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グレアム・グリーンの『密使』について

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グ レアム ・グ リー ンの『

密使』について

On The Confidential Agent by Graham Greene

Masaya lwasaki

1 F内な る人』(TheMan Within,1929)の アン ドル ーズは森 の中の一軒家 でエ リザベスに出会 う こ とに よって 「追われ る」か ら 「追 う」存在 - と 転 化す る一 方,Dもまた-ルスの死 を知 った とき に 「追われ る老」か ら 「追 う老」- と変わ る。臆 病 さの点でDは ア ン ドル ーズの末雷 の一人なのだ が,ア ン ドルーズが生か ら死-赴 くのにたい して、 Dは死か ら再生に向か うことに成 功す る。両者 の 結末を分け たのは 「追われ る」 と 「追 う」 の二重 意識 の国境 にたいす る両者 の認識 の差異 に よるも のだが、 この差異 を解 く鍵は , F内な る人 』の上 梓以来 、つねに 「追 う」 と 「追われ る」 とい う二 重意識 のモチーフを作品の中で進展 させて きた作 者 自身 の国境 にた いす る意識 の変 化の跡を検討す ることにあ ると考 え られ る。 13歳 の ときにセ ン ト・ジ ョン寮 に入 った グ リー ンは家庭 と学校を隔てる ラシャ張 りの ドアを通過 す るたびた,父 と級長を している次兄 の レイモ ン ドに代表 され る体制側 とそれ に反抗す るい とこの ベ ンに率 い られ る反体制側 との間にあ って どちら か らも追まっれ る恐怖を抱 いた

「私は文 明世界を あ とに して奇妙な慣習 と説 明で きない残酷 さのあ る未開 の国へ入 ったのだ。 そ こでは異邦人 であ り、 容疑者 であ り,怪 しい共 犯者 のいることが}つか っ ている文字通 りの追われ る者 であっ

と述べた グ リー ンの恐怖心は 「死 よ りも恐 ろ しい ものに よ って追 われ る男です」 と言 うアン ドル ーズの意識 の上に色濃 く反映 してい る。 しか し、弟 の 「ヒ ュ -は グ レアムよ りもうま く学校生活につ き合 って いた」 ので 「個人的な脅迫 の犠牲者 にはな らなか った」 と トレーシーは述べている。

2

1939年 に出版 された F密使 』は,全集版 の序文 と F脱 出路』(TileIYaJSOf瓜caPe,1980)の回 顧に よれ は、 メキシコ旅行の後 . F権 力 と蛍光 』

(ThePoll,erandtheGlory, 1940)の制作 と併 行 して. 6週 間で執筆 された とい う。 作 品の背景 はスペイ ン内戦を材料 に して い るの で

,D

の役割 とそれ を と りま く人間的係は次 の よ うに了解 され る。祖国にある共和国政府 の密使D. その任務 と行動 を監視す るKと ミセズ ・メソ ドリ ル、共和 国- の反乱軍の密使L。 グ リー ンが主人公たちを頭文字で呼んだ のは. (2) 「彼 らの衝 突 の場所 を限定 した くなか ったか ら」 であ り,同時 に、 F権力 と栄光 』の司祭 と警部が. それ ぞれ教会秩序 と国家権力の象徴 であ った よ う に、その頭文字が個人の生 と平安を破壊す る暴力の 遍在 を強調す る象徴であ岩'と考えることがで きる。 戦 時 の祖 国では恐怖以外 の何 の感情 も抱 くこと がで きない とい う状況が、 「ここが世界 の中で一 番治安維持 のい きとどいてい る町」であ る ロン ド ンに も現 出す るか らである。 グ リーンは1930年 代 の ヨー ロ ッパの暴力的な政治危機 の現実世界が 、 作者 の意図 した 「現代のス リラー」 としての表現 形式 をは るか に凌駕 していることを, 「ス リラー が現実 に近 いのです。 おかあ さんや この芝生やお かあ さんのサ ン ドウィ ッチや あの杉 の木 よ りもで i54J)とアーサ ー ・pウを借 りて述べてい る. 45歳 のDは祖国での内乱勃発 とともに共和国政 府か ら石炭購入契約 の密使 として任余 された とき に 、それ までの中世武勲詩 Fp- ランの歌 』の研 究職 とい う 「生」か ら 「死」の位相 に入 りこんだ と考 え られ る. それは 、 「戦争 とい う牢 獄が人間 1

(2)

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5

)

を変 えて しま う」か らで ある。

第1部 第1章の冒頭 で フランスか らの連絡船が ドープ ァ一に入港 した とき.Dはそ の無名性 のた めに,danger,death,destruction,- とい う戦争 の もつ あらゆ る属性 を他者に感染 させ る 「追われ る者」 として登場す る。 それに呼応 して、ビーター ・ウル フ(PeterWolfe)が言 うよ うに,晩秋 の ド -ヴ ァ-港 もまた死 のイ メージに充た されてい る。 鴎が ドーヴ ァ-の上 を飛んだ。霧 の断片 の よ うに飛び出 しては陰 に ある町 の方- とジグザ グ に戻 って行 く。そ してサイ レンが鴎に合わせて 哀悼 の気符を表す(mourned)と,他の船 もそれ に応 えて、 航跡(wake)全体がその声 をあげた。 だれ の死 (death)を悼 んでか。船は肌を刺 す よ うな秋 の夕暮れ

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を半速 で進 んだ。 そ れ を見てDが憶 い出 したのは霊枢 車(hearse)だ。

「憩 いの

園」(

`garden orpeace')-向か って ゆ っ くりと慎重に車輪 が まわ り.御者は、 まる で遺体 (body)が揺 れ を気に しているかの よ う に、枢(coffin)を震 動 させない ように してい る. ヒステリーにかかった 女 たちが横静索(shrouds) の問で金切声 を出 し漂 ) 内乱以前の

D

について の 日常は次 の よ うに要約 す ることがで きる。 (1)

D

は FF-ランの歌 』の写本研究者 として大 学に勤めてい る。 (2) 42歳 の とき6ケ月 の休暇を大学か らもらって 夫婦 ともに旅行に出かけ るため写真を撮 って も ら う。 (3) その 3日後に内戦 が起 こ り、妻 は銃殺 され る。 空襲 のため崩れた地 下室に56時間生 き埋めにさ れ る。後 日.反乱軍 に逮捕 され,牢獄 に入 り、 捕虜交換 で釈放 され る。 「恐怖 以外 の感情を二 度 と抱 くことはない と思 います」 と言い. 「生 」 を棄てて密使 の役割 を担 ったDは作品の冒頭です でに 「死」 の世界に沈潜 してい る。それは彼が 「生 きてい る人 よ りも死者 と死 に顔 してい る人 の方 を愛す ることがで きi7L と意識 してい るか らで あ る。 アン ドル ーズが 「聖者 の ような顔 の白髪 の老婦 人 」が. 「母親 の よ うにや さしく手首 に包帯 を し て くれ、食 物や飲物を出 して くれ る」 ことを願 っ た とすれば, ロー ソクの焔 に照 らされ て現れた女 が彼 を臆病 か ら勇気- と転化 させ よ うとした以上 、 この森 の中の一 軒家は、 「追われ る」 と 「追 う」 の境界 であ るとい う点 で、 グ リー ンが幼年時代の 日常を過 したバ ーカムステ ッド ・パ ブ リック ・ス クールの校長公舎内の私邸 と校舎を隔て る ラシャ 張 りの ドアの再現 と考え られ る。 グ リー ンの二重 意識 の原初的な国境は,現実生活では作者 の成長 に合わせて、校長公舎内の録 の ラシャ張 りの ドア に始 ま り、13歳 の ときには寮 と家庭 の境界 として の ク ロ ッケーの芝生に,31歳 の ときには リベ リ7 旅行の途上 で 「生」 と 「再生」 を分 け る 「森 の学 校」に, 34歳 の ときには アメ リカ とメキシ コを結 ぶ国境 の橋 に進展す る。一方, ラシ ャ張 りの ドア のイ メージは,作品の 「地下室」では 「原始」 と 「文明」を遮 る録の ラシャ張 りの ドア として、 F内 な る人 』では森 の中の一軒家 として、 F権力 と栄 光 』では国境 と してのジ ェネ ラル ・オブ レゴン号 に、 「橋 の向 う側」の リオ ・グランデに架 か る国 境 の橋 として, 「庭 の下」 では 「生」 と 「再生」 の境界 としての地下 の洞窟 に、再現 されてい る。

D

が救い としての生- の希望を発 見 した のは , ローズに よる憐れみのおかげなのだが,その可能 性 を与 えたのは-ルスの献身的 な情 熱 であった と 言 うことがで きる

o

「紳士 」 と思われた

D

- の献 身的な情熱 に感動 したために

D

は. フィ リーップ少 年 の 「原始」の体系に属す る-ルスにたい し2度 にわた って密使 としての 「大人」の役割 の一部を 担わせて しま う。その 日の早朝,ホ テルに着 いて か ら国際語木部

-K

と連絡を とるた めに外 出中, 部屋 の鍵 を-ル スに預け る。 2度 目は,帰宅後 、 部屋 のカバ ンの中を調べ られ てい ることに気づ き, 信任状 の隠匿を-ルスに頼む。石炭購入契約 の商 談 に失敗 したあ と,刑事か ら-ルスの死 を聞か さ れた ときに、その死に責任 を感 じた のは、その前 日,密使 としての役割を果た した ら,安 ホテルか ら-ルスを連れて他-転居 しよ うと約束 していた か らであ る。 その責任を果たすため ,-ルスの死 の首謀者 とな ったホテルの女主人 と

K

とに復讐す ることを誓 う。 これか らはおれが追 う岩 に,監 視者 に、狙撃

(3)

著 にな ってや ると誓 っ農 「死」 の世界に所属 す るDと対照的に、 ローズ は 「生」の世界に結 びつ く。Dの臆病 さと正直 さ とに憐れみを抱 くローズは死、幻影 を信ず ること がで きないか らであ る

「私は男の人 に生 きてい ては しい。 死 んだ り牢獄 にいた りではな くて、あ なたが死 んでいれ ば1ケ月 も愛 す ることはで きな いで し ょう。 そ うい うタイプの女 じゃないわ。 あ なたみたいに, 日に見えない人 に誠実 では い られ なし`,9L と言 う. それ を聞いて

D

は ピス トルを 。-ズに渡すのだが, これはDが人 を初めて信臨 した 行為だ った。 体制側か らも,またKと女主人を裏切 ることに よって祖国 の体制側か らも排除 され ている以上 、 Dは どちらにたい して も救 いを求め ることはで き ない。 この心象風景を フ ィ リップ少年 は無意識 の 中に閉 じこめた まま,国境 の ラシャ張 りの ドアを 再 び押 しあけ ることがで きず に死ぬ。 アン ドル ー ズは,一旦 はエ リザベ スの憐れみに うなが されて 密輸船団の仲間を有罪 にす るために巡 回裁判 の証 言台に立 つ とい う勇気 を示 し, また被 告に無罪が 言 い渡 され ると、仲 間の復讐 か らエ リザベスを救 うために急 いで森 の中の一軒家-戻 るとい う勇気 を見せ るけれ ども、エ リザベスの死を確めた とき、 ア ン ドル ーズの責任は,再生-の予兆を示す もの の.暴力 の父の子であ る自己を抹殺 す ることに よ って父に復讐 を遂げ るとい う内省的 な頗罪行為 と して表現 され ているに過 ぎない。 ア ン ドル ーズは フ ィリップのあ とを追 うように して 「死」 に向か うが、Dは 「再生」- 出発す る。両者 の運命 を分 けたのは責任にたいす る認識に差異があるか らだが、 アンドルーズはエディプス・コンプレックスの中-逃避 したまま成熟す ることを回避 し.Dは.その役割 と存在 の亀裂に憐れみを抱 いた ローズの生 に責任 を負 って祖 国-帰還 す る。 - ッビー ・エ ンデ ング に思われ るこの結末 と

F権 力 と栄光 』の河港-ウ ィスキー司祭に代 って、 「背の高い青 白い顔 を したやせた」司祭が登場す る結末 との問には微妙 な アナ ロジーが見 出 され る。

3

グ リー ンが創 り出 した登場人物が作者 の認識 の 進展 に比例 して成長 を遂げ るもの とすれば, ア ン ドル ーズ とDの責任 との係わ り方 を,作者 と生 と の関 係に探 ることもで きるのではないか。 Fブライトン・ロック』(Bn'ghion Rock,1938) 以降 の作品をカ トリック小説 と呼ばれ るこ とに不 満 を示 した グ リー ンは,作品 とカ トリシズムの関 係に触れて、 「すべ て私 の作品は、オ ックス フ ォ ー ドでの嘆かわ しいほ どの1冊 の詩集 を除 いて、 カ トリック信者 として書 いて きた ものであ る。 し か し,だれ も Fブライ トン ・ロ ック』出版 以前に (10) 私が所属 した信仰 に注 目した人はいなか った」 と 述べ てい る。 1926年 カ トリックに改宗 。 1929年 F内なる人 』出版 。 1936年 「地下室 」 出版 。 F地図のない旋 』 出版 。 1939年 F捉 な き道 』出版 。 F密使 』出版 。 1940年 F権力 と栄光 』出版 。 この略年譜 の中で注 目すべ きことは、 ア ン ドル ーズか ら、生-死 一再 生を体験す るグ リー ンの最 初の主人公 であ る

,D

と司祭 の登場 までには少 な くとも10年 の歳 月が流れ、その間 に作者 が企てた リベ リア旅行 とメキ シ コ旅行 の体験 の中に救い と して の 「生」- の希望 が記 されてい る点 に あ る。 リベ リア旅行中、ズ ィギズタウンに着 く前にマ ラ リアに冒 された グ リー ンは同伴 したい とこのバ ー/1ラ ・グ リー ンの献身的 な看護 に よ り,死 の世 界か ら復活 した ときに, 「自己の中に生 にたいす る情熱的 な関心があるのを発見 した」と言 い、「以 前には これほ どの回心を体験 した ことはなかった」 と回想す るo この ときのグ リーンの表情 をバ ーバ ラは, 「巡礼者 が聖な る市へ赴 こ うと願 っている よ うにい とこは海岸地域- お りて行 きたい と願 っ てい

1

と記 してい る。 メキ シ コの ラス ・カサスの写真店 では、 キ リス トの像 を身 につけた婦人 の穏やか さに うなが され て、 グ リー ンは 自分が カ トリック信者 であ ること を告げ,主任 警部の代表 す る政 治権力の秩 序 の中 に失われたイ ノセ ンスを発見 し、 「まるで異国の 町 で見知 らぬ入 口をあけて、中にいる旧友 に会 う -

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3-よ うな ものだ」 とその感動を告 白 してい る。 この よ うに して グ リーンの2度にわた る救 い と しての 「生」の認識 に従 って, Dは ローズを連れ て国外-脱 出す るとい う責任を果た し,司祭は国 内に留 まるとい う責任を完了す る。 「生」と 「死」 が対時す る国境 に庁む グリーンの主人公たちを 「追 われ る」か ら 「追 う」基軸- と転回 させ るのは

R.

-M.

アルペレスの言 うように,道徳的次元 の責任 としての勇気にはかな らな

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4

成熟す ることに失敗す る子 どもの感受性 を素材 として作家的出発 を遂げた グ リー ンは、1929年 に 第 1作の F内なる人 』を発表す る。主人公 ア ン ド ル ーズは父親 の暴力に よって幼年 を破壊 された あ と、暴力の世界に復讐す ることに失敗 して 自殺 を 図 る。幼年 の喪失 の恐怖 を知 り過 ぎたために成熟 に失敗す るグ リー ンの登場人物た ちの原型が ア ン ドル ーズであ り、短篇 では、 「地下室」の フ ィ リ ップ少年 であ る。 フ ィリップ少年 の よ うな,幼年 を破壊 された まま成熟 に失敗す る数多 くの登場人 物 を扱 ったのが F二十一 の短篇』(Twentyl0ne Ston'es,1954)であ る. 1954年 に刊行 された F二十一 の短篇 』は、その 19年前に発表 された F地下室 と他の短篇』 (The

及びementRoom and Other Ston'es,1935)に 収め られた8篇 の他に、新たに11第 を加えた F十 九 の短篇』(Nineteen Stories,1947)にたい して さらに削除 , 追加 を経 て集成 され た もの で あ っ て,その特徴 を要約すれば. リチ ャー ド ・ケ リー

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の言 う 「と り返 しのつか ないイ ノセ ンスの喪失 と、夢 に出没す る迷子 を逆説的に 探求す るとい う主題」 を扱 ってい る。

「パ ーテ ィの終 り」(

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紘,隠れん坊 を してい る最 中に、暗闇 の恐怖 に駆 られ て死 の世界へ と赴 くフランシスの恐怖感 を双 子 の兄の ピ-クーが 自己の意識 の上 に感 じる物語 である。 これか ら隠れ ん坊 を始め よ うとす るとき に, ピーターは、 「大 きな鳥が翼を拡げて弟 の頭 の上 に影 を落 とす」 のを意識す る。子 どもの恐 怖 の象徴は, グ リー ン自身が一 番脅威 を感 じていた 鳥や コウモ リに よって示 されてい る。 「見つけたぞ」(

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では、 自分 の家 の ク /;コ店 か らタ/,.コを盗み 出そ うとす るチャー リー ・ス トウほ夜半、父がスパイ容疑 で連行 され る途 中家に立 ち寄 るのを見て, 「非現実的 な存在 ,育 白い、稀薄 な、輪郭 のぼやけた亡霊 」であ る父 の 姿 にたい して初 めて愛情 を抱 く。 「無邪気」(

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t')では30年ぶ りに幼 年 を探 しに故郷 を訪ねた男が、当時好 きにな った 女 の子に宛 てた ラブ レターを隠 しておいた門柱 の 孔 を見つけ る。 そ こに残 っていた手紙 の中味が男 女 の姿態 を描写 したただの袋襲 な絵 であることを 知 って,イ ノセ ンスの喪失に改めて気づ く。 「橋 の向 う側」 (

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では百 万長老 で詐欺師 のキャ ロウェイ氏が、 リオ ・グ ラ ンデに架か る文字通 りの国境 にある メキシ コ側 の 小 さな町にいて、対岸 のアメ リカの町 に 自分 の故 郷 であるイギ T)スの ノーフ ォークを夢 見てい るが、 警察 の策略 にかか って橋 を越 えてみ た ものの,幼 年 を見 つけ ることに失敗 し,事に瞭 かれて死ぬ。 幼年 の探究 とい うテーマはその後 も数多 くの作 品に引 き継がれ ていて,た とえは、59歳 の ときに 発表 された短篇集 F現実的感覚』(A Sense of Realz'ty,1963)の 「庭 の下」(

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に もまた, ダウ ェソ ・ボー ドマ ン

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の言 う 「失われ た幼年 とい う反復的 なテーマの神話的変奏」が表れてい るのは、 グ リ ーンに従えは、 「わた しの小説 の中に くり返 し出 て くるテーマがあ るとすれば,それ はおそ ら くわ た しの人生 に くり返 し出て くるテーマがあるか ら

である。

5

グ リー ンの作品に見 られ る愛 と憎 しみ とい う二 重意識 の原型は幼年時代の 日常 の中に認め られ る が,同時 に,そ こにカ トリシズムの予兆 も見 出す こ とがで きる。 しか し、そ こでは彼 の悪の認識は まだ罪 の意識 を含 んでほいない。現実 の世界 にあ って法律の保護 か らしめ出 された罪 び とた ちに . 「生」- の希望 を与 え る鍵 の ヒン トを グ リー ンが 抱 くには カ トリック-の改宗 とそれ に続 く再生-の体験旅行が必要 だ ったのであ る。 作者が強調す るとお り、詩集 Fお しゃべ りす る四月』(& bbling Apn'l,1925)を除 き、 F内な る人 』の刊行以降 、 登場人物た ちは作者 とともに国境 を通 して さまざ

(5)

まな二種 の世界 の対立 に捲 きこまれ ることにな っ た。 グ リー ンは, フ レーザー(G.S.Fraser)が言 うように、 「象徴的な メロ ドラマ, あるいは文学 的なス リラー小説」の作家であるが,作 品の特徴 はそのカ メラ ・アイな どの技法に劣 らず そ のテー マの進展に あ ると思われ る。

フランソワ・モー リア ック(Fran90isMauriac)

は、 「グ 1)- ンに於 て私 を感動 させ るものは、キ リス ト教徒 であ り、 カ トリック信者 であ って、す は らしい ものではあ るけれ ども、私 自身 もまた携 わ った芸術 のテ クニシャンとしてではない」 とグ リーンの小説技 法については関心がない ことを示 してい るが, 「探偵映画 と一 連 の暗黒小説 に、世 間の知 らぬ F真実 』の道 を聞かせた」点 にその価 値を認 め,最大 の意義が恩寵 の表現にあ ることを 指摘す 去1.3 「地獄 の存在 を信 じたので天国の存在 を信 じる よ うにな った」 とい うグ リー ンの逆説的 な認識 に 基づいて. ど./キーは 「地獄 の責苦 もあ る」 と言 い, 「それか ら天国 もね」 とローズに言われ ると, 「ああ、多分」 と暖味 に肯定 す るのであ る。 また、 F飛行校海賊』(The lYrate AeylDPhZne,1912) の中に表れ る、敵に揃 え られ た ヤンキ ーの海賊が 夜、い っし ェにカー ド遊びをす るとい う、危機 に 陥 った主人公が恐 怖か らの逃避手段 と して始めた 行為が 「司祭」 と 「警部」 の問に も巧みに再現 さ れて いる。 グ リー ンの登場人物が所属す るのは. 「追 う」 世界 と対鋲的 な 「追われ る」世界 である. ア l/ ド ル ーズは密輸船団の仲間 と税関吏に追われ るもの の, もう1人 の 「追 う」者 は批評す る自我 であ り, ピンキー とローズは不 良仲間.警察, アイダ ・ア ーノル ドか ら追われてい るが,結末では神に よっ て捉 え られている、 とグ リー ンは言 う。主人公た ちが所属 で きない 「追 う」秩序を維持す るために 政治権力を行使す る社会の偽善 を非難 す るのは コ ソラ ッドであ る。 ここでは善悪 と正邪 の二 重意識 が提示 され,そのまま, ローズ対 アイダの関係に 引 き払 がれ る。 この関係 は ジ ョン ・ア トキ ンズ (John AtkinS)か ら、 図式的に過 ぎる, と言わ れているけれ ども, Dと司祭 の臆病対責任 の レベ ルに達す るまでの二重意識 の中では国境 としての ラシ ャ張 りの ドアを理解す る上 で最 も説得力を も

つ。

註 (1) Graham Greene,A、SoyiofLife(London: The Bodley Head,1971), p.72.

(2) Graham Greene,The ConjtdentialAgent

(1939;rpt,London:TheBodley Head,197

1

)

,

Vlll.

(3)青木雄造 Fグレアム・グリーン』 (研究社,1971), p.159.

(4) Graham Greene, The Minbtry of Fear

(1943;rpt.London:TheBodleyHead,197

3

)

,

p.68. (5) Greene,TheConjidentialAgent,p.115. (6)Ibid.,p.3.死のイメージを示す ものとして指摘 された英語の中でイタ1)ックのもq)は筆者による。 (7)Ibid.,p.152. (8)Ibid.,p.130. (9)Ibid.,p.171. 的 Graham Greene,Bn.ghtonRock(1938;rpt. London:The BodleyHead,1970),vii. 帥 BarbaraGreene,TooLatetorum Back

(1938;rpt。London:SettleBenda

l

l,1981)

,

p.177.

青木雄造訳 「グレアム ・グ1)-ソと責任」 (筑摩書房 「世界文学大系」60,1961),p.365. 的 窪田啓作・窪Efl般弥訳 Fグt,7ム ・グ リーン』 (河出書房,1956),pp.3-5. - 5

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