長 野大学 紀要 第16巻 第1・2号合併号 78-83頁 1994
グレアム ・グリーンの 「
イノセンス」の変容について
The Transformation of "Innocence" in Graham Greene
「地下室 (`TheBasementRoom',1935)はフ ィ リップ少年が死 に向か うところで終 り、「庭の下」 (`UndertheGarden',1963)は ワイルデ ィッチが 死に赴 くところか ら始 まる。 フ ィ リップは生 に絶 望 して死 を迎 え、ワイルデ ィッチは死 を通過 して 再生に至 る。両者の運命 を分けたのは 「死」 との 係わ り方であるという点で、スタンリー ・ワイン ト ラウプか ら筆者宛ての書簡 を持 ち出せ ば、「グ リー ンは、- ミングウェイの よ うに、生 き方 よ りは死 に方のほ うがず っ と重要 だ と感 じているようだ」 とい うこ とがで きる。 しか し、この ような生 と死 についての グ リー ンのオブ\セ ッシ ョンともいえる テーマ を、別の視 点か ら、つ ま り子 どものイメー ジであるイ ノセ ンスの変容 として解釈す るこ とは で きないだろ うか。 ピー ター ・カヴニ-は 『子 どものイメー ジ』(The Image
o
fChildhood,1957)の中で、文学作 品、に表 れ る子 どもの イメー ジには、生命や豊能の シンボ ル としての子 ども像 と、逃避感情 に支え られ る死 礼賛の シンボル としての子 ども像 とがあるこ とを 指摘 した。 この二種類のイ ノセ ンス と成熟 との関 係 をグレアム ・グ リー ンの作 品群 の中で検討 した のが ジェイン・B.マ ン リーの 『グレアム ・グ 1)- ン - イ ノセ ンスの狂 気』(Graham Greene:The InsanityofInnocence,1969)である。 1935年 に発表 された 「地下室」(`TheBasement Room')は、同年 の リベ リア旅行 の帰 りに、「航 海 の倦 怠感 か ら逃 れ るため に貨物船 上 で構想 を得 て」1)制作 された短篇である。 ボー ドマ ンが 「『地 図のない旅』(JoumeyWithoutMa
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,1936)の中 にその鍵がなければ、『地下 室』 に含 まれ るアフ リカに関す る記事 の意味は明 らか にな らないだろ う」 2)とい うように、「地下室」は 『地図のない旅』 の もつ 、空間的移動 に時間的遡行 を重ね るこ とに岩
崎
正
也
Masaya lwasaki
よって、人類の原始 と個 人の幼年 とを探 るとい う 二重 のテーマ と構造 を共有す る。だか らフ ィ リッ プ少年 とペ インズの関係は、シエ ラ ・レオネの沿 岸地方の堕落 した文 明秩序 と、 リベ リアの奥地 を 支配す る原始の秩序 との両者 に よる葛藤の延長線 上 にあ る と考 え られ る。 ジェイン・B.マ ン リーは、「グ リー ンに とって子 どもの悲劇 は意図的に して も偶 然であって も、大 人が子 どもを犠牲に した結果 であ るこ とが一番 多 い」 3)とい う。フ ィ リップは7歳の ときに大 人の事 件に捲 きこまれたこ とに恐怖 を覚 えたために 、す べての責任 を放棄す る。その 日まもな くペ インズ -の裏切 りの発端 となるフ ィ リップの心象風景 を 作者は次の ように描 く。 「キ リス トはユ ダの失 われた幼年 時代 に裏切 られたのだ」。 その幼 い未 成 熟 な顔が表情 を失 い、年老 いたデ ィレッタン トのかた くなな利己 主義に陥 るのがわか るだ ろ う4)0 A.E.の詩か らの引用は、ペ インズに とって破壊 された少年 の イノセ ンスが裏切 りに結 びつ くとい う物語のモテ ィーフ を示す とともに、幼年 時代 の 体験が大 人の生涯 を決定す る とい う作者のオブセ ッシ ョンをよ く表 している。物語の冒頭 で両親が 二週 間の休 暇 をとって出かけたあ と、フ ィ リップ は、国境 の象徴 である緑色の ラシャ張 りの ドア を 通 って他 の部屋に入 る ときに 、初めて人生 を知 る。 す ぐにペ インズに よって代表 され る大人の文 明世 界の事件 を繰 りか え し経験す るこ とになるのだが 、 フ ィ リップが 人生 を意識す る、つ ま り少年が人生 を経験 した(thisislife)と作者が語 るたびに、少 年 の イノセ ンスはペ インズへ の信頼か ら不信へ と 変化す る。ペ インズが両親 を送 り出 してか ら玄関に戻 って きた ときに、 また初めて地下室に降 りる 階段 を踏みだ した ときに少年 が人生 を意識 したの は、子 どものイ ノセ ンスの特徴 である好奇心の発 露 に よるものであ る。 しか し悪魔 的なペ インズ夫 人に説教 されてい る ときのペ インズの失望 ぶ りに、 これが 人生 なのだ と思 った とき、フ ィ リップはペ インズにたい し責任 を感 じる。 また散 歩に出たい とい う願 いを強 く打 ち消 され る と、地下室 にあふ れ る異様 な激情 にたい して恐怖 を覚 える。フ ィリ ップがペ インズを、その秘密 を洩 らす こ とに よっ て無意識に裏切 ったのは、大邸宅 の主宰者の役割 をか な ぐr)棄 てて個 人 となったペ インズの存在 を 覗 いて しまったか らであ る。つ ま り、ペ インズの 存在 と役割の間隊に生 じた嘘が少年 に恐怖 と映 っ たか らにほか な らない。ペ インズは少年 の好奇心 を奪 って、その イ ノセ ンスを破壊 したが、同時に、 マ ン リーが 「苦 しむ子 どもたちはその苦痛 に責任 のあ る人々に審判 を下す」 5)とい うよ うに、大 人の 嘘の恐怖 に耐 えきれな くなった少年 の裏切 りに よ って役讐 されたのだ。 エ ミ-の存在の秘密- この心象風景はす ぐに 少年 の記憶か ら忘れ去 られ るが 、少年 の無意識の 中に永遠に留 まるこ とになる。 この点につ いてマ ン リ-は、「悲劇 は幼年 時代 に起 り、重大 な苦痛 は 大 人にな って生ず る」6)とい う。幼年 時代 の体験が 未来 を決定す る とい うグ リー ンのオブセ ッシ ョン を託 された登場 人物 として、また、成熟に向か う意 思 を放棄 した とい う点で、フ ィ リップは人間形成 の原初的な段 階にあ り、 グ リー ンに よって創造 さ れたすべ ての主 人公たちの もつ イノセ ンスの原型 といって よいだろ う。 幼年 におけ るイノセ ンスの喪失が 、 ときには人 を暴力的な破壊行為へ と駆 りたて る状況 を描 いた 作 品が、『拳銃売 ります
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le,1936) と 『ブ ライ トン ・ロ ック』(Bn'ghtonRock,1938) であ る。 イ ノセ ンス とい うテーゼは 『拳銃売 ります』 の 中で、キ 】)ス ト降誕 とア ンデルセ ンの 「雪の女王」 の二つのモテ ィー フに基づ いて くり返 され る。 「雪の女王」の モテ ィー フの一 つ 目。殺 人請負 人 として国防大臣 を射殺 した レイヴンは、第1章 第2節でア ンが ロン ドン郊外でバス を降 りてアパ ー トに入った とき、その前の通 りを歩いている. 「歩いている間彼はア ンデルセ ンの 『雪の女王』の カイの ように体 の中に冷 た さ を もって い た」7)と い うように、氷が カイの心に棲 みつ いた悪 を象徴 す るこ と と、「彼が 胸の中にある氷のかけ らか ら なんの痛み も感 じなか った」 こ とが読者 に伝 え ら れ る。 レイヴンはア ンのアパー トの下 を通 る とき、 四階の部屋 で彼女がかけてい るレコー ドか ら聞 こ えて くる歌 を記憶 に留め る。 あなたには ただのキュウだけ ど この私 には パ ラダイスO あなたには ただの青 いペチ ュニアだけ ど 私 には それがみんなあなたの瞳 それはいい人が 、 グ リー ンラン ドか ら持 って きた 雪の花 だ とい うけれ ど、 で もあた しにはあなたの手の 軽 さ、つめた さ、 白さなの (北村太郎 訳 ) ここで 「雪の女王」の イノセ ンスのモテ ィー フ は、 レコー ドの歌詞 として レイヴ ンの意識の上 に 再生 されていて、後 日、ア ンが この歌 を口ず さむ ときに、ゲル ダの イノセ ンスはア ンを介 して レイ ヴンの冷 たさにたい し融解作用 を及ぼす。 二番 目は、第2章 第 3節 でア ンが ノ トウィ ッチ 駅のホームに降 り、 レイヴンに ビュ ッフェ-連れ こまれ る場面である。 レイヴ ンはち ょっ と目を離 したす きに、ア ンか ら顔 に熱い コー ヒー を浴びせ られて坤 く。その痛 みが初めて彼は 自分が射殺 し た国防大臣や女性秘書や父親が感 じた苦痛 であ る こ とを知 る。 この点で肉体的 な苦痛 は レイヴ ンの 暴力的な精神 の崩壊 を暗示す る。 三番 目としてそのモテ ィーフは同 じ第3節の建 売住宅の場面に受 け継がれ る。「あなたは/ただの キュウだけ ど/ この私 には/パ ラダイス」 とア ン が 口ず さむ と、 レイヴンの心 は融解作用 を起 こし 始め る。「まるで な にか 鋭 い冷 たい ものが心の中 で大 きな痛み を伴 って壊れてい くよ うだ った」 と レイヴンは苦痛 を意識 し、泣 きだす。建売住宅 は緑 -79-80 長野 大学紀要 第16巻 第1 I2号 合併号 1994 色の ラシャ張 りの ドアに象徴 され る国境 の再現 と 考え られ るo それ まで憎悪以外になんの感情 も表 さなか った レイヴンの冷酷 さが この住宅 を通過す るこ とに よって融解 し、苦痛や 恐怖へ と変 り始め たか らである。 一方 、 キ リス ト降誕のモテ ィー フは まず 第 1章 第3節 で、 ク リスマ ス用 品におおわれ た街 をレイ ヴ ンが家 へ 向 か っ て歩 く場面 に表れ る。 「彩色 し たガラス玉 を下 げた桶 に入ったモ ミの木 と秩桶」 をレイヴ ンが 見つけて 、ル カ伝2章7節 の 「旅舎 に をる処 なか r)し故 な り」 を反射 的 に 口にす るo キ リス ト降誕 と 「雪 の女王」 の両方 のモテ ィー フ が交錯す るのか 、第3章 第5節の ウ ィ- ヴ ィル河 畔 にあ る車庫 の場 面 であ る。 河岸 に並 ぶ大 きな家並 の一 軒では車庫 の入 口 の ドアが少 し開 いた ままになっていた。 そこは 明 らか に車 を入れ る場所 ではな く、ただ乳母車 や 、子 どもの遊 び道具 、それに二 、三の汚れた 人形や煉 瓦 を置 く所 だ った。 レイヴ ンはそこに 避 難 した。彼は体 の 中 まで冷 たか った。 しか し これ までず っ と凍 りつ いていた- か所だけ は別 で、その氷の短 刀は強 い痛 み を感 じて融けだ し ていた。 ここで乳母 車 は キ リス ト降誕の株桶 の再現 であ り、「氷 の短 刀 は 強 い痛 み を感 じて融けだ してい た」 とい うレイヴ ンの 意 識 を とお して の、「雪の 女王」 に登場す るゲル タ とい う子 どもの イ ノセ ン スの象徴 で もあ る。 さらに車庫 も建 売住宅 に続 く 国境 の変型 であ り、国鏡上 に しば ら く留 まるこ と に よ り、 レイヴ ンの精神 は決定 的に融解作用 に向 か う。 「追 われ る」 レイヴ ンが 「追 う」存在 に転化す る 「国境」の場面 は、深 い霧 に閉 ざされた貨車 置場 の 隅 にあ る小屋の 中であ るO闇の なか で一夜 を とも に過 したア ンが裏切 りを決意 した とい う点 で、こ れは レイヴ ンの運 命が死 に決定づ け られ た こ とを 読者 に意識 させ る注 目すべ きシ ョッ トであ る。暗 闇の なか で レイヴ ンは 、ア ンか ら、国防大 臣が貧 民層 の出身 であ り、貧 しい人々のため に尽 力 した こ と、大 臣の父は泥棒 で、母 は投 身 自殺 を した こ とを聞か されて 、 自分 と同 じ階級の人間 を裏切 っ て いた こ とを知 って動揺す る。教会 の慈善市 でア ンの- ン ドバ ッグを もつ 老 婦 人 を見 て、 「同 じ階 級の 人間同士が互 いに餌 食に し合 うなんて、 これ は悪 だ」 と憤 るレ イヴ ンは 、同 じ階級の人間 を裏 切 るこ とは不正義 であ り、悪 だ と考 える。 しか も、 お偉方 で、教会 の いい席 に座 る人たちの一 人 と思 っていた国防大 臣の死 にたい しては、それ までな んの苦痛 も感 じなか ったか らであ る。 レイヴ ンの 内部 で しだいに罪の意識が増殖す る。冷 えきった 小屋 の なか で眠 りにつ いた とき、 レイヴ ンは、大 臣が彼に話 しかけ る夢 を見 る。 「射 った らどうだ。私 の 目を」。 レイヴンは両 手 にパチ ンコを もつ子 どもで、泣いた ままで、 射 てなか った。す る と老大 臣は言 った 「さあ、 射 っていいよ。一 緒 に うちに帰 ろ う。射 った ら ど
う
だ 」 ボー ドマ ンは妖精物語の恐怖 と懲 罰は 、文 明社 会の恐怖 と懲罰 を悪夢 の 中で再現 した ものだ とい う。夢か ら覚 め た レイヴンは、 しだいに 自分が暗 殺 した大 臣 とその女性秘書 の苦痛 に耐 え られ な く な って 、ア ンに大 臣殺害が 自分 の行為 であ る と言 う。 その と きア ンは 突然 、「これ まで と くに醜悪 と思 わなか った レイヴンの唇が心 に浮か び、思 っ ただけで吐 きそ うに」 な り、裏切 りを決意す る。 す でに まった く憐 れみ を感 じな くな ったア ンに と って 、レイヴ ンは 、「注意深 く取 り扱 ったあ とで殺 さなければ な らないたんな る野獣」 にす ぎない。 ひ とたびア ンの イ ノセ ンスに よ り、他者への苦痛 、 恐怖感 を取 り戻 した レイヴンの冷酷 さは、 カイの 氷 が ゲルタの涙 に よって融か された ように、消滅 に向か い、ふ たたび もとの存在 に戻 るこ とはあ り えない。 ゲル タ をのせ て桟 を曳 く トナ カイが フ ィ ンラン ド人の女 に向か い、ゲル ダに大 きな力 を与 えて欲 しい と頼ん だ とき、女 はゲル ダ 自身のなか に最 も強 い力が あ る と答 える。.itconsistsinthis,thatsheisadear innocentchild8)(イタ ))ックは筆者 に よる)O 暗殺 の本 当の依 頼者 であ るマー カス卿 を射殺 し たあ と、 メイザ-警部 と部下 に因 まれた レイヴ ン
は、ア ンが歌 う 「それはいい人が 、 グリー ンラン ドか らもって きた雪 の花 だ とい うけれ ど」 を想い だ して、相手 を射つ こ とを断念 し、その部下 に射 たれ た ときに、 「死が耐 え られない苦痛 を伴 って 訪れ る」の を意識す る。 こ うして 「ゲルデが優 し いイノセ ン トな子 どもであ る」とい う 「雪の女王」 のモテ ィー フが完成 し、「ユ ダの失 われ た幼年 時 代 に、/ キ リス トは裏切 られた」 とい う裏切 りの モテ ィー フが成立す る。 ピンキー に とって殺 人はアイタのhuman`right andwrong'の領域 での行為 だが 、告解 を伴 わな い結婚 はdivine`goodandevil'のevilであ り、 死 よ りも恐 ろしい悪 なのだ。 したが って車庫の場 面に表れた ピンキーの恐怖感は、コ リオこの一味 に追われ る恐怖 を超 えた、 自己 の行為 にevilを意 識 した ときの感覚 である。 それはア トキンズが い うよ うに、「子 ど もの堕落はつねに グ ))- ンに と っては大 きな悪 だった」 9)か らである。「スパ イサ ー だけ じゃないQおれは聖霊降臨 日の翌 日に終 り のないこ とを始め たのだ。死 は終 りではない」10) とい う少年 は死の彼方へ と続 く生の恐怖 を意識す る。 『内なる人
』(TheManWi
t
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,1929)の冒頭 で、追われ るア ン ドルー ズが森の中の一軒家 に辿 り着 いて、エ リザベ スに向か い、「死 よ りも恐 ろ し い ものに追 われているんだ」 11)と言 うとき、それ は ピンキー的な恐怖 ではな く、 自我の分裂 に よっ て生 じた 「批評家」 の意識に追 われ る内省であ る に過 ぎない。 グリ- ンの主 人公は ピンキーにおい て初めて神 に対立す る悪 に よる恐怖 を抱 いたので ある。 ア イダの経験 は物語の結末で ピンキー を滅ぼ し、 正 、不正 の領域 では ロー ズを救 いだす こ とに成功 す る。ア イデが周囲に勝利 を宣言 した以上 、ア イ タの物語 は ピンキーの死 で終 るo Lか し、ロ- ズ のイノセ ンスの後 日譜 は ピンキーの死か ら始 ま り、 アイダの経験に立 ち向か う不安 を暗示す る。『お とな しいアメ リカ人
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, 1955)は、フアウラ-の意識 と一 人称に よる語 り をとお して、パ イルに初めて会 った年 の9月か ら、 パ イルが死 んだ翌年 の2月までの約 6か 月間の出 来事 を、 2月の現在か ら半年 間 を遡 る回想 として 記 され る。前年 の9月に、ア メ リカ公使館 の経済 援助使節団員であるパ イル をコンテ ィネンタル広 場 に出迎 えた とき、フ アウラーは、「倣憎 で騒が し く、子 どもっぼ くて中年 の」ア メ リカ人記者 たち と異な るパ イルの性格 を職業的 リポー ター として 次 の よ うに感知 す る。「パ イルはお とな しくて、 謙虚 に思われ、あの初めの 日は彼が なに を言 って いるか を知 るために、 ときには身 を乗 りだ きなけ れ ば な らなか った。 しか もた い- ん真 面 目だっ た」12)。 この観察 は、 6か 月後パ イルが殺 されて か ら、参考 人 として警察本部 に呼 ばれたファウラ ーがパ イルにつ いてヴ イゴーに語 る次の記述 と一 致 している点で読者はファウラーの リポー ター と しての観察力の正確 さを認め なければな らない。 「彼 な りに いい男 です よ。真面 目だo コンテ ィネ ンタルで騒 ぐごろつ きとは違 い ます よ。お とな し いア メ リカ人だ」。読 者 はフ ァウ ラーの最初 の観 察の中に表れたseriousとquietとい う語が6か 月後のヴ イゴー-の報告の 中で くり返 されている こ とに気づ くとともに、seriousが パ イル の理 性 の特徴 を、quietが 彼 の感 性 の特徴 を表す こ とを 了解す る。 しか し、ヴ イ ゴー に報 告 した ときの seriousとquietは初 め の観 察 の場合 とは異な り、 6か 月間の認識の変化 を示す語 である′酎 二着 目し なければな らない。半年 間のつ き合 い を とお して、 フ ァウラー はパ イルの理性 と感性 を示す この2つ の形容詞 を次の ように変化 、発展 させ ているか ら である。quiet- modest,good,innocent,seemedi n-capableofharm,young,lgnOrant,Silly,crazy, boyish
serious- punctual,absorbed,determined, gotinvolved パ イルの経済援助 の実体 が不 明であ る うちは、 ファウラーに とってパ イルのquietはgoodであ り、 innocentである とい う意味で青春 を賛美す る用語 だ った。 しか しファウラーはパ イルのテロ リズム に耐 え きれずにそれ までの中立 を守 る とい う信条 を覆 してパ イル を裏切 る0 7ァウラーに とってパ イルの イノセ ン トがsillyであ り、crazyであ るこ とが判 ったか らである。 この点で、 グ リー ンはフ ァウラー を とお して〔イノセンスは狂気の一種 なの だ」13)といい、マ ン リ司 ま、「イ ノセ ンスは グリー ンに とて一種 の倫理 的な病 なのだ」14)とい う。 ま た 『第三の男
』(Th
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dMan
,1950)では、 -- 8 1-82 珪野大学紀要 第16巻 第1・2号合併号 1994 リー ・ライムのイノセンスについてマーテ ィンズが 抱 く悪の認識は罪の意識 を とお して裏切 り- と発 展す る。ブライア ン・トマ スは、「パ イルは罪の認 識 に欠けてい る とい う意味でイノセン トなのだ」15) と指摘 し、- リー とパ イルの イ ノセ ンスに共通点 を兄いだす。 グ リー ンは、エ リザベ ス.ボウエ ンとV.S.プ リ チェ ッ トとの往復書簡集 『なぜ善 くか』(Ⅵ%yDo IWriter1948)の中
で
小説家が もつべ き最低二つ の義務 は、「見た とお りの真実 を語 るこ と」と 「国 家か ら特権 を受 け とらないこ と」 だ と述べ ている。 さらに、「真実 とは正確 さの こ とである」と補 足 し、 国家だけでな く個 人 として所属す る教会社会にた い して も 「不忠実 であ るこ とが私 たちの特権 であ る」16)とい うふ うに信仰か ら独立 した作家の立場 を宣言す るO この見解 に基づ いて、マ ン リーは、 「成熟 した大 人 とは芸術家 であ り、小説家の不 関与 の立場 、曇 りない真実の追求 、個 人 としての威厳 、 人類にたいす る共感 をもつ 人の ことだ」17)とい う。 「庭 の下」は不 治の病 に冒された男が、幼年 時代 に見た宝探 しの夢 を回想に よって再現す る物語 で ある。ある 日の夕方、 7歳のワイルデ イツナは屋 敷の中の池 を渡 って、島の地下 洞窟に入 りこみ 、 ジャヴ イツ トとい う白いひげの老人 と、マ リア と い う老婆に出会 う。名前 を聞か れ た少年 は、「ぼ くの名前はウイ リアム ・ワイルデ ィッチで、ウ ィ ン トン・ホールか ら釆 ました」 と答えるが、「すべ てはみなこの上 にあるんだ。 中国 もアメ リカ もサ ン ドイ ッチ諸島 も」 と言 う老人の返事 に よって、 「文 明」 の世 界か ら切 り離 されて、地図のない世 界に来たこ とを悟 る。そ して 「光 って どこにあ る んだ。 ここでは朝 とか夕方の ような ものはないん だ」 と言われて、そこには時間がないこ とを知 る。 また 「あの人は恋 人ですか」 と少年が尋 ね ると、 老人は、「妹 、妻 、母 、娘 さ」と答えて、女の存在 には さまざまな位相があるこ とを示す。 ジャヴ イ ッ ドの表現 は租.野だが 、その思想は 「堆肥の層 の 下に拡が る根の よう」であ り、「表現」 を 「意識」 に、「思想」を 「魂」に置 き換 えて 、ユ ングの 「魂 こそが意識の母体 であ り、主体 であ り、意識の成 立 を可能 にす る ものであ る。魂 の領域 は意識の領 域 をは るかに超 えるので、意識 を大海の中の島に 誓 えるこ とが で きる といって よい」 とい う言葉 を 持 ちだ してみ ると、ここに もユ ングの世 界が現れ る。 この ように夢の中の経験 をワイルデ ィッチは 作家的想像 力 を駆使 して物語 り、翌朝、 7歳の と きに辿 った宝探 しの道筋 を再 び辿 るこ とに よって 夢の経験が現実 にあるこ とを発見す る。 こうして 「彼は、もう一度決心 しなお きなければな らない、 と感 じた。好奇心が まるで癌 の ように心の中に拡 か っていた」 とい うよ うに再 び生 に希望 を抱 く。 (いわ きき まさや 教授 ) (1994.6.30受理 ) 近 1)GrahamGreene,TheThi71dManandTheFallen Idol(London:Heinemann,1964),p.151.2)GwennR.Boardman,Graham G71eene(Gaines -ville:UniversityofFloridaPress,1971),p.34. 3)JaneBurtManly,GrahamGreene:TheInsanity
ofInnocence.Diss.U ofConneticut,1969. (Ann Arbor:UMI,1983),p.12.
4)Greene,TheThi71dManandTheFallenIdol,p. 183.
5)Manly,Graham Gyleene,p.15. 6)Ibid.,p.13.
7)Graham Greene,A GunforSble(London:Bodl leyHead,1973),p.9.
8)HansChristianAndersen,TheCompleteIllust -ratedStoriesofHansChristianAndersen,trans. H.W.Dulcken(1982;rpt.London:Chancellor Press,1990).p.336.
9)JohnAtkins,G71aham Gyleene(London:Calder andBoyars,1966),1966),p.175.
10)Graham Greene,BrightonRock(London:Bo d-1eyHead,1970),p.127.
ll)Graham Greene,TheMan l桁thin (London: BodleyHead,1976),p.5.
12)Graham Greene,The伽 ietAmerican(London: BodleyHead,1973),p.16.
13)Ibid.,p.183.
14)Manly,Graham G71eene,p.2.
15)BrianThomas,AnUnderwo:undFa
お-
77uzIdiomofRomanceintheLaterNovelsofG71aham G71eene (London:UniversityofGeorgiaPress,1988),p.42.
16)Elizabeth Bowen,Graham Greene,andV.S. Pritchett,Ⅵ偽ydoItVrite.?(1938:rpt.TheFalc
-roftPress,INC.,1969),p.31. 17)Manly,Graham Greene,p.143.