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博士(歯学)石 亦文 学位論文題名

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Academic year: 2021

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(1)

     博士(歯学)石   亦文 学位論文題名

ヒト歯牙における象牙芽細胞間線維に関する研究 学位論文内容の要旨

【緒言】

  象牙質の有機成分は主としてコラーゲンであり、それらはエナメル象牙境もし くはセメント象牙境に対してほば平行に配列する象牙質基質線維を構成している。

その他に、象牙芽細胞下層より、象牙芽細胞層を通り抜け、象牙前質に対して垂 直に進入するコラーグン線維、すなわち象牙芽細胞問線維(IOF)の存在も報告 されている。

  1905年コルフによって、外套象牙質形成面へと連絡する、歯髄由来の好銀性の IOFが認められて以来、この様な線維はー般に「コルフの線維」の名称で呼ばれ てきた。その後、髄周象牙質においても同様の線維が認められ、それらについて も、何ら区別されること無く「コルフの線維」の名称が用いられている。しかし ながら、現在に至るまで、「コルフの線維」を含むIOFについては,その存在を 否定する意見もあり、存在を肯定する意見においても、その形態、由来、象牙質 形成への関与等に未だ統一された見解は無い。

  本研究の目的は、ヒト髄周象牙質におけるIOFの微細構造、IOFの歯髄線維と 象牙前質基質線維との関係について検索し、従来から知られている「外套象牙質 におけるコルフの線維」と本研究で観察された「髄周象牙質におけるIOF」とを 形態 学 的に 比 較す る 事に よ り、 両 者の 同 一性につい て検討する 事にある。

【材料と方法】

  智歯周囲炎並びに歯列矯正に伴う便宜的理由により抜去された、16〜23歳まで の健全なヒト臼歯(上顎第三大臼歯10本、下顎第三大臼歯10本、上顎第ー小臼 歯4本、 下顎第一小 臼歯4本、上顎第 二小臼歯2本、下顎第二小臼歯2本)を使 用した。

  抜歯後、直ちに破断した根尖部より、2.5%グルタールアルデヒド(pH7.4)を 注入し、同固定液にて4日間、4℃で浸漬固定を行った。

  光頭用の試料については、ギ酸・クエン酸ナトリウム混合液にて約1ケ月の脱 灰を行い、 通法に従い パラフインにて包埋し、近遠心方向に6Umの縦断切片を 作成した。切片にはヘマトキシリンーエオジン染色と細網渡銀染色を行い、光顕 にて観察した。

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(2)

  透過電顕用の試料については、5%EDTA(pH7.4)にて約30月の脱灰を行い、

1%Os04(pH7.4)による後固定を2時間、4%酢酸ウランによるブロック染色を 1時間行った。通法に従い上昇アルコール系列にて脱水後、Epon812にて包埋し、

象牙芽細胞長軸に対して直交するように準超薄切片と超薄切片を作成した。準超 薄切片はmethylene blue‑azureHにより染色し、光学顕微鏡にて観察した。ま た、超薄切片は酢酸ウラン、クエン酸鉛、燐タングステン酸による三重染色を施 し、加速電圧75kVで透過型電子顕微鏡にて観察した。

  走査電顕用の試料にっいては、通法によるものは、5%EDTA(pH7.4)にて約3 ケ月、4℃で脱灰を行い、0.05Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)にて洗浄後、マイク ロスライサーにて近遠心方向に約200umの縦断切片を作成した。切片は1%タン ニン酸(1時間)と1%Os04(pH7.4、2時間)による導電染色を行い、通法に従 って上昇アルコール系列にて脱水した。また、NaOHー水浸軟法によるものは、ギ 酸・クエン酸ナトリウム混合液にて約1ケ月の脱灰を行い、脱灰後、マイクロス ライサーにて通法によるものと同様の約200皿mの切片を作成した。それらを 10%NaOHにて10〜14日問、さらに蒸留水にて3〜4日問浸潰する浸軟処理を施 した後、導電染色を行い、上昇アルコール系列にて脱水した。上記のように作成 された、未処理又は浸軟処理された試料は、t‑butyl alcoholにて置換し、凍結乾 燥器にて乾燥後、SEM観察用アルミニウム台にマウントし、オスミウム・プラズ マコーターにてオスミウム被膜を作成した後、加速電圧lOkVで走査型電子顕微 鏡にて観察した。

【結果】

  観察した全ての歯種の全ての部位において、歯髄線維と象牙前質形成面の両方 に連絡するIOFが認められた。

  IOFは直 径約60nmの 細線 維により構成され、それらは0.2ルmから1.4Umと 極めて変化に富んだ太さを呈しているものの、部位により差異が認められた。歯 冠部である髄角部及び天蓋部では、IOFは0.2〜0.6皿mと細くて立体的な網工を 示すものが多く、他方、歯根部及び髄床底では、0.6〜0.8皿mと比較的均一で、

歯冠部と比較して太くてより単純な構造を示すものが多かった。この様なIOFの 電 顕 に よ る 形 態 学 的特 徴 は 、 光 顕 に よ る 所 見 と一 致す るもの であ った 。   IOFと象牙前質形成面との関係には、IOFの末端の細線維が放散せずに象牙前 質基質線維間を通過して、さらに深層へと進入する形態を持つ進入型、細線維が 放散し象牙前質の基質線維へと移行し、それらと区別がっかなくなる移行型、上 記の両者の特徴を併せ持つ混合型、の三つの型が認められた。特に歯冠部では、

象牙細管開口部の管壁に対しても同様の連絡形態が多く認められた。また、これ らIOFの象牙質形成面への連絡形態の分布についても、部位により差異が認めら

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(3)

れ、歯冠部では移行型と混合型のニつの型が均等に多く認められ、歯根部及び髄 床底では、進入型が大部分を占めていた。

  象牙芽細胞層は、歯冠部では多列上皮様の配列を示し、他方、歯根部や髄床底 では1〜3層のより単純な配列を示していた。

【考察】

  象牙芽細胞間には、歯髄線維と象牙前質基質線維の両方に連絡するIOFが認め られることから、IOFは象牙前質基質線維の形成に関与すると共に、その大部分 は 歯 髄 の 線 維 芽 細 胞 に よ り 分 泌 さ れ て い る 事 が 示 唆 さ れ た 。   IOFの太さと形態、象牙前質形成面での象牙前質基質線維との連絡形態の多様 性は、象牙芽細胞の配列の違いが以下の様に関与しているものと考えられた。

    (1)細胞間隙カミ単純な構造を示すような時期や部位においては、IOFは象牙     芽細 胞突起起始 部において 、分泌され た象牙前質 の基質線維に先立ち分     泌さ れる事によ り、象牙前 質基質線維 中に垂直に 埋入する進入型として     存在する。

    (2)象牙質形成の進行に伴い、象牙芽細胞の配列が密となる部位では、細胞     間 隙 の狭 小 化 と構 造 の複 雑 化に よ りIOFの 一 部 また は 全部 の 細線 維 が     途切れる。

    (3)この様な細胞間隙中へ新たに進入した細線維の自由末端は象牙前質形     成面の基質線維との結合する。

    (4)この時、全部途切れたIOF細線維の全てが象牙前質基質線維と結合した     場 合 には、 移行型の連 絡形態が生 じ、また、 部分的に途 切れたIOF細線     維が結合した場合には、混合型の連絡形態が生じる。

    (5)それゆえ、細胞間隙の構造が複雑であると考えられる歯冠部では、IOF     は細 くて三次元 的な網工を 示すと共に 、移行型と 混合型が共に多く認め     られ 、細胞間隙 の構造が単 純であると 考えられる 歯根部や髄床底では、

    比較 的太いIOFが多く認められると共に、進入型が大部分を占めている。

    「コルフの線維」とは、象牙芽細胞層を通過して象牙質形成に関与する歯髄由 来の線維であると定義付けられている。本研究では、「コルフの線維」と同様の 組織学的特徴を持つIOFが、観察した髄周象牙質の全ての部位において観察され る事から、「コルフの線維Jとは外套象牙質形成期におけるIOFのー形態である ことが示唆された。

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(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

ヒト歯牙における象牙芽細胞間線維に関する研究

  審 査 は 、 主 査 、 副 査 が そ れ ぞ れ 個 別に 学位 申請 者に 対し て、 提出 論文 の内 容と それ に 関 連 し た 学 問 分 野 に つ い て 口 頭 試 問に より 行わ れた 。審 査論 文の 概要 は、 以下 の通 りである。

【目的】

  象 牙 質 は 、 一 般 に 象 牙 芽 細 胞 由 来 の象 牙質 形成 面に 対し て平 行に 配列 する 象牙 質基 質 線 維 に よ り 形 成 さ れ る と 考 え ら れ てい る。 それ 以外 に、 歯髄 由来 の象 牙芽 細胞 間線 維 (IOF) も 象 牙 質 形 成 に 関 与 す る こ と が 示 唆 さ れ て い る が 、 こ れ らIOFに つ い て は 現 在 に 至 る ま で 、 そ の 存 在 、 形 態 、 太さ 、等 につ いて 定説 は無 く、 象牙 質形 成へ の関 与に つい ても 依然不 明な点が多い。本研究は、光顕及び電顕を用いてヒト新 鮮抜去歯の観 察を行い、髄周象牙質におけるIOFの微細構造、IOFの 歯髄線維と象牙質基質線維との関係を 検索し、従来から知られている「外套象牙質におけるコルフの線維」と、観察された「髄周象 牙質におけるIOF」とを形 態学的に比較し、その同一性について検討を行ったものである。

【材料と方法】

  材 料 は 、1623歳 ま で の 健 全 な ヒ ト 臼 歯 を 使 用 し た 。 方 法 は 、 抜 歯 後 、 直 ち に 破 断 し た 根 尖部 より 、2.5% グル タ ール アル デヒ ド(pH 7.4) を注 入し て固 定を 行し 、、

光 頭 お よ び 透 過 電 顕 用 の 試 料 に つ い ては 、通 法に した がい 作成 した 。走 査電 顕用 の試 料 に つ い て は 、 脱 灰 後 、 マ イ ク ロ ス ラ イ サ ー に て200umの 切 片 に し た 後 、 通 法 に よ る も の と 、10NaOHと 蒸 留 水 に よ り 浸 軟 処 理 し た も の の 二 種 類 を 作 成 し た 。 こ れ ら の 試 料 よ り 、 IOFを 中 心 と し た 歯 髄 . 象 牙 質 界 面 の 観 察 を 行 っ た 。

【結果】

  ヒ ト 髄 周 象 牙 質 に お け る 全 て の 部 位 に お い て 、IOFは 歯 髄 線 維と 象牙 前質 基質 線維 と の 両 方 に 連 絡 し て い た 。 コ ラ ー ゲ ン 細 線 維 か ら 構 成 さ れ たIOFは 、 歯 冠 部 で は 細

< て 立 体 的 な 網 工 を 示 す も の が 多 く 、歯 根部 及び 髄床 底で は、 歯冠 部と 比較 して 太<

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彦 稔

   

野 田

佐 脇

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

てより単純な構造を示すものが多かった。IOFの象牙前質基質線維への連絡形態には、

IOFの末端 の細線維 が放散せ ずに象牙 前質基質線維間に進入するもの(進入型)、細 線維が 放散し象牙前質基質線維に移行するもの(移行型)、上記の両者が混在してい るもの (混合型)の三つの型が認められた。特に歯冠部では、象牙細管開口部の管壁 に対し ても同様の連絡形態が認められた。また、これらの分布には部位による差異が 認めら れ、歯冠部では移行型と混合型のニつの型が均等に多く認められ、歯根部およ び髄床 底では、進入型が大部分を占めていた。象牙芽細胞層は、歯冠部では多列上皮 様の配 列を示し、他方、歯根部や髄床底では1〜3層のより単純な配列を示していた。

【考察】

  観察し た歯種の全ての部位において、歯髄線維と象牙前質基質線維との両方に連絡 す るIOFが 認 めら れ るこ と か ら、IOFの 大部分 は歯髄の 線維芽細 胞により 分泌され ている ことが示唆された。したがって、象牙質基質の形成には、象牙芽細胞のみなら ず、歯 髄の線維 芽細胞も その形成 に関与することが考えられた。IOFの太さと形態、

象牙前 質基質線維との連絡形態の多様性は、象牙芽細胞の配列状態が関連し、細胞間 隙の構 造と部位 による形 態的な差 異がこれ らに関与 する因子で あることが示唆され た 。ま た 、 コルフ の線維と 同様の組織 学的特徴 を持つIOFが 髄周象牙 質の全て の部 位 にお い て 観察さ れること から、コル フの線維 とは外套 象牙質形 成期にお けるIOF の一形態であることが示唆された。

  以上の ように本論文は、その形態と発生の解釈に関して様々な異論がある「コルフ の線維 」と「IOF」 に対して 、特に水 酸化ナトリウム浸軟法を使用した走査型電子顕 微鏡に よる観察を行うことにより、歯髄あるいは歯乳頭領域で形成された線維の象牙 質基質 形成への 関与を示 唆にする と共に、従 来不明瞭 であった 「コルフの線維」と

「IOF」に 関する概 念につい て明確に したものである。本研究は、象牙質の発生学研 究にー 石を投じるものであり、比較解剖学、比較発生学の分野に光明を与えるもので ある。 同時に、口腔解剖学領域における、水酸化ナトリウム浸軟法の有用性を十分に 示した 点でも評価できる。これらのことは、これからの歯科医学の発展に十分貢献す るものであり、学位申請者は博士(歯学)の学位授与に十分値するものと認められた。

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参照

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