博 士 ( 医 学 ) 細 川 学 位 論 文 題 名
剛
生合成基底膜基質を用いた気道上皮基底細胞から ●
線毛細胞への分化とin vitro における気道上皮組織の構築 学位論文内容の要旨
【 背 景 】 気 道 ヒ 皮 の 役 割 や 機 能 を 解 明 す る 目 的 で ,in vitroの 気 道 ヒ 皮 細 胞 培 養 系 が 開 発 さ れ て き た , 一 般 的 に は , 初 代 細 胞 を 用 い て , そ れ に 気 相 培 養 レ チ ノ イ ン 酸 を 合 ん だ 合 成 培 地 ,I型 コ ラ ー ゲ ン ゲ ル 基 質 な ど の 工 夫 を す る こ と に よ っ て 気 道 ヒ 皮 糸B織 を 構 築 す る , し か し , 初 代 細 胞 は 線 毛 細 胞 や 分 泌 細 胞 な ど の 分 化 し た 細 胞 と 基 底 細 胞 の よ う に 未 分 化 な 細 胞 の 混 合 物 で あ る た め に , 細 胞 の 分 化 過 程 を 追 う 実 験 系 には 適 さ な い , し かも , 得 ら れ る 細 胞 数カ 嚠 ′ 、 な い , ―方 , 初 代 細 胞 を 継代 し ,よ :隗ミ 的均
― 化 さ れ た 細 胞 集 団 儻 削 強 細 胞 ) を 用 い る と , 従 来 の | 型 コ ラ ― ゲ ン ゲ ル 上 で は , 細 胞 は 未 分 化 の ま ま で 分 化 し な い と い う 欠 点 が あ る .in vivoで ヒ 皮 細 胞 は 基 底 膜 に 接 し て い る . 基 底 膜 は ラ ミ ニ ン , IV型 コ ラ ― ゲ ン な ど の 細 胞 外 基 質 を 含 む 特 殊 な 平 面 状 の 薄 膜 様 構 造 物 で あ り , 足 場 と し て ヒ 皮 細 胞 を 支 え て い る だ け で な く , そ の 分 化 , 形 態 保 持 , 接 着 , 生 存 に 関 与 し て い る . ま た , 様 々 な 成 長 因 子 な ど の 貯 蔵 庫 と し て の 機 能 も 担 っ て い る ,Mochitateら は , 不 死 化 ラ ッ トII型 肺 胞 ヒ 皮 細 胞 を , 基 底 膜 構 成 成 分 を 豊 富 に 含 む マ ト リ ゲ ル @ ・ くBecton Dickinson)共 存 下 で 培 養 す るこ と に よ り , そ の直 下 に 基 底 膜 構 造 体 を 合 成 す る こ と に 世 界 で 初 め て 成 功 し た . 直 下 の 基 底 膜 を 損 な う こ と な く 細 胞 だ け を 剥 が す と , 基 底 膜 構 造 体 の み が 得 ら れ る , Mochi tateら は , こ れ を 生 合 成 基 底 膜synthesized Basement Membrane( 以 下sBMとI略 づ‑)基 質 と 名 付け た ,
【 目 的 】 生 合 成 さ れ た 基 底 膜 構 違 崩fで あ るsBM基 質 を 用 い て 新 し い 気 道 ヒ 皮 細 脆 蛭 献 を 確 立 す る . 件 蝌 と 方 法 】 8 ‑‑‑14週 齢 の 雄SDラ ッ ト か ら ,1% プ ロ ナ ― ゼE溶 液 を 用 い て 気 管 ヒ 皮 細 胞 を 採 取 し , そ の ま ま 播 種 す る 初 代 細 胞 と2回 継 代 し た の ち 播 種 す る 継 代 後 細 胞 の2種 類 を 用 意 し た 。 培 地 はDMEM/
ハ ムF12に10ルg/mIイ ン ス リ ン ,0.1ルg/mIハ イ ド ロ コ ー チ ゾ ン ,0.1ルg/mIコ レ ラ 毒 素 ,5閏g/ml ト ラ ン ス フ ェ リ ン ,50ルMホ ス ホ エ タ ノ ー ル ア ミ ン ,80ロMエ タ ノ ー ル ア ミ ン ,25ng/mIヒ 皮 成 長 因 子 くEGF) ,30p〆m| ウ シ 下 垂 体 抽 出 物 (BPE) ,0.5mg/mIウ シ 血 清 ア ル ブ ミ ン を 添 加 し た も の と し , 使 用 直 前 に50nMレ チ ノ イ ン 酸 を 加 え た , 基 質 と し て ,1型 コ ラ ― ゲ ン ゲ ル ,s關 ,1型 コ ラ ー ゲ ン コ
― テ ィ ン グ , ラ ミ ニ ン ―1コ ー テ ィ ン グ , 線 維 性1型 コ ラ ― ゲ ン の5種 類 を 用 意 し た , 初 代 細 胞 を ,1 型 コ ラ ― ゲ ン ゲ ル に , 継 代 後 細 胞 を5種 類 全 て の 基 質 ヘ 播 種 (2.0x105ceIIs/cm2) し , 全 面 に 生 育 ・ 伸 展 し た こ と を 確 認 の 後 , 気 相 培 養 を14日 間 行 っ た , 気 相 培 養 開 始0,7,14日 目 に 培 養 組 織 を 固 定 し , 免 疫 組 織 化 学 染 色 や 電 子 顕 微 鏡 を 用 い て 形 態 学 的 検 討 を 行 っ た , 同 時 に 核 染 色 写 真 か ら 細 胞 密 度 を , 走 査 電 子 顕嚮 鏡 写 真 か ら 線 毛細 胞 の 出 現 率 を , 計測 し 比 較 検 討 を 行っ た ,
【 結 果 】 (1) 電 顕 所 見 か ら , 気 相 培 養14日 後 の 時 点 で , 初 代 細 胞 をI型 コ ラ ― ゲ ン ゲ ル 上 に 播 種 し た 培 養 組 織 で は 線 毛 細 岨 包 カ 勵 ら れ た が , 継 代 後 細 胞 を 同 基 質 に 播 種 し た と き は , 認 め ら れ な か っ た , こ の 継 代 後 細 胞 を ,s駲 基 質 ヒ に 播 種 し た と こ ろ , 線 毛 細 胞 カ 溌 め ら れ た , 同 時 点 で ,s闘 基 質 ヒ で は ,
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培 養 組 織 は 偽 重 層 構 造 を 示 し た がI型 コ ラ ー ゲ ン ゲ ル 上 で は 扁 平 の ま ま で あ っ た , (2) 細 胞 密 度 と 線 毛 細 胞 出 現 率 に つ い て 定 量 的 解 析 を 行 っ た . 同 じ 継 代 後 細 胞 を 播 種 し て も ,7,14日 目 の 時 点 で , sBM基 質 ヒ で の 細 胞 密 度 は , | 型 コ ラ ー ゲ ン ゲ ル 上 で の そ れ よ り も 有 意 に 高 値 で あ っ た . 同 様 に , 線 毛 細 胞 出 現 率 に つ い て も ,14日 目 の 時 点 で ,sBM基 質 ヒ で ,I型 コ ラ ー ゲ ン ク シ レ 上 よ り も 有 意 に 高 値 で あ っ た . (3)sBM基 質 上 で は 時 間 経 過 と 共 に , 基 底 細 胞 の マ ― カ ― で あ るCK14陽 性 細 胞 の 数 が 滅 少 し , 培 養 組 織 の 基 底 側 に 局 在 す る よ う に な っ た . そ れ に 対 し て , | 型 コ ラ ― ゲ ン ゲ ル 上 で は ,CK14陽 性 細 胞 が 常 に 優 勢 に 散 在 し て い た . 継 代 後 細 胞 をsBM基 質 上 に 播 種 し た 培 養 で は , 抗 ロ チ ュ ― ブ リ ン IV抗 体 陽 性 線 毛 細1胞 を 認 め た が I型 コ ラ ー ゲ ン ゲ ル 上 で | 瑚 認 めら れ ′ よ か っ た ,CCSP陽 性 クラ ラ 細I胞 やMUC5AC陽 性 粘 液 分 泌 細 胞 は , ど ち ら の 基 質 ヒ で も 同 等 に 認 め ら れ た . (4) そ の 他 の 基 質 と し て1 型 コ ラ ー ゲ ン コ ー テ ィ ン グ , ラ ミ ニ ン ー1コ ー テ ィ ン グ , 線 維 睦I型 コ ラ ― ゲ ン ヒ で の 継 代 後 細 胞 の 分 化 を 検 討 し た が , い ず れ の 基 質 ヒ で も 線 毛 細 胞 の 出 現 は 明 ら カ HNま な か っ た .
【 # 】 初 代 細 胞 を 用 い た 気 道 ヒ 皮 の 分 化 経 過 を 追 跡 す る 手 法 に は 限 界 が あ り , そ れ を 克 服 す る た め に 継 代 後 細 胞 を 用 い た . し か し , こ の 細 胞 は 従 来 用 い ら れ て き た 基 質 で あ るI型 コ ラ ― ゲ ン ク シ レ ―ヒ で は , 分 化 能 を 示 さ な か っ た . ま た ,I型 コ ラ ― ゲ ン コ ― テ ィ ン グ , ラ ミ こ ン ―1コ ― テ ィ ン グ 線 維 陸
| 型 コ ラ ー ゲ ン ヒ で の 培 養 で も 細 胞 分 化 は 起 こ ら な か っ た が ,sBM基 質 を 用 い た 場 合 に の み , 線 毛 細 胞 へ の 分 化 を 認 め た .sBM基 質 が 分 化 を 誘 導 す る 分 子 生 物 学 的 機 序 に つ い て は 不 明 で あ る . お そ ら く , ラ ミ ニ ン を 始 め と す る 基 底 膜 を 構 成 す る 蛋 白 同 士 の 相 互 繍 や , 基 麒 に 含 有 さ れ る 成 長 因 子 . ′ よ ど の 影 響 カ ほ . 則 さ れ る ,CK14陽 性 基 窟 剛 尅OS南 甜j@と と も に 基 底 側 に 局 在 し て い く と い う 今 回 の 実 験 結 果 は ,Hongら に よ っ て 報 告 さ れ た ナ フ タ レ ン に よ るin vivo気 道 ヒ 皮 障 害 モ テ リ レ で み ら れ た 修 復 過 程 と 類 似 し て い る . 従 っ て ,sBM基 質 上 に お け る 基 底 細 胞 の 分 化 は , 基 底 膜 カ 滞 さ れ て い るin vivo の 気 道 ヒ 皮 傷 害 修 復 過 程 を 再 現 し て い る も の と 考 え ら れ た , 基 底 膜 の 重 要 性 を 考 慮 し た 培 養 系 に 関 し て ,Gotoら は , ヒ ト 羊 膜 を 基 底 膜 の 代 用 品 と し て 使 用 す る 方 法 を 報 告 し て い る , し か し , ヒ ト 羊 膜 は い つ で も 入 手 可 能 な も の で は な く , 輸 送 の 問 題 , 医 学 的 安 剣 生 倫 理 的 問 題 な ど か ら , 容 易 に 使 用 で き る も の で は な い . ― ・ 方 , 今 回 使 用 し たsBM基 質 はtヒ 較 的 容 易 に 作 製 可 能 で あ り ,1年 程 度 の 凍 結 保 存 と 凍 結 輸 送 も で き る . こ の よ う な 取 り 扱 い の 容 易 さ か ら , 今 後 の 気 道 ヒ 皮 細 胞in vi tro培 養 へ の 発 展 的 応 用 カ 瑚 持 で き る ,
馴 生 合 成 さ れ た 基 底 膜 溝i餅 本 で あ るsBM基 質 を 用 い た 新 し い 気 道 ヒ 皮 暗 養 系 を 確 立 し た . こ の 系 を 用 い る こ と に よ り 細 胞 外 基 質 , 特 に 基 底 膜 カ 壌6酋 ヒ 皮 の 機 能 に 与 え る 影 響 を さ ら に 解 明 す る こ と が で き る .
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
生合成基底膜基質を用いた気道上皮基底細胞から 線毛細胞への分化とin vitro における気道上皮組織の構築
気道上皮の機能を解明する目的で,様々なin vitro の気道上皮細胞培養系が,これまで にも開発されてきた.それらの多くは,初代細胞を用い,気相培養,レチノイン酸を含ん だ合成培地,I 型コラーゲンゲル基質などを利用して気道上皮組織を構築させている.しか し,この従来法には問題点があった.第一に,初代細胞は線毛細胞や分泌細胞などの分化 した細胞と基底細胞のように未分化な細胞の混合物であるために,細胞の分化過程を追う 実験系には適さない点および得られる細胞数が少ない点である.第二に,in vivo では上皮 細胞は I 型 コラーゲンではなく基底膜に接している点である.基底膜はラミニン,IV 型コ ラーゲンなどの細胞外基質を含む薄膜様構造物であり,足場として上皮細胞を支えている だけでなく,その分化,接着,生存に関与し,成長因子などの貯蔵庫としての機能も担っ ている.Mochitate らは,不死化ラット II 型肺胞上皮細胞を,基底膜構成成分を豊富に含 むマトリゲル共存下で培養することにより,その直下に基底膜構造体を合成することに世 界で初めて成功した,細胞だけを剥がすと,基底膜構造体のみが得られる. Mochitate らは,
これを生合成基底膜 synthesized Basement Membrane (以下sBM) 基質と名付けた.そこで 今回の研究では,初代細胞の代わりにそれらを継代し比較的均一化させた細胞集団(継代 後細胞)と I 型コラーゲンの代わりにsBM 基質を用いた気道上皮細胞培養法を確立し従来 法との比較検討を行うことを目的とした. SD
継代後細胞の 2 種類を用意した。基質として,
ラットから気管上皮細胞を採取し初代細胞と I 型コラーゲンゲル,ラミニン−1 ,sBM 基質 などを用意した.細胞 を各基質へ播種し,全面に生育・伸展したことを確認の後,気相培 養を行った.気相培養 開始0 ,7 ,14 日目に培養組織を固定し,免疫染色や電子顕微鏡を用 いて検討を行った.結 果は,(1 )初代細胞はI 型コラーゲンゲル上で線毛細胞への分化を 示したが,継代後細胞 は同基質上では分化しなかった.しかし同じ細胞をsBM 基質上で培 養したところ線毛細胞 への分化を認めた.(2 ) I 型コラーゲンゲル上では,基底細胞から の分化は認められなかったが,sBM 基質上では分化が認められ,上皮組織としての極性も認
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められた,(3 )sBM 基質以外の基質としてラミニン−1 やI 型コラーゲン上での継代後細胞 の分化を検討し たが,いずれの基質上でも線毛細胞への分化は認められなかった.以上の 結果より,sBM 基質上では基底細胞の線毛細胞への分化が誘導され,従来法であるI 型コラ ーゲン上での培 養よりも優れていることが明らかとなった.
sBM 基質が分化を誘導する分子生物学的機 序については今回の検討の範囲内では不明で あったが,これ までの文献報告を参考にすると,ラミニン1 以外の基底膜構成分子の関与 (sBM 基質作製過 程において取り込まれると考えられるラミニン10/11 など)や,基底膜に 含有される成長 因子,サイ卜カインの関与(マトリゲルから取り込まれるFGF など)が推 測された.また ,基底膜を利用した気道上皮培養系としては,ヒト羊膜を基質とした系の 報告があるが, それと比較して今回使用したsBM 基質は,比較的容易に作製,保存,入手 可能であること や,医学的安全性や倫理的な問題がないなどの特長をもつ.このような取 り扱いの容易さ からもsBM 基質は,今後のin vitro での気道上皮細胞培養への発展的応用 が期待できるも のと考えられた.本研究において,従来用いられてきたI 型コラーゲンな どよりも優れた 分化誘導能を示したsBM 基質 を用いることにより,新しい気道上皮培養系 を確立すること ができた.
審査にあたり ,副査清水教授から1 )基底 細胞の免疫染色について,2 )sBM 基質で分化 す る理 由と して 17 型 コラ ーゲンや7 型コラーゲンの関与について,3 )ヒト由来のsBM 基 質作製の可能性 についての質問があった.次いで主査渡邉教授から1 )sBM 基質の今後の利 用および発展性 について,2 )細胞分化の評 価法についての質問があった.次いで副査西 村教授から1 )sBM 基質が分化を誘導するメカニズムについて,2 )それを解明するための 研究手法につい ての質問があった.いずれの質問に対しても,申請者は自験デ一夕や文献 を引用して概ね 適切に解答した.、
この論文は, 初めて生合成基底膜を用いて従来法との差を証明し,基底膜の重要性を証 明した点で高く 評価され,今後のin vitro での気道上皮細胞培養への発展的応用が期待さ れる.
審査員一同は ,これらの成果を高く評価し,大学院課程における研鑽や取得単位なども 併 せ申 請者 が博 士( 医学 )の 学 位を 受け るの に充 分な資格を有するものと判定した ,
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