博士(医学)鐘 秋 学位論文題名
A clearer distinction between HIV‑1 paired isolates from peripheral blood mononuclear cells of asymptomatic carriers with and without CD8+T‑cells at nef rather than env V3 loci
(HIV‑1無症候性キャリアの末梢血単核球からCD8゛T細胞存在下及び非存在下において 分 離 さ れ た ウ イ ル ス に お け るne′ と ¢ 児 ぴV3遺 伝 子 の 解 析 )
学位論文内容の要旨
一般に、ヒト免疫不全ウイルス1型(human immunodeficiency virus typel:HIV‑l)の感染を 受 けると 、感 染者 の多 くは 、急 性感 染期 と呼 ばれ るウイルス血症が起こる。生体内のウイ ル ス量は 、急 性感 染期 に一 過性 に増 加す るが 、免 疫応答の上昇に伴い、その後は低いレベ ル に抑制 され る。 しか しながらHIV‑1は生体内から完全に排除されることはなく、感染した 後 、平均10年 にも 及ぷ 無症候期(AC期)を経過し、AIDSへと進行する。最近、AC期において も 、HIV‑1は 生体 内で 活発に複製、増殖を繰り返していることが明らかにされているが、一 方 におい てAC期とAIDS期で はウ イル スの 細胞 傷害 性やトロピズムに違いがあること、さら に 生 体 内 の ウ イ ル ス 量 が 病 気 の 進 行 と 深 く 関 係 す る こ と も 報 告 さ れ て い る 。 一般に ウイ ルス 特異 的CD8陽性T細胞は、生体内からのウイJレスの排除やウイルスの増殖 を 抑制す るこ とが 知ら れて おり 、HIV・1感染 者に おいてもHIV‑1に対するCTL活性が病気の 進 行を抑 制す ると 考え られ てい る。 しか し、 ウイ ルスは免疫機構等の宿主側の圧カから逃 れ るため に多 様な 変異 ウイルスを産生する。HIV‑1の多様性は、主として逆転写反応におけ る 忠実度 の低 さに 起因 する と考 えら れる が、 この ような現象は、細胞性免疫およぴ中和抗 体 の最大 の標 的で あるHIVエンベロ.ープ蛋白質のV3ドメインが高頻度に変異しているウイ ル スや抗 ウイ ルス 剤で あるAZT投与後 に迅 速に 出現 する 薬剤 耐性 ウイ ルス 等に より顕著に 認められる。
HIV‑1の遺 伝子 はgag、polお よびenvと ぃっ たウ イルス粒子を構成する構造夕ンバク質を コードする遺伝子、さらにぬCおよぴreレとぃったウイルスの複製を助ける調節夕ンパク質を コードする遺伝子の他にvif. vpr、vpuおよびnefとぃったアクセサリー遺伝子(ウイJレス複製 に は、必 ずし も必 要性 が認 めら れな い) によ り構 成されている。この中でGag、Polおよび Env夕ン バク 質は 強いCTL誘 導能 があ るこ とが 知ら れて おり 、特にEnvのV3ドメ インは主要
な 中 和 抗 体 お よ ぴCTLエ ピトー プで ある こと が明 らか にさ れて いる 。一 方ア クセ サリー 遺 伝 子 が コ ー ド す るタ ンノ ヾク 質の 中で はNefに対 するCTL応 答が 、HIV‑1感染 者に 認めら れ る。HIV・1感染の動物モデ少となるアカゲザルに対するSIV(simian immunodeficiency virus) の 感 染 実 験 か ら 、neh伝 子がAIDS発 症に 必須 であ るこ とが 指摘 され てお り、 また ヒトに お いても、病気の進行が認められない長期生存者(long‑term survivor)の中に、neあ貴伝子が欠損 し てい る例 がある こと も報 告さ れて いる 。し たがって、生体内におけるNefの多様性および CTL応答 との 関連 性を 明ら かに する こと は、HIV.1感染者の病態を理解する上で極めて重要 であると考えられる。
本研究では、HIV,1感染者由来の末梢血単核球(PBMC)からCD8陽性細胞の有無によるウイ ルス分離を試み、、そのべアーウイルス間の口eあ貴伝子の遺伝子型の比較を試みた。対照とし て 、 同 じ べ ア ー ウイ ルス 間のenレV3領 域の 比較 を行 った。 検体 とし て、4人 の血 友病患 者
( #53、#57、#67、 #68)と 、凝 固因 子製 剤の 家庭 内投 与の 際の 事故接 種にて感染した
#69( #67と#68の母 親) の計5名 のPBMCを用 しゝた。#68と#69は、CD4/CD8比が比較的 安 定し てい るのに 対し 、#53、 #57は、 検査 時点 では 前者 とほ ぼ同 じCD4/CD8比だったも の の 、 #53は そ の 半 年 後 に 急 激 にCD4/CD8比 の 低 下 が 起 こ りCDCIIか らCDCmへ と 進 行 し 、 #67はCD4陽 性 細 胞 の 低 下 が 顕 著 で あ っ た 。こ れら5名のPBMC全体 (A法 )お よびCD8 陽 性細 胞を 除いたPBMC(B法) をHIV.1非感染 者のPBMCと共培養することにより、HIV.1を 分 離し た。 前者の 分離 法で は、 宿主 の免 疫応 答か ら逃 れた エス ケー プ株が 選択的に分離さ れ るこ とが 予想さ れる のに 対し 、後 者の 方法 では エス ケー プ株 も含 めた全 てのウイルスが 分 離さ れる ことが 考え られ る。 こう して 分離 した ウイ ルス の感 染細 胞から 抽出したプロウ イ ル スDNAを 鋳 型 と す るPCRを 行 い 、増 幅 し たDNA産 物 を ク ロ 一 二ン グ ベ ク タ ー に組み 込 み 、nef領 域77ク ロ ー ン お よ ぴ 対 照 と し てenvV3領域44ク ロー ンの 塩基 配列 の解 読を行 つ た。
そ の 結 果 、CD4/CD8比 が 安 定 し てい る #68と #69にお いて はAとBウ イル ス間 のne艫 伝 子 の相 同性 が他の3名 (#53、 #57、#67)に 比べ て低 かっ た。 それ とは 対照的にenyV3遺 伝 子 のAとBウ イ ル ス 問 の 相 同 性 は #53、#57、 #67の 方 が #68と #69に 比 べ て 低 か っ た 。こ れら の結果 から 、#68と #69にお いて はNefに対 するCD8特異 的な免 疫応答が上昇し て い る こ と が 予 測 さ れ 、 一 方 、 #53、 #57お よ び#67で はNefより はEnvV3に対 する免 疫 応 答に よル ウイル ス産 生が 抑制 され てい るこ とが 示唆 され た。 した がって 比較的病態の進 行 が緩 やか な感染 者に おい ては 、Nefに 対する 強いCTL応答 が誘 導、 維持さ れていることが 示 唆 さ れ 、Nef夕 ン パク 質に対 するCTL応答 はEnvV3以 上にHIV・1感 染に 伴う 病態 進行の 制 御に関連する可能性が示唆された。
― 208 ‑
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
A clearer distinction between HIV‑1 paired isolates from peripheral blood mononuclear cells of asymptomatic carriers with and without CD8+T‑cells at nef rather than env V3 loci
(HIV‑1無症候性キャリアの末梢血単核球からCD8゛T細胞存在下及び非存在下において 分離されたウイルスにおけるnefとenvV3遺伝子の解析)
ヒ ト 免 疫 不 全 ウ イ ル ス1型(HIV−1) の 感 染 を 受 け る と 、 急 性 感 染 期 と 呼 ぱ れ る ウ イ ル ス 血 症 が 起 こ る 。 こ の 時 期 に 生 体 内 の ウ イ ル ス 量 は 、 一 過 性 に 増 加 す る が 、 免 疫 応 答 の 上 昇 に 伴 い 、 そ の 後 は 低 い レ ベ ル に 抑 制 さ れ る 。 し か し 、HIV‐1|よ 生体 内か ら完 全に 排除 され るこ と は な く 、 平 均10年 に 及 ぶ 無 症 候 期(AC期 ) を 経 て 、AIDSへ と 進 行 す る 。 ― 般 にCD8陽 性1・ 細 胞 は 、 生 体 内 か ら のHIV‐1の 排 除 や そ の 増 殖 抑 制 に 寄 与 す る こ と が 知ら れて いる 。し か し 、 ウ イ ル ス は 宿 主 側 の 免 疫 機 構 等 の 圧 カ か ら 逃 れ る た め に 多 様 な 変 異 ウ イ ル ス を 産 生 す る 。
HIV‐1の 遺 伝 子 はgag、polt、 ) よ びenvと い っ た ウ イ ル ス 粒 子 構 造 蛋 白 質 を コ ー ド す る 遺 伝 子 、 さ ら にtatお よ びrevと い っ た ウ イ ル ス 複 製 に 関 わ る 調 節 蛋 白 質 を コ ― ド す る 遺 伝 子 の 他 にviたvprvpuお よ びnefい っ た ア ク セ サ リ ― 遺 伝 子 ( ウ イ ル ス 複 製 に は 、 必 ず し も 必 要 性 が 認 め ら れ な い ) に よ り 構 成 さ れ て い る 。 こ の 中 でGag、Polお よ び .Env蛋 白 質 は 強 いCTL誘 導 能 が あ る こ と が 知 ら れ て い る 。 一 方 ア ク セ サ リ ― 遺 伝 子 が コ ー ド す る 蛋 白 質 の 中 で はNefに 対 す るCTL応 答 が 最 も 顕 著 に 認 め ら れ る 。HIV‑1感 染 の 動 物 モ デ ル と な る ア カ ゲ ザ ル に 対 す る サ ル 免 疫 不 全 ウ イ ル ス の 感 染 実 験 か ら 、nefi!伝 子 がAIDS発 症 に 必 須 で あ る こ と が 指 摘 さ れ て お り 、 ま た ヒ ト に お い て も 、 病 気 の 進 行 が 認 め ら れ な い 長 期 未 発 症 者 の 中 に 、ne纏 伝 子 が 変 異 し て い る 例 が あ る こ と も 報 告 さ れ て い る 。 し た が っ て 、 生 体 内 に お け るNefの 多 様 性 お よ びCTL応 答 と の 関 連 性 を 明 ら か に す る こ と は 、HIV‑1感 染 者 の 病 態 を 理 解 す る 上 で 極 め て 重 要 で あ る と 考 え ら れ る 。
本 研 究 で は 、HIV‐1感 染 者 由 来 の 末 梢 血 単 核 球(PBMC)か らCD8陽 性 細 胞 の 有 無 に よ る ウ イ ル ス 分 離 を 試 み 、 そ の ぺ ア ― ウ イ ル ス 間 のne膸 伝 子 の 遺 伝 子 型 の 比 較 を 試 み た 。 対 照 と し て 、 同 じ ペ ア ― ウ イ ル ス 間 のenv V3領 域 の 比 較 を 行 っ た 。 検 体 と し て 、4人 の 血 友 病 患
男
明
良
澄
眞
光
和
川
沼
田
細
柿
生
授
授
授
教
教
教
査
査
査
主
副
副
者(#53、#57、#67、#68)と、凝固因子製剤の家庭内投与の際の事故接種にて感染した
#69(#67と#68の母親)の計5名のPBMCを用いた。#68と#69は、CD4/CD8比が比較的 安定しているのに対し、#53、#57は、検査時点では前者とほぼ同じCD4/CD8比だったも の の、 #53はその半年後に急激にCD4/CD8比の低下が起こりCDCIIからCDCIIIへと進行 し 、#67はCD4陽性 細胞 の低下 が顕 著で あっ た。こ れら5名 のPBMC全 体(A法)および CD8陽性細胞を除いたPBMC(B法)をHIV‑1非感染者の.PBMCと共培養することにより、
HIV―1を分離した。前者の分離法では、宿主の免疫応答から逃れたエスケ―プ株が選択的に 分離されると予想されるのに対し、後者の方法ではエスケ―プ株も含めた全てのウイルスが 分離されると予想される。こうして分離したウイルス感染細胞から抽出したプロウイルス DNAを鋳型 とするPCRを行い、増幅したDNA産物について、nef領域77クローンおよび対 照としてenv V3領域44クロ―ンの塩基配列の解読を行った。
その結果、CD4/CD8比が安定している#68と#69においてはAとBウイルス間のnefi!伝 子の相同性が他の3名(#53、#57、#67)に比べて低かった。対照的にenv V3遺伝子のA とBウイルス間の相同性は#53、#57、#67の方が#68と#69に比べて低かった。これらの 結果から、#68と#69においてはNefに対する特異的なCD8免疫応答が上昇していること、
#53、#57および#67ではNefよりはEnv V3に対する免疫応答が働いていることが示唆さ れた。即ち、比較的病態が安定している感染者においては、Nefに対する強いCTL応答が誘 導、維持されていること、このCTL応答はEnv V3以上にHIV‑1感染に伴う病態進行の制御 に関連する可能性が示唆された。
公開発表にあたり、副査の柿沼教授よりNef蛋白質の機能について、ウイルス分離を行っ たキャリアのHLAを調べているか、A‑Bウイルス間で違いが認められたアミノ酸残基がエ ピトープである可能性について、主査の細川教授より今回の結果はAIDS発症を予測できる マ―カ―となり得るのか、CTL活性とウイルス負荷の関連性について、ウイルス分離時に共 培養を行う理由とその解釈について、また副査の生田教授より一般的にCTLの標的となるウ イルス蛋白の種類について、などの質問がなされたが、発表者はおおむね妥当な回答を行っ た。
審査員―同は、これらの成果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充 分な資格を有するものと判定した。