始まること を 考 慮す れぱ , 今回の調 査は主要症状 が出現 す る 以前 の病 態 変化の過 程を側面から 観察し て い たに 過ぎ な い可能性 もあるが,著 明な神 経 変 性を 生じ て いるとは 考えにくい幼 少期に お い ても ,身 体 的および 精神・社会活 動的に も 過 少 傾 向 を 示 し た こ と は 明 ら か で あ る .
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
/ヾーキンソン病の症例・対照研究
老年期の進行性変性疾患では遺伝素因に永 年のライフスタイルの影響が累積しておきる といわれる。パーキンソン病の原因は不明で あるが神、経毒の検索が盛んになった,本研究 ではこの神経毒に似た構造を持っ物質が脳お よび一部の食品に存在する報告を基に,それ らの物.質を合む食品の長期曝露に着目し,本 症発症との関連を検証した.本症は20歳代か ら始る長い潜行過程を経て,黒質の細胞数が 1/5に減じ てようや く臨床的 に発現すると推 定されるので,本研究では幼少期にまで遡っ て本症に罹患し易い生活様式を明らかにした.
研究方法は直接面接による症例・対照研究 法を用いた.対象は北海道大学神経内科で診 断された患者95名,住民対照190名(性,年齢 土1歳,居住地域を一致),調査内容は食事,
飲酒・喫煙,運動・スポーツ・体格,交際・
対人関係 ,性格,子 供および その他で計218 変数である.
ー203―
郎 雄志 太 代邦 清 喜 藤代 田 近田 金 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
単変量解析の結果は,
1)幼 少から40歳までの 時期で蛋 白質,
ビ タ ミ ン 類 , 繊 維 質 の 摂 取 不 良 が 見 ら れ ,と り わ け思 春 期に 三 大 栄養 素 , ビ ク ミ ン 類 お よ び 繊 維 質 の 摂 取 不 足 が 認 め ら れ た . 一 方 ,40歳 以 降 の 食 生活との関連は薄い,
2).嫌酒傾向.嫌煙傾向.
3)若い頃に運動神経が悪く,体が硬く,
瞬 発 カ が な い , 体 育 ・ 運 動 嫌 い . 肌 の 色 が 白 い ( 色 白 ) , 一 日 の 体 調 変 化がなぃ.
4)本 ・新聞を 読まなぃ .筆不精 .電話 を か け な い . 友 達 が 訪 ね て 来 な い ・ 訪 ね ない . 団 体に 積 極, 的 に 参加 し な い , リ ー ダ ―に は 絶対 に な りた く な い.余り外出しなぃ.
5)非社交的.無ロ.世話好きではない.
ゆっくり喋る. 余り゛いらいらしない.
責任感が強くない.
6)そ の他.第 一子はお すわりや 微細運 動 が でき る よ うに な るの が 遅 い, 余 り動き回らない.
っいで,多変量解析を用いて,他の変数の 影響 を補正した場合を検討し,独立性の高い 9変数 が検出された. このなかから1)中学 校から19歳までの時期で果物の摂取不足,2) 色 自 ,3, )筆不精 ,4)非社 交的の4変数を 用いて複合効果を評価した. 4変数を持たな かった場合を1とすると, すべてを持った場 一204―
合の複合オッズ比は 76.25倍と高値を示した.
今回,神経毒の担体とされている食品の過 剰摂取が否定さ.れ,むしろ若年期から壮年期 にか け て の栄 養 摂 取 不足 が 示唆され た.注 目 すべき点は幼少期から壮年期にかけて蛋白質,
ビタミン類,繊維質の摂取不良がみられ, と りわけ思春期に三大栄養素, ビタミン類およ び繊維質の摂取不足が認められ, この時期の 食品 摂 取 不足 が 本 症 の発 症 に大きく 関連し て いると思われたことにある.
運 動 ・ スポ ー ツ に 関し て は本症の 主要症 状 が出現する以前から本症の素地を備えて.いる ように も思われ た.色白 のオ.yズ比が有意に 高か っ た が, 本 症 の 有病 率 からみる と,皮 膚 のメラノサイト (メラニン含有細胞)数とは 逆に白人冫黄色人種>黒人の順番にナょる. こ の頻 度 勾 配が 人 種 差 なの か ,社会的 要因を 含 め た 環 境 要 因 の 反 映 な の か は 不 明 で あ る . 今回の成績の顕著な点は食事,身体的活動 性, 精 神 ・社 会 活 動 性な ど のすべて が過少 傾 向を示した事にある.
.
黒質の細胞の減少が青年期から始まるとす れぱ , 今 回の 調 査 は 症状 の 出現以前 の,疾 病 変化を側面から観察していたに過ぎナょい可能 性もある. しかしながら著明な神経変性を生 じて い る とは 考 え 難 い幼 少 期におい ても, 身 体的 お よ び精 神 ・ 社 会活 動 的にも過 少傾向 を 示したことが注目される.
本研究は患者数が多い,代.表的な神経変性
―205―
疾患であるパーキンソン病が若年からのライ フスタイルと強く相関することを世界で初め て立証したもので,本症の黒質変性が若年か ら生じるとされた予想とも対応し,その学問 的価値は極めて高く,医学博士の学位に値す る.
ー206ー