第 3 章 現代の宇宙観測と未来を目指す長期計画
3.5 X 線・ガンマ線観測計画
3.5.1 はじめに (1) 分野の現状 [X線]
宇宙からのX線は1962年、ロケット観測で偶然に発見された。初期に進められた銀河 系内の明るいX線連星の観測では、太陽の10倍程度の質量のブラックホールの存在が明 らかになった。X線観測はその後、銀河団には銀河の総計5 〜10倍もの質量をもつ、数 千万度の超高温プラズマが存在することを明らかにするなど、宇宙の理解に不可欠な道具 として発展を続けてきた。星の終焉の姿である白色矮星、中性子星、そしてブラックホー ルにおける極限環境の理解、また地上の加速器では到底実現できないほど高いエネルギー を持つ宇宙線の加速環境などの研究は、X 線天文学の進展とともに進んできた。日本は 1979年の「はくちょう」を皮切りに、「てんま」、「ぎんが」、「あすか」、「すざく」と5機 のX線衛星を継続して打ち上げ、この分野に大きく貢献している。
現在は「すざく」(2005 年 7月に打上げ)が、アメリカの Chandra、欧州宇宙機構の
XMM-Newtonと並んで活躍中である。しかし、これらの衛星も、やがてその任務を終え
る。後継機となる次期X線天文衛星ASTRO-H(旧称NeXT)は現在、日本のX線天文学 のコミュニティーが総力をあげ、2013 年度の打ち上げをめざし世界各国の研究者と共に 開発中である。ASTRO-Hは、マイクロカロリメータによる超高分解能のX線分光観測と、
はじめての硬X線領域での集光撮像観測などによる0.3 〜600 keVという3桁を超す広帯 域・高感度の観測により、銀河団プラズマの速度分布の測定、ブラックホール周辺での一
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般相対論的な時空の歪みの計測、厚い物質に隠された巨大ブラックホールの観測を通じた ブラックホールと銀河の共進化の研究など、宇宙の構造形成やエネルギー的な進化を知る 上で、鍵となる観測に挑戦する。
より小型の計画としては、2000〜2007 年、日本(理研、東工大、青学大)と米仏の協
力による HETE-2 衛星がガンマ線バーストの即応観測を行い、2種類のバーストの起源
を明らかにする大成果を挙げた。2009年7月には、全天X線モニター装置MAXI (Monitor of All-sky X-ray Image)がスペーシャトルで打ち上げられ、国際宇宙ステーションの日本 実験モジュール「きぼう」の船外プラットフォームに設置され、8月より稼働を開始した。
[ガンマ線]
ガンマ線天文学は、1952 年、早川幸男により宇宙線相互作用からのガンマ線が予測さ れるなど、X線天文学よりも長い歴史を持つが、エネルギーが高くなるに従って光子数が 少なくなるうえ、検出が難しいことなどにより、進歩が遅れていた。初期のSAS-2やCOS B 衛星以降、ガンマ線天文学に目覚ましい進歩が始まったのは、1989 年にヨーロッパの Granat、1991年にアメリカのCompton Gamma Ray Observatory (CGRO) が打ち上げ られた以降である。 21 世紀にはいり、 INTEGRAL(2002 年)を皮切りに、Swift (2004
年)やAGILE (2007年)が打ち上げられ、さらにはGeV領域で格段の感度向上をめざすフ
ェルミ ガンマ線宇宙望遠鏡が2008年に打ち上げられた。SwiftはHETE-2の後を受けて ガンマ線バースト研究に新展開をもたらし、フェルミは打ち上げ直後から GeV ガンマ線 において多くの新天体を発見するなど、その高い感度を誇っている。これらの二つの衛星 には、日本のチームが積極的に参加している。日本でも「すざく」に搭載された硬X線検 出器は、様々なアイデアにより、数10 keVの硬X線から600 keV前後の軟ガンマ線の領 域で高い感度を実現し、これにより日本も自前の科学衛星で、軌道上ガンマ線天文学に踏 み出すことになった。
超高エネルギーのTeVガンマ線は、大気との衝突のさいチェレンコフ光を発するため、
地上から観測することができる。しかし大気に突入する高エネルギー宇宙線陽子なども、
同様にチェレンコフ光を発生し、ガンマ線観測の雑音となる。この雑音を克服し、大気チ ェレンコフ望遠鏡が実際にTeV領域の宇宙ガンマ線の観測装置として確立するまでには、
時間を要した。1989 年、大型の光学反射鏡の焦点面に多数並べた光検出器でチェレンコ フ光の像をとらえ、ガンマ線起源と原子核起源のシャワーを識別するイメージング技法が 実用化されるに及び、世界各地で解像型チェレンコフ望遠鏡が建設され、超高エネルギー ガンマ線天体が数多く観測されるようになった。日本では1992年より「カンガルー」望 遠鏡が日本とオーストラリアの国際共同で開始され、規模を拡大しながら観測を行なって おり、現在は複数の望遠鏡からなる「カンガルーIII」が稼働している。
(2) 目指す目標
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現代の天文学では、異なる波長域で、匹敵する深さと広さで観測を行うことは、きわめ て重要である。とくにX線からガンマ線までは、波長にして12桁にも及ぶため、観測の 目標も広汎である。高エネルギー天体物理学から観測的宇宙論に関わる研究、宇宙線や素 粒子に関わる研究などの観点から、広範な議論が行われ、それを満たすための将来ミッシ ョンの計画が検討されている。その流れは、ASTRO-Hおよびそれに続く大型の汎用X線 天文台ミッションと、JAXAが策定した小型科学衛星計画に代表されるように、機動力を 活かした特色のある小型ミッションの2つに大別できる。以下、それらの目標を「初期天 体の形成」と「高エネルギー粒子」という二つの観点から述べ、§3.5.2 ではここ 10〜20 年で提案されている具体的な諸計画を紹介する。宇宙線に関する記述は§3.6に譲る。
(a) 初期天体の形成
赤方偏移にして〜2から数十にかけての宇宙は、現在に近い宇宙の姿が仕込まれた重要 な時期である。そこでは宇宙の大構造が成長し、最初の銀河が形成され、その中で星形成 が起きたと想像される。この時代を探る上で、光赤外線での深宇宙探査の重要性は言うま でもないが、それと呼応したX線の観測もきわめて重要である。なぜならこの時期、銀河 中心には同時に、巨大ブラックホールが成長したと考えられており、濃いガスに包まれ成 長するブラックホールを探るには、X線が不可欠だからである。さらにこの時代、ダーク マターの塊としての銀河団が合体を通じて成長し、その中では、可視光で見える銀河より はるかに大量の高温プラズマが、重力場で加熱され、閉じ込められたと考えられる。その 過程を解明する上で、X線に勝る観測手段は無い。
より個別のテーマで重要なものの一つが「隠れたバリオン」である。宇宙のヘリウム量、
宇宙初期の元素合成理論、および宇宙論パラメータから、宇宙のバリオン物質の総量は高 い精度で決まる。ところが検出ずみのバリオンの量はこの約20%に過ぎず、残る大半は未 検出である。この「隠されたバリオン」は温度 10 万〜100 万度の中高温銀河間物質 (Warm-HotIntergalactic Medium: WHIM)として、銀河団同士を結ぶダークマターのフィ ラメントに沿って分布して、軟X線を放射すると考えられており、その検証が急務である。
もう1つは、第1世代の星がどのように重元素を合成し、それらがいつ宇宙空間に捲き散 らされたかであり、これも銀河団プラズマなどのX線分光観測で探ることが可能である。
(b) 高エネルギー粒子の研究
宇宙の理解の大枠は、物質や放射が宇宙の各所で平衡状態、あるいは準静的な状態にあ るという"自然"な仮定に基づいてきた。それにも拘わらず、現実の宇宙の姿は著しく非一 様で非平衡であり、平衡・準静的な宇宙から離れ、多様性に向けて進化している。広大な 宇宙の中では、必ずしも粒子間でエネルギーが等配分されず、大量の低エネルギー粒子が 持つエネルギーを少数の高エネルギー粒子が奪い続けるという、常識はずれの過程がしば しば進行する。こうした「エネルギーの非等分配」という物理過程は、宇宙物理の未開拓 の研究分野として、大きな謎に包まれており、21 世紀の重要なテーマとなっている。こ
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れを理解するには、生成される非熱的粒子を精度よく捉える必要があるが、それらの放射 は電磁波の広い帯域にわたり連続的なエネルギー分布をもつため、狭い特徴的な帯域に現 れる熱的放射よりずっと観測が難しい。そこで、X線からガンマ線にかけての広大な帯域 において、高い感度とともに、十分な角分解能とエネルギー分解能をもつミッションを実 現できれば、宇宙のどこで粒子がどこまで加速され、作られた非熱的な粒子が宇宙のエネ ルギー総量にどれだけ寄与するか、また、熱的エネルギーがどのように粒子の運動エネル ギーに変換されるかを知ることができると期待される。これは「すざく」からASTRO-H、
さらにその先につながる、大きなシナリオとなっている。
MeV ガンマ線領域には、ブラックホールの最深部の情報、銀河の非熱的エネルギーの 大半を占める GeV 程度のエネルギーを持つ陽子の総量や加速過程、超新星爆発における 不安定原子核の生成、さらには宇宙初期に大量に形成されたと考えられるマイクロブラッ クホールの蒸発現象など、重要な課題が数多い。にもかかわらず、検出感度を高めること が難しいため、X線や GeV/TeVガンマ線での観測に比べ、大きく遅れている。今後、日 本の優れた検出器技術を用いた研究開発を進め、ミッションを検討していくことが必要で ある。
3.5.2 観測装置の諸計画
(1) スペースからの観測 【IXO】
現在、大規模な国際協力にもとづいて計画されている次世代宇宙X線ミッションにIXO (International X-ray Observatory) がある。これは、ヨーロッパと日本が共同提案してき たXEUS計画と、アメリカが提案するConstellation-X計画が統合され、日本を含む世界 のX線天文コミュニティーの総力を結集した大型ミッションである。日本では、ASTRO-H の次にコミュニティー全体で行うべきミッションとして認識されており、ヨーロッパでは Cosmic Vision、米国ではDecadal Surveyにおける評価のプロセスを経る必要がある。
IXOのX線望遠鏡は、5秒角という高い解像度と、1 keVで3平方メートルという巨大な 有効面積(過去最大のXMM Newtonの数十倍)を併せ持つ計画で、これによりz=5〜10 にある最初の巨大ブラックホールだけでなく、z=2 の銀河団すら分光観測可能となり、
§3.5.1 (2) で述べた目標の多くに、強力な手段となる。検出器としては、透過型の回折格
子やTESカロリメータなど超精密分光素子のほか、X線CCDを用いた広視野観測装置、
それに組み合わされる硬X線撮像素子、X線偏光検出器などが搭載される予定である。日 本は、冷凍機システム、TESカロリメータシステムや硬X線撮像のための多層膜技術、X 線CCDや硬X線撮像素子など、これまで培った技術により、広い参加をめざす。
(2) スペースからの観測:そのほかの計画
【FFAST】
FFAST (Formation Flight All-Sky Telescope) は、20m±10cmの距離に制御された二機の