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ドイツ連邦憲法裁判所の権限 : 連邦争訟 利用統計を見る

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(1)

ドイツ連邦憲法裁判所の権限 : 連邦争訟

著者名(日)

名雪 健二

雑誌名

東洋法学

52

1

ページ

1-19

発行年

2008-09-30

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00000646/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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︽論  説︾

  ドイツ連邦憲法裁判所の権限

      −連邦争訟⋮ 一 はじめに 二 憲法的性質を有する連邦と州の争訟︵基本法第九三条第一項   第三号︶ 三 基本法第九三条第一項第四号および第九九条による手続  e 憲法的性質を有しない連邦と州の争訟︵基本法第九三条    第一項第四号の第一のヴァリエイション︶  口 各州間の公法上の争訟︵基本法第九三条第一項第四号の    第二のヴァリエイション︶

名 雪

健 二

 日 一州内の憲法上の争訟︵基本法第九三条第一項第四号の    第三のヴァリエイション︶ 四 基本法第九三条第三項による手続︵基本法第二九条に関する   法律の第二四条第五項第三段との関係︶ 五 行政裁判所法および社会裁判所法による裁判官の疑義提示 六 おわりに

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ドイッ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕 はじめに  ドイツ連邦憲法裁判所は、一九五一年九月七日に設立され、カールスルーエでその活動を開始した︵連邦憲法裁 判所法第一条第二項︶。連邦憲法裁判所は、法治国家的かつ民主的で自由な秩序に対する危険、およびヴァイマール       ︵1︶ 憲法によって、ナチスが権力を握って支配したという歴史の繰り返しを防止するために設けられた。すなわち、        ︵2︶ ヴァイマール憲法の歴史的経験に鑑みて、ドイツ基本法の制定者は、憲法秩序および政治的・社会的生活の全領域       ︵3︶     ︵4︶ に影響をおよぼすような強力な憲法裁判を導入した。        ︵5︶      ︵6︶  連邦憲法裁判所に配分されている権限は、極めて広範にわたっている。すなわち、連邦争訟、機関争訟、抽象的    ︵7﹀       ︵8︶    ︵9︶      ︵10︶ 規範審査、具体的規範審査、憲法訴願、特別な憲法擁護の手続などである︵基本法第九三条、連邦憲法裁判所法第一三 条︶。そこで、本稿では、これらの権限のうち連邦争訟についてみていくことにする。 ︵1︶ドイツ基本法は、連邦憲法裁判所の設立以外にも、予防制度を導入している。それは、例えば、①基本法第一条第三項を直接  に効力のある規定としたこと、②連邦政府の憲法上の地位を強化したこと、③基本法第九条第二項・第一八条・第二一条第二項に  いう﹁戦闘的民主主義﹂︵戦う民主制︶の構想といったこと、などである。戦闘的民主主義の制度を設けた趣旨については、阿部 照哉編﹃比較憲法入門﹄、一九九四年、三二四頁を参照せよ。なお、東西緊張緩和を背景として、戦闘的民主主義が次第に変容し  ていく。これについては、樋口陽一﹃国法学﹄、二〇〇四年、≡二−二および二六−三を参照せよ。 ︵2︶ドイツ基本法の制定過程について詳しくは、山田晟﹃ドイツ近代憲法史﹄、一九七一年、一五一頁以下。なお、同﹃ドイツ連邦 共和国法の入門と基礎﹄︹改訂版︺、一九九一年、三七頁以下。阿部編、前掲書、三二二頁以下。拙著﹃ドイツ憲法入門﹄、  二〇〇八年、四三頁以下も参照されたい。

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︵3︶憲法裁判の概念については、困鎧ωω9巨9\ω鼠き囚99戸∪霧ω琶号巽①融器雲轟ω臓90算8>仁戸88力α冥5P国目ω U8ぎ段\国自お段N琴〆切巨号磐巽貯ωω巨鴨鴨ユo拝ω鴨器貫9︾仁戸88田巨国α員集なお、ドイツ以外の憲法裁判については、  ωOぴ一蝉一〇﹃\M︿ON一〇けび”力αβけω一]﹁①OげP①吋\NgO屏層国一Pピ知α昌BO O中 ︵4︶拙著、前掲書、九一頁。拙稿﹁ドイツ連邦憲法裁判所の権限−憲法擁護手続と選挙審査手続ー﹂、廣田健次教授退職記念、日本 法学第七二巻第二号、二〇〇六年、三三四頁以下。 ︵5︶連邦憲法裁判所の地位および組織については、ω9巨畠\凶&o葺臣奪N霞を参照されたい。また、工藤達郎編﹃ドイツの憲法 裁判﹄、二〇〇二年は、ドイツ連邦憲法裁判所の地位・組織・権限について詳しく取り扱っている。なお、連邦憲法裁判所の地 位・組織・権限について概略したものとしては、拙著、前掲書、九四頁以下。 ︵6︶機関争訟について詳しくは、ω魯巨畠\内9。費力α套刈O辱卑房叶ω窪量\田雨辞囚巨PくR貯器琶鴨胃o器醇8げμP>g戸8β 盈套。蕊沖Oぼ一呂磐評ω邑自輿く①議蝉ωω§鴨凛8①窪8亘おO一諭刈寄冥一抽妻&鴇畠い・≦gN5鼠注一鴨簿g巨αくR貯日窪 α①ω野巳①ω<Φ瀞のω琶鴨鴨誉耳ω﹂pこ・ωΦ口ωΦづωΦΦ\評巳内ぎ喜9︵田茜y浮且ど畠α①ωω冨9 D聾①。辟ωα震ω目α①ωお冨び爵U窪け− ωO巨導9ω9目戸ψ︾9戸80㎝諭8力α冥○ 。中拙稿﹁ドイツ連邦憲法裁判所の権限−機関争訟手続1﹂、東洋法学第五一巻第二号、  二〇〇七年、一頁以下。 ︵7︶抽象的規範審査について詳しくは、ω魯画畠\内9・葺寄目り冨ω抽じ u窪鼠\困鉱P国α葭﹄曾沖℃Φω琶。鵠僧諭o 。寄冥H辱ま妻9 鷲。盈壁8塗名①毎霞浮巨ンQ§Φ爵・葺・一一ρ貫評§評3鍔由曾ω什∪邑震︵犀照︶㍉婁零﹃旨呂・冒再①野且窃話瀞ωω§撃 鴨旨亘ω阜H﹄09ωふHo 。中 拙稿﹁ドイツ連邦憲法裁判所の抽象的規範審査手続﹂、東洋法学第三七巻第一号、一九九三年、  一五七頁以下。 ︵8︶具体的規範審査について詳しくは、ω畠巨9\囚9・β盈套H鍵卑ω窪畠\困皿P力α冥蕊刈快る8邑8舜㈱お寄糞集いい0妻9  ㈱刈○力α霞●お拝寓窪P勲pOこωふ贈中 ︵9︶憲法訴願について詳しくは、ω9巨3\国鼠・3刀α糞H逡辱切雪鼠\国巨P寄舞誤o 。辱℃8琶8鐸㈱田盈糞一奪ま妻9⑰8 ■一①G Q独

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︵10︶憲法擁護の手続について詳しくは、ω魯巨9\囚○ぎ日力α筒る鍵奪ω窪量\困①貫力αpけH蕊O界閃α冥二濠卑閃含”=8中る霧準 δ鵠餌諭ω閃α糞集諭“力身憎集諭q力α糞堅諭①カα冥犀拙稿、前掲﹁ドイツ連邦憲法裁判所の権限−憲法擁護手続と選挙審 査手続1﹂、三三三頁以下。

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ドイツ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕    二 憲法的性質を有する連邦と州の争訟︵基本法第九三条第一項第三号︶  連邦憲法裁判所は、連邦と州および各州相互問または一つの州内で生じた法的な争訟を決定する権限を有してい る。こうした争訟は、実質的意味における憲法争訟として把握される。しかし、本来的意味での憲法争訟として       ︵1︶ は、機関争訟をあげなければならない。  連邦憲法裁判所は、基本法第九三条第一項第三号により、﹁連邦と州の権利義務に関する意見の相違に関して﹂        ︵2︶ 決定する。この一般的規定が含んでいる問題として基本法第九三条第一項第三号においては、州による連邦法の執 行︵基本法第八三条以下︶および連邦の監督の執行︵基本法第八四条第三項・第四項、第八五条第四項︶がとくにあげられ るQ        ︵3︶       ︵4︶  連邦争訟は、提訴人と被提訴人を有する対抗的手続であって、権利と義務に関する争いを前提にする。この権利        ︵5︶ 義務は、機関争訟と同じように、憲法から生ずるものでなければならない。もちろん、基本法第九三条第一項第三 号は、憲法から生ずる権利義務という制限を述べてはいないが、それは基本法第九三条第一項第四号との関係で明 らかとなる。連邦争訟は自己訴訟ではなく、独立した法主体である国家間の争訟であるが、連邦と州の争訟はとに        ︵6︶ かく機関争訟の特色をもつ。連邦争訟は、連邦と州の憲法機関との間で行われる。連邦憲法裁判所法第六九条は、

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連邦と州の争訟について、機関争訟に関する当該憲法裁判所法第六四条から第六七条の規定を指示している。そこ で、提訴人と被提訴人は、連邦憲法裁判所法第六八条により、連邦にとっては連邦政府だけであり、州にとっては 州政府だけである。権利を主張するための要件は、提訴を権限づけられた政府によって決議された合議決定で  ︵7︶ ある。したがって、連邦憲法裁判所法第六八条以下の手続における連邦政府による連邦の権利を主張するための要       ︵8︶ 件は、合議機関としての連邦政府の決議である。注目すべき点は、連邦における機関争訟や抽象的規範審査とは違         ︵9︶ い、議会が除かれる。        ︵10︶  争訟関係者は、互いに憲法上の関係になければならない。基本法第九三条第一項第三号では﹁意見の相違﹂とし        ︵11︶ ているが、機関争訟に応じて、争訟手続にとって具体的な契機が必要である。連邦と州におよぶ実質的な憲法関係 の中で、州または連邦の憲法上の状態を侵害しもしくは危うくする措置や不作為が争訟の対象である。提訴人の提       ︵12︶ 訴権能のための前提は、かような法状態を危うくし、または侵害する可能性を明示することである。争訟の対象       ︵13︶ は、連邦と州の争訟においても法律でありうる。基本法第八五条第三項の意味における指示の範囲および拘束力に        ︵14︶ 関する争訟も、連邦と州の争訟においてのみ主張されうる。       ︵15︶  審査基準は、基本法の権限規定および連邦忠誠の不文の原則である。基本権が審査基準となりうるかどうかは          ︵16︶       ︵17︶       ︵18︶ はっきりとしていないが、最近の裁判はそれを否定している。法治国家諸原理の援用もありえない。  ところで、基本法第八四条第四項が該当する場合にのみ、連邦政府の提訴にもとづいて、州が同条による連邦法       ︵19V 律を規定どおりに執行しなかったということを確認した連邦参議院の決定形態における予備手続が必要となる。連        ︵20︶ 邦参議院の決定に対して、基本法第八四条第四項第二段により、連邦憲法裁判所に初めて出訴することができる。 したがって、事前に連邦と州の争訟は認められない。これは、連邦憲法裁判所法第七〇条から明らかとなる。基本

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ドイッ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕 法第八三条および第八四条の意味における州による連邦法律の執行が問題とならないときは、このような予備手続     ︵21︶ は必要ない。  提訴は文書をもって提出されなければならず︵連邦憲法裁判所法第二一二条第一項第一段︶、また、理由づけがなされ なければならない︵連邦憲法裁判所法第六四条との関係で第二一二条第一項第二段・第六九条︶。基本法第八四条第四項第一 段による連邦参議院の決定は、一ヶ月以内に取り消しを請求することができる︵連邦憲法裁判所法第七〇条︶。それ以 外では、連邦憲法裁判所法第六四条第三項との関係で、第六九条により六ヶ月の期間があり、機関争訟手続の規定       ︵22︶ が準用される。すなわち、手続の対象としての法律においては、その公布から六ヵ月である。  連邦憲法裁判所は、争訟の対象について基本法を基準にして機関争訟手続と同じように、場合によっては、その 違反を確認する︵連邦憲法裁判所法第六九条・第六七条︶。異議を申し立てられた措置の取消しはない。予備手続が先        ︵23︶ 行したときは、場合によっては、連邦参議院の決定は取り消される。  これまでに、基本法第八四条第四項第二段による一件の手続が行われたが、それは核を法的に認可することに関       ︵24︶ する連邦の州への指示との関係でなされた。 ︵1︶清水望﹃西ドイツの政治機構﹄、一九六九年、四七二頁。 ︵2︶困窪ωω$旨−U器ω鼠m富おo評αRω§号段8呂爵U①昌零巨磐9ωα﹂HレOo oρω■80 。をみよ。 ︵3︶切く①焦臼N一お︵ま㎝︶一一鯉鯉︵刈集︶蕊ρ一G 。︵N巽︶い≦聾震いΦ雪①おURω巨α−憲区ΦN−ω冨詳<・﹃αΦヨ団琶αΦω<Φほ㊤ωω§窃磯①旨耳 旦○鼠鋒きω毒良︵寓同照︶扇巨8ωお岳ω巽お詔豊9ご邑9巨畠①ω①けN匿P這謬ω﹄爵h忌蝉昌目旨ζ四霞g即鎚翼8耳目ず >5砧。。刈諭NO寄量鐸囚一磐ωωけΦ露﹂口勇&・開U・一N震\囚薯のく・鵬Φ一︵霞ω㎎︶扇・巨段囚・BB窪弩讐B9琶凝ΦωΦ貫N・・ρ>詳

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 ㊤G Q 力α口﹃。ωN刈’ ︵4︶ωけ段Pぼω溶>唇Oω寄霞。G 。ω8 ︵5︶ωくRお国倉一頴︵一認︶蕊一る園︵G 。ま︶誌一る。一︵ωOω︶トΦ一ω器鮮餌、鉾ρω●ミ良・ ︵6︶困磐のω魯巨魯\ω8団き囚9δ葺U器団§号ω<Φほ器ω暮鴨鴨比o算N>仁φ力α葭るO。なお、連邦争訟と機関争訟との違いは 機関の権利および義務ではなく、連邦と州の権利および義務が問題になるといったことだけである。ζ磐おぺ諭8盈震。舞 18  17  H  16  15  14  13  12  11  10  9   8   7 査基準として問題となるべきであると指摘する NOO命 ︵19︶       、憲法 U一①けR田巨讐巨9①けRま巨晦︵田ω磯●︶”9§畠①ω①けN鐸α一Φ切琶αΦωお2σ算UΦgの。巨蝉⇒鼻。 。.︾島■る○08≧け。。 。召套一①。 これについては、国く震お国①る8を参照せよ。 ωo巨巴魯\因○ユo日力α葭■09 ω<鼠○国一ω噂竃︵認h,︶る○レ○ 。︵Nωh。︶誌一砧。H︵ω○ω︶い。 。Hる一〇︵認。︶るN8ω︵NN。︶る伊謡○︵N爵︶ロO“−Nωo 。︵N合︶。 ωくRお国員竃︵認等  ωOげ一四一〇げ\H︿ON一〇色P力αP村,OO, ωけ①B昌]W〆≧けOω寄5唇ωqΩωくΦは○国ザに︵G 。。︶り  ωくΦ目団○国ω蝉くくω一・一㊤ON、ω・刈NO庸。 例えば、ω<段お閃曽る田︵認○やωまy 勺Φ騨ωΦぎ①鮮野且白ぎαΦ同−ω幕一け喜も①§評α自餌由・韓U邑震︵田ω磯D︶−閃①ωけω。嘗津㎝。冒ぼΦ窪包①ω<Φ詩ωω巨ひqω鴨昏夏臣● 80一−ω●鴇伊 ωく⑦蹴Ω国。 。ピ。 。一〇︵o 。鍵y一〇タNωo 。︵曽①y ω①巨9四PO‘ω・駕㌶それに対して、レルヒェ教授は、法治国家諸原理の内容が連邦の関係に影響をおよぼす限り、それは審       。勺雪霞いR畠ρ写9 D鴨ロα①ωω巨α−い壁α雫ω貧Φ一けω﹂昌閃Φωけの。ヨ協江旨勺Φ8﹃ωΦ巨①お    ω.一〇〇 Q出■ これについては、勺①ω寅δ旨ρ︵閃乞$ω︶あ﹂ωo o卑

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ドイッ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕 ︵20︶ωo巨巴魯\囚o践o跨−カ9づ一〇H ︵21︶いΦ一ωロΦき鉾卑ρω■ミ崔 ︵22︶浮吾①昌ω9凝①甘肖冨α8ζ曽巨N\零琶・ω畠巨象霞警目①ξ即目N困晋\田昌窪ωΦけ凝ρω巨8ωお陳器ω巨鴨鴨誉拝招8Φ貸 NO8諭①“力α糞レωN ︵23︶国毎ωけωΦ巳更浮訂旨困①βく①岳ωω琶鴨賓・器駅8耳N>島勇α奪一。。 。8 ︵2 4︶切く震お国○ 。一る一ρなお、ω魯巨畠\囚9・葺寄篁一2を参照せよ。 三 基本法第九一一一条第一項第四号および第九九条による手続  基本法第九三条第一項第四号および第九九条に総括されている手続は、その共通性をその対抗的性格と連邦憲法 裁判所の補充的管轄の中においてのみみいだされる非常に異なった争訟である。基本法第九三条第一項第四号にお いては、三つのヴァリエイションが問題となる。これらは、連邦憲法裁判所法第七一条において、第一号から第三 号にわたって規定されている。すなわち、O憲法的性質を有しない連邦と州の争訟、口各州問の公法上の争訟、口        ︵1︶ 一州内の憲法上の争訟、といった三つのヴァリエイションである。

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︵1︶困雲ωω。げ巨畠\ω$Hg D三く&。葺U器団琶α①ω<①誉ωω仁甚ω鴨践9亘8含鉾寄舞一・9 ω 憲法的性質を有しない連邦と州の争訟︵基本法第九三条第一項第四号の第一のヴァリエイション︶ 基本法第九三条第一項第四号の第一のヴァリエイションによると、連邦憲法裁判所は、﹁連邦と州との間のその

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東洋法学第52巻第1号(2008年9月) 他の公法上の争訟﹂において決定する。基本法第九三条第一項第三号はすでにこれに関する憲法上の争訟を含んで        ︵1︶ いるので、法律あるいは条約に根拠を置いている憲法的性質を有していない公法上の争訟のみが考えられる。しか しながら、連邦と州間の行政法上の争訟における連邦憲法裁判所のこのような管轄は、﹁他に出訴の途がない限 り﹂にのみ開かれているにすぎない。この出訴への途は、普通行政裁判所法第四〇条および第五〇条第一項第一号 により、連邦行政裁判所に開かれているので、基本法第九三条第一項第四号の第一のヴァリエイションは今日実際         ︵2︶      ︵3︶ には空回りしている。クラインによると、この規定は休息中の権限としての意味を保っているとする。  連邦憲法裁判所は、これまでに、この管轄を基礎にして一つの事件だけを決定した。すなわち、福祉住宅建設の        ︵4V ための資金の配分に関するバイエルン州と連邦間の争訟である。当時としては、行政裁判所に管轄がなかった。し かし、今日では、行政裁判所の一般条項︵行政裁判所法第四〇条第一項第一段︶にもとづき、連邦行政裁判所がこのよ         ︵5︶ うな事件を決定する。  この争訟の種類における決定に関する連邦憲法裁判所法第七二条の規定は、基本法第九三条第一項第三号による 連邦と州の争訟および基本法第九三条第一項第一号による機関争訟の規定を凌駕している。なお、連邦憲法裁判所 は、憲法的性質を有しない争訟の範囲内で、被提訴人に措置の実行または不作為を義務づけることができる。した       ︵6︶ がって、確認をするだけではない。 ︵1︶困雲ωω寅P一員刀鼠・開U。一NR\困窪ωく・箆︵騨ω瞬︶扇・暮R囚・BB①簿巽雲日9琶爵ΦωΦ貫>唇。ω寄糞零ρω占塗名聾震 需ぎ9UR田区−霊包Φあ冨一薯。乙聾ω琶8ωお瀞ωω巨鴨鴨浮拝旦O鼠a壁ω翼良︵田茜y野呂8<Φは9 。のω量鵯鴨旨拝彗α 9琶諸Φ器貫ω件HψNO 。“を参照せよ。

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ドイツ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕 ︵2︶9冨訟磐評ω巨自鐸く段貯器琶鵬ω實o器窪Φ魯叶諭O寄舞一,なお、ω<巽お国O“砧箋︵田O︶を参照せよ。 ︵3︶国毎ωけ団Φ且餌\浮匿昌困Φ一Pく①誉ωの目鴨鷺・NΦ評①。算P>島劾α艮一〇鐸 ︵4︶ωく①民○国一忌09 ︵5︶なお、ωけRPぼω界︾浮8力α奪ωミを参照せよ。 ︵6︶困窪ωの魯巨9あ8幡磐内9・登U器ω琶号ωおほ器ω巨膓鴨浮拝N>qP盈震﹂8●  口 各州間の公法上の争訟︵基本法第九一一一条第一項第四号の第二のヴァリエイション︶  基本法第九三条第一項第四号の第二のヴァリエイションによると、連邦憲法裁判所は、﹁各州間﹂の争訟にとり 権限を有する。この権限は、憲法上の争訟も、行政法上の争訟も、よってあらゆる公法上の争訟を含む。というの は、基本法第九三条第一項第四号における﹁その他の﹂という文言は文法的には各州間の争訟に関係しうるが、そ       ︵1︶ の意味や目的によると、そうではないからである。基本法第九三条第一項第四号の第二のヴァリエイションは連邦 の平和の維持のためにあり、それは、競合する州の憲法裁判によって排除されえない。その理由は、その裁判は州 の限界を超えていないからである。  基本法第九三条第一項第四号の第二のヴァリエイションの適用領域についての制限は、補充条項から初めて生ず る。というのは、憲法的性質を有していない公法上の争訟、したがって、行政法上の争訟にとっては、行政裁判所 法第四〇条第一項および第五〇条第一項第一号により、行政裁判所への出訴への途、つまり、他の出訴への途が与 えられているからである。結果的には、連邦憲法裁判所には、各州間の憲法上の争訟だけが管轄として残って  ︵2︶ いる。連邦憲法裁判所の裁判によれば、例えば、コブルクのバイエルン共和国への統合に関するコブルク共和国と 10

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      ︵3︶ バイエルン共和国との間の一九二〇年の条約は、憲法上のものと判断されるべきであったとしている。また、連邦 憲法裁判所は、学生の在籍権の授与に関する州の条約を憲法上のものとしてではなく、行政法上の条約とみなし       ︵4︶ た。よって、連邦行政裁判所の管轄が根拠づけられることになる。さらに、連邦憲法裁判所は、かつてのヴァル デックーピルモント州と、その侯爵家との間の条約にもとづく財産分与における争訟の法的性質が民法上の性質に        ︵5︶ あるとしてその管轄を否定した。  この争訟における提訴人と被提訴人は、連邦憲法裁判所法第七一条第一項第二号により、関係する州の政府であ る。滅亡した州も、基本法第九三条第一項第四号の第二のヴァリエイションによる手続で、その滅亡と直接に関係 にある権利を主張することができる。これらの場合において、滅亡した州の訴訟当事者たる地位は、いまだ存在す        ︵6︶ る自治行政機関によって認められる。  提訴は、文書をもって︵連邦憲法裁判所法第≡二条第一項第一段︶六ヵ月以内︵連邦憲法裁判所法第七一条第二項・第        ︵7︶       ︵8︶ 六四条第三項︶になされなければならない。この手続のための特別な規定はない。決定の内容については、連邦憲        ︵9︶ 法裁判所法第七二条第一項が定めている。 ︵1︶困磐のωけΦ毎喜勇鼠・開U・一N震\困翌ω<・覧︵田茜︶扇・琶段囚・日B窪鐸建日9巨盆Φω①貫>拝。ω寄舜ω。鳶 ︵2︶o 。け①β昌ω界︾詳8盈糞ω。 。刈る窪畠ら9\浮ざ昌囚一①一PくΦほ霧ω琶鴨胃・器㌍8算寄壁=○貫 ︵3︶ωくRお国NN認一● ︵4︶ω<①牒○国命一。ω’ ︵5︶切くΦほ○国ON89

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ドイッ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕 ︵6︶ωくRお国鳶旨一︵8一︶る鼻曽①︵認R︶る○ 。蕊田︵N零y濤るδ︵ω蜜︶るNN3︵ω冨yそれに対して、ペスタロッツアは、 続における訴訟当事者たる地位を排除する。○再一呂磐評ω琶・禺ρくR貯霧琶鴨賓○器窪8算㈱一〇閃α霞⇔ ︵7︶ω①包曽\困①一P寄艮一一。卯 ︵8︶この点について、提訴権限と決定だけを規定している連邦憲法裁判所法第七一条および第七二条を参照せよ。 ︵9︶困窪ωω9巨魯\ω8隔磐囚9・葺∪器野且霧くΦほ霧ω§鴨鴨浮暮N>q戸園α冥さ8 この手  日 一州内の憲法上の争訟︵基本法第九三条第一項第四号の第三のヴァリエイション︶  連邦憲法裁判所は、基本法第九三条第一項第四号の第三のヴァリエイションにより、他に出訴への途がない限        ︵1︶ り、一州内の公法上の争訟に関して決定する。この規定に反して、また、第二のヴァリエイションとは違って、第 三のそれにより連邦憲法裁判所の包括的な管轄が根拠、つけられるわけではない。あくまでも、手続が憲法上の争訟       ︵2︶ に限定されるだけである︵州の憲法争訟︶。しかも、連邦憲法裁判所に管轄があるのは、機関争訟に限ってである。 したがって、機関争訟手続の規定が、広範囲にわたって適用される。連邦憲法裁判所法第七一条第一項第三号は、       ︵3︶ その固有の権利に直接にかかわっていなければならない提訴権者と被提訴人の範囲を規定する。そこで、連邦憲法 裁判所の裁判によると、連邦の機関争訟との重大な違いが明らかになるとしている。すなわち、連邦憲法裁判所法 第六三条と比較して、当該憲法裁判所法第七一条第一項第三号の厳格ないい方は、議会の少数会派の当事者たる地       ︵4︶ 位を認めることを禁じている。期間に関しては、連邦憲法裁判所法第七一条第二項により、当該憲法裁判所法第 六四条第三項が準用される。決定の内容は、連邦憲法裁判所法第七二条第二項により、機関争訟における規定に準 じて定められている。 12

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 この争訟は、補充的な性格を有しているにすぎない。というのは、それぞれの州の国事裁判所もしくは憲法裁判        ︵5︶ 所に対する他の出訴への途の可能性といったものが、具体的な提訴人ないしは事件によるからである。基本法第 九三条第一項第四号の第三のヴァリエイションは、州内のすべての憲法上の争訟に対する欠陥のない法律上の権利 保護を保障しようとしているが、州法みずからが保障していない州議会における少数派に対しては、それ以上の司       ︵6︶ 法上の保護を提供していない。  連邦憲法裁判所の裁判によると、州法が機関争訟そのものに対して州憲法裁判所の管轄を規定していない場合だ けではなく、州法が連邦憲法裁判所法第七一条第一項第三号との関係で、基本法第九三条第一項第四号よりもより 狭く提訴権者の範囲を設ける場合であっても、連邦憲法裁判所の管轄が定められているとしている。というのは、 一州内の公法上の争訟についての基本法第九三条第一項第四号による連邦憲法裁判所の管轄は、みずからの憲法上 の権利を侵害するあらゆるものに対して、州の憲法に関係する者の完全な権利保護を保障すべきであるからで  (7 ) ある。  基本法第九三条第一項第四号の第三のヴァリエイションにもとづく連邦憲法裁判所の補充的権限、すなわち、州 の憲法裁判所に対する出訴への途を欠いた連邦憲法裁判所の権限と並行して、基本法第九九条は、連邦憲法裁判所 法第一三条第一〇号および第七三条との関係で、州法律による一つの州内での機関争訟に対して、連邦憲法裁判所 に最初の権限を開いている。したがって、連邦憲法裁判所は、機関貸与の方法で、州法上の指示にもとづいて決定        ︵8︶ をなす。したがって、州憲法が唯一の審査基準である。この可能性を利用しているのは、シュレースヴィヒ”ホル       ︵9︶ シュタイン州だけである。連邦憲法裁判所は、州の指示にもとづいて、シュレースヴィヒ“ホルシュタイン州のた めに、州の憲法裁判所として活動することになる。この場合、シュレースヴィヒHホルシュタイン州憲法だけが、

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ドイツ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕       ︵10︶ 審査基準である。したがって、基本法の規定や連邦法および州法も、審査基準として問題とならない。   ︵1︶O o<Rお国撃園○︵Nホh︶るρ一謡︵一〇窪︶るNレ罐︵一8︶蕊伊ω顕o 。ρ臼を参照せよ。さらに、ωく震お国Oρ斜ΩO一る&︵ザクセン     州︶るNお○︵テユーリンゲン州︶るωレO︵ハンブルク州︶い困翌ω望震戸昌力&&UO一N震\困きωく○鴨二缶ぺ超︶扇o§霞囚oヨBΦ旨震     讐BOε包鴨ωの貫≧け■。ω寄霞●ωO良“Oぼ一ω富旨℃①ω琶・NNρくR雷ω量暢質。N①霞Φ。耳ゆ一一臣壁N一陣浮旨震二W①9臓ρ○樋磐−     ω冨一江讐①一喜αΦω霊注①ω<①瀞ωω巨閃ωお景ω﹂員9ペ一段一きω薄畠\囚再ωω8匿︵田ω磯。︶噛い蝉包①の<Φ壁ωω巨窃閃9受ω富詩魯日Φ一一−     σきαNるo 。G 。φG 。斜も参照せよ。   ︵2︶国くRお国Oρお︵島ご”ザクセン州の憲法裁判所の優先的管轄。連邦憲法裁判所において手続が係属中に州に憲法裁判所が設     立された場合、その州憲法裁判所が優先的な管轄をもつということは、基本法第九三条第一項第四号の意味における他の出訴への     途である。なお、ωくRお国εN砧園︵器一yHON砧ホ︵謡鵠。︶を参照せよ。        O

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)  ) ) )  )  )  げ四目評①一μ  αΦ村 健次訳、 ︵9︶ ω<Rお国80。る︵ω曽$一爵﹂虐︵bo9︶をみよ 例えば、ゆ<Rδ国臼砧&︵謡OごるNる○︵一鍵y ゆくΦ吋出Ω閏い轟噛Go刈ω ︵ω刈刈︶一①りω①刈 ︵ω刈H協h●y①○りO o一■O ︵ωNωhy①N一〇癖 ︵NO一h︶。 ω<Φ吋団○国①O一ω一〇 ︵ωNO︶● ゆく①ほ○国Oωレ霧︵N8︶ロONる圏︵認一︶芦。Nるホ︵N㎝。y 国旨ωけ写一①ω①9ぎp圏ω感づ9讐①一aぎ瞬①目琶鵬N三ω畠窪㊥琶伍①ωく①匡器ω琶閃招9。浮ω富爵①詳琶α霊且Φω<①瀞ωω琶鴨ひQ①旨辟ω−     費○ぼ巨磐ω寅9︵田茜︶扇琶号ωお瀞器琶閃躍&3呂&爵琶鴨ωの貫窪Pω﹄箪号﹃ω受&霧暮鴨鴨旨辟ω蕃詩魯ぎ 切琶αR85島U窪房。巨彗α﹂8ωあふ介ω9凝Φ届。四●ρωるω。エルンスト・フリーゼンハーン﹃西ドイツ憲法裁判論﹄、廣田      一九七二年、二八頁。 切くRお両撃鼻ωQ 。る蜀①ρ㎝ω口8一蕊︵一〇 。ω︶口8層一鐸一8るo 。N口8ふ一芦○刈るo 。Ω仁ρ一鐸評ω琶o旨曽諭目力身村如霞を参照 14

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 せよ。 ︵10︶団<Φ匡○国HOωるG oN︵G Q濠h︶■    四 基本法第九三条第三項による手続︵基本法第二九条に関する法律の第一西条第五項第﹃二段との関係︶  統一的な州の構成員を確認するための住民請願を認め、または認めないことに関する訴願手続も、広義の連邦争       ︵1︶ 訟の一部である。詳細は、一九七九年七月三〇日の基本法第二九条第六項にもとづく﹁住民表決および住民請願に       ︵2V おける手続に関する法律﹂の定めるところである。連邦内務大臣は、住民請願を認めることに関する申立てを決定 する。﹁住民表決および住民請願における手続に関する法律﹂第二四条第五項第三段から第五段は、住民請願の拒 否に対して、決定の送達後一ヵ月以内に連邦憲法裁判所への訴願を認めている。当該州政府は、申立てを認めるこ とに対して、同じ期間内に訴願をなすことができる。この訴願について決定するのは、連邦憲法裁判所の第二部会   ︵3︶ である。 ︵1︶再編成のヴァリエイションについては、基本法第二九条第四項および第六項を参照せよ。なお、当該規定の邦訳については、 高橋和之編[新版]﹃世界憲法集﹄、二〇〇七年および高田敏・初宿正典編訳﹃ドイツ憲法集﹄第五版、二〇〇七年を参照されたい。 ︵2︶ω○ω一■H¢一ω蜀 ︵3︶なお、﹁住民表決および住民請願における手続に関する法律﹂第二四条第五項第三段の場合における市民の訴願権については、 ωくRお国3おO︵窓o 。︶を参照せよ。

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ドイツ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕 五 行政裁判所法および社会裁判所法による裁判官の疑義提示  行政裁判所法第五〇条第三項および社会裁判所法第三九条第二項の規定により、連邦行政裁判所と連邦社会裁判 所は、係属中となった連邦と州の争訟事件、または州間の争訟事件において、それらの裁判所が争訟を憲法上のも のと考えるならば、事件を連邦憲法裁判所に疑義提示する義務がある。それは、拘束力のある移送ではない。憲法 上の争訟の決定に関して、その管轄内で他の裁判所による拘束力の根拠となり、また、拘束力のある移送のため、        ︵1︶ 場合によっては単純法の問題を決定しなければならないときは、連邦憲法裁判所の地位と一致しないであろう。連        ︵2︶ 邦憲法裁判所によって下された決定の機能および拘束力については、論議の余地がある。連邦憲法裁判所は、 二〇〇三年に初めて行政裁判所法第五〇条第三項による疑義提示に関して決定した。そこにおいて、連邦憲法裁判 所は、実際に疑義提示された憲法争訟を最終的に決定する権能があると判断した。ただ憲法裁判所の争いであると する要求を内容にもつある決定に、別の形式的手続の手段がしたがわなければならない。しかし、実際には望んだ        ︵3︶ 決定となるために、このような手続の形態は不経済といえるであろう。     ハ

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ωく①ほ○国一〇〇レ︵。 これについては、O再陣豊雪℃霧琶8鐸く震協器ω巷暢實o器ゆお3け諭O臣舞園Hを参照せよ。 困雲ωω9苺畠\ω9眺磐内Q比○登U器田q民Φの︿Φほ器ω§暢鴨比o算N>q鉾力α嵩賢=9 。いy 16

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六 おわりに  以上、連邦争訟についてみてきたが、この争訟は今日いかなる意義を有するのであろうか。連邦憲法裁判所が活        ︵1︶ 動してから最初の一〇年間は、とくに連邦と州の争訟において重要な手続が処理された。例えば、南西国家事件、         ︵2︶      ︵3︶       ︵4︶     ︵5︶ ライヒ正教条約事件、核兵器に関する国民請願施行事件、テレビ争訟事件、新編成事件である。そして、最近の手       ︵6︶      ︵7︶ 続の例をあげると、ヨーロッパ共同体のテレビ方針事件、新しい州の連邦に対する財政要求事件、連邦委託行政に        ︵8V おける連邦の権限範囲事件がある。       ︵9﹀  歴史的にみると、連邦争訟は、憲法争訟の原型である。今日の国事裁判所または憲法裁判所は、州に関するライ ヒの支配権行使ないしは監督にその淵源のうちの一つを有している。こうした監督は、裁判形式の仕方でも行使さ れた。この種の手続は、一九三二年七月二〇日のライヒ大統領の命令に対するライヒ国事裁判所でのいくつかの州         ︵10︶ の提訴から起こった。  しかしながら、今日、連邦と州の争訟は、基本法の下ではその実際的意義を著しく失っているといってよい。し        ︵n︶ たがって、それは、実際には連邦憲法裁判所のほとんど意義のない権限といわれている。こうしたことについて は、いくつかの理由をあげることができよう。すなわち、形式的意味における連邦の監督は行使されないので、基 本法第八四条第四項第二段に定められた手続が、ほとんどなくなったからである。よって、連邦憲法裁判所として は、競合的立法の範囲において、連邦の立法領域に影響をおよぼすことを放棄した。いずれにせよ、一九九四年の 憲法の改革まで、連邦憲法裁判所は、基本法旧第七二条第二項の文言の意味における連邦法律の規定に対する必要 性があったかどうかの問題を、連邦立法者の覇束裁量の問題と宣告し、事後審査を当該憲法裁判所から引き離

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ドイッ連邦憲法裁判所の権限〔名雪 健二〕  ︵12︶       ︵13︶ した。しかし、この連邦と州との間の争訟は、基本法第九三条第一項第二号にいう抽象的規範審査の手続になる。 つまり、連邦争訟は、たいてい法律に関して起こるので、規範の抵触に関係する。そのようなことから、その裁判 上の解決のためには、抽象的規範審査の手続がもっとも適切である。その理由は、この手続においては期間がな く、意見陳述者の範囲がより大きく、しかも決定の効果が広範囲に亘るからである。そうであっても、連邦と州の        ︵14V 争訟は、基本法の連邦国家性ならびに憲法裁判にとって、総じて以前と変わらない重要なものといえるであろう。 ︵1︶ゆく震お国ど辱 ︵2︶切<Φほ○国ρG 。OO■ ︵3︶ωく鼠Ω国。 。レNN ︵4︶切<Φ匡○国一NるO伊 ︵5︶尉く震お国員鋒 ︵6︶尉く①匡O国ON8。 。■ ︵7︶ωく震お国拐謡9 ︵8︶切く①珠○国一。企漣。● ︵9︶浮吾葺ω9凝ρ旦99aζ帥旨N\卑琶・ω9邑今里警讐Φ曼写きN困晋\浮吾①辞ω9語ρ野区①話ほ霧ω琶鵯鵬99a鴨ω①貫  ㈱お力α豪$を参照せよ。 ︵10︶ヴァイマール憲法において、プロイセンの憲法上の優越的地位は取り除かれたが、それでもドイツの州の中でその領土や人口  は圧倒的な優位を占めており、ライヒの統治を困難にした。一九三二年、パーペン︵写窪Nく8勺8ΦP一〇 。お−る$︶内閣のときに、  七月二〇日のライヒ大統領の緊急命令で、プロイセンについてライヒ管理官が任命され、この命令は即日施行された。この命令に  よると、ライヒ管理官は、プロイセンの総理大臣の職務を行う権限をもち、プロイセンの大臣を罷免し、他の者をライヒ管理官と 18

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 してこれにプロイセンの省の職務を行わせることができた。そこで、この命令が州の内政に対する不当な干渉であるとして、プロ イセン政府だけではなく、南部の各州の反対を惹起し、プロイセン、バイエルンおよびバーデンがライヒ国事裁判所に提訴した。 もつとも、バイエルンおよびバーデンの訴えは、ライヒが自国にもプロイセンに対して行使したような権限をもたないことの確認 を求めたものであった。ライヒ国事裁判所は、一九三二年一〇月二五日、ライヒ管理官とプロイセン政府との間に権限を分割する  ことで、この問題を解決した︵力ONるo 。−>昌7聾︶。これについては、山田晟﹃ドイツ近代憲法史﹄、一一六頁−一一七頁参照。な  お、フリッツ・ハルトゥング﹃ドイツ国制史﹄、成瀬治・坂井栄八郎訳、一九八○年、四五九頁、四六六頁、四七〇頁ー四七一頁 も参照されたい。 ︵U︶≦9 。一犀零巨gU震ω琶α−い曾号あ富一宴・乙§ω巨8ωお9ωω琶臓紹豊9江巨○日一呂壁ω再爵︵田超y野58ω<R毯巨撃 晦①旨窪目α9§凝①ωΦ貫窪.H憎ω﹄○ 。8缶四辞ヨ昌ζ磐おおω$讐鴇①。げ9㎝・>仁中諭8臣冥$ ︵12︶ωくΦほ○国NN一ω︵認貞︶るo 。’N園︵認Oy ︵13︶国く段お国巽零ω為N器〇一〇 。ρ犀o 。芦β窃o 。,連邦憲法裁判所判例集第三七巻は、連邦参議院の同意を必要とする連邦法律に対す  る二つの州による抽象的規範審査の提訴であり、同判例集第七二巻および第八六巻と第一〇一巻は、抽象的規範審査手続における 連邦国家の財政の調整に関する争訟である。なお、勺ΦけRω①ぼ9ω仁且−い雪8同−ω貸簿﹂員勺9R評3﹃更頃R雪∪邑R︵零照y 閃Φ曾零耳洋8冒日Φω巨8ω<①陳窃雲畠詔9。耳ゆ俳H噂¢㎝①印を参照せよ。 ︵14︶困窪ω望震PU器ω建讐段8浮αRω琶α①曽8昌爵U窪房。江讐9ω阜戸¢8鋳なお、ショルツによれば、連邦争訟は、州の権限 強化がなされたときに、その意義を取り戻すことができると指摘する。これについては、閃唇Φ昌ω3・貢NΦ巨冒ぼΦ<Φ陳器ω琶暢− ①一浮①ぞ乞碧包①器琶α︾ロω窪身Uく卑80ρψ一ωo ・陛を参照せよ。 1なゆき けんじ・法学部教授ー

参照

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