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グレアム・グリーンの小説について(二)

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グレアム・グリーンの小説について(二)

著者 宮井 敏

雑誌名 主流

号 17

ページ 79‑88

発行年 1954‑05‑31

権利 同志社英文学会

URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000016620

(2)

グ リ

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.  グリーンの小説について

( 二 )

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戦後に苦言かれたグリーンの小説の中で︑重要占なものの一つ

に︑

﹁事

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冨印 公司

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る︒主題は前に述ペた二作からは一歩突き進めた形の︑肉体

的現実と神の認識との対立であり相魁である︒入閣が自らの内たる不安定た肉体の愛を昇華して︑対一人関係に於てそれを

純粋たものとすれぽずる程

i

つまり特定の対象を超えて抽象

化されてしまう程

l

それは神の愛に近づく一方︑ったがれた

肉体との亀裂が︑伎を自己否定としての自殺と言う形に追い

詰めてしまうと言う論理の悪楯環を︑一人の本当の意味での

良心的たカソりすグ教徒の自殺と言う形で︑作者は証明しよ

うと

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一日

うの

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る︒

スコウピイは西部アフリカの英領植民地での勤続十五年の

老績で誠実た警官でるる︒新任の官吏は誰しも十八カ月ロに

やって来る掃冨休暇には︑神経衰弱で千枯びてしまって本国

へ送還される様た気候の悪い土地で︑披は昇任も転勤も希望

せや︑ただ何とたく漠然と暮してきた︒暑熱の為にいらいらして怒りっぽくなった英系官吏︑校糖で油断も隙もたらたい

H247 

シリア人達︑無知で魯鈍えな原住民︑!そういった連中が︑買

牧︑恐喝︑密輸︑陰謀たど︑治よそありと守るらゆる不

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手段

を弄して︑腐肉をあさる一禿鷹の様に︑利権をめぐってうごめ

いている中で︑殺が

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必やしも勤務に忠実であろうとした訳ではたく︑殆んど条件

反射の様に一つ一つの無践の現象的た事件の連続を無意識的

にさばいてきたにすぎたい︒

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罪︑を犯す事もたかったと言うのは︑実はただ単に機会がえな

かったからだと伎は一考える︒一生活全体としては︑だから忽論

﹁否定﹂であるが今日一日はすくなくとも﹁肯定﹂しようと言う佼の生活態度は︑したがってるくまでも受身の形を取って

(3)

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︑決して積極的に﹁生き﹂ているのではたい︒疲れはてて

浪費されて消えてしまった十五年の歳月を妻の上に見出して

は︑ただ荏然としているだけの事であった︒妻︑それは伎に

とってはもはや︑何の感動をも呼び醒さもない殆ど完全に別種

の存在であった︒今では彼は彼女をどんた形に於いても必要

としゑかつだ︒彼にしてみれぽ家庭とは無意味たものをとり

去った最少限の確乎とした親しみのある不変のものを意味し

たのだか︑被女にとっては︑それは反対に蓄積を意味してい

た︒旦ての文学少女︑美術を語り詩を読み︑おしゃべりで

言︒

宮田

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のるらゆる特徴をそたえもしかも醜くかった︒彼

女が伎の本質とは全く何の聞係もたい一つの個性を想像して

それを伎に押しつけようとする限り︑一彼は家庭の中にあっ

て孤独であった︒家に居る問中︑彼の名を呼びたてる妻をさ

げて︑スコウピイは︑錆びた手錠と安物の官給家具しか友い

ガランとした役所の自室ゃ︑妻の配慮むなよぽたい︑自宅の物置のようた浴室でのみ︑自分自身を取戻したようた気持に

たるのであった︒丁度苛

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の︑﹁あまり夫婦

のものがいつも一緒にいるのは決してよい事ではたく︑男に

は一人静かに︑煙草でものめる︑妻のついてこられたい場所

がいるのだ﹂と言う︑素朴たしかし品広がら現代の央嬉生活の

盲点をついているダウ品シグの言葉を思わせる状態である︒

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許可・俸制

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叉︑ルイズの夫に対ずる態度は︑口︒の

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ラヴィ=アのエドワードに対するそれである︒

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こうした︑一見平凡には見えるが実は大きな危機をはらん

だ夫婦関係

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それは単にスコウピイ自身の丘団自由⑦ではたく

て︑現代文明と言う巨大友機構全体を犯している一つの病患

でありO昆判官庁

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は何等かの形で残酷た解決をせまるであろうようた状態である︒これを︑崩壊しゅく社会制度の中の一つの単位としてみ

る時︑スコウピイ夫婦の包宮山件目︒ロは全人類的条件の下にあ

ると言えよう!こうした状慈の中にあって︑殺の車交ルイズへ

の愛はもはやどんな一意味からも肉体の愛ではありえ守︑HUHq

とそして

2

UGロ回目ぴ邑守党げであり︑従ってそれは妻と言う

特定の対象を離れてどの様た方向にも向けられうる抽象化さ

れた愛であった︒スコウピイは︑彼女をこの植民地の埠頭で

迎えてからの十五年の経験と言うものが︑ルイズの旦ては世

間知らやでのんびりと物柔かに笑っていた表情をつくりかえてしまったのを見る時︑彼女のメランコりや不満や失望の潮

に向って間宮ぬの虫記芯がしたように力たく呼びかけるので

あった︒伎が彼女乞愛しようと思い︑るわれみと責任感とが

情熱の激しさまで高まるのは︑彼女がみにくく見えるこんた

時であった︒伎が退職ナる署長から後任として推薦されるの

(4)

を辞退した夜︑屈辱と惑りで半病人にたっているルイズをた

だめでクラプへ連れだした彼は︑同僚やその夫人連のあわれ

むような徴笑に対して︑部下の︑連中が

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?とさゆずんでいるのに対して︑挑戦ずるかのように大けさに

妻をいたわり︑故意に模範的た夫として振舞うのであった︒

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それはふるまりにも巨大友責任感であった︒絞は自分にはま

だわかっていたい妻の将来の不幸に対してすら︑不思議た予

告的た罪の意識のためにいつも責任を感ヒていたのだった︒

こうした彼にどラしです包

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プで紹介された新任の会計係︑実は英本国から派遣された戦

時諜報員︑ウィルスシが︑或白突然︑

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昆ぬ言・・!と言つでも︑

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と軽くあしらってしまうのでるる︒

このるわれみの感じが中立国船舶の検索の際︑船長室から

発見 え﹂ れた 私信 を報 告

rAないで不問に付してしまう︒戦時刑

法によればそれはあきらかに違反であり坑命でるった︒多く

の腐致した警官は金のために節をまけたのだが︑彼は感傷の

ために節乞まけた︒﹁美しいものや成功するものに対しては

あわれみのたい戦を挑む事が出来る︒だが魅力のたい敵を 苦しめる時は︑臨に重石のよラたものがのしかかる﹂と言う一つの立与

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話 口

った︒利他的友抽象の愛がその対象を拡ゅうつも︑実はその ∞誌のために︒がとにかく︑罪は罪だ

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片 山

事自体矛盾をはらんで︑歩一歩スコウピイ自身の存在をむし

ぼんでゆくのでるる︒﹁スコウビイには人生が無限に長いもののようになもわれた︒人聞の試煉と言うものがもっと少し

の年月で行われ得左いもので〜あろうか?七才で最初の

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由吉を犯し︑十で愛が惜しみのたゐに破一践し︑十五才の死の床で噴罪の機会をつかむ事が出来ないものでるろう

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生きる事への悲しい龍怠感でるる︒一方妻への責任感が彼

を惨め友気持に追込んでしまう︑気分転換のために︑ルイズ

は南アフりカへ転地したいと言うのでるるが︑スコウピイの

俸給では到底︑船賃を払う事は出来守︑忽論銀行にも預金はな︑つにもかかわらや︑﹁彼女の口の両隅の所に残っていて

機会さえあれぽ顔一杯にひろがろうとしている﹂みじめな

ルイズの表情を見る時︑役には本当の事を説明する事がどう

しても出来たい︒妻の失望落胆を見るよりは嘘をついた方が−まだしもましである︒真実︑そん友ものは人聞にとって何の

価値もないものでるった︒それは数学者や哲学者の追求する

一つの象識にすぎない︒人間関需に九仰いては︑親切と嘘の方

が無数の真理よりもはるかに価値のあるものだ・・:︒遂に披

は一つの決心をする︒この上は誰かに金を借りる外はない︒

81 

(5)

それほど親しい友人をもたね伎がふと思いあたったのは何

時か車で家へ治くり届けてやったシ

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ア人の闇商人の事でる

る︒披等から金を借りる事はそれ自体警官としての綻の破滅

を意味した︒設狩で悪隷友彼等はただでさえ買牧の機会をね

らっている以上︑有利友条件で殺の申込を容れるではあろう

が︑その時かぎりもはや

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のものと左るであろう︒だが︑ルイズを幸福にするのは自分

の責任だと言う怖ろしい誓いをひそかに立てた以上︑伎は自分の行動の責任を取る心算であった︒そのための行為が自分

をどんな所に追いやるかは臨気友がら解つては農たけれども

いづれにせよ棋はやらねば友ら泣かった︒そうした不可能

友白的を決ゐてそれを追求しようとする人聞は︑その代償と

して絶望的友行為に奔らざるをえない︒そしてそのような行

為は許しがたい罪だと言われている︒﹁だがそれは堕落した

人間や邪悪友人間は犯す事のない罪である︒そう言った人聞は常に︿絶望的友行為を﹀実現する希望を抱いている︒絶対

的た失敗であると知る事はそのよう友人聞にはありえ友い︒

善意の入閣のみが常に心の中で︑絶望から来る堕獄仏凶器ロ

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官マ書第六章第十六節に︑

﹁左んぢら身を一献はげ僕となりて誰に従うともその従う所の

僕たるを知らざるか︒或は罪の僕とならぽ死になよび︑或は

順の僕とならば義にゐよぽん﹂︒ とある︒人は二人の主に仕うる事能はねわけであり︑且我々が人間である以上︑我々のなす事は︵倫理的な意味での︶善悪何れかでるるに相違友いし︑叉逆に4

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﹁少くとも︑我々が生ぎているからには︑何もしないよりは

悪をした方がよい︒人間の栄光とは救済

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可能性であると言う事が真であると同時に︑その栄光は堕獄

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の罰をうける可能性である事もまた真である︒

政治家から泥棒にいたる︑まで大抵の罪を犯す連中について言

いうる最も悪い事は︑これらの連中が臨一獄の罰をうけるに足

る程の人間で友い﹂ハづ

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とりついて離れようともし左い責任の重みと︑それを果しえ O H M −は明らかに自ら意識していたものであり︑伎に

友い無カの感ヒとの亀裂の間にるって罪を犯す可能性は眼前

に迄きているわけであった︒スコウピイがここに到つてはじ

めて受身の立場を捨てよ覆極的に生を﹁生き﹂始めた時︑道

は一直線に地獄を目指していたのでるる︒伎は罪を犯すに足

るだけの人間でるった︒遂に彼は危険を犯してシリア人のユ

!サフから妻の南同行の旅費二

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ポシドを借うける︒

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一うの責任を逃れるとすぐ次の責任をひきうけ友けれぽ左

ら友くなると言うのは伎の悲しい宿命ででもるったのであろ

うか︒スコウゾ﹂イは妻を旅立たせた後︑グィシI政府フラン

ス領からの難民を牧容するために出張し︑そこで枢軸国側の

潜水艦に撃詑されて四十日間海上を漂流していた人達を保護

する事に左る︒今度の責任は彼がいろんな人達とわかちあっ

ている責任ではあったが︑だからと言︒てその点何の慰めに

友るわけでもなかった︒龍にも説明出来ない不安た気持や︑

気にんなって仕方がない患者達の姿や︑責任感とあわれr みの感

ビからくる怖ろしい無龍力の感じに彼は苦しむのでるうた︒

﹁このように不幸にみちた世界で幸福を求めるのは何と言う

不合理な事だろう﹂と伎は考える︒﹁幸福な人間と言うもの

が本当にるるたらぽ教えてほしいものだ︒私はすぐにその人

間に は︑

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対の無知かがある事を示して見せよう﹂︒

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伎は全面的な腐敗の世界にるって︑一見清廉友人間である

ように見えていたのでるるが︑実は彼が自分の殆ど

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つであるが︑彼がそうした先輩達︑﹁権力?と栄光﹂の

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︶の愚連隊ピンキイなどよりも皮膚が一枚少いように見えて

いて実際は一枚よけいにもうている

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そしてこの﹁るわれみ﹂の感じの故に次々と引起される事

件は︑重くるしく強情に進行してスコウピイをほろぼしてゆ

く︒彼はすでに国家の法をこったがら犯した︒あとに続くも

のは彼の先輩達が示したように︑姦通であり漬聖でるり︑殺

人であり︑そして最後には自殺である︒牧容された漂流者逮

の中にヘレン・百ルトが居た︒結婚して四カ月自に夫を喪い

83 

(7)

本国へ帰る途中遭難した十九才の牧師の娘である︒結婚指環

が子供が正装した時のようにぎこちたく指にはまってゐり︑

持物と言つてはスタンプ・アルバムだけしかたかった︒スコウピイは始め彼女が担架で運ばれてゆくのを見た時︑その運

命に深い同情をょせるのであるが︑その後彼女が退院して彼

の宿舎の近所に移り住んでから親しくたり︑僻地にるって身

寄りもたく大人のエティク?トも知らやにいる小援のような&

彼女の保護者になろうとするのである︒彼等二人の間に︑死

んだ良人︑生きている妻︑牧師でるる父︑警官としての職務

たどと言う差違がある以上彼等は友達以外には決してたりえ

たい友達であり︑・なたがいに何を話しあえぽよいかと気を探

む必要がたいために︑二人共限りたい安全感をもつのであっ

ただが利巧たものや渡滑なものや勢力のるるものだけが旨く

やる事の出来るようた戦争の最中に︑何もわかっていたい頼

りたい彼女を見る時︑責任感が潮のように自分を岸の方へ運

んでゆくのを彼は感じるのでるった︒彼女は迩から救い上け

られたが︑捕える価値のない魚であったかのように叉海に投

ゆ返されるのだと考える時︑彼女が五里霧中でまよっている

この世で道しるべしてやる事が出来たい時がやがて来るに違

いたいと考える時︑彼は悲哀と愛情と無限の憐みをもって彼

女を見守るのだった︒二人の聞の安全感友どは実は︑友情︑

信頼︑あわれみと言うヰ一言葉にたいて働くスコウピイの﹁敵L

のカムフラージュにすぎたかった︒ヘレンを追いまわす昼寧 将校から彼女を守ろうとして︑雨の激しく降る夜︑二人は罪を犯してしまう︒彼はルイズの幸福を守ろうと決心していた筈だった︒今や彼はそれと完全に矛盾するもう一つの責任を引受げてしまったのである︒身動きたらぬ状態に自らを陥し込んだ彼にはもはや如何たる形にないですら救いはたいのだと考える︒衿ずらもが何の力も持っていたかった︒機悔する事は自らの罪をいよいよ深ゐるだけの事であった︒悲劇はテンポを早め︑破一慨は刻々に迫ってくる︒一つの罪が今一つの罪を惹き忌こし︑次

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γ彼を追い詰めてゆく︒南千法だと言われてヘレ kゐこる罪の連続が執劫にそして確実に

にと

Yけた手紙を関西人のユIセフに押えられ︑交換条件として密輸に協力させられてしまう︒罪のスクールは加速度的に大きくたっ

てゆく︒そこへへレシとの噂を知った妻のルイズが南アフリノカの僻薯地から帰ってくる︒真実を告ゆる事も出来ぬままに

強いられて教会にゆき︑機海をすませた罪友会﹂信者をよそ長

って蛮餐を拝受する事にたる︒漬聖の罪である︒一方︑人を

信じられたくたった彼は十五年間彼に忠実でふるったボi

イが

彼のさまざま友疑わしい引行為をあまり忙知りすぎていると

言う事からうとましくたり︑ふとその気持をユIセブに演し

た事から︑ボーイはシリア人の子で片附けられてしまう︒間

dながら殺人の罪である︒今や彼のとるべき道は自殺しかた

かった︒死者には何の追求の手ものびる筈はない︒問題はそ

れが自然死の形をとらたけれぽたらたいと言う事であった︒

84 

(8)

後に残されたものにとって︑彼の死が一つの自然た解決とし

て役立つ風でたければたらぬ︒この場合︑自然死の形をよそ

なった自殺が彼女等にとって最も説得力のある解決方法だと考えた伎は

l

どのみち解決とは多少共残酷たものであるが|

病気の症状をいつわって睡眠薬を手花入れ︑周到た用意のも

とに致死量に達するまでそれを貯え︑一どきに服用する事に

よって︑ナペての事が実は何でも品広かったかのように︑或る暁静かに死んでしまうのでるる︒

スコウピイの愛は年令と気候の故に如何なる意味からも欲

情的なものではありえや︑純粋に抽象的なるわれみと言う感

情に置きかえられている︒役は経験によって情熱は消えてゆ

き︑愛はたくたるが︑あわれみの心は常にのこる事を知って

いた︒何ものもそのあわれみの感とを減少させる事は出来たかった︒生と言う条件がそれを養い育てたからでるった︒そ

してこのあわれみと言う言葉は愛と同ヒ︿軽く用いられてい

るが︑実際はそれを本当に経験する人の殆んどたい位の怖し

い見境いのつかぬ情熱なのである︒それは一つの名前︑一枚

の写真︑思い出のある匂いでさえ人の心をとかしてしまう事

が出来るのである︒少くともスコウでイにとっては︑それは

そうだつた︒しかも勤続十五年の警官として︑弱者の保護と

義務感は身についた第二の天性のようたものであうた︒突し

い者や成功した者には彼の感情は動かされ占広かったけれども

日常生﹁活からわざわざ外れてまで追い求めようとは誰も思わ ないようた顔や︑ぴそやかな盗み見を決して受ける事のないようた顔は伎の必を動かすのであった︒あわれみと責任感︑それは吋な誌が指摘しているように︑半音の利己心か︑公どろくべき精神的自負でるるかもしれたい︒しかしスコウピイ自身にとってはそれは動かし難い現実であb︑死か無関心

かと き一 ロ点 ノ敗 北の 瞬間 が来 るま で︑ 局部 的た 戦術 的勝 利が ある

にすぎぬ入閣の地上の愛に較べれば︑その抽象化された性質

から来る普遍性と肉体を超克した純粋な自己犠牲とを考えれば︑それは神の愛と同化しうるものではたかろうかQ

そし てそ の故 にま き記 され る喜 一件 がた とえ 罪で るっ たと 守し ても

スコウピイは︵断ヒて聖人ではι

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こうして悪の裏小路にゆき暮れた魂の苦悩はスコウピイの

行為の上に見事に表現されているのであるが︑更にグ

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片山 凶宣 言︒ 見と 自ら 呼ん でい る一 連の 作品 の中 でし ぼ

しぼ成功を牧めたスpラi的た手法と構成がそれを緊迫した

昼気の中で隙の友いものとしてなり︑行為そのものL異常さ

を感ヒさせたい︒映画のカメラの眼が向けられたように何気

たく登場してきた主人公は︑制服を着ていると言う事を除い

ては︑一見誠にるりきたりの︑そのあたりの得角で出会いそ

うた人物であり︑偶然の機会に彼が副署長から署長へ昇任し

たかったと言う事も実に何でもない事である︒所がその事の

(9)

ために妻は南アフリカにゆく事となり︑その旅費のために汚

職を敢てし︑妻が居たかれJたためにへレン・ロルト井一間違い

を犯し︑ロルトの事から脅迫されて密輸に関係しtそうした

事を妻に打ち明けかねて偽って聖餐を受け︑古馴染みのボー

イを犬い︑あけくの果て死を決したところへ署長へ一昇任の報

がもたらされると言う訳である︒この間にるっていわば翻弄

されているスコウピイの魂は︑忽論こうした一連のわづか六

カ月の間の偶発的な連鎖事件にただ盲従しているわけではな

い︒その一つ一つに対して解決に全カをあけ︑破滅の予感には油汗を流して抵抗を感守るのだあるが︑漠然たる罪の意識が

根抵にある以上︑長抗は徴弱であり︑努力はむたしいもので

しかない︒これらの事件は︑人がその実感を朴度ずるのを許

されたい︑スコウピイにとっての心理的必然だったのである︒

モ!リアック誌の中でグ

pI

ンは︑モlpアックの作中の

人物のさまざま友行為は︑彼等が神にぜよ悪魔にせよ大した

重要性をもってい句ないし︑作中の事件は人物をのHH

白口 容す る

ためではたくして︑

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するために比類たき精密さで除

々に 示し て見 せる ため にる るの だと 弓一 回っ てい る︒

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重要注事は行為そのものの偶発性や必然的帰結ではたくして 精神であり魂であると言うのである︒従って我kは︑この

西アフりカの植民地で沿こった事件の異常さや︑合理性や蓋

然性のあるなしをあけつらふ必要は少しもないわけで−あって

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田口

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wと言う批難は

あたっていたい︒問題はスコウピイの苦悩の本質が一つの信

仰を抱いて神に献身しようとする人聞の心の中たる普遍的た

矛盾を一示す事にあるからである︒更には叉︑こうした矛盾は例えぽ︑菩と悪︑神と人問︑愛とにくしみ︑或は叉︑﹁半盲

の利己心﹂と自己犠性と言う形をとって︑一口で言えば︑

86 

J3

・ ﹃Oと言う人間の免れがたい宿命的不幸を会人門︒﹈九戸出︒

類的条件の下に示してみせようと言うのであって︑必やしも

西アフリカのカソリ?ク教徒スコウピイのみに個有の問題で

はたい︒事実︑この小説に現われる憐患や不安や疑惑︑罪の

意識︑神への憧慢と言った人間的感情は誰しもが抱いている

漠然たる道徳意識をむそう普遍的た苦悩であるわけでるる︒

グリ

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yがスコウピイと言う性格を通して執劫に追求して

来ち

んこ

の一

i生きる事への恐怖﹂と言う

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古口は︑彼のE

その他の作品を見てもしばしば﹁逃亡﹂と言う形をとって現わされている︒社会に於てその社会の構造乃至型が入閣の感

動の型を決定するの芦と言う事が本当だとすれば︑こうした

混乱と無秩序の社会に於てはもはや革命意識か逃亡意識しか

人間を感動させる事はたいと言う事も言いうるわけであって

(10)

グリ i

yが神との対立にたける入閣の存在の危機感を﹁逃亡

者とその追跡﹂と言う形に於て日常的現実の中で示して来た

と言うのも︑考えて見れぽ伎が現実の社会構造の断層に直面

して︑それを如何に処して行くべきかと言った具体的方法よりも︑それを人間心理の領域に還元する事によってまづ第

一に人間自身の全くペき生を考え︑一つ一つの時代の現象的

た危機をくどりぬける事よりも更に一歩立ち入った人間の存

在自体の危機を考えてきた訳でるる︒現実の混乱一とむさるっ

てもはや人間的次一冗に於ては絶対的た実在をとらえる事が出

来たいと言うヒュiムの絶望から発した︑入閣のむたしさを

見詰 めよ うと 善一 口う

﹁生 の悲 劇的 意義

﹂の 認識 は︑ グリ ーン に到

って︑人間が本来菩であるか悪であるか︑叉はそのいづれか

でるると言巨ノ事にとどまらや︑一体初がきロでるb

ノ︑

何日

丘町

瞬間に沿いて︑不完全きわまる本質を背負いたがらも︑現実の σ宮であるのか︑確実にわからないまLに︑実際日常行動の

利害を調整し︑行動し︑その責任友引きうけてゆかねばたらた

いと言う形をそれはとっている︒そうした行為の麗聞によし

﹁誠 実の 一権 問し が時 に閃 くに せよ

︑所 詮人 生と はこ のよ

?っ た瞬

間のうらたりであり︑本来悲劇的た苦闘である︒スコウピイ

に象徴された生の悲劇的意義はつまりは﹁佼が白分の軌道を

外し たと 畳一 口う 事実 のみ にあ るの では 注く

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て彼がその軌道

の何たるかを知らなかった﹂︵図︒ロミ対⑦

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Qむと言う点にあるのである︒ 人聞の愛とは所詮肉体にったがれた不安定品なものでしかない︒それをるわれみや責任感に変化させて永続性をもたせようとする時︑それは特定の対象をこえて抽象的友愛に変りはするが︑一方入間は依然として肉体にむすびつけられているために︑もしその抽象の愛が肉体に行為としての証明を求ゐるたらぽ人間は矛盾の中に絶望し自らを段ろぼさざる︑乞えたい︒しかもその肉体は神の愛をうけ入れる約束としてのものでるった筈だと言う論理の悪循環がここにある︒一方には人間的友情慾をこえる提と︑人間世界を超越的に支毘ナる衿の概念とがあり︑他方には﹁とにかく生きている﹂人間の不安定た残忍た存在がある︑と言う論理と実存の対置でるる︒この事は人間存在の底にひそむ深い虚無性と︑超越的恋人格神との対比の間にあわ/て︑人間本来の実存を回復しようとする実存哲学と認識に於て同じであり︑ズコウピイの状態はしたがってキェルナゴi

ル の 死 に い た る 病

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キェルナゴールに於ては︑伺人は偲人自身であると共に人

類であり︑個LA人は全人類を代表するものとして罪を背負っ

て神の前に立っている︒郎ち﹁実存とは神の御前に立つもの

である︒これが根一冗的事実である1 一と言う事と︑﹁人間的実

存の本質的規定とは人聞は個体でるり同時忙全人類であるし

み﹂言う事である︒つまり︑人間の不安!恐怖の本質が人間自

87 

(11)

休が無︑であり︑無の深淵にのぞんでいると言う事よりも︑

不安を感じたい事のために没落したり︑不安の中に怯量して

没落したりする事たく︑不安を正しく感じる事によって不安

の根元にふれ︑罪を背負って神の前にある不安として救済に

導く動機たらしめようと言うのである︒

サルトルは叉︑人間の実存は本質に先立つものと規定した

即ち技術による生産品と異り︑人間の存在にはこれに先行す

べき本質はたい︒本来無であり1無から存在し来って立ち現

れた︵

ZB3

人聞は︑神に思惟される事によって創造された

のではたく︑伎が自らを作りだしたものであると考える︒そ

の故に人間は自らを計画し自らの存在を全人類としてえらび

とると言う﹁責任﹂に主体性を沿いている︒したがれJ

てサ ル

トルの場合︑不安はこの全体的責任からくる不安であり︑絶

望はこの実存である行動の中にあるわけでるる︒

このごつの立場は︑一は原罪の前提である不安を救済の謀

体たらしめると言う不安の帯証法であり︑一は行動の倫理に

よる責任概念を説くのであるが︑神を否定するにせよ肯定するにせよ︑人間の実存への認識として︑叉これを回復しよう

とする方法論に於て︑甚だ近い所に相接しているようでるる︒

F

iンの場合︑警官スコウピイの実存は神と虚無との間

にはさまれた論理的矛盾の恐怖であったが同時にまたその恐

怖が神を求めてやまぬと言う希望が示唆され︑論理のギヤザ

プをこえる超越的友︑たとえば煩悩即菩提と言ったようた形 の神の存在が暗示されている︒次作﹁愛の終り﹂に於ては︑異

常友

田山

内5

20

ロの中に魂の遍歴を求めると言う従来の手法

を捨てて︑より日常的たモラルの問題を取上ける一方︑神の

問題を更に前面に押し出して︑登場人物の中心的存在に﹁神﹂

を 沿 い て

︑ 救 い の 哲 学 を 掘 下 け て い る

︵ 未 完

﹁主流﹂前号︵第︑十六号︶日突

感情 の表 現様 式 j

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ホイ ヲト マシ と宗 教

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権 書

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