博士(医学)南須原康行 学位論文題名
Mechanisms of epidermal growth factor ー 1nduCed ●
COntraCtionofguineaplgalrWayS
(上皮増殖因 子によるモルモッ卜気道収縮の機序)
学位論文内容の要旨
[背 景・目的 ]近年、 気管支喘 息におい て平滑筋 の肥大・増 殖を含む 気道のり モデリ ング が注目を 集めてい る。また 、上皮増 殖因子(epidermal growth factor、以下EGFと略 す) を含む増 殖因子は 平滑筋増 殖作用を 持つこと が知られて いる。一 方、これ らの増殖 因子 は血管平 滑筋の収 縮作用を もつこと が報告さ れており、 増殖因子 は動脈硬 化病変に おいて機能異常にも関与している可能性が示唆されている。そこで我々はEGFがモ´レモッ トの 気道平滑 筋を収縮 させるか 否か、収 縮作用を 有するので あればそ の機序の 解明を目 的として実験を行った。
[方 法 ]350‑550gのハ ー卜 レー系雄 性モルモ ットを用 い、約3mm幅 の気管条片 を作成 し、 組織糟を 用いKlebs‑Henseleit液の 存在下で 等尺収縮カを測定した。マウス顎下腺由 来のEGFを用いて 以下の実 験を行っ た。(1)上皮 を剥離し た条片(以 下、剥離 条片)と健 常上 皮を持つ 条片(以 下、健常 条片)に おいて、3‑1000ng/mlのEGFにlよる濃度依存性の 反応 を測定し た。(2)剥離 条片を用 いて、種 々の薬剤 の影響を検討した。これは、薬剤添 加前 後でEGF 30ng/mnこよ り惹起される張カを比較することにより行った。(3)試験管内 で 剥 離条 片 と 健常 条 片そ れ ぞれをEGF300nびmlで30分間刺 激し、上 清のプロス タグラン ディンF2ゼ(PGF2a),プロスタグランディンE2(PGE2)の測定を行った。二群のサンプルを 最初の30分間はKleb.Henseleit液のみでインキュペートしサンプ´レの上清を採取、その 後lくlebs.Henseleit液を全て交換した後に、蒸留水またはEGF300nびml添加後30分間刺激し 再び上清を採取した。
[結 果]川剥 離条片は100nびmnこて最 大となる 濃度依存性の収縮を示し、EC50は12.3 土1.6nびmlであった。健常条片では一定の反応が得られなかったが、全体としては収縮は 著明に抑制された。(2)サイクロオキシゲナーゼ阻害薬であるインドメタシン・イブプロ フウ ンはEGFによ る気管の 収縮をほ ば完全に 抑制した 。5.リポキ シゲナー ゼ阻害薬 であ るAA‐861、 ロイ コ トリ エ ン 受容 体 拮 抗薬 で ある0N01078も ほば完全 に抑制した 。トロ ン ボ キ サ ンA2合 成 阻 害 薬 で あ るOKY046、 ト ロ ン ボ キ サ ンA2受 容 体 拮抗 薬 で あるONO 3708は 収 縮に 影 響 を与 え なか っ た 。以 上 の結 果 よ り、 アラ キドン酸代 謝産物が この収 縮に おいて重 要と考え られたの で、アラ キドン酸 の遊離経路 について 検討を加 えた。ホ
スホリパ ーゼA2阻害薬 であるメパ クリンlOmMは収 縮に影響を与えなかったが、100 mMではほぼ完全に抑制した。ジアシルグリセロールリパーゼ阻害薬であるU―57908、 ホスホリパーゼD阻害薬であるヴォルトマンニンとも収縮に影響を与えなかった。一方、
チ口シンキナーゼの活性化は、増殖因子の増殖作用において重要な反応であるため、収 縮作用における影響を検討した。阻害薬であるゲニスタインにより収縮は完全に抑制さ れた。また、プロテインキナーゼCについてはその阻害薬であるH‑7は収縮を完全に抑 制したが、カルホスチンCは収縮に影響を与えなかった。(3)EGFは上皮の有無に関わら ず、気管 条片のPGF2a産生を促進しなかった。EGFは健常条片のPGE2産生を有為に促 進したが、剥離条片ではコントロールの蒸留水に比して有為ではなかった。また、EGF 添 加 後 の PGE2産 生 は 健 常 条 片 は 、 剥 離 条 片 に 比 し 有 為 に 多 か っ た 。 〔考察]EGFはin vitroにおいて、上皮を剥離したモルモット気管条片を濃度依存性に 収縮し、健常上皮の存在によりその収縮は著明に抑制された。この収縮はサイクロオキ シゲナーゼ阻害薬、5・リポキシゲナーゼ阻害薬、ロイコトリエン受容体拮抗薬により抑 制され、トロンボキサンA2合成阻害薬、トロンボキサンA2受容体拮抗薬により影響を 受けなかったことより、ロイコトリエンないし収縮性プロスタノイドによると考えられ た。しかし、ロイコトリエンについては合成阻害薬、受容体拮抗薬ともに抑制したこと、
EGFが気管条片のPGF28産生を促進しなかったことより、ロイコトリエンが主な収縮物 質と考えられた。サイクロオキシゲナーゼ阻害薬により完全に抑制された点については、
1)ロイコ卜リエンがプロスタノイドを介して作用している、2)両者が相補的に作用して いる、3)EGF受容体刺激からアラキドン酸遊離の過程にサイクロオキシゲナーゼ阻害薬 に阻害される酵素が存在する、などの可能性が考えられる。しかし、我々はモルモット 気管条片のロイコ卜リエンD4による収縮がインドメタシンにより増強されることを別に 確認しているので、第ーの可能性は否定的である。第二、第三の可能性については更な る検討が必要と考える。健常条片の収縮が剥離条片に比して著明に抑制された点につい ては、PGE2測定の結果より、EGFが気道上皮細胞のPGE2産生を促進することによると 考えられた。アラキドン酸の遊離経路については、ホスホリパーゼA2阻害薬により抑 制されたが、ジアシルグリセロールリパーゼ阻害薬、ホスホリパーゼD阻害薬により挧J 制されなかったことより、ホスホリパーゼA2の活性化を介するものと考える。チロシン キナーゼ阻害薬による抑制の結果より、増殖作用と同様、一連の収縮反応の基本にチロ シンキナーゼ活性化の関与が推測された。また、プ口テインキナーゼCについては、
H‑7は収縮を完全に抑制したが、より特異的な阻害薬であるカ´レホスチンCでは影響が な か っ た こ と か ら 、EGFに よ る 収 縮 へ の 関 与 は 否 定 的 と 考 え ら れ た 。 EGFが増殖作用のみならず気道平滑筋の収縮という機能的な作用を持つことは非常に 興味深い。慢性喘息における気道の病理学的変化については平滑筋の肥大、腺細胞の増 加、基底膜の肥厚が認め.られるが、これらの変化におけるEGFの関与は明かではなかっ た。しかし、其同研究者の網島らの免疫組織学的染色による検討では、喘息患者の肺で は非喘息患者の肺に比して、上皮細胞・平滑筋・腺細胞などにEGF、EGF受容体が有為 に高率に陽性であったことより、EGFの関与が推測されている。EGFは慢性l喘息の非可
逆的な気道閉塞において病理学的のみならず機能的にも関与し、気道収縮を増強してい る可能性も示唆される。
[結語]EGF はモルモッ卜気道平滑筋の収縮作用を有し、その収縮には、チロシンキ
ナーゼとホスホリパーゼA2 の活性化によるアラキドン酸の遊離と、引き続くロイコトリ
エンの産生が関与していると推測された。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
lVIechanisms of epidermal growth factor‑1nduced contraction of gyuinea pig airways
( 上 皮 増 殖 因 子 に よ る モ ル モ ッ 卜 気 道 収 縮 の 機 序 )
気 管 支 喘 息 に お い て 、 平 滑 筋 の 肥 大 、 増 殖 を 含 む 気 道 の り モ デ リ ン グ が 注 目 を 集 め て お り 、 平 滑 筋 増 殖 作 用 を 持 つ 上 皮 増 殖 因 子 ( 以 下EGF)の 関 与 が 示 唆 さ れ て い る 。EGF は 、 血 管 平 滑 筋 の 収 縮 作 用 を 持 つ こ と が 知 ら れ て い る が 、 気 道 平 滑 筋 へ の 影 響 は 未 検 討 で あ る 。 そ こ で 、 EGFの モ ル モ ッ ト 気 道 平 滑 筋 に 対 す る 作 用 を 検 討 し た 。 上 皮 を 剥 離 し た 気 管 条 片 と 健 常 上 皮 を 持 つ 気 管 条 片 を 用 い て 、 収 縮 反 応 を 測 定 し た 。 上 皮 剥 離 条 片 は 濃 度 依 存 性 の 収 縮 を 示 し 、EC50は12.3+1.6ng/ml (mean+SFJ)であ った 。上 皮 健 常 条 片 で は 一 定 の 反 応 が 得 ら れ な か っ た が 、 全 体 と し て は 収縮 は著 明に 抑制 され た。
以 上 よ り 、EGFは モ ル モ ッ 卜 気 道 平 滑 筋 の 収 縮 作 用 を 有 す る こ と が 判 明 し 、 上 皮 は そ の 収 縮 を 抑 制 し て い る と 推 測 さ れ た 。 さ ら に 、EGFに よ る 収 縮 反 応 お よ び 上 皮 健 常 状 態 に お け る 収 縮 反 応 抑 制 の 細 胞 内 機 序 に つ い て 検 討 を 加 え た 。 上 皮 剥離 条片 を用 いた 検討 で、
シ ク ロ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 阻 害 薬 、5. リ ポ キ シ ゲ ナ ー ゼ 阻 害 薬 、 ロ イ コ ト リ エ ン 受 容 体 拮 抗 薬 はEGFに よ る 収 縮 を ほ ば 完 全 に 抑 制 し た 。 ト ロ ン ボ キ サ ン ん 合 成 阻 害 薬 、 ト 口 ン ボ キ サ ン ん 受 容 体 拮 抗 薬 は 収 縮 に 影 響 を 与 え な か っ た 。 以 上 よ り 、 ア ラ キ ド ン 酸 代 謝 産 物 が こ の 収 縮 に お ぃ て 重 要 と 考 え ら れ た 。 ア ラ キ ド ン 酸 の 遊 離 経 路 に つ い て は 、 チ ロ シ ン キ ナ ー ゼ 活 性 化 に よ る ホ ス ホ リ パ ー ゼ ん の 活 性 化 が 関 与 す る こ とを 明ら かに した 。ま た、
プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼCに つ い て は 、2種 の 阻 害 薬 で 結 果 が 異 な っ た 。 さ ら に 、 気 管 条 片 を EGFで刺 激し 、 上清 のプロスタグ ランディンF2。(PGF2。), プ口スタグランディン島(PGE、)
を 測 定 し た 。EGFは 上 皮 の 有 無 に 関 わ ら ず 、 気 管 条 片 のPGF,。 産 生 を 促 進 し な か っ た 。 EGFは 上 皮 健 常 条 片 のPGEー 産 生 を 有 意 に 促 進 し た が 、 上 皮 剥 離 条 片 で は 認 め ら れ な か っ た 。 以 上 の 結 果 か ら 、EGFに よ る 収 縮 は ロ イ コ 卜 リ ェ ン と 収 縮 性 プ 口 ス タ ノ イ ド に よ る と 考 え ら れ た 。 し か し 、 ‐ ロ イ コ ト リ ェ ン に つ い て は 合 成 阻 害 薬、 受容 体拮 抗薬 とも に収 縮 を 抑 制 し た こ と 、EGFが 気 管 条 片 のPGF,。 産 生 を 促 進 し な か っ た こ と よ り 、 口 イ コ ト リ エ ン が 、 関 与 す る 主 な 収 縮 物 質 と 考 え ら れ た 。 シ ク ロ オ キ シ ゲ ナ ー ゼ 阻 害 薬 に よ り 収 縮 が 完 全 に 抑 制 さ れ た 点 に つ い て は 、 更 な る 検 討 が 必 要 で あ る 。ま た、 プロ テイ ンキ ナー
夫
康
和
盛
富
義
野 山
上
菅 小
川
授 授
授
教 教
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査 査
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主 副
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ゼCに つい ては 、H‑7が 収縮 を完全 に抑 制し たが 、よ り特 異的 な阻 害薬 であ るカ ルホ ス チンCが影 響を 与え なか った ことよりEGFによる収縮には関与していないと考えられた。
EGFはモ ルモ ット 気道 平滑 筋の 収結 作用 を有 し、 その 収縮には、チロシンキナーゼと ホス ホリ パー ゼん の活 性化 によるアラキドン酸の遊離と、引き続くロイコ卜リエンの産 生が 関与 して いる と結 論さ れた。 また 、上 皮細 胞のPGE,i生を促進することにより、健 常条片の収縮を抑制することが明かとなった。
発 表後 こま ず主 査お よび 副査から質疑があった。総論的には、喘息患者の気道におけ るEGF発現の有無や上皮の障害について、、EGF産生細胞の種類、EGFの臓器特異性といっ た、EGFの 実際 の喘 息に おけ る関 わり につ いて 、ま た、 血管系との比較、気管を用いた 実験 結果 がよ り末 梢気 道の 病気である喘息の病態を反映しているか否かについての質疑 があ った 。各 論で は、 実験 方法について、上皮剥離の際に放出されるメディエ一夕ーの 影響 、用 いたEGFや 薬剤 濃度 の妥当性について、indomethacin添加後の弛緩がEGFによる 収 縮 に 対 し て 与 え る 影 響 に つ い て の 質 疑 、 結 果 ・ 解 釈 に つ い て は 、 他 の 拡 張 性 prostaglandinの検討の有無、prostaglandin系とleukotriene系とのバランスを規定しているも のは何か、indomethacinのEGFレセプターへの影響の有無についてなどの質疑があった。
また 、会 場か らは 、喘 息に おぃてEGFの上 皮治 癒に おけ る役割と増悪因子としての役割 の関 係、G蛋白 の関 連に つい て質 問が あっ た。 これ らの 質疑に 対し 申請 者は 、EGFの 喘 息に おけ る関 与に つい ては 、共同研究者の研究結果を引用して、喘息患者の肺では非喘 息患 者の 肺に 比し て、 平滑 筋、腺 細胞 、基 底膜 にEGF、EGF受 容体 が有 意に 陽性 であ っ たこ とよ り、EGFは 慢性 喘息 の非 可逆 的な 気道 閉塞 にお ぃて病理学的に関与してぃる可 能性 があ ると の回 答を 行っ た。加えて、その他の質疑におぃても申請者は、質問者を納 得さ せる 妥当 な回 答を 行っ た。また、後日、主査、副査による審査委員会を開催し、本 研究 の斬 新性 、実 験法 、結 果の解釈の妥当性、関連領域の知識、さらに研究者としての 申請 者の 資質 につ いて 審議 をおこない、いずれの点についても高く評価できるとの結論 に達した。
審査 員一 同は 、こ れら の成 果を認 め、 博士 (医 学) の学 位に 値す るも のと 判定 した 。