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大型低温重力波望遠鏡計画

第 4 章 国家レベルで推進すべき特に重要な大型計画

4.2 大型低温重力波望遠鏡計画

( LCGT: Large scale Cryogenic Gravitational wave Telescope )

重力波は、その存在は確実と考えられているものの、まだ人類が検出していない波であ る。アインシュタインが一般相対論で予言した重力の波動=重力波が検出できるようにな れば、人類は宇宙を観測する全く新しい手段を手にすることになる。これまで、宇宙はほ とんど電磁波の情報によって解明されてきたが、それとは独立な情報が重力波によって得 られる。従って、重力波の直接観測は一般相対論の確証を与えるとともに、新たな天文学 を創成することを意味しており、基礎物理分野及び宇宙物理分野の研究者の永年の悲願で ある。

我が国の重力波検出の研究は、300m 基線の実証的重力波観測実験装置である TAMA、

神岡鉱山内という地面雑音の極めて低い環境に設置された長さ100mのCLIO(低温レーザ ー干渉計重力波観測装置) などの実験的成果を元に、計画の実証性について極めて大きく 進展した。日本独自の極低温(約 20K)鏡の実証性や、防振振り子の開発成功などがその 例である。従って、実験装置の建設については、充分に準備が完了し、技術的蓄積は大型 計画の推進に対して充分なレベルと考えられる。

世界的動向としては、1990年代にアメリカ合衆国の東部・西部に建設された2台のLIGO が、現在世界最高レベルの観

測 装 置 で あ る が 、 現 在 の LIGOでも重力波の直接観測 に成功していない。このため、

LIGOは、高精度化のための 改修(改良型LIGO)をすで に始めており、2010 年代半 ばに完成予定である。

従って、我が国独自の計画 としての大型低温重力波望 遠鏡(LCGT)は、重力波の 世界初観測を目指した競争 に勝利する上でも、その後の 重力波観測世界的ネットワ ークの一翼を担う上でも、我 が国が責任を持って早急に 推進すべき重要計画である と考える。

図1: 新たな重力波天文学を創成するLCGT

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4.2.1 計画の概要

LCGTは、連星中性子星の合体や超新星爆発起源の重力波に対して高い感度を持つよう に設計された、第 2 世代のファブリペロー方式高感度レーザー干渉計である。予想される 信号を考慮して、おおよそ20Hzから1kHzの帯域で感度が最高になるように設計されてい る。確実に重力波を捉えられるためには、連星中性子星の合体現象を6億光年先まで検出 できる感度を持つ必要がある。そのため、LCGTは基線長を3 kmとし、地面振動雑音を避 けるために地下設置(神岡鉱山跡地)とし、かつ、日本独自の開発技術である世界初の低 温鏡(20K)を採用した。それと平行して開発されてきた 100W クラスの大出力レーザー や低周波防振装置も不可欠の要素技術である。これらにより重力波の観測に必要な設計感 度が達成できることは、TAMAおよびCLIO実験における長年の開発研究で確かめられて きた。

重力波の発見以後は、改良型LIGOやヨーロッパの次期Virgo計画などLCGTと同程度 の感度を目指す計画と共同して重力波観測網を構成し、グローバルな重力波天文台の1拠 点として活躍することが期待される。

本計画は東京大学宇宙線研究所をホスト機関とし、国立天文台および高エネルギー加速 器研究機構が協力して120名に達する国内外の研究者と共に推進する国際共同計画である。

4.2.2 期待される研究成果

重力波は、中性子星やブラックホールなどが関係する強い重力のもとで発生し、2つの 偏波モードを持ち光速で伝播する。重力波が直接検出されれば、中性子星やブラックホー ルなどの運動が時間を追って観測することができ、アインシュタイン理論の正しさが確認 できる。また理論との不一致が発見されば、新たな物理学の発展の種となる。

図2: 神岡地下に設置されるLCGT重力波観測装置(想像図)

図3: 重力波放出に伴う連星中性子星の合体過程の想像図[NASA]

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LCGTの主要な観測対象は連星中性子星合体で発生する重力波であるが、1年に数回か ら数十回の頻度で観測できると予想され、重力波形(チャープ波形)を観測することによ り合体した中性子星質量の決定が可能である。また大質量星の最後である超新星爆発では、

ニュートリノでも見えない中性子星コアの振動が直接観測されると期待され、超高密度物 質の情報から原子核物理学に大きな進展をもたらす。更には、ブラックホールの準固有振 動、連星ブラックホールの合体やブラックホールへの星の落下などの事象の観測が期待さ れ、特異天体の物理学に大きな進展が期待される。

図4: 連星中性子星の合体過程の重力波形の例(LIGOのHPより)

図5: 神岡鉱山地下1000mに設置されたCLIO

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LCGT は、近年大きな関心を呼んでいるダークエネルギーについて、光学的観測とは違 った方法での情報を与えることが期待されている。連星系で発生する重力波の観測結果を 一般相対論の予測波形と精密に比較することで、連星系までの距離を精密に決定できる。Ia 型超新星とは独立な方法によって、宇宙の加速膨張をとらえることが可能となるのである。

またLCGTは、宇宙初期のインフレーションなどを起源とする宇宙背景重力波も観測対象 としており、宇宙誕生初期に関するほぼ唯一の観測データとなり得る。

4.2.3 技術的ブレークスルー

TAMAにおいては、世界最初の高安定・高出力連続波レーザー光源の開発、焼きだし不 要の超高真空表面処理技術、超低損失光学薄膜技術、低周波防振技術で卓越した成果を挙 げてきた。また CLIO では、世界で初めての試みである低温鏡技術を確立した。LCGT は これら数多くの技術的ブレークスルーの上に実現されるが、その目標達成にもっとも重要 な点は、現在 CLIO で実証試験が行われている「低温鏡による雑音低減法」である。すな

わち従来300 Kであった熱振動を20 K以下に抑え、かつ、低温による鏡素材の機械的損失

改善による熱雑音の低下と合わせて、振動変位で1桁以上の雑音低減を実現する。これは 基線長を1桁以上拡大したのと同じ効果を生む。つまり、極めて効率的に高感度な重力波 検出装置となるのである。

なお、LCGT で開発された先端技術は、産業、また自然科学の他の分野にも大きい波及 効果が期待される。一例として、重力波で開発された技術を用いて地球内殻コアの振動モ ードの観測といった地球物理での画期的な成果が期待される。

4.2.4 スケジュールと予算規模

技術開発研究は完了しており、すぐに建設が可能である。建設が認められれば、およそ 3年でトンネル掘削・整備が行われ、その後1年で真空系敷設、レーザー干渉計の組み込 みが行われる。建設着手から5年でレーザー干渉計として動作する状態を実現し、その後 2年をめどに感度出し工程を行い、目標感度を達成する計画である。建設にかかる経費は、

建設費155億円、またその間の研究開発経費は3億円と見込まれている。建設終了後には、

電気代、装置の点検費などの運転経費と共同利用研究に伴う経費として年間4億 3,200 万 円が見込まれている。また、本装置による重力波観測は10年以上継続される計画である。

4.2.5 国際協力

LCGT は、重力波の最初の直接観測にチャレンジする装置であると同時に、重力波天文 学の構築に必須の観測装置となる。天文学となりうりうるためには、重力波源の位置測定 が必要であるが、このためには世界中で最低3台の観測装置が必要である。この意味で、

国際的観測ネットワークを構築する上で、アジアの日本に建設することは大きな意味があ る。このように、重力波天文学の発展のためには、世界的レベルの国際協力が不可欠であ り、日本への世界からの期待が大きいと共に、従来の実績に基づけば責任も大きい。

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4.3 30m 大型光学赤外線望遠鏡計画( TMT: Thirty Meter Telescope )

TMT(30m望遠鏡)は、すばる望遠鏡の約4倍の直径をもつ次世代超大型望遠鏡計画で

ある。すばる望遠鏡の200倍の効率で観測できるTMTは、2010年代における天文学の最 重要装置と国際的に期待されている。日本の天文学コミュニティーは、すばる望遠鏡およ びハワイ観測所の自然な拡張としてTMT計画に参加し、ハワイ島のマウナケア山頂に早期 実現されることを切望している。

TMT は、ダークエネルギーやダークマターといったさまざまな宇宙の謎の探求に挑み、

最初の星や銀河が生まれた時代を直接目撃し、宇宙史の中での星の誕生と死の過程を明ら かにする。また、太陽系外惑星の探査はもう一つの大きなテーマである。銀河中心の巨大 ブラックホールや、さらには予見さえもされていない新しい謎との遭遇が期待される。

すばる望遠鏡の超広視野観測装置や広視野多天体分光装置によるサーベイ観測と、それ に基づいたピンポイント観測をTMTで実施するなど、両者の特長を生かした科学的成果が 生まれる。すばる望遠鏡で認められた高い日本の技術力と科学的成果を基盤として、地上 の大型計画として早急に推進すべき計画と位置づけることが適切である。

4.3.1 計画の概要

地上からでも観測ができる可視光および近・中間赤外線の天文学では、すばる望遠鏡を 初めとする8m級の大型望遠鏡がこの10年余り大きな役割を果たしてきた。次世代超大型 望遠鏡であるTMTは、直径8.2mのすばる望遠鏡の13倍、ハッブル宇宙望遠鏡の156倍 もの集光力を持ち、これまで見ること

ができなかった微かな天体からの光を 捕らえ、詳しく分析することができる

(8m 級望遠鏡から次世代超大型望遠 鏡への展開)。TMTの顔となる直径30 mもの鏡は、さしわたし 1.44mの六角 形の部分鏡を 492 枚も敷き詰めて、全 体をまるで一枚の鏡のように整える。

地球大気には乱流や温度のムラがあ るため、星からの光は乱れ、瞬いてみ える。「補償光学」はこの瞬きを瞬時に 補正する高度な技術であり、毎秒数百 回も反射面の形を微妙に変えることが できる特殊な鏡を用いることにより、

TMTは星や銀河をまるで宇宙空間から 見ているような高解像画像として写し 出すことが可能となる。

図 1:すばるが発見した距離 129 億光年の最

遠銀河